7月
炭化コルクとヤシ繊維マット取付材
前にも述べましたが、今年春からは新たに炭化コルクに取付ける原種には、ヤシ繊維マットをコルクの上に置きミズゴケで根を覆った植付け方法にしています。これは長時間の保水力を高めるためです。炭化コルク多用の、これまで述べていなかった他の理由としては、素焼き鉢やプラスチック鉢は使用後に廃棄する際、燃えるゴミではないこと、また植込み材の中に鉢底の軽石や、地生ランによく使用される石類が混ざると、一般ごみではなく産業用廃材となり、これらの廃棄にはかなりのコストがかかることです。当サイトでは数千株を栽培しており、毎年多くの廃材が出ます。使用後の廃材は産業廃棄物専門業者に委託し、裏庭に2トンの廃材boxを常備、3ヶ月毎に回収してもらっています。土石類は無論のこと素焼き鉢のような陶器が混ざると、2トン箱での回収費は5万円程かかります。すべて燃えるゴミであれば、盆栽用アルミ線などの細い金属が多少混ざっていてもその2/3の費用となります。現在、使用後のプラスチック鉢はウイルス等の防除のため、次亜塩素酸溶液で殺菌し再利用を行っており、またコルクやミズゴケ主体の廃材であれば費用だけでなく環境問題からも好ましいと思われます。こうした背景から現在はプラスチック鉢ではクリプトモスミックスやバーク材とし、鉢底には炭化ルクの端材を適当なサイズに潰して使用しています。こうすれば余り気を遣うことなく植替え後の植込み材をそのまま廃棄できます。
下写真に、炭化コルクとヤシ繊維マットのバルボフィラムの取付例を示しました。ヤシ繊維マットはこの名前でネット検索をすると多くの商品が見られます。写真左(1)は35㎝ x 11cmの炭化コルクと、同サイズにロールマットから切り出したヤシ繊維マットです。(2)はマットをコルクに乗せ、その上にミズゴケを敷き、前項で取り上げたBulb. scaphioglossumを置いた状態、(3)はその根周辺を拡大した画像で、(4)はその後に根周りをミズゴケで覆い、更に1mm径の盆栽用アルミ線で固定した取付終了の状態です。この取付けであれば、植付け作業時間はヤシ繊維マットの切り出し時間が加算されるだけで、1株当たりの、トリカルネット筒と比較し1/5、材料の切り出しや準備を考慮すると1/10以下となります。下段はこれまでに同様な手段でバルボフィラムを植付けた炭化コルク長の異なる4種の画像です。種名横の数字は炭化コルクの縦サイズです。
植付けた後は写真(4)のようにコルクを横にした状態で水をたっぷりかけ半日から1日そのまま寝かせ、その後に吊るします。これはコルク全体に水分を一様に浸透させるためです。こうした前処理が無く、植替え後にそのまま吊り下げてから、かん水をした場合と比較すると1日後でも重量が全く異なることが分かります。
水分を吸ったコルクはかなり重くなります。これまでのところ、こうして植付けた株は全て順調に成長しています。バルボフィラム以外の胡蝶蘭、セロジネ、一部のデンドロビウム等も、今後新しく炭化コルクに植替える場合は全て下写真と同じ植付け方にする予定です。
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(1) 炭化コルクとヤシ繊維マット |
(2) Bulb. scaphioglossum取付け前 |
(3) 根周り拡大 |
(4) 1mmアルミ線で固定 |
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Bulb. scaphioglossum 35cm |
Bulb. maxillare long_sepal 55cm |
Bulb. facetum 40㎝ |
Bulb. sp aff. stormii_red 30㎝ |
Bulbophyllum scaphioglossum
2014年登録の新種、ニューギニア(Iran jaya)生息のBulb. scaphioglossumが開花中です。2016年10月にマレーシア経由で入手し、同年11月の歳月記に本種を紹介しました。その後2019年10月の歳月記にも取り上げましたが、ネット上ではいまでも本種の栽培情報は新種故か、余り見かけません。当サイトではやや高温寄りの中温室にて栽培しており、全ての株で入荷時から倍以上のバルブ数に成長しています。この結果、生息域は500m - 1,200mと推定しています。先週、それまでの杉皮板や炭化コルクから、35 x 11㎝炭化コルクにヤシ繊維マットを敷いた取付で15株程を植替えしました。花サイズは自然体で縦・横4.5㎝程あることから下写真のように多輪花になると、かなり見応えがあります。中央と右写真は本日30日の撮影です。
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Bulb. scaphioglossum NewGuinea (Irian Jaya) |
Bulbophyllum ocellatum, Bulbphyllum pardalotum 及びBulbophyllum sp aff. ocellatum
