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1月
Bulbophyllum japrii
Bulbophyllum japriiが初めて紹介されたDie Orchidee 8(05), 2022によると本種は2019年1月に西ニューギニア(インドネシア領)で発見された新種とのことです。当サイトでは2019年春に10株入手し、2020年4月の歳月記に種名不詳種spとして花を紹介し、現在までバルボフィラム一覧サムネールにはsp16としてきました、しかし種名のない種はこれまでの他種同様に本種も購入者はいませんでした。本種は中および高温室での栽培経験から高温タイプで低地生息種と思われます。下画像上段は本種の花と株です。花はセパル・ペタルともに赤味のある1.5㎝ほどのサイズで、赤味は株により濃度が異なります。写真左が2019年春に炭化コルクに植え付けた株で初開花は2020年4月、中央は1年後の2021年4月(別株)の花です。右は赤味の強いフォームです。
本種は驚く程に成長が活発で、下段画像左は2021年9月時点の3株を表示、右は同一株で2023年1月31日(本日)の様態です。入手時では平均葉付10バルブ程のサイズでしたが、2年半程で写真左の株となり、さらに1年半程で写真右の株となっています。右写真の中の左株は葉付バルブが70個以上、中央は50個以上となっています。またこの画像に見られるように炭化コルクの表面は4年間でコケに覆われており、これまでの栽培環境が如何に高湿度であるかが分かります。言い換えれば本種は根が湿っていることが好きなようです。
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Bulbophyllum japrii 2021年9月 |
Bulbophyllum japrii 2023年1月31日(左と同一株) |
右写真に見られるように株それぞれは、すでにコルクの左側にはみ出し、さらにコルクを回り込んで伸長しているため植替えを予定しています。問題は植替え時の分け株のバルブ数を幾つにするかです。本種のマーケット価格をグーグル検索すると、最近のヤフー・オークションで葉付バルブ数7個程のサイズが3,500円で始まり8,000円で落札されたようです。間もなく当サイトも分譲販売を始めますが、入手時からそのまま成長した大株が10株あるため、2株ほどはそのサイズ(葉付50バルブ程)のままで分譲価格を10,000円とし、他は株分けした葉付10-15バルブを3,000円程でどうかと考えているところです。
話は変わりますが、オークションサイトを見ていると、バルボフィラム原種で時折、葉無しバルブは複数あるものの葉付が僅か2個や1個しかない株も時折見られます。果たして葉付バルブ数2個が、これまでとは栽培環境が異なる購入者の下で、成長ができるかは疑問で、当サイトでは過去に販売者が高利益を得るために小さく細分割した数十株を得て栽培し、その全てを枯らした経験が複数回あり、このような株を生育させる自信は全くなく、それ以来現地からの購入では、大きな株はそれなりの価格であっても良とし、2-3バルブの細分割株は拒否するとサプライヤーには伝えています。当サイトではバルボフィラム原種については、葉付2バルブ以下であれば、たとえ葉無しバルブが幾つあろうとも販売はしません。葉付3バルブ以上の株であっても植え付けから一定期間、その株の成長に最適な温度や湿度を確認する目的を含め、”順化栽培”にこだわるのはこうした経験からです。当サイト以上の技量をもつベテランの栽培者や仲間も多数知っていますが、2個程度のバルブ株から育てられる栽培力は神業と思います。
ラン属の花フォーム
ラン趣味家は良くご存知とは思いますが、ランの花は5つの構成要素があり、それらはDorsal sepal(背ガク片)、Lateral sepal(側ガク片)、Petal(花弁)、Lip(唇弁)およびColum(蕊柱)となります。LipはLabellumとも表現されます。これらの構成部位を胡蝶蘭の例で下に示します。
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胡蝶蘭Phal. amabilisの花の構成要素と名称 |
花は種毎にその形や色は様々で、しばしば花を見ても一瞬はて?どれがどの要素に相当するのか分からないこともあります。例として猿顔と呼ばれるDracula属の花を取り上げてみました。下画像に猿顔そっくりの2種を選びました。左は猿が微笑んでいる、また右は大きな舌を出しているのか、煎餅をくわえているかのような形相で、それぞれに目、鼻、口に相当する形状が見て取れます。同じラン属である以上、Draculaにも上記胡蝶蘭が示す要素は全て有る筈です。しかし最初の印象は大きなPetal(花弁)が見当たらず、またDraculaの鼻や口に当たる部分も、どの要素?と考えてしまいます。
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Dracula amaliae |
Dracula sp aff. gigas |
そこで現在(25日)当サイトで開花中のDracula chiropteraで構成要素を解説することにします。下画像でDorsalおよびLateral セパルは容易に判断できるものの、胡蝶蘭では花被片の中で左右一対の最も大きなサイズのペタルが見当たりません。実は猿顔の”目”がペタルとなります。Draculaのペタルは黒く数ミリで極めて小さく、前方に突き出しており横から見ないと、セパルからは独立していることが分かりません。また鼻はリップ中央弁の基部となる部分で、さらに目と目の間のこめかみの位置に前方に伸びた薄黄色の短い棒状突起があり、これが先端に花粉魂を持つColumn(蕊柱)で、スプーンのような口の部分はLip Midlobe(リップ中央弁)となります。構成要素は変わらないものの胡蝶蘭とはこれほどに大きな形状の違いがあります。
