栽培、海外ラン園視察などに関する月々の出来事を掲載します。内容は随時校正することがあるため毎回の更新を願います。 ARCHIVE

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6月

炭化コルク活着と植え替え

 現在2年経過後の炭化コルク付けの株の植え替えを進めています。スマトラ島北部Ache州生息のCalarifera節Den. atjehenseもその一つで、これまで中温のなかでも高温に近い場所において栽培してきました。高温室との違いは四季を通して昼間の温度は2-3℃程しか変わらないものの夜間温度は、高温室では18℃を最低温度として 25℃以上もしばしばあるのに対して中温室は15 - 18℃の範囲であることです。この結果、この種が置かれた温室内では1日の温度差が10℃程度あり、国内で言えば山間部、北陸、東北、北海道などの温室ではこうした環境が造り易いと思います。 本種については2017年10月の歳月記にも記載しています。マーケット情報はその後も無く国内での流通は本サイト以外ネットからは見られません。

 下写真左は植え替え前の状態、中央の株は左と違いますが、表面のミズゴケを洗い流した状態、右はその上に新しいミズゴケで覆ったものです。炭化コルクの長さは35㎝ですが、中央写真の根の張り方から分かるようにやや面積の不足を感じます。最近は胡蝶蘭を中心に炭化コルクは可能な限り、これまでより一回り大きなサイズに変更し根の伸びしろをとり、ミズゴケも保水性を得るためやや厚めに覆っています。

Den. atjehense

同じ種名でありながら異なる様態3点

 下写真の上段はスラウェシ島生息のBulb. carunculatumです。似た種にフィリピン生息種のBulb. orthoglossumがあります。違いはリップ中央弁に前者は凹凸があり、後者は滑らかな表皮であることです。1昨年マレーシアにて花サイズが一般の1.5倍程の大きなBulb. carunculatumがあるがどうかと、花はすでに落花していたものの花茎が残っておりその太さが異常で持ち帰ってきました。半年後に花を付けましたが7㎝程で、またインドネシアラン園に、してやられたかと、すでに同種は3株ほど在庫していたためその後は温室の片隅に置き去られていました。昨年も開花した時は一回り大きく感じたものの、それにしてもと思いながらやはり軽視していました。しかし今回の開花は11㎝越えで、本種の最大とされる9㎝を越えてきました。下左写真の左側は一般サイズで、右がその株です(遠近の違いによる撮影サイズ誤差を避けるためペタルを互いに交差して撮影しました)。こうなるとこの大輪花株は無視出来ず、さっそく植え替えスケジュールに組み入れました。中央は花茎の太さの違いで、右は開花中の株です。8バルブあるため株分けし木製バスケットにそれぞれ植え付け、一株は販売用とします。

 一方、中央写真は昨年登録の新種でEpicrianthes jimcootesiiとして入荷したものです。本種はペタルから出る細い髭のような突起が左右それぞれ9本ととされており、左は9本ですが、右は10本あり髭の本数が種の判定の重要な要件とすると、同種ではなくなります。新種であれば面白いのですがそう思えば思うほど両者は違うように感じてしまいます。今のところ正体は不明です。、

 下段はボルネオ島固有種のDen. ovipostriferumです。左はこれまで10年近く栽培を続けていた株のひとつです。一方、右は5月にマレーシアラン園の2代目に成田まで持ってきてもらった株の一つです。リップ中央弁の形状がやや従来株と異なります。個体差の範囲と思いますが、今回30株ほど入荷した他の開花を待って詳細に比較して見たいと考えています。

Bulb. carunculatum
Epicrianthes jimcootesii
Den. ovipostriferum

現在開花中の花

 6月末の浜松温室では開花種はそれほど多くなく、特に胡蝶蘭原種のこの時期は僅かです。それでも下写真は現在開花中の一部となります。この中で本サイトでの初花はボルネオ島の高地に生息するCoel. hirtellaです。またDen. enderitiiに似た花をもつスラウェシ島からのDen. spは、5月に入荷してから1度開花があり花柄当たり揃って2輪でしたが、環境に順化したせいか下垂する総状花序に5輪が開花しています。Den. endertiiはボルネオ島固有種であることからendertii-complex(仲間)としました。Phal. bellinaは野生株としては品のある色合いと思います。Den. papilioは毎年この時期に開花します。

