7月猛暑下での栽培と発送 連日30℃を超える猛暑日が続いています。名古屋や豊橋などラン愛好会に所属する多くの方々は7月に入ると低-中温タイプ株の山上げを行っているそうです。本サイトの浜松の温室は15m x 5.5mの温室1棟分をクールから中温タイプのラン用として2台のエアコンで冷房しているため山上げは不要でしていませんが、高温タイプの温室ではここ数日間、遮光70%の寒冷紗と天窓全開であっても37℃まで上昇し、午前午後の2回、150m地下からの16℃の地下水を散布し辛うじて昼間の温度を32-34℃としています。ここ2年程の入荷で、これまで扱ったことのない種が増えorchidspecies.comなどの情報を参考にそれらを高温・中温・低温環境に振り分け栽培しています。しかしマーケット情報が少ない、またあまり知られていない種に関してはサプライヤーやネットの情報が疑わしい内容が多々あり、猛暑下で順化中の株には細心の注意が必要となっています。特に種名不明種は生息環境情報がなく、株の形態から適温と思われる温室にまず配置はするものの間違いがしばしば起こります。それが適温か否かを見極める手段は、多くのランが最も元気な様態を見せる早朝の時間帯の観察が重要で、前日や前々日の状態と比べてどうか、少しでも弱わっているような状態が見られれば温度の異なる温室に直ちに移動します。逆に前日よりも元気が良さそうだと感じればそのまま栽培を続けます。入荷時点で新たな種が20-30種あると、植え付け後1-2ヶ月はこのような看視に追われます。 観察すべき株の状態とは葉の張りや色の変化で、前日あるいは数日前と何が違うか、いわゆる状態比較による診断を行います。さらにはその数日間の変化だけでなく昼間と早朝の変化も重要で、昼と早朝での変化が感じられないのであれば、多くの属種において健全とは言えず、その原因は主に夜間の湿度不足です。夜間湿度が80%以上ある適温下においては、早朝の殆んどの株は昼間のヘタリや無表情さに比べ生き生きとしています。順化中の株であっても日に日にその変化は大きくなります。その変化が見極められるようになるにはある程度の経験を積まなくてはならないかも知れませんが、そこは感じ方の問題で何となく分かってきます。農家で野菜や果物を栽培している方であれば、わずか1日の内であっても植物に日々表情があることは周知のことと思います。ランも同じです。 さてラン栽培にとって最もリスクを伴うことは植え替えです。猛暑期と寒冷期に温室を訪問され、持ち帰られる趣味家の方には、それまで植え付けてある状態のまま持ち帰って頂いていますが、植え替えは秋口あるいは早春と伝えています。冷暖房の温室をもつベテランの趣味家であれば植え替えはいつでも良いと思いますが、一般論としてこの時期の植え替えは避けるべきです。 問題は猛暑期に株を発送する場合です。野生であれ実生株であれ、それまで栽培していたポットや支持材から株を取り外し、これをプラスチックポットへの仮植えやベアールートにして発送します。素焼き鉢やヘゴ板に取り付けたままでは梱包の際の積み重ねが重量で難しくなったり、段ボール箱内で多くのスペースを占めるからです。仮植えされた株は直ちに栽培環境に適した植え込み材と鉢に植え付けることになりますが、植え替え後に栽培環境が35℃を超えるとか10℃以下になれば、植え替えで根が傷ついた株にとっては根が腐敗し作落ちの原因になります。また細菌性の病気の発生率も急上昇します。 本サイトの常連さんは、直接温室に来られ持ち帰る方を除き、7月から9月中旬までの期間はほとんどが取り置き注文となっています。涼しくなってからの発送です。ビジネスとしては猛暑期と寒冷期は困ったものですが生きた植物を販売する以上止むを得ません。見方を変えればこの時期こそ販売する側にとっては時間に余裕ができ、上記したような設備さえあれば常識的には不適切な時期ではあるものの植え替えが纏めてできる期間でもあります。 下写真は新入荷および植え替えが終わった株で、吊り下げ型の株の支持材はこれまでヘゴ板と杉板でしたが、今年6月からは全面的に炭化コルクを採用しています。炭化コルクは4年ほど前から一部で利用していました。ヘゴ板は高価過ぎて一般材としては使用できません。また杉板は低価格で軽く、株の取り剥がしも容易で良いのですが、裏面にカビが生えることがあり、室内栽培には敬遠されがちです。炭化コルクはコルクチップを固めこれを炭化させたもので、ヘゴ板よりは保水性は劣りますがコルク単体よりは透水性が高く保水力もあり、また炭ですので使用開始してから5年目を迎えますがカビの発生や劣化は見られません。標準サイズである90 x 60㎝板を、株サイズに合わせカッターナイフで切断し利用しています。炭化コルクの価格はサイズ30x20㎝のヘゴ板(1,700円)に対して同一サイズ換算で1/5以下(200-300円)となります。
