栽培、海外ラン園視察などに関する月々の出来事を掲載します。内容は随時校正することがあるため毎回の更新を願います。  2019年度

   2020年 1月  2月  3月  4月  5月  6月  7月  8月  9月  10月  11月  12月 

6月

Vanda ustii

 5月のフローレス島生息種とされるVanda floresensis(下写真左)に次いで、今月はフィリピンルソン島のVanda ustii(写真中央及び右)が開花中です。一時期、Vanda ustiiVanda luzonicaの変種とされたようですが現在は固有名です。ベース色は白からクリーム色、リップは紫色の落着いた色合いで、Vanda luzonicaVanda sanderianaと同じ大型種です。生息域が1,200mであることから、Vanda luzonicaの500mとは異なり、低温を好むのではと思い4年ほど前までは中温室にて栽培していましたが、現在はVanda luzonicaと同じ温室に移しており、毎年この時期に開花しています。やや中温室が花数が多いような印象はあります。ちなみに本種名のustiiはマニラ市内にある1611年に設立されたアジア最古とされる有名大学University of Santo Tomas由来の名前で、J. Cootes氏の著書にはその呼び方として、ユー・エス・ティ・イ・アイとありますが、現地マーケットでの本種取引で呼ぶ名前としては、簡略しユスティーあるいはユスティアイが一般化しています。

 このVanda ustiiもヤフオクに当サイトの画像の無断使用が見られます。どうもヤフオク出品者にはしばしばこうしたビジネスルールの分からない人がいるようです。現在当サイトに掲載のVanda ustii写真は一般種と異なる黄色味の強いベース色の花で、これをコピーすること自体が間違いです。

Vanda floresensis Vanda ustii

Bulbophyllum cheiri

 4年前にマレーシアから入荷したBulb. cheiriが開花しています。下写真左が今回開花した花で、orchidspeces.comと同じ色合いのフォームです。一方、同じ年に本種名でフィリピンPalawanより入荷した花が中央写真です。いずれも倒立型で、サイズや形状はほぼ同じですが、花のテキスチャーや色合いはかなり異なります。本種はボルネオ島、スマトラ島、Java、フィリピンなど広範囲に分布する種であることから、そうしたフォームの違いは不思議ではないと思いますが、形状の似た種にBulb. whitfordiiBulb. megalanthumなどがあり、これらの中でもフォームは多様であることから、さて同定となると迷います。写真右は左の花の正面から見たNS(自然体寸法)画像です。左右ペタルのスパンは4㎝、ドーサルセパルもほぼ4㎝高の大きな花です。今回開花した花からも、orchidspecies.comに記載のサイズ2.8㎝長(long)はどの部分か、毎度のことで分かりません。orchdspecies.comは趣味家にとり、なくてはならない有用サイトであることは間違いなく、あまり情報にクレームをつけるのも憚られ、今後は違和感を覚えたときは静かに寸法画像を載せることにします。

Bulb. cheiri 左:ボルネオ島、中央:フィリピンPalawan

Dendrobium aurantiflammeumの花形状

 今年の2月からDen. aurantiflammeumの開花が途絶えることなく続いています。これも下写真左に見られるように本種を40株以上(写真はその内の2/3株)を栽培しており、どれかが次々と開花しているためですが、驚くことに同じ株で5ヶ月間に3回の開花を繰り返す株も多く、本種でそうした様態を見るのは今年が初めてです。これらの中に濃赤色や、セパル・ペタルの長い(一般サイズは5-6㎝に対して9㎝程)株が僅かに見られ、これまで紹介してきました。

 今回は、セパルペタルが異様に幅広の株の紹介です。写真中央の右側の花が現在開花中のその幅広タイプで、左の細長い一般形状と比較したものです。右写真では一般種の4mm幅に対して、その倍のほぼ1㎝幅を示しています。しかも色合いも、これまで取り上げた株よりは若干弱いものの赤味もあり、これが30輪程同時開花すればかなりのインパクトを与えるのではと思います。

