12月Bulbophyllum blumei 昨年キャメロンハイランドにあるラン園のFacebookにポスティングされたBulb. blumeiの写真を見てその大きさに驚き、キャメロンハイランドを訪問した際、5株程を入手しました。園主によると栽培環境によって大きさが変わるのであまり期待しない方が良いような話しでした。浜松に持ち帰って杉皮板に付け最初の開花を見たのは昨年暮れで、その時は6㎝程の普通のサイズでガッカリしました。普通種と思い忘れかけた頃、2度目の開花があり初回から2-3㎝伸長していました。この株以外にBulb. blumeiはBulb.. maxillareと共に数株所有していますが、いずれも季節や環境によってサイズが変わることはなく不思議なこともあるものだと思っていました。今回3回目の開花ではさらに伸長し、とうとう10㎝を超え12㎝となりました。キャメロンハイランドラン園の画像はドーサルセパルからラテラルセパル端までの長さが16㎝ほどと異常な長さで、どうやら調子が良ければ本当にその程度の長さになるかも知れないという期待が出てきました。下写真左は今回開花の本種の写真で、右写真の左の花は一般のBulb. blumeiで、右が本種です。これでも同一種かと思います。この大きさが環境に影響されることなく一定ならば4N体となるのですが、条件によって普通サイズもあり得ると言うことはそうではないことになります。いずれにしても来年にはいよいよ16㎝に到達するのかどうか楽しみです。今回のラン展で2株ほど販売します。
Bulbophyllum新種? 5月に入荷したミンダナオ島からのBulbophyllum spが開花しました。この形状に似た種にはBulb. basisetum, Bulb. cooteii, Bulb. giganteum, Bulb. mearnsii, Bulb. nymphopolitanum, Bulb. papulosum, Bulb. recurvilabreおよびBulb. trigonosepalumがあり、その中でyellow フォームがあるのはBulb. papulosumとBulb. trigonosepalumの2種です。さらにリップ中央弁の表皮が滑らかであることはBulb. trigonosepalumと同じです。そこでBulb. trigonosepalumとの比較となりますが、本種のサイズは(カッコはJ. Cootes氏のPhilippne Native Orchid SpeciesのBulb. trigonospalumの値)ドーサルセパル2.5㎝(to 5㎝)、ペタル1.6㎝(2.5㎝)、ラテラルセパル3.5㎝(to 6cm)です。to xxxとあるためカッコ内数値は最大値となり、Bulb. trigonosepalumにもそれぞれ本種のサイズに近いものもあり得るとも考えることは出来ます。そこで形状比較を行うため下画像を取り上げてみました。上段左が本種、右がBulb. trigonosepalumです。画像で比較するとセパルおよびペタルの縦横比はそれぞれ大きく異なり、下画像の左右が同一種で単に色違いとは考えにくく違和感があります。さらに調査が必要と思われます。価格はまだ未定ですが開花株をラン展に出品します。
Bulbophyllum sp Seremban 10月のマレーシア訪問でトレーに敷いたミズゴケの上に無造作に置かれた株があり、園主に聞いたところ種名が分からない地元(セレンバン)のバルボフィラムで花もまだ見ていないと、何もかもあやふやな返答でした。小さな花であろうことは想像できましたがバルブと葉の形状からこれまで在庫しているタイプと異なると思い20株相当を持ち帰りました。浜松では炭化コルクにそれぞれを植え付けました。クリスマスも過ぎ水撒きをしていたところ花が咲いていることに気付きました。下写真がその開花画像です。赤紫と黄色のコントラストが綺麗な5mm程の小さな花で、花の小ささよりも何より同時に多数の花が写真のように一斉に開花している様子がこれまで見たことが無い、いかにもジャングルの大木の膚にコケと共に活着している名もないバルボフィラムのような景色です。一株が30個程のバルブから成り、現在20株ありますが、全てが同時の開花です。低地生息種と思われます。種名は調査中です。数株出品します。
