栽培、海外ラン園視察などに関する月々の出来事を掲載します。内容は随時校正することがあるため毎回の更新を願います。 2016年度

2017年 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月

8月


Dendrobium klabatenseの個体差

 本種については、歳月記の6月にスラウェシ島の希少種として取り上げました。主な開花期は6月ですが今月僅かながら数株で開花がありました。よく見てみると複数株でリップ形状に違いがあることが分かりました。これは個体差です。これまで入荷するとミズゴケと素焼き鉢やバークミックスとプラスチック鉢でしたが、根張りが弱くまた新芽の発生も少なく、今回の植え替え作業ですべてをヘゴ板に移植しました。植え替えて1か月程が経過しましたが、数株で新芽が出始めています。下写真上段はは2つのリップ形状の違いを撮影したもので、下段はそれぞれ現在栽培中の様子と、新芽が出ている株です。


Dendrobium chewiorum ?

 本種名の株が開花しました。2008年登録のボルネオ島Sabah生息のCalcarifera節デンドロビウムです。4株のみの入手でしたが、新種のためかマーケットでの流通はまだないようです。下写真がその花で縦横スパンでそれぞれ3.5㎝x2.5cmです。果たしてこの株がDen. chewiorumであるかどうかは、本種の詳細画像データがほとんどなく断定できませんが、これまでのCalcarifera節には無いフォームです。

 上段左のように常時閉じている状態のためリップを下げて撮影したものが下段右写真です。特徴はリップ中央弁の付け根部分で、先の尖ったスコップのような形状が浮き出ていることです。鼻を近づけないと分からないくらい微香ですがカビっぽい匂いがします。


Bulbophyllum sp

 6月歳月記にBulb. nasicaと思われる、ニューギニアからBulb. spとして入荷したダークブラウンの花を紹介しました。花形状は似ているもののセパル・ペタルが黄色をベースとした、カラーフォームの異なる別Bulb. spが今回開花しました。下写真がその花で本種もBulb. nasicaに似ているのですがペタルの形状が異なるように思います。ラテラルセパルは2.3㎝、ドーサルセパルは1.5㎝です。Bulb. nasicaは高温タイプとされますが、本種は中温で栽培しています。


Dendrobium hymenophyllum

 この猛暑の中、デンドロビウムとしては開花種が少ないのですが、カンボジア、ベトナム、タイ生息種のDen. intricatumと、スマトラ、Java島生息種のDen. hymenophyllumが浜松温室では開花最盛期となっています。Den. hymenophyllumはこれまでグリーンとレッドの2フォームを扱ってきました。グリーンが一般的で、レッド特にダークレッドは入手難です。ところが今回、グリーンタイプの株の中に初めてゴールドフォームが出現しました。

 通常、グリーンタイプの株では開花時は緑味が強く、やがて黄緑に変化する性質が見られますが、今回開花した株は開花時から色が変わることなく濃い黄色を維持しています。おそらくaurea種かも知れません。それが下写真です。上段が今回のaureaフォームで、下段はそれぞれ緑および赤のフォームとなります。

Den. hymenophyllum

sp種のID(識別子)

 sp種について「今月の開花種」の花画像にID番号をつけました。sp種のお問い合わせの際にはこのID名を付けて頂くと便利かと思います。

環境情報についての疑問 Bulbophyllum nitidum

 浜松のクール温室では現在Bulb. nitidumが開花中です。開花1日目はラテラルセパルが左右に開き10㎝を超える程の大きな花となります。やがてセパルは後方に反っていき、まるで矢のような姿に変化し1週間近く開花を続けます。

