10月
今月開花のバルボフィラム33種
今月開花の見られたバルボフィラム33種です。種名欄の生息地の横に(M)あるいは(C)とあるのは、当サイトにおいて当該種の栽培が(M)は中温室、(C)はクール温室であることを示します。()のない種は高温室となります。なお地域名でNGはNew Guinea(西部ニューギニアIrian Jayaを含む全域)を、またPNGはパプアニューギニア(東部ニューギニア)としています。
希少デンドロビウム直近の植替え3種
現在、マーケットでは殆ど見ることのない希少性の高いデンドロビウムを優先して植替えを行っています。その中から3種選んで撮影しました。下画像左はスマトラ島Ache州から2017年に入荷したDendrobium atjehenseです。本種は発表が1932年と古いのですが、しばらく見つからず最近になって再発見されたそうです。国内外での本種のマーケット情報は当サイトを除いて見当たりません。中央は2008年発表のDendrobium jiewhoeiで、当サイトではマレーシアPutrajaya Floria 2015にて最初のロットを入手しました。本種は2 - 3本の花軸に3㎝サイズ程の花がそれぞれ10輪ほど同時開花するため、全開すると20-30輪となり見栄えのするデンドロビウムにも拘らず、何故かマーケットでの取扱いが殆ど見られません。また本種は茎(疑似バルブ)が赤軸と青軸(緑色)の2つのタイプがあり、一般種は葉表は緑、裏は淡赤茶色の赤軸タイプです。青軸は葉表裏ともに緑色で、両者は花の色合いとリップ形状に若干相違が見られます。詳細画像は下青色種名のクリックで見ることができます。
画像右はDendrobium ovipostriferum bicolorです。本種の特徴は、ラテラルセパルが全面白色である一般種に対して、1/2がオレンジ色であることです。付帯名bicolorとは一般種と区別するため当サイトが便宜上付けたものですが、このような明瞭で再現性のある2色フォームはネット上でもこれまで本株以外見当たりません。今回は3種いずれも22㎝大型木製バスケットに植付けしています。これはこれまでに報告した他種同様に根張りが盛んで、大株を目指し根の伸びしろ面積を大きく取ったためです。1-2年後には株分け販売ができると思います。
希少種あるいは高額種に見る新芽の複数同時発生
昼夜の温度差が増す秋季は、多くのランで新芽の発生や伸長が盛んになります。今回、希少あるいは高額種の中で1株から3つ以上の新芽が同時発生している株を選び、その様子を撮影しました。下画像がそれらで通常新芽の発生は1 - 2芽ですが猛暑から解き放たれた故か、今年は多数の株で新芽が複数同時に発生しています。下画像の内、Bulb. claptonense aurea(flava)は中温室、他は全て高温室での栽培種です。
Bulbophyllum glebulosum
本種はフィリピンAuroraに生息で2008年発表の比較的新しいバルボフィラムです。当サイトでは2018年7月と2019年2月に、合わせて20株以上の入手を試みましたが全てBulb. inunctumのミス入荷で、現在多数栽培しているBulb. inunctumはその折の株です。2019年末にはそれまでの入手ルートを変え3度目の試みで5株程を得ました。しかしそれも開花した2株はやはりBulb. inunctumでした。4年経った1昨日(18日)やっとその残りの株に本命のBulb. glebulosumの開花を得ることができました。これほど入手に手間取ったのは、Bulb. inunctumと本種の株形状が酷似しており現地サプライヤーが花の確認なく出荷したことや、両種の生息地が交わっているためと考えられます。