Bulb. ocellatum.及び pardalotumはいずれもフィリピンルソン島生息種で、前者の生息標高域は500 - 800m、後者は1,200mとされています。下写真左と中央がそれぞれの花です。両者の花フォームには2つの大きな相違点が見られます。一つはペタルの形と色で、Bulb. ocellatumは先端が丸く、色は全面茶褐色に対し、Bulb. pardalotumは先端が尖っており、破線状斑点であること。2つ目はリップ中央弁が前者は3角形、後者は長方形で反っており、大きく異なることで別種と分かります。ところが、2017年に右写真に示す株が種名Bulb. pardalotumとして入荷し、同年7月の歳月記にBulb. pardalotumのフォーム変異種として取り上げました。その後、このフォームは栽培環境に影響され変化するような特性は見られず、フォームは常に安定しているため未登録の変種と見做し、Bulb. pardalotum yellowとしてこれまで紹介してきました。ちなみにサンシャインや東京ドームラン展にはBulb. pardalotum yellowとして毎回出品したもののBulb. pardalotumがバルブ数に応じて2,000円からとしたのに対して、10,000円としたためか購入者はいませんでした。
今回の改版ページ制作のなかで右写真の株の分類上の位置付けをどうするかの問題があり、この機にと詳しく調べたところ、リップ中央弁の細長い形状と開花期はBulb. ocellatumと類似する一方、Bulb pardalotumとはリップ中央弁形状の相違と共に、セパル・ペタル形状に違和感(全て先端が丸味)があり、更にそれぞれのリップ側弁を調べたところ、写真下段に示すように側弁(中央弁の基部左右側面で上方に突き出した部分)のエッジにBulb. ocellatumと右写真のspは細毛(あるいは棘)突起があるのに対し、Bulb. pardalotumの側弁はノコギリ状です。これらの特徴からBulb. spはBulb. pardalotumよりはむしろ左のBulb. ocellatumに近い種であることが分かります。しかし、花のカラーフォームは明らかに異なること、またBulb. spは2017年に真正Bulb. pardalotumに偶然混ざって入荷した株ではなく、入荷ロット内10株程の全株が右写真と同じフォームであったことから未登録の別種(新種)ではないかと思えてきました。取り敢えずこの種についてはBulb. pardalotum yellowを改め、Bulb. sp aff. ocellatum(Bulb. ocellatumの近縁種)として、改版ページには記載することにしました。現在全ての株が成長し大きくなっているため、コロナ明けには株分けして多少は安くし販売する予定です。
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Bulb. ocellatum |
Bulb. pardalotum |
Bulb. sp |
現在開花中の9種
猛暑の中にもかかわらず、多くの種が開花しています。その中から9種を28,29日に撮影しました。上段のDen. aurantiflamemeumは1年で3回開花期があります。この中で赤味が最も強く出るのは秋で、本種の花色は開花期によって僅かに変化します。前にも指摘しましたが、orchidspecies.comでの花サイズ1.5㎝の記載は誤りと思います。これまでの5年間で60株ほど取り扱う中で、それ程小さな花は見たことがありません。また標高が900-1,400mとなっていますが、これは当サイトでは中温タイプとなります。しかし、入荷株は、全て高温で最も成長が良く800m以下の低地生息種と判断しています。中央のDen. cinnabarinum v. angustitepalumは3月から11月まで同一株で2ヶ月間隔で開花しています。Den. cinnabarinumは前者とは異なり中温タイプです。すなわち昼間は30℃を超えても問題は無いのですが、夜間は20℃以下の栽培温度となります。写真中段のDen. officinale(鉄皮石斛)は健胃薬として中国では良く知られた漢方薬の原料とされるデンドロビウムです。園芸植物として現在市場にある本種は、漢方薬用として改良された株と云われることから野生種を求めていたところ、2019年5月にマレーシア経由で30株程が入手できました。それまでの株の疑似バルブは1m前後であったのに対して新たな入手株は、1株が10-15㎝長の短い疑似バルブ20本前後から成り、野生株と改良株との様態の違いに驚きました。
下段のPhal. mariaeはセパル・ペタルのベース色がレモンイエロー色です。フィリピンラン園などで数百株のPhal. mariaeを見てきましたが、こうした色合いを持つ株はこれまで1株のみです。本種は入荷株に偶然含まれていたのではなく、現地ラン園の開花株の中から見つけたものです。Bulb. lasioglossumは現在30株程を栽培中です。またBulb. spは昨年末に開花条件が判明して以来、頻繁に開花が続いています。
