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5月
今週開花のその他9種
この時期は多くの種が開花しています。今週開花している中から9種を選んでみました。種名に添付の生息地は、種によって多数の国や地域に分布しているものがありますが、記載名は写真の株の生息地を表記したものです。中段左のDen. plicatileはFlickingeria fimbriataのデンドロビウム属統合後の名称です。Den. chameleon, Bulb. bandischii, Bulb. bataanenseはそれぞれ25、26及び28日、他は全て本日29日の撮影です。
開花中(28日)の6種
上段左のDen. leporinum semi-albaは昨年12月の歳月記で紹介した株と同じ株で、写真は花茎2本目の花です。花茎1本当たり10輪程が100日を超えて咲き続けます。当サイト栽培の高温系デンドロビウム属の中では最長の花寿命をもち、現在も3本目及び4本目の花茎が発生していることから、同一株で1年間近く途切れることなく咲き続けることになると思います。そうなれば同一株での連続開花最長記録となります。写真右はマレーシア・キャメロンハイランドで入手したBulb. deareiで、幅広のドーサルセパルが、ひと際印象的です。
中段左はBulb. claptonense aureaです。2015年のPutrajaya花展で6バルブからなる株を入手し、これを親株として、これまで3回株分けをしました。分け株は1株当たり3バルブ以上であることから6年間で9バルブ以上増えたことになります。本種は入手希望者が多く、分け株はすべて販売しました。東京ドーム2016年ラン展では、NT Orchidが2バルブを5万円で販売していた極めて高価なバルボフィラムでした。現在はシンガポールJulius Ng's OrchidsでUSD130(14,000円がネットに見られます。下段右のDen. klabatenseは、当サイトでは年2回開花期(5月と9月)があります。現在、米国Andy Orchidsをはじめ多数のラン園で販売され、凡そUSD30(3,300円)ほどです。近年はタイのTropical Exotiqueなどが実生を生産、海外に輸出しており、現在マーケットで入手可能な株の多くは実生と思います。当サイトの株は、実生が登場する前の2014年と16年にインドネシアからマレーシア経由で入手した野生栽培株です。
開花中(25日)の種名不詳のバルボフィラムなど3種
Bulb. macranthumに花の輪郭が似た種名不詳のバルボフィラム1種と、先月紹介したニューギニア生息種Bulb. tollenonifermを、前回は後ろ向きの画像しかなく、今回正面を向いて開花していた花があったので撮影しました。また例年この時期に開花するボルネオ島生息のDen. olivaceum green (flava?)が今年も開花しています。偶然ですが3種共に花は倒立タイプです。
写真左の種名不詳種はSestochilus節と思われ、その花形状とサイズ(ペタル・スパン6㎝)はBulb. macranthumに似ているものの、Bulb. macranthumとは花のテキスチャーや色合いが異なり、またバルブとバルブを繋ぐリゾームのそれぞれの節から出ている毛状苞葉?が無いことなどから別種と思われます。フィリピンからBulb. cheiriに5株程混在していたようです。入手経路が明確でないのは本種は6年以上前の入荷であったことと、開花後の枯れた花茎が残っていたことを考えると、その間に数回開花していたようですが、Bulb. cheiriかmacranthumと思い、そのまま温室の奥に吊り下げられて気に留めていなかったからです。昨年9月温室レイアウト変更で目の届く場所に移動したことから今回別種あるいはBulb. cheiriとmacranthumの自然交配種ではないかと分かり、現在調査中です。長い間植替えがなく株が支持材から伸び出しており、植え替え後には株分けで10株程になることからコロナ明けには販売する予定です。写真中央のBulb. tollenonifermは花の正面画像の撮り直しです。一方、右写真のDen. olivaceumの花色は通常茶色ですが、2株ある当サイトの株は緑色です。ネットで画像検索すると、緑系の花色も見られますがいずれも茶成分が全体に見られ、当サイトほど鮮明な緑色は稀と思います。