一方、当サイトが入手してから開花するまでの期間が長かったのは、IOSPEでは本種の生息域をWarm(1,000m - 1,800m)からCool(1,800m - 2,500m)とし、またJ.Cootes著、Philippine Native Orchid Species 2011では生息域について具体的な標高値はなく、中域(Mid-range elevation)との記載等があり、これは本種が夕刻から朝方まで花を閉じる雲霧林帯の生息種に見られる性質を持つ故の推定と思われますが、こうした情報を基に当サイトでは3年余り低 - 中温室にて栽培を続けていました。しかし低 - 中温環境では開花が得られず、昨年末に高温室に移動したことが今回の開花になったと考えています。さらにIOSPEでは花サイズが0.8”(2㎝)の倒立花?(resupinate flower)と実体とは全く異なる記述となっています。こうした現状から本種はBulb. polyflorumと同様に、花を見ない限りあるいは花が未確認のサプライヤーからは入手すべきではない典型的な種と云えます。下画像は20日撮影の本種です。画像下の青色種名のリンク先に13枚の画像を含む本種のページを追加しました。
IOSPEに記載の本種生息域が実証に基づくものであれば、それ程の高地生息種が果たして夜間平均温度30℃が2か月以上続いた今年の温室内で、青色種名のリンク先の画像(20日撮影)に見られるような多数の新芽を発生するとは考え難く、では当サイトが入手した株はたまたま標高 500m程に生息の例外株であるのかも知れません。重要な点はマーケットにて1,500mから2,000m級の高地からの株も有り得るとすると、夏季の高温室での栽培に耐えることは困難であり、本種の入手に当たってはサプライヤーに対しその株の生息域あるいは開花を伴う栽培実態を確認することが必須と考えます。
今月開花中のデンドロビウム8種と胡蝶蘭3種
下画像は先月末に開花し今月まで開花を続けていた花と、今月に入り開花したデンドロビウムと胡蝶蘭の一部です。Den. amboinenseは3か月ほど前、これまでの炭化コルク栽培における根の様態からの判断で、厚みのある皮付き杉板に植替えた後の初めての開花です。Dendrobium junceumは当サイトではこれまでDen. carinatumのセパル・ペタルのカラーフォームの異なる一変種としてきましたが、今回リップ形状(midlobe)を詳細に検証した結果、両者は異なることが分かりましたので、画像の一部をDen. carinutumのページから削除し、Den. junceumページを新たに加えました。下画像青色の本種名のクリックでリップ形状に関する両者相違点を比較した画像が見られます。
現在(14日)開花中のセロジネ6種
下画像は現在開花中のセロジネです。画像下の青色種名のクリックで詳細情報が見られます。ボルネオ島高地生息のCoelogyne moultoniiは毎年この時期に開花が見られます。本種は同時開花種で今回の輪花数は38輪です。IOSPEには24 - 65輪と記載されています。65輪ともなれば花軸は下画像の倍近くになり壮観と思います。そこで60輪程の開花画像がないかネット検索したのですが、30輪以上は疎か花軸全体を撮影した開花画像が殆どありません。別のサイトでは同時開花数は24-34輪の記載もあり、65輪が実測による輪花数であれば根張り空間を広げて開花目標にしたいと考えているところです。
Bulbophyllum orthosepalum
パプアニューギニア低地生息のBulb. orthosepalumが現在開花中です。本種は2015年の東京ドームらん展にてNT Orchidが1万円/葉で販売していた8葉からなる株で、らん展最終日に半額で入手したものです。その後20葉程に成長したため株分けし5個の木製バスケットで栽培、現在では全株合せ48葉までになっており、全ての株に50㎝を超える葉が含まれ最長葉は65㎝です。ネット検索すると現在のマーケットの殆どは、葉の小さな実生株のようです。NT Orchidのリストでは野生株と思われるFSサイズの3バルブが$150です。下画像左は現在(12日)開花中の花、中央はセパル・ペタルの右半分を切断し側面からリップを撮影した画像、また右は5株の内の2株で22㎝角木製バスケットへの植付けです。本種は高輝度下が良いとされるものの、5株もあると株が大きく場所をとるため止む無く、これまで輝度の低い場所での栽培でしたが、この機に葉サイズをより大きく成長させるため輝度の高い場所に移動しました。画像下の青色種名のクリックで今回改版した本種の詳細情報が見られます。
Dendrobium cymboglossum flavaの植替え