Den. aurantiflammeum

真正albaフォーム Dendrobium uniflorum

 Den. uniflorumはフォームや近縁種が多様で、同定が困難な種の一つですが、今回セパル・ペタルが白色であると共に、リップ中央弁にしばしば見られる茶褐色のライン模様が無い(下写真でリップ中央弁の中央に薄っすらと見える細いラインは溝状の凹面によるもの)純白の花が開花しました。中央弁にラインの無いフォームはネットでも良く見られますが、いずれもリップの色が薄い黄色や黄緑色をしており、セパル・ペタルおよびリップ全体が白一色は無いようです。2年ほど前に当サイトの温室でこのフォームを見ましたが、アルバやセミアルバなどフォームを区別したラベリングをしていないため、7株程ある中でどれか該当する株か、花無し状態では分かりませんでした。今年に入り全株を木製バスケットに植え替えし、3ヶ月ほど経った昨日(22日)に、その株が開花しました。この株はマレーシアで入手したものでボルネオ島生息種と思われます。不思議な点はリップ側弁の形状で、一般種と比較し円形でかなり幅広です。下写真は開花中の花と寸法を示すもので左右ラテラルセパル間の横幅は3.6㎝です。

Den. uniflorum alba

奇妙な花形状のBulbophyllum saurocephalum subsp. oncoglossum

 本種は2011年W. Suarez氏により報告されたフィリピンNueva Vizcaya標高1,000mに生息する新種のバルボフィラムです。花を見ていつも思うのは、どうしてSuarez氏はこのような目立たない種を、ジャングルの中でランとして発見できたかです。6年ほど前、彼と車でタール湖畔に沿ってバタンガスのMalvarosa農園に向かった時、車から眺める道路脇に開花した草木の名前を次々と言うので、まさかこれは分らないだろうと小さな木を選んで、これは何?と聞いたところ、考える様子もなく即座にその名前を告げたのには驚きました。しかし本種は、 たまたまバルボフィラムらしいと採取した株に、奇妙な花が偶然開花し、調べたところ新種ではないかとAustralian Orchid Reviewに寄稿したのではと、今度フィリピンで会ったときに聞いてみようと思います。下写真がBulb. saurocephalum subsp. oncoglossumで現在開花中です。この長い名前故に本種のサムネールを作成する際に、その種名をどのように枠内に収めるか苦労します。また当サイトがどうしてこの種を現地マーケットで見つけ入手したか記憶がありません。花は毎年5-6月頃に開花しています。花サイズは横幅6-7mm、縦幅1㎝ほどの小さな花で、花茎当たり20輪程開花します。一度サンシャインラン展に3,000円で出品しました(左がその株で出戻りです)が、その後はひたすら温室で静かに過ごしています。Bulb. saurocephalumはルソン島やレイテ島の生息で130年も前から知られていますが、その亜種である本種の希少性については不明で、当サイト以外、マーケット情報は皆無のようです。フィリピンでもその後は本種を見ていません。

Bulb. saurocephalum subsp. oncoglossum

最近の状況と取り組みについて

 梅雨期に入り温室においても、湿度が上昇することで、ランにとって最も成長が盛んになる時期となっています。2017年以降、当サイトでの原種栽培は、その生態から吊り下げ型が多く、主な取付け材として炭化コルクを多用しています。また最近ネット上では、本来建築用部材であった炭化コルクが園芸用としても販売されるようになりました。多分に本サイトの影響もあると思われますが、 しばしば本ページで取り上げているように、炭化コルクをラン取付け材として利用するにあたっては、栽培環境に大きく影響される留意すべき点があります。

 20年間程の栽培を通して得た知見として、着生ランのそのほとんどが夜間の高湿度環境を必要とすることと、特に根は常に湿った状態の維持が必要であり、過っての素焼き鉢栽培マニアルにあったような、完全に乾いたらタップリの水を与えると云った方法は、多くの原種には適用できません。こうした経験から株の吊り下げ栽培においては、かん水は夕方に行い、夜間湿度を高めるだけでなく、特に炭化コルクでは5年間の経験により今年からは、これまでの取付面積を2倍程にし、上部は新芽やリゾームの伸びしろ分を広く取り、その面と根周りにはミズゴケを厚く敷き、長時間高湿度を維持する植付けを行っています。

