栽培、海外ラン園視察などに関する月々の出来事を掲載します。内容は随時校正することがあるため毎回の更新を願います。  2022年度

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9月

Dendrobium fairchildiae

 間もなくDen. fairchildiaeの開花が始まります。本種は2020年12月の歳月記にも記載しましたが、当サイトが初めて(2008年)栽培したデンドロビウムが本種でした。それ以来毎年11月頃になると開花を見ることができます。前回の植替えから3年近く経過し、高芽が見られるようになったため今回植替えを行いました。デンドロビウムにおいて株元からの新芽ではなく高芽が発生する状況は多くの場合、根詰まりの兆候を示すもので、株(疑似バルブ数)がそれ以上大きくなることは期待できないため植替えの時期と判断しました。2020年末の植替え時は、それまでの12㎝から15㎝径へのスリット入りプラスチック深鉢の変更を行い、ミズゴケとクリプトモスミックスの植付けでした。しかし半立ち性の茎(疑似バルブ)をもつ本種に、さらに大きなプラスチックポットへの変更は不適と考え、今回は大サイズの木製バスケットに植え付けることにしました。バスケットであれば茎が下垂しても吊るしていることから、吊るす場所の移動は簡単で、伸びしろ空間はいくらでも都合できます。
 下画像左から2つ目は15㎝プラスチック深鉢から取り出した本種の根の様態を示したもので、その右隣は植込み材を取り除き根をほぐした画像です。画像右はこうした株が4株あり、これらを22㎝角の大型バスケットにそれぞれ植付け(27日)た様子です。高芽は外して一緒に植付けています。

Dendrobium fairchildinae Luzon 15cm径ポットからの取出し 左株の植え込み材を除去 22㎝角バスケケットへの植付け

 バスケットでの植付けでは、右画像に見られるようにそれぞれの茎はバスケットの吊り金具を利用して1㎜径のアルミ線で束ねて立てていますが、根が落ち着いた後にはアルミ線を徐々に外し本種の成り行きに任せる予定で、新芽は当初垂直上方向に伸長し、やがて1年後には水平から下方に向かうと思います。これまでの垂直板取付け栽培では、画像下の青色種名のリンク先ページに見られるように、上方と下方に向かう茎の割合は下方が多い状態となっています。
 尚、本種の生息域が1,200m以上とされているものの、当サイトでは栽培経験から高温と中温室にそれぞれ4-5株を分けて栽培しており、いずれも成長に問題はありません。上画像の4株は今年の猛暑(昼間38℃、夜間平均温度30℃前後が1か月以上続いた温室)にも耐えてきました。たまたま当サイトの株はロットが1,000m以下であったのかもしれません。しかし夜間平均温度が25℃を超えるような夏季には涼しい場所での栽培が好ましいと思います。

Aerides magnifica

 本種はフィリピンCalayan島低地生息のAeridesで、2014年に本種名になるまではJ. Cootes著Philippine Native Orchid Species 2011ではAerides quinquevulnera var. calayanensisとされていたようです。巻き上がったリップ中央弁(mid-lobe)がリップ側弁(lateral lobes)に覆われている本種と、中央弁が側弁の外側に位置するAerides quinquevulneraとは形状が異なります。本種やVanda lamellata var. calayanaなどCalayan島生息種は現在、プランテーションにより絶滅の危機にあり、今日マーケットに見られるAerides magnificaは殆どが実生とされています。当サイトが所有する株は全て野生栽培株です。国内では秋が開花期となります。花色はピンク色がベースの淡い色から赤みのある色まで多様で、これまでの栽培経験では環境(主に温度および輝度)によって若干色調に変化が見られます。下画像は現在開花中の本種で、3つのカラーフォームを選んで撮影(26日)しました。アルバフォームにはSpur(距)の先端が淡い緑色のネット画像も見られますが、当サイトでは全体が白一色です。画像下の青色種名のクリックで最新の詳細画像にリンクします。

