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栽培、海外ラン園視察などに関する月々の出来事を掲載します。内容は随時校正することがあるため毎回の更新を願います。  2020年度

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10月

Aerides leeanaの植替え

 40株程栽培中のAerides leeanaの植替え作業に入りました。当サイトでは現地ラン園で見られるようなベアールートや小さなプラスチックバスケットを根元に取りつける植付け方法ではなく、炭化コルクの上に薄くミズゴケを敷き、その上に根を乗せて固定する方法としています。その背景に日本では十分な湿度が得られなく、ベアールート栽培は無理であることと、バスケットでも殆どの根が空中に下垂することで、前記同様にやがて湿度不足となり成長が望めないためです。また本種の根は一様に揃って下垂するのではなく、根の基部は四方八方に張り出すため、平面的な支持材への取付も容易ではなく、なるべく多くの根を板面に置くものの、その数には限りがあり、対策として同形状の株数が多かったため、株を密集して吊り下げることで互いに根周りの空中湿度を高めることとしました。3年近く経ちますがこの方法で毎年2月頃には多数の花を咲かせています。2-3株であれば、ほぼ全ての根を支持材に接触させることができるトリカルネット筒が良いのですが、40株となると手間が掛かり過ぎます。 今回の植替えは、これまでの3年間の成長で空中に張り出した根が増え、株全体として湿度不足が避けられず株が痩せる傾向が見られたことで行ったものです。

 下写真の上段の左から2列目は2019年春に炭化コルクに植付けた株の、現在の根周りの画像です。3列目はこれをコルクから取外した状態で、さらに右は裏面からの根周りの拡大画像です。これら画像からは植付け時にコルクに接触させた根から発生した新根は、炭化コルク内部に伸長しており、炭化コルクとの相性は良いと思われます。一方で空中に伸びた根から発生した新根の多くは成長が止まっていることも分かります。日常のかん水で、水が等しく根に行き渡る株形態であれば問題がないのですが、空中に伸びた根の方向は様々です。そこで新たな植替えでは、長い根は先に行くほど曲げやすく柔軟になっていることから、これらを板に引き寄せ接触させることにしました。このためコルクの板幅はこれまでの10-12㎝から15-18㎝に広げ、長さは45㎝とし、さらに支持材は保水性を高めるため炭化コルクとヤシ繊維マットの組み合わせでマットに上にミズゴケを薄く敷き、根をこの上に置いて1mm径の盆栽用アルミ線で留めることにしました。下段左が取付後の画像です。その際には葉や根の洗浄、古いコルクからの取外し後の病害防除のための薬品の散布も同時に行いました。下段右はこうした植替え終了後の複数の株の様子です。2019年の入荷当時に比べ葉数はかなり増えており、新たな成長芽が2割程に見られます。こうした植付けでこれまでに枯れた株は皆無です。しかし40株もあると植替えは、コルクからの取り外しに最も時間を要し2週間以上の作業になっています。

Aerides leeana Samar 炭化コルク植替え前 コルク取外し 右株の裏面根周り
45㎝ x 18㎝炭化コルク植替え 植え替え後のAerides leeana

 3年間の栽培で、上写真上段右の根周りの様態を見ると、根は炭化コルクの内部に根を盛んに伸長しており、根を空中に晒すほどの気相率が必ずしも必要が無く、であれば簡便な植付け方法としてスリット入りプラスチック鉢のような通気性の高い鉢に全ての根を収め、単体使用で粒子の粗い(Lサイズ)バークやクリプトモスあるいは炭化コルク破片等での植付けも良いと思われます。当サイトではAeridesやVanda等の原種の鉢植えは好まないので行っていませんが、今回は本種の栽培情報を得る目的で分け株の一部を鉢植えとし、その際の植込み材の粒度や、かん水頻度等の関係を調べることにしました。

現在(22日)開花中の花25種

 外気温が20℃以下となる季節となりました。浜松の温室内では、昼間に上昇した温度の保温効果で夜間でも20℃前後が維持され、まだ暖房器は稼働を始めていません。一方で換気扇が回る頻度が下がり、温室内は昼間でも高湿度となり原種は元気一杯です。開花中の25種の花を選び撮影しました。