 このバルボフィラムについてorchidspecies.comではパプアニューギニア標高1,200m程の生息種で高温(hot)タイプと解説しています。hotタイプとは夜間を含め平均温度が25℃から30℃の範囲とされており、果たしてニューギニアの標高1,200mが高温環境であるのかが疑問です。Food and Agriculture in Papua New Guinea, R. Michael, etcによるとパプアニューギニアの標高1,200mの温度は16-19℃としています。hot環境での栽培ができれば同じ生息国のデンドロビウム spatulata節と一緒に栽培ができ良いのですが、本サイトでは通年で夜間16℃から昼間の最高温度を25℃の中温下において毎年花が咲き新しいバルブも発生しているため、はて?と言ったところです。


Bulb. nitidum

 夏の植え替えは避けなけれならないものの、この時期しか時間が取れなく植え替えの毎日です。その際、2-3年前に入荷し植え替え期を迎えた株については、植え込み材を含め、出版物やネット等の情報を参照しながら、果たしてこれまでの栽培環境が適切であったのかどうか、株の状態や開花の有無等をもとに再度チェックを行います。そうするとネット情報では株の生育実態が合わないケースがしばしば見つかります。特に南米のランではサプライヤーの発信する栽培環境情報と実態とが余りに違うものが多く、2割程のランをこの3年程で失ってしまいました。こうしたこともありこの猛暑時期は、栽培環境を見直し、より良い条件を見つけ出すことができる貴重な日々でもあります。

Bulbophyllum sp2種の開花

 昨年12月のマレーシア訪問で、Bulb. spを15種程持ち帰りました。その内、ニューギニアからの2種が開花しました。下写真がそれらで上下が対となります。これらは昨年の歳月記12月にサプライヤーからの花写真を紹介しており、14種の内、左写真が13番目、右が7番目の株となります。4,8,10,11番目のspはすでに本サイトで開花報告しました。

 下写真左の株はラテラル・セパルが10㎝程で一見Bulb. contortisepalumのようですが、セパルはカールすることなく伸びており、左下段写真のリップ拡大画像からも別種であることが分かります。また入手時にはBulb. restrepia yellowに似た形状と思っていたのですが、Bulb. restrepiaはラテラルセパルの長さが1.5㎝程の短形であるためこれとも異なります。該当種がないか調査中です。

 一方、右写真は14種の花画像の7番目の株に相当します。花の色が昨年12月の画像とは異なりますが、こちらが本サイトが浜松にて撮影した色補正の無い目視と同じ色合いとなります。両者とも中温タイプで、これまでクールタイプと思いDen. vexillariousやDraculaと同じ場所で栽培していたのですが開花の様子はなく、中温環境に移動してから新芽や花茎が発生しました。


Dendrobium furcatumについて

 インドネシア領スラウェシ島標高600m - 1,800mに生息するとされる本種は中温から低温タイプで、セパル・ペタル共に白色の清楚な花をつけます。ところが本種名でネット検索すると、なぜか日本ではDen. amabileが本種名で登場し、何と2008年の東京ドームラン展ではDen. fucatum名のDen. amabileが出品されています。なぜ似ても似つかないそれぞれの花であるDen. furcatumDen. amabileが同じ種なのか不思議です。

 誰が何処で誤ってしまったのかを調べていたところ、orchidspecies.comのDen. furcatumのシノニム(同義語=別名)にDen. amabile名があり、一方、Den. amabileのシノニムにはDen. furcatumはありません。他のサイトも同様です。では誰が最初にDen. amabileDen. furcatumのシノニムと見なしたのかが問題なのですが、それ以上になぜこれほど違う種をコピペの如く同一種とし何の疑いもなく未だもってDen. amabileDen. furcatumとしているのかも問題です。

 最近では似た問題に先月取り上げたDen. socialeと思われる種も同様にDen. metriumとシノニムの関係であり、さらにDen. metriumのシノニムには全く花の異なるDen. modestumがあるといった、これではDen. socialeDen. modestumが同じ種となってしまう支離滅裂な状況です。