 果たして炭化コルクは、栽培を目的とした植え付けに最適かと問われれば、それ以上に適した材料は多数あると考えます。当サイトが炭化コルクを利用するのは度々本サイトで述べてきましたが、販売のためのコスト/パフォーマンスからであり、必ずしも栽培至上目的からではありません。販売を考えないで良い、言い換えれば材料コストや梱包・搬送の利便性を無視できるのであれば、まず葉、茎あるいは花茎が下垂するランの取付材としての筆頭候補はヘゴ板となります。保水力は炭化コルクの数倍あり長時間の保水能力により前記した問題点が軽減できます。次にこれまでの経験で優れた結果が得られたのは、円筒形状にしたトリカルネットにヤシガラマットを巻き、これにミズゴケを薄く覆った取り付け材です。円筒内部にはミズゴケ、クリプトモスあるいは保水性のある布を詰めることで、根周りに適度な湿りが長時間得られる特性から、成長が活発となります。木製バスケットあるいは素焼き鉢・ミズゴケの斜め吊り下げも、炭化コルク以上に栽培結果は良好です。当サイトで2015年以降、素焼き鉢を使用しなくなったのは、下垂、立ち性、半立ち性など様々な原種の栽培に、瀬戸物の鉢を空中に吊すのは、花を咲かせる目的だけならば兎も角、より自然体に近いランの成長を含めて観賞しようとした場合の景色が良くないからです。

 垂直取付け材、特に炭化コルクなどで、成長が上手くいかない趣味家も多数おられると思いますが、おそらく例外なくその原因は、根周りの完全乾燥が繰り返し発生していることが考えられます。これは他の植え付け材であっても、ぐしょ濡れと完全乾燥の繰り返しは同様に栽培には不適です。やがて根が枯れ、高芽が発生するものの、特に根の細く長い種には完全乾燥は致命的です。この乾燥とは根を覆うミズゴケに触れてみて乾いている、ひどい場合はカサカサの状態を指します。ミズゴケもフワフワ感のある1年程度であれば保水力もあり成長も順調で良いのですが、2年もすると保水力は植込み初期の数分の一に減少します。 1-2年は良かったが次第に株が弱ってきたと云った主な原因の一つが、この保水力の低下にみられます。だからと言ってミズゴケの経年変化に応じ、水加減をするとなれば、やがて自分はランを養っているのか、ランに囚われの身なのか、心中葛藤に襲われるのは必定です。

 かん水の際、取付材の上部に水を撒いたとき、直ぐには浸み込まず、植込み材の表面を最初はコロコロと丸まって流れる、あるいは走るように流れ落ちる状態は、すでに乾ききっていることを示します。このような状態を時折であれば兎も角、根周りを数時間であっても連日繰り返しているとすれば、それが成長を阻害する原因となります。よって対策は根周りを次のかん水時まで如何に湿らせておくかです。環境が変えられないのであれば、良質のミズゴケを厚く敷くことと、2年以内を目途に新しいミズゴケに植え替えることです。このような対応が難しい場合は炭化コルクは適しません。当サイトから炭化コルク付けを購入した場合でも、乾燥が避けられない場合は、早い時点で他の、より保水性の高い材料に変えることが必要です。

 上記対応で留意することがあります。あくまでこうした栽培法は最低平均温度が15℃以上の環境において適用されるものです。趣味家が栽培される原種の多くは、熱帯モンスーンや熱帯雨林帯の雲霧林1,200m-1,500m以下の標高に生息する種ですから、基本的に平均最低温度15℃以下での栽培は無いとの前提です。この平均温度とは、それ以下の温度、例えば一時的に10℃程度になっても夜間平均温度が15℃あれば良いという値です。