現在開花中のボルネオ島デンドロビウム4種 28日現在温室にて開花中のデンドロビウム4種を撮影しました。上段左はボルネオ島Sarawak生息種Den. crabro、右は同じくボルネオ島Sabah生息種で2010年登録の新種Den. datinconnieaeです。下段左はDen. sanguinolentumのボルネオタイプでクリーム色のセパル・ペタルおよびリップ先端に紫色の斑点があります。この斑点は生息地によって変化が見られ、特徴はリップ中央弁上の橙色の斑点と縦のラインです。下段右は今回のキャメロンハイランド標高1,500mのラン園を訪問した際に入手したDen. connatumに似た種名不明種です。Den. bifariumやDen. connatumはリップのフォームや葉形状に違いが見られますが、この株の花サイズはこれらに比べ小型で、フォームはDen. connatumのalbaタイプのようです。同じ場所で栽培されていた他の株の花もDen. bifariumやDen. connatumに比べ小サイズでしたが全てDen. bifariumに見られるリップ中央弁にラインが入ったフォームで、この1株のみがリップ全体が白単色であったため別種あるいは変種と考え入手したものです。ボルネオ島生息種と思われます。
Rhyncostylis rieferii 1月の歳月記で紹介した本種が開花しました。1月のサンシャインラン展で5株ほどPurificacion Orchidが出品しましたが4株が売れ残り、引き取って本種を調べたところフィリピン固有種で2013年登録の新種と分かりました。穂状花序で藤色の花が特徴です。本サイトでの紹介により3日程で完売したため、その後10株を入荷しましたがこれらの株も残すところ僅かとなりました。入荷してから時間が短く、根がまだ十分に伸長・活着していない状態にもかかわらず7月に入り半数以上で花芽が発生し始め、最初の開花株が下写真です。花は1組ですが根が増え安定すれば同時に3-4本の花茎が見られるようです。高温タイプでバスケットにコルクチップで植えつけです。
温室の片隅で忘れ去られていた希少株 新しい株が次々と入荷し温室が混んでくると、レイアルト変更が幾度となく繰り返され、それぞれの株はあちらこちらに移動分散されていきます。常に開花しているのであればともかく、1年に一回の開花で、しかも同種の株は全て同じラベルであるため、数十株もあればそれぞれがどのようなフォームであったかやがて忘れ去られていきます。最近水撒きを行っていたところ、4-5年間植え替えもなく温室の片隅に置かれていた胡蝶蘭が2株開花しており、そのフォームを見て驚きました。それが下写真のPhal. bellina coeruleaとPhal. violacea albaです。ここ2-3年花を見ていなかったため、いずれも枯れて廃棄されたか、一般種に混ざって売ってしまってすでに無いと思っていたものです。ラベルは汚れて種名が読めず洗ってみたところ名前の後ろにPhal. bellinaはAAのマークがあり、Phal. violacea albaは無印でした。 驚いた理由はそれぞれ違っており、Phal. bellina coeruleaは2012年入手時の購入額が15万円程で、それだけ希少フォームと言うことですが、すでに存在しないものと思っていたにもかかわらず再会(写真左)できたこと。一方、Phal. violacea albaは10年以上前に入手したものですが、今日のPhal. violacea albaは選別と交配が繰り返され原種本来の形態が失われるなかで、Phal. violaceaの美しいフォーム(写真中央と右)を保有していたことです。さっそくこれらは植え替えを行いラベルも他との識別可能なマークをつけ温室の最も目立つ場所に移動させました。