Aerides magnifica Calayan Aeride magnifica alba Calayan

 ところで、本種名でGoogle検索すると、トップページのリストにCyber Wild-Orchid Mart名 でhttps://....のサイトアドレスが出ます。このサイトは当サイトのものではありません。当サイトでは各種のページの閲覧に、氏名や電話番号など個人情報を求めることは一切ありません。そのためIOSPEサイトと同様に現在http://www...のままとしています。もしサイト内でこうした個人情報の要求がある場合、そのサイトは詐欺サイトの可能性がありますのでご注意ください。原種名で当サイトのページをGoogle検索し、該当するページが見つからない場合は、当サイトのトップページにアクセスし、各種原種のメニューから閲覧することができます。(2023年9月27日記)

Bulbophyllum baileyi

 本種はオーストラリアおよびニューギニア低地生息のバルボフィラムで、当サイトでは2016年7月にマレーシア経由で4株程入手し、同年9月の歳月記に当サイトで開花した花と株を掲載しました。当時は杉皮板への植付けでした。今回本種を取り上げたのは、温室で水まきをしていたところ、通路の一部に設けた金網に掛けられたラベルのない株に花が1輪咲いており、馴染みのないフォームであったので調べたところ、本種であることが分かった為です。Bulb. baileyiはその株以外に現在2株栽培しており、4年程前に炭化コルクに植替えているものの2016年以降本種が開花した記憶がありません。
 今回開花した株は下画像中央に見られるように、7年間植替えることもなく杉皮板は朽ち果て板上のバルブやリゾームは枯れて無く、一方で生きている部分はほぼ全てが空中にぶら下がって今にも落下しそうです。この株が炭化コルクに植付けされなかったのは種名ラベルが前記2株の植替え以前に無くなっていたからと思われます。しかしこの状態で生きながらえていたのは驚きです。おそらく周りにも似たような状態の株同士に囲まれ、高湿度の環境であったからと思われます。ラベルが紛失した種名不詳株や入手時にsp株とされたBSサイズのバルボフィラムで3年以上開花のない種が現在も百株以上あり、これらの多くは温室通路の壁に設けた金網に掛けて栽培しており、花が確認できればその種名から生息域を調べ適合した栽培環境へ移しています。画像右は九死に一生を得た本種の、本日(24日)60㎝炭化コルクとヤシ繊維マットの支持材に植替えた株です。Bulb. baileyiのページはこれまで2016年撮影の写真が僅か3枚でしたが、今回の機会にと新たに7枚に改版しました。画像下の青色種名のクリックで新しいページにリンクします。

Bulbophyllum baileyi Australia, New Guinea

Dendrobium sanguinolentum

 Den. sanguinolentumはマレー半島、タイ、スマトラ島、Java、ボルネオ島標高600m以下の低地に生息するデンドロビウムです。その花の色やテキスチャーはデンドロビウムの中で最も多様性のある一種で、大きく分けて3つの花フォームがあります。それらはセパル・ペタル及びリップの先端部に深紅色の斑点のあるもの( form1 )、またこの斑点がなく薄いクリーム色 ( form2 )、さらに黄系色( form3 )となります。花フォームと生息地の関係は、例えばform1はボルネオ島Kalimantan、form2はSabah、form3はSarawakとするレポートや、form1はタイ、スマトラ島にも見られるとした書籍と画像もあります。当サイトの上記form1 - 3のリンク先の花は全てマレーシア(Sabah、Sarawak)およびインドネシア(Kalimantan)ルートからの野生栽培株となります。
 一方、本種の共通した特徴は、リップ中央弁基部寄りにある赤橙色の斑点と、中央弁に走る複数の線状突起です。また葉や茎(疑似バルブ)の新芽はラテン語の名前由来でもあるBlood-red(血のような赤)色で、この赤紫色の葉は成長するに従い表裏ともに緑色に変化します。しかし茎は赤紫色がそのまま残るものと、緑色のベース色に赤紫色の線状模様(form3リンク参照)となるものがあります。
 株はいたって丈夫で、半立ち性ですが栽培環境が適していれば3-4年で大株になります。栽培経験からは木製バスケットが最も適しているようです。下画像は現在(18日)開花中の本種です。上記のform1-3の青色文字をクリックするとそれぞれの詳細画像が見られます。

