11月(続)現在開花中のセパルの長いバルボフィラム2種 前回記載したBulb. medusaeとBulb. echinolabiumですが、昨夕2日ぶりにかん水し、本日(29日)午前中にもう一度花サイズを測定したところ、それぞれが1㎝以上伸長し、Bulb.medusaeが18.5㎝、Bulb. echinolabiumは38㎝になっていました。この時期、浜松の温室は昼間28℃夜間18℃で、夜間の温度は昼間の残温効果の影響で高くなっています。またこの時期温室の換気窓は閉じ、天窓も日中2時間程、僅かに開くだけで湿度は昼間でも80%近くあります。その結果、かん水は晴天で2日、雨天の日のある場合は3日に一度でも植込み材は湿った状態が続き、これ以上のかん水はしていません。Bulb. medusaeはここ数日でさらに1㎝程伸びると思いますが、Bulb. echinolabiumはこの程度と思います。ところでBulb. echinolabiumですが夏場ならば間違いなくハエが集まりそうな匂いを放っています。30㎝ほどに鼻を近づけると思わず顔を背けたくなるほどです。匂いを何に譬えればよいのか、それぞれの年代によって異なると思いますが、当サイトの常連さんが前に、匂いの似たバルボフィラムを嗅いで、昔の小学校のトイレの匂いと仰ってましたが、はて半世紀も前の小学校のトイレの匂いと云われて想像できる人がどれほどいるか、60代以上の人ならば分かるかも知れません。
現在開花中のセパルの長いバルボフィラム2種 現在(28日)、マレー半島低地生息のBulb. medusaeと、スラウェシ島生息のBulb. echinolabiumが開花しており、メジャーを当て撮影しました。Bulb. medusaeは1m長のヘゴ板に取り付けているクラスター株で、マレーシア・プトラジャヤ花展で5年ほど前に入手したセパルペタル基部に斑点の無いalbaフォームの株です。写真左で上に跳ねたセパルから下垂したセパル先端までの長さはNS(自然状態)で17cm、一方Bulb. echinolabiumではドーサルセパルからラテラスセパル先端までの長さが36㎝弱となっています。やはり1輪で35㎝を超えるサイズは相当な迫力です。いずれも開花後2日目で、Bulb. medusaeはこれまでの観察から2日程で1㎝ほどさらに伸長すると思います。こうした長いセパルが特徴の花であれば、大きな花が咲けば自慢してネットに画像を掲載する人も世界中にはいるのではと思いますが、何故か下写真のように花サイズをメジャーで示す実写画像がネットには皆無というほど見られません。通常とは異なるサイズの花が同一株に常に開花すれば、その株は変異した遺伝子をもつ変種と考えられますが、どうも’giant’=巨大と云われるフォームのほとんどは栽培技術(あるいは環境)に依存した一過性のもの故に、期待したサイズ以下では気が引け実体サイズを示す画像が無いのかも知れません。しかし前向きに考え、1度でも大きな花が咲いたのであればその潜在的素質はある筈で、栽培によっては大きくすることが出来るとも考えられます。右のBulb. echinolabiumも当サイトの過去の画像を調べると30㎝を超えた花がこれまでに無く、今回が初めて35㎝を超えたことになります。この株は’giant’などの飾り名の無い野生株ですが、輝度をやや上げ、液肥をそれなりに与えて(これまで肥料を与えたことがありません)次は40㎝サイズを目指すつもりです。
Bubophyllum Cirrhopetalum節の似たもの同士の違い バルボフィラムCirrhopetalum節は現在80種ほど知られています。しかしその中には花形状が視覚的には極めて似ているもののリップや葉形状の詳細を調べると異なる類似種も多く、その広域分布と共に現在フィリピンやマレーシアから入荷する凡そ50%はsp(名称不詳種)で、それらの中から新種が発見される可能性が高いと思います。一方、マーケットでのCirrhopetalumは形状の類似性から、個々が評価され話題となる機会が少なく、他のランの中に埋もれ、ひっそりと咲いている種でもあります。今回似たもの同士を12種選んで、リップ形状の視点からそれぞれの個性を取り上げてみました。上下1対で上段の花のリップ拡大画像が下段となります。写真でsp1とsp2またsp4とsp5、さらにsp9とsp11は、花だけでは区別が難しく、リップフォームから判断するしかありません。このため虫眼鏡が必要です。これらは全て名称不明種spとして、2種を除きフィリピン、主にPalawanとMindanaoから入荷したバルボフィラムです。