Dendrobium amboinense 1日花で知られたDen. amboinenseが3日間開花していることが珍しく写真に撮りました。昨年まで本種は素焼鉢にミズゴケと言った古典的な植え込み法で、本種が半立ち性であることから支持棒で株が垂直になるように支えて栽培していました。開花はorchidspecies.comの記載では春となっていますが浜松では年2-3回開花します。その特異な花形状から知名度は高いのですが文字通りの1日花のため本種の花を直に見た人は少ないのでは。栽培しようとする人はかなりのデンドロビウムマニアと思われます。今年初め3年ぶりの植え替え時期となり素焼き鉢に支持棒をつけ無理に株を立たせている栽培風景に違和感を覚え、自然に近い状態が良いとヤシガラマットを巻いた円筒にミズゴケで根を押さえ、株の姿勢は成り行きに任せる植え替えを行いました。こうすると新芽は上に向かい、一方成長したバルブは水平からやや下がり気味となり、花はバルブ元から20㎝程離れて空中に垂れ下がる様態で、風景は一変しました。こうした新しい取り付け材で今年は春先と今月の2度目の開花となります。例年では秋にも開花しているので年3回の開花はほぼ間違いないと思われます。今回、完全開花後から3日間花が留まっていることや、下写真右に示すようにドーサルおよびラテラルセパルは10㎝長ですので、本種の花サイズを計る際、よく使用される方法であるセパルを伸ばしフラットにした場合の縦幅で計算すると(ドーサルとラテラルセパルの和)20㎝となり、本種サイズとしての最大レベルになったことは初めてです。これも不自然な植え込みから吊り下げ型に変えたことの効果かも知れません。新芽も良く発生しています。写真左は数年前の開花時での撮影、中央および右は今回の3日目の撮影です。閉じ始めていますのでそろそろ落花となります(後記:着花は5日間で最長記録でした。但し見頃は2日間です)。
マレーシア持ち帰りランの植え付け 今回のマレーシアでの入手株は415株となりました。12日から植え付けを開始し、23日でようやく胡蝶蘭原種30株程を除き植え付けが終わりました。今回の入荷数は過去2年間の10回程の訪問のなかで最も少ない株数です。しかしこれまでは、鉢植えとヘゴ板などの吊り下げ式取り付けの比率が4:6程度でしたが、今回はほとんどが吊り下げタイプとなり、支持材にミズゴケをつけながら針金で1株づつ取り付ける作業は、材料の裁断などの準備を含めると1日ででき上がる数はせいぜい25株程で、ポット植えの1/3-1/4の効率となり休暇無しで2週間かけてもやっとです。問題はこの2週間が株の歩留まりを左右する重要な期間となることです。胡蝶蘭、デンドロビウム、バルボフィルムの順で取り付けを開始するのですが取り付けされるまでの待機期間が長いと株に徐々にダメージが発生します。植え付けはこの時間との戦いで、胡蝶蘭ではトレーにそれぞれの株を並べ、根の周りにミズゴケを被せた簡易的な待機状態に置いた場合、1週間は辛うじて維持できても1週間以降は1日当たり数%の割合で歩留まり率が低下します。2週間以上そのような状態に置けば凡そ50%、半数の胡蝶蘭は細菌性病気の発生で失うことになります。 デンドロビウムやバルボフィラムは胡蝶蘭に比べて強いですがこれは一般論で、根の細い種、移植に弱い種、中-低温種など、入手するまでにすでに2週間程現地に置かれ根の大半がダメージを受けている株は、胡蝶蘭以上に植え込みの優先順位を高めなければなりません。また枯れることが許されない高額な株を最優先しなければなりません。 人を雇い3日程で一気に植え付けを行えば良いのは分っているのですが人件費は製品価格に影響します。一方、ポット植えは経験のない人でも習得が容易ですが、吊り下げ型は極めて専門的な知識と技術が必要です。それは針金の巻き場所と巻き方にあります。困ったことに種によって花茎が出る場所が異なります。バルブ元からが一般的ですが、リゾームの節からもあります。特に一つのバルブから2本のリゾームが伸び、その両先端が枯れている株(バックバルブによく見られる)はバルブからではなく前に戻ったリゾームの節から新芽が出ます。こうした特性を知った上でないと、単に株を針金で留めればよいという簡単なものではなく節目の上に針金が通らないようにしなければ新芽の発生が阻害されます。また小さな新芽がバルブから覗いている場合、その周りのミズゴケの押さえ方をどうするか、新芽がミズゴケで隠れる状態ではやがて腐敗する可能性が高く、ではどれほど周りを空けるか、またリゾームはミズゴケで覆うことなく、しかし根のみをミズゴケでどう押さえるかなど、その後の成長の良し悪しはそれらの手法で決まります。