Dendrobium sp Sumatra (Den. compressimentum?) 10月の歳月記に取り上げたスマトラ島からのGreen flower spとして新しく入荷したデンドロビウムが開花しました。ラン園主からの花画像に間違いなくCalcarifera節と思われます。花正面での左右セパルのスパンは3-3.5㎝、横面のドーサルセパル先端からSpur端までは4.5㎝です。リップ中央弁とSpur形状に特徴があります。本サイトより購入された方からはDen. compressimentumの可能性があるとのご意見を頂いています。orchidspeces.comにこの種名のページがあり、それによるとスマトラ島およびボルネオ島生息種で標高1,400-1,800mとされます。問題はorchidspecies.comにあるOrchid Wikiから引用された花画像で、リップ基部にある灰色に反射する部位が何か画像からは理解できません。中央弁およびSpur形状はDen. compressimentumと今回の本サイトでの花形状は類似しています。Den. compressimentum以外に該当する種は今のところネット検索では見つかっていません。下写真が浜松温室にて開花した画像です。開花直後は緑色(下段右)が強く、3日程で黄色味が増し、写真上段の色合いで安定します。他の疑問点は記載される標高で、クールタイプとなるのですが、浜松温室では葉形状から判断して高温室に置いています。冬季のためやや低く18℃ - 27℃での栽培となっているものの根が良く伸長し、今回の開花です。ミズゴケとクリプトモスミックスのバスケット寄せ植えです。Den. compressimentumの命名は1928年と古いのですが、花写真がORCHID WIKIしかなく、またネットでのマーケット情報は国内外を含め皆無です。このためDen. compressimentumとするとDen. atjehenseのように近年の再発見種ではないかと思われます。こちらも2-3株をラン展に出品します。 Bulbophyllum sp Palawan (Bulb. concinnum) (後記:本種は種名Bulbophyllum chrysendetumに修正しました。Feb. 2024) PalawanからのBulb. spの一つが開花しました。下写真に示すようにBulb. concinnumでした。本種はフィリピン、タイ、ベトナム、ボルネオ島、インドネシアなど広く分布し、低地から標高1,000mを超える生息域とされます。1輪が5mm程の小さな花で7-8輪が同時開花します。フィリピンには下画像に似たBulb. cherysendetumが生息し、J. Cootes氏の著書によるとミンドロ島とレイテ島に生息のフィリピン固有種とされます。その中でBulb. cherysendetumは輪花数は4輪までとされシノニムはありません。今回開花した花は全て5輪以上8輪程です。一つの疑問は、orchidspecies.comではBulb. concinnumがフィリピンに生息するとされている一方で、J. Cootes氏の著書Philippine Native Orchid Speciesには記載されていないことです。ところがフィリピンPalawanから入荷した種はその輪花数からはBulb. concinnumと思われます。であれば考えられることはJ. Cootes氏の著書発行2009年以降にフィリピンでの生息が確認されたことになります。このPalawan種は園主自らPalawanから持ち帰ったもので本種がサプライヤーの取り扱いミスによって、例えばボルネオ島から持ち込まれた可能性はありません。 一方、Palawan生息種の葉やバルブを観察するとネット画像に見られるBulb. concinnumと比べて、葉もバルブもより短形で丸みのあること、またリゾームが細いようです。これはBulb. cherysendetumに似た形状であり、こうした点から種名に関しては変種、亜種等の可能性も含め調査が必要と思われます。広域生息種であるにもかかわらずマーケット情報はほとんどありません。本サイトでは1,500円(4-5バルブベアールート)から3,000円(大株炭化コルク付け)としてサンシャインラン展販売ブースのPalawanコーナーに出品します。
