9月Aerides odorataとDendrobium sanguinolentumの2種3様 今月はAerides odorataとDen. sangiunolentumの開花期です。いずれも花のフォームは3様で特にAerides odorataは同一種とは思えない程の違いがあります。
Bulbophyllum sp 今年5月の歳月記のマレーシアからの入荷第七弾に記載したバルボフィラムsp2が開花しました。こちらは北Sumatra島からの株と思われます。セパルペタルの赤紫色のラインと花サイズの割に大きなリップが特徴です。左右のラテラルセパル間のスパンは4.3㎝です。Dendrobium sp 昨年入手したDen. intricatumの寄せ植えの中に、Den. intricatumとは異なる花が開花しました。該当する種がないかネットで検索調査中です。下写真がその株と花です。当初からDen. intricatumに交じっていたとするとベトナム、タイ、カンボジア生息種の可能性が高まります。さっそく分けて別のバスケットに植え替えました。(後記:会員の方からDen. stuposumの検索画に似た画像があるとの報告を受けました。調べたところ2016年発行の’New records of Orchidaceae from Cambodia II’の論文があり、カンボジアでは昨年新たに記録されたDen. stuposumとして記載されています。当サイトへの入荷時とも重なりますので、その可能性が高いと思われます。一方、現在浜松ではリップがそれぞれ赤、黄、橙の3種類のDen. stuposumを在庫していますが、これらとは花サイズがDen, intricatumと同じ2.5㎝程と大きく、また疑似バルブ(茎)が2倍程太い点が異なります。いずれにしてもDen. stuposumの地域差あるいは近縁種であろうと思います。Den. stuposumの生息地の標高は400m-2,800mとされコールドから高温までの広範囲に至ります。写真の株はDen. intricatumと同じ高温が適温のようで、周りにはVanda sanderianaやデンドロビウムSpatulata節と同じ栽培環境の中、バスケットにミズゴケで良く成長しています。)猿顔に最も似ているDracula 70種ほどのドラキュラを栽培している中で、最も猿顔に近いと思われる種の一つが開花しました。ラベルはDracula gigasとなっているのですがセパルの先端から伸びる細く長い突起がありません。ミスラベルで別種なのかどうかは調査中ですが、見れば見る程猿顔で、鼻の下の2本の皺まであるところは笑ってしまいます。逆に口に何か食べ物をくわえた猿顔という先入観をもってジーっと眺めていると、これが花とはとても思えなくなります。クールケースがあればこんなドラキュラも栽培してみると仲間同士で話題になりそうです。Draculaは現在植え替えと整理中で、2,000円から3,500円を中心に間もなく販売を開始する予定です。
21日現在開花中の低 - 中温デンドロビウム 現在浜松の低 - 中温温室にて開花中のデンドロビウム6点を取り上げました。これら以外にはDen. vexillariousやDen. victoriae-reginaeなどが開花中です。
Coelogyne exalata 蕊柱の白色を除き、苞葉を含め全体がマスカットグリーン色の清楚な花をつける本種は、ボルネオ島標高600mから 2,700mに生息するセロジネです。この標高範囲から本種は中温(20℃ - 25℃)からコールド(10℃ - 15℃)系と見なされています。このため本サイトでは入手してから当初はDen. vexillariousなどと同じコールド、その後Den. tobaenseやDen. papilioなどの中温にて木製バスケットに植え付けて栽培をしていました。この環境でよく新芽が出て株も徐々に大きくなっていましたが2年以上経過しても一向に開花する様子がありません。そのため、10株程の株の中から2株を今年2月から18℃以上の胡蝶蘭原種と同じ高温環境に移動して様子を見ることにしました。今年の夏は猛暑日がしばしばで温室内は34℃にもなりましたが、これらの株は暑さを嫌う様子はなく先月末から、同時にその2株から花芽が現れ、今月に入り開花が始まりました。どうやら入荷した株のロットはたまたま標高地点の低い生息種ではないかと推測し、他の株も全て高温環境に移動しました。写真は現在浜松にて開花中の様子です。 BSサイズであり様態に変化が無いものの2年以上開花の無い株は、前項のバルボフィラムも同様ですが、温度や輝度などそれまでとは変化のある場所に移動して様子を見ることも有効なようです。分かっていても限られた温室内でそれを行うことは難しいのが実状ですが。