上記のBulb. macranthumに似た種はBulb. sp. aff macranthumとし、Bulb. macranthumと比較する上で、共に下の種名 リンク先に画像を表示しました。またDen. olivaceum greenの色合いを示すため本種も詳細画像にリンクできるようにしました。いずれも現在進めている改版用ページです。
Bulbophyllum. sp. aff. macranthum
Bulbophyllum macranthum
Dendrobium olivaceum
現在やっとBulbphyllum, Dendrobium, Aerides, coelogyne, Vandaの改版用ページ作業が終了し、今月中にはcleisocentron, paraphalなども終わる予定です。この段階で一斉に新しいページに差し替えを行うことになります。胡蝶蘭及びDraculaなどの南米種はその後となります。栽培情報の開示は会員制ですが、こちらが全て揃うまでには、まだかなりの時がかかるため、出来上がったページから順次更新する形で会員ぺーの開設も急ぐ予定です。会員ページに公開の高解像度画像版を同時に準備していることから予定が遅れてしまいました。いずれにしても、これまでネットに見られる僅かな花画像と解説では発信する意味がなく、栽培者ならではの視点、例えば入手したい時に知っておきたい花フォームや株姿、またその栽培方法など、特に栽培についてはAOS(米国蘭協会)サイトに見られるような一般論的な解説ではなく、様々な環境下での実体験に基づく、種毎の定量的な栽培情報(温度、湿度、輝度、通風、順化・植替え、植込み関連素材、生育評価など)を含めた、これまでに見られない新しいオンライン情報モデルを目指しています。
現在(20日撮影)開花中のVanda3種
Vanda floresensisとVanda pumilaが温室内に良い香りを広く漂わせています。Vanda floresensisは2016年インドネシアからマレーシア経由で入手しました。しかしマーケットに5年以上前に登場し、昨年5月歳月記に取り上げたように、これだけ派手なVandaであるにも拘らず、今だ本種名の公的な登録(認証)が見られないことは、Vanda tricolorと他種との人工交配種と見做すのが妥当なようで、インドネシアの趣味家かラン園が、あたかもフローレス島生息種らしい名を付け原種のように見せかけたバーチャル種かも知れません。しかし本種の香りは良く、その意味では存在価値がないとは云えません。現在改版ページの作成をしていますが、本種はVanda tricolor affとし、交配種と分かれば削除する予定です。
種名不詳のバルボフィラム2種
種名不詳のバルボフィラム2種が入荷後初めて開花しました。下写真上段は、入荷時20株程のBulb. jolandaeに混在していた1株です。花形状からはBulb. jolandaeとは全く異なる種ですが、同一ロット内にあったことはボルネオ島生息種と思われます。現在未登録の新種か、登録されているのか調査中です。形状が似たMinutissimaやIntervallatae節を調べる限り、該当種が見当たりません。これまで5年間ほど中温室での栽培でした。一方、写真下段はマレーシアPutrajaya花博で得たパプアニューギニア生息とされるバルボフィラムで、こちらも調査中です。上段の種は3.5㎝、下段は1㎝の小さな花です。こうした種名不詳で未開花株は現在20株ほど栽培しており、年内にはその半数は開花させたいと思います。
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Bulb. sp Borneo? |
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Bulb. sp PapuaNew Gunia |
現在開花中の胡蝶蘭原種8種
下写真に現在(18日)開花中の胡蝶蘭原種を表示しました。Phal. philippinensisは5日の撮影ですが、花寿命は1ヶ月以上のため現在も同じ姿で開花中です。右のPhal. corningianaは花サイズが一般種の1.5倍程のサイズです。またPhal. lueddemannianaはPhal. hieroglyphicaのフォームに酷似した花を選びました。DNA分析による研究ではLueddemannina complex(グループ)にはhieroglyphica, reichenbachiana, fasciata, pulchraなどが含まれますが、これらは自然交配により誕生・派生したとのことで、特に遺伝距離が近い故かlueddemannianaとhieroglyphicaは下写真のように、野生株でありながら両者の特徴をもつフォームも稀に見られます。下写真以外には現在、Phal. mariae、floresensis、amabilisなどが開花しています。