 話題は変わりますが、当サイトでは現在Webサイトをバージョンアップする作業に取り組んでいます。例えばバルボフィラムは現在の160種から220種、デンドロビウムは266種から300種程に追加されます。またHoyaページは削除し、南米種はドラキュラページとなり、Aerides/Vandaと、その他原種は別々のカテゴリーにするなどです。それぞれの生息地域は可能な限り詳細化し、2016年以降撮影した写真をそれぞれの種毎のページに追加しています。また、会員ページに関しては現在中断していますが、新たに有料制の栽培専用サイトを設ける予定です。現在、胡蝶蘭原種のページを除き、それぞれの種別のページには、ページの右に「リンク」があり「栽培や生体について」や「生息地について」はリンクを外しています。会員ページでは、これらを有効とします。また栽培に関する初心者との双方向の相談や趣味家との討論のページも設けるべく計画中です。このサイトへの参加者は趣味家、業者、国籍は問いません。

 これに合わせてブラウザ・アドレスをhttp://から、https://の暗号化ブラウザに変更します。現在のhttp://は当サイトやorchidspecies.comのように、ページ内容を見るだけで、ページアクセスにIDやパスワードを用いてログインし、情報交換するシステムではないため、セキュリティ上の問題はありません。一方、会員ページのようなログイン形式の通信が行われるシステムでは、個人情報の漏洩を防ぐ目的で、そうした情報を暗号化する必要があるためです。栽培専用サイトを年会費制にするのは、そうしたサイトに必要な維持管理や、会員から送られる画像のウイルスチェックなどに必要なソフトウエアコストや、栽培研究あるいは海外調査のためのコストに対応するためです。会費は極力安価にすることと、現在も当サイトには海外からの問い合わせや質問があり、その大半は栽培に関するもので、こちらは若干時間が掛かるかと思いますがバイリンガルにして世界中の趣味家の参加も可能な面白いページができればと思います。たとえれば国際インターネット蘭友会のようなものです。

Coelogyne odoardiCoelogyne pandurataの植え替え

 前回の植付けから3年近く経過したCoelogyne odoardiがあり、今週植え替えを行いました。本種は長く下垂する花茎に10輪以上開花することからヘゴ板やコルクなどへの吊り下げタイプとなります。一方、これまでの板状取付材の観察から、根は放射線状にほぼ同じ長さで伸長する性質があり、横幅の狭い縦長の取付材では横方向に伸びた根は1年もするとはみ出し、この空中に伸びた根はやがて枯れ、株の成長を妨げます。そこで今回、これまでの30㎝ x 9cmの取付材から株サイズにより35-45㎝ x 13㎝に変更し、横幅を増すことにしました。また写真左では株上部のスペースを大きく取っていますが、これは伸びしろ分と云うよりは根が常に湿っていることの必要な本種に対し、取付材上部を保水性の高いミズゴケで覆うことで、根周りの保湿度を高めるためのものです。本種はその色と香りで人気が高く、COVID-19が落着きマレーシアとのEMSが遅延なく送達可能となれば、最初の注文ロットに含まれる予定種の一つとなります。

 写真右はCoel. pandurataです。これまで杉皮板に4年間取り付けられ、株の上部1/3が板からはみ出し大株になっていたものを、やっと植え替えしました。Coel. odoardiや本種は杉皮板とは相性が良く、根張りが活発でよく成長します。趣味家としての栽培であれば炭化コルクよりは遥かに杉板の方がセロジネにとっては良材ですが、販売を考えると板の裏面に時折発生する白カビが問題で、善玉カビと云われるものの見た目に良くないためコルク付けにしました。右写真の炭化コルクは60㎝ x 13cmの大きなサイズで、写真手前の株は21バルブあります。

Coel. odoardi Coel. pandurata

Bulbophyllum membralifolium Surigao Philippines

 通常Bulb. membralifoliumは夏から秋が開花期ですが、現在フィリピン スリガオ(ミンダナオ島最北部)生息の本種が開花しています。写真上段が現在開花中の花で、下段はボルネオおよびスマトラ島生息株のそれぞれの花です。スリガオ生息種は黄色をベースに、セパル・ペタル全体に赤褐色の斑点があり最も美景です。他の地域種にはラテラルセパルが無地か薄いラインが多いようです。下段の花も全て当サイトでの撮影です。