30-40種ある株それぞれにこうした配慮をしながら行う作業にはそれなりの経験が作業者に求められ、一時雇用の作業者には難しい課題です。 このような背景から、最近目論んでいるのはいっそのこと現地ラン園内に温室を建ててしまうことです。かってこれを取り上げたことがありますが、いよいよ本格的に現地ラン園園主と検討に入っており、これまでラン園で働いている人を活用し上記のような作業を委託するものです。特に珍しいランを求めれば求める程、国を問わず生息域が広がり、また標高が高くなりつつある今日、マレーシアやフィリピンは東南アジアのランの集配拠点としては良いものの、35℃が日常で特別な空調システムを持たない低地ラン園では、低地から高地生息種全ての対応は困難です。では現地においてキャメロンハイランドのような高地に移しての栽培はと考えるのですがインフラや人材が今一つです。結果として外気遮断型構造で温度調整ができLED照明による密閉温室を現地ラン園内に設けるのが最善で、1-2年を目途に計画を進める予定です。これが実現できれば少なくともEstablished Plant(順化が終わった株)を得るまでの栽培は現地で行い、それを日本に出荷し、国内は主にストックヤードとして機能させ、これを販売することになります。こうした流れが実現できれば新しい需要への対応と共に、国内に於ける栽培経費が最小化され全体コストが下がると思われます。現在、フィリピンやマレーシアとのラン園とはそれぞれ7-10年の付き合いで家族同然であることや、往復航空運賃が5万円前後の5-8時間程の距離感、現地人件費は1/3 - 1/5程、インターネットやスマホ等の情報新時代であること等の背景をベースにして実現はそれほど難しい問題ではないように思われます。 Bulbophyllum 25種程のバルボフィラムを今回のマレーシア訪問で得ましたが、その過半数は種名が分かりません。下写真上段は昨日(21日)植え付けを完了したもので、上段左は主にキャメロンハイランドにて入手したPNGからのバルボフィラムが15種類ほどです。中央は右が雲南省からの大型の花が咲くとされる種名不明のバルボフィラム、左がBulb. brienianumのクラスター株。写真右はBulb. claptonense aureaで1株2万円での入手依頼株です。今回の取り付けは全て炭化コルクとなっています。下段写真は温室2棟分の通路壁12m高さ2mに吊り下げられた昨年夏以降に入手したマレーシア、フィリピン、インドネシア、タイなどからのバルボフィラムの一部で凡そ300株です。全てバルボフィラムです。その内、7割が種名不明種です。年内には半数以上の株の種名が開花によって判明すると思います。 怪しげな株 マレーシアに訪問する3週間ほど前に、Den. cinnabarinumの新種とサプライヤーから画像が送られてきたと、ラン園園主からメールをもらいました。先にDen. cinnabarimum var. angustitepalumで40株を購入した同じサプライヤーか別人かは分かりませんが、いくら秘境のボルネオ島でもそれ程、変種や新種が頻繁に見つかるものかと疑心暗鬼になりつつも、その画像を送ってもらいました。それが下写真です。デンドロビウムに詳しい人であれば一目で、その株はDen. cinnabarinumではないことが分かります。バルブと葉は確かにDen. cinnabarinumと同じ形態ですが、バルブの根元にDen. cinnabarinumやDen. aurantiflammeumに見られる膨らみがありません。さらに怪しげなのは写真右の花です。常識からして花を見せたいのであれば花に焦点を当てて撮影するものですがピンボケでよく分かりません。善意に解釈すれば花が小さくて携帯カメラではフォーカスが合わなかったのか、あるいは疑えばハッキリと花を見せてはまずいのか、いずれにしても花形状、とりわけリップ形状はおよそDen. cinnabarinumとは似ても似つかず、なぜこれがDen. cinnabarinumなのか理解に苦しみます。そこで画像からはDen. cinnabarinumとは思えないが園主がDen. cinnabarinumと思い株が写真通りの品質であれば40株注文してもよい。但し手に取ってみて違うことが分かれば買わないと伝えました。 訪問したところ40株が入荷していました。園主によるとこれらの株は一株を除いて誰にも販売していないとのことでした。