栽培、海外ラン園視察などに関する月々の出来事を掲載します。内容は随時校正することがあるため毎回の更新を願います。 2018年度

2019年 1月  2月  3月  4月  5月  6月  7月  8月  9月  10月  11月  12月 

1月

Bulb. echinochilum

 昨年9月の歳月記にフィリピン生息の本種を取り上げました。orchidspecies.comによると本種は100年近く前にフィリピンで記録され、その後は発見されず絶滅したと思われていたが、インドネシア領スラウエシ島の標高900-1,000mのコケ林で最近撮影されたそうです。その野生株の画像がorchidspecies.comに掲載されています。今回再び取り上げたのは、2016年にフィリピンラン園よりBulb. ecornutoidesの種名で入手した相当数の株が実はミスラベルで、驚くことにこれがフィリピン生息のBulb. echinochilumであることが分かったためです。Bulb. ecornutoidesは知人のW. Suarezにより2006年に発見された比較的新しい種で、本サイトのバルボフィラムのページの画像はW. Suarez氏から頂いたもので、またorchidspecies.comの画像は本サイトからの引用です。

 どうして間違えたかは推測ですが、両者の生息地がNueva Vizcayaで共通することと、種名の”echino"と"ecornu"の名前からサプライヤーあるいはラン園がこれまで聞きなれない"echinochilum"を"ecornutoides"ではとタグを付けてしまったのではと。そこでBulb. echinochilumについて複数のフィリピンやシンガポール等のラン園の販売リストを調べましたが本種は取り扱われていません。一方、J. Cootes氏のPhilippine Native Orchid Speciesに本種が記載されているものの"再発見種"なのか"uncommon (希少種)"かについては触れられていません。

 今回のミスラベルのロットとは別に2010年頃に入手したBulb. echinochilum名と所有者のタグの付いた株の分け株については希少種として昨年バルボフィラムとしては高額な20,000円として販売しましたが、今回判明した20株程のBulb. echinochilumを、では幾らで販売するかが問題となりました。おそらく現在もマーケット状況から判断して入手は容易ではないと思いますが、取りあえず株サイズ(5-10バルブ)により新種並みの3,000 - 4,500円とし、10株限定で東京ドームラン展に出品することにしました。これまでは標高500m以下に生息のBulb. ecornutoidesと思い高温栽培を続け、3年間花を見ることはなかったものの杉皮板での成長は盛んで、先月からの浜松の気温の低下により花芽が現れたことを考えると、Bulb. echinochilumの生息域である標高1,000mのコケ林に合わせ中温が最適と思われます。下写真上段左はこれまで3年間の杉皮板栽培の様子で、植え付け時の株サイズは全て5バルブ程でしたが写真のように3年間での成長は著しく丈夫な種です。下写真下段は今回急いで東京ドームでの販売を目的に炭化コルクに移植した株の一部です。5株並んだ左端の株から右下に向かって長く伸びている花茎が見えます。販売株は全て浜松にて新たに増殖した部分を株分けしたものです。


良い香りのする2種

 下写真上段は左3株が南米アルゼンチンのClori Orquideasから2015年に直接入手したBrasiliorchis pictaで、右2株は本歳月記2018年8月に掲載したPteroceras (Brachypeza)unguiculataです。Brasiliorchis pictaは アジア太平洋蘭会議APOC11(2013年)でフレグランス審査リボン賞を取っており、また後者はJ. Cootes氏がその香りについて滅多に表現しないveryが付けられた非常に甘い香りとされている種です。いずれもそれ程のものならば誰もが一度はその香りを嗅いてみたいのではと思います。一つの問題点は昨年8月の歳月記にも記載したように後者は1日花どころか6時間程しか開花しない短命花であり、栽培をしている人以外はまず体験することができない幻の香りであることです。

 そこで来月の東京ドームにこの2種を出品し販売することにしました。Brasiliorchis pictaは現在開花中で20株程あり、2-3m離れた位置からでも良くその香りが漂っています。また蕾がつき始めたばかりの株もあることからラン展に間に合いそうで、その香りを嗅ぐことが出来ると思います。一方、Pteroceras unguiculataは下写真下段右に見られるように現在多数の花茎が出ているものの前記した性質からタイミングが合う確率はゼロに近く、こちらは購入して頂く以外無理と思います。このため手頃な価格になるように株サイズによりBrasiliorchis pictaは2,000 - 3,500円、またPteroceras unguiculataは 2,500 - 3,000円の炭化コルク付けで販売します。Brasiliorchis pictaは中温とされていますが杉皮板との相性が良く入手してから4年間、胡蝶蘭原種と同じ高温下での栽培で成長が盛んです。両者とも同じ栽培環境となります。

