3月
中温室にて現在開花中の9種
下画像は現在(28日)、中温室にて開花中の9種です。上段左のBulb. callichromaは多花種で、画像は2株での開花様態です。中央のBulb. declinatumは2017年発表の新種で、当サイトでは2016年10月マレーシア経由で入手しています。中段左のCoel. palawanensisは先月取り上げた花とは別株の花となります。本種の開花には高輝度が必要です。中段右のCoel. longifoliaは一つの花茎に常に1輪づつ通年で咲き続け、弓なりの下垂形花茎は1m程の長さにまでなっています。下段右のDen. deleoniiは今月10日の本種と同じ花ですが、本種の花寿命は1.5ヶ月と長く、開花時のペタル間スパン(左右ペタルの端間の距離)は6㎝程ですが、やがてその1.3 - 1.4倍程に広がります。下画像は8㎝の大きさになった状態です。これまでの詳細ページ掲載の花サイズ写真は開花直後の撮影であったため、完全に開いた時点の画像に差替えしました。それぞれの詳細情報は青色種名をクリック下さい。
Bulbophyllum kubahenseのその後II
昨年10月末に60葉から成るBulb. kubahenseの植替えを行い、12月の歳月記にて順化終了の様子を取り上げました。さらに4か月程が経ち、桜の開化期を迎えている現在、温室内では昼間32℃と夜間18℃のBulb. kubahenseにとって最適な環境となり、活発な成長が見れら多くの新芽が発生しています。下写真上段左は5株に植替え分割した株の一つで、昨年12月歳月記掲載写真の左から2つ目の株です。この株は13葉ですが現在(28日)8個の新芽が発生しています。13バルブの株に8芽が同時に発生するのは異例で、今回それらを撮影しました。その他の株もそれぞれに4-6個の新芽がこの2週間程で出始めています。画像下段左のバルブでは、上段左写真のトップに見られる葉裏がまだ薄茶の新葉と未成熟のバルブにも拘らず、その基部には2つの新芽が現れています。
本種の開花期は通常6月ですが、多数のバルブ基からこれほど成長芽が発生することは反面、今年は花芽は少ないかも知れません。あるいはこれらの新芽の幾つかは花芽の可能性もあります。さらに2週間程後にはその違いが分かると思います。しかしこの調子で成長するとなると今年末には支持材から葉が溢れ、現在の70㎝長のヘゴ板での栽培は2年が限度で、3年後には再び植替えになるかも知れません。
Dendrobium cinnabarinum var. angustitepalum
本ページ「現在(19日)開花中のデンドロビウム9種」に掲載したDen.cinnabarinum angustitepalumが全開したため、27日再度撮影しました。左画像が今回の開花株で開花した花総数は17輪です。1株で17輪の同時開花はこれまでの当サイトの栽培で最多となります。中央及び右写真は左株の一部を拡大した画像です。本種の詳細は青色種名のクリックで見られます。
Bulbophyllum palawanense
Bulb. palawanenseはBulb. lobbiiに似た種ですが、ラテラルセパル先端部の裏側にある赤紫色の斑点が特徴です。当サイトでの初入荷は2015年で、翌年のMonthly Flower3月に本種名で花画像を掲載しています。それ以来毎年3月に開花が見られます。不思議なことに本種は2003年AOS(American Orchid Society)誌に画像が掲載されたのが初登場のようです。登場が新しい故なのか栽培情報が見当たりません。
これまでの栽培結果からは、本種は高温タイプで、充実した株では葉長30㎝以上、リゾーム(根茎:バルブ間距離)は4cmほどとなり、直線的に伸長するため植付けはコルクやヘゴ板が適しています。今回70㎝長ヘゴ板および杉板へ植替えを行いました。下写真中央は25日、2枚の70㎝長ヘゴ板に取付た株で左側の株の葉付バルブ数は25個、右は22個となります。右写真は中央写真右株の側面からの撮影です。画像の中で最も長い葉は32㎝です。バルブ形成前の新芽を含めると、それぞれ30バルブ程になります。20輪以上の同時開花を目指しており、これらは1-2年後の展示会用として今後栽培する予定です。本種の詳細情報(寸法やフォーム)は青色種名のクリックで見られます。
Vanda lombokensis