 ちなみに、マーケットにおいてDen. papilioDen. tobaenseなどはその花サイズによって大輪タイプなどと差別化された表記を時折目にします。Den. papilioDen. tobaenseなどの花サイズは株の状態に依存するところが大きく、健全に成長し疑似バルブが太くなればいずれも相応の大きな花をつけます。言い換えれば、例え大輪タイプとされた株であっても株が小さかったり、バルブが細ければ大きな花は咲きません。一般的に見られるように1輪だけの開花の花サイズは大きく、多輪花で同時開花となればそれぞれの花サイズは小さくなります。

 もし大輪花タイプとされる株がその株サイズや輪花数に関わらず花は常に一般の1.5倍ほど大きいのであれば、4倍体のような生殖細胞を有すると言えば良いのですが、そこで小さな花が咲くようなことがあれば偽称となりかねず、単に大きな花が咲いた株から得た実生であることで固有名を付けたに過ぎないのではと疑っています。 固有名を付けるのであればその特性が保持され継承される保障が必要です。Den. papilioDen. tobaenseで大きな花を得るには、2 - 3年かけ適切な輝度と肥料を与え、バルブを太くすることが必要です。これまでこれらの種をそれぞれ数百株栽培をし、大小様々なサイズの花を得てきましたが、背丈は同じでもバルブの太さは花サイズに大きく影響することが分かっています。
 
Den. chameleon alba Bulb. othonis Palawan Den. victoria_reginae
Coel. hirtella Coel. celebensis Coel. longifolia
Phal. bellina wild Phal. sanderaina semi-alba Den. papilio
Den. sp (endertii-complex) Sulawesi Bulb. carunculatum Bulb. trigonosepalum

スラウエシ島Bulbophyllum spのその後

 下写真左および中央は4年前の2015年歳月記に掲載した、1mを超える長い葉と花茎をもつ珍しいスラウエシ島生息のBulb. spです。下写真中央の開花様態からはAltisceptrum節のようですが、現在もネット検索からは該当する種が見当たらず、4年間毎年注文をしているものの入荷ができません。花茎と花付が似たマレーシアやフィリピンミンダナオ島生息のBulb. penduliscapumとは葉形状が異なり、本種は下垂する細長い葉が特徴です。当時10株程入荷し半数以上を販売しましたが、初めて取り扱う種であることから栽培環境が分からず、高温室での栽培としました。しかしほとんどが1年程で葉を落とし僅かな新芽を残すのみとなりました。いわゆる秋・冬・春はなんとか現状維持は可能だが東京や浜松での夏は越せないと云った種です。昼間35℃程で熱帯夜が年間7割を占めるマレーシアラン園にも10株ほど在庫されていましたが半年後には殆どが落葉し、1年程で全て枯れていました。

 そうした状況から中温室(15℃- 28℃)に移動しての2年間の栽培でようやく栽培条件が分かってきました。Bulb. penduliscapumもそうですが、環境温度は高温となっているものの高温下での栽培ではほぼ確実にじり貧状態になります。こうした情報と実態の相違は、たまたま入荷した株が高地であったという推測もできますが、Altisceptrum節は環境に敏感な種が多く、夜間温度の高温(25℃以上)と根が乾燥を非常に嫌うように感じます。

 下写真左は2015年の入荷時の株で、中央はサプライヤーからの開花画像です。右は左に見られる入荷時の葉が全て2年間で落葉し、その後の中温室への移動によって九死に一生を得てリゾームや葉が発生・成長した株です。若葉は立性ですが葉長が40㎝位になる1年後から徐々に下垂し始めます。入荷当初は大株であったため杉板への取り付けでしたが、2年前に炭化コルクとヘゴ板に分けて観察した結果、本種はヘゴ板よりも炭化コルクの方が活着状態が良く、今回35-40㎝ x 12㎝の炭化コルクに植え替えました。それぞれは子株ながらも11株となり今後の葉長の伸びを確認しながらの販売となります。