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Phal. philippinensis Luzon |
Phal. corningiana Borneo |
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Phal. lueddemannina Luzon. Leyete, Mindanao |
Phal. inscriptiosinensis Sumatra |
Phal. modesta Kalimantan Borneo |
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Phal. speciosa purple Nicobar Isd |
Phal. lamelligera Borneo |
Phal. violacea Sumatra |
Bulbophyllum mastersianumの植替えと海外に見る価格
Bulb. mastersianumはラン展で毎回出品するバルボフィラムの一つです。コロナ問題以降、海外からの入荷が途絶えている今、炭化コルクなどに取り付けた株は2株程しかなく、それ以外果たして何株在庫があるかよく分からない状態でした。取り敢えず一昨日(14日)開花の終わった1株を植替えしました。写真1は左の花の炭化コルク取付株で、根を覆っていたミズゴケを洗い流した状態、写真2及び3はコルクから株を剥がし、それを新たにヤシ繊維マット付き炭化ルクに植替えた画像です。写真1では開花後の枯れた花茎が多数見られますが、本種は頻繁に開花します。
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Bulb. mastersianum Borneo |
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植え替え後に本種の現在のマーケット情報をと、シンガポールAsiantic Green価格リストを見たところ、米ドルUSD60 、日本円で凡そ7,000円となっていました。当サイトでは、これまでラン展では4-5バルブ株を4,000円で販売し、温室に来られた方には3,000円としていたため、このラン園では本種がbinnendijkiiやdecurviscapumより高価で、バルボフィラムリストの中では最高額になっていることに少々驚きました。しかし、より高額であろうorthosepalum、kubahense、bandischiiなど、また新種や変種も現在のリストにはほとんど含まれていないため、60ドルは一般種としての最高額と見るべきと思います。見方を変えれば現状のコロナ下では、60ドルを超える希少種が国外からは入手難で、リストに掲載できないのかも知れません。
いずれにしてもBulb. mastersianumがかなり高価であることが分かった以上、粗末には扱えないと、温室の片隅で半ば捨てられモードに入りつつも生き続けている本種を見つけ出し植替えを急ぎました。下写真左は杉皮板に取り付けてから5年以上そのままの状態にあった本種で、殆どのバルブが空中に浮かんでいるか板の裏面に根を張っています。こうした状態でありながらも生き存えているのは、当サイト温室の湿度が如何に高いかを示しています。湿度が低ければ、この状態では1年も生きられないと思います。中央はポット植えです。トレーなどに3-4年間そのままの株が殆どで15株見つかり、取り敢えず上記写真の株を加え、11株を新しくヤシ繊維マット付き炭化コルクに植付けました。それが右写真です。一般種が植替えにより陽の目を見るのは、植替え優先順位の高い種が他に余りに多く、花が咲いた時か価格などマーケット情報を知った時とは困ったものです。
ところで、海外での価格リストを見る場合、必ず株サイズ、バルブ数及びポットサイズに注視します。Asiantic Greenでは商品毎に例えば;
Bulbophyllum mastersianum FS. 3-5 bulbs 4"pot size 60USD