Bulbophyllum cleistogamum 5月にフィリピンから持ち帰ったBulb. spの一つが開花しました。下写真がその花です。高温(夏季のため昼間32℃夜間25℃前後)で栽培していたところ15株のうち2株から細い花茎が伸び、やがて48㎝の長さになり止まりました。しかし花茎の先端に苞葉のような芽が付いているのですが、1か月半以上経過しても一向に蕾が発生せずそのままです。これは何か開花のための環境条件が合わないのではないかと、昼間25℃夜間16℃の中温室に移動し様子を見ることにしました。1週間経ったところ苞葉が膨らみ始め2つの蕾が発達してきました。開花した花を見て、Bulb. cleistogamumであることが分かりました。マレー半島、ボルネオ島、スマトラ島およびフィリピンの生息種で標高500m以下の岩性および着生ランとのことです。orchidspecies.comやJ. Cootes氏のPhilippine Native Orchid Speciesには記載がありませんが、良いとも悪いとも言えない干し魚のような匂いが微かにあります。ドーサルおよびラテラルセパルともに2.4㎝でした。本サイトではマレーシアから入手したBulb. cleistogamumを2年程前から在庫しておりカタログには記載していましたが、開花が無く花確認ができないため非売状態でした。国内市場をネット検索したところ1件ヒットし、価格が10,000円以上とのことです。本サイトでは1/4の2,500円(バルブ数3本の場合)を予定しています。
Phalaenopsis hieroglyphica 温室内を歩いていたところオレンジを切ったときの甘い柑橘系の強い香りがあり、はてと思って周りを見たところ近くで開花しているのはPhal. hieroglyphicaのみです。Phal. hieroglyphicaは柑橘系の匂いがすることは分かっていましたが微香で、また香りがする株としない株があり、どちらかと言えば無臭株の方が多い印象です。orchidspecies.comのサイトでも香りマークは無く、またJ. Cootes氏のPhilippine Native Orchid Speciesにも香りの記載はありません。Phal. javanicaのように晴れた午前中の数時間のみの香りかと調べたところ終日(夜は未確認)、香りとその強さは変わり無く、よく匂います。これ程の匂いは初めての体験で果たしてこの特性は遺伝するのかどうか実生化を図ろうと、自家交配をしたところです。下写真はその株で、特に株形状や花フォームに一般との違いは見当たりません。レイテ島生息の野生栽培株です。この香りが実生に継承されるかどうかが分かるのは早くて3年後となります。
Dendrobium erosum 7月に訪問したキャメロンハイランドの標高1,500m程にあるラン園で、Den. kuhliiのようなローズピンク色の花が長さ80㎝程の茎の先端に10輪程開花していました。はて似たようなデンドロビウムとしてはDen. kuhlii以外にDen. ramosii、Den. erosum, Den. rutriferumあるいはDen. roseipesなど多数あり、種名を聞いてみましたが分からないとのこと。このラン農園は自国マレーシアのランの販売が主体で国外生息のランはほとんど扱っていません。そこで消去法でDen. kuhliiはJava島、Den. ramosiiはフィリピンルソン島、Den. rutriferumはニューギニア、Den. roseipesはパプアニューギニアとそれぞれが地域固有種で、キャメロンハイランドあるいはマレーシアに生息する種としてはDen. erosumが唯一であり、この可能性が高いことは凡そ推測は出来ました。