 本種もまた、orchidspecies.com記載のサイズと実態とは大きく異なり、花は3㎝とされていますが、上段中央のメジャーから分かるように5.4㎝です。本種のペタルは後方に大きく反ることは無く、どれほどのサンプル数や、基準で花サイズを決めたのか分かりませんが、本種だけでなく多数の種でこれ程、花サイズが実態と異なるようでは、論文誌に記載されているように花全体のNSサイズではなく、セパル・ペタルそれぞれの寸法を個別に表現することと、測定対称となった株の生息地を記載することが情報の信頼性を得る上で必要ではないかと思います。

Bulb. membranifolium Surigao Philippines
Bulb. membranifolium Borneo and Sumatra

Bulbophyllum bataanense

 フィリピン生息種のBulb. bataanenseが開花しています。同じフィリピン・ミンダナオ島のBulb. deareiと下写真で比較してみました。大きな違いはそのサイズでBulb. bataanenseは左右ペタルスパンで4㎝程のミニBulb. lobbiiといったところです。またBulb. deareiはペタルが後方に大きく反りますが、Bulb. bataanenseは開花から枯れるまで後ろに反ることはありません。下写真上段中央でリップ中央弁の中心に丸い黄色い膨らみが見られますが、この腺状突起は、Bulb. lobbiiBulb. deareiにはなく、Bulb. claptonenseに見られるものです。またBulb. bataanenseとサイズの似たBulb. microglossumが知られています。この種はペタルがBulb. dearei以上に後方への反りが大きなことが特徴ですが、1-2ヶ月で開花期を迎えるため、開花したら詳細比較をする予定です。

Bulb. bataanense Mindanao Philippines
Bulb. dearei Mindanao Philippines Bulb. bataanense (left)/Bulb. dearei (right)

Dendrobium kenepaiense

 Den. kenepaineseはボルネオ島・西Kalimantan Kenepai山に生息のデンドロビウムで、カラーフォームは異なりますが花形状はDen. uniflorumに似ています。国内マーケットには当サイト以外情報が無く、海外においても本種のマーケット情報は見当たりません。本種名でorchidspecies.comを検索すると、花サイズが1㎝幅とされています。この寸法は同じorchidspecies.comのDen. uniflorumの花サイズが1.25cm - 3.1cmとされる最小値よりも小さく、花のどの部分を測定した数値か不明です。読者がDen. kenepaienseの花は非常に小さいと誤解することがないように、花サイズの実体を取り上げてみました。

 下写真上段左および中央がDen. kenepaienseです。右はサイズを示すメジャーです。この画像からは花のNS幅(自然体での左右の幅)は2.3㎝です。敢えてorchidspecies.comの1㎝とされるサイズを当て嵌めれば、リップ中央弁の幅相当となりますが、花サイズの表記でリップ幅を花サイズとすることはあり得ません。そこで1.5㎝程の幅をもつ同じDistichophyllae節のDen. ellipsophyllumが現在開花中のため、並べて撮影しました。これが下段左写真です。この画像からも分かるようにDen. kenepaienseを1㎝サイズとするには無理があります。さらにorchidspecies.comのDen. kenepaienseのページにある'Another Flower?'には、P.K氏Blogspotからの引用での花画像が見られますが、リップ中央弁が扇のように広がった形状は、Distichophyllae節に共通して見られる開花から2-3日間の様態で、数日後には中央弁左右の縁側は後ろに反る過渡的な一般的形状です。

 一方、参考のため下段中央と右にフィリピンPalawan生息のDen. jyrdiiの花とサイズを撮影しました。画像では横幅3.5㎝ですが、開花から2週間以上経過しており、セパルの先端が後ろにかなり反っており、開花から数日間の、反りが小さい時は左右NS幅は4㎝弱となります。 

Den. kenepaiense West Kalimantan Borneo
Den. kenepaiense (upper)/ellipsophyllum (lower) Den. jyrdii Palawan Philippines