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Den. aurantiflamemeum Borneo |
Den. cinnabarinum_angustitepalum Borneo |
leporinum NG |
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Den. klabatense white Sulawesi |
Den. anthrene Borneo |
Den. officinale Kimura&Migo China (Yunnnan) |
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Phal. mariae yellow-base Mindanao |
Bulb. lasioglossum Luzon (Nueva Ecija) |
Bulb. sp NG |
現在開花中の6種
このところ高温室内では、遮光率70%寒冷紗下においても朝9時過ぎには室温が35℃を超え、夕方まで37-38℃が続いています。このため夜間を除き換気扇が回り続け、連日1日1回のかん水と葉水をそれぞれしなければ、炭化コルクのような吊り下げ型には根周りが乾燥してしまいます。一方、当サイトではこの時期、日が落ちる頃に寒冷紗を開け翌日朝9時半頃に閉じる、早朝の3-4時間だけ高輝度とする管理を行っています。この猛暑の中、今年も昨年と同様な気候となれば、ランを失う方も少なくないと思います。特に生息域が標高1,000m周辺の中温タイプは、熱帯夜が長く続く環境下では、エアコンが無くては作落ちが避けられません。ランの中で早朝にのみ花が開き、午後には閉じてしまう種がいます。こうした特性は主に800m - 1,500m程の雲霧林帯に住む種に多く見られることから、生息標高域が不明な種を栽培する趣味家にとって、中温タイプか否かの目安にもなります。またネットの販売サイトで”このランは寒さに強く10℃まで大丈夫”とのコメントを見かけます。寒さに強いことは暑さに弱く、その逆も然りで、東南アジアの熱帯地域には、暑さ寒さ両方に強い種はほとんど生息していません。これからの時期、気温と根周りの乾燥には注意が必要です。
下写真で上段中央の一見Vanda furvaのようなVandaは2015年登録のVanda mindanaoensisです。リップ様態がVanda furvaとは異なります。右写真のDen. jyrdiiはPalawan生息種であるものの、リップ側弁の幅がスリムでOrchideenJournal Vol.6・05, 2018に掲載のDen. jyrdiiとは異なるように見えます。しかし疑似バルブの長さと太さはDen. uniflorumと大きく異なります。一方でルソン島からのDen. uniflorum albaには株形状は異なるものの、花サイズや形状が右の画像に類似する株が見られます。この結果、Palawan生息種に写真のような花形状が現れるとDen. uniflorum albaとDen. jyrdiiとを花形状のみで比較することは困難となり疑似バルブ形状(Den. jyrdii90㎝以上、Den. uniflorum40㎝程)を含めての同定を行う必要があります。
Vanda mindanaoensis
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Phal. lindenii Luzon |
Vanda mindanaoensis Mindanao |
Den. jyrdii ? Palawan |
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Den. dianae yellow Borneo |
Den. discolor PNG |
Bulb. cootesii Dinagat Philippines |
ラン生息国におけるコロナ感染状況と今後のスケジュール
ワクチン接種を済ませました。2回目の接種が終えた19日の午後には、これまでナメクジによる被害が頻繁であったため、1/(150-200)濃度のマイキラーを15Lのタンクに入れ、これを抱えながら1棟当たり2回づつ4棟全温室に散布し、マイキラー500ml一瓶を半日で使い切りました。また翌日20日には温室一部のレイアウト変更でホームラックの解体や組み立てなど、かなり重労働を温室内37℃の中で1日中行いましたが、接種した腕を振り回しても、重いものを持っても痛みはなく、体調に変化は1回目同様、全くありません。ここ5年の間に3回の手術と、血流を良くする薬もしばしば服用しているにも拘らず、言われるような副反応が本当にあるのかと疑問に思うほどです。2週間後にはワクチンパスポートが海外渡航者向けに国内でも発行されることになるようで、これらの対象国にラン生息国が含まれれば申請する予定です。