Draculaの商品化準備

 南米Draculaの商品化をと考え2年以上が経ちます。70種350株程のDraculaを現在栽培しており、他の属種の管理に多忙な中、昨年3月からそれまでのスリット入りプラスチック鉢からメタルリングと炭化コルクへの植え付けを行ってきました。それぞれの植え付けの中では花茎が全方向に伸長できるメタルリング(植え付け方法は昨年3月の歳月記に記載)が最も成長が良く、下写真左はDracula vampiraを炭化コルクへ植え替えのため1昨日(25日)撮影したもので、4株の内右端の1株がスリット入りプラスチック鉢、他の3株はメタルリンクによる1年3ヶ月の栽培結果です。いずれも植込み材はミズゴケとクリプトモスミックスですが、根の張りは左3株が圧倒的に良く、入荷時の状態からの根の数は3-4倍増加しています。

 一方、栽培にメタルリングは良いものの、商品として出荷するには花茎が4方に伸びている場合、本属の花茎は長く、且つ折れ易いため梱包が困難で今後は炭化コルク付けに順次移行することにしました。すでに昨年から炭化コルク付けの60株ほどを観察続けた結果、根張りはメタルリング程はないものの一方で、温度が適温からやや高くなると発生する葉先枯れはほとんど見られません。そこで今回の植え付けからはメタルリングと同等の保水性と根張り面積を広くとる目的で炭化コルクを35㎝ x 10cmサイズとし、特に根元にはミズゴケを厚く覆った植え込みとしています。右写真は、左から順にDracula marsupialis、Dracula mendozae、Dracula lafleuriiおよびDracula vampiraです。Dracula vampiraを除く前者3株は、それぞれDracula属の中で一般フォームとしてはかなり高価な種で、特にDracula lafleiriiは米国マーケット向け価格はDracula vampiraの3倍程です。

Dracula vampira Dracula marsupialis、mendozae、lafleurii and vampira (from left)

Bulbophyllm inacootesiiNepenthes truncata

 5月入荷株の植え付けが相変わらず続いているものの若干余裕が出てきました。そこで相当数入荷したBulb. inacootesiiの一部を展示会向けの大株にしてみようと50㎝および43㎝の大きなブロックバークにそれぞれに寄せ植えしました。下写真左が植え付け後の状態で左の大きなバークには葉付バルブ数で40バルブ、右は25バルブとなっています。葉の無いバルブ数を含めるとバルブ総数はそれぞれ前記の約2.5倍となります。これまでの経験からは中温栽培で開花期は早春ですが、年末からやや高温下に置き開花をサンシャインラン展に間に合わせようと考えています。購入希望者には予約を受け付けます。

 一方、右はNepenthes truncataです。1m程の株を4株栽培しています。しかし入手して3年経つもののこれまで云われるほどの大きな捕虫嚢が得られず20㎝以下で、果たして本当に野生株なのか交配種ではないかと疑問を持っていました。今年2月に温室内のレイアウト変更があり、バルボフィラムの温室の通風のあるやや明るい場所に移動したところ、まず葉が30㎝程に一回り大きくなり、また下写真右に見られるように30㎝を超えるサイズの捕虫嚢を付けるようになりました。情報によると本種の捕虫嚢は45㎝程になるとのことでさらに大きくなることを期待しているところです(後記:写真の株は後日入手希望者に販売済み)。これまでNepenthesはほとんど扱っていませんでしたが、先月のサンシャインラン展にてすべて野生栽培株の4種12株を販売しました。初日ラベルには種名だけとしたところ興味のあるらしき人は見ていくのですが買うことはありませんでした。そこでサプライヤーから聞いた生息地(山名)をラベルにつけたところ1日で売り切れとなってしまいました。市場のNepenthesの多くは幾代にも渡る挿し木増殖や人工交配のため生息地情報が薄れており、詳細な生息地の分かる株は趣味家にとってかなり価値があることを知りました。来年のサンシャインラン展には単なる生息国や島の名前ではなく、生息山地名や少なくともProvinceが分かるNepenthesを50株程出品する計画です。