Phalaenopsis gigantea Phal. giganteaは胡蝶蘭原種の中で葉長60㎝を超える最も大きな種として知られています。ボルネオ島生息種で数十年前まではよく見られ、その葉の大きさと厚みから家畜の餌にしていたこともあるそうです。大別してその花フォームはボルネオ島Sabahタイプとインドネシア領カリマンタンタイプがあり、乳白色あるいは淡黄色をベースに赤褐色の斑点のあるタイプがSabah、茶褐色がカリマンタンとなります。特にSabahタイプはプランテーションや乱獲で、今日最も希少な種の一つとなっており、胡蝶蘭原種の中でCITES Appendix I相当種を選ぶとすれば本種が最有力候補となります。野生株はマレーシア原種専門のラン園にても2012年以降一度数株の入荷株を見た限りです。一方、カリマンタン生息株は時折見られますが、それでも4-5年前から野生株の入荷は激減したそうです。現在はタイおよび台湾で実生株が盛んに生産されており、趣味家が今日入手できる株の殆んどはこれら実生です。こうした実生の中には本サイトが指摘しているように異種間交配種も多数見られます。6年ほど前、Phal. giganteaの野生株を探していたところ、マレーシアのHEW ORCHIDの園主が自宅の庭で趣味としてPhal. giganteaを栽培している情報を得、自宅を直接訪問しその際、4-50株ある中からSabahタイプのPhal. giganteaを20株程入手することができました。その園主によれば10年近くかけて育てた株とのことで、すべて大きく成長した株ばかりでした。本サイトがこれまで掲載してきたPhal. giganteaの画像はここで入手したものです。1昨年にもこの園主に入手可能か打診しましたが庭を改造したことで環境が変わり枯れてしまい、現在はPhal. giganteaの栽培はしていないとのことでした。こうした背景から今後、Sabah野生栽培株の入手はほぼ不可能と判断し、Sabahタイプを始め、アルバや黄色ベースのaureaフォームなど在庫する株の自家交配を行うことにしました。 Phal. giganteaが絶滅状態になった理由の一つが、苗から開花株に至る期間の長さです。多くの胡蝶蘭原種はフラスコ出しからFSサイズに成長するまでに3年から4年程かかります。しかしPhal. giganteaは8年です。この性格がそんなに長くは待てないという大半の趣味家の意向により、サプライヤーにとってFSサイズを手っ取り早く入手するには山採りしかないとの判断から乱獲され、今日の状態に至ったというものです。 現在マーケットでは、葉長10㎝程、左右の葉の合計(あるいはスパン)が20㎝程度のフラスコ出しから2年程の実生株がしばしば見られます。これを購入する方はPhal. giganteaのダイナミックな姿や花フォーム、また柑橘系の良い香りを想像してのことと思います。しかし果たして花が咲くまでにはそこからさらに最短でも6年以上を要することを理解してのことかどうか。花の無い株を6年以上育てるのは結構忍耐が必要です。定年退職後の趣味としてラン栽培を楽しんでいる方々にとっては、たかが6年されど6年です。しかもその6年間は株に病気や害虫による被害があってはなりません。ところが害虫にとっては肉厚の本種の頂芽の若芽は余程美味しいらしく、齧ったり卵を生んだりと、ランの中でもっとも彼らに狙われ易い種の一つでもあります。単茎性の本種にとって頂芽が落ちるのは致命的で、余程の栽培経験者であれば頂芽を失っても1年で脇芽を出し再生できるかも知れませんが、その脇芽がFSサイズになるにはさらに4年程かかり、あと1-2年で開花と言ったところで虫食いや病気ともなれば栽培者にとっては本種の栽培は、冗談か本音か、自分の寿命との相談となってしまいます。 さて長い前置きでしたが本題です。前記した6年ほど前に入手したSabahタイプのPhal. giganteaがランゾウムシと思われる害虫に頂芽を齧られて落ち、その後脇芽を得て、これを3年間栽培した株が4株程あります。一枚の葉長は20㎝以上のため左右葉の合計は40㎝を越えます。この内2株をサンシャインラン展に出品する予定です。野生栽培株の脇芽のため実生とは異なり開花までの期間が1-2年短く、またまさしくPhal. gigantea Sabahの野生株です。下写真がその株の一つですが、これを60㎝x20㎝の炭化コルクに植え替えての出品です。Phal. giganteaの野生株、特にSabahタイプを一度は自分も栽培したいのだが開花までに長い年月がかかり過ぎると諦めている方はラン展にお越しください。価格は東京博多間の往復交通費程度を考えています。