しかし実物を見てやはりDen. cinnabarinumでないとの判断と、品質も1株が4-6本程のバルブから成るものの、葉付は1バルブがほとんどで多くが落葉していたため買うのを止めました。その日はそれで園主も諦めたようです。ホテルに戻った後、ふとこの株を思い出し、もう一度PCにある下の写真を見てみました。では一体この株は何かとの興味からです。株はDen. cinnabarinumではないことは明らかですが、ピンボケの花とは言え、前提としてこの花がこの株のものとしてこれまでに見たことがない組み合わせでないかと思い始めました。これも善意に解釈すればですが、殆んどのサプライヤーはラン名の知識は乏しく、かと言って名無しでも売ることは難しく、株の全体形状から何か名前を付けるとするとDen. cinnabarinumが適当と思って、それこそ適当にそう付けた可能性もあると。 そこで翌日ラン園にて、40株程ある株の中から品質のまずまずの株を選び、6株だけを持ち帰りました。帰国のJALの中で、園主は1株をマレーシアの趣味家に売ったとのことですが果たしてその趣味家はこの株をDen. cinnabarinumと信じて買ったのか、また残った株はどうするのか、まさか日本に下写真と伴にDen. cinnabarinum pinkとして入ってくるのではあるまいかなど思巡らしました。現地で何か面白そうなランは無いかと常に求めていると得体のしれないものを勝手な名前を付けて売り込むサプライヤーも多く、それなりの種に対しての知識が無いとリスクも高くなります。一方で、種名と異なるとして無視していればそれも’瓢箪から駒’のような機会も失われます。バイヤーとしてのリスクとチャンスの戦いです。こうした種はサプライヤーあるいは園主が言ったからその名前で販売することはできません。自分で理解した限りにおいて、敢えてそれを求める趣味家に対してはそうした背景を説明する必要があります。 Phalaenopsis speciosa solid blue ついに登場か?と思わせるブルー一色のPhal. speciosaとされる株がマレーシアラン園に並んでいました。果たして本当にソリッドブルーなのか、その濃度や均一性は、と考えると素直に受け入れがたく10株のみ入手してきました。開花サイズなので、さてどのような花が咲くのか花を確認してからの販売です。
Phalaenopsis hieroglyphica Phal. hieroglyphicaはフィリピン固有種ですが、最近では実生であればマレーシアにおいても容易に入手ができます。通常本種の花サイズ(左右のスパン)は5-6㎝ですが、今回7㎝を超える花サイズ株があり入手しました。下写真で左が現在植え付け待ちの本種で、右はPhal. violacea Indigo blueとの大きさの違いを示すものです。この比較から今回のPhal. hieroglyphicaの大きさが分かります。このサイズでも実生株ですので2,500円です。
Phalaenopsis doweryensis これまでの10年間で始めて、入荷時点で葉サイズが50㎝に近い、Phal. giganteaの大株に匹敵するボルネオ島Sabah生息のPhal. doweryensisをラン園で見つけ、これらを含め5株得ました。下写真がそれらです。本種は今日においても情報が余りなく、高温タイプとされ葉も似ていることから4年ほど前まではPhal. giganteaと同じ場所で栽培していました。しかし32℃を超える夏季の高温日が続くと株が日に日に弱まり、根腐れが起こるのか、まず古い葉から落葉し始め夏季後半には細菌性の病気が多発し7割近くが枯れてしまう繰り返しでした。そこで中温温室に移動したところ、それまでとは全く様相が異なり、落葉や病気の発生が見られず適温下に置けば丈夫な種であることが分かり成長もそれぞれが活発で今日に至っています。本種は2001年登録とされており胡蝶蘭としては新種とも言えます。それだけに情報も曖昧です。E.A. Christenson氏の”Phalaenopsis A Monograph”によると葉長は最大で23㎝とされています。本サイトでは現在25株程を栽培していますが葉長23㎝は最も小さな株でほとんどが30㎝以上です。下写真は入手した5株で手前および手前から3株目が葉長46㎝他は32-36㎝となります。Phal. doweryensisは現在が国内では開花期で、1か月程遅れてPhal. giganteaとなります。
