6月
Dendrobium deleoniiおよびBulbophyllum kubahense のその後
Den. deleoniiは昨年9月の歳月記にトリカルネット植付け時とその2年後の様子を、またBulb. kubahenseは先月、ヘゴ板への植付け時から凡そ半年後の新芽の発生状況をそれぞれ報告しました。今月さらにこれら2種について、その後の様子を撮影しました。下画像の上段がDen. deleonii、下段がBulb. kubahenseです。左右の画像を比較すると、ぞれぞれの成長の度合いがハッキリと分かります。
左画像の植付け時から、右画像に至る期間はDen. deleoniiが2年半、Bulb. kubaenseが8ヶ月程となります。Den. deleoniiは2018年8月の入荷で、初花は同年の12月でした。入荷時の株は葉付疑似バルブ(茎)が1本のみで、葉無しバルブが1-2本から成るサイズが殆どでした。2年間は炭化コルク植えとしたものの成長が今一つであったため、一部を2020年に上記左画像のトリカルネット筒に植替えをしました。現在では、株の根元を中心に拡大した下画像に見られるように、バルブ数がそれぞれの株でかなり増えています。この株サイズともなれば、次回の植替えでは大型の木製バスケットになると思います。
一方、Bulb. kubahenseも左画像では葉間隔に余裕がありますが、右画像では茶色の若葉が緑色に変化する頃には、葉は数倍大きくなるため、かなり密集しそうです。密集すると風の通りが悪くなったり、かん水において水が当たる葉と、当たらない葉が生じ、成長にバラツキがでる可能性も高くなります。
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Dendrobium deleonii 株基部 |
これら栽培で常に気をつけている点は、根周りを決して乾燥させないことです。過ってカトレアなどの栽培書には、乾燥したら(あるいは乾燥してから)たっぷりの水をあげるとの記載が多く見られましたが、根周りを乾燥させることは、昼夜を問わす80%以上の高湿度な環境であれば兎も角、殆どの原種にとって厳禁で、常に湿った状態を如何に保つのかが重要な栽培要件です。繰り返しになりますが、この’湿った’とは’濡れた’状態ではなく、指の甲でミズゴケを触れて水が付くほどではなく、湿っていることが分かる程度となります。かん水時点では当然植込み材はぐしょ濡れとなりますが、如何に早くその濡れた状態から湿った状態に移行し、その状態を長く続けさせるかがポイントとなります。そのような栽培環境を創り出す植え込み技術(環境に合わせた植込み材やポットなどの選択およびかん水頻度)が必要になります。
Bulbophyllum facetum
フィリピン・ルソン島標高1,200m程に生息のBulb. facetumが毎年5月末から今月にかけて開花しています。J. Cootes著Philippine Native Orchid Speciesによると、見応えのある(magnificent)種である一方、朝のみ開花し、正午頃からは完全に閉じる(The flowers open normally in the morning only to be fully closed by midday)、いわゆる雲霧林生息種に多く見られる特性をもつとされ、また花サイズは最大(up to)7㎝とのことです。
当サイトでは2018年に本種を入手し、現在15株程を栽培しており、7月から9月の猛暑期間は中温湿、その他の期間は高温室としています。栽培を通して観察されることは、ドーサルセパルやペタルは午後に入って、やや前屈みにはなるものの完全(fully)には閉じません。左右ペタル先端が接触する程の状態になるのは夕方になってからとなります。また花は7㎝とされますが、下画像右(21日撮影)に示すように左右ペタル間スパンが9㎝となる株も見られます。このサイズともなると、かなり存在感があります。画像左はやや赤みの強いフォームです。充実した株ではリゾームが3-4㎝長となり直線的に伸長するため、ポットやバスケットへの植付けは適しません。画像下の青色種名のクリックで詳細情報にリンクします。
現在(21日)開花中の14種とDendrobium amboinense