当サイトで扱うランは主にマレーシア、フィリピン、インドネシア、タイ、ニューギニア等の東南アジア生息種が主で、マレーシアおよびフィリピンは直接、その他の国とは出荷管理の優れたマレーシア経由で入手しています。当サイトがこれまで栽培・販売した2000年以降に発見された新種の多くは、ボルネオ島、スマトラ島、スラウェシ島、ニューギニアの生息種です。しかし周知のように現在インドネシアでは1日当たりの新規感染者数が5万人程に拡大し、医療崩壊も起こり、邦人200人がインドネシアから退避する事態に、またマレーシアも5月以降ボルネオ島を含め急激な感染拡大で1日の新規感染者数が1万人を超え、多くの州でロックダウンが続いています。こうした状況下にある国とのランの取引は1年半以上、停止状態が続いたままで今後の見通しも立ちません。
一方、フィリピンでは感染率が減少傾向にあるもののワクチン接種率は現在で5%程です。ファイザーには接種希望者が殺到したそうですが、これまで同国で主流の中国製シノバックは打ちたくない人が多いそうです。そこでミンダナオ島ダバオ市長時代に、フィリピン版ダーティーハリーと異名をとったドゥテルテ大統領がテレビで国民に向かって、ワクチン接種を拒む者は投獄し、ブタ用のイベルメクチンを尻に注射する、と云ったそうです。つい半世紀も前に日本で、風呂上りに薄着ではしゃぎ風邪をひきそうな子供に親が、言うことを聞かないとお尻に注射するぞ、と叱っていた(当時重い風邪を引くと、お尻に結構後が痛いペニシリンを注射した)ことを思い出し、大統領にとっては国民は子供と同じかと、つい笑ってしまいました。しかし今後デルタ株の拡散によって、現状ワクチン接種率の低いフィリピンもどうなるか予断は許さないと思います。
日本国内では、9月末ごろまでにはほぼ全ての希望者分のワクチンが確保できるとのことで、感染リスクの面からは来年のサンシャインや東京ドームラン展の開催は問題ないと思われます。しかしこうしたラン展への出店の申し込みは、展示開催日の2-3ヶ月以上前に行われるため、出店者にとっては申込日以前に前記した、それぞれの主なラン生息国からの新規入荷ができる目途が立っていることが重要で、展示会に来られる趣味家に対し興味あるランを提供できるか否かに関わります。これが出来ないとなると、代わり映えのしない品種やコロナ発生からこの1年半の間に売れ残った品種が販売ブースに並ぶことになり目新しさを期待することができません。また海外ラン園の出店の可否もそれぞれの国のコロナ感染状況に左右されます。同時にランと云った生体を扱う以上、海外出店者の入国時の隔離は数日間であっても出来ず、日本も国際ワクチンパスポートの受け入れがその頃までには必要となります。
こうした状況にあって、渡航してFace to Faceの購入は、年内は無理としても、EMSによる国際便が可能となることが当サイトにとってもラン展出店の必要条件となり、おそらくその期限は1月のサンシャインシティ・ラン展では今年11月頃、また5月の同ラン展では来年3月頃までとなり、東京ドームラン展を含め、出店ブースや出品を充実させられるかどうか、ラン展出店申し込み期限とEMSデリバリーが可能な日とのせめぎ合いになると思われます。
当サイトにとって、マレーシアあるいはフィリピン一国でも取引再開が可能になればと海外動向を注視しています。
Bulbophyllum recurvilabre 植え替え後の様態
4月末に植替えたBulb. recurvilabreのその後を報告します。本種の植付けは歳月記5月の最初に取り上げましたが、それまでの炭化コルク付けであった2株を50㎝長のブロックバーグ(松系樹皮の木片)に寄せ植えしたものです。それから3ヶ月弱が経過し現在までに5つの新芽が発生し、長い芽は10㎝を超え始めています。下写真上段は中央が植替え直後(4月27日)の状態で、右は本日(21日)の撮影です。右画像の矢印1-5は植付け後に新たに発生した新芽です。下段はそれぞれの新芽周辺を拡大した写真です。
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Bulb. recurvilabre |
4月27日撮影 |
7月21日撮影 |
植替えから僅か3ヶ月弱で、5つの新芽が現れたことは本種とブロックバークとの相性が良いことと、根を極力傷つけることなくそれまでの取付材から剥がし植替えたことが大きな要因と考えられます。Bulb. recurvilabreは一つの花茎に通常3-4輪が同時開花することから、2年後には全体で20輪程の同時開花が見られるものと期待しています。これまでポット植えや炭化コルクに比べブロックバーグでより良い成長が見られた本種以外の種はDen. rindjanienseです。ブロックバークは一見、生コルクのように保水性が低いと思われがちですが表面の凹凸が粗く溝も多いため、それなりの保水力があります。表面に薄くミズゴケを敷き、その上に根を乗せ、やや厚くミズゴケで根を押さえることで適度な湿りが保たれるようです。木片素材そのもののため見た目にも原種に似合う取付材ですが、現在は海外(ニュージーランド)からの入荷が止っているようです。そこで国内産の杉の樹皮であるクリプトモスや杉皮板ではなく、杉やヒノキ丸太を角材に製材する際に出る廃材(樹皮の付いた木片)が入手・利用できないか、浜松は天竜を控え製材所が多いことから検討を始めたところです。
