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栽培、海外ラン園視察などに関する月々の出来事を掲載します。内容は随時校正することがあるため毎回の更新を願います。  2020年度

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9月

現在(25日)開花中の花5種

 ボルネオ島生息のArachnis breviscapaの花は当サイトでは初登場となります。他(先月のDen. cuthbertsoniiを除き)はいずれも久々の撮影です。Arachnis breviscapaは2016年に入手して以来、今月まで開花が無かったのは栽培での輝度不足が原因でした。自然界では昼間直射光に当たっているようです。花は5㎝サイズの豹紋柄で良い香りがします。今回の初開花は2輪ですがネット情報からは5輪程が同時開花するそうで、5輪ともなればかなり強い香気を放つと思います。Phal. javanicaは当サイトの自家交配株で初花となります。敢えて実生化を行ったのは、この株が晴れた日の早朝の2時間ほどですが、香水に匹敵するほどの良い香りを持っていたからです。一方、下段左のDen. cuthbertsoniiは生息域が標高750m - 3,450mとされ、20年程前までは中温環境での栽培が可能な1,000m以下の生息株も入手できたそうです。しかし現在の野生種は2,000m以上のクールからコールドタイプとなり、マレーシアThouSun Orchidの園主によれば、Den. vexillariusは問題ないものの、キャメロンハイランドの気候であっても本種の栽培は無理とのことでした。下段右はAerides magnifica(手前)とそのalbaフォーム(後ろ)です。2014年に現在の種名となる前までマーケットにおいてはAerides odorata v. calayanensisとされ、実生が出現するまではAerides属の中で最も高価な種でした。交配からBS株になるまでの期間が長いのか、実生であっても、今日高価種であることは変わりません。写真はDen. cuthbertsoniiの19日を除き全て本日(25日)の撮影です。

Arachnis breviscapa Borneo Phal. javanica Java Cleisocentron merrillianum Borneo
Den. cuthbertsonii New Guinea Aerides magnifica Philippines (Calayan islands)

現在(14日)開花中の花30種

 浜松温室にて現在開花中の30種を選び撮影しました。その幾つかを解説します。Coel. fimbriataはネパールから中国南部、タイ、ベトナム、マレー半島まで広く分布する、セロジネとしては最も廉価で容易に入手できる種の一つです。Hyalosema節のBulb. longisepalumも普通種ですが、その希少度はセパル・ペタルの長さにあると思います。orchidspecies.comでは9㎝とされています。下画像の花は13㎝で写真はキャメロンハイランドでその大きさから入手した株です。またこの種はドーサルセパルがリップやペタルを常時覆っており、外見ではそれらの形状を見ることが出来ません。またリップの詳細(拡大)写真は殆どないため、改版予定ページへのリンク先に掲載しました。写真のBulb. deareiの花は一般フォームにあるドーサルセパルおよびペタルの茶色の網目模様やラインがなく、写真の花はソリッドイエローであることが特徴です。Den. cinnabarinum angustitepalumは中温室にて初春から1ヶ月おきに開花を続けています。一方、Phal. hieroglyphicaは白色ベースのセパルペタルがやや幅広のタイプで、写真の花はかなり強い良い(甘い果物のような)香りを放っています。orchidspecies.comによるとバラの香りとされています。しかし殆んどの株は微香で無香株もあります。これまで現地ラン園を含め数百株の本種を見てきましたが、唯一下写真の株が1m程離れた位置からでも分かるPhal. bellina並の強い香気があり、希少と考えトリカルネット筒への植付けとしました。それぞれの花写真下の青色の種名をクリックすると、その種の改版予定ページにリンクし、個体差や花の詳細を見ることが出来ます。リンクページにある栽培サイトへのリンクは準備中です。これらの画像は全て浜松温室での撮影です。

Coel. longifolia Sumatra Coel. cuprea Borneo Coel. fimbriata Pen. malaysia
Bulb. recurvilabre Leyte Bulb. patella PNG Bulb. claptonense aurea Borneo
Bulb. longisepalum NG Bulb. dearei Cammeron Highlands Bulb. williamsii Mindanao
Bulb. nasica NG Bulb. orthosepalum PNG Den. sororium Solomon island
Den. jiewhoei Borneo Den. victoriae-reginae Luzon Den. rindjaniense Lombok island
Den. kenepaiense Borneo Den. sp aff endertii Sulawesi Den. anthrene Borneo
Den. sp aff. sanguinolentum Borneo Den. polytrichum Luzon Den. annae Sumatra
Den. furcatum Sulawesi Den. cinnabarinum_angustitepalum Boneo Den. bicolense Luzon
Den. klabatense Sulawesi Phal. lindenii Luzon Den. floresensis Flores island
Phal. hieroglyphica Leyte Phal. appendiculata Borneo Phal. bellina Borneo

