栽培、海外ラン園視察などに関する月々の出来事を掲載します。内容は随時校正することがあるため毎回の更新を願います。 2018年度

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8月

Dendrobium cymboglossum f. alba?

 浜松では24日より気温が若干低くなり夜間の温度も25℃近くまでになりました。そうした中、散水をしていたところこれまで尾状花序(垂れ下がった花軸に複数の花を付ける)に白い花が咲いているボルネオ島生息のDen. Cymboglossumを見つけました。本種の一般フォームは、セパル・ペタルの表面が薄黄緑色あるいは薄ピンク色で、裏面には赤紫のラインや斑点があり、またリップ中央弁の中央から基部は山吹色ですが、今回の開花株はセパル・ペタルの両面がほぼ白に近く、またリップ中央弁基部は淡い緑色のflavaあるいはalbaフォームと思われる花でした。それが下写真左と中央で初めて見るものです。この暑さの中、涼しい色合いです。右写真は一般フォームの参考画像です。

Den. cymboglossum f. alba? Den. cymboglossum common-form

Dendrobium ovipostriferum

 酷暑の中、Den. ovipostriferumが多数の株で開花中です。本種の花寿命は温室内で夜間平均温度が25℃を超える猛暑が続く場合は約1か月、20℃以下になれば2ヶ月と長いことと、花柄当たり2-5輪開花するため複数の株があると華やかになります。画像下の青色種名のクリックで詳細情報が得られます。

Dendrobium. ovipostriferum Borneo

病害虫防除

 昨日(22日)は8月に入って2回目の病害虫防除薬品を散布したところです。ベルクート(規定希釈)、ストマイ(規定希釈)、アディオン乳剤(規定希釈)、オルトラン(1/250倍)の混合としました。前者2つの薬品はそれぞれ高温多湿で発生率の高い、カビ系、細菌系対応として、また後者は特にオオランヒメゾウムシの病害虫除去が目的です。梅雨入りから9月中旬までは2-3週間隔での散布を、またカビ系と細菌系に対してはトリフミンやナレートとローテーションすることもあります。昼間は気温が高く薬害の恐れがあるため散布は夕方に行います。10月以降は状況判断となり例年では5月頃まで2ヶ月に1回程度予防として行う程度です。希少種や単茎性ランも多いため発病してからでは遅く、特に高温期での病害虫には気を使います。フィリピンやマレーシアの熱帯気候下では、ローカルマーケット向けの胡蝶蘭交配種栽培農家も多く、月1回の散布では少な過ぎ、ほぼ通年で2週間間隔で病害虫薬品の散布をするそうです。

Dendrobium punbatuense

 7月の歳月記に、Den. serena-alexianum名で入荷したデンドロビウムがDen. punbatuenseのミスラベルの可能性があることを取り上げましたが今月、3年近く前にDen. sarawakense名で入荷した株が開花し、調べたところこれも前記同様のDen. punbatuenseであることが分かりました。Den. punbatuenseは2008年Malesian Orchid Journalに掲載され、ボルネオ島Sabah州および南Kalimantan Meratus山周辺の標高400 - 1,000mに生息の高温タイプとされます。しかし2年間に渡って、2回もミスラベルで入荷した種としては偶然なのか、また果たして入手難な種であるかどうかは分かりませんが、ネット検索での国内での本種情報は当サイトのみで、また海外においてもマーケット情報(本種名とPriceで検索)が見当たりません。

 入荷時は開花確認後に販売予定であったため10株を杉板に取り付け中温室にて栽培をしていました。2年以上経過したため半年前に炭化コルクに植え替えたところ今月2株で開花しました。Den. sarawakenseは低 - 中温タイプで立ち性である一方、本種は高温タイプで下垂性(正しくは半立ち性)です。このため、これまでの中温室では栽培温度が低すぎて2年以上も開花がなく、それが今回の猛暑で3℃程温室の平均温度が上がったため開花したのかと。今度は吊り下げタイプとして3度目の植え替えを行い、同時に高温室に移動しました。これまでの観察では、落葉した茎(疑似バルブ)に花茎が発生することが特徴で、多数の細い根がしっかりとコルクに活着しており、Calcarifera節で丈夫な種です。下写真が今回の画像で、リップ基部にカルス突起が見えます。植え替えによる2ヶ月間程の順化期間が終われば7月の歳月記に取り上げた種と同様に3,000 - 3,500円で販売予定です。