Dendrochilum coccineum
昨日、直近開花の42種を紹介し、その写真の中に2004年に発表されたフィリピン・ミンダナオ島生息種であるDendrochilim. coccineumを掲載しました。当サイトがこの種名を用いるのは初めてで、国内外のマーケット状況を調べようと本日(17日)Google検索したところ、ネットにポスティングして24時間も経たないにも拘わらず当サイトのページもヒットしました。ネットには花画像が多数見られるものの、売買情報はOrchidSpeciesPlusで$120がある程度です。ところが他のデンドロキラムは30ドル程に対し、本種は4倍の価格とは驚きました。当サイトでは2018年に入手、2019年のサンシャインおよび東京ドームラン展にDendrochilum sp Surigao redとして3,000円で販売しましたが、買われた方がおられたか記憶がありません。温室では2-3株を販売しています。
これまでフィリピンのラン園と取引する際には、ミンダナオ島およびパラワン諸島の生息種でこれまで取り扱いの無いランであれば、サプライヤーの売りたい株数に応じてでも入手するようにと伝えており、前項のCoel. palawanensisでも述べたように、時として50株を超える株数を持ち帰ざるを得ないこともしばしばです。本種については30株程ありました。いつものことですが今回本種の海外マーケットの価格を知り、早々に植替えを行う予定です。今年4月からは、炭化コルク付けには全て、気相率をそのままに保水性を高めるため、コルク板の上にヤシ繊維マットを敷き、ミズゴケで覆う植付けになっています。下写真左は新しい植付け前の画像です。
直近10日間の開花種
先週から本日(16日)までに開花した42種を選択しました。種名太文字は2010年以降登録の新種です。
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Bulb. contortisepalum_white PNG |
Bulb. pustulatum Borneo |
Bulb. pustulatum white Borneo |
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Bulb. scotinochiton Sumatra |
Bulb. corolliferum Thailand |
Bulb. apodum Cameron Highlands |
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Bulb. novaciae Sulawesi |
Bulb. geniculiferum NG |
Bulb. cootesii Dinagat Id Philippines |
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Bulb. fenixii Luzon |
Bulb. translucidum Leyte |
Bulb. maquilingense Luzon |
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Den. hekouense Vietnam |
Den. igneoniveum Sumatra |
Den. leporinum semi-alba NG |
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Den. amboinense Ambon Is. |
Den. dianae bicolor Kalimantan Borneo |
Den. ovipostriferum Borneo |
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Den. bicolense Luzon |
Den. intricatum Thailand |
Den. lawesii white NG |
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Den. boosii Mindanao |
Den. sanguinolentum spot Borneo |
Den. daimandauii Borneo |
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Den. fimbrilabium Sumatra |
Den. endertii Borneo |
Den. papilio Luzon |
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Den. tentaculatum NG |
Thrixspermum sp aff. centipeda Luzon |