 下写真でBulb.sp (championii)とBulb. nasica yellowとはペタル及びリップ形状に違いが見られます。 Den. sp aff. cymbicallumは本種がDen. cymbicallumには見られない中央弁外縁の細毛形状があり類似種としています。Den. punbatuenseは類似フォームが所有する株で5種類あり、色や模様だけでなく花の後ろに伸びたSpur(距)の形状が異なる花もあり5種の内、一部は別種かも知れません。Den. ovipostoriferumは現在20株程あり、通年でいずれかが開花しており花が絶えることがありません。Aerides magnificaはリップが淡いピンクと写真のような濃いピンクがあり、それぞれはおよそ5:1の割合となっています。写真のPhal. sanderianaは当サイトで栽培する最も青紫(パステルカラー)の濃い色で、中温室栽培では次々と蕾を出し半年以上、開花を続けています。その隣のBulb. deareiは、淡い黄色が多いのですが、オレンジ色に近い濃色のフォームを選んでみました。Bulb. sp Papua New Guniaは、今年初めに高温高輝度環境に移しての初開花で2018年入手したバルボフィラムです。左右のラテラルセパルの基部半分が接合しており袋状で蕊柱やリップはその中に隠れている独特の形状です。高山植物のDraculaは現在多数の種が開花中で、浜松温室では本種の最花期を迎えています。最下段のDracula mantissaはorchidspecies.comでは花サイズ7.5mmですが、セパルの細長いテールを除いて下画像の花は丁度その倍の1.5㎝程です。

Bulb. sp (championii) New Guinea Bulb. nasica yellow New Guinea Bulb. inunctum Philippines
Den. sp aff. cymbicallum Borneo Den. punbatuense Borneo Den. ovipostoriferum Borneo 
Den. atjehense Sumatra (Ache) Aerides magnifica Philippines (Calayan) Vanda merrillii Luzon
Phal. deliciosa alba Vietnum Phal. lowii Thailand Phal. fasciata Luzon
Phal. sanderiana dark pink Mindanao Bulb. dearei dark orange Mindanao Bulb. blepharis Thailand
Bulb. centrosemiflorum Papua New Guinea Bulb. medusae Malaysia, Thailand Peristeria lindenii Ecuador
Dracula roezlii Colombia Dracula venefica Ecuador Dracula rezekiana Ecuador
Dracula bella Ecuador Dracula marsupalis Ecuador Dracula janetiae Peru
Dracula mantissa Ecuador

Bulbophyllum alkmaarense

 2018年マレーシアのPutrajaya花展でNT Orchidからバルボフィラムspとして入手した株に小型の花が初開花しました。前にも述べましたが、種名不詳で入手したニューギニア種はその生息域が不明な場合、まず低 - 中温室にて様子を見ることにしています。本種もそうした対応で株に異常が見られなかったことから昨年までの2年半、そのまま栽培を続けました。しかし一向に開花が無く、今年に入り栽培環境に問題ありとして、高温室の高輝度となる場所に移動しました。その結果、新芽や先月末からは花芽が現れ今週13日に開花に至り、花形状からBulb. alkmaarenseであることが分かりました。そこでBulb. alkmaarenseの情報をネットで調べたところorchidspecies.comには、本種の生息域は1,500m - 2,500mで、これはDen. cuthbertosoniiクラスのクールからコールドタイプとなります。一方、Monaco Nature Encyclopedia(以下MNE)では中 - 高温タイプとされ、夏季は18-30℃、冬期はやや低温であるものの12℃以下にならないように、と記載されています。これではこれから本種を栽培しようとする趣味家にとって、どちらを信じれば良いのか分かりません。不適正な栽培温度は枯れに直結します。さらに別種名Bulb. xanthoacronとはシノニムの関係とのことです。当サイトで新芽が成長し、開花した4ヶ月程前の高温室の気温は、25℃(夜間平均)から32℃(昼間平均)となる、かなりの高温です。さらに問題はMNEの前記リンク先ページの株姿はバルブ間のリゾームが長く、本種の一般形状からは別種の如き違和感があります。またorchidspecies.comやMNEでのリップ中央弁は黄色であるのに対し、OrchidRootでの本種名は濃淡のある赤茶色のカラーフォームで、当サイトと同じです。

