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栽培、海外ラン園視察などに関する月々の出来事を掲載します。内容は随時校正することがあるため毎回の更新を願います。  2020年度

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8月

猛暑下での開花中の15種

 浜松ではツクツクボウシが近くで鳴き始めました、しかし例年ならば夏も終りを告げるこの時期に36℃を超える猛暑が続いています。温室内では70%遮光の寒冷紗を覆っても40℃を超える気温になるため、昼夕と2回の水撒きが必要となっています。当サイトでは100mを超える地下からの水をかん水に用いており、水温は四季を問わず16℃です。この冷水でも1日2回の散布が必要では、水道水ならば3回は必要になるのではと思うほどです。そうした中でも気温をものともしない種が多数開花しており、その中から18種を撮影しました。最上段の3種は中温室、他は全て高温室です。Vanda mindanaoensisは2015年登録種ですが、それまでフィリピンではVanda scandensとして取り扱われ、本種もscandens名で入荷した株です。 撮影は全て26 - 28日です。

Phal. sanderiana Mindnao Den. bandii Sumatra島 Den. cinnabarinum v. angustitepalum
Den. dianae bicolor Borneo Den. leoporinum semi_alba NG Den. leoporinum NG
Den. strepsiceros aff NG Phal. floresensis Flores島 Den. aurantiflammeum Borneo
Coel. celebensis Celebes島 Vanda merrillii .Luzon (Aurora prov) Vanda mindanaoensis Mindanao
Bulb. translucidum Leyte島 Bulb. fascinator green Thailand Vanda dearei Borneo
Bulb. longicaudatum PNG Bulb. unitubum NG Bulb. cootesii フィリピン(Dinagat島)

現在(22日)開花中の3種とsp種の改版予定ページ

 現在開花しているDen. elineaeBulb. scotinochitonBulb. annandaleiと、これまでspとしてきたBulb. acuminatumの改版予定ページを下記の種名リンク先に掲載しました。Den. elineaeはルソン島生息の2017年登録の新種です。一方、Bulb. scotinochitonは北スマトラ島生息で2005年の登録です。いずれも新種故か栽培等に関する情報は殆どありません。当サイトでは、Den.elineaeは4年間、Bulb. scotinochitonは6年間の栽培を通して凡その成長適正環境を知ることが出来ました。またタイやマレーシアに生息のBulb. annandaleiは多様なフォームがあり下画像はマレーシア・キャメロンハイランドでの入手株です。右写真の赤いバルボフィラムは、Bulb. acuminatumとしてネット上に見られるものの、同種名には2009年登録のBulbophyllum cercanthumに似た種もあり情報が錯綜しています。当サイトではBulb. acuminatumとして扱うことにしました。下写真の左から3種は本日午前中の撮影です。

 Den. elineae 
 Bulb. scotinochiton 
 Bulb. annandalei 
 Bulb. acuminatum 

Den. elineae North Luzon Bulb. scotinochiton Sumatra Bulb. annandalei Cammron HL Bulb. acuminatum Borneo

現在(22日)開花中の多輪花6種

 多輪花タイプの現在開花中の花を撮影しました。上段左のBulb. lasioglossumは15株程が葉付バルブ数10個以上の大きな株になっています。中央のDen. boosiiは2株分です。右株は多数の疑似バルブから成りますが、これで一株です。Den. deareiは今月当ページの最初の花と同株で全開したため再度の撮影です。本種は2ヶ月以上咲き続ける長寿命開花種です。

Bulb. lasioglossum Luzon (Nueva Ecija) Den. boosii Mindanao (Bukidnon) Den. reypimentelii Mindanao (Bukidnon)
Den. dearei Borneo Den. igneoniveum Sumatra Phal. lindenii Luzon (Nueva Vizcaya)

Vanda roeblingiana alba (aurea?)の開花

 1昨年11月の歳月記にVanda roeblingianaのアルバフォームを紹介しました。自家交配を試みましたがシイナが上手く成長しませんでした。おそらく受粉後の栽培温度に問題があったのだと思います。今回は栽培場所を変えての再度の挑戦となります。本種は色合いからするとalbaよりはaureaフォームと思いますが、黄色あるいは緑色の変色体もなぜかalbaと呼ばれることがあるため、当サイトではしばしば両方の表現を用いています。おそらく世界で唯一の変種株と思います。これまでは炭化コルクに根を乗せて栽培していましたが、6月にトリカルネット筒に移植しました。今回は自家交配とともに、このalba株の花粉を一般フォームのroeblingianaへも受粉し他家交配も試みる予定です。下画像は22日撮影です。

Vanda roeblingiana alba (aurea?) ルソン島

バルボフィラムの新種それとも奇形?