Phalaenopsis amboinensis albescens Phal. venosa albescens wildとして5年前マレーシアにて入手した株は、その後の調べでPhal. amboinensis albescensの可能性が大と本サイトで取り上げたことがあります。3年ほど前にこの株を試験的に自家交配してフラスコ苗をつくり昨年フラスコ出しをして栽培していました。これが下写真の左の株を親とした右がフラスコ出し2年目の実生苗です。この親株とは別にアメリカから入手したPhal. amboinensis albaも栽培していますがこちらは4年間毎年自家交配を試みていますがまだ胚のあるタネが得られません。そこでalbaもalbescensもマーケットには無い希少種であることからまず下写真右の実生を5株程サンシャインラン展に出品販売してはと考えています。2年程で開花株になると思います。
AJOSサンシャインシティラン展2018 AJOSサンシャインシティラン展が来年1月5日から4日間開催されます。本サイトは2ブースサイズで出店します。このため今回はブース幅が7mで通路側と壁側奥で2段ラック構成にすると十分なスペースが取れ、生息域別の原種の展示と販売を企画しています。生息域はそれぞれボルネオ島、北スマトラ島、ニューギニア、Palawanの4エリアとなります。この地域固有のデンドロビウム、胡蝶蘭、バルボフィラムなどを多数展示します。この地域を跨ぐあるいは以外の種(Vanda、セロジネ等)は別エリアを設けます。さらに本サイトで紹介している新種(2000年以降、発見、命名あるいは再発見されたもの)、希少種、国内マーケットではほとんど見られないデンドロビウム、胡蝶蘭、バルボフィラム、セロジネなど、さらに名称不明種を集めたコーナーも設ける予定です。胡蝶蘭では野生株と実生株との違いを示す比較展示も計画中で、Phal. giganteaと見間違いするほどのPhal. bellinaや、1株でもこれほど大きくなるものなのかと驚くようなPhal. modestaなどを持って行きます。 一方、本サイトでの7月からの植え替えの主な取り付け材となっている炭化コルクによるデンドロビウムからバルボフィラムがブース壁一面を覆うことになると思いますが、これらから原種の取付や栽培の実際もご覧頂けます。この中にはこれまでポット植えが常識とされたDen. papilioやDen. toppiorumなどの垂直板栽培での成長の様子が分かる展示も含まれます。 ブース隣はエクアドルからのMundifloraです。こちらもよろしくお願い致します。 Bulbophyllum ovobatifolium red 今年7,8月で取り上げたニューギニア低地生息種であるBulb. ovobatifoliumの赤色フォームが12月に入り多数の株で開花しています。マーケット情報がほとんどなく、この名前で検索してもBulb. ovalifoliumばかりがヒットし、本種名はなかなか検索できません。こちらからorchidspecies.comで情報が得られます。そのなかで本種の花色についてはドーサルセパルは黄色、一方、ラテラルセパルは基部が赤で先端に向かって黄色に変化するフォームであるとと述べられています。しかし下写真上段が今回開花した8株程の内の2株で全てが同じフォームのラテラルセパル全体がフル(ソリッド)レッドです。本種のカラーフォームの観察では、下段左のドーサルセパルが黄色でラテラルセパルが橙色と黄色の2色、一方下段右はドーサル、ラテラルセパル共に先端部に黄色を残しながら左に比べ赤味が増した色合い、さらに上段の赤色が鮮やかなフルレッドの、それぞれのフォームが見られます。不思議なことは下段左の黄色フォームの株は開花毎に常にこのフォームが固定しているのに対し、上段と下段右の株は同じ株である筈にもかかわらず、今回の開花でフルレッドフォームに変化しています。順化が終了し、株が落ち着いたことによりこのロットがもっている本来のフォームが現れたのか、7月と比べ12月の温室内の平均気温が4℃程度低くなることから、気温による色変化なのかさらに観察してみる必要があります。本種は花が下写真のように長く下垂するため、床置きのポット植えは適さず、サンシャインラン展には炭化コルクに植え替えたフルレッド株を数株出品します。 Bulb.sp Sumatra 今年5月の歳月記で紹介した北スマトラ島Aceh州からのBulb. sp(sp4)が開花しました。下写真がその画像です。現在種名を調査中です。サンシャインラン展に出品する予定です。Den. sp Borneo こちらも今年5月の歳月記でボルネオ島SabahからのDen. bifariumに似たBulb.spを取り上げました。Den. bifariumやconnatumと本種が異なる点はリップ中央弁の3裂と側弁形状に見られ、また葉形状もこれらと比較して短径で丸みがあります。