Dendrobium punbatuense

Phalaenopsis hieroglyphincaの特大株

 今年2月にフィリピンのラン園にて、葉は萎びて薄く巻けてしまう程の張りの無い大きな株があったため何かと聞いたところPhal. hieroglyphincaとのことでした。間違いなくこのままでは.枯れを待つのみの様態でした。しかし葉長は40㎝を超え、しかも5株程のクラスターからなるPhal. hieroglyphicaとしてはこれまでに見たことのない大株で、ダメもとと浜松に持ち帰りました。

 浜松では、帰国後最優先でタチガレエースとバリダシンに根を1時間ほど浸け自然乾燥させた後、50cmx13cmx3cmの炭化コルクに植え付け、微風のある低輝度の場所に吊るし、毎日2回のかん水、1週間毎の薄めの液肥および6月からは2週間間隔での害虫、カビおよび細菌対応の薬品を散布してきました。植え付けから2ヶ月経過した頃から新根が、また葉の張りも少しづつ戻り始め、5ヵ月でようやく再生を確信しました。下写真がそのクラスター株で写真左にある50㎝L形定規から最長葉はほぼ50㎝であることが分かります。Phal. hieroglyphicaとしては異常な大きさで、花茎は9本出ていました。左写真でコルク板の右上に寄せ植えのように見える1株は左下のクラスター株の高芽で植え付けの際、空中に浮かんでいたためコルク上に乗せて縛ったものです。写真中央は左側面からの撮影、写真右はLサイズ(左)と今回の特大(右)サイズを比較したものです。右写真左の小さく見える株はそれでも葉長28㎝のLサイズです。

Phal. hieroglyphica

Coelogyne sp Palawan

 昨年8月の歳月記「Coelogyne Palawan」で取り上げた種名不詳のフィリピンPalawan諸島生息のCoelogyne spが開花しました。下写真がその画像で、下段右はこのsp種との比較のためのCoel. palawanensisの株画像です。形態からはTomentosae節でCoel. palawanensisやボルネオ島Coel. hirtellaの近縁種と思われます。しかし、それらとは株形状が異なり、sp種は下段右のCoel. palawanensisのような線形葉ではなく倒披針形であり、またリゾーム(バルブ間の距離)が長いことが特徴です。花形状はCoel. swanianaに酷似するものがありますが、こちらも疑似バルブは卵形であり花茎は下垂します。写真に見られるようにsp種のバルブは細長い円錐形で、花茎は下垂ではなく上段左写真からはバルブ基部を覆っている枯れた固い托葉に押さえられ、バルブにほぼ並行に伸長しているものの上方に向かう性質が見られます。葉、バルブ、花茎、およびリップ形状を含めたAND条件でネット検索しても現在該当する種が見当たらないことから新種あるいは前記した類似種の変種の可能性があります。リゾームが上段左に見られるように長いことや入荷時のバルブと根の形態からほぼ垂直面での着生種と見なして炭化コルク付けとし、中温室での栽培です。