 バルボフィラムの株の中に、これまで見たことのない様態で花が開花していました。花はバルボフィラムEphippium節の形状に似ておりドーサルセパルおよびペタルの外縁に細毛が見られ、バルブ形状(バルブ、葉、リゾーム)は同節のBulb. gusdorfiiに似ています。しかし今回開花した株は、同節やシルホペタラム節に通常見られる、10 - 20cm長の花茎(軸)がバルブ元から伸び、その先端に短い花柄が放射線状に並び2 - 10輪の花を付ける様態ではなく、下写真に見られるように、やがてバルブに発達するであろう新芽の先端、すなわち若い葉元から直接、花柄が伸び花を付けています。

 上段画像(1)は今回開花した2輪で、バルボフィラムEphippium節によく見られる花形状に似ています。(2)と(3)はリップを中心とした拡大画像です。ドーサルセパルおよびペタル外縁に多数の細毛があります。リップ中央弁は花の傾きに応じてよく動きます。この花形状からはバルボフィラムの花としての違和感はありません。問題は下段左の画像です。花は葉元から直接2本の花柄を伸ばして花を付けています。この若い葉を付けた新芽はやがて、その発生元となる下のバルブのように成長すると思いますが、上段に示す花形状をもつバルボフィラム属の中で、果たして細長い花軸上あるいはその花軸上の葉元からではなく、バルブに発達するであろう太い新芽の先に花柄を発生する種があるのか、これまでに見たことがなく、では他属あるいは他節に類似する種が存在するのかどうか現在調査中です。時折ランの中には、胡蝶蘭Phal. equestrisの突然変異体Peloricのような変形や、マイシン系農薬による影響と思われるセパル・ペタルの一部が融合した異常な形状が、ごく稀に見られるもののその殆んどは一過性の奇形です。今回は花形状にでなく花の発生形態にあって、これも一過性のものなのかどうかは分かりませんがその可能性も考えられます。次期の開花でどうなるか観察する予定です。

(1) 花形状 (2) リップ周辺拡大画像 (3) 花側面画像
葉元から2本の花柄が伸び花を付ける様態 株形状

現在(17日)開花中の9種

 豪雨が続く中、温室内で開花中の9種を選んで撮影しました。上段左のデンドロキラムDend. magnumはフィリピンの固有種です。orchidspecies.comでは本種の生息域は1,200m以上のクールタイプとなっています。しかし、本種が多数栽培されていたフィリピンタガイタイに近いアルフォンソのラン園では、通年の最低気温が20℃を下まわることはなく、下写真はこの農園で入手した株で10年近く経ちますが、当サイトでも高温室での栽培でよく成長しています。より低地の生息種ではないかと推測しています。また上段右は2016年の発表の新種Airides migueldavidiiとしてマニラ北部のPulilan地区のラン園で2019年に入手したものです。しかしOrchideen Journal 2016,No.4 を読んでもAerides quinquevulneraとは別種とする程の明確な違いが分かりません。

 中段左のVanda ustiiはこの時期雨や曇りの日を選んでベアールートで室外に吊るしており、写真は桜の木の幹に吊るした開花株の様子です。下段左はDen. vexillarius blueとして入手したものですが、var. retroflexumと思われます。中央のDen. cuthbertsoniiは蕾を含めると現在11輪となっています。Den. vexillarius同様のクール室での開花です、開花は4か月程続く長寿命種です。生息地’NG’とはNew Guineaの略です。

Dendrochilium magnum Philippines Den. cymboglossum Borneo Aerides migueldavidii? Mindanao
Vanda ustii Luzon (Nueva Ecija) Den. insigne PNG Den. subclausum NG
Den. vexillarius v. retroflexum? NG Den. cuthbertsonii NG Den. curhbertsonii orange NG

円筒支持材全面への株の取付け

 同種同士を寄せ植えして大株に仕立てたい、あるいはスペースがないので寄せ植えしたいなどと思案する趣味家も居られることと思います。当サイトでも海外からは同種であっても数十株単位で入手することが普通で、そうした植付けを考えざるを得ないことがあります。もともと現地の2次業者は、元株は大株であったものを利益を得るために小分け切断して販売することが殆どで、我々が通常入手する4-5バルブ程のサイズ株は、特にバルボフィラムにおいては、自然界ではむしろ稀な生態であり、分割されたかなり小さな株を栽培していることになります。それならば同一ロットの同種の寄せ植えは、元の株姿に戻しているようなものと考えることもできます。