とあります。その品種はFS(開花)サイズで 、バルブ数は3-5個(葉付)、それに鉢サイズは4インチとなっており、日本国内のバルボフィラム販売にしばしば見られる、バルブ数2個のみの株は、このラン園では商品とは見做さないようでリストにはありません。栽培経験からも入荷時に僅か2個程度のバルブ株を1-2年以内に花を咲かせることはまず不可能です。その意味でカタログに株サイズをBSやFSと謳う以上は、3バルブ以上とするのは妥当なことです。一方、ポットサイズも購入時には重要な情報です。1例としてBulb. ancepsを見ると、3インチ(7.6cm)サイズ、いわゆる2.5号鉢相当で価格がUSD20です。すなわち3-5バルブで2,200円はかなり安いと一瞬思いましたが、はて?と先月当歳月記でBulb. ancepsを取り上げ、その中でのメジャー入りの画像から判断すると、2.5号サイズに3-5個のBulb. ancepsのようなバルブ形状からなる株を植付けるとなると、ポット一杯に植え込んだとしてもかなり小さなバルブ、まして5バルブではとなり、果たしてこれでFSサイズなのかと。このように僅かな情報からでも、いろいろなことが見えてきます。
Aerides quinquevulnera
Aerides quinquevulneraは4変種(var)と1フォーム(fm)が知られています。本日(16日)当サイトで新たにvar. purpurataが開花したことで、本種の変種全てが揃いました。下写真がそれらです。その中でこれまでのvar calayanensisとfm. farmeriは旧名とし、現在ではAerides magnifica及びmagnifica fm. albaとしています。
Bulbophyllum4種の炭化コルク植替え
バルボフィラムは2015年以降からこれまで、炭化コルクを支持材とした植付けが殆んどで、現在1,500株以上になります。これらの植替えのタイミングは、リード(株先端)バルブがコルクからはみ出す、凡そ2-3年を目途としてきました。そうした中、今年4月からは炭化コルクとミズゴケの間にヤシ繊維マットを挟む取りつけ方法に順次変更しています。目的は取付材の保湿力をより高めるためです。従来の炭化コルクとミズゴケ2つの素材を組み合わせた取付材は、しばしば当サイトで取り上げてきたように、根の活着状態は良好で問題は無いのですが、そうした成長を得るには80%以上の夜間湿度が通年で求められることから、今後販売する上で高湿度環境の設定が難しい趣味家に対して幾分でも栽培し易くすることができればとの思案からです。
下写真は4種のバルボフィラムの直近(11-12日)の植付けです。写真中段は炭化コルクでの2年間程の栽培を経た株の様態を見るため、表面を覆っていたミズゴケを洗い流した後の、コルクに活着している株と、コルクから取外したそれぞれの株を撮影したものです。いずれも根張りは活発で炭化コルクとの相性が良いことが分かります。下段はこうした株を新たにヤシ繊維マット付き炭化コルクに植替えた画像です。マット一面にミズゴケを敷いているため、これまでの炭化コルク付けと外見上は変わりません。
写真のBulb. fritillariiflorumは花サイズが10㎝を超えるニューギニアからの入荷種で、これまで本種をBulb. grandiflorum aff (近似種)とかBulb. arfakianum giantなど種名を二転三転してきましたが、Bulb. fritillariiflorumに落着きました。シンガポールAsiatic greenラン園の現在の価格リストでは、バルボフィラムの8割方は25-30USDの中で倍の60USDと、かなり高額な種になっています。他の3種はいずれもリードバルブが支持材から大きく飛び出し、根の活着場所がない状態でした。これらを新規に伸びしろ分も考え、ヤシ繊維マット付き45㎝長の炭化コルクに植え替えました。
直近1週間の開花種