現在開花中の倒立開花バルボフィラム3種

 通常、花のラテラルセパルは下に向いて咲くものですが、逆さまになって開花する種がバルボフィラムに見られます。花の形状や開花姿勢は、花粉を運び受粉するポリネーター(昆虫など)と共生、進化した結果と思われますが、何故に逆さまなのか不思議です。花粉魂のある蕊柱は、一般的にポリネータが侵入する体勢に対し上部に位置し、この結果、花粉魂はポリネーターの頭や背中に接着して蕊柱から外れます。この状態でポリネーターが飛び立ち再び花を訪れたとき、今度は蕊柱の窪みに花粉魂が引っ掛って外れ、受粉が完了します。もし花が逆さまに開花していれば、ポリネーターも逆さまになって侵入しているか、あるいは足や腹に花粉魂を付けて、次の花に飛び去ることになります。一般の植物に見られる花粉のように粉状であれば兎も角、ポリネーターにとっては結構大きな固い花粉魂を足に付けて飛び周り、花に着地するのは不都合です。生息地のジャングルに分け入り、果たして倒立開花のランのポリネーターはどのような昆虫で、どのような姿勢で受粉を行っているのか見てみたいものです。

Bulb. macranthum Borneo Bulb.gjellerupii New Guinea Bulb. patens Borneo

Paphiopedilum gigantifolium

 スラウェシ島の渓谷に生息するPaph. gigantifoliumを栽培して18年になります。当初は2株でしたが8株まで増えました。’The Giant-Leaf Paphiopedilumi’とされる名に恥じず、現在根に最も近い葉の長さは54㎝で、左右スパンは1mを越えます。4-5年前から、毎年6輪の花を付けるようになりました。年2回開花が見られ、現在開花中です。この2回とは同一株にではなく、開花期が春と秋にあり、いずれかの株が春と秋に分かれて開花しているということです。下写真は6日の撮影です。花茎は発生元から最上段の花まで1mの長さとなります。栽培場所から移動し、黒い背景用カーテンやアルミ線で花茎を直立させるなど撮影のための作業に1時間程かかりました。

Paph. gigantifolium

現在開花中の花

 下写真は現在開花中の12種を選んでみました。写真2段右のParaphal. serpentilinguaは2年前の入荷後、Paraphal. labukensisと同じ高温室にて栽培していました。しかし当初の1年間は問題がなかったもののやがて弱体し始め、半年ほど前に中温室に移動しました。その結果、新芽が現れ開花も多数の株で見られるようになりました。orchidspecies.comによると生息地標高は1,000m以下とされ、それ以前の10年間ほどのロットは高温タイプとして全てParaphal. labukensisとの同居栽培でした。どうも今回のロットの生息地はそれまでの低地ではなく、1,000mあるいは以上からの、夜間平均温度として20℃以下が必要な株と考えられます。高温室内では冬期の3ヶ月間程を除いて、昼間に上昇した気温が滞留し夜間20℃以上となることが多く、成長を阻害していたようです。野生栽培株の適温範囲の変化は近年頻繁に見られるようになり、胡蝶蘭ではPhal. doweryensis, celebensisが挙げられます。株が上手く育たないとき、同じ環境で再挑戦するのではなく栽培環境を変えることが有効と思われます。このような現象はデンドロビウムやバルボフィラムなど野生栽培株全属の問題となっています。

 3段左のDen. officinale 鉄皮石斛は入荷して2年近くなり、現在20株程あるほぼ全株で多数の花を付けています。当初、ナメクジが周りにある他のランには見向きもせず多数で押しかけ葉や新芽を齧り、バルブのみを残しほぼ全ての葉が消えました。それほど本種はナメクジの好物であったとはつゆ知らず、それ以来一片の痕跡でもあればマイキラーを散布し撃退してきました。その効果もあってか全株で昨年暮れから新芽が伸び、葉も成長して開花に至りました。

 4段中央のEpicranthesを spとしたのは、入荷名はjimcootesiiでしたが、写真に見られるようにそれとは花フォームがセパルペタルともに一様な黄色で異なるためです。右のPassiflora 'Purple Rain'はランではなくトケイソウです。手のひらほどの大きさで迫力ある花をつけます。昨年、サンシャインラン展に出品予定でしたが取りやめました。理由は入荷時から蔓が3m近くまで伸長し、これを支持材から外して展示会場に持ち込んでも、販売展示する手段が無いためです。本種は精々蔓が4-50㎝の支持材に巻き付いている段階でなければ販売は困難で、現在は温室を訪問された方のみへの販売となっています。