Brasiliorchis picta Pteroceras unguiculata

奇妙な花形状のDendrobium roslii

  何万年もかけて進化した原種の形状には全ての無駄を排除した必然性があるとされます。そう考えると一体、このDen. rosliiがもつリップとペタルに付けた細毛は何のためかと考えてしまいます。ポリネーター(花粉媒介昆虫)が留り易くするためのものか、であれば細毛ではなく紐のような長く垂れた形状が良いであろうし、否、花粉を運んでもらいたいポリネーターは決まっており、そのサイズ以上の飛来者をリップの奥には通さないための防虫ネットの役割も兼ねているのかなどなど不思議です。

 このDen. rosliiは花サイズが2.5㎝のまずまずの大きさがありCalcarifera節の中でも丈夫なマレー半島原生林の生息種で2010年の登録の新種にも拘わらず、花が咲いてないと売れない種の一つです。Den. rosliiはありますかと尋ねられ買われたマニアックな人はこれまでいません。反面、咲いていればこの不思議な形状を見た人は大方買われていきます。先日のサンシャインラン展にも3株程出品したのですが花が咲いていないこともあり案の定、全て残ってしまいました。来月のドームラン展にも出品します。下写真は現在浜松で開花中のDen. rosliiです。


Den. roslii

Bulbophyllum trigonosepalum yellowとCoelogyne longirachis

 Bulb. trigonosepalum yellowは一般フォームのラテラルセパルが赤褐色とは異なり黄色で、下写真左は本サイトが所有するミンダナオ島生息種です。炭化コルク付けの高温室で栽培をしています。下写真のフォームはorchidspecies.comやCootes氏Philippine Native Orchid Speciesの画像に見られる色合いに比べてセパルの鮮黄色が際立っており希少と思われます。本種は昨年のAJOSサンシャインラン展にBulb.spとして初登場させ2株ほど販売した記憶があります。その後は販売していません。

 また写真右のCoel. longirachisは昨年11月の本歳月記で取り上げました。すでに栽培開始から半年となりますが1-2輪毎に休むことなく咲き続け、赤色も一層濃くなっています。本種も同じミンダナオ島生息種で標高1,300mの中温タイプです。今年1月のAJOSサンシャインラン展に3株程出品したところ完売しました。僅かですがいずれも 東京ドームラン展に出品予定です。

Bulb. trigonosepalum yellow form Coel. longirachis

Phalaenopsis equestris

 Phal. equestrisはフィリピンを代表する胡蝶蘭原種の一つです。現在マーケットにはリップの色が赤、青、黄色など多様なフォームが見られますがこれらのほぼ全ては台湾やタイで量産されている実生です。一方、セパルペタルおよびリップ全体ががやや青味のあるピンク色のPhal. equestris v. rosea (ilocos生息)は排他的地域性があり同種の中で唯一変種varとされています。またこうしたフォームの中でリップの先端から1/3程がブルーで、基部に向かってゴールド色に変化するcyanochilaフォームは希少とされます。

 今回久々に下写真のルソン島オーロラ州東部の野生栽培株を入手しました。リップは先端部から2/3が桔梗色、基部が丹色のフォームで、人工的に作出された改良種にはない個性を感じます。roseaと比較して株サイズは一回り大きく、2月の東京ドームラン展には出品する予定です。


Phal. equestris

Vanda brunnea

 こちらもサンシャインラン展最終日に中国四川ラン園から入手したVandaです。Vanda brunneaはインド、ミャンマー、タイ、雲南省の標高800m - 1550mに生息する中温タイプで、入手株は雲南省です。通称淡褐色(light brown)バンダと呼ばれているそうです。化粧品にあるような匂いがします。orchidspecies.comの画像では淡褐色ですが、入手した株の花色はやや緑かかった色合いで、雲南の地域色と思われます。国内マーケットをネット検索すると実生があるようですが、生息地域が知られた野生(栽培)株は見当たりませんでした。下写真は現在浜松にて開花中のVanda brunneaです。

Vanda brunnea

Schoenorchis buddleiflora

 Schoenorchis juncifoliaがマレーシアIpoのラン園のカタログリストにあり、昨年9月これを仕入れたところ20㎝未満のかなり小さな株で期待外れでしたが先月そのなかの1株に花芽がでて今月開花しました。Schoen. juncifoliaの花サイズは通常1㎝ - 1.5cmに対し、今回入手した株の花は多輪花ですが1輪は5mmほどです。2017年7月の歳月記でCleisostoma williamsoniiとしてキャメロンハイランドで入手した株がSchoen. juncifoliaのミスラベルであったことを取り上げましたが、その際にSchoen. juncifoliaの花を実際見ており今回の株もまたミスラベルと分かり、調べたところとSchoen. buddleifloraでした。Schoenorchis属のミスラベルはこれで2回目です。結論とすれば売る方も買う方もSchoenorchis属についてよく分かっていないと言うことでしょうか。

