6月
|
Vanda floresensis | Vanda ustii |
Bulbophyllum cheiri
4年前にマレーシアから入荷したBulb. cheiriが開花しています。下写真左が今回開花した花で、orchidspeces.comと同じ色合いのフォームです。一方、同じ年に本種名でフィリピンPalawanより入荷した花が中央写真です。いずれも倒立型で、サイズや形状はほぼ同じですが、花のテキスチャーや色合いはかなり異なります。本種はボルネオ島、スマトラ島、Java、フィリピンなど広範囲に分布する種であることから、そうしたフォームの違いは不思議ではないと思いますが、形状の似た種にBulb. whitfordiiやBulb. megalanthumなどがあり、これらの中でもフォームは多様であることから、さて同定となると迷います。写真右は左の花の正面から見たNS(自然体寸法)画像です。左右ペタルのスパンは4㎝、ドーサルセパルもほぼ4㎝高の大きな花です。今回開花した花からも、orchidspecies.comに記載のサイズ2.8㎝長(long)はどの部分か、毎度のことで分かりません。orchdspecies.comは趣味家にとり、なくてはならない有用サイトであることは間違いなく、あまり情報にクレームをつけるのも憚られ、今後は違和感を覚えたときは静かに寸法画像を載せることにします。Bulb. cheiri 左:ボルネオ島、中央:フィリピンPalawan |
Dendrobium aurantiflammeumの花形状
今年の2月からDen. aurantiflammeumの開花が途絶えることなく続いています。これも下写真左に見られるように本種を40株以上(写真はその内の2/3株)を栽培しており、どれかが次々と開花しているためですが、驚くことに同じ株で5ヶ月間に3回の開花を繰り返す株も多く、本種でそうした様態を見るのは今年が初めてです。これらの中に濃赤色や、セパル・ペタルの長い(一般サイズは5-6㎝に対して9㎝程)株が僅かに見られ、これまで紹介してきました。Den. aurantiflammeum |
真正albaフォーム Dendrobium uniflorum
Den. uniflorumはフォームや近縁種が多様で、同定が困難な種の一つですが、今回セパル・ペタルが白色であると共に、リップ中央弁にしばしば見られる茶褐色のライン模様が無い(下写真でリップ中央弁の中央に薄っすらと見える細いラインは溝状の凹面によるもの)純白の花が開花しました。中央弁にラインの無いフォームはネットでも良く見られますが、いずれもリップの色が薄い黄色や黄緑色をしており、セパル・ペタルおよびリップ全体が白一色は無いようです。2年ほど前に当サイトの温室でこのフォームを見ましたが、アルバやセミアルバなどフォームを区別したラベリングをしていないため、7株程ある中でどれか該当する株か、花無し状態では分かりませんでした。今年に入り全株を木製バスケットに植え替えし、3ヶ月ほど経った昨日(22日)に、その株が開花しました。この株はマレーシアで入手したものでボルネオ島生息種と思われます。不思議な点はリップ側弁の形状で、一般種と比較し円形でかなり幅広です。下写真は開花中の花と寸法を示すもので左右ラテラルセパル間の横幅は3.6㎝です。Den. uniflorum alba |
奇妙な花形状のBulbophyllum saurocephalum subsp. oncoglossum
本種は2011年W. Suarez氏により報告されたフィリピンNueva Vizcaya標高1,000mに生息する新種のバルボフィラムです。花を見ていつも思うのは、どうしてSuarez氏はこのような目立たない種を、ジャングルの中でランとして発見できたかです。6年ほど前、彼と車でタール湖畔に沿ってバタンガスのMalvarosa農園に向かった時、車から眺める道路脇に開花した草木の名前を次々と言うので、まさかこれは分らないだろうと小さな木を選んで、これは何?と聞いたところ、考える様子もなく即座にその名前を告げたのには驚きました。しかし本種は、 たまたまバルボフィラムらしいと採取した株に、奇妙な花が偶然開花し、調べたところ新種ではないかとAustralian Orchid Reviewに寄稿したのではと、今度フィリピンで会ったときに聞いてみようと思います。下写真がBulb. saurocephalum subsp. oncoglossumで現在開花中です。この長い名前故に本種のサムネールを作成する際に、その種名をどのように枠内に収めるか苦労します。また当サイトがどうしてこの種を現地マーケットで見つけ入手したか記憶がありません。花は毎年5-6月頃に開花しています。花サイズは横幅6-7mm、縦幅1㎝ほどの小さな花で、花茎当たり20輪程開花します。一度サンシャインラン展に3,000円で出品しました(左がその株で出戻りです)が、その後はひたすら温室で静かに過ごしています。Bulb. saurocephalumはルソン島やレイテ島の生息で130年も前から知られていますが、その亜種である本種の希少性については不明で、当サイト以外、マーケット情報は皆無のようです。フィリピンでもその後は本種を見ていません。Bulb. saurocephalum subsp. oncoglossum |