マーケット情報はほとんど見られません。気になったのはorchidspecies.comのページにある”Plants should dry out between watering in the winter months and resumed with onset of new growth in the spring”の記載です。訳せば、冬期にはかん水から次のかん水の間には乾燥させ、春に新芽が出たら戻すとあります。一方、前記Baker書には”Cultivated plants should be allowed to dry somewhat between waterings, but should never remain dry for long periods” 栽培ではかん水のあいだには幾分(somewhat)乾燥があっても、決して長い間乾燥させてはならないと記載されています。orchidspecies.comの記載は、Baker氏の書から引用したと思われますが、somewhatとbut以下の重要なニュアンスと注意までは考慮していないようです。ほとんどのデンドロビウム栽培に関する記述には、冬季はかん水量を控えるとされています。これは寒くなればクールタイプの種を除いて生理機能が低下することから、過剰なかん水は根にダメージを与えることを避けるべきとの意であることは分りますが、ランにとって指針の前提とされる’冬季’とは具体的にどのような環境を指すのか、冬季に野外の大気に晒してランを栽培している訳でない以上、冬季でのランの置かれる気温、湿度の定量的な定義をまずすべきです。フィリピンBenguetには冬はありません。こうした’寒くなったら’的な抽象的表現は特に栽培初心者に誤解を与えかねません。例えば冬季を、ランの周辺が15℃以下となる期間と仮定すれば、本種にとりこれまで進化してきた生存域外に晒されることになります。何℃になれば何日植込み材を乾燥させても良いのか、どこにも記載がありません。 15℃以上の環境に生存していたのであれば、まずそれ以下の低温に如何に晒さないようにするかが生物栽培の基本と思います。 栽培経験からは本種は中温タイプであり、この中温とは15℃ - 30℃で、通年で夜間平均気温を20℃以下にすることです。湿度も昼間は50%前後は許容できますが夜間は80%を確保すべき環境となります。こうした環境で前記にある、かん水から次のかん水の間に植込み材を乾き切る(dry out)、乾湿状態の繰り返しは、やがて枯れることになります。乾き気味(dry somewhatとかrather dryあるいはslightly dry)と完全乾燥(dry out)とは異なります。15℃以上の温度と夜間の高湿度環境が維持できれば、植込み材の湿り具合で、乾燥することが無いようにかん水頻度を変えることで順調に成長することを確認しています。下写真に本種の植え替えを示しました。左は現在開花中の花で、いずれも21日の撮影です。2016年の入荷から毎年開花しています。左から2つ目は、これまでのクリプトモスミックス・プラスチック深鉢から取り出し根周りを洗浄した写真です。3つ目は高芽を、バーク、十和田軽石、pH調整炭でプラスチックスリット鉢に植え付けたもので、右写真はそれぞれ3-4バルブに分けた株を、左側から50cm長トリカルネット筒、50㎝長炭化コルク、高芽の30㎝長炭化コルクへの植替えを示したものです。こうした多様な植付け方法は、栽培実験用で、同一環境にてこれらの栽培結果を観察する目的で行ったものです。地生種であることからPaphiopedilumと同じような植込み材の鉢植えでの栽培を5年前に行いましたが、クリプトモスミックスと比較して成長差がなかったため、ポット植と共に、こうした取り付けを今回初めて試してみました。結果は1年後となります。
クール室で現在開花中の3種 クール室は現在14℃ - 23℃となっています。クール室とは云え多種多様な低 - 中温タイプの種との同居であるため最低温度は14℃を下回ると暖房が入るようになっており、外気が10℃を下回るようになると、なんとか13℃を維持しているところです。この時期はDracula属が各種開花しています。
現在開花中の花 下写真は現在(16日)開花中の花です。これらの中で希少株は5段右のPhal. hieroglyphicaです。Phal. hieroglyphicaの一般種は無臭ですが、写真の株は、花形状は一般種と変わらないものの甘い柑橘系の香りがします。最下段の南米種Stanhopea pullaは8月の植替えが良かったのか今月に入り開花し、2m程離れた位置でも良い香りが漂っています。