Acacallis cyanea Brazil |
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Phal. mariae Mindanao |
Phal. mariae base-white Mindanao |
Phal. deliciosa subsp. hookeriana Vietnam |
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Phal. bellina wild Borneo |
Phal. sandriana Leyte |
Phal. lamelligera Borneo |
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Phal. maculata Borneo |
Coel. longifolia Sumatra |
Vanda ustii Luzon |
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Dendrochilum coccineum Mindanao |
Dracula polyphemus Ecuador |
Dracula cordobae Ecuador |
Coelogyne palawanensis II
前回取り上げたCoel. palawanensisですが、2017年末の植付けから3年以上経過したこともあり、今回の開花を機に全株の植替えを行いました。これまで本種は当初の2年間は低 - 中温室でしたが開花がないことから一部を高温室に移し、2つの環境でこの1年間栽培を続けてきたことを報告しました。下写真中央は今回の植替えに伴いこれまでの植付け材から取り出した株で、左が中温、右が高温室における栽培株の様態です。植込み材は両株共にクリプトモスミックスで、画像からは根の成長がかなり異なっていることが分かります。低温タイプを高温で栽培した場合、多くの属種では葉先枯れが初期症状として現れます。一方、高温タイプを低温環境で栽培をした場合は、まず変化は根に現れ、根張り力が弱ると伴に数も減少します。この結果、株症状としては暫くは現状維持が続くものの、やがて衰弱していきます。しかし根は、植込み材の中にあるため目視が出来ません。このため株に成長(伸長や新芽の発生)が半年以上見られない場合は一度、植付け材から株を取り出し根を点検することも必要となります。本種について今回は、下写真中央に見られるように低温栽培は不適切と判断し、また植え替え時期とも重なったため全株をこれまでと同じスリット入りプラスチックポットにクリプトモスミックスで植替えると共に、高温室に移動しました。右が植え替え後の本種で64株(ポット数)ありました。
一般の趣味家は同一種を複数株栽培することは少ないと思いますが、現地の2次あるいは3次業者との直接の取引においては、1種当たり2-3株の、少量多品種売買は余程高価な種でもなければ困難です。少なくとも10株、通常で20株/種が条件となります。これまでの20年間で在庫を覚悟し止む無く購入せざるを得なかった株数の最も多い種はDen. papiiioの150株やboosiiの100株でした。一方で、品種毎に多数の株があれば、温度、輝度、植付け方法などが異なる環境でそれぞれを栽培し、適切な栽培条件を調べることができます。趣味家にとっても特に未経験な種を入手し栽培を始めるにあたっては、こうした実績に基づいた画像を含む情報は有用であると思います。しかし、現状においてはそうした情報を得ることは極めて困難です。当サイトでは近々これまで扱ったほぼ全ての種について、栽培の成功・失敗あるいは未解決な問題を含めた情報の開示を計画しているところです。
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Bulbophyllum clandestinum
キャメロンハイランドで入手した、この聞きなれないOxysepala節のバルボフィラムが開花しています。発表は古く1841年とされています。タイ、ミャンマー、ベトナム、マレーシア、ボルネオ、NG、フィリピンと極めて広範囲に分布しており、生息標高域は1,000m前後で中温タイプです。この節の種を栽培している趣味家はかなりマニアックな人と思いますが、バルボフィラム属の中では異質です。例えば本種は、デンドロビウムのように茎状疑似バルブに適度な間隔で葉を付けているのではなく、葉の付いたバルブが並んでいるのです。ではこの
茎モドキに並ぶバルブ元や節から根が出ている、あるいは茎が取付面に活着している
のであれば、それは茎(疑似バルブ)ではなくリゾームと納得できるのですが、まさにこのリゾームは空中に伸びており根はありません。と、説明しても分かり難いので下に写真で示します。左がその様態で真直ぐに伸びた太い茎モドキのリゾームは取付面から離れ、バルブ基には根がありません。