最近の状況と取り組みについて
梅雨期に入り温室においても、湿度が上昇することで、ランにとって最も成長が盛んになる時期となっています。2017年以降、当サイトでの原種栽培は、その生態から吊り下げ型が多く、主な取付け材として炭化コルクを多用しています。また最近ネット上では、本来建築用部材であった炭化コルクが園芸用としても販売されるようになりました。多分に本サイトの影響もあると思われますが、 しばしば本ページで取り上げているように、炭化コルクをラン取付け材として利用するにあたっては、栽培環境に大きく影響される留意すべき点があります。Coelogyne odoardiとCoelogyne pandurataの植え替え
前回の植付けから3年近く経過したCoelogyne odoardiがあり、今週植え替えを行いました。本種は長く下垂する花茎に10輪以上開花することからヘゴ板やコルクなどへの吊り下げタイプとなります。一方、これまでの板状取付材の観察から、根は放射線状にほぼ同じ長さで伸長する性質があり、横幅の狭い縦長の取付材では横方向に伸びた根は1年もするとはみ出し、この空中に伸びた根はやがて枯れ、株の成長を妨げます。そこで今回、これまでの30㎝ x 9cmの取付材から株サイズにより35-45㎝ x 13㎝に変更し、横幅を増すことにしました。また写真左では株上部のスペースを大きく取っていますが、これは伸びしろ分と云うよりは根が常に湿っていることの必要な本種に対し、取付材上部を保水性の高いミズゴケで覆うことで、根周りの保湿度を高めるためのものです。本種はその色と香りで人気が高く、COVID-19が落着きマレーシアとのEMSが遅延なく送達可能となれば、最初の注文ロットに含まれる予定種の一つとなります。Coel. odoardi | Coel. pandurata |
Bulbophyllum membralifolium Surigao Philippines
通常Bulb. membralifoliumは夏から秋が開花期ですが、現在フィリピン スリガオ(ミンダナオ島最北部)生息の本種が開花しています。写真上段が現在開花中の花で、下段はボルネオおよびスマトラ島生息株のそれぞれの花です。スリガオ生息種は黄色をベースに、セパル・ペタル全体に赤褐色の斑点があり最も美景です。他の地域種にはラテラルセパルが無地か薄いラインが多いようです。下段の花も全て当サイトでの撮影です。Bulb. membranifolium Surigao Philippines | ||
Bulb. membranifolium Borneo and Sumatra |
Bulbophyllum bataanense
フィリピン生息種のBulb. bataanenseが開花しています。同じフィリピン・ミンダナオ島のBulb. deareiと下写真で比較してみました。大きな違いはそのサイズでBulb. bataanenseは左右ペタルスパンで4㎝程のミニBulb. lobbiiといったところです。またBulb. deareiはペタルが後方に大きく反りますが、Bulb. bataanenseは開花から枯れるまで後ろに反ることはありません。またBulb. bataanenseとサイズの似たBulb. microglossumが知られています。この種はペタルがBulb. dearei以上に後方への反りが大きなことが特徴ですが、1-2ヶ月で開花期を迎えるため、開花したら詳細比較をする予定です。Bulbophyllum. bataanense Mindanao Philippines | ||
Bulb. dearei Mindanao Philippines | Bulb. bataanense (left)/Bulb. dearei (right) |
Dendrobium kenepaiense
Den. kenepaineseはボルネオ島・西Kalimantan Kenepai山に生息のデンドロビウムで、カラーフォームは異なりますが花形状はDen. uniflorumに似ています。国内マーケットには当サイト以外情報が無く、海外においても本種のマーケット情報は見当たりません。本種名でorchidspecies.comを検索すると、花サイズが1㎝幅とされています。この寸法は同じorchidspecies.comのDen. uniflorumの花サイズが1.25cm - 3.1cmとされる最小値よりも小さく、花のどの部分を測定した数値か不明です。読者がDen. kenepaienseの花は非常に小さいと誤解することがないように、花サイズの実体を取り上げてみました。Den. kenepaiense West Kalimantan Borneo | ||