しかしこのラン園に入荷する前に、一旦コレクターのストックヤードに持ち込まれているとすると、他種と混ざり合うことも考えられ、さらにキャメロンハイランドでも最も標高の高いこのラン園の栽培気温(15℃ - 25℃)とバルブの形状から、Den. rutriferumは高温、現在浜松で100株ほどを栽培しているDen. ramosiiはバルブがやや細いことでDen. kuhlii, Den. erosumあるいはDen. roseipesに絞られました。これ以上はセパルを開きリップを見ないと分からず、かと言ってまだ購入してもいない株から花をむしり取ることもできません。迷った場合は買わずに後で後悔するよりも入手が先とのポリシーから園主に購入する旨を伝えました。すると売りたくない様子であったものの、かなり大きな株であったことから、いつもの株分けを提案し、しぶしぶ分けてもらいました。 浜松では温室の片隅に置いての順化中で、バルブ先端が他株の葉で隠れていたため開花に気が付かず多くがすでに散っていましたが下写真左のようにいくつかは残っており、詳細に観測しました。その結果、右写真のようにリップ中央弁先端がギザギザで細毛のように見えることからDen. erosumであることが分かりました。erosumとはeroseからつけられた名で意味は「微細不整歯」です。リップ中央弁先端縁側のこのギザギザ形状を表すものと思われます。そこで国内マーケットをネット検索したところ1件ヒットし8,000円程で販売されていました。本サイトでは3,000円を予定しています。但し本種は上記のような経緯での入手のため1株しかなく、10月初旬のマレーシア再訪問でそれなりの株数を仕入れる予定です。種名が判明すれば入手は容易と思います。 Bulbophyllum stormii マレーシア、ボルネオ島、スマトラ島の標高1,000m - 2,000mに生息する中温タイプのバルボフィラムです。昨年12月のマレーシア訪問で15株ほどBulb. stormii-likeなBulb. spとして入手した株が開花しました。本種の花サイズは3㎝ - 7cmとされます。下写真が今回開花した花ですが、中央写真が示すようにラテラルセパルが4㎝、ドーサルセパルが3.5㎝で、縦スパンで7.5㎝となります。これまで栽培していた本種は縦スパン4-5㎝であることから、このロットの株の花はかなり大きなサイズでこのためstormii-likeなと現地サプラヤーがしたようです。右写真内で、左ポットがこれまでの株で右ポットが今回の開花株です。バルブサイズも太く異なります。ボルネオ島産と聞いています。炭化コルクへの植え付け 7月末から一斉に植え替えを始め今月に至ります。吊り下げタイプはこれまでの杉皮板から炭化コルクに変更しての植え付けとなりました。この理由は歳月記7月の「猛暑下での栽培と発送」で取り上げましたが見栄えと価格からです。炭化コルクはポーランド製で、コルクチップを圧着し約90cm x 60㎝サイズの板状に焼成形したもので12枚入りを1セットとして日本の代理店が販売しています。本来の使用目的は建築部材で壁の断熱や防音効果を狙ったものです。7月末からの植え替えですでに5セット分を消費しました。これは下画像左の板を60枚使用したことになります。これでも現在吊り下げている原種全体の3割強と言ったところです。
炭化コルクとヘゴ板の価格を比較してみますと、炭化コルク一枚から30㎝ x 20㎝の板が9枚得られます。よって今後のさらなる5セットの購入を加え合計10セット分(90cm x 60cm板で120枚)からは30㎝ x 20cmサイズが1080枚相当得られます。炭化コルクの1セット分の購入費は約2万円(後記:国内の最低価格は消費税・運送費込みで約13,000円)であり10セットでは20万円となります。このコストでも相当なものですが、ヘゴ板では現在30㎝x20㎝サイズ1枚の市場価格が1,700円程のため、1080枚では何と1,836,000円となります。板のみの仕入れ価格で温室が1棟建ってしまいます。ではこれだけのコストで何株が実質、植え付けできるかですが、30㎝ x 20㎝ヘゴ板の3割をそのままのサイズで、7割程を2-4分割に切断使用するとして植え替え可能な株数は、およそ2,000株となります。 販売も兼ねた栽培者の立場からは僅か2,000株程度の植え付け材料に200万円近いコストをかけるのは論外で、如何にヘゴ板が保水性や透水性に優れていても、株数が多くなれば、現在の価格では利用できません。