Bulbophyllum obovatifolium red ニューギニア生息のバルボフィラムです。現在画像がネットではスケッチ図しかなく、シノニムのBulbophyllum harposepalum で花形状が認識できる程度です。花のフォームはドーサルセパルが黄色で、ラテラルセパルは先端が黄色の赤色ベースとされます。下に今回マレーシアにて入手した本種を示します。標高300mで高温タイプとなります。写真左の花は本サイトが撮影したもの、右は浜松での仮植え中のものです。マーケット情報はありません。
Bulbophyllum falciferum 今回のマレーシア訪問にて入手したニューギニア生息のBulb. falciferumです。Bulbophyllum contortisepalumと類似していますがドーサルセパルの形状が異なるとされます。中温での栽培です。国内のマーケット情報はありません。
Bulbophyllum gjellerupii キャメロンハイランドにて昨年末にPNG(Papua NewGuinea)種として入手したBulb.spが開花しました。種名はStenochilus節Bulb. gjellerupiiと思われます。柑橘系の良い匂いがします。本種に関してはマーケット情報を含めネットにはほとんど記載がありません。浜松では中温栽培でヤシガラマットを筒状にした支持材に取り付けです。
Dendrobium sp2 今回のマレーシア訪問ではボルネオ島生息種としてDen. lamrianum、Den. chewiorum、Den. tetrachronum、Den. endertii、Den. cymboglossum、また在庫が少数となっていたDen. paathiiのそれぞれを予め注文して出かけました。これらの内、Den. chewiorum、Den. tetrachronum、Den. cymboglossumおよびDen. paathiiが入手可能との連絡をもらっていました。ところが現地でそれぞれを確認したところ、Den. paathiiとされる株がこれまで所有する株とは異なり、通常バルブは直径5-6mm、長さは最長で60㎝程ですが、弓なりに曲がったその株はバルブの直径が最大1㎝、長さは1.1mで直ぐに別種であることが分かりました。下写真の手前バスケット3個に植え付けた株がそれらです。バスケットは4株毎の寄せ植えとなっています。ではこの株は何かですが、よく見ると白色のセパル・ペタルに基部が薄黄色らしき落花直前の花が一輪残っており、spurの形状からCalcarifera節であろうことは推測できたのですが、ひどく萎れておりリップ形状を確認するには至りませんでした。こうした場合、それがどのような種であろうとも迷うことなく入手することが後悔しない秘訣であることは過去の経験から分かっており持ち帰りました。帰国後、入手できなかった注文種を調べていると、Den. endertiiとDen. paathiiとは同じ節でまた共にボルネオ島生息種、また白ベースにリップに黄色の斑点があることからもしかすると入手したのはサプライヤーがDen. endertiiをDen. paathiiと間違ったのではないかと疑問が生じてきました。そうであればDen. endertiiの方が遥かに希少種と思われDen. endertiiのバルブ形状データが無いか探しているところです。 Dendrobium sp1 キャメロンハイランドにて入手した種名不明種の一つです。1.5㎝程の小型の花が開花していました。疑似バルブは細く長く、1.5mほど伸長しているものが含まれます。画像を下に示します。特徴は写真中央の拡大画像に見られるようにリップには赤いストライプが入り、中央弁や側弁に細毛があることです。現在種名を調査中です。Dendrobium tetrachromum, Dendrobium chewiorumおよびDendrobium sutepense 今回のマレーシア訪問でDen. cymboglossumを含むDen. tetrachromum, Den. chewiorumボルネオ島生息の3種と、ミャンマー、タイ北部の標高1,500m以上に生息するクールタイプのデンドロビウムDen. sutepenseを入手しました。下が植え付け後の画像で、これから順化栽培が始まります。Den. tetrachromumおよびDen. chewiorumについては栽培・マーケット情報がほとんど無く、現在前者は中温、後者は高温環境で順化中です。いずれも入荷時点でタネが付いており、Den. tetrachromumについては植え付け中にさく果が割れたためタネを採取しました。フラスコによる培養を行う予定です。