一方、orchidspecies.comで本種を見るとAnother color form ?にBulb. sessile (1905年)が表示され、さらにシノニム(同種異名)としてBulb. ovalifolium (1883年)も見られます。下写真は、Bulb. clandestinum同様にキャメロンハイランドで入手し、当サイトにおいてBulb. sessileは2016年5月に、またBulb. ovalifoliumは同年12月に開花した画像で、解説する必要もないほどこれら3種の形態はそれぞれ異なります。前項で述べたように、現在新しいバルボフィラムなどのページを最終確認しているのですがその中でシノニムも調べ、種名統一を図っているのですが、こうした問題が生じるたびに立ち止まることになり、なかなか一筋縄ではいきません。これら3フォームはそれぞれ別種として新ページでは取り扱います。
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Bulb. sessile |
Bulb. ovalifolium |
Vanda dearei
ボルネオ島低地生息のVanda deareiが開花しています。昨年は黄色味が強い花でしたが、今回は別株で白いフォームです。Vandaの色合いは栽培輝度に強く影響されるようです。当サイトが最初にマレーシアにて本種を入手したのは2013年頃です。その後、現地の話では野生株の入荷は極めて困難となり、現在マーケットにある本種のほとんどは実生とのことです。野生株か実生かは、Vandaに共通することですが、かなり株姿が異なります。実生で人工栽培された株は障害物に触れることなく、等間隔に配置、かん水、輝度、通風、施肥など日々の管理下で栽培されることから、茎は垂直に伸び、葉はほぼ同じサイズ、均一な密度で左右対称的に並んでいます。一方野生株は、着生する周囲の環境により直線的に伸びた茎をもつ株はほとんどなく、また成長過程での気候に影響されるのか、葉の長さや反りはそれぞれが僅かながら異なります。このため野生種にこだわり且つ、なるべく真直ぐに伸びた栽培し易い株を選びたいとすれば、これまで現地ラン園での経験からは、5株に1株あるかどうかです。過去10年間で20回を超えるマレーシア訪問で毎回注視しているのですが、姿勢の良いVanda deareiに出会えることは稀で、かと言って実生には関心がなく、これまでに持ち帰りできたのは合わせて6株程しかありません。下写真は8日撮影のVanda deareiで、右は7年近く浜松にて栽培をしている野生株の一つで、現在5茎から成る背丈70㎝超えのクラスタに成長しています。
Coelogyne palawanensisの初開花
2017年11月に入手したフィリピン・パラワン諸島生息のセロジネが7日に開花しました。入荷から3年間、開花が見られなかった原因は、本種を高山生息種と見做して低 - 中温室にて栽培を2年間続けていたためと思われます。この栽培環境としたのは、本種の細長い線形葉やorchidspecies.comの生息標高情報(1,000m)からの判断でした。ところが2年間、株が衰弱することはないものの開花することもなく、昨年10株程を輝度の比較的高い、高温室に移動し様子を見ていたところ、株は枯れることなく新芽が全株に見られたため、そのまま栽培を続けました。今月に入り2株に花茎が株の根元から発生していることが分かり、これまでの未開花の原因が温度と輝度によるものと判断しました。
下写真がCoel. palawanensisの画像で全て7日の撮影です。orchidspecies.comでは本種の花サイズが1インチ(2.5㎝)との記載ですが、開花した花は下段中央に見られるように横5.5㎝ x 縦6㎝の大きな花で余りにも情報と異なります。Cootess氏著Philippine Native Orchid Species 2011にも本種の記載がなく、ネットには僅かな出典元の画像があるもののマーケット情報は海外を含め、当サイト以外見当たりません。登録は100年以上も前の1915年で、花が大きく良く目立つセロジネであるにも拘らず、こうした状況を考えると、これまで殆ど取扱いの無い幻のラン?では、と思ってしまいます。
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Coel. palawanensis Philippines (Palawan) |
下記の本種名リンク先に改版予定の本種ページを記載しました。また本種をaff. hirtella(hirtella近縁種)としての画像がネットにありましたので、Coel. hirtellaとの相違を下記のリンクページに加えました。
Coel. palawanensis
本種について当サイトでは、前項のDen. deleonii同様に2019年のサンシャインおよび東京ドームラン展にて4,000円からとして数株を販売しました。2017年11月の歳月記に本種入荷株の植付けを取り上げて以来、現在50株ほどを栽培しています。マーケット情報がないことや、2017年以降現地で見かけていないことから今後ともパラワンからの入荷が可能な状況にあるのかコロナ明けには現地に確認し、問題がなければ販売を再開する予定です。ところで、これまで当サイトでは本種をCoel. palawanenseとpalawanensisの2つの名称で歳月記に表記していましたが、palawanenseは現地ラン園で呼ばれていた名によるもので、公式には後者のpalawanensisが正しいことから今後はこの名前に統一します。