 リップ中央弁の色を除き、花形状には違いは見られないことから双方は変種の可能性があるもののBulb. alkmaarenseであることは間違いないと思われます。そこで、こうした混沌とした情報の中でどのように本種の栽培環境を結論付けるかが問題です。それぞれの情報が全て実態に基づくものとの前提で、気温については当サイトでの栽培結果から、低地から高地まで分布・進化した種(但し開花が気温と関係することから、コロニー毎に栽培許容温度は生息域環境に依存)であること、カラーフォームの違いはそれぞれの個体差によるもので、そのカラーが地域的に排他的(同じ場所での混在はなく、異なる場所でそれぞれが生息)であれば、変種と推定されます。原種の多くは、その生息域から栽培者の手に渡るまで、複数の販売ルートを通る結果、生息域(特に標高)がほとんど不明となります。その結果、栽培条件が確定できず、標高が分からない場合は当サイトのように2-3年かけて適応環境を見つけ出すか、生息域情報を知るサプライヤーのみから仕入れることになります。本種は、栽培温度に加え、花は2-3㎝と小型で花茎当たり1輪の開花。また花寿命は1-2日の短命花であり、香りも無いなど、およそ花卉植物とは云い難いランの一つです。なぜこのような種が生物多様性とは言え生まれたのか、逆にランとしては稀な特性とも思われ、それが本種の個性と見做せば、栽培したい趣味家もいるかも知れません。下写真は13日の撮影で青色の種名をクリックすると詳細画像にリンクします。

Bulb. alkmaarense New Guinea

Bulbophyllum nymphopolitanumcootesiiの植替え

 Bulbophyllum nymphopolitanumcootesiiの植替えを行いました。Bulb. nymphpolitanumは2020年1月の歳月記に取り上げましたが、orchidspecies.comを始め、ネット上に見られる本種名の画像はBulb. levanaepapulosumのブラウンカラーフォームと思われる種が大半で、J. Cootes著Philippine Native Orchid Species 2011に記載のBulb. nymphpolitanumとは異なります。この書の画像は、PhytoImages.siu.edu で見ることが出来ます。Bulb.nymphopolitanumの特徴はラテラルセパルの長さと幅の比率(3.5:1)や、リップ中央弁全体を覆うイボ状凹凸面などです。当サイトのBulb. nymphpolitanumは2014年Bulb giganteumのミスラベルでフィリピンラン園から偶然入手したものですが、その後のマーケットにおいて本種を見かけることがなく、希少性が高いと判断し今回5株の植替えを行いました。Bulb. nymphpolitanumを始め、その近縁種は基本的に吊り下げ型の支持材への取付けですが、先端バルブは真上に一様に向かわず、横や斜め方向にもしばしば伸長します。このため支持材の伸びしろ分は縦幅だけでなく横幅も必要で、今回はこれまでのサイズ 30㎝ x 11cmから35 x 18cmと 45㎝ x 20cmの2種類を用いての植付けとしました。下写真上段左はBulb. nymphpolitanumの花で、右は新しく2種類のサイズの支持材に植付けた株です。花画像下の青色の種名をクリックすると本種の改版予定ページにリンクし詳細情報を見ることが出来ます。

Bulb. nymphpolitanum 2種類の支持材サイズの植付け

 下写真左は炭化コルク30㎝ x 11cmに活着している植替え前のBulb. nymphpolitanumで表面のミズゴケを取り除いた画像です。この株は上写真右にある植替え終了後の小さいコルクサイズ側にある株です。下写真中央は左の状態から株を取外した画像で、右はその株を裏側から見たものです。左と右のそれぞれの写真を比較すると、コルクの表面からは見えない驚くほどの多数の根がコルク内部に伸長していたことが分かります。すなわち本種と炭化コルクは極めて相性が良いと云えます。しかし潜り込んだ根を極力切断しないように取外す手作業はコルクを潰しながら行いますが、かなりの時間を要します。支持材がヘゴ板である場合には板が硬く、潜り込んだ根を取り出すことは困難で多くは切れてしまいます。これが炭化コルクの優れた点で、3-4年経過したコルクは崩れやすく、多くの根が生きたまま取り出せることで植え替え後の順化期間の短縮や作落ちを最小化することができます。