Dendrobium sanguinolentum Borneo

現在(16日)開花中の12種

 Bromheadia brevifoliaは2015年にマレーシアにて原種趣味家から頂き、同年8月の歳月記に開花した花と株を紹介しました。その後、中温室にて栽培していましたが、ここ数年開花が見られず、今年春に高温室に移動しました。しかし7月に入り、今年の猛暑で状態が悪化したため中温室に戻しました。この温度差が影響したのか今月開花が始まりました。本種のページは現在「その他原種」のサムネールに掲載していないため近々追加する予定です。
 Dendrobium consanguineumDen. insigneとしばしば見間違いますが、セパル・ペタルの背面が本種は白色に対し、Den. insigneは淡黄色であることと、リップ中央弁形状が異なります。しかし当サイトの本種ページにはこれまで両者のリップの比較画像が未掲載であったため今回追加することにしました。尚、IOSPEでは本種が短命花(short lived flowers)と記載されています。短命花といえばデンドロビウムではDen. amboinensisDen. crumenatumあるいは下画像のDen.elineaeなどの1-3日花を想像しますが1週間ほど開花しており短命花ではありません。一方、本種のマーケット情報はネット検索においてほとんど見られません。それぞれの花の詳細画像は青色種名のクリックで見られます。

Bromheadia brevifolia Malaysia Coelogyne palawanensis Palawan Den. cinnabarinum angustitepalum Borneo
Dendrobium consanguineum Moluccas Dendrobium junceumLuzon Dendrobium elineae Luzon (Ilocs Norte)

  デンドロビウムSpatulata節は左右のペタルがカールしながら角のように上方に伸びた姿が特徴ですが、これまで栽培したSpatulata節34種の内、Dendrobium laxiflorumが最長のペタルを持ち6.5㎝です。
 Dendrobium serratilabium flava
はネット検索では現在、当サイト以外見当たりません。セパル・ペタルが緑色のDen. serratrilabiumネットで1点見られますが、画像を拡大するとセパル・ペタルの基部や背面に一般フォームが持つ線状斑点が残っており、当サイトに見られるようなグリーン一色ではありません。2019年入手以来、毎年フォームに変化はなく開花していることからflavaフォームとしました。

 Phal. lindenii albaは久々の掲載です。当サイトでは、四季に拘わらず本種は夜間平均温度20℃以下(15℃ - 20℃)となる中温室にての栽培です。夜間平均温度が25℃以上での栽培は困難です。ところでPhal. lindeniiのページにこれまで変種Phal. lindenii f. aureaの記載が漏れていたため追加しました。

Dendrobium laxiflorum Moluccas Dendrobium sanguinolentum Kalimantan Dendrobium dianae bicolor Borneo
Dendrobium serratilabium flava Leyte Dendrobium serratilabium Luzon Phalaenopsis lindenii alba Luzon

現在(10日)開花中の6種

 上段左のCymbidium aliciaeはルソン島およびスラウェシ島生息種で、当サイトでは現在20株程を中温室にて栽培しています。本種についてはマーケット情報がほとんどありません。Bulbophyllum recurvilabreはセパル・ペタルが黄色のベース色に、えんじ色の斑点を全面に持った良く目立つ種として知られていますが、中央画像に見られるようなオレンジ色のベース色にラテラルセパルの基部が赤味のあるカラーフォームもあります。Bulb. recurvilabreのページにこれら二つのフォームの比較画像を追加しました。
 Dendrobium dianae flavaは花色が黄緑色で、黄と緑との色合いは環境や、開花時から落下までの間に若干変化します。flavaフォームはセパル・ペタルとその後ろに伸びているSpur(距)が同色で、単色であることが特徴です。ネット検索では当サイト以外にこうしたフォームは無く希少種と思われます。画像下の青色種名のリンク先にそれぞれの詳細画像があります。

Cymbidium aliciae Luzon Bulbophyllum recurvilabre Leyte Dendrobium sulawesiense Moluccas
Dendrobium dianae flava Borneo Dendrobium klabatense Sulawesi Dendrobium sp aff. punbatuense Borneo