Coel. sp Palawan

Coel. sp Palawan

Coel. sp Palawan

Coel. palawanensis

Dendrobium victoria-reginae

 Negros島やミンダナオ島の標高1,200m以上の雲霧林に生息するフィリピン固有種で、青花を代表するDen. victoria-reginaeが現在開花中です。当サイトでの本種はミンダナオ島からで3年ほど前に入荷した株です。温室の外は酷暑が続きますが、クール室は日中でも25℃で涼しく人よりも待遇の良い環境に居ます。夜間平均温度が20℃以下に設定できれば昼間は32℃程になる中温室で問題はありません。現在100株近くをヘゴ板、炭化コルク、木製バスケットなどに分けた植え付けをしており、下写真の開花株はバスケットです。本種の疑似バルブは下垂タイプのためポット植えは適しません。現地でよく見る植え付けは、ヘゴ板にココナッツの繊維で根を団子状にすっぽりと包んでいます。ミズゴケを使用していないのは、信じがたいことですがフィリピンではミズゴケの方がヘゴ板に比べて遥かに高価なためです。一方、小さなプラスチックバスケットにココナッツ繊維のみの植付けも見られますがこうした植え付けは販売用の簡易的なもので、どれも元気がありません。 基本的にマニラ周辺の気温では本種は暑すぎて生きていけません。Tagaytayでも現状維持が精々です。このためラン園にとっては入荷即販売が必要で、展示会では単品でも買えますが、販売業者が購入する場合は少なくとも100株単位が条件となり10-20株程度ではまず取り扱ってくれません。中温タイプのデンドロビウムはほぼ全てがこうした取引となります。 尤も日本国内の販売価格並で良いと言えば話は別でしょうが。なお、本種の開花はorchidspecies.comでは晩春とされていますが、当サイトでは夏季が多いもののの不定期で、これだけの数を栽培していると何時もどこかで1-2輪は開花しています。環境に合うと次々と茎からの栄養芽で増えます。このためその花色から人気のある本種は毎年それなりの数を販売しているものの100株は一向に減りません。こうしたこともあり現在本サイトでは野生栽培株にもかかわらず1株3-4バルブ(茎)で1,500円で、株サイズを考えると通常市場価格の1/3以下です。


Den. victoria-reginae

新しい植え付け方法によるAerides leeanaのその後

 Aerides leeanaは同属の中では極めて入手難な種の一つで、確か2016年の東京ドームラン展にPurificacion Orchidが花付株を10株ほど出品し完売していました。これまで3年近く現地ラン園に発注していましたがようやく今年2月に50株ほど纏まって入荷し、3月に植え付けを完了しました。トレーに入れた多数の花の付いた植え付け前の株を2月の歳月記に掲載し、また4月歳月記では題目「従来の習慣とは異なる植付け」にて、炭化コルクへの植え付けを取り上げました。植付けから5か月が経過し現在の株の状態が下の写真です。

 本サイトでのAeridesは、通常行われるベアールート吊るし、あるいはバルボフィラムやデンドロビウムのように根をコルクに乗せその上からミズゴケで覆う取付ではなく、炭化コルク上に薄く一様にミズゴケを敷き、その上に根を置いて1mm径のアルミ線で縛っているだけです。下写真上段からは全ての株で若い芽(明るい緑色)が勢いよく伸長していることが分かります。一部を拡大した画像が下段の左と中央です。左はAerides leeana、中央は大きなAerides odorata albaです。また右はAerides leeanaの下部を撮影したもので、多数の太い根が空中に伸びていますす。

 これまでAeridesやVandaなどの属種の植え付けは、根が通風のある気相を必要とする種と、乾湿のサイクル(濡れた状態と乾燥状態が繰り返される)を嫌う種があり、前者は小さなプラスチックバスケットに株を固定しべアールートで空中に吊したり、後者は乾燥を避けるため大粒のバークを用いてポットに植える方法が一般的です。しかし前者は国内の環境では湿度不足気味となり株が徐々に痩せていくリスクが、一方後者は限られたポット内では空気の流れが無く、かん水量や植え込み材の粒度によっては根腐れや、根の伸長が阻害され、株の成長に勢いがないとか花付が悪いなど、また販売する立場からは、株の形状とポットのサイズに依るものの他の属種と共に梱包するには取扱い難いことなどの問題があります。現地では湿度が高くAerides leeanaを含めAerides属はほぼ全種がベアールート栽培で、ポット植えは見られません。そこで、こうした問題を軽減するためコルク付けにすることで一部の根の表皮をミズゴケ上に置き、植え付け時は根の表皮の5割程がミズゴケに接触しているものの全ての根の表皮の一部あるいは全面は動きのある空気に触れさせ大きな気相を確保します。またコルク等の板付けは水を幾らかけても一定量しか留まらず過水の心配がありません。この結果、栽培上の利点としては他の植物と同居する場合、種毎のかん水量に気を使う必要がなくなり、全て同量の散水が期待できます。さらに炭化コルクはヘゴ板の1/10のコストであり梱包や発送にも軽量で有利です。