Den. kenepaiense (upper)/ellipsophyllum (lower) | Den. jyrdii Palawan Philippines |
現在開花中の倒立開花バルボフィラム3種
通常、花のラテラルセパルは下に向いて咲くものですが、逆さまになって開花する種がバルボフィラムに見られます。花の形状や開花姿勢は、花粉を運び受粉するポリネーター(昆虫など)と共生、進化した結果と思われますが、何故に逆さまなのか不思議です。花粉魂のある蕊柱は、一般的にポリネータが侵入する体勢に対し上部に位置し、この結果、花粉魂はポリネーターの頭や背中に接着して蕊柱から外れます。この状態でポリネーターが飛び立ち再び花を訪れたとき、今度は蕊柱の窪みに花粉魂が引っ掛って外れ、受粉が完了します。もし花が逆さまに開花していれば、ポリネーターも逆さまになって侵入しているか、あるいは足や腹に花粉魂を付けて、次の花に飛び去ることになります。一般の植物に見られる花粉のように粉状であれば兎も角、ポリネーターにとっては結構大きな固い花粉魂を足に付けて飛び周り、花に着地するのは不都合です。生息地のジャングルに分け入り、果たして倒立開花のランのポリネーターはどのような昆虫で、どのような姿勢で受粉を行っているのか見てみたいものです。Bulb. macranthum Borneo | Bulb.gjellerupii New Guinea | Bulb. patens Borneo |
Paphiopedilum gigantifolium
スラウェシ島の渓谷に生息するPaph. gigantifoliumを栽培して18年になります。当初は2株でしたが8株まで増えました。’The Giant-Leaf Paphiopedilumi’とされる名に恥じず、現在根に最も近い葉の長さは54㎝で、左右スパンは1mを越えます。4-5年前から、毎年6輪の花を付けるようになりました。年2回開花が見られ、現在開花中です。この2回とは同一株にではなく、開花期が春と秋にあり、いずれかの株が春と秋に分かれて開花しているということです。下写真は6日の撮影です。花茎は発生元から最上段の花まで1mの長さとなります。栽培場所から移動し、黒い背景用カーテンやアルミ線で花茎を直立させるなど撮影のための作業に1時間程かかりました。Paph. gigantifolium |
現在開花中の花
下写真は現在開花中の12種を選んでみました。写真2段右のParaphal. serpentilinguaは2年前の入荷後、Paraphal. labukensisと同じ高温室にて栽培していました。しかし当初の1年間は問題がなかったもののやがて弱体し始め、半年ほど前に中温室に移動しました。その結果、新芽が現れ開花も多数の株で見られるようになりました。orchidspecies.comによると生息地標高は1,000m以下とされ、それ以前の10年間ほどのロットは高温タイプとして全てParaphal. labukensisとの同居栽培でした。どうも今回のロットの生息地はそれまでの低地ではなく、1,000mあるいは以上からの、夜間平均温度として20℃以下が必要な株と考えられます。高温室内では冬期の3ヶ月間程を除いて、昼間に上昇した気温が滞留し夜間20℃以上となることが多く、成長を阻害していたようです。野生栽培株の適温範囲の変化は近年頻繁に見られるようになり、胡蝶蘭ではPhal. doweryensis, celebensisが挙げられます。株が上手く育たないとき、同じ環境で再挑戦するのではなく栽培環境を変えることが有効と思われます。このような現象はデンドロビウムやバルボフィラムなど野生栽培株全属の問題となっています。Phal. appendiculata Borneo | Phal. braceana China | Phal. parishii Vietnam |
Phal. pulchra Leyte Philippines | Coel. cuprea Borneo | Paraphal. serpentilingua Borneo |
Den. officinale China | Den. punbatuense Borneo | Den. sutepense Myanmar |
Bulb. pustulatum Borneo | Epicranthes sp. Mindanao Phlippines | Passiflora coerulea 'Purple Rain' |
Bulbophyllum sp Green Sepal