Bulbophyllum lobbii Giantの植替え

 Bulb. lobbiiはボルネオ島、インドネシア、マレー半島、フィリピンなど低地から高地まで幅広く分布するバルボフィラムです。マーケットでの多くは低地生息種で高温タイプとなりますが、これまでボルネオ島カリマンタン、スマトラ島からの本種は標高の高い生息種ではないかと栽培経験から判断しています。IOSPEによれば本種の花サイズは7.5cm - 10cmとされています。10㎝を超えるタイプも稀に見られるものの、遺伝子が持つ特性ではなく成長度合や環境に依存する一過性の可能性も考えられ、それを見定めるためには数年栽培してみなければ分かりません。そうした状況の中、当サイトでは5年以上毎年NS10㎝を超える株を2株栽培しており、その一つがクラスター化しているためこの株を今回植替えしました。
 下画像左は今年6月に撮影した一般サイズとGiantサイズを比較したもので本種のページにも掲載しています。右はクラスター化したGiant株で、葉付きバルブが54個でした。大型木製バスケットに植え付けられているものの多くのバルブがバスケットからはみ出しています。

一般サイズ(右8㎝幅)とGiantタイプ(左13㎝幅)との比較画像 23cm角木製バスケットに密生するBulb. lobbii Giant

 下画像左は上段右の株を葉付き3 - 8バルブ数にそれぞれ切り分けしてバスケットから取り出し、植替えまでの待機として、根の洗浄と病害防除処理を済ませた後、根周りにミズゴケを乗せ、3つのトレーに並べた状態です。これまでトレーの半分ほどの面積しかないバスケットで、且つ5年以上も施肥もない状態でこれほどの多数のバルブへと繁殖していることには驚きです。右画像はこれらを 70㎝x15㎝サイズのヘゴ板3枚にそれぞれを分けて植替えしたものです。

病害防除処理をしたバスケットからの取り出し株 70㎝x15㎝ヘゴ板への左株の植付け

 下画像は植替え完了後の本種で、左画像は正面、右は側面からの撮影です。株は左からそれぞれ17,18,19の葉付きバルブ数(5㎝以上に伸長した新芽を含む)となります。今回の植替えで使用したヘゴ板ですが、70㎝長以上で形の整ったサイズは現在入手が困難であることから伸びしろ面積が僅かしかなく、2年ほどで再び植替えが必要になると思います。画像下の青色種名のクリックで本種と近縁種とのサイズ差などの画像が見られます。

Bulbophyllum lobbii Giant

 本種の開花期は5-6月ですが、2年後を目途に10㎝以上の花が50輪ほど同時開花すれば壮観であろうことを期待し、今後は施肥も十分に行う予定です。最近のバルボフィラムの植替えはこうした大株仕立ての種が多くなり、支持材も長さ60㎝以上が増え、温室でのレイアウト変更も余儀なくされています。

最近の植替え種(Cleisocentron gokusingii, Bubophullum callichroma

 猛暑の中、植替え作業に追われています。下画像はCleisocentron gokusingiiBulbophyllum callichromaの直近の植替えを撮影したものです。新規の支持材はいずれも炭化コルク+ヤシ繊維マットです。現在Clctn gokusingiiは20株程を栽培しており下画像はその一部です。支持材の長さは40㎝となります。
 一方、中央画像は植替え前のBulb. callichromaで、左側が60㎝炭化コルク、右側が50㎝ブロックバークです。そのいずれの株も先端部が20㎝以上飛び出し、活着面がないため支持材トップから折り返して(ぶら下がった状態で)伸長しています。右画像は60㎝支持材4個にこれら2株を株分けして植替えを行ったものです。支持材の伸びしろを20㎝程取っていますが2年ほどで再び超えると思います。Bulb. callichromaも中央画像と同じようなサイズの株をさらに8株栽培しており、今月末までに全株の植替えを終える予定です。これら2種の花画像は画像下の青色種名のクリックで見られます。

Cleisocentron gokusingii Borneo Bulbophyllum callichroma New Guinea

Dendrobium cymboglossum

 ボルネオ島低地に生息のDen. cymboglossumが現在(3日)開花中です。当サイトではセパル・ペタルの表面や背面に淡い紅色の斑あるいは線状模様をもつ一般フォームと、こうした模様の無いflavaフォームを栽培しており、同時に開花しています。flavaフォームは当サイト以外に1点ネットに見られます。 それぞれのフォームの詳細画像は画像下の青色種名をクリックください。

Dendrobium cymboglossum common form Dendrobium cymboglossum flava form

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