 上記とは対照的に、異なる属名が一つの属名に統一されその結果として、これまで使用されてきた種名とは全く異なる名称となるケースもあります。これがCirrhopetalum nutansBulb. othonisへ替わった名称変更です。単なる属名変更であればCirr. nutansBulb. nutansとなるのですが、すでにバルボフィラムにはBulb. nutansが登録されており、結果としてバッテングしてしまい種名変更となった訳です。こうした情報の曖昧さには、花を紹介しようと名前を付ける側にとってはほとほと厄介な問題です。

 さて話は戻り、そのDen. furcatumですが、本種の一般種は前記「本種」のリンク先の画像にあるように、白色のセパル・ペタルに、リップ中央弁は紫色で蕊柱の先端花粉魂キャップは赤色です。本サイトで扱っている種はリップ中央弁はセパルペタルと同色の白色、蕊柱先端は黄色です。この色合いのフォームはネットで画像検索するとアルバフォームとされています。となると1昨年30株を入手し、全てがこのアルバフォームであったことから首を傾げてしまいます。アルバタイプの自家交配実生であれば分かりますが、入手株は野生栽培株でロット全てがアルバと言うのも何か不思議で、一つの大きなアルバ・クラスターを株分けしたか、あるいはアルバではなくこうした個体差を持つ株のコロニーがあったものなのかいずれかであろうと思われます。国内のDen. furcatum名の種はほとんどがDen. amabileですので、本物のDen. furcatumは市場にはほとんど流通していないと思われます。本サイトでは下写真のアルバフォームを3,000円としています。

Den. furcatum

今月の開花種

 4月から未更新であった「今月の開花種」のページを更新しました。画像で本サイトのカタログに記載のない種のご購入を検討されている方はお問い合わせください。

Bulbophyllum annadalei

 本種はバルボフィラム(旧Cirrhopetalum)の中ではよく知られた種で、タイとマレー半島が生息域です。地域偏差として、マレーシア産はリップ中央弁が赤く(赤斑点)、タイ産は黄色の傾向が見られます。7月のマレーシア訪問で、キャメロンハイランドにて数株を入手しました。一つはラテラルセパルが一般種と比べて短く幅広(下写真左上下段)のおとなしい感じが良く、昨年と今回で2度目の持ち帰りです。他方、入手株の中からアルバのような株も開花(下写真右上下段)しました。このフォームは想定外です。順化中のため輪花数は2輪と少ないのですが1年後には8輪程になると思います。ネットで本種名とアルバで検索すると似たような花画像を見ることができますが、多くはリップは黄色あるいは薄黄色である一方、本種は白色である点で特異なフォームです。白色ペースの中央弁基部に赤い斑点が薄っすらと残っておりピンク色に見えます。Bulb. annadalei albescenceと言ったところでしょうか。

Bulb. annadalei Cameron Highlands
Bulb. annadalei albescence

南米Draculaの販売準備

 南米のランは現在500種ほど栽培しています。その内70種がDraculaです。Draculaの多くは標高1,500mから2000m級の生息域種であるためコールドからクール温度での栽培が必要で、この夏の猛暑の中、昼間22℃、夜は16℃の温室での栽培となっています。南米のランを栽培開始してからすでに3年が経ちますが、本サイトでは東南アジアを中心としたランが主体のため、南米のランの販売のためのカタログや価格表の作成は後回しにされ、未だもって整理ができていません。そうした中で取り敢えず気温が下がる秋を目途にDraculaからでも販売を開始しようと現在Draculaの植え替えを行っているところです。外は猛暑とは言え温室内は前記した温度のため季節に関わりなく、いつでも植え替えは可能でむしろ寒さに震えながらの作業です。これまでの栽培ではスリット入りプラスチック深鉢にクリプトモス単体でしたが、今回からはバーク、コルクチップおよびゼオライトの植え込み材にに替えました。植え込み材変更の理由は、発酵バークを使う限り、少なくとも3年間は植え替えが不要のためです。クリプトモスでは2年が限度です。