2日から本日(10日)までに開花あるいは現在開花中の、バルボフィラムを除く24点を選んで撮影しました。写真でCryptostylis arachnitesは和名オオスズムシランで、国内では絶滅危惧植物として環境省レッドリスト掲載種です。国内での売買は禁止されていますが、このランは東南アジアに広く分布しており、海外ではCITES AppendexIIに分類され、下写真の株はマレーシアからCITES認可を得て合法的に入手したものです。環境省によると、輸出国でのCITES認可を得ての入手は可能であるが、輸入株であっても国内での売買はできないとのことです。また写真のDen. loddigesiiはサンシャインラン展での四川省ラン園の出品株です。花色はダークピンクとされていましたが、入手した全株が写真のような一般色でした。デンドロビウム属にしばしば見られる青や赤の色素が環境(温度や輝度)による影響を受けているのかも知れません。Paph. rothschildianumは40株程を現在栽培しています。それ以外に8年ほど前、ペタルスパンが30㎝を超える株同士を、当サイトで交配した多数のシブリング株が大きくなり、これらも年内には植替える予定です。
Phalaenopsis giganteaの植替え
巨大な葉で知られる胡蝶蘭Phal. giganteaの植替えを行っています。本種の葉長は自然界では70㎝を超えるとされますが、温室等の栽培環境では精々50㎝前後となります。その主な原因として温室栽培においては、株を取りつける支持材のサイズに限界があり、根を張るに十分な面積が得られないからです。この結果、伸長する根はやがて支持材から離れ空中に垂れ下がるようになり、高湿度であればこうした根も暫くは生きて伸長を続けますが、それでもやがて根冠から枯れていきます。この結果、葉長は短く、株サイズも精々4-5枚葉までとなり、古い葉の落葉と新芽の発生がほぼ同じ割合で繰り返されます。
今回の植替えはそうした背景から、根の活着面積や体積を大きくした場合、どこまで葉が伸長するのかを調べるため、これまで5年間、30x20㎝サイズのヘゴ板に取付けていた本種を、1m長のトリカルネット筒を製作し、これに移植することにしました。炭化コルクも取付材として90㎝程度までは利用でき、これまで60㎝長を支持材として試みてきました。しかし、板面積が大きくなればなるほど、板全体で一様な保湿力を保つことが困難で、葉サイズは期待したほどには大きくなりませんでした。一方、トリカルネット筒は植え付け材としてはミズゴケが主体であることから、その使用量(筒の厚み)により保水力が調整できる点と、筒内部への根張り空間も大きくなります。とは云っても1mにもなる長い筒にミズゴケを一様な厚みで巻き付ける作業は、昨年当サイトで取り上げた防鳥ネットを利用する手段で何とか対処できるものの、筒上で多数の根をもつ大きな株の取付けともなると大変で、筒を作る資材の切り出し、株のヘゴ板からの取り外し、そして葉や根が折れないように気をつけながらの植付けまで、半日がかりの作業となります。1株でこれだけの作業時間を費やしていてはビジネスにはなりません。あくまで栽培下での葉長の可能性を調べるための実験です。
下写真上段中央は5年間植替えることなく、30 x 20cmのヘゴ板で栽培してきた葉サイズ30㎝強のPhal. giganteaで、古い葉2枚に新しい葉3枚からなります。右はこの株をヘゴ板から剥がし、洗浄後に枯れた根を剪定し、さらにバリダシンとタチガレエース混合液を散布した後の状態です。下段左はヘゴ板の残骸です。当サイトでは古い支持材からの株の取外しは属種や株サイズに関わらず、写真のキッチン鋏のみを使用し、カッターなどは使用しません。この鋏をウイルス感染防止のため現在10本程用意し、株毎に交換利用しています。下段中央は1mサイズのトリカルネット筒で、防鳥網にミズゴケを1㎝厚ほどに敷き、ヤシ繊維マットで筒状にしたトリカルネットを包み、1mm径の盆栽アルミ線で留めたものです。写真後ろにある段ボールは炭化コルク60 x 90cm x 3cm10枚入りの箱で、筒の大きさが分かります。
株の取付には、まず写真上段右の株の段階で、根元の空間に隙間がないように、また根を筒に置いたとき根が互いに重なり合って接触しないようにミズゴケを根の間に差し込んでから筒に乗せ、さらに根周りをミズゴケで覆って1mmのアルミ線で留めます。右写真はこうした取り付け作業を行って仕上げた株の取付終了後の画像です。
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Phal. gigantea Sabah Borneo |
30 x 20cmヘゴ板での5年間の栽培 |
左株の取外し |
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株取り外し後のヘゴ板と使用した鋏 |
トリカルネット筒1mサイズ |
上段株の移植完了後の風景 |