現在(20日)Vanda lombokensisが開花中です。当サイトでの本種の初入手は2014年12月で、その当時生息地インドネシア・サプライヤーは本種をVanda lompongense(Java中部にある地域lompong由来)と呼んでいました。その時点では極めて高価で、マーケット情報は国内外に無く、翌年と2018年にそれぞれ10株程の野生栽培株を入荷できました。現在栽培している本種は全てそれらのロットで得たFS株となります。今日マーケットで見られる本種は、その殆どが実生株で価格も安価になりました。一方、2020年5月の歳月記にも記載しましたが、本種は成長が緩慢で大株にするには多数の長い根を得ることが必要です。当サイトではポットや炭化コルクなど多種多様な植付けを試みてきましたが、2021年からは9割の株は木製バスケット植えとしています。
今回開花した本種は下写真の中央と右で、これまでの左画像フォームに見られるベース・カラーが黄色とは異なり白色です。このフォームは未掲載であったことから本日撮影し、改版ページに追加すると共に本ページに取り上げました。本種の寸法等の詳細は青色種名のクリックで見られます。
現在(19日)開花中のデンドロビウム9種
この時期、寒冷紗を外した晴天日の浜松高温室内の昼間の気温は35℃となり、温室の一部のドアを空け32℃としています。4月に入ると寒冷紗を使用することになります。下画像は18-19日撮影のデンドロビウム9種です。それぞれの詳細画像は青色種名をクリック下さい。
現在(14日)開花中の多花種Phalaenopsis schillerianaとAerides leeana
毎年この時期になると、それぞれ30株を超えるPhal. schillerianaとAerides leeanaが一斉に開花し、温室は華やかになります。その一部を撮影しました。今年のPhal. schillerianaの1株の最花数は蕾を含め24輪です。一方、Aerides leeanaは1株の最大花茎数は4本で全株で60茎程が花を付けています。胡蝶蘭は花後には植替えを予定していますが、全て60㎝長の杉板を支持材にする予定です。葉サイズを大きくし、多花にするには根が支持材に活着しながら長く伸長することが必要なためです。
またAerides leeanaも植替えを予定していますが、これまでの4年間の栽培を観察すると、どうも炭化コルクでは株の開花数は毎年増えているものの、葉が入荷時と比べ痩せている印象があり、こうした症状は根に問題(根数が少ない)があり、これは本種の根のような太く固い、また全方向に伸長するタイプには均一平面となる炭化コルクへの取付は不適なようで、かと言ってベアールート(根をそのまま空中に垂らす)では湿度不足となり、また多段に組み合わせた木製バスケットがベストとは思いますが、現有の株数となると、取付材の製作とコストに問題があります。そこでクリプトモス以上に気相率を高めた植込み材を用い、スリット入りロングサイズのポット植えを考えています。
Bulbophyllum fraudulentum
鳥の嘴のような花形状をもつHyalosema節のBulb. fraudulentumが開花中です。同節の他種と異なるのは、開花から落花するまで花は閉じたままで、ポリネータ(花粉媒介者)を呼び寄せ受粉させ種子を得るためにはセパル・ペタルを開いた方が良い筈ですが不思議です。下画像右は11日撮影の本種です。
本種のこうした特性から、殆どの人はセパル・ペタル内部の様態を見たことが無いのでは思い、12日ドーサルセパルを外して撮影しました。下写真左は正面画像で黄色の突起が蕊柱(ズイチュウ)、その左右の茶褐色の花被片がペタルです。正面から見る限り、リップ中央弁(以下Midlobeという)はバルボフィラムの一般的形状と同じように見えます。しかし側面からの中央写真では、Midlobeはリップ基部からアーム状に伸びた突起の先端に辛うじて乗っている様な姿で、表面2/3は繊毛に覆われ独特の形状です。このアーム状突起とMidlobeが接する位置が支点となりMidlobeは荷重により前後に回転します。
こうした構造はBulb. lobbiiなど可動型のMidlobeをもつ種の特徴で、ポリネータがMidlobeに飛来し誘引物質を求めて蕊柱側に移動すると、その重みでMidlobeはポリネータを乗せたまま、くるりと回転します。下画像左はMidlobeが前方に傾いている通常状態、中央は後方に傾いた状態をそれぞれ示したものです。ポリネータがMidlobeの上で後方(下画像の右方向)に移動すれば中央画像に見られるように、Midlobeは蕊柱方向に傾き、リップと蕊柱の間隔が狭くなり、ポリネータの頭あるいは背中が蕊柱の先端部の花粉魂に当たります。花粉魂は粘着体を持っておりこの結果、ポリネータに付着し、ポリネータが離れると花粉魂は蕊柱から外れます。右画像は本種ではなく別種のバルボフィラムですが、ポリネータが飛来しMidlobe基部の表皮を嘗めている様子で、その背中には黄色の花粉魂が付着しており、すでに別株で花粉魂を付けた後、飛来したものと思われます。