 現在Dracula vampiraDracula hirtziiなどの大型種からDracula lemurellaなど小型種までおよそ15種程が開花しています。その中でひときわ目を引くのはDracula leviiです。albaのように全体が白色フォームで、はたしてこの白色は長い年月の自然淘汰の中で進化した結果か、今から数百年内にある種からalbaが誕生し、それが大きなコロニーを造り、一つの種を形成したのかと思いを巡らすほどの特殊なフォームです。現在Draculaは平均2,500円から3,000円での販売を予定しています。可能な限り、MundifloraやEcuagenera(仕入れ先)などの日本国内展示会価格ではなく、彼らのネット公開上でのドル建て国際価格に近付けることが目標です。

Dracula levii

Dendrobium crabro

 ボルネオ島Sarawakに生息する本種はリップのユニークな形状が特徴です。浜松では7月から8月が開花期で高温タイプです。通常セパル・ぺタルのベース色はゴールドやカーキ色の黄色系(下写真右)ですが、開花した花の中に緑の強い色合いの株(下写真左)が1株でました。マゼンダ色が抜けたいわゆるflavaタイプのように見えるものの、おそらく個体差と思われます。果たしてこのベース色が毎回の開花で再現されるものか一過性のものかは次回の開花で確認したいと考えています。

Den. crabro

Dendrobium papilio

 Den. papilioを300株程栽培しており、浜松では夏と冬が開花期となります。当然の嗜好として趣味家の大半は大輪の株を求めます。一方、開花サイズはその株固有の特性なのか、環境あるいは株の状態に依存するのかがよく分かっていません。8㎝を超える大輪の花を販売したのは昨年の東京ドームラン展で20株ほどでした。入荷時はいずれも5㎝ほどの開花サイズでしたが8-10㎝サイズになるまでには3年かかっています。その栽培において特に前年度に比べて顕著なサイズの違いがでたのは、バスケットにミズゴケで寄せ植えを行い比較的輝度の高い、15℃ - 25℃の低 -中温室に置いてからです。また同じロットでありながら、バルブの長さが短い株の花はやや小型に対し大きな花をつける株は根が多く、バルブは50㎝を超える長さとなっていました。

 こうした栽培経験から、まず根の生育が最も重要と考え栽培を続けています。しかしクールタイプの特性として根張り速度は高温タイプと比較して格段に遅く、やはり根とバルブを大きくするには最低で2年、おそらく3年は必要と思います。現在はこうした状況のため温室に来られサイズに関わらず花を見て買われる趣味家の方のみに販売し、ひたすら株が大きくなり大輪の花を確認できる時期を待っている状態です。下写真は現在開花中のDen. papilioです。全体としてまだ小ぶりですが、果たして今後どこまで大きくなるかです。


Den. papilio (08/11撮影)

Bulbophyllum biflorumの一つのフォーム

 Bulb. biflorumはインドネシア、タイ、マレーシア、フィリピンと広範囲に分布しており、それだけに栽培温度範囲も広く丈夫な種です。生息域が広いことは地域差や個体差が出現する率も高く、色合いについては多様なフォームがあります。5月にマレーシアラン園の2代目が成田に持ってきた株の中にround sepalと書かれたBulb. biflorumがあり、浜松ではトレーにミズゴケを敷いて並べ、こんにちまで枯れることなくそのままとなっています。しばしばその状態でも花をつけるため写真に収めており、たまたま2ヶ月ほど前の写真を眺め、ネットにある多数の同種画像と比較していたところ同じようなフォームはなく、これはこれで個性があることが分かりました。それが下の写真です。確かに左右のラテラルセパルは後ろに反っています。セパルが丸く反るフォームは僅かながらネットにも見られますが全体(色、セパルに走るラインなど)や左右のセパルがこれほど離れた形態はネット画像にはほとんど見られません。この株はスマトラ島からのBulb. biflorumで、6月に取り上げたフィリピンフォームとは別種ほどの違いがあります。価格は2,000円です。

Bulb. biflorum

Dendrobium paathiiについて

 先月マレーシアからボルネオ島生息種であるDen. paathii名の株を20株程持ち帰り、今月に入り半数の株で開花が始まりました。下写真がその花の一部です。

Den. paathii ?