Dendrobium deleoniiの最花期
フィリピン・ミンダナオ島Bukidnon、標高1,300mの雲霧林に生息のデンドロビウムで2018年登録の新種Den. deletoniiが開花期をむかえています。下写真は6日撮影のDen. deleoniiです。当サイトでは現在、本種を45株程栽培しており、その内、トリカルネット筒への植付けは8株で筒の長さは50㎝です。写真はその中の2株です。下段は上段のそれぞれの花で左は1株が15輪、右が8輪の同時開花となっています。
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Den. deleonii Bukidnon Mindanao |
本種は2018年の入荷以来、バークミックス・プラスチック鉢、炭化コルク、また昨年にはトリカルネット筒と、3種類の植付けをしています。いずれの植付においても毎年開花して状態は良く、栽培は容易なデンドロビウムと云えます。そうした栽培の中でもトリカルネット筒株が
疑似バルブ当たりの輪花数が5-10輪と、他の植付けに比べほぼ倍であることから、本種は根が常時適度に湿っている状態を好むようです。一方でトリカルネット筒は、その材料と植付けの手間に相当なコストがかかり、販売向けには適しません。ポットとトリカルネット筒植付け株でそれぞれ価格を分けて販売することも考えられますが、供給側にとっては、植え付け作業に忙殺される時間によって他のランの世話に影響を与えかねないことのほうが、むしろ問題となります。トリカルネット筒は趣味家自前の植付け方法と思います。これまで当サイトでは2019年のサンシャイン、東京ドームラン展にて本種を4,000円で販売してきました。現在国内マーケットでは、その4倍以上の18,000円が見られます。フィリピンとのEMSが可能となれば、ポット植えでの販売となりますが、従来価格で再開します。
Bulbophyllum veldkampii
今月開花した下写真に示すバルボフィラムを種名不詳種として、ここで取り上げましたが、その後スラウェシ島生息で2011年登録の新種Bulb. veldkampiiと分かりました。開花株はBulb. orthoglossumに1株混在してスラウェシ島から2016年頃に入荷していたようです。一方、この種名が判明したことから調べたところ、本種名で2019年にマレーシア経由で7株程を入荷していたことや、2019年の歳月記にBulb. sulawesiiと共に取り上げていました。しかし、この入荷ロットはこれまで未開花であったため確認が遅れました。花姿は一見、Bulb. sulawesiiよりもBulb. trigonosepalum complex (近縁種:basisetum,、nymphopolitanum、papulosumなど)に似ており、セパル・ペタル表裏に明瞭なライン模様があること、リップ先端部には前記近縁種の一部の種がもつイボ状突起ではなく、先の尖った棘状突起(下写真中央)であること、またBulb. trigonosepalum complexは全てが好まざる匂いを放ちますが本種は無臭である点で異なります。2016年のミスラベル株はスリット入りプラスチック鉢にクリプトモスミックスに対し、2019年のロットは炭化コルクでのいずれも高温栽培です。
現在、バルボフィラムを始め、デンドロビウム、Vanda、セロジネなどの種毎の改版ページを制作中で最終確認ステージに入っていますが、開花した花や株形状からの目視による種の分類には手こずっています。これまで当サイトが取り扱った種名と画像との対応で4-5点に誤りもあり修正をしています。また属名や種名統一による変更も新たな名称に変更・統一しました。
一方、しばしば近年の登録種には、既存種の個体差や地域差、さらに生息環境による変異の範囲内ではないかと疑われるものが、特にデンドロビウム属の中には多く、例えば栽培を通し同一株でありながら数回の開花の中には、2つの種間を跨るような一過性の、あるいは変種らしきフォームが現れたり、2種間の中間体のような特徴を示す種も見られます。しかし栽培者としては視覚的、言い換えれば主観的判断で種を同定する以外なく、こうした背景から当サイトの改版ページでは、類似種間については極力、ミクロな形状情報を表示したり、類似種との比較画像を含めることを心がけることにしました。一方で、生息地での生態調査による裏付けがないまま、マーケットから得た株を元に新種として登録された種も多くなりつつある近年、花形状の視覚的判断のみから別種としての安易な登録を避ける意味で、類似種についての
種名の登録には、既存種との関係を分子系統学などによる科学的裏付けをもって明確にしたものを条件とすべきではないかと期待しているところです。