次期デンドロビウムページのサンプル(後記:2種追加) 歳月記8月のページ末尾に、来年更新予定であるバルボフィラムの新しいページサンプルを紹介しましたが、今回はデンドロビウム4種のサンプルページです。2010年から今日まで記録した数万枚の画像から、種毎に画像を選び出し、トリミングやカラーバランスなど画像編集ソフトPhotoshopを使用してページを制作しています。デンドロビウムは330種ほどになる予定で、種毎の写真と概要ページと共に、会員ページとなる栽培情報を加えることで、その2倍以上の情報量となり作業は膨大です。今回のサンプルにはDen. amboinense、Den. rindjaniense、Den. cinnabarinum_angustitepalumおよびDen. taurinumの4種を取り上げてみました。ページ内にあるリンク枠の ’栽培や生態について’ をクリックすると栽培情報のページにリンクできます。この栽培に関するページは来年の実装から会員以外は非公開となります。会員ページには、種毎の栽培情報だけでなく、栽培に関する会員間のフォーラムやQ&A、また海外情報なども設ける予定です。 Den. cinnabarinum_angustitepalum Den. taurinum Den. amboinense Den. rindjaniense Bulbophyllum pustulatumの白色フォーム ボルネオ島低地生息の本種が、本日(9日)早朝に開花していました。Bulb. pustulatumの一般フォームは、セパル・ペタルが透明感のある薄黄のベース色に複数の赤紫のラインが入り、リップは濃い赤紫です。しかし今朝の花はセパル・ペタル共にベースの黄色が消えて半透明となり、ラインもありません。またリップは淡い肌色です。下写真がそれで、右写真は一般種のカラーフォームを比較参考のため示したものです。植物の色はアントシアニン色素により赤、紫および青を発色し、この成分はpH(水素イオン濃度)に影響され色変化をもたらすと云われています。しかし本種は多数の株が隣り合わせの炭化コルクで開花しており、隣接する他の株の花色は一般色のままで、植込み材や環境等によるpHの変化が、この株だけに生じたとは考えられません。また色味の強弱の変化ではなく、色素が抜けているような様態はalbaフォームかとも思われますが、数千・数万に一つの変異がそれ程容易に生じるとも思えません。本種名でネット画像を検索しましたが、同様のカラーフォームは見当たりませんでした。当面当サイトではこのフォームをBulb. pustulatum whiteとします。花後に炭化コルクからトリカルネット筒に植え替えて株を大きくし、株分けをしたいと考えています。
Bulbophyllum inacootesiiの植替え 2016年に登録されたMindanao島Bukidnon標高1,300mに生息のBulb. inacootesiiが、植付けから約2年経過したため、今回40株程ある全株を植替えることにしました。前回同様に支持材は炭化コルクです。写真上段左は本種の花で、右の新しいミズゴケの付いた炭化コルクの株が植え替えの終わった一部です。分け株を含めると50株程になる予定です。花はかなりインパクトがあり、昨年の東京ドームラン展で10株ほど販売しましたが開花株を花見本として展示したためか、すぐに売り切れてしまいました。写真下段は、それぞれ株は異なりますが左は植え替え前の株、中央は植え替えるにあたり、ミズゴケをシャワーで洗い流した後の様子です。2年間で根はコルク上に活着するものとコルク内に潜り込むものが多数見られます。この根張り状態からは2年間の栽培環境(温度、湿度、通風、かん水など)に問題が無かったことが分かります。こうした根の様子を調べるのも植え替え時に重要です。次は株をコルクから外し、バリダシンとタチガレエースを根を中心にスプレー処理した後に植付となります。 種にも依りますが本種の場合、もし生きた根が短く数本しかない場合は、取付材、植え付け方法、環境に問題があることを示しており、素材の変更や栽培環境の改善が必要となります。植替え時において取付材に十分な成長の伸びしろ分が残っていれば、株をコルクから外すことなくミズゴケだけを新しくする方法もあります。この場合は古いミズゴケは全て取り除きます。一方、株が大きくなったり、新バルブが空中に飛び出していたり、コルクからはみ出しそうである場合は、新しいコルクに植え替えとなり、この際なるべくコルク内部に潜り込んだ根を、切断することなく取り外すことが好ましく、しかし活着した根を剥がずには、かなりの技術が必要で、根周りのコルクを少しづつ削りながら根の取り外しとなり、この結果、古いコルクは再利用できなくなります。写真右は植え替えが終了した様子です。当サイトでは株分けをする場合、1株当たり4バルブ以上とします。3バルブ以下では、株が弱体化し枯れるリスクが高くなるためです。 本種は生息標高域から推測し、雲霧林生息種で中温タイプとなります。夜間平均温度25℃以上が続く環境では栽培が困難です。よって浜松の場合、通年で中温室とするか、11月から3月までは一般温室に移動し、それ以外の晩春から初秋までの高温期は中温室での栽培となっています。福島以北では特に高温障害に気をつけることは無いと思います。また通年で根を一時的であっても乾燥させることは出来ません。輝度は比較的明るい環境で成長や花付きが良くなります。ところで、マニラ近郊のラン園によると昨年以降、本種の入荷は途絶えているとのことです。