 花フォームを一見する限り、これはDen. paathiiのようであり、また類似種のDen. phillipsiiとの違いもよく分かりません。先月の本ページで新入荷株はDen. paathiiではなくミスラベルであるのではと記載しました。その背景には下写真のそれぞれが示すように、これまでの5年間で数度、マレーシアおよびフィリピンからDen. paathiiおよびDen. phillipsiiの開花サイズをそれぞれ輸入してきましたが、それらとはおよそかけ離れた株形状の違い(サイズ)があったからです。

7月入荷のDen. paathii バルブ最大長推定1.7m

従来のDen. paathii バルブ最大長60㎝(入荷時)

 従来種とのサイズの違いを下に別写真で比較しました。従来種はバルブ最大長が70㎝に対し新入荷種は搬送には大き過ぎたためかバルブが1.3mで切断されており、切断面の直径からの推定で最大長は1.5mを超えると思われます。写真左は左側バスケット前後2個が新入荷種、右側バスケット前後がそれぞれ従来のDen. paathiiDen. phillipsiiです。中央写真は新入荷株(左)とDen. paathii(右)となります。また右の写真は中央の太いバルブが新入荷株で、接触している左の細いバルブがDen. paathiiです。バルブ径はそれぞれ10mmと3.5mmです。両者とも開花株です。


  これまでDen. paathiiはボルネオ島Kalimantan、新入荷株はSabahと聞いています。一方、Den. phillipsiiはフィリピンMindanao島固有種とされています。下写真はこれまで本サイトが現地マレーシアおよびフィリピンにて入手したDen. paathiiDen. phillipsiiを示します。


従来からのDen. paathii

従来からのDen. phillipsii

  ここで多くの読者は一つの疑問を持たれるかも知れません。最初に示した新入荷のDen. paathiiとされる花と、上写真のDen. phillipsiiは同じ花ではないか、それどころか上写真の左右がそもそもなぜ別種なのか、リップ基部の黄色に濃淡の違いがあるだけで、これは個体差あるいは地域差の範囲レベルのフォームではないかと。これらの輸入はそれぞれマレーシアとフィリピン現地からのもので国内、アメリカ、台湾等の第三国ラン園経由ではありません。すなわちそれぞれの生息国の種が一か所に集められ混ぜ合わさった可能性はまずありません。また入手株は実生ではなく野生栽培株です。その上でいくつかの疑問が生じます。
  1. 同種の野生株でありながらバルブ(疑似バルブ)が倍以上の長さとなる個体差が果たして環境変化で生じるものか?J.J Wood、Dendrobium of Borneo ではDen. paathiiは最大長1.2mと記載。しかし実際マーケットでの株は60-70㎝。一方、J. Cootes、Philippine Native Orchid Species によるとDen. phillipsiiの最大長は60㎝とされている。
  2. 種別判定の一つにSpur(距)形状(リップ基部から後部に伸びた筒状の部位)の違い(円筒形、先端の尖り、湾曲度など)を用いることがあるが、個体差がしばしば見られ、種にユニークな形状とは言い難い。
 Den. paathiiDen. phillipsiiが異なるとされる有力は特徴点は両者共にリップ中央弁の中心部にある黄色斑点上に走るラインが浮き出ている(ridge状)か、あるいは平坦かでDen. paathiiは中心ラインとその左右の1ラインの計3ラインが起伏しており、Den. phillipsiiにはこうした起伏が無いとされています。それでは新入荷株はどうかです。その特徴を整理してみますと、 
  1. バルブの長さはDen. paathiiの最大長とされる1.2mを越えて1.5m以上の長さを持つ
  2. 花の全体的なフォームはSpurを含めDen. paathiiよりもDen. phillipsiiに似ている
  3. リップ中央弁に走るラインはDen. paathii同様に3本が起伏しているが中央の1ラインが明瞭で左右の2本はほぼ平面に近い
  4. 新入荷株の生息地はボルネオ島Sabah州
 以上の特徴から、本サイトでは新入荷株はDen. paathiiiとは別種と考えました。会員からメールで頂いた資料を参考に比較した結果、本種はDen. anthreneではないかと思われます。Den. anthreneはボルネオ島Sarawak生息種でJ. linn 1896年登録の古い種ですが、最近ボルネオ島Sabahでも発見されたそうです。Den. anthreneに関し資料ではバルブのサイズは1.2m以上もあるとされます。そこでorchidspecies.comで検索したところDendrobium anthreneがヒットしました。orchidspecies.comの記載と新入荷株と異なる点は、花サイズが2.5㎝に対し現在開花中のほぼ全ての花は左右スパンで3.5㎝となっています。また匂いは記載がありませんが、クチナシの花の香りを微香にした良い香りでDen. paathiiで言われるような、かび臭い匂いとは異なります。本種に関するマーケット情報は国内外共に見当たりません。市場性としてはかなり希少であると思われるため価格は3,500円を予定しています。