3年経過した植え付け前の炭化コルクと株 取外した株の洗浄後の状態 左の株の裏面

 前記植替え後の写真では植替え前の炭化コルクと比べ支持材の面積は相当大きくなっています。これは前述のBulb. nymphpolitanum近縁種の新芽は横や斜め横に向かって伸長することが多く、例えば上写真左の画像で株先端は右方向に向かっており、やがて新芽は支持材の右側に飛び出します。植え替え後の株は先端が真直ぐ上に向かっている様に見えますが、これは植付けの際、リゾームを押し曲げて矯正したためです。3-4年間は元気に成長させ植替えをしたくないのであれば、それなりの伸びしろ分を予め設けることが必要です。前記植替え後の画像で、縦幅の長い45㎝ x 20cm支持材の別株は先端がかなり左に向かって伸長しています。縦方向の伸びしろが異様に広いのは、植付け前の支持材では上下方向伸びた長い根が詰まっており、これらの根を生かすため広い伸びしろを設けたものです。このように新たな植替えでは、それまで成長してきた株の様子や形状から次期植替えの3-4年後の成長を見据え、それぞれに最適な大きさの支持材を選ぶことでサイズは数種類になっています。現在炭化コルク付けは全てヤシ繊維マットとの組み合わせです。

 下写真はBulb. cootesiiです。こちらはバルブ先端がこれまでの支持材を超えてしまっていたため、植替えを行ったものです。左から2列目はこれまでの炭化コルクから取外した株で、その隣は株の裏面です。前記Bulb. nymphpolitanum同様に多数の根がコルク内部に繁殖しており、バルブ形状が似たこれらの種は炭化コルクと相性が合うのか良く育ちます。右写真は植替え後です。2列目の株で下部にある黄色くなった3個の古いバルブは切り取っています。今回の株は花が開花中で原則、植替えは避けるべき時ですが植替えを急ぐ他種も多く、最適時を選ぶ余裕がなく、花写真撮影後に実行したものです。右写真の炭化コルクの横幅は20㎝で縦幅は35㎝です。この株にとってこの程度の伸びしろ分でも3年後には飛び出してしまうと思います。

Bulb. cootesii 旧支持材取外し株 左株の裏面 植替え後の様態

 ところで現在ニュージーランド産ミズゴケのデリバリーが極めて困難になっています。7月に発注した3㎏3Aタイプは11月納入予定、10月現時点の発注は来年3月の納品とされます。当サイトでは南米産のミズゴケは品質の点で使用していません。洋ラン資材の一丁目一番地となるミズゴケの入手がこのような状況では、植替えを従来通りに進めることが困難で、当サイトのミズゴケの残り分も今月末ごろには尽きる状況です。11月に予定通りに入荷が出来ないとなると、バークやクリプトモス植付け株のみの植替えが続きそうです。また今月末からしばらくはAeridesやVandaなどミズゴケを余り使用しない株の葉や根の洗浄を行う予定でいます。 コロナによる世界的な供給の変化が原因のようですが、早く従来通りの状況に戻ることを期待しています。

Trichoglottis atropurpurea f. flava (alba)の植替え

 Trichoglotties atropurpurea flavaは当サイトが所有する原種の中で最も希少性の高い種の一つで2014年フィリピンにて入手しました。昨年7月の歳月記で取り上げましたが、おそらく本種を現在取り扱っているのは世界でも当サイトのみと思います。J. Cootes氏著Philippine Native Orchid Speciesによると、フィリピン生息のTrichoglottis属のサイズについてTrichoglotties atropurpureaなど単茎性で上方に伸長する種の茎の長さは60㎝、またlatisepalaなど茎が下垂する種での長さは1mとされています。しかし当サイトでのTrichoglotties atropurpurea flavaは1.2mと倍の長さです。本種の開花には、午前中の木漏れ日を直接浴びる程の高輝度が必要となります。