Bulb. inacootesii Nepenthes truncata

現在開花中の花

  下写真で上段左はスマトラ島Ache州生息のDen. toppiorumです。Acheは初めてで植付けして50日程ですが現在多数の株で蕾を付けています。中央はスラウエシ島標高1,000mを超える生息地のDen. furcatumです。一般種のリップは紫色ですが写真はalbaタイプとされる株です。開花して既に1か月以上経過しています。一方、右はミンダナオ島北部スリガオ生息のDen. boosiiです。本種はリップが薄いピンクから赤味のある色まで多様ですが、写真の花は、縁がオレンジ色でラテラルセパルの基部が緑色のこれはこれで爽やかな色彩ではないかと思います。

 下段左はボルネオ島生息のDen. dianae f. flavaです。本種も赤と黄色のツートーンカラーからリップ側弁基部に褐色の斑点が入るフォームと多様ですが、写真は黄緑色一色のflavaフォームです。中央はBulb. hamatipes.で当サイトでは初めての開花です。 右は中国南部雲霧林帯生息のSchoenorchis gemmataです。5mmに満たない花で温室の奥に置けば開花に気付かない程です。前者のバルボフィラムとともに低温室にての栽培です。

Den. toppiorum subsp. taitayoraum Den. furcatum Den. boosii
Den. dianae f. flava Bulb. hamatipes Schoenorchis gemmata

Bulbophyllum claptonense f. flava (aurea?)

 今年もBulb. claptonense f. flavaの開花が始まっています。本種はバルボフィラムとしてはかなり高価にも拘わらず購入希望者が多く、マレーシアを訪問する毎に注文を続けているのですが、気に入った株がこれまで2年間得られていません。毎回2-3株用意されてはいるものの株サイズ(バルブの太さ)が気に入らず買わずに帰っています。そうした中、浜松にある株を今年2月に株分けし、それぞれを炭化コルクからブロックバークに替えて栽培していました。そうしたなかで開花中の株があったこともあり、浜松温室に先週来られた常連さん2名が分け株を希望されたため2株を販売しました。下写真は親株ですが、次の株分けは2-3年後になります。マレーシアラン園には現在も注文を続けているところです。

Bulb. claptonense f. flava

Dendrobium sororium

 昨年12月の歳月記でソロモン諸島からのDendrobium spとして取り上げた本種が順調に成長しており、下写真に見られるように同時開花の輪花数も増えています。国内マーケット情報が見当たらず国内初の取扱いとも思われますが、いくつかの点でorchidspecies.com(以下OSCという)の記載内容とは異なるため再度取り上げてみました。OSCによると本種はスラウエシ島標高650m - 1,300mとされています。一方、サプライヤーによると入荷株はソロモン諸島とのことですがOSCにはソロモン諸島生息の記載がありません。生息地が両者正しいとすると、スラウエシ島とソロモン諸島との間に位置するニューギニアに本種が見られないのは地理学的に不可解です。また生息する標高から低温から中温とされていますが当栽培では高温環境が適し、開花も3ヶ月毎に見られます。さらに香りについてOSCでは不快(fetid)な匂いとの記載ですが、当栽培では微かな草の香りで不快感はありません。

 本種は2日花で花は短命ですが昨年12月の入荷からこれまで3回の開花があり、2ヶ月間隔で開花しています。デンドロビウムでの短命花種は年2-3回の開花が多く、このまま続けば年間開花数は4-5回になるかも知れません。現在、ポット(ミズゴケ・クリプトモスミックス)、木製バスケット、炭化コルクのそれぞれ3種類の植込みで栽培をしており、いずれも成長は良好です。新根や新芽の発生が活発で至って丈夫な種と思います。

Dendrobium sororium

株サイズと顧客年齢と価格について

 本サイトではどのような属種についても同じ種であるのならば、より大きな株を入手し販売することをポリシーにしています。海外への発注でも当サイトの注文品は元株の大きさをそのまま保ち、細かく株分けしてはならない、それなりの大きさならばそれなりの価格をつければ良いと言い聞かせています。ラン取引ではコレクターやラン園を通過する間に株はだんだん小さくなり、最終的には株にとって生きていくための最小限度である、バルボフィラムならば3バルブ、ひどい場合には3年前のスマトラ島からの株に見られたように1バルブ毎に細断されてしまいます。野生株や野生栽培株が僅かそれぞれ3バルブ程を単位に成長していることはなく、多くはクラスターやコロニーを構成している筈です。細断は商売上の手段に他なりません。