 いずれにしても、そうした植え付け栽培が良い結果をもたらすかどうかが全てであり、結論を得るには少なくとも1年間の成長と開花のサイクルを確認する必要があります。これまでの5か月間は従来の植え付けに比べ下写真に見られるように順調に成長しています。入荷時に見られた葉の乾燥による皺は完全に無くなりました。ちなみに写真に見られる株の配列は、僅かに高さをずらし葉が隣と接触しない位置関係と、前後の空間は極力狭くしています。これは画像には見えませんが右手前上に首振りモードの扇風機があり、それぞれの株への均等な送風と、1ヶ所(前面)から全ての株に均一なかん水をするためです。株間を狭くしたのは根周りの空中湿度を高めるためです。ほぼ同じサイズの同じ種を数多く栽培することで出来る配置で、趣味家にはあまり実践的な手法ではないかも知れませんが、ベアールート栽培種の問題点とその対処法の一例として、先のVanda sanderianaに用いた農業用不織布栽培と共に取り上げてみました。

 

Dendrobium sanguinolentum

 Den. sanguinolentumが開花しています。例年ですと浜松温室では初春と秋ですが、なぜか今年はこの酷暑の中で、しかも満開です。ゴールドやウイート色などをベースにセパル、・ペタルおよびリップの先端が青紫の斑点を持つものと、この斑点が無いものと、その花フォームは様々です。バスケット植えが最も成長が良く、毎年2回開花して3年経ちます。バスケットから溢れる程の大株になってしまったので植え込み材の交換と枯れた茎を除くなど剪定を含め開花後には植え替えが必要かと考えているところです。

Den. sanguinolentum

Vanda sanderiana alba. pinkとyellow form

 2009年から2016年まで多数のVanda sanderianaを収集しました。その中で下写真の左端はPOS (Philippine Orchid Society) Mid-Year Orchid Show 2016年のVanda sanderiana f. albaのブルーリボン賞 (優勝花) で、その右側はレッドリボン (3位) 入賞株です。また左から3番目は別年にレッドリボン賞を得たピンクカラーフォームで、右端が希少とされる黄色フォームです。2016年のPOSラン展では1位から3位入賞株を全て買い占め、浜松に持ち帰りました。albaのホワイトリボン(2位)は順化後に趣味家に販売しました。現地でのVanda sanderiana開花最盛期は8月となります。このことからミンダナオ島Davao市のワリンワリン祭は8月に開かれます。ワリンワリンとはVanda sanderianaの現地名です。2009年に訪問した時は展示会場には無数のVanda sanderianaが展示・販売されていました。しかしこの年の炎天下の会場には外国人にとって30分と居られない40℃以上の酷暑でした。同伴した会津若松の友人はこのワリンワリン祭でのalbaフォームの優勝株を入手しました。Vanda sanderianaはDavao Apo山に生息しDavao市を象徴する花であり、且つ本種名のついた祭りでの優勝花ですから、その年の世界トップレベルのVanda sanderianaであったと思います。

 ところでこうした入賞株をどのようにして入手しているかですが、開会中は展示しなければなりませんから持ち出すことは出来ません。そこで展示会最終日に出かけ、花が気に入れば出品者と交渉し閉会と同時に持ち出すことになります。そこから前もってCITES申請を依頼していたラン園に持ち込み、植物検疫を経て日本に持ち帰ります。よってミンダナオ島となればマニラに持ち帰る行程もあり1日分の余裕が必要となります。

 Vanda sanderianaの花の発色は環境によって大きく変化し、その主な要因は温度ではなく輝度にあります。濃色でコントラストのあるカラーフォームを得るには十分な輝度下での栽培が必要です。とは言っても葉が黄味を帯びる程の高輝度は許されません。そこで今年はこれら希少種を6月以降、常時70%寒冷紗の掛かった温室から移動し、葉が十分に茂った桜の木の下に吊るし、木漏れ日を浴びるような状態で3ヶ月間の予定で据え付けました。それが下写真で、背景にある太い木は桜です。Vanda sandrianaの根は動きのある空気に触れていることが必要で、現地ではどこもベアールート(根をむき出しのまま)で株を吊るしておりポット植えは皆無です。国内において現地と同様なベアールート栽培を目論むには、昼夜を問わず高湿度が条件となります。しかし、軒下等に吊るしたまま散水をしても国内の湿度では2-3時間で乾いてしまいます。そこで本サイトでは防虫ネットのような風や散水時の水を透す布(農業用不織布)を根の周りに巻いて通気性と共に根の周りの湿度を幾分でも高める工夫をし、朝夕の散水を行って状態を観察しています。下写真は木製バスケットに取り付けていますが、バスケット内はクリプトモスのみで株を抑える程度の役割です。根のほとんどはバスケットの下に長く垂れています。現在マーケットで見かけるVanda sanderianaはほとんどが交配種や実生であり、野生株を得ることは極めて困難と現地では言われています。写真の株は出品者によると全て野生株からの分け株とのことです。左の優勝株には3茎の20㎝程に成長した子株があり2-3年後にはこれらを株分けし販売する予定です。