浜松の晴天日の高温室内の気温は昼間36-7℃、夜間は24-5℃となっており、殆どの属種で新芽の活発な伸長が見られます。上段画像左のBulb. sp aff. ocellatumは、なぜaff. pardalotumではないのかと思われる方も多いと思いますが、リップの側弁(side lobe)の縁がBulb. ocellatumに類似して棘状の突起が見られ、Bulb. parudalotumのノコギリ状とは異なるためです(詳細はocellatumのページを参照)。
Bulbophyllum. amplebracteatumの花色はバルボフィラムの中でBulb. sp08と並び最も鮮やかな黄色です。またDendrobium sp aff. flos-wanuaはDen. flos-wanuaがドーサルセパルとペタルに赤色の線状斑点を持つのに対し、画像の花はドーサルセパルに斑点が有りません。このフォームは一過性(環境や成長差での変化)ではないことからaff. flos-wanua(flos-wanua類似種)としています。
一方、Dendrobium amboinenseは14日の撮影です。本種は4月の歳月記にも掲載しましたが、今月開花の花はドーサルセパルがNSで10㎝以上あり、これまで見た本種の花の中で最大サイズであることから取上げました。青色種名のリンク先ページには一般サイズとの比較や寸法画像を含め改版をしました。
Bulbophyllum polyflorum
2011年Australian Orchid ReviewにてW. Suarez氏により発表されたフィリピン固有種のバルボフィラムBulb. polyflorumが現在開花中です。旧名はCirrhopetalum multiflorumです。当サイトが本種を入手したのは2016年ですが、その3年ほど前から何度も現地にて入手を試みたのですが、日本に持ち帰り開花する株は全てミスラベルで、それらはBulb. brevibrachiatumやloherianumでした。現在多数栽培しているBulb. brevibrachiatumはその時に入荷した株となります。なぜこれほど入手が困難であったかは、3種が共に同系色のCirrhopetalum節で、且つ花の無い葉やバルブ形状からは同定が困難であったことと、新種のためか現地提供者も本種について知識不足で、また生息域もおそらく同じであったと思われます。今日においても本種の入手には供給者が花を確認済みであることを前提条件としない限り、保証ができない典型的な種と云えます。
こうした背景からか、下画像の青色種名のリンク先ページに見られるように、良く目立つ鮮やかな黄色とスッキリとした花姿にも拘わらず、ネットで検索する限り、本種のマーケット情報は当サイトを除いて国内外共に皆無のようです。希少性については不明ですが、花を見ないままの売買では十中八九ミスラベルであろうリスクを避けているのかも知れません。入手後もコロナ・パンデミック前には毎年3回程フィリピンを訪問してきましたが、現地ラン園やラン展等を含め本種を見かけることはありませんでした。入手可能であれば間違いなく買い占める種の一つです。下画像左および中央は15日撮影の開花の様子です。右は本種の発表者であるW. Suarez氏から2012年に直接頂いた花画像で、この画像は発表年の2011年撮影とあります。
Dendrobium chameleon
Dendrobium. chameleonはフィリピンルソン島標高1,000m以上に生息のデンドロビウムで、当サイトでは6月が開花期となります。セパル・ペタルには淡い黄色から白色をベースに赤紫のラインが5-6本入り、種名のカメレオンに相応した多様な花模様が特徴です。その中でもJ. Cootes著 Philippine Native Orchid Species 2011に記載されているように、アルバフォームは稀(rare and seldom seen)とされます。2010年から5年間、現地ラン園にて数百の本種の開花株を見てきましたが、赤紫のラインの無いアルバ・フォームやflavaフォームはそれぞれ1株のみでした。下写真は左がアルバ、中央がflava、右が白色系の一般フォームとなります。薄黄や白色をベース色とする殆どの種は、右写真に見られるように濃淡の違いはあっても赤紫のラインが残っており、アルバではありません。下画像の青色種名のクリックで、本種の多様な花フォームが見られます。