Dendrobium insigne f. flavaとDendrobium. consanguineum キャメロンハイランドラン園にてDen. insigne flavaを入手しました。下写真上段左がDen. insigne f. flava、右がDen. consanguineumです。後者はセパル・ペタルの裏がDen. insigne普通種の黄色に対して画像に示すように白色が特徴です。下段は植え付け後の画像で左がDen. insigne f. flava、中央および右がDen. consanguineumです。花の無い株形状からは両者の識別は困難です。マレーシアのマーケットでは多くがDen. insigneとDen. consanguineumを区別することなく混在して販売しているようです。Dendrobium cymboglossum 今回入手したDen. cymboglossumはボルネオ島標高700m以下の中温から高温タイプのデンドロビウムです。立ち性でほとんどが落葉後に開花するようです。マレーシア訪問時に入手株のなかに開花株があり、下写真左はそれを撮影したものです。右は植え付け前の根の状態でほとんどが生きた根で状態は良好でした。こうした細い根の種は経験上、ミズゴケによる植え付けが成長が良いようです。
Phalaenopsis cochlearis 5月に入手した葉長30㎝を超えるPhal. cochlearis野生株が開花しました。本種はPhal. fuscataとのミスラベルが多く、開花するまで半信半疑でしたが間違いなくPhal. cochlearisでした。現在10株程が開花しています。その中で花のベース色がやや薄緑の株が3株ほどあり、一般には開花直後のセパル・ペタルのベース色が薄緑から日が経つにつれてクリーム色に変化していく特性はよく見かけますがそのまま薄緑色を維持しているのは珍しいと思います。下写真がその株の一つです。
Dendrobium sp (Den. falconeri ?) キャメロンハイランドでいつも訪れるラン園ではない現地の原種を主に栽培しているラン園で、1m以上ある細い茎が10数本垂れ下がった変わった形状の株があり、伺ったところデンドロビウムとのことでした。細い疑似バルブに比べピンク色の大きな花が咲くとのことで興味があり種名を聞いたのですが、園主も分からないとのことでした。そこで入手を希望したのですが1株しかなく非売品と言われてしましました。止む無く常套手段の株分けを提案したのですが、かなり頑なで販売する気は全くありません。こちらにたくさんランがあるので見てくれと別場所に案内するのです。こうした場合焦ってはダメで、話しをしながら1時間ほどかけ一巡して戻ったところで再びその非売品を見ながらその株の、分けられそうな場所を探して指差し、ここならば切り取ることが出来るのではないかと、しつっこく説得した結果、渋々ながら分けてくれることになりました。その元株が下写真左のBulb. becarriiの左側に垂れ下がっている柳の枝のような株です。特徴は写真右が示すように、茎(疑似バルブ)の節間が鎖のように繋がっている形状です。栽培されている環境が標高1,500m程のラン園なので、中温タイプと考えられますが、果たしてどのような花が咲くのか楽しみです。Phalaenopsis胡蝶蘭原種 今回入手した胡蝶蘭原種は7-8㎝スパンの大きな花をつけるPhal. hieroglyphica、ソリッドブルーのPhal. speciosaなど8種程です。下写真は浜松にて仮植え中の大型Phal. gigantea(右奥)、Phal. amabilis SabahとPhal. amabilis Java(左上)およびPhal. bellina大株(中央下)です。Phal. giganteaは葉長50㎝、Phal. amabilisやPhal. bellinaは35㎝を越えるサイズです。Cleisostoma williamsonii マレーシア訪問でキャメロンハイランド生息のCleis. williamsoniiを当地ラン園で見つけ入手しました。本種は中国、ミャンマー、タイ、マレーシア、インドネシアなど広範囲に分布しており、標高1,000m - 2,000mの中温から低温タイプとなります。マレーシア半島の花フォームはorchidspecies.comで見ることが出来ます。しかしキャメロンハイランドフォームとされる種は色や花序が他地域のフォームとはかなり異なり、別種のような印象を受けます。特に花色が青く、花と花との間隔が短く、穂状花序のような形態で印象的です。下写真が入手した株と花です。(後記:本種はSchoenorchis juncifoliaとの情報を頂き、キャメロンハイランドの園主に伝えました。国内で容易に入手できるそうです。)