 しかしSchoen. buddleifloraは小さな花ですがよく見ると、色合いも良くなかなか可愛い形をしており、ボルネオ島および西スマトラ島の標高500m - 2,000mに生息とのこと、そこで国内マーケットを調べてみたところSchoen. juncifoliaは多数の売買がみられるものの、本種は5年ほど前のあるサイトに珍品と称し8,000円程の価格が1件のみあり他に見当たりません。現在保水力の高いソフトFernに取り付け、中温室にて栽培しており10株ほどある株は全て良好な状態となっています。ちなみに、今月のサンシャインラン展に開花前であったため入手時の種名Schoen. juncifolia名で1,500円で出品しましたが見向きもされませんでした。Schoen. buddleiflora名で花が咲いていれば買われる方がいたかも知れません。正しい名で再度東京ドームに出品予定です。ミニタイプの花を好まれる趣味家には格好な種と思います。こちらも下写真のピンク色だけでなく青色のカラーフォームもあるようです。さて海外の本種の価格を見るとAmazonで38ドル、AndyOrchidsで36ドルが見られ、Schoen. juncifoliaより小型にも拘らず高価なようです。種名が確認できたので500円アップの2,000円で販売です。

Schoen. buddleiflora

種名不詳のBulbophyllum

 2016年キャメランハイランドにて入手したバルボフィラムが開花し、そのラン園の2014年掲載のFacebookにあった写真と同じ花で間違いないことが分かりました。形状からはBulb. arfakianumBulb. fraudulentumなどのHyalosema節の種の中のアルバフォームでないかと思っていましたが、本種のドーサルセパルの基部に同節に共通して見られる”つ”の字のような湾曲がなく、ストレートに前方に伸びている点で別節とも考えられます。種名は調査中です。下写真左は本種の全体画像、上段中央は花の側面、また右は正面からの画像です。ラテラルセパル内側には写真下段中央に見られる細毛があり、ペタルは細く先端がほぼ90°外側に曲がっています。

 2年目の開花で支持材は杉皮板、中温室での栽培です。根は多数が良く伸びて活着しており杉皮とは相性が良いようです。バルブは12個あり、秋以降3つの新芽がバルブ元から出ていることから本種に適した栽培環境は大筋把握できたため春に3株に分けた後、販売する予定です。


サンシャインラン展での中国ラン園の売残り株

 サンシャインラン展にて本サイトの向かいには中国四川からのラン園が出店していました。最終日の14日に売れ残り株が若干あり、見たところほとんどが栽培経験のない種で、添付された花写真を見て面白そうであったので選ぶのも面倒と全て購入しました。40-50株程と思います。それらのほとんどが雲南省からの株とのことで、浜松に持ち帰ってから調べたところほぼ全てが中温から低温タイプでした。中には2,500mから3,000m生息のコールドタイプも僅かながら含まれ、売れ残ったのは花に魅力が無いからではなく、その多くが低温室が無ければ栽培ができない種であるためと分かりました。下記がその一部です。低温タイプは、ここ浜松ではDen. vexillariousDracula属などと同居です。

1. Den. loddigesii dark pink
2. Den. willsonii pink (一般フォームは白)
3. Bulbophyllum pianmoense (セパル・ペタルとも黄色)
4. Vanda himalaica
5. Vanda alpina f. alba
6. Cym. finlaysonianum album
7. Cym. erythraeum f. flavum
8. Epigeneium gaoligongense (新種?)
9.Pholidota yunnanensis
10. Holcoglossum kimballianum
11. Scheoenorchis gemmata
12. Stereorchis dalatensis
13. Arisaema lihengianum (?)
14. Pennilabium yunnanense
15. Liparis bistriata
16. Renanthera citrina
17. Aerides rosea
18. Panisea panchaseensis (新種?)
19. Den. minutiflorum (2009)
20. Aerides odorata f. alba (Yunnan)
21. Den hekouense (Yunnan)
など。