Bulbophyllum inacootesiaeの植替え
販売用としてBulb. inacootesiaeの植替えをしています。50株ほどある中の15株が現在終了したところです。これまでは炭化コルクとミズゴケの植付けでしたが、今回の植替えでは12㎝ x 40㎝サイズ炭化コルク、ヤシ繊維マットおよびミズゴケを組み合わせた支持材としました。上段右はこれまでのコルクから取外した葉付バルブ9個の株で、多数の根がコルク上に張り巡っていたことが分かります。こうした株を新たに植付けた状態が下段左となります。支持材には伸びしろ面積を1/3程設けています。右は植替え後の株を吊り下げた様子です。支持材上部に白い小さな袋が見えますが、これは固形肥料を入れたお茶パックで、昨年秋から1,500株程に小型肥料ケースやお茶パックを用いた施肥をしています。新規植替え株は1か月程の順化期間を経て販売となります。
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上段右株の40㎝炭化コルクへの植付け |
葉付バルブ5 - 10個株の植替え後の様子 |
ところで本種はフィリピン・ミンダナオ島 Bukidnon州標高1,300mの生息種で中温タイプとなります。当サイトが定義する栽培温度は夜間平均温度で、低温(13-15℃)、中温(15-20℃)、高温(18℃以上)としています。最近幾人かの趣味家の方から、コロナ下での3年程の間に栽培が上手くいかず失くした種を伺っていますが、これらに共通する点は中温タイプ種が多いことです。中温タイプは昼間は30℃を超えても問題はありませんが、夜間平均温度を20℃以下にすることが必要で、中温タイプ種の成長の良し悪しは、この温度が維持できるかどうかに関ります。
関東以南の地域での夏期の自然環境下でこの条件を得ることは困難で、山上げ(夜間20℃程となる地域への移動栽培)あるいはエアコン付き温室が必要となります。こうした環境設定が出来ず20℃以上が続く場合、株の症状としてまず葉先枯れ、あるいは葉落ちが現れます。この様態が現れた例えばバルボフィラムでは、バルブの根は殆ど枯れているか枯れ始めています。すなわち葉の無いバルブはすでに生きた根はほとんど無く、葉や根の無いバルブは養分を得ることが出来ず、やがて変色し朽ちていきます。
一方、デンドロビウムでの疑似バルブの落葉は、多くの種にとって成長サイクルの一形態で、落葉後の疑似バルブには花芽が発生します。株全体から見ればこうした種にとって落葉自体は問題は無いものの、花後の新芽の発生や夏期は本来成長期であるにも拘らず新芽の伸長が見られない場合は、バルボフィラム同様に栽培温度の不適合により、根がかなり損傷していることが原因と考えられます。しかし根は植込み材の中にあって目視が出来ず、こうした症状を早期発見し対応することが困難で手遅れとなる場合が殆どです。
では標高1,000m以上の生息域種は、夏期は軒下などの涼しい場所で栽培すれば良いのかと云えば、この方法も留意しなければならない要件があります。それは湿度です。多くの成長期の着性ランにとって夜間の高湿度環境は必須であり、一定期間とは言え必要な湿度を国内の自然気象に任せることは困難です。例えば夜間平均温度20℃前後を保ちつつ夕方の散水で葉についた水滴が朝まで毎日、僅かでも残っているかどうかですが、これには80%以上の湿度が必要です。また昼間での乾燥が激しく根周りの乾湿が日々大きく変化することがあります、このため室外での栽培には根周りが常に湿った状態となるような植込み材やポットなどの選択で対応することが重要となります。
さて本種ですが、ミンダナオ島1,300mの生息の中温タイプであり本種の栽培には上記のような考慮が必要で、中温や低温種を長年栽培されている趣味家は不要と思いますが、本種のような中温タイプを初めて栽培しようと望まれる方は、当サイトからの購入時には栽培方法の詳細をご相談ください。
Bulbophyllum cruentum