今回当サイトの常連さんからこのBulb spの開花写真と伴に幾つかの情報を頂き、これを参考に当方でも種名に関し調べてみました。開花画像は下写真左となります。形態からはDen. connatumグループと思われますが、その中では最も色合いの美しい種ではないかと思います。問題はまずこのBulb. spの種名です。マレーシア園主はコレクターからの写真から新種ではないかと当サイトに紹介しました。花画像を検索すると、bluenanta.comのページに同じ形態の写真が掲載されており、種名がDen. pahangenseで、Den. connatumとDen. rupicolaとの自然交配種とされています。しかしいつも本サイトで取り上げる疑問がここでも起こりました。 まずDen. pahangenseとはどのような種であるかをネット検索したところorchidspecies.comにも自然交配種としてのx pahangenseが記載されており標高1,200m - 1,300mのマレー半島生息種で1930年の命名とあります。問題はその花画像が前記bluenantaの同種名の画像とは全く異なることです。Den. pahangenseをDen. connatumとDen. rupicolaとの自然交配種とすれば、orchidspecies.comにある花画像は両者の特徴を継承した様態がまるで見られません。、 一方、bluenanta.comの花画像は、すなわち下写真の花画像は、その交配親とされるDen. connatumとは形状的に同じグループの印象を受けます。しかし、リップ先端を含む3裂形状と側弁のサイズおよび形状に可なりの違いがあります。またDen. rupicolaとはどの点が継承されているのか理解できない程です。敢えて言えばリップ中央弁の幅広な点とその色が本種のリップ中央弁外周の色に現れているということでしょうか。また、Den. connatumはボルネオ島、一方Den. rupicolaはマレー半島とされ、この生息域が正しければどうして南シナ海で分断された地域間で自然交配が可能となったのか、大陸移動の前からの種であるのか、いずれにしてもこれら両者を交配親と断定するのは疑問点が多々あります。遺伝子間距離などのDNA解析が必要かも知れません。 では戻って下写真の種が自然交配種でないとすると正しい種名は何かが問題です。 最も形態的に近いのはDen. connatumグループと思われます。しかしDen. connatumグループには現時点では該当する種が見られず、また本種はボルネオ島Sabah生息種です。これらの点からマレーシアラン園主が語る新種の可能性がやはり高いように思われます。本種は1月のサンシャインラン展に数株出品する予定です。
Bulbophyllum sp (cheiri-like yellow) Palawan 標題はPalawan諸島から5月に20株程入荷した株の名称です。Bulb. cheiriのような形状の黄色い花という意味と思われます。その中から下写真の花が今月開花しました。8㎝程の比較的大きな花です。Bulb. cheiriの花色の一般フォームは淡いオレンジ色あるいは赤褐色のセパルペタルに白と茶のリップです。しかし今回開花した種は全体が黄色で、それが故にyellowと形容したのでしょうが、花のフォームやリップ形状からはBulb. cheiriというよりはBulb. megalanthumに似ています。Bulb. megalanthumはマレー半島西岸やMaluku諸島、フィリピンではルソン島ケソン州での生息が知られており、J. Cootes氏は著書でフィリピン内ではさらなる生息域の可能性があると予測しています。Bulb. megalanthumをネット検索をしたところマーケット情報が国内外共にほとんどありません。特にPalawan諸島からの本種の登場は初めてと思います。生息域は標高550mの比較的明るい環境で、岩性および着生とされ、よって高温タイプとなります。Palawan産の本種の販売価格は未定ですが本種もサンシャインラン展に5株ほど出品する予定です。(後記:Bulb. cheiriの花は匂いが弱く、倒立して開花する一方、Bulb. megalanthumは、倒立せず甘い香りがよく漂うとされています。確認したところ甘い香りがハッキリと認識でき、下写真のように倒立していないことからBulb. megalanthumであることが分かりました)