 それでも4-5年前に比べてフィリピンやマレーシアラン園では当方の、小分けされた株は買わないという強い要望があることで、それ以前から比べれば当歳月記で頻繁に取り上げているように大きな株が入るようになりました。一方で、そうした当方の要望もあってか、すでにコレクターの段階で細断されてしまった株がある場合、購入されないのではと2-3株を糸で結んで大きくしたラン園の作業員にとっては気の毒なクランプ株がしばしば見られます。例えば最近のBulb. inacootesiiは新種で、その入手ルートも新規のため周知されておらず最初のロットではコレクターの段階で3バルブ程に細断され、2回目のロットでようやくバルス数の大きな株が増えました。しかしそれでも3割程は小分けされ、これらは販売前に5バルブ以上になるよう炭化コルク上で寄せ植えとなります。バルブ数の少ない株については現地作業員も当方も何とも無駄な作業をしている訳です。細断を避ける理由は、大きさは、開花率、花数また花サイズに大きく影響するためです。また3バルブを10バルブ近くまで栽培環境において大きくするには、順調に成長したとしても種にも依りますが、4-5年、自然界でも2-3年は必要です。その間の栽培コストのみならず、病気や害虫被害のリスクもあります。

 一方で1-2バルブ株は論外として細断された株であっても、3バルブもあれば花が咲かないことはなく輪花数やサイズにこだわらなければそれでも良いとする趣味家も多いと思います。要はサイズと価格のどちらを優先するかの問題です。これも小分されただけその販売価格がリーゾナブルに下がっていればですが。そこで最近は特に生息環境に大きく依存する葉サイズについては2割程は一般サイズも入荷するようにし、またバルブ数と価格の関係については温室訪問者に限りその場で価格を決める傾向が高まっています。具体的に言えば若い人にはオンライン価格に比べ可能な限り安価にするということです。

 一方で年配者の中には、展示会に出品できる程の多輪花で見栄えの良い大株を得たい、しかしそうなるまで自分で栽培するとして5年も10年も待ってはいられないないと、冗談か本気かは兎も角、そう言われる方も多く、温室を訪問される年配者の方にはラン展会場やオンラインではできない互いに話をしながらの売買が増えています。無論オンライン販売でのサイトカタログ価格はこれまでと変わりません。生体を扱う販売は一つ一つが日々その品質が変化し、また形、大きさ、植物では植込み方法などそれぞれが異なり、同一種であっても一律な価値を決めることが厄介な背景があります。

植付けが終ったParaphalaenopsis labukensisPhalaenopsis philippinensis

 先月初旬と中旬に入荷したPhal. philippinensisParaphal. labukensisの植え付けがそれぞれ終わりました。今回のPhal. philippinensisはルソン島Quirino州の生息とされ20株の内、葉長30㎝を超える大株が5株ほどあります。本種はPhalaenopsis節の中では唯一中温タイプとなります。一方、右写真の2列並んだParaphalの画像は、下段がParaphal. serpentilinguaで、その上を越えて葉が長く垂れ下がっている上段列がParapahl. labukensisです。上段の新しいミズゴケの付いた炭化コルク植えの内、葉長の長い9株が新規入荷株で葉長はそれぞれ1.5m-2.0mです。、他はこれまでの在庫株および新たに植替えをした株です。5月のサンシャインラン展では葉長1.5mサイズを12,000円としました。この種は葉長の長さで価格は大きく変わり、海外マーケットにおいて60㎝で3,000円ほどですが1mとなると10,000円以上になり、1m以上はほとんど見かけません。1.5m以上のサイズがマーケットに纏まって出るのは初めてではないかと思います。