マーケットでは稀な現在開花中のデンドロビウムとバルボフィラム

 下写真の上段左は前回取り上げたソロモン諸島生息種で昨年12月に入荷した種名不詳のデンドロビウムです。上段中央と右も同じく種名不詳種のそれぞれ正面および側面からの花画像です。Den. cymbicallumに似た花形状ですがリップの外周に短い細毛が見られます。9月のマレーシアPutrajaya Floria 2018で見つけたものです。下段左は全体形状としては始めて見るCirrhopetalum節のバルボフィラムです。一方、中央および右はDen. leporinumのアルバフォームと、比較参考用としての一般フォームの画像で、昨年取り上げたアルバ株とは異なる2株目のアルバとなります。こちらもPutrajaya Floria 2018での入手です。

Den. sp Solomon 諸島 Den. sp
Bulb. sp Den. leoprinum (left: alba, right: common form)

AJOSサンシャインラン展から東京ドームラン展へ

 14日サンシャインラン展が無事終了しました。多くの方々にご来店頂き有難うございました。1か月後には東京ドームでのラン展が始まります。このため今月末にはフィリピンに出かける予定で、またマレーシアからはラン園の2代目に懸案のランを成田まで持ってきてもらうことになっており、休む間もありません。どのようなランが出品できるか、順次本サイトにて報告してゆく予定です。

AJOSサンシャインラン展出荷準備を完了

 58回サンシャインラン展には本サイトにとって、これまでに無い多品種の原種を出品することになりました。先週の出品予定種リストのほぼ全てを展示するため、2ブースと言えども品種当たり平均2-3株がスペース上の上限で、今回はブースの両サイドが通路側であることから、展示棚の側面に設けるラン取付用の格子には通路側と内側の両面にランを吊り下げる予定です。それでも初日は吊るすスペースが不足するのではと思っています。

 今回の展示では特に胡蝶蘭原種について、これまで栽培してきた株は一体何であったのかと考えさせられる程、驚くほどに成長をした姿を多数展示し、また販売する予定で、胡蝶蘭原種を愛好あるいは栽培をこれから始める方々にとっては必見と思います。また炭化コルクを中心とした株の取り付け方法とその成長の様子なども栽培の参考になるのではと思います。原種栽培については会場にてお気軽にご相談ください。本サイトとしては2月の東京ドームラン展にも出店を予定していますが、1ブーススペースのため今回のサンシャインラン展と同等あるいは以上の展示は無理であることから百聞は一見に如かず、原種の持つ力や、その姿をこの機会に是非ご覧頂ければと思います。

AJOSサンシャインラン展出荷準備を開始

 6日はバルボフィラム、7日はデンドロビウムとVanda類、8日は胡蝶蘭の順で梱包が始まりました。本日6日はバルボフィラム出品予定種リストのほぼ全種の梱包が完了しました。その中でリストに無い下記の品種を追加しました。
  1. bataanense
  2. chloranthum LL
  3. taeniophyllum LL
  4. pardalotum gold color (セパル・ペタルに棒状斑点のほとんど無い黄金色のカラーフォーム)
  5. sp black (crimson) ribon
  6. veldkampii
  7. fraudulentum
  8. hymenobracteum
  9. sp pink multiflower (歳月記12月新入荷Bulbophyllum4種の4番目の種)
  10. maquilingense
  11. puguahaanense

AJOSサンシャインラン展出品の実生胡蝶蘭原種

 胡蝶蘭原種の台湾等からの実生には関心が無く、通常は取り扱っていませんが、ラン展においてはPhal. bellinaPhal. violacea blue (Indigo Blueを含む)は例外的に実生を販売しています。下写真はサンシャインラン展に出品する実生となります。写真左は左側がPhal. bellina Ponkan、中央から右側がPhal. bellina albacoeruleaです。右写真は左側がPhal. violacea sumatra blue NBS、中央がPhal. gigantea Sabah NBS(マレーシアでの交配実生)、右側がPhal. bellina Ponkanです。実生はPhal. bellina PonkanはBSで2,000円、Phal. bellina albaは同じくBSで2,500円、Phal. gigantea NBSは2,000円、Phal. violacea blueは1,500円となります。このように実生は量産園芸種のため、野生栽培種と比べて同種であっても1/2 - 1/3の価格としています。

Phal. bellina, ponkan, alba, coerulea Phal. violacea blue, gigantea, ponkan

AJOSサンシャインラン展2019出品予定種リスト

 今月10日からのサンシャインラン展向け出品リストを下記に記載しました。ラン展での展示スペースは限られているためそれぞれの品種は3-4株の少量多品種となります。原則プレオーダーは胡蝶蘭原種のみですが、その他については品種によりプレオーダーが可能な種もありますので、ご希望種がありましたら6日までにお問い合わせ下さい。

 胡蝶蘭出品予定リスト

 バルボフィラム出品予定リスト

 デンドロビウム出品予定リスト

 その他出品予定リスト
 

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