マレーシア訪問 先週末から昨日(12日)まで今年初となるマレーシアを訪問しました。今回もキャメロンハイランドに1泊です。成田を午前11時ごろに発ち、クアラルンプール経由でキャメロンハイランドに直行し、ヘリテージホテルにチェックインしたのは深夜1時(日本時間の2時)で、成田からホテルまで14時間の座り続けの旅行です。チェックイン時のホテル周辺の気温は17℃、翌早朝は16℃で午前中は25℃前後の、麓の猛暑を考えるとキャメロンハイランドは全くの別世界でラン園を回っても汗一つかきません。キャメロンハイランドでは主にパプアニューギニア、中国雲南省、地元生息のバルボフィラムを中心に入手しました。クアラルンプールに戻ってからは、Phal. gigantea大株、4NタイプのPhal. hieroglyphicaなどPhalaenopsisを10種程、デンドロビウムはボルネオ生息種であるDen. cymboglossum、Den. tetrachronum、Den. chewiorum等を含む15種、 バルボフィラムは前記キャメロンハイランド入手株を含め24種、変わったところではDimorphorchis tenomensis、Jewelオーキッドsp、キャメロンハイランドタイプと言われる青色のCleisostoma williamsonii、Den. insigne flava、注文品のBulb. claptonense flavaなどです。いつものようにバルボフィラムの多くは名称不明です。これからこれらの植え付けが2週間程かけて始まります。その間を抜って溜まっている出荷も始まります。入手した株は順次写真を本サイトにて公開していきます。しかし帰国してみるとマレーシアのクアラルンプールやセレンバンよりも日本の方が熱帯国のようでどうなっているのか驚きです。 今回の訪問で、9月末から10月中旬の間に、スマトラ島に出かけるスケジュールを具体化することが決まりました。その次はニューギニアとなります。 Bulbophyllum paradalotum 本種はフィリピンルソン島標高1,200m生息の中温タイプのバルボフィラムです。浜松温室では100株を超える本種を栽培しており現在開花時期となっています。早朝の数時間のみ花を開きますが、10時ごろには閉じてしまいます。この開閉が1輪当たり1週間程続きます。雲霧林帯に生息する小型のバルボフィラムにこうした特性を持つ種がしばしば見られます。今回開花している株は2015年12月のロットで、セパル・ペタルのベース色が黄色と言うよりは黄金色です。本種の一般フォームはセパル・ペタル共に黄色をペースに赤褐色の斑点が5-6 列ほど棒状に並びますが、今回開花した花のセパルにはほとんどこの棒状斑点がなく、金色に輝くようなフォームには驚きました。下がその写真です。
Dendrobium dianae (Two-color form) 2010年登録のボルネオ島カリマンタン生息の、ドーサルセパルおよびペタルが赤でラテラルセパルが赤と薄黄色のツートンカラーのDen. dianaeが3株入荷したことを昨年12月の本ページに取り上げました。国内価格が16,000円程に対して本サイトでは凡そ1/5の3,000円で販売としたところすぐに売り切れてしまいました。そこで今月出かけるマレーシアに20株程を注文しているところです。そうした中、昨年8-10月頃入荷した10株ほどのDen. spが胡蝶蘭と同居していましたが、これを比較的暗い場所から輝度のやや高めの場所に先月からのレイアウト変更に伴い移動しました。このためか今月に入り開花しました。これがツートンカラーのDen. dianaeでした。マレーシアの仕入れ価格を考えると、なぜ本種が国内で1万円以上もするのか分かりませんが本サイトでは前回同様に3,000円で販売です。
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