2016年11月、マレーシアより、標高不明のスマトラ島生息種とみられる、ラテラルセパルが緑色のBulb. spを入荷しました。写真上段左は園主から送られた花画像、中央は当温室での初花(2017年3月)です。当初高温室にての栽培で暑さに弱い様子はありませんでした。写真中央の輪花数が少ないのは順化栽培後の初花故と思われます。しかし、その後開花はあるものの、一向にセパルに緑の発色が現れず、本種を購入された方からも同様の情報が寄せられ、薄い紅色のフォームが続きました。そこで本種と同時に入荷した株の多くに標高1,000m程の中温タイプのデンドロビウムが含まれていたことから、1昨年高温室から中温室に全株を移動しました。その結果、この環境が適しているかのようで1株も枯れることなく、バルブ数もこれまでの2年半で倍近く増えました。上段右写真が最近の花で、僅かながらラテラルセパルに緑成分が含まれてきた感じです。この画像にも不思議な現象が見られ、写真左や中央のリップは紅色であるのに対し、右はオレンジ色であることです。これらが全て同一ロット種であることを考えると不思議です。Dendrobium tobaense
Den. tobaenseは迫力ある大きな花で人気が高い反面、熱帯常緑季節林生息のFormsae節特有の栽培難易度の高いデンドロビウムです。大きな花を得るには疑似バルブ(茎)を如何に太く育てるかが要となることが最近分り、その栽培方法の一例を昨年10月に取り上げました。Den. tobaense |
現在開花中のBulbophyllum3種
現在温室では多数のバルボフィラムが開花中ですが、その内の3種を下写真に取り上げました。撮影はいずれも2日です。左はBulb. singaporeanum、中央はBulb. frostii、右はBulb. recurvilabreです。Bulb. singaporeanumはシンガポールおよびマレーシアJohoreの低地に生息し、最近(2015年)はボルネオ島も記録されているようです。写真の株は2018年8月にマレーシアにて入手しました。中央のBulb. frostiiも同じ年にキャメロンハイランドで入手した株です。セパルのベース色が緑がかっていることが特徴です。本種の生息域は1,500m近辺とされ中温タイプですが、当サイトでは高温室での栽培で開花しています。右のBulb. recurvilabreは1999年登録されたフィリピン・レイテ島生息の新種で、セパル・ペタル共に黄色をベースに赤褐色の小さな斑点があるフォームと、orchidspecies.comに見られるラテラルセパルは赤茶色で、斑点はあるものの同色化して見にくいフォームがあります。困ったことに、入荷する株がいずれのフォームかは開花しないと分からないことと、下写真の鮮やかなフォームが人気が高く、現在当サイトでも数人の購入予約が入っています。現在フィリピンには黄色ベースの斑点タイプを特定して発注しており、渡航し持ち帰りができるまで販売待ちです。Bulb. singaporeanum Singapole | Bulb. frostii | Bulb. recurvilabre Leyte Philippines |
Dendrobium dianae
先月末からボルネオ島Kalimantanの生息種で2010年記録の新種Den. dianaeが開花しています。本種には下写真左と中央に見られるように全く異なる2つの花フォームがあり、余りに異なる花フォームから別種ではないと思うほどです。最初に本種を見たのはマレーシアで、訪問時によく遇う現地趣味家に何か珍しいものがあればと伺ったところ、写真中央と同じフォームの開花株を持参され頂いたときでした。orchidspecies.comには、ツートンカラー・フォーム(赤色の線状斑点の有無)の記載はありません。その後、これまで30株を超える本種をDen. dianae名で現地に発注してきましたが、ツートーンカラーは入荷株の1割程度にのみ出現し、そのほとんどは薄黄緑から黄色単色のフォームです。3年以上の栽培ではフォームは変化することなく再現されています。Den. dianae |
海外原種ラン園事情
コロナウイルス問題で渡航制限が始まって3ヶ月が経ちます。マレーシア、フィリピン、インドネシアなどのラン生息国での、特に原種を扱うラン業界はローカルマーケットを中心とする交配種とは異なり、海外への卸販売によって成り立っているのが実状です。この結果、ここ数ヶ月間の収入は皆無に近いと思われます。現地直接取引が無理でも、EMS(国際スピード郵便)による国際間での売買が考えられます。しかし生体であるランの品質を考えれば、現地発送から日本での受け取りまでには1週間以内が限度であり、徐々に都市封鎖が解除されつつはあるものの、輸送の遅延は許されず現時点ではEMSであってもリスクがあります。こうした状況がさらに半年ほど続けば、現地の1次業者から3次業者まで、果たしてストックや栽培場の維持管理が続けられるかが心配です。いずれにしても長時間の梱包に弱いクールタイプや胡蝶蘭原種は、ワクチンができ渡航可能となるまで当分入手は困難ですが、EMS送達遅延がなくなることと、現在マレーシアやフィリピンは盛夏であり、この期間が去り次第、比較的強靭な高温タイプのバルボフィラムやVandaなどから順次EMS発注を開始する予定です。