Bulbophyllum translucidumに見る個体差

 本種はフィリピンミンダナオ及びレイテ島の低地生息種で2016年に発表された新種です。Die Orchidee Vol. 2(4) 2016によると、開花期に該当する地域を広範囲に調査したが一ヶ所しか見つけることができず希少性が高いのではとの旨が記載されています。当サイトでは、発表された年の2016年9月に本種を入手しましたが、入手時の種名はレイテ島生息種Bulb. leytenseでした。しかし2017年5月の開花で本種のミスラベルであることが分かりました。国内での販売は、2017年東京ドームラン展では、この時点では花が未確認であったことからBulb. leytense名で出品したところ2名程が買われたようで、花確認後の同年6月のサンシャインラン展では名を改めBulb. translucidumとしたものの、余りの発表直近の新種は聞きなれない種名のためか、いつものように購入者はいなかったと思います。現在30株程を栽培しており、春から夏にかけてはそのいずれかの株に開花があり、絶えることなく花を見ることが出来ます。そうした中で現在開花中の花の中にラテラルセパルが濃赤色のカラーフォームがあり本日(8日)他の株との比較を兼ねて一般フォームと共に撮影しました。入荷時には20㎝程の株でしたが、これまで2回の植替えをし現在は右写真に見られるように90㎝を超えるサイズとなっています。高温タイプで栽培は容易です。

左:一般フォーム、中央:ラテラルセパル・ダークレッド、右:本種レイテ島生息株

Den. ellipsophyllumおよびDen. sp aff. enderitiiに見る個体差

 現在、フィリピンPalawan諸島生息のDen. ellipsophyllumや、スラウェシ島生息のDen. sp aff. enderitiiが複数株で開花しています。それぞれの花をよく見ると互いに異なるフォームがあり撮影しました。上段のDen. ellipsophyllumは通年で開花していますが、春から夏が最花期となります。下写真でリップ中央弁に走る線状斑点が左の花は緑色でアルバのようなフォームです。中央写真の花は茶褐色の明瞭なラインが3本あり一方、右写真では8本程となっています。リップ側弁(リップ基部の左右に出た片)の形状も、それぞれが微妙に異なります。リップの色は、僅かに異なるもののデンドロビウム属には開花時から散るまでに淡い緑から橙色に変化する種が多く見られ下写真もその特性の範囲内と考えます。一方、下段のDen. sp aff. enderitiiのリップ中央弁は一般種では左写真に見られるように前方に真直ぐ伸びていますが、右写真では中央部から折れ曲がり下に向かっています。デンドロビウムやバルボフィラム属では種の識別情報の一つにリップ中央弁の下垂形状を取り上げられることもあるものの、この程度の形状差で別種とするには無理を感じます。
 
Den. ellipsophyllum Palawan
Den. sp aff. endertii Common form (一般形) Den. sp aff. endertii Downward lip-midlobe form (リップ中央弁下垂形)

  同一種を数十株単位で栽培していると、野生栽培株ならではの個体差がしばしば見られます。実生では同一ロット内に、このような多様なフォームが現れることはまずありません。下記の種名リンク先にこれらの種の改版予定ページを掲載しました。

   Den. ellipsophyllum green
   Den. ellipsophyllum orange
   Den. sp aff. endertii

9月現在の温室の様子

  ようやく猛暑も去り、国内では秋を迎えつつあります。9月からの2ヶ月間は、東南アジアからの多くのランにとって春と同じように新芽や新根の発生が盛んで、その成長度は来年の開花に大きく影響することから栽培の重要な期間でもあります。一方、当サイトではコロナの影響でこの1年半、ラン生息国との取引が出来ない状態が続き、EMSの再開まで販売を休止している反面、栽培には集中できることと、昨年9月以降の温室レイアウト変更に伴い、ランはすこぶる元気な状態が続いています。下写真は1昨日と本日(4日)の撮影です。写真に映っている株数は、全て含めても現在栽培中の株総数の3割程度です。

 上段写真左がバルボフィラム、右がデンドロビウムや胡蝶蘭(奥)を中心とした2つの温室の中央路側の様子で、左右それぞれの吊り下げ面の裏側にもほぼ同数の原種が吊り下がっています。ベンチ置きの株を含めると一つの温室当たり約1,500 - 2,000株を栽培しており、同サイズの温室が4棟あり、全ての温室が現在満杯に近い状態であることから総数で7,000株前後と思われます。中段左のベンチ置きはパフィオペディラムで手前がPaph. sanderianum28株、左奥はrothchildianumlowiiなど合わせて58株、写真中央奥は1m前後の葉スパン幅のgigantifoliumが8株、右上バスケットはDen. aurantiflammeumの40株の一部です。右写真は中温室でVanda javieraeが50株ほど、奥にPhal. philippinensis、手前は中温タイプのセロジネです。下段左から2枚目の写真は左右がBulb. inacootesii55株、トリカルネット筒に吊り下げられているのはBulb. pustulatumです。右写真は植替え待機中のバルボフィラム150株ほどです。

バルボフィラム中心の中央路 デンドロビウム中心の中央路。裏面は胡蝶蘭
Paph, sanderianum(手前), rothchildianum(左)など Vanda javierae, Phal. philippinensis, セロジネeなど
胡蝶蘭など Bulb. inacootesiiなど Vanda類 植替え待機中のバルボフィラム


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