Alba form Pink form Yellow form

Bulbophyllum virescens

 この連日の猛暑で高温タイプの株を栽培する温室内には30分と居られません。こうした中、4年前にボルネオ島およびキャメロンハイランドから入荷したストック用のBulb. virescensが大株となり、木製バスケットから多数のバルブがはみ出していたため、こららの株分けと植え替えを行いました。本種はよくBulb. binnendijkiiと比較されます。orchidspecies.comではBulb. virescensのページでBulb. binnendijkiiをシノニム(同種)としているものの、Bulb. binnendijkiiにはBulb. virescensをシノニムとしていません。ネットでも両者の画像が混在しています。花無し株からは両者の区別ができないため、マーケットにおいても種名タグ(ラベル)は曖昧です。花を見て長いラテラルセパルの曲がり具合や、セパル・ペタルでの斑点の有無による判断が精々です。

 困ったことは、この両者はそうした曖昧さに加え、orchidspecies.comの情報でも分かるようにBulb. virescensは高温タイプとされる一方で、Bulb. binnendijkiiは低温とされている点です。ボルネオ島の標高1,000m-1,400mが果たして低温と云えるのか、熱帯雨林や熱帯常緑季節林帯では一般的には1,000m - 1,800mをwarm、本サイトで云う中温、また1,800m - 2,500mを低温としているので怪しいところですが、入荷するBulb. binnendijkiiにはロットによっては明らかに高温環境に適していないと思われる様態がみられます。この様態とは高温環境では根を覆う植え込み材の乾燥が中温環境に比べ早く、根周りの乾燥状態が長くなるサイクルが日常的に繰り返されると2 - 3ヶ月経過した頃から古いバルブから落葉が始まることと、新芽は開く前に落ちることが多いことです。 中温環境ではこのような症状は見られません。この栽培状況からは、温度は間接的な影響であり、直接的な影響はむしろ根の乾燥にあるのではないかとの見方もできます。本サイトでの中温環境においては毎日夕刻1回のかん水で、板付けであっても、植え込み材の完全乾燥状態は起こさないようにしています。一方、Bulb. virescens名の株は高温環境であってもバスケット植えで極力根の乾燥を避けているものの、Bulb. binnendijkiiに見られるような問題はこれまで出ていません。この結果、ミスラベルを防ぐ目的もありBulb. virescens名の入荷株はその順化処理過程で、ロット毎に中温と高温に分けて栽培をし、その結果で適温環境を決定することが必要になっています。

 下写真の左と中央は20バルブ程になったBulb. virescens大株を葉付3-5バルブ毎に株分けしたものです。この数でもそれぞれの元株は1株です。元株は高温室での4年間の栽培です。本サイトでは大株であっても基本的には株分けはしませんが、リゾームが長く固い種は適当な大きさになった場合、株分けをしないと始末に負えなくなるため止む無く分割をしています。写真左はキャメロンハイランド、中央がボルネオ島からの株です。写真右は両者を並べた画像で、左がキャメロンハイランド、右がボルネオ島生息株です。それぞれ最大葉長35㎝強です。バスケットと炭化コルク植えで、炭化コルクは60㎝長です。本種の根は常に湿っている状態が必要なためバスケット植えが最適ですが、硬く長いリゾームは収まりが悪く、今回の板付けでは保水力を高めるためミズゴケをこれまで以上に厚くしています。これらは株分けのため一部のリゾームを切断しており順化が必要なため9月末頃からの販売となります。

Bulb. virescens Cameron Highlands Bulb. virescens Borneo Cameron HL (left), Borneo (right)


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