 今回の植替えは、前回から僅か1年半となりますが、炭化コルクの長さは従来の60㎝と90㎝で同じのまま、幅を8㎝から12㎝に、また4月以降の炭化コルク植替えから導入しているヤシ繊維マットとの組み合わせにした植替えとなりました。下写真で、左から2列目の写真で手前2つは60㎝ x 12㎝サイズ、3つ目が90㎝ x 12cmのヤシ繊維マット付き炭化コルクへ植付けた本種です。一番後ろは昨年4月に植付けた株で、この株は写真に見られるように90㎝長の炭化コルクにおいて1.2mにまで茎が伸長しています。今年の6-9月までの4か月間、午前中に木漏れ日が当たるモミジの木に吊るし栽培をしていました。30-50㎝長の若芽が3本あり今月中には株分けを兼ねて前記した植付け条件で植替えを行う予定です。短期間での植付け変更は、本種の根の広がりに対応するため幅広の支持材にしたことと、ヤシ繊維マットを併用することで保水力を高めるためです。

 長いサイズの炭化コルク(厚み3㎝)では反りが生じるため、これを防ぐには、右写真のように60㎝長には4-5mm径60㎝長の支柱鉄線を裏面に取付けます。一方、コルク90㎝長では反りと共に自重によるコルクのひび割れ防止が必要で、1m長の支柱鉄線2本を適当な長さに切断して裏面に取付けると共に、先端をコの字形に曲げた3mm径の盆栽用アルミ線でコルク板下部を支え、これを吊下げ金具に繋ぐことでコルクのひび割れを防いでいます。

Trichoglotties atropurpurea f, flava 炭化コルク付け ヤシ繊維マット付き炭化コルク 60㎝と90㎝支持材裏面(右、中央)

現在開花中の18種

 撮影は7日と8日です。Den. olivaceumは自然体での正面からの撮影で、本種は倒立花のためリップ中央弁の裏面が前を向いています。Den. amboinenseは通常、セパル・ペタルを下垂させて開花していますが、写真のように全開するのは極めて稀で、開花直後の早朝の撮影となりました。画像の下の種名が青色のそれぞれの種は、改版予定のページにリンクしており詳細画像を見ることができます。

Den. calicopis Pn. Malaysia Den. dianae Borneo Den. punbatuense Borneo Sabah
Den. olivaceum green Borneo Den, sanguinolentum white Borneo Den, sanguinolentum yellow Borneo
Den. amboinense Amboin island Den. spathilingue Java Den. subclausum New Guinea
Den. bicolense Luzon Den. lancifolium New Guinea Den. polytrichum Luzon
Coel. asperata Philippines Phal. equestris Mindanao Phal. mariae  Mindanao
Vanda lamellata v.remediosae South Philippines Bulb. inunctum Luzon Sobralia yauaperyensis Ecuador

デンドロビウムPlatycaulon節の植替え

 Platycaulon節にはDen. platycaulon, treubiiまたlamellatumなど10種程が知られています。特徴は扁平な疑似バルブと、細長い多数の分岐した根があることです。半下垂タイプのため吊り下げ型の取付が好ましいものの取付材が小さいと、やがて伸長した多数の根がはみ出し空中に垂れ下がっていきます。こうした長く細い根を持つ種は素焼き鉢栽培が無難となります。しかし鉢内でやがて根が詰まってくると、飛び出た根をもつ板状支持材と同様に、株はそれ以上大きくはならず高芽が出るようになるため、高芽を別の鉢に植え付けて株分けを行います。限られた栽培空間の場合はむしろその方が良いとも考えられます。

 原種ならではの自然体の姿で大株にしたいとなれば、この盛んに伸長する根をどうするかが問題となります。一つは支持材を根の伸長に合わせた適度なサイズにすることですが、これは栽培スペースがある場合に限られます。今回はそれぞれ5株程栽培中の前記3種の中から2株づつ選び、大株に育てる目的で根の伸長に合わせた長い炭化コルクに植え替えることにしました。下写真はDen. platycaulonで、左から2列目は蕾が多数付いた株と、ヤシ繊維マットを乗せた60㎝長の炭化コルクです。3列目は取付が終了した状態です。厚み3㎝の炭化コルクの場合、60㎝x12cm長ともなると反るため、右写真のように裏面に60㎝の金属の支持棒を入れ、反りを防ぎます。こうした植え付けでバルブの一部に高芽が出た場合は、空中に下がった根は長いため、活着するまでワイヤーで取付材に引き寄せ縛ります。当サイトの環境においては次の植替えは凡そ4年後を予定しています。