また多くのネット上でのDraculaの花画像は殆どが左写真のような顔の部分だけで、花全体を撮影した姿は少なく、これはDorsalおよびLateralセパルの先端部から伸びた線状突起が長く、花全体を画像に入れると顔部分が小さくなり顔の特徴が見にくくなるためです。この線状突起を含めて表示した画像が下右写真で、Dracula chiropteraはDracula vampiraに次ぐ大型種ですが花サイズは22㎝程となります。
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Dracula chiroptera yellow |
通常、開花して初めてのランの花を見る時は花被片(花びら)の姿や色合いの美しさ、またそうしたそれぞれの個性を鑑賞するのですが、Draculaでは花を見る前から、ついつい猿顔をイメージして似ているのかいないかの感心が先に立ち、他属とはまるで異なる鑑賞モードに入ってしまいます。画像で顔だけを見ていると全体サイズは分かり難いのですが実体は大きく、大型タイプの株が10株程で全開すると、この顔でこのサイズのため花を”見る”と云うよりは”見られている”感覚にもなります。
Vanda merrilliiの花フォーム
現在(19日)開花中のVanda merrilliiを撮影しました。本種はフィリピン・ルソン島の生息種ですが、生息域では近年コメやトウモロコシのプランテーションが進み、絶滅の危機にあるとのことです。変種としてvar. immaculata(aureaタイプ)及びvar. rotoriiがこれまで知られています。今回開花の花を下写真上段に示します。セパル・ペタル基部の赤色斑点とリップ色は一般種と同じカラーフォームではあるものの、セパル・ペタル先端部に広がる暗赤色(あるいは朱色)が抜け、全体がベース色の黄色に薄赤茶の線状斑点があります。この花フォームは現在ネット検索画像内には見当たらないことと、これまでの観察から環境依存や生育過程での一過性のものではなく株固有の特徴で、2017年の入手から6年間毎年継承されていることから今回取り上げてみました。
現在(14日)開花中の6種
Bulb. inunctumに2ヶ月遅れで類似種である上段左写真のBulb. costatumが開花しています。炭化コルクを2枚(2株)並べ撮影しています。それぞれが大株で、いずれもコルクをはみ出すほど伸長しています。開花後はそれぞれを3-4株に株分けし植替える予定です。ネットには国内での本種の取扱いが見られず、海外では40-50米ドルとなっています。しかし本種の入手は、orchidspecies.comの本種ページの別角度画像ではBulb. inunctumが表示され、またEcuageneraでは本種とBulb.membranifoliumがシノニムと誤って表記されており、本サイトでもフィリピンからBulb. glebulosumのミスラベルで入荷したこともあり、注文しても何が送られてくるか分からない種の一つで、入手の際は販売者が花を確認済との条件が必要です。
上段右のBulb. basisetumはその強い悪臭で知られていますが、この時期の開化の本種は、なぜかBulb. echinolabium同様に微香で鼻を近づけないと分からない程です。青色種名のクリックでそれぞれの詳細画像が見られます。
Bulbophyllum maxillare fm alba
Bulb.maxillare fm. albaが開花中です。本種は2019年5月にフィリピンサプライヤーから現地で入手しましたが、その時点では元株(6バルブ)を2株に分け当サイトと台湾の常連客に販売したそうです。Bulb. maxillare名でのネット検索には、花色が黄色のBulb. championii(当サイトではsp17)と思われる種も見られますが、これらはペタルや株(葉やリゾーム)形状がBulb. maxillareとは異なり、また本種は中央画像に見られるようにBulb. maxillare一般種の特徴であるラテラルセパルの赤味のあるベース色と、その内側の黄色の縁取りフォームに、アントシアニン赤成分が抜けた色合いを残しておりsp17とは異なることが分かります。右画像は3バルブから3年半ほどで20バルブにまで成長したトリカルネット筒取付の本種です。
一方、花サイズは当サイトの初花(昨年2月)の4.5㎝程から、1年足らずの今回で7.5㎝になっており、花茎も現在3本出ています。株サイズに比例して花サイズが大きく変わるのはBulb. maxillareの特徴とも云えます。Bulb. maxillareのalbaフォームは可なりの希少種と思われ、今回は自家交配を行う予定です。上写真の青色本種名のリンク先には1年ほど前と現在の花や株サイスの成長、およびsp17との比較した画像を追加更新しました。
現在開花中の31種
新年を迎え浜松では連日晴天日が続き、温室内では寒冷紗を外し昼間25℃、夜間は暖房により15-18℃の気温が維持され、冬期とは云え温室内では高温タイプの属種にとり最適な環境となっており、7割以上の株に新芽や新根が見られます。下写真は現在開花中(撮影は29日から6日)の種です。1月は大型の花株は少ないものの、現在Phal. schillerianaなど胡蝶蘭属やAerides属など大輪花や多花性の種に多数の花茎の発生と伸長が見られ、2-3ヶ月後にはかなり華やかになると思います。写真下の青色種名のクリックでそれぞれの詳細画像が見られます。
ところで、
これまで特に原種マーケットにおいてはコロナにより苦難の年が続きました。ようやくラン展に於いて海外勢の参加も見られる状況になりつつあり、今年は海外取引も回復することと思います。フィリピンやマレーシアなど生息国の渡航制限も緩和され、当サイトでは現在、現地ラン園への訪問を打診しています。
生息国において原種を専門に取り扱う業者にとってハイブリッド種とは異なり、原種マーケットは自国内ではなく海外が主体であることから、この3年余りのビジネス停滞の影響は深刻で、人材や人脈の復帰・復元がまず必要となります。それまでの間、当サイトとしてはオンライン販売を今月末頃から開始し、出来れば夏期までには従来並みの海外取引や国内販売を進めたいと考えています。
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