Phal. philippinensis Paraphal. labukensis

Bulbophyllum pustulatumBulbophyllum ocellatum

 午前中に開花し、午後には花を完全に閉じてしまうボルネオ島生息種Bulb. pustulatumを前記で取り上げましたが、昨日朝9時に写真をと温室に行ったところ時すでに遅く花は閉じていました。そこで本日(11日)は6時半に向かい、ようやく全開写真を撮ることが出来ました。orchidspecies.comに書かれている通り、およそ3時間の開花であることが分かりました。これほどの早朝開花では展示品としては不適で、また販売店においてもオープン時には花は閉じていることになるため開花した花を見て買うことはまずできません。こうした早朝3時間開花という揺ぎ無い習性は何千年、何万年を経て生まれた進化の結果であり、同時にそれはそれを生み出す本種を取巻く環境と共にあってのことです。そうした生物多様性を生み出す自然の背景や雄大さを花一つから感じとることが出来、近年あるいはこれからの地球気候の急激な変動の中ではおそらく生まれ得なかった習性ではと考えてしまいます。原種ならではの感慨かも知れません。 さて何日間この開閉が繰り返されるのか、今日で4日目となります。取り敢えず花色が異なる2株を撮影しました。朝6時半の撮影です。(後記:花寿命は6日でした)

 ついでにと、こちらも午前中にしか開花しないフィリピン生息種Bulb. ocellatumが開花中であったので撮影しました。写真の株がBulb. pardalotumではなく、Bulb. ocellatumとするのはリップ形状(前者は幅広扁平に対し、本種は細長く先端が尖る)からの判断ですが、ネットで画像検索すると多くの画像で両者が入り乱れており、セパル・ペタルの形状、また色や斑点等の花フォームからは種名判断が困難です。

Bulb. pustulatum
Bulb. ocellatum

Dimorphorchis lowii

 2m程の長い花茎に2つのフォームの異なる花を付ける本種は、ボルネオ島低地に生息する高温タイプで人気の高い種の一つです。1枚の葉の長さが50-60㎝長の良質な大株の植え付けがほぼ終了しました。Dimorphorchis属はVandaに似た株形状ですが一部のVandaのようにベアールートの吊り下げは適さず、鉢を用いたバークやクリプトモスによる植え込みで良く成長します。しかし花茎の長さからベンチ置きも適さず、高い位置に吊り下げるバスケット植えが一般的です。特にその太く固い根が四方八方に伸びる野生栽培株には多数の根が活着できる木製バスケットが合います。

 しばしば株は元気なのだが花が咲かないという声を趣味家から聞きます。その原因の多くは輝度不足です。開花を得る条件は、根を乾燥させずしっとり感を長く保つことと高輝度です。下写真はDimorphorchis lowiiの中型木製バスケット植えで、今回バスケット内にはミズゴケを敷きバークを詰めました。今回このサイズとしては一般的な市場価格の半額となる5,000-7,000円(株サイズによる)の販売です。

Dmrphr. lowii

Bulbophyllum facetum

 フィリピンルソン島のNueva Vizcaya標高1,200m生息のBulb. facetumが現在開花しています。ペタルスパンが7.4㎝とバルボフィラムとしては大型の花で、これほど迫力のある種がなぜ2000年近く(1996年)まで知られていなかったのか不思議です。当初標高データーから中温室に置いていたものの、なかなか開花しないので20株ほどある半数をそれぞれ中温と高温に分けて栽培しました.。根張りや新芽の成長はいずれも同じで環境温度差による相違は見られません。そうした中、高温室の株で開花しました。入荷から1年近くなります。

 本種は午前中全開し、午後からは閉じ始めます。そういえばサンシャインおよび東京ドームラン展で人気があったBulb. pustulatumも現在開花中で、朝早く開花を確認したため、明るくなってから写真をと昼過ぎに向かったところ2時過ぎですでに花は完全に閉じていました。orchidspecies.comによると夜明けから3時間開花した後、次の日の夜明けまで閉じるそうです。一体この開閉を何度(何日間)繰り返すのかと興味が湧き調べたところBulb. facetumは凡そ4回だそうです。Bulb. pustulatumは記録が見つからないため本サイトの株で検証です。いずれの種も昼間濃霧に覆われる雲霧林の生息で、花が濡れるのを避けるために進化した特性と思われます。おそらくポリネーターも霧がでれば先が見えなくなるでしょうから花を見つけることも出来ず飛来しないのでしょう。