Bulbophyllum nymphopolitanumとmearnsii これらバルボフィラムはフィリピン固有種でBulb. nymphopottanumはミンドロ島、Bulb. mearnsiiはBohol島およびミンダナオ島の生息種です。今回開花したBulb. mearnsiiはミンダナオ島から今年5月に入荷した株で、20株程の全てが大株です。おかしなことにBulb. nymphopolitanumをネットで画像検索すると一つも該当する画像がなく、flicker.comに同種名とされるバルボフィラムはBulb. trigonosepalumです。一方、orchidspecies.comの画像もBulb. trigonosepalumを掲載しており誤りと思われます。またこの種名の解説にはBulb. nymphopolitanumグループ(complex)としてBulb. mearnsiiやBulb. trigonosepalumとも外形は似ていると書かれています。Bulb. mearnsiiを除き、果たしてBulb. nymphopottanumが他の種と似ているのかどうかは個人の印象によるところが大なので否定はしませんが、本サイトのバルボフィラムのサムネールからそれぞれの画像を見ることが出来ます。正しい画像はJ. Cootes氏のPhilippine Native Orchid Species著書にあるもので、本サイトではフィリピンラン園の入荷名とJ. Cootes氏の著書にある画像を確認しての掲載です。これほど株も花も存在感のある種であるにも拘わらず正しい画像が少ないのは不思議です。それだけ取扱いの少ない種なのかも知れません。確かに3年前に入手してから後、Bulb. nymphopolitanumをフィリピンのラン園で見ることがありません。本サイトでは1昨年の東京ドームラン展に2-3株を出品し販売した記憶があります。Bulb. nymphotopolitanumは濃赤色のラテラルセパルと、やや黄色味のあるドーサルセパルとペタルが一般フォームで同時に2-3輪が開花します。今回開花した株は下写真(左)のように全体が濃赤色でインパクトがあります。一方、Bulb. mearnsiiは花茎当たり1輪ですが、花が終わると次の花がタイミングを合わせたように開花し、すでに2ヶ月間開花を続けています。1月のサンシャインラン展にはそれぞれを2株ほど出品予定です。
Phalaenopsis kapuasensis この聞きなれない胡蝶蘭原種名は、今年9月にボルネオ島西Kalimantanで発見(命名)された新種とされています。本種名で検索するとその花画像を見ることが出来ます。またPhalaenopsis kapuasensis (ORCHIDACEAE), A NEW SPECIES FROM KALIMANTAN, INDONESIAN BORNEO Destario Metusala1, Peter O’Byrneのジャーナルには本種についての詳細が記載されています。ジャーナルのIntroductionではPhal. gigantea、Phal. derweyensis、Phal. rundumensisに次ぐPhal. giganteaグループの一つとされており、葉は大きくPhal. giganteaグループと理解できるのですが、花フォームは異質で、まるでPhal. gigantea(リップ形状)と、Phal. amboinensis(セパルペタルフォーム)のハイブリッドのような印象です。またConclusionには本種についてはさらなる調査が必要で、それには多数の野生個体群の情報が必要だが私利のため生息域から取り去られ販売されていると述べられてもいます。かってボルネオ島Sabah Rundum地域で2011年発見の新種としてPhal. rundumensisが登場しマーケットにも現れました。その翌年となる5年ほど前に10株以上をマレーシアにて入手したことがあります。その時のコレクターの示した画像はあたかもPhal. doweryensisのaureaフォームのようでした。しかし入手した株や花フォームからはPhal. doweryensisとの違いを見出すことが出来ず、2分岐anteriorカルスの先端1mm程が反る(Phal. doweryensis)かストレート(Phal. rundumemsis)かの違い以外は栽培条件も同じであることを経験しました。現在(12月時点)orchidspecies.comでPhal. rundumemsisを検索できますがこのページの画像は本サイトからの引用です。