8月末から9月が開花期のDen. cymboglossum flavaの植替えを行いました。Den. cymboglossumのflavaフォームはGoogle検索すると、当サイトがトップにリスティングされ、他にはシンガポールの園芸店のFacebookに1件見られるのみです。下画像左が一般フォーム、中央が今年8月30日に撮影したflavaフォームで、現在2株を栽培中です。これまでの凡そ4年間は35㎝炭化コルクと木製12㎝角小型バスケットでそれぞれ栽培してきました。画像右の22㎝大型バスケットの株は、炭化コルク付けから今回(6日)の植替えを終えた株高90㎝の本種です。下画像左はその植替え前の株の様子で、茎(疑似バルブ)数は9本となります。この画像からは本種が半立ち性であることが分かります。右隣は炭化コルク表面のミズゴケを洗い流した状態、また右2つは炭化コルクから株を取り外した根周りの表面と裏面です。4年間の栽培で、前項のDen. dianaeと同様に多数の根がコルク表面や内部に張り巡っていたことが分かります。当サイト本種ページに掲載の小型バスケットの株も今月中に植替え予定です。
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植替え前(炭化コルク植付け) |
左株の表面のミズゴケを除去 |
炭化コルクを取り除いた根周り |
左株の裏面 |
Dendrobium dianae
ボルネオ島Kalimantan低地生息のDen. dianaeは2010年に発表された比較的新しいデンドロビウムで、デンドロビウム・インデックスの本種ページに見られるように花フォームは多様です。今月に入り本種の中でも希少フォームとされる株の植替えを行いました。本種名でGoogle検索するとネット上には多数の画像が表示されるものの、不思議なことにマーケット(販売)情報がなぜか見当たりません。当サイトが最初に本種を入手したのは、セパル・ペタルにカーディナルレッド色のラインを持つDen. dianae bicolorで
2016年マレーシアの原種趣味家から3株頂いたものです。その経緯は2018年6月の歳月記に取上げました。biclorとは一般種と区別するために当サイトが便宜上付けた付帯名です。その後、本種を幾度か現地に発注したのですがDen. hymenophyllumのミスラベルが続き、特にbicolorフォーム種は入手難でした。国内外で販売情報が見られないのはこうした背景があるのかも知れません。
下画像はDen. dianaeのそれぞれの花フォームです。左から順に一般フォーム、flava、bicolorおよびbicolor greenです。本種の開花時のセパル・ペタルのベース色は黄緑色が多く、やがて緑色の成分が減り1週間程でレモン色へと変化します。しかし、ごく稀に開花から落花までこうした色調の変化が殆どなく緑色が残る様態も見られます。このため開花から数日間は一般種と緑種の違いをセパル・ペタルから判断することは困難です。この色調変化の有無を開花時点で推定する唯一の方法は、Spur(距:花の基部から後方に伸びた部分)の色にあり、一般種ではSpurには赤や黄色が混じりますが、緑種は開花時のセパル・ペタルのベース色と同色のほぼ無地(下画像参照)です。
ネット画像の中にもセパル・ペタル全体が緑色のフォームが数点見られますが、Spurが無地では無い花が殆どで、これらは開花から数日以内の撮影と思われ、こうした花はやがて黄色化します。画像下の青色種目のクリックで詳細画像が見られます。
当サイトではbicolorフォーム株は現在8株あり4年間ほど植替えが無かったため、それまでの炭化コルク植付けから木製バスケットへ現在植替えを行っています。下画像左はこれまで35㎝長の炭化コルクに取付けられていた株で、表面を覆っていたミズゴケを取り除いた状態です。4年間の栽培で多数の根が絡み溢れています。右隣2つの画像は炭化コルクから取り外して根をほぐし根の表裏をそれぞれ撮影したもので、この株は上画像右の花フォーム株です。画像に見られるように根は殆どが切断されることなく取り外されています。これは炭化コルクへの植付け故にできることで、4年もすると、僅かな力でぼろぼろと崩れるため根を余り傷つけることなく容易に取り外しができます。ヘゴ板であれば、根は海外からの入荷時の状態と同じように、この1/5以下となると思います。下画像右端は4個の大型木製バスケットに植付けたDen. dianae bicolorです。茎(疑似バルブ)数からは18㎝角中型バスケットでも良いように見えますが根がこれほど多いと今後の伸びしろを考えれば小さ過ぎます。中央手前のバスケットが左根画像の株で株高は85㎝程です。右と奥の別株は1m程となります。