Bulb. facetum

Dendrobium (Euphlebium) elineae

 Euphleblium elineaeが現在開花中です。EuphlebiumはDendrobium属に統一されており、種名はDendrobium elineaeとなります。これまでのEuphlebiumはリップのフォームにバラエティーがあるもののセパル・ペタルは白色であるのに対し、本種のセパル・ペタルは明るいまたリップは濃いオレンジ色が特徴です。フィリピンLuzon島北部Ilocos Norteに生息し2009年発見、2017年orchideenJounalに掲載されました。新種のためか情報が少なく、これまでのEuphlebiumやバルブ形状の似たDen. amboinenseなどと同様のFugacia節に分類されると思われます。国内マーケット情報は当サイトを除き無く、当サイトが国内初の取扱い種かも知れません。開花中でなければDen. balzerianumなど他の類似種との外形上の明確な違いがないため同定することは困難である一方、開花は年に4回程あるものの短命花です。このため本種名で入手を希望してもサプライヤー側で開花時に花を確認し他種とは別管理していない限り、本種かどうかの確信は得られません。

 当サイトでは40株のDen. balzerianumDen. bicolenseの中から下写真の株を含め僅か2株のみの出現でした。高温タイプで炭化コルク植えで成長も良く、歳月記2019年3月に紹介した株はすでに株分けして販売をしました。
 
Dendrobium elineae

新規植え付け株の一部

  先月のサンシャインラン展前に入荷した株の本植え付けを現在進めており、その一部を撮影しました。全てこうした植え付けは手作業のため500株を超えるとなかなか終わりが見えません。やっと5割を超えたところです。植え付けは猛暑前に終了させないと歩留まりが一気に低下するため時間との戦いです。すでに炭化コルクの使用量はサイズ90㎝x60㎝角に換算して40枚を超え、50枚目に入っています。Phal. schillerianaは数えたところ2月から合わせて130株程ありました。Phal. mariaeは40 x 12㎝炭化コルク付け(他の下垂タイプ胡蝶蘭原種は35 x 12㎝)です。胡蝶蘭野生栽培株にとってこれまでの30 x 10㎝長では根張り面積が小さいことが分かりました。デンドロビウムのFormosae節も35 x 10㎝炭化コルクで、取付け位置をこれまでの下部から中央に移し、下部に向かう根の伸びしろを大きくとり、ミズゴケの厚みもやや増しました。これら植付け方法の変更は栽培を通しての観察による判断です。

 Den. igneo-niveumはコルクと鉢植え(バーク・ゼオライトミックス)に分けています。Bulb. inacootesiiはこれで1/3の取付数です。Den. toppiorumtobaenseは1年ぶりの入荷です。今回のDen. toppiorumはこれまでの同じスマトラ島北部の中でもAche生息株とされ初めてとなります。ボルネオ島のDen. ovipostriferumは浜松に転居して初めての入荷となりました。シノニムとしてDen. takahashiiとも呼ばれます。5 - 6㎝の白いセパルペタルに明るいオレンジ色のリップは良く目立ちます。入手難なのかマーケット情報がほとんどありません。この名前で検索するとDen. deareiが今だに誤って表示され、orchidspecies.comではこの原因が取り上げられています。現在開花中のDen. ovipostriferumの花写真を、東京ドームの当サイトのブースで撮影したBulb. inacootesiiの花写真と共に最下段に掲載しました。 一方、1.5mを超える Paraphalや良質のDimorphorchisなど全く手づかずの種もこれからが本植えとなります。

Phal. schilleriana Phal. bellina
Phal. amabilis Borneo Phal. mariae
Den. igneo-niveum Aerides leeana
Phal. appendiculata Den. consanguineum Den. ovipostriferum
Bulb. inacootesii Den. toppiorum subsp. taitayorum Den. tobaense
Den. ovipostriferum Bulb. inacootesii

Cymbidium elongatum

  本種はボルネオ島キナバル山周辺の標高1,200m - 2,300mに生息するシンビジウムで、その標高からコールドからクールタイプとされます。すなわち夜間平均温度は10℃以上、18℃以下が必要となります。本種は古い葉が枯落ちても茎を包む葉の基部(葉鞘=ヨウショウ)は落ちることなく枯れたまま残ります。このため入荷時も枯れた葉鞘が何枚も重なって茎に付いています。こうした株の生態写真がorchidspecies.comに見られます。植え付け時、枯れた葉鞘を取り去るか、付けたままとするかは悩ましいところです。自然界では雨水が主茎と葉鞘との間に浸み込み保水性を高めているのか生息地画像では葉鞘の周りにはコケが多く付着しています。また枯れた葉鞘は固いことから長い主茎を害虫や寄生植物から守る役割があるのではとも考えられます。