内容は本サイトによるものではありません。結論として本サイトではPhal. doweryensisとPhal. rundumemsisは同種と見なし区別していません。今だ6株ほど栽培しており販売品種名はPhal. doweryensisです。 最近は、名称不明種として入手した株が開花する毎に、種名を探すことにほとほと困っているのですが、個体差や地域差あるいは変種と思われる範囲のフォームの違いであっても別種名が命名されている印象を強く受けます。分類学研究者にとってはジャーナルへの新種名発表数がノルマになっているのかと皮肉にも思えてしまいます。 マレーシアなどを訪問すると自然林を利用した栽培法がしばしば見られます。野生株を移植したものがほとんどですが、中には台湾やタイからのフラスコ苗や幼苗を自然林に植え付けて育てているケースもあります。こうした中では人工ハイブリッド種が自然林に活着している不自然な光景も見られます。これは極めて危険な行為で、もしウイルスに感染した実生を自然林に置けば、昆虫を介してそれまで数万年自然界で進化してきた野生種にまでウイルス感染を広げることにもなります。一度クアラルンプール近くのラン園で奇妙な花フォームを1株見つけ、そのラン園主に尋ねたところ自然交配の新種との説明でした。それを聞き、このラン園は信用できないと何も買わずに帰りました。Facebookが世界中のあらゆる人々に利用され、ランのマーケット情報が時差や国境を越えて行きかう近年では、うがった見方をすれば、人工交配種を自然林に植え付け、数年後にこれを野生の新種と偽称してネットに流し、お金儲けを企む人が出てきても不思議ではありません。 さて話を最初に戻し、Phal. kapuasensisですが、10月マレーシア訪問時にいつものラン園主から写真を見せてもらい、当初は安価であったが現在は200ドルになっているとの説明がありました。花フォームは先に述べたように本サイトの経験からはハイブリッドのイメージが強く、あまり興味がないことを伝えました。最近の情報ではドイツの業者がアルバフォームも含め持ち帰ったそうです。このドイツの販売業者は日本のラン園にも納品しているので、まもなくとんでもない高額でこのPhal. kapuasensisが日本に現れるかも知れません。 新種とされる野生株が果たして本物か偽物かは自家交配によって胚のあるタネが得られるかどうか、さらにその実生の殆んど全てが親株と同じフォームを再現できるかを調べるのが一般趣味家にとっての有効な手段と思います。かってPhal. schilleriana purpureaというピンク色が濃色の胡蝶蘭(商品名の株は今もあります)が台湾から市場に出ました。本サイトでも7年ほど前、台湾のラン園よりそれが野生株からの選別種と聞き、その花色とサイズに魅かれ多く購入しました。しかし一般Phal. schillerianaの野生株は100%成功するのですが、このpurpureaフォームは5年間自家交配を続けたもののタネは得られず、ハイブリッドからのメリクロンと判断し廃棄しました。E.A. Christenson氏のPhalaenopsis A Monographではpurpureaはメリクロンであろうと述べています。果たしてPhal. kapuasensisはどうか、やがて原種として入手されるであろう趣味家の方は上記のような試みをされてはどうかと思います。 本サイトでは胡蝶蘭原種の新種とされるものはDNA分析を基に系統的情報を含めた科学的な立証がない限り信用していません。すなわち視覚(形態学)的な分類だけではなく、本サイトの参考資料リストにある研究文献(Chi-Chu Tsai, "Molecular Phylogeny, biogeography, and evolutionary trends of the genus Phalaenopsis")に類するようなアプローチが必要と考えます。それだけ現在胡蝶蘭原種に限って言えば、その多くが純正か人工的な交配種かが分からないままの園芸品種に変貌しつつあるためです。 Dendrobium tetrachromum 今年7月マレーシアにてボルネオ島生息種であるDen. cymboglossumを入手しました。その株の中から形状の異なる花が開花しました。Den. tetrachromumと思われます。Den. tetrachromumは中温とされますが、今回開花した株の栽培環境は高温です。中サイズのDen. cymboglossumと花の無い株で比較する限り、視覚的な違いがほとんどなく、葉はややスリムであるものの長楕円で似ており、両者を識別することは困難です。