画像からトリカルネット筒の太さが、株取付け前(写真中央)と取付け後(右)で大きく異なって見えますが、前記したように根と根の間には重なりや交差を極力少なくするためにミズゴケを間に挟み、また株を筒に置き、筒全体に根を広げた後にそれらの根をミズゴケで覆うことで、特に根元の厚みが増し、さらに筒全体も一回り太くなります。支持材が1mともなると相当量のミズゴケを使用することになり、かん水後はかなりの重量となります。筒内部の空間には、今回Lサイズのクリプトモスを詰めました。僅か1株のために、これだけの作業となることには閉口しますが、2-3年後の葉長が楽しみです。
Bulbophyllum magnumの開花
Bulb. magnumは2013年、W. Suarez氏らにより発見され、Malesian Orchid Journal Vol11に発表された新種のバルボフィラムです。当サイトでは発表翌年の10月に現地で20株程を入手、2015年6月に初花を得て、同年の歳月記に画像を掲載しました。現在ネット画像検索で見られるcyberwild.orchidの花画像は、その時のものです。その後、本種を購入された幾人かの方から開花の報告を頂きましたが、当サイトにおいては、株は活発に成長するものの開花が全く得られず、6年を経た今月に入りようやく複数株で開花に至りました。その間に植替えは株当たり2回行っており、その際の株分けで現在は40株を超える程になり、リゾームの長い本種の性質から炭化コルクへの植付けでサイズは35㎝から60㎝と株により様々です。
入手時に本種は低地生息と聞き、輝度の低い高温室で、当初はポット植え栽培でした。一方、orchidspeces.comなどの情報では、本種の生息域は1,200mでクールタイプの低輝度となっています。このため1年半程前から未開花の原因を調べるため、中温室や高温室、さらに輝度も異なる場所でそれぞれ栽培を始めました。その結果、中温室では株に成長が見られず、今回複数株で開花を得たのは、高温室の比較的輝度の高い環境でした。標高1,200mまた低輝度とされる生息域が実地検証に基づく情報であるとすれば、たまたま当サイトの株はオープンフォレストの比較的高輝度の低地生息種であったのかも知れません。この結果から未開花の原因の一つは輝度との結論に至り、今後は全ての株を開花した株と同じ環境に移動し様態を調べる予定です。
下写真は昨日と本日(8日)の撮影です。花(セパル片)サイズは10㎝近く、全輪同時開花となるため迫力があります。下段右写真は全てが葉付き4バルブ以上からなる株で、現在栽培している42株の内の20株を並べたものです。本種のマーケット情報は殆ど無く、海外では2-3例が見られるものの、いずれも現時点で在庫なしとされ、国内では当サイト以外、オークションで1件見られる程度です。コロナ明けには、販売を再開する予定です。ちなみに最近の植替え情報は昨年3月の歳月記にあり、この時の取付株の画像と下写真右の株とを比較すると、僅か1年程で伸びしろ分が既に無くなっている程の勢いです。
現在開花中の良く目立つ花2点
現在同じ高温多湿の温室内で、砂漠のバラと云われるアフリカ原産Adenium obesumと、フィリピンルソン島標高1,200mの中温タイプVanda ustiiが同居しつつ、同時期に花を咲かせています。目立つだけにおかしな風景です。Adenium obesumは6月から9月までは浜松の朝日の当たる屋外の軒下で、その期間以外はVanda属と高温室にて同居しています。半年以上、夜間湿度85%以上の環境で栽培するのは気が咎め、かん水は控え目にしていますが、5株全てが元気で温室居住期間内も伸長を続け、3年間で株サイズは70㎝を超えました。一方、Vanda ustiiは生息標高域からは中温室での栽培とすべきところ、Vanda luzonicaやsanderianaと同じ高温多湿の温室に通年の同居です。Vanda ustiiは1-1.5mサイズが4株あります。いずれにしても、両種の適切な居場所がない(Adenium obesumは通年で温暖な場所が必要、Vanda ustiiは2m近い大株になるため、すでに込入った中温室には置けない)理由からの止むを得ないこととは云え、このアブノーマルな栽培環境は参考にはなりません。ただ、それにしてもなぜ両種は逆境の中で良く成長するのだろうかと。
Bulbophyllum recurvilabreの植替え