 一方で、2-3株の寄せ植えならば兎も角、10株以上ともなると鉢や支持材が大きくなりすぎコストやスペースの問題が生じます。そこでトリカルネット筒のような360度全面に高密度で取り付け可能な支持材はどうかとの思惑も浮かびます。しかし平面での寄せ植えは容易ですが、筒ともなれば株を固定する際、前面・側面・裏面にそれぞれ株が配置されることから、取付け中に複数の株がズレない、落ちない為の支えが必要となります。株の差し替えもしばしば起こります。また寄せ植えでは、株を固定する作業前に、株間のスペースや株サイズの相互のバランスなどを確認するため、一度全面に株をレイアウトしてみることも重要です。こうした問題に対処するには、植付けの前処理として全ての株を筒に仮植えして全体の姿を整え、その後に株を固定せざる得ません、この手順がなく、筒の下から1株毎に株を選びながら位置決めし、積み上げ式で固定していくと取付完了後には、しばしば個々の株があちこちを向いていたり、全体として納得できないアンバランスな姿にもなりかねません。

 こうした背景の中、今回は1株が5 -10バルブ程の中サイズのバルボフィラム15株以上を50㎝ (長さ) x 15cm (直径)筒全面に取りつけることにしました。そこで当サイトでの円筒支持材への寄せ植え方法を紹介します。下画像上段左が今回取付の対象となったボルネオ島から入手したBulb.spの花です。(1)は50㎝長のトリカルネット筒で、この製作については昨年10月の歳月記に記載しました。(2)はゴムバンドです。たまたま今回、コロナ感染防止での使用済みマスクが相当数あったため、耳のかけ紐をマスクから取外したものです。市販のゴムバンドで良いのですが、耳肌にやさしい紐ならば株を押さえるのにもソフトで良いであろうとリサイクルしました。まずこのバンドを(1)の筒に4 - 6cm間隔で取付け(3)その後、それぞれの株をゴム紐で2-3か所を挟んで留めます。ここでゴムバンドの強さがポイントとなります。ゴム紐は引っ張って(持ち上げて)株(葉、バルブ)を潜らせることが出来る伸度が必要です。またその際、周りの株を適度に押さえる力がなくては作業中にズレてしまいます。さらに株を筒上に置きバンドで留めた後には、隣接する株の根同士の接触を極力避けるように、ゴム紐を持ち上げては、ミズゴケを互いの根の間に挟み並べ直しつつ、根周りをさらにミズゴケで覆って仕上げていくことから、紐の戻り力が強すぎれば周りの株が傷むか、作業がやりにくくなり、弱すぎれば株は安定しません。今回直径15㎝の筒では(2)の紐を2本結んだ長さにしています。こうした取付作業中には、筒全面に株が配置されているためテーブル等平面上に横置きはできません。そのため下段左写真のように網かごを用いています。筒の上部と下部を乗せるためのブロックあるいは本などを積んで、筒を浮かしても良いと思います。下段写真左はこうして仮植えが終了した状態です。筒を立てても株は動きません。この後、1mm径の盆栽用アルミ線を株の間を潜り抜けながらリゾームや根を押さえつつ、筒の下部から上部に向かって巻いていき株を固定します。ゴム紐はアルミ線で株を固定するに合わせて順次外していきます。画像中央および右は全株を固定した後のトリカルネット筒で、全面と裏面のそれぞれです。 伸びしろ分を全長の1/3程度設けています。こうした筒への全面取付は難しく思われるかも知れませんが、ゴム紐さえあれば容易に仕上がります。2 - 3年後には筒全体が株に覆われることを期待しています。

Bulb. sp Borneo (1) トリカルネット筒50㎝長 (2) ゴムバンド (3) ゴムバンドの筒取付
株の仮植え トリカルネット筒表面 トリカルネット筒裏面


種名が確定したバルボフィラムとネット上での問題種名

 これまで当サイトで栽培中のバルボフィラムには、花が未確認で種名不詳となっている株が多数あります。花を確認した後でも、40種ほどが現時点で名前が分かりません。そうした中、開花後のネット調査で登録されていることが分かった3種を下画像に取り上げてみました。左のBulb. acehenseは昨年発表された新種で、当サイトでは2017年5月に入手、同年12月の歳月記に開花した画像を紹介し、翌年の2018年にはサンシャインラン展に3,000円で出品しました。spとしていたためか購入者はいなかったと思います。中央のBulb. sannioは2009年登録の種で最近しばしば取り上げています。2018年8月入手し、開花を最初に紹介したのは2019年7月です。また右は当サイトにspとして登場したのは2018年です。Bulb. bolsteriは古くから知られた種ですが、Cootes氏著Philippine Native Orchid Species 2009 pp39に掲載の本種画像と比較すると、下右写真とはかなり異なった印象であったため同定が遅れました。前記著書にある花画像の撮影者は、フィリピンで多くの新種を発見しているW. Suarez氏で、現在の当サイトのバルボフィラム・サムネールにある画像も2012年本人から直接頂いた同じ写真です。Bulb. bolsteriについては類似する種名不詳種もあり、これらを含めて改版予定ページ(下記のリンク先)に掲載しました。