現在開花中の花とコケ 下写真は現在(7日)開花している花と上段右は前項で取り上げた温室のラン取付材に自生しているコケの拡大画像です。
現在開花中の花 現在(3日)開花中の花を選んでみました。下段の胡蝶蘭は市場には余り見られないフォームです。Phal. bellinaはペタルに赤紫のラインが入っており、Phal. deliciosaは亜種のhookeriana。またPhal. equestrisはリップ中央弁先端が青色で基部に向かってゴールドに変化するミンダナオ島生息種の一部に見られるカラーフォームです。Bulb. speciosum、Den. atjehense.、Den. rindjanienseは中温、他は高温タイプとなります。前項のDen. caliculimentumで、低温室ではコケが自生していると書きましたが、上段中央のBulb. speciosumの画像の支持材にそれを見ることができます。
Dendrobium caliculimentumの植替え これまで当サイトでは本種をDen. alaticaulinumとしていましたが、Den. alaticaulinumの疑似バルブの長さは30㎝とされている一方で、2016年からの4年間の栽培で1mを超えたことから、本種がDen. caliculimentumであることが分かりました。情報によればDen. caliculimentumは50 - 120cmで、稀に2mにもなるとされます。入荷時の株サイズが25㎝程で茎も細く、2色からなる花のカラーフォームも似ており同定が困難であったことから、2016年3月の歳月記ではDen.spとしDen. alaticaaulinumかcaliculimentumかのいずれかではないかと紹介していました。入荷時から4年以上、杉皮板に付けたままクール室に吊り下げており、コケ林で見られるようなコケが杉板を覆い尽くし、適度な湿度が保たれていた故か1mを超えるまでに成長しました。写真下段左は本日(3日)その杉板から外し、株を洗浄した状態でピンク色の部分が根となります。中央はその拡大写真です。杉板は25㎝ x 8cmであったことから如何に狭い面積内で根が密に張っていたかが分かります。これを植替えるにあたり、現在は杉皮板は利用していないため、炭化コルクを考えたのですが、根が細く長いことから活着に問題があると思われ、最近取り上げているトリカルネット筒に取り付けることにしました。取り付け後の写真が右です。この筒は50㎝の長さがあり、株サイズが1m長あることが分かります。クール室では多数の支持材に苔が自生しており、この筒にもコケが着けば良い景色になるのではと期待しています。
Dendrobium papilio フィリピンルソン島Nueva Vizcaya標高1,200mに生息する本種は中温タイプのデンドロビウムで、その細い疑似バルブ(茎)に比べて不釣り合いなほどの大きな花で知られています。花サイズは、orchidspecies.comでは4 - 7cm、Philippine Native Orchid Species、J. Cootes 2009では約5㎝とされています。当サイトでは2015年の東京ドームラン展で、9-10㎝の花サイズを付けた本種を10株ほど販売したのが最初です。本種の開花期は国内の温室栽培では晩春ですが、初冬も一部の株に開花が見られます。下写真上段左は昨日、他は本日(2日)早朝撮影したDen. papilioです。現在は中温室で炭化コルクでの栽培となっています。写真の花は、株(茎断面) 1.5mmサイズに対してセパル間のNSは8.5㎝で、花の大きさ感が良く分かります。これまでの栽培経験から、花サイズは株の充実度に大きく依存し、10㎝レベルのサイズにするためには茎の太さが2mm以上必要です。このため茎を太くすべく40株ほどある本種の8割を45㎝長の炭化コルクに1年前に植え替えました。長いコルクにした理由は、根張りが活発である反面、空中に飛び出した根は5㎝程度は伸長するもののやがて根冠が枯れて止まります。こうした状態が続くと株は現状維持までで成長しません。このため活着できる広い伸びしろ分が必要なことと、根の長さや多さが茎を太くする条件になるからです。下段左は3段に吊るした様子で、2年前までは本種が着生や岩性であることから、半数をバーク、軽石、麦飯石などミックス材でポット植えとしていましたが、ポットサイズが小さすぎたのか、成長が今一つであったため吊り下げ型に統一しました。下段中央及び右は植え替え後に発生した多数の新芽です。1年後を目途に大輪花を目指しています。本種も他の多くのデンドロビウム同様に根周りは通年で湿っていることが必要で、根が乾燥しがちな環境ではやがて枯れます。
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