現在、フィリピンレイテ島低地生息のBulb. recurvilabreが開花しています。本種のセパル・ペタルのペース色は黄系色から赤茶色まで多様ですが、カナリヤ色をベースにラテラルセパルに赤褐色の斑点をもつ下写真上段左のフォームが最も印象的です。今回、これまで炭化コルクに植付けの2株を選び、これらを新たにブロックバークに寄せ植えすることにしました。
上段中央の写真1は、2年間35㎝長の炭化コルクに植え付けされていたBulb. recurvilabreで、根を覆っていたミズゴケを強いシャワーで洗い流した後の状態です。多くの根が発生しており、これまで順調に成長していたことが分かります。根はコルク表面に活着し、その先端部の多くはコルク内部に潜っており、この状態からコルクを崩しながら根を取り剥がします。写真2および3は株をコルクから外した後に水洗いした状態およびコルク活着面(根の裏側)から見た画像です。コルク内部に入り込んだ根を極力切断しないように取り外すには、かなり神経を使う作業です。画像3は寄せ植えする他方の株で、上記と同様な手段でコルクから取り外した状態です。今回はこの2株を一つの大きなブロックバークに植え付けました。それが画像5です。
ブロックバークは50㎝長のサイズのため、かなりの重量です。2株のブロックバーク上の位置決めは、取り付け時の見た目のバランスも重要ですが、2株が僅かに離れていることが分かります。これは下の株にやがて発生する新バルブの伸びしろ分で、1年程度経過するとこの隙間は埋まり、その後上部の株の脇に沿ってバルブが増えていくと思います。植付け時に上下の株の根がオーバーラップするのを避ける目的もあります。これを当初から1株に見立てるため密着して植付けると、新バルブは伸長する先にある上部株に乗り上げることがしばしばで、やがて見た目が悪くなります。寄せ植えの場合で、植え付け当初から1株風に見立てたいのであれば、下の株の先端から2-3個後ろのバルブに上部株のバルブを接触させて取りつけるのがポイントです。
吊り下げ材から株の根を極力切断しないで取外すにはそれなりの経験が必要ですが、支持材の表面を活着しながら走る根の部分は、鋏やカッターナイフ等の先端を根の下の支持材側に差し込み、僅かに持ち上げることで容易に剥がすことが出来ます。一方で、支持材内部に侵入した根、特にその先端部は細く弱いため、これを取り出すことは大変です。慣れていない人は、潜り込んでしまった根を取り出すことは諦め、支持材表面に伸びている根を浮かせた後は、鋏等を株と支持材の間に深く差し込み、株を徐々に持ち上げて剥がします。バリバリと根が切れる音がします。むしろ炭化コルクは崩しやすいので、かなりの根が取り出せますが、ヘゴ板の場合はこのような取り剥がしが一般的です。結果、支持材内部の根は切れるものの止むを得ません。根をかなり失った株であっても、生きた根が多少なりと残っていれば、植え付け後に枯れることは稀です。古い葉は1-2枚落ちますが、新しい支持材での順化期間が若干変わる程度の違いです。但し、いずれの場合であっても、繰り返しになりますが、こうして傷ついた根からの病害を防ぐため、根周りに病害防除薬の散布は重要です。単に根を覆っていたミズゴケを交換する(上写真1の状態に、新しいミズゴケで根を覆うような)場合も、作業の過程で根の表面は傷ついていると考えた方が無難です。
また植替え時には、葉の表裏のコケや汚れをクリーニングしますが、この際、布や一般の台所用ウレタン・スポンジの使用は厳禁です。目に見えない傷が葉に付きます。当サイトではメラミン・スポンジ商品名’激落ちくん’を株毎に適当なサイズに千切って使用しています。これで問題が生じたことが無く、5年ほど前からは、マレーシアやフィリピンに出かけるときも、この’激落ちくん’を毎回2パック程持参し、現地ラン園からの出荷時には、当サイトの株の洗浄用として義務付けています。以前マレーシアからの株が帰国後1か月程で落葉し枯れ始めたことがあり、原因が現地での出荷時に行う、雑巾のような布を用いたクリーニングによる葉の傷であることが分かりました。葉に傷が付くということは、同じ素材を供用する限りウイルス感染リスクも高く、避けなけれならないことです。激落ちくんの良いところは汚れを取るだけでなく、スポンジを摘まんで容易に小片に千切ることが出来、株毎に交換できることです。洗浄するための素材(スポンジ等のクリーナー)は株毎の使い捨てが必須となります。フィリピンでは、3年ほど前からマニラ市内の日本製品コーナーのあるスーパーで’激落ちくん’が手に入るようになったそうです。
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