Phal. appendiculata Borneo Phal. braceana China Phal. parishii Vietnam
Phal. pulchra Leyte Philippines Coel. cuprea Borneo Paraphal. serpentilingua Borneo
Den. officinale China Den. punbatuense Borneo Den. sutepense Myanmar
Bulb. pustulatum Borneo Epicranthes sp. Mindanao Phlippines Passiflora coerulea 'Purple Rain'

Bulbophyllum sp Green Sepal

 2016年11月、マレーシアより、標高不明のスマトラ島生息種とみられる、ラテラルセパルが緑色のBulb. spを入荷しました。写真上段左は園主から送られた花画像、中央は当温室での初花(2017年3月)です。当初高温室にての栽培で暑さに弱い様子はありませんでした。写真中央の輪花数が少ないのは順化栽培後の初花故と思われます。しかし、その後開花はあるものの、一向にセパルに緑の発色が現れず、本種を購入された方からも同様の情報が寄せられ、薄い紅色のフォームが続きました。そこで本種と同時に入荷した株の多くに標高1,000m程の中温タイプのデンドロビウムが含まれていたことから、1昨年高温室から中温室に全株を移動しました。その結果、この環境が適しているかのようで1株も枯れることなく、バルブ数もこれまでの2年半で倍近く増えました。上段右写真が最近の花で、僅かながらラテラルセパルに緑成分が含まれてきた感じです。この画像にも不思議な現象が見られ、写真左や中央のリップは紅色であるのに対し、右はオレンジ色であることです。これらが全て同一ロット種であることを考えると不思議です。

 写真下段左は、入荷時での植え付けで、右は2017年杉皮板に植え替えてから現在に至る株の一部です。株(バルブ数)は倍以上に増えていますが、大きな違いは葉の色で、当初は葉裏は褐色が見られましたが、中温室ではこの色が消え表面と同色に変化しています。これは栽培環境の低輝度によるものと思います。いずれにしても、こうした様々な様態が果たして温度や輝度に依存するものなのか、セパルが黄色のCirrhopetalum種は多数存在しますが、緑色は極めて珍しいので今年はこのバルボフィラムを中温だけでなく、低温さらにLED直下の高輝度の場所などに分散し、花のカラーフォームを調べてみる予定です。


Dendrobium tobaense

 Den. tobaenseは迫力ある大きな花で人気が高い反面、熱帯常緑季節林生息のFormsae節特有の栽培難易度の高いデンドロビウムです。大きな花を得るには疑似バルブ(茎)を如何に太く育てるかが要となることが最近分り、その栽培方法の一例を昨年10月に取り上げました。

 下写真は左右のペタル間のNSサイズが12.7㎝の株で、1株に2輪が開花しさらに2つの蕾を付けています。注目点は右写真で、茎の下部に現在さく果(タネ)をつけており、これは2ヶ月前に、ほぼ同じペタルスパン12㎝の他株とのSibling クロス(同種他家交配)により得られたものです。デンドロビウムは自家交配の不合和性が見られ、別株との交配が一般的です。花の特徴を実生に引き継ぐには、同じ特徴を持つ他株との交配が条件で、そのためには2株以上の栽培が必要となり、これらが2ヶ月前に同時に得られたため交配したものです。興味があるのは、さく果成長中に開花が始まったことで、株のエネルギーが分散され、花サイズが小さくなるのかと思っていましたが、そうした現象は見られません。しかし今回は、さく果の成長を第一優先とし花は摘むことにしました。