  Bulb. acehense
  Bulb. sannio
  Bulb. bolsteri
  Bulb. bolsteri_aff1
  Bulb. bolsteri_aff2

Bulb. acehense  スマトラ島北部 Bulb. sannio パプアニューギニア Bulb. bolsteri フィリピンルソン島

 一方、種名不詳種をネットで調べる中で、幾つかの同定ミスと思われるバルボフィラムも見られます。下画像はこれらの内の3種です。ネット上には下画像と同一種と思われる花画像があり、それぞれの種名がBulb. trigonopus, Bulb. nabawanense, Bulb. zanthoaronとなっています。しかし本来のこれら名称種と下画像は明らかに異っていることから、種名本来の画像と共に同定ミスと思われる下画像が掲載されているサイトを下記のリンク先に示しました。下花画像のsp08と下記Bulb. xanthoacronとは近縁種であることには違い無いのですが、相違点はペタル、リップと共に、リゾームの形状が異なります。

 Bulb. trigonopusの画像 
 上記名で下画像が登場するorchidspecies.comのサイトページ(これまで表示花がBulb. trigonopusとされてきたとの解説)

 Bulb. nabawanenseの画像 
 上記名で下画像が登場するサイトページ

 Bulb. xanthoaronの画像1及び画像2 
 上記名で下画像が登場するサイトページ

 本サイトでは、下画像は現時点では種名不詳種として扱っており、同定でき次第改版を行います。本サイトの下画像の改版ページは下記リンク先で見られます。sp10は類似種も見られ、これをsp11としました。全種2017年の入手です。ちなみに今回取り上げた種は全てサンシャインあるいは東京ドームラン展に出品販売しています。

  Bulb. sp20
  Bulb. sp10
  Bulb. sp11
  Bulb. sp08

Bulb. sp20 キャメロンハイランド Bulb. sp11 スマトラ島 Bulb. sp08 ニューギニア

 上記の例が示すように多くの種で、僅かな違いではあるものの類似種が存在します。おそらくこれらの多くは同種の中の個体差、地域(環境)差、変種、亜種あるいは近縁種などの関係と思いますが、これらを比較した情報の収集や作成は、実体が手元になくては撮影はできないことから極めて大変です。通常栽培者は一つの品種について1-2株をコレクションするものの、ミクロな世界に踏み込んでまでの相違点を敢えて求めることはまず無いと思います。分類学者であっても、敢えて野生の中において類似種の有無を調査収集することは困難と思います。当サイトでは現地ラン園に対して、これまで扱った覚えのない種は、株の大小にかかわらず全て数十株単位で購入するとのインセンティブを与え収集して頂いているのですが、それでもフォーム等の違いは偶然にしか出会うことのない、言い換えれば、ビジネスとしては成り立たない、僅かな確率の中での行為となります。しかしそれ故の偶然が楽しいとも云えます。

現在(4日)開花中の18種

 現在開花中の18種を選び撮影しました。1段目右のDen. dianaeは、一般フォームが持つリップ中央弁基部左右の茶褐色の斑点が無いことからaureaフォームとしました。5段中央のBulb. amplebracteatum のセパル・ペタルの黄色は他の種には見られない鮮やかさで、良く目立ちますす。その右隣のMormolyca rufescensにはエクアドルMundifloraからの引き受け株でしたが、ラベルにgiantの添え字が付いていました。しかしこれまでの花サイズはほぼ5cmと標準サイズで、Den. tobaenseのように成長度合いによりサイズが変化するのかも知れません。ビスケットのような甘い香りがします。Draculaは多数が開花しており、6段目の3種はいずれも花サイズが大きく、特にDracula marsupialisは希少種なのか、マーケットでは同属他種と比べかなり高額です。

Den. dearei Borneo Sabah Den. crocatum Pen Malaysia Den. dianae aurea Borneo Kalimantan
Den. fairchildiae Luzon (Nueva Ecija) Den. annae Sumatra Den. balzerianum Leyte
Phal. bellina alba Borneo Phal. venosa Sulawesi Phal. fasciata Luzon (Bataan)
Vanda roeblingiana Luzon (Benguet) Vanda sanderiana Mindanao (Davao) Coel. cuprea Borneo
Bulb. bandischii NG (Irian Jaya) Bulb. amplebracteatum Moluccas Mormolyca rufescens Ecuador
Dracula marsupialis Ecuador Dracula roezlii Colombia Dracula minax Colombia


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