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通常状態でのリップの傾き |
リップ後部に荷重が加わり内側に傾いた状態 |
ポリネータの花粉魂様態例(Midlobeは別種) |
蕊柱と花粉魂およびポリネータに付着する構造や受粉の仕組み、また虫媒花についての詳細は、こちら「胡蝶蘭に見るリップ構造」に解説があります。さて、なぜセパルが閉じたままであるのか?、推定ですがポリネータの選別のためと思われます。トップの花画像でドーサルセパルとラテラルセパルの基部に少し隙間があり、また閉じたセパル・ペタルの先端部が僅かに開くことがあります。内部へはこの隙間を通ることのできるポリネータに限られます。同種同士での受粉率を高めるためには特定の誘引物質だけでなく、花粉魂を着実に他の株に運んでもらうためのポリネータのサイズ制限も加わり、さらに閉じていることで風雨によるMidlobe可動部の損傷を避けると共に、雨滴で花粉魂が飛ばされない効果もあるかも知れません。本種は派手さが無く地味で原始的な形状にも見えますが、子孫を残すため虫を利用した受粉のシステムは驚くほど高度な進化を成しています。
現在(10日)開花中の8種
現在開花中の8種を選んで撮影しました。上段左は先月の歳月記に11日の開花種として紹介したBulb. sp aff. trigonosepalumと同一株でほぼ全開間近となったため撮影しました。Den. deleoniiは2018年発表の新種です。浜松中温室ではこの時期が最開花期となります。Dendrochilum coccineumは2004年発表のデンドロキラムです。花は朱色で株により濃淡があり、写真の花は濃赤色フォームとなります。青色種名のクリックで、それぞれ詳細画像が見られます。
Bulbophyllum trisetumとBulbophyllum longiflorum
今回、Bulbophyllum trisetumと思われる開花があり、これまで当サイトが掲載していたBulb. trisetumをBulb. lonngiflorum(旧名Cirrhopetalum umbellatum)と改名して残し、この新たに開花した種をBulb. trisetumとして画像の入れ替えを行いました。J. Cootes著Philippine Native Orchid Species 2011でのBulb. trisetumはラテラル・セパルに斑点が無いフォームで、Luzon島Benguetや Nueva Vizcaya生息とされています。一方、ピンク色の斑点のある新たなBulb. trisetumはフィリピン・Palawan島生息で、IOSPEにあるボルネオ島Sabahフォームに類似しています。このPalawan、LuzonおよびBorneo島の地理的フォームの相互関係は、胡蝶蘭のPhal. amabilisとPhal. aphroditeの誕生と分布の進化を思い浮かべます。
上画像左は本日(5日)撮影のBulb. trisetumです。なおPalawan生息の本種のマーケット情報は国内外共にこれまでに無いと思います。
現在(3日)開花中の9種
現在開花中の9種を選んで撮影しました。それぞれの詳細情報は青色の種名をクリック下さい。上段左のBulb. sp31は、IOSPEでのBulb. recurvilabre画像と同じ種と思いますが、本種とBulb. recurvilabreとはリップおよび花軸形状、また香りもそれぞれで異なり当サイトでは別種としています。sp31の青色種名のクリックでBulb. recurvilabreとの比較画像が見られます。Coel. monilirachisは花軸先端部の数珠玉のような形状が特徴です。Den. annaeは3棟の高温室にそれぞれ5株程を分けて栽培しており、若干環境が異なるものの開花は年4回ほどあるなかで同時開花が見られます。
Dendrobium busuangense
フィリピン・カラミアン諸島Busuanga島生息のDen. busuangenseが現在(1日)開花中です。聞きなれない生息地と思いますが、Palawan島とミンドロ島の中間に位置する小さな島で近くの海には野生のジュゴンが
生息することで知られています。本種は1920年の発表と古く、フィリピン固有種とされているもののJ. Cootes著 Philippine Native Orchid Species 2011には本種の記載が無く詳細な情報は見当たりません。当サイトでは2015年に入手し、翌年に開花し、その後の開花は確認していないため、7年ぶりの登場となります。国内のマーケット情報は無く、また現在、生息域からの入手は現地ラン園においても極めて困難と思われ、開花中とは云え植替えを行いました。下画像の青色種名で詳細画像が見られます。