Den. platycaulon Philippines Den. platycaulonと60㎝長支持材 取付後 支持材反り防止針金

 ところでorchidspieces.comのPlatycaulon節のページを見たところ、この節は根の形状について’verrucose roots’とされ、和訳するとイボ状の凹凸をもつ根となります。しかし吊り下がった、あるいは支持材に活着した根を1m程離れて見ても、下写真左のように根の太さは1mmと細くストレートです。ではと30㎝程に目を近づけよく見ると、2列および炭化コルクに活着した3列目写真にはザラザラとした凹凸があり、さらにルーペで拡大すると写真右の、イボ(verrucose)状と云うよりはザラメ状の表皮であることが分かります。'granulated roots'と云ったところです。しかしこうしたミクロな世界の形状画像も、種の特徴を把握するために必要となれば、デンドロビウム改版ページには花、葉、バルブに加え根の掲載も必要かと。 むしろ当方は、このような形状を見ていると、多くの種が多少の凹凸や皺はあるものの根の表皮は滑らかであるのに、何故にこの節は数千年かけて、このようなザラメ状の表皮に進化したのか、その背景にどのような生息環境が本種たちを取巻いていたのかが不思議で、そちらの方に興味が移ります。おそらく気根植物として大気中の水分をより多く摂取・滞留させるため根の表面積を大きくする手段として3次元化したと想像するのですが、それならば他の着性種もそうある筈で、本節種が生息する場所にその謎を解くカギがあるのかも知れません。原種は株の小さな部位であっても、いろいろと思いを馳せるきっかけを与えてくれることが楽しいと思います。

Den. platycaulon 根形状 Den. lamellatum 根拡大画像 Den. platycaulonコルク活着拡大画像 Den. platycaulon 根の拡大画像

現在(1日)開花中の花17種

 朝夕の気温が下がり、1日の温度差が増すと、多くの原種の芽や根は活発になります。今回は17種を選んで撮影しました。撮影は先月29と30日です。

Bulb. unitubum Den. dearei Borneo
Bulb. claptonense aurea Borneo Bulb. falciferum New Guinea Bulb. sp (championii) New Guinea
Bulb. nasseri Philippines (Mindanao) Bulb. habrotinum (Borneo) & plumatum (Java) Den. punbatuense Borneo
Den. singkawangense Borneo (Kalimantan) Den. khanhoaense Vietnam Den. officinale China
Den. lamellatum Java Den. albayense Philippines Den. cymboglossum
Aerides magnifica Philippines (Calayan) Coel. bicamerata Sulawesi Phal. bellina wild Borneo

 先週と今週の歳月記は、記事が少なくなりましたが、実は先週は冠動脈の検査と、週末からは手術のため入院していました。冠動脈は心臓の筋肉にエネルギーを供給する血管ですが、この血管が動脈硬化等で狭窄や閉塞が生じて血流が悪くなると、胸の圧迫や痛みがしばしば現れます。完全に塞がれると3人に1人は死亡すると云われる急性心筋梗塞を招きます。先週造影剤CT検査をしたところ、冠動脈の根元(心臓に近い場所)の太い血管が画像に映らず、造影剤が流れない程の危険な状態と判断され、コロナ下で一般病棟も混んでいる中、検査3日後の緊急入院となりました。本来なら即入院ですが、現在はコロナワクチン2回接種者でも、入院2日前にPCR検査が院内感染防止のため規定されており3日後となりました。手術はカテーテル(直径2mm程のプラスチックのパイプ)を手首の動脈から挿入して心臓まで進め、閉塞部を膨らませ血流を元に戻す形成術ですが、今回のように血管がほぼ完全に詰まっている場合はカテーテルが通らないことがあり、その場合はバイパス手術となります。幸い時間が掛かりましたが今回は通すことが出来、ステントと呼ばれる筒状の金属網を血管内部に挿入し膨らまして留置することになりました。医師によるとこれで退院翌日から、これまでと同じように体を動かすことが出来るとのことで安心しました。 ランの栽培等で急いで作業したり、重いものを運んだりしたとき胸に圧迫感を覚えるものの3-4分休めば元に戻るため、休み休み作業すれば良いと考える人が多少なりと居るのではと思います。こうした症状は狭心症の可能性が高く、身に覚えのある方は循環器内科の医師に相談されることをお薦めします。

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