現在Bulbophyllum cruentumが開花しています。当サイトでの本種の花画像は初登場なので、バルボフィラム・インデックス(サムネール)に追加しました。詳細情報は画像下の青色種名のクリックで得られます。今回改めて本種についてネット検索したところ、IOSPEの本種のトップページの花画像ではセパル・ペタルが白のベース色に紅色の斑点に覆われたパターンである一方で、同ページの"Another Flower"に見られる画像では斑点の無い紅色の単色パターンが掲載され、異なっています。花サイズは1.5”(3.75㎝)とされ、匂いマークは無く無臭とされます。またorchid.urt.twでは花のパターンはIOSPEの"Another Flower"と同じですが、サイズは2x3㎝で匂い(Smelly)があるとされています。
当サイトで今回開花した下画像の花フォームは、セパル・ペタルのパターンはIOSPEの"Another Flower"やurt.twと同じですが、匂いは朝・昼・夕のそれぞれで確認しましたが、花に鼻が触れるほど近づかないと分からない程の微香で、表記としては’無臭’の範囲内です。サイズは5.0㎝(縦幅)です。花姿は下画像に見られるように株サイズとのバランスからは可なり迫力があります。
このようにネット情報は余り一貫性が無く、本種が多様な個体差を持つ種なのか、果たしてそれぞれの情報内容が全て実態検証に基づいているものかは分かりませんが、いずれにしても花画像はIOSPEのトップ画像を除いて、パターンは同じであるものの詳細情報は今一つです。生息標高域情報はいずれも見当たりません。それだけマーケットでは一般的な種ではないのかも知れません。当サイトが本種を入手したのは2018年で、その時の記載が歳月記2018年5月にあります。尚、希少であるか否かの判断基準例についての考察を2016年9月歳月記に取り上げましたが、こちらのページに抜粋しています、
現在(5日)開花中の15種
画像下の青色種名のクリックで詳細情報が得られます。Coel. palawanensisの同時開花数はこれまで5輪でしたが、今回7輪咲きがあり撮影しました。
Bulbophyllum bataanenseとBulbophyllum hyalosemoides
Bulb. bataanenseはフィリピン固有種とされ、一方Bulb. hyalosemoidesはボルネオ島およびスラウェシ島の生息種です。両種共にバルボフィラムの中では最も一般種であるBulb. lobbiiと同じSestochilus節に属し、花形状は似ているもののBulb. lobbiiの花サイズ7-10㎝に対して両種は4㎝ほどの小型種です。現在両種の開花期であることから、これらの違いを今回取り上げました。下写真は両種の花画像です。一見、それぞれを比較すると別種とする程の違いがなく、地域差あるいは個体差の範囲内の様にも見えます。
J. Cootes, Philippine Native Orchid Speciesには Bulb. bataanenseはペタルが後方へ反らないことが特徴とされています。確かにBulb. hyalosemoidesを始め、Bulb. lobbiiやBulb. deareiなどはサイズは別にしても、ペタルが後方に湾曲しています。また当サイトのBulb. hyalosemoidesのページ画像ではラテラルセパルが赤褐色のフォームを掲載している一方、上画像に見られるようにBulb. hyalosemoidesにも黄土色のペース色に赤色のラインが入るフォームがあり、ラテラルセパルのラインの視覚的有無は、同系色のペースの濃度による同化に依るもので、種分けの要件にはなりません。このように果たしてペタルが反るか反らないかで、別種とするのは今一つスッキリしません。
ところで当サイトがBulb. hyalosemoidesを入手したのはボルネオ島生息種として2015年以前となります。マレーシアラン園ではこの頃は現在の種名ではなく、Bulb. microglossumでした。Bulb. hyalosemoidesとはシノニム(異名同種)とされています。2015年6月の’花と開花月’のページに初掲載が見られます。歳月記によると栽培は杉皮取付が相性が良いようです。開花時期もほぼ同じで中-高温タイプです。