フィリピンやマレーシアへの買い付けで500株程を毎回仕入れますが、このうち7割は吊り下げタイプであることを考えると帰国の度毎に植物以上に取り付け材に膨大なコストがかかると言う本末転倒な状態にもなりかねません。 フィリピンではヘゴ板の同サイズが1枚30円程、マレーシアでも100円以下ですので現地では使用可能でも、国内では到底無理です。言い換えれば業務用としてヘゴ板の標準採用はできません。 炭化コルクの特性の概略は7月に記載しました。コルクチップを高温焼成形したもので、自身の樹脂で接着し炭化されていることから接着剤、防虫剤、防カビ剤の塗布などが無く、また炭化によりカビやコケの発生を押さえ防虫効果もあり5年利用していますが、劣化して割れたり崩れたりすることもありません。これまで胡蝶蘭、デンドロビウム、バルボフィラム、その他多数の属種を取り付けてきましたが、根が活着を嫌う様子は見られません。保水性はヘゴ板に比べ劣りますが杉板よりは高く、但し保水性や透水性を得るには、使用前に強いシャワーで板表面に付いている素材の粉末を洗い流すことが必要です。また90cm x 60㎝の範囲内で任意の大きさにカッターナイフで切断ができることから株の大きさに合わせてサイズが最適化できます。下写真のそれぞれは今回植え替えを行った株です。
マレーシアラン園で見る胡蝶蘭交雑種例 主に原種販売が中心のマレーシアラン園で、原種のつもりで入荷したものの交雑種であることが分かり廃棄する訳にもいかず、これらが相当数ラン園の片隅に置かれていることを本サイトで取り上げたことがあります。7月の訪問で一部を撮影してみました。最上段左中央がベンチ上のそれらの株で全体ではこの3倍ほどあります。さて花フォームを見て交配親種を推測するのも謎解きのようで面白く、5割程でも分かればかなりの胡蝶蘭原種マニアと思います。このように台湾やタイからの原種名の胡蝶蘭は交雑種が極めて多く、当サイトでは実生がそうした国から入荷した株と知れば一切購入はしていません。Phalaenopsis violacea Phal. violaceaの実生株に対して野生栽培株の葉サイズの違いは何度か取り上げてきました。また野生株にはセパル・ペタルがその名が示す一面がバイオレット色のフォームもあれば稀にセパル・ペタルの中心部に点あるいは線状の斑点が入るpunctataタイプも見られます。今回ひときわ変わったフォームの花が咲きました。下写真左は一般的な野生株のフォーム、右が現在開花中のフォームです。交雑種ばかりの実生であれば何でもありですが、野生株の中で色合いや斑点共に個体差の範囲を超えるようなこのフォームの違いは珍しいと思います。本種が持つ香りは両者とも同じです。
Dendrobium cymboglossum 7月に入荷したボルネオ島700m以下に生息する本種が開花しました。リップ中央弁が湾曲しボートのような形状が特徴です。花は一つの花茎にほぼ決まって5輪つきます。高温タイプでバスケットにミズゴケで植え付け、風通しの良い場所に置いています。順化期間中であるものの新芽も現れてきたことから丈夫な種のようです。国内市場では今年のラン展で7,500円程で販売されていたようですが本サイトでは3,000円です。
Bulbophyllum 2種 7月のマレーシア訪問にて入手したニューギニアからのBulb. spと、先月常連さんから頂いたBulb. compressumの大株が開花しています。下写真がそれぞれの花です。前者はBulb. restrepiaやBulb. contortisepalumと同じHoplandra節と思われますが、歳月記8月の「Bulbophyllum sp 2種の開花」で取り上げた黄色のバルボフィラムを朱色にした様な形態です。黄色フォームは低 - 中温ですが、本種は高温での栽培です。種名は調査中です(後記:黄色ではなく朱色である点以外はBulb. obovatifoliumと同形)。現在名前不詳のバルボフィラムを数十種栽培していますが、初めての花茎も出始めています。これから晩秋に向かって1日の温度差が10℃近くになると半数以上で花が見られるのではと期待しています。
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