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表面ミズゴケを取り除いた35㎝炭化コルク上の本種bicolor株の根周り |
炭化コルクから取り外した左株の根周り表面 |
付着していた古いミズゴケを取り除いた左株の裏面 |
Den. dianae bicolorの22㎝角木製バスケット植替え。4株ある手前が左の取り外し株 |
Dendrobium sanguinolentumの植替え
ラン原種の温室栽培ではそれぞれの種に適合した温度のもとで管理されますが、一般的に夏は昼夜に渡りその範囲内での最高温度、冬は最低温度に近い状態が長く続くことから、成長の鈍化が避けられません。一方、春や秋に入ると温室内の1日の温度差が5℃以上となり株に活発な動きが見られ、植替えにも適した時期となります。しかし植替えのタイミングは見計らうものの、株数が余りに多いと植替え対象種の選別に余裕がなくなり、まず希少種の優先が余儀なくされます。そうした状況の中、10月に入りようやく秋の気配を感じ始めたところでDen. sanguinolentumの選別株の植替えを行いました。
下画像は植替え対象となった選別株の花で、左はセパル・ペタル及びリップ先端の茄子紺色の斑点が濃く良く目立つことが特徴です。その右隣の画像はその株の根周りの様態で、これまでスリット入りプラスチックポットに植付けられていました。またその右隣の花画像は、オレンジ色をベースに赤い斑点がある花フォームで、こちらは一斉開花数が多く華やかさが特徴です。右画像はこれらの株を5個の大型木製バスケットへ、ミズゴケ+クリプトモスミックスで植付けた様子です。これまで植替えはバルボフィラムが中心でしたが、10月からは主にデンドロビウムに移ります。
話は変わりますが、コロナ・パンデミック以降、主要な植込み材であるミズゴケを筆頭に資材が想像を超える高騰を続けています。ニュージーランド・ミズゴケは2倍以上になり、これまでの利用経験からはその品質も1ランク落ちている印象です。さらに当サイトでは現在、海外サプライヤーとの直接取引が再開するまで原種の販売を休止していますが、国内マーケットを見る限り、ボルネオ、スマトラ、ニューギニアなどに生息の多くの原種に、価格の高騰が見られます。こうした現状を考えると、ラン栽培を始めようとする多くの人たち、特に若者にとっては高額すぎる趣味になりつつあり、今後ともこの高騰が続けば、おそらくラン愛好家は急速に減少するのではと思います。当サイトでの販売価格は海外からの仕入れ値に一定比率を掛ける方法と、海外マーケット価格を参考に決めていましたが、さて今後生息国での引渡し価格がどうなるかは交渉如何と考えています。
最近ではラン生息国に住む誰もがスマホで海外市場の小売り価格を検索することができます。世界のマーケットでの自分の卸すランの末端価格を知った1次業者は、それほど高く売れるのであれば、これまでのような価格での取引は馬鹿げていると、ランを彼らから買い纏めて保管あるいは栽培する2次業者に高額な引渡しを求めるのは必然です。さらに2次業者でも、その顧客となるネットに登場するような海外向けのランを販売する自国の3次業者に対し、1次業者と同様な考えを持つのは避けられません。ランの輸出には一定期間の栽培とCITES申請が3次業者に定められています。現在マーケットで対象となっているランは、どの生息国であっても海外輸出にはCITESが必要です。この認可書無くして国外への持ち出しや異国間での売買行為は、売る側も買う側も違法行為となります。一方、ラン生息国の一般人や1-2次業者がランを直接輸出するには、栽培証明あるいは栽培実態の実地検査をパスしなければCITESは発行されません。彼らの殆どはCITES申請の経験がないため、海外業者が彼らからランを入手し自国に持ち帰ることは困難です。当サイトのような海外の小売業者は、こうした現地のプロセスと背景を知った上で、3次業者と買付け(価格)交渉を行います。交渉は大変なようにも思えますが、ランの栽培よりは遥かに楽な仕事です。ランは笑顔を見せても花は咲いてくれませんが、人とは笑顔の交渉で多くを得ることができます。