 しかしSpurの僅かな形状の相違と、起伏の有無だけで別種とする分類法は、胡蝶蘭原種で言えばPhal. fuscataPhal. kunstleriのカルス形状の微妙な違いで別種とされているようなもので、種名を付けて販売する側から見れば迷惑な話です。精々変種か亜種程度にしてもらいたいものです。1896年(Den. antherene)と1935年(Den. paathii)および1935年(Den. phillipsii)の時代では止むを得なかったと思いますが、新しい時代ではDNA分析による系統的分類法に期待したいところです。一方、これら非常に似た者同士の中でDen. phillipsiiが地質学的にボルネオ島と繋がっていたフィリピンPalawan諸島ではなく、なぜMindanao島に孤立しているのか、こちらの方も興味があります。

 なお、本種は現在、中温環境で順化栽培をしており、植え付け1か月未満で新芽が現れてきました。かなり丈夫な種のようです。半下垂タイプのため植え付けはバスケットへの寄せ植えです。バスケット底に薄くミズゴケを敷き、根を少なめのミズゴケで巻いてから一株づつ適当な間隔で並べ(接触させない)、バスケットの針金を支柱代わりに株を固定し、コルクチップとバークおよびゼオライトをミックスしたコンポストで、バスケットや株と株との隙間を埋める植え込み方法としています。一つの中・大型バスケットに2-4株の寄せ植えを行っているため、全体をミズゴケで植え付けるのは濡れ過ぎとなり、一方バークミックスだけでは保水力不足となることを避けるための方法で、最近はほとんどのデンドロビウムのまとめ植えに、こうした植え込みを行っています。株のサイズに合った一つのバスケットに一株の植え込みであればミズゴケだけで十分と思います。


Dendrobium anthrene Green-form

 上記で、Den. paathiiとして入手した株はDen. anthreneではないかとの説明をしましたが、そのなかから1株、蕾の段階から緑色(一般種は白と薄黄色)の強い株があり、これが開花しました。通常Calcarifera節のデンドロビウムは開花時は緑や黄緑色で2-3日経過すると緑色が褪せてゆく性質をもつ種が少なくありません。このように緑色を保つのは珍しいと思います。下写真がその株で、左は一般種とGreen-formと花全体色を比較したもので、右はGreen-formの花です。本種の一般フォームは開花時からセパル・ペタルは白色です。

Den. anthrene Green-form

Bulbphyllum lasioglossum

 Bulb. lasioglossumが開花中です。これまで2年間、本種を注文すると、いつもBulb. debrincatiaeが誤って入荷してしまいます。葉の形状が似ているのであればミスラベルもあり得るのですが、Bulb. lasioglossumは薄くて細長くアンジュレーションがあり、一方Bulb. debrincatiaeは固く長楕円形で見た目にも違いは明らかです。それぞれフィリピン生息種ですがリップに髭の生えたBulbophyllumはフィリピンには少ないため、髭のあるリップと言うだけでBulb. lasioglossumにされてしまうようです。