この背景から1次業者の段階でDen. cymboglossumに混在していたものと思われます。一方、40㎝程に成長したDen. cymboglossumで比較すると、疑似バルブは全体にずんぐりとしており葉サイズも大きくなりその違いが分かるようになります。下写真が今回開花した花です。ペタルの左右端のスパンは4㎝です。10月の本ページで取り上げたスマトラ島からのDen. spの花フォームとも似ていますが、こちらとは疑似バルブの形状が大きく異なります。Den. cymboglossumに混在して入荷したこととDen. cymboglossumと同じボルネオ島生息種でもあることから生息域の一部では共存しているのかも知れません。Bulbophyllum sp Palawan フィリピンPalawan諸島の地理的特徴から、この地域の原種はMindanao島と共に注目しています。5月には種名不明なPalawan生息種が多数入荷しました。その中のCirrhopetalum節の一つが開花しました。下写真の上段左が本種です。花形状からは同国のBulb. brevibrachiatumに似ており、右写真が本種(左)とBulb. brevibrachiatum(右上下)を比較した画像です。本種の葉サイズはBulb. brevibrachiatumの2/3程で、全体の雰囲気からは、両者は地域差とも考えられますが異種のような印象でもあります。下段写真の左および右は本種とBulb. brevibrachiatumのリップ拡大画像です。数万年前は陸続きであったボルネオ島とルソン島が地殻変動により分離するなかでPalawanはその間にあり、やがてこれらの島とも海を挟んで隔離されたため、このエリアに残った種は独自の形態に進化したものが多く、聞くところによると昆虫や小動物には固有種が多いそうです。本サイトではPalawan諸島からの種名不明のデンドロビウムやバルボフィラムを多数栽培しており今後の開花が待たれます。
Vanda limbata perplexa (Vanda perplexa) 10月の本ページでマレーシア訪問時に入手したVanda limbataを取り上げました。下写真の左は入手時に本サイトが現地で、また中央は浜松温室で撮影したものです。 写真を整理していたところ、このVandaに付いていたラベルの画像が見つかり、ラベルには下写真右にあるようにlimbata perplexaとあり、ネットで検索したところperplexaはVanda limbata blumeの類似(affinity)種とする情報がありました。この鮮明な赤色をもつ種はVanda limbataの変種かと当初思いましたが、セパルペタルのカラーフォームとリップの形状の相違から2013年に別種としてVanda perplexaと命名された新種と分かりました。強い甘い香りがするそうです。Vanda perplexaはオオトカゲ、コモドドラゴンで知られるインドネシア領コモド島を中心とするLesser Sunda諸島の生息種です。国内のみならず海外においてもネット検索ではマーケット情報は見当たりません。本サイトでは本種の販売価格を4,000円としました。AJOSサンシャインラン展にも5株程出品します。
Dendrobium rindjaniense 数珠状に繋がったような節間が特徴の本種はインドネシアLombok島北部の標高3,700mのRinjani山からその名が付けられ、その生息域はこの山の1,900mから2,000m程とされます。よって栽培は低温から中温タイプとなります、本サイトでは中温環境としています。今月に入り本種が開花したため写真を掲載しました。この株は5月入荷した4株の一つで 順化後の初花のため花数はまだ少ないのですが栽培環境に慣れれば5-6輪程になると思います。一方、10月には纏まって良質の株が入荷しました。これまでの栽培状況から全てを炭化コルクに植え付け順化に入りました。垂直板への取り付けは良好で新しい芽や根がそれぞれの株に見られます。順化栽培は今月で完了するため、新年1月5日からのAJOSサンシャインラン展に10株程を出品します。株サイズは様々で、3,000円から大株の5,000円の範囲で販売予定です。数に限りがあるため購入希望者は早い者勝ちです。BtoBは行いません。全ての株に新芽や新根のあるもののみを出品します。
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