 本サイトでの栽培においては、茎の2/3近くが枯れた葉鞘に覆われた姿は原種とは言え余り美しくないため下写真のように取り去ってから植え付けています。そのため脇芽あるいは生きた葉のある位置近くまで茎をバーク内に埋め込みます。一方、マレーシアではこうした低温生息種も出荷過程では1ヶ月以上高温に晒され、入荷時点では根のほとんどが枯れ、1-2本が辛うじて残っている状態が頻繁です。この品質レベルからは順化栽培が必須となりますが、低温環境での栽培であることから、新たな根が主茎から覗き出すのは高温タイプ種に比べ2倍ほどの4-5ヵ月を要します。植え付けはスリット入りプラスチック深鉢に大および中粒の発酵バーク2:1混合にゼオライトを2割程度混ぜ合わせています。このように今年からは低温タイプの植え込みには、これまでのミズゴケ・クリプトモスからバーク・ゼオライトミックスに順次植え替えをしています。これは植え込み材の劣化の影響を遅らせるためです。大粒使用であるため気相が大きくなることから種によっては鉢内の湿度をできるだけ長く保持する目的で鉢表面の一部を薄くミズゴケで覆っています。

 下写真は新しく入荷したCym. elongatumで主茎の端から頂芽先端まで40㎝程の株です。このロットの新根の発生と頂芽の伸長を確認しての順化後の出荷は凡そ今年の初冬頃を予定しています。

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6月は害虫被害が目立ち始める月

  下写真左はDen. officinaleのナメクジ被害です。左写真とは別株ですが、本来ならば右写真のように多数の葉が伸長していた筈でしたが株の一つが2日間程で葉のほとんどを食べられ無くなってしまいました。ベンチ上には多くの他の属種があるにも拘わらず、ナメクジは他には目もくれず高貴薬となる鉄皮石斛Dendrobium officinale Kimura & Migoを集中的に食害するとは何事かと。まさか健胃薬となる本種をナメクジが食べることで一層ナメクジの胃が丈夫になり食欲旺盛になられては大変と、ナメクジ駆除にこの右に出る薬剤はないと思われるマイキラーをさっそく散布したところです。

Dendrobium officinale Kimura & Migoナメクジ被害(左写真)


 下写真中央はParaphal. labukensisの葉内で孵化したオオランヒメゾウムシと思われる幼虫です。この被害については昨年8月の歳月記に”オオランヒメゾウムシによる被害と対策”として取り上げました。困ったことにこの害虫の被害はいつも後手にまわり、成虫あるいは齧られた痕を見つけての殺虫剤散布となっています。葉の一部が齧られるのであればまだしも、茎や写真のような円筒状の葉に卵を産み付け、やがてその幼虫によって芯部が食べられれば羽化する頃には、それまで食い尽くされた部位は腐り黒変しその先はやがて枯れ落ちます。 おそらく10年以上かけて伸長したであろう1.5m以上あったParaphal. labukensisが写真左のように20㎝ほどになってしまった被害は深刻です。

 ところで、この害虫に対しては昨年8月にオルトランとテルスター混合液が効果的ではないかと記載しました。その後、オルトランの250倍希釈をしばしば使用してきましたが、成虫に規定希釈のオルトランを散布した後、小さなビニールパックに入れ状態を見ていたところ1日経過しても死なず、はたしてアセフェート成分は接触では死なず、葉を食べる(吸汁)ことで効果が得られのかと。そこでもう一つのピレスロイド成分(速効的ノックダウン効果をもつ)を含むアディオン乳剤で同じように成虫に触れさせテストをしてみたところこちらの成分では10分程で死にました。この結果を得て、アディオン剤を定期的に散布する計画です。

Paraphal. labukensisのオオランヒメゾウムシ被害


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