 本種は中温タイプで、下写真のように花茎が長く下垂するためヘゴ板等の垂直取り付け材が適しています。元気な株では50輪ほどの花を付け、花茎の先端から順次開花していきます。この花茎先端部からの開花特性は少数派ですが、この点でBulb. debrincatiaeも同じです。わずか2バルブが8,000円で販売されているサイトがありましたが本サイトでは3バルブで3,000円です。

Bulb. lasioglossum

Ceologyne usitana

 6月の植え替え後からCoel. usitanaが多数咲き続けています。本種はセパル・ペタルの純白色に対してリップがこげ茶色で、大型の花とそのコントラストで人気が高く特にリップ側弁がより濃い色が好まれるようです。これまで数百株見てきた中で、最もリップ色が濃く黒色に近いフォームの花が咲きました。下写真がその花です。セパルペタルの白色がハレーションを起こす直前までブラウン色を引き出すために輝度を上げているのですが、それでも写真の濃さとなっています。果たしてこの濃度は固定しているのか環境により変化するのか調べる計画です。

Coel. usitana

Ceologyne odoardi

 ボルネオ島Sabah生息種のCoel. odoardiが現在開花中です。これまで2年間で40株程を従来の市場価格の半額以下の1株3,000円で販売をしてきました。セロジネの中では珍しいセパル・ペタルが茶色の人気が高い種です。3-4m先からも分かる良い香りがします。高温タイプで浜松では初夏が開花期となります。花色は下写真左のライトブラウンから右のダークブラウンまで個体差があります。

Coel. odoardi

Dimorphorchis rossiiDimorphorchis tenomensii

 一つの花茎にフォームの異なる2つの花が上下に開花することで知られるDimorphorchis rossiiが現在開花中です。下写真上段がDirmorphorchis rossiiの上下それぞれの花です。一方、下段の株は今回のマレーシア訪問で入手した2008年登録のDimorphorchis tenomensiiです。植え込み前の状態です。ボルネオ島Sabah生息種とされますが、これがどのようなフォームの花なのか、また生息地の標高がどれほどのものか今一つ信頼性のある情報が見当たりません。持ち帰って他のDimorphorchis rossiilowiiと同じ高温タイプ用温室に置いていたのですが2週間程で調子が悪化し1株落ちてしまいました。このため全株を中温タイプの温室に移しました。その結果、順調に順化が進んでいます。どうやら本種はDimorphorchis rossiilowiiと比べ標高の高い地域に生息しているのでないかと推測しています。

Dimorphorchis rossii
Dimorphorchis tenomensii

Bulbophyllum dearei

 本サイトにはフィリピンから5年ほど前に入荷したBulb. deareiのクラスター株があり、花は見慣れていたのですが7月キャメロンハイランドのラン園の一つを訪問した際、ドーサルセパルがかなり大きくインパクトのある本種を見つけ3株持ち帰りました。そこでJ. Cootes氏のPhilippine Native Orchid Speciesやネットから本種のドーサルセパルのサイズを調べたところ、長さ4㎝ (up to 4cm)、幅2㎝とされています。一方、持ち帰った株は6㎝ x 2cmで長さが一般種に比べ2㎝長いことが分かりました。下写真がその花と、ドーサルセパルの計測画像です。

 本種のドーサルセパルは通常の形態では下画像左の花のように湾曲(卵形)しており、4㎝とはどのような条件での寸法なのかが書かれていないため、果たして下画像右のようにフラット長なのか、湾曲した自然状態でのスパン長なのかが分かりません。もし前者であるとすれば、入手したBulb. deareiは一般サイズの1.5倍のサイズとなります。現時点では多くの他の花を見てみないことには何とも言えませんが、ユニークな形態です。

Bulb. dearei
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