Den. tobaense

現在開花中のBulbophyllum3種

 現在温室では多数のバルボフィラムが開花中ですが、その内の3種を下写真に取り上げました。撮影はいずれも2日です。左はBulb. singaporeanum、中央はBulb. frostii、右はBulb. recurvilabreです。Bulb. singaporeanumはシンガポールおよびマレーシアJohoreの低地に生息し、最近(2015年)はボルネオ島も記録されているようです。写真の株は2018年8月にマレーシアにて入手しました。中央のBulb. frostiiも同じ年にキャメロンハイランドで入手した株です。セパルのベース色が緑がかっていることが特徴です。本種の生息域は1,500m近辺とされ中温タイプですが、当サイトでは高温室での栽培で開花しています。右のBulb. recurvilabreは1999年登録されたフィリピン・レイテ島生息の新種で、セパル・ペタル共に黄色をベースに赤褐色の小さな斑点があるフォームと、orchidspecies.comに見られるラテラルセパルは赤茶色で、斑点はあるものの同色化して見にくいフォームがあります。困ったことに、入荷する株がいずれのフォームかは開花しないと分からないことと、下写真の鮮やかなフォームが人気が高く、現在当サイトでも数人の購入予約が入っています。現在フィリピンには黄色ベースの斑点タイプを特定して発注しており、渡航し持ち帰りができるまで販売待ちです。

Bulb. singaporeanum Singapole Bulb. frostii Bulb. recurvilabre Leyte Philippines

Dendrobium dianae

 先月末からボルネオ島Kalimantanの生息種で2010年記録の新種Den. dianaeが開花しています。本種には下写真左と中央に見られるように全く異なる2つの花フォームがあり、余りに異なる花フォームから別種ではないと思うほどです。最初に本種を見たのはマレーシアで、訪問時によく遇う現地趣味家に何か珍しいものがあればと伺ったところ、写真中央と同じフォームの開花株を持参され頂いたときでした。orchidspecies.comには、ツートンカラー・フォーム(赤色の線状斑点の有無)の記載はありません。その後、これまで30株を超える本種をDen. dianae名で現地に発注してきましたが、ツートーンカラーは入荷株の1割程度にのみ出現し、そのほとんどは薄黄緑から黄色単色のフォームです。3年以上の栽培ではフォームは変化することなく再現されています。

 よく似た種にスマトラ島やJava生息のDen. hymenophyllumがあります。この種も黄緑や赤色の単色からorchidspecies.comに見られるようにツートーンカラーフォーム(褐色の線状斑点の有無)があります。Den. dianaeとの違いは、花の後ろの突起部:Spur(距)がDen. dianaeは先端が前方に向かってカールしているのに対して、Den. hymenophyllumは後方に向かっていることです。またDen. dianaeには、リップ基部の側弁左右に褐色あるいはオレンジ色の斑点が見られます。薄黄緑色の下写真左も2つのフォームが見られ、2週間程の開花期間の内、開花時はいずれも薄黄緑色で始まるのの、枯れまでの1-2日前までその色が維持されるものと、開花して3-4日で前記リンク先に見られるような黄色に変化するフォームです。下写真の株は変化のないflavaタイプです。

Den. dianae
 

海外原種ラン園事情

 コロナウイルス問題で渡航制限が始まって3ヶ月が経ちます。マレーシア、フィリピン、インドネシアなどのラン生息国での、特に原種を扱うラン業界はローカルマーケットを中心とする交配種とは異なり、海外への卸販売によって成り立っているのが実状です。この結果、ここ数ヶ月間の収入は皆無に近いと思われます。現地直接取引が無理でも、EMS(国際スピード郵便)による国際間での売買が考えられます。しかし生体であるランの品質を考えれば、現地発送から日本での受け取りまでには1週間以内が限度であり、徐々に都市封鎖が解除されつつはあるものの、輸送の遅延は許されず現時点ではEMSであってもリスクがあります。こうした状況がさらに半年ほど続けば、現地の1次業者から3次業者まで、果たしてストックや栽培場の維持管理が続けられるかが心配です。いずれにしても長時間の梱包に弱いクールタイプや胡蝶蘭原種は、ワクチンができ渡航可能となるまで当分入手は困難ですが、EMS送達遅延がなくなることと、現在マレーシアやフィリピンは盛夏であり、この期間が去り次第、比較的強靭な高温タイプのバルボフィラムやVandaなどから順次EMS発注を開始する予定です。

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