10月
Bulbophyllum dolichoblepharonとBulbophyllum othonisの植替え
Bulb. dolichoblepharonとBulb. othonisの植替えを先週行いました。両種はリードバルブや脇芽が垂直方向と共に横方向にも盛んに伸長する性質があり、今回は支持材をリードバルブがはみ出す状態となっていたため植替えとなりました。横方向の伸長に対応するには幅広の支持材が必要ですが、吊り下げ型ではスペースを取るため難点となります。当サイトでは吊り下げ支持材の横幅は15㎝以下としており、これを越える場合は超えた部分を植替え時に株分けし、切り取られた株は位置を変え改めて同じ株に寄せ植えし、縦長の株姿にすることにしています。下画像左のBulb. dolichoblepharonは前項でも取り上げました。一方、Bulb. othonisはBulb. nutansとしても知られていますが、当サイトでの本種の花はネット検索で多く見られる薄黄色ではなく鮮やかな白色フォームで多輪花で開花すると良く目立つことから、これらの植替えのタイミングを待っていたところで、ようやく出来ました。支持材は共に杉板60㎝長x15㎝幅です。
Bulbophyllum dolichoblepharon : 本種の種名について
Bulb. dolichoblepharonはBulb. brevibrachiatumと共に、R. Schlechterにより1912年に発表されたバルボフィラムです。しかし、いつの時点かは不明ですが両種は現在、シノニム(異名同種)とされています。そうした背景からIOSPEでは、Bulb. dolichoblepharon名の検索ではBulb. brevibrachiatumにリンクされ、またOrchidRootsも同様に本種名のページには花画像が無く、シノニムとしてBulb. brevibrachiatumへのリンクアドレスが表記されています。
一方で本種はスラウェシ島及びフィリピンの生息種ですが、J. Cootes著Philippine Native Orchid Species 2011では、両種は別種として記載されており掲載された花画像も異なっています。そうした状況の中でBulb. brevibrachiatum名でネット検索を行うと、OrchidRootsを含む多数のサイトにおいて支離滅裂とも思われる多様な花画像が表示され花形状に統一性がなく、Orchid.org、Pinterest、Tropical Exotique等のサイトにもIOSPEのBulb. brevibrachiatumのページとは異なる花画像が見られます。ではそれらの中でどの花が本種とのシノニムに対応したフォームかは不明です。
そこで1世紀ほど前の発表当時の情報を基とするこれらの種のスケッチ図を、類似種のBulb. makoyanumも加えて下に取り上げてみました。スケッチ図はplantgenera.orgに記載のDr. グンナー・ザイデンファデンの「Cirrhopetalumに関するメモ」(1973年)等からの引用となります。
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Bulb. dolichoblepharon |
Bulb. brevibrachiatum |
Bulb. makoyanum |
上画像の3種の相違点は蕊柱周辺の形状に見られるとの指摘ですが、ミクロな部位の手書き図での判別は困難です。一般的に視覚よる種名同定に用いられる主な部位は既存類似種がもつ個体差や地域差の範囲を超える花被片(セパル・ペタルの形状や長さと幅サイズ比率)や花の開花姿勢(立性、水平、下垂性等)あるいはリップ形状の相違による判断となりますが、スケッチ図から分かることは3種の中でBulb. dolichoblepharonはラテラルセパルに葉脈も見られ幅広感があり、これに対しBulb. brevibrachiatumとBulb. makoyanum は共にラテラルセパルが線形であることで、その他の部位については今一つはっきりしません。
下画像は当サイトが栽培している上記3種の花写真です。この画像からは明らかにBulb. dolichoblepharonの姿は他の2種と比べ、個体差の範囲を超えた様態であることが分かります。これらの画像や前記の多数のサイトでの現状からは、なぜ本種がBulb. brevibrachiatumと同一種として恒常化されるに至ったのか不思議です。当サイトが栽培するBulb. dolichoblepharonはフィリピン・ミンダナオ島生息種として2016年に本種名で入手したもので、2017年の東京ドームらん展では共同出店したフィリピン蘭園の一般客用プレオーダーリストにも本種名がありました。視点を変えて、Bulb. dolichoblepharonとBulb. brevibrachiatumが同一種であるとすれば、こうした混乱の背景には両種が1911年の命名時点には同じSulawesi島生息種でもあり、当初の同定サンプルからは異種と思われたものの、島内には両種の中間体が生息した可能性もあり、後になって同一種ではと見做されたのではとの推測もされます。その一方で、下画像のBulb. dolichoblepharonとBulb. brevibrachiatumは共にフィリピン生息種ではあるものの、こちらは生息域が分離(前種はLaguna州、Panay島、ミンダナオ島に対し、後種はNueva Vizcaya, Mindoro島)されていることから、そうした中間体の存在が無く、J. Cootes著に見られるように両種の形状の違いが明確であったことから別種として分類できたのではとも考えられます。
いずれにしてもフィリピンBulb. dolichoblepharonの花株は下画像が示すように他種とは明らかな違いがあり、また国内外共にネット上には現在、当サイトが栽培する花形状のBulb. dolichoblepharoが見られないことと、Cirrhopetalum節の中では最も華麗な花姿をもつ種の一つでもあることを考え合わせると、画像種は未登録の新種の可能性もあり、種名問題は今後の課題となります。
ところで上画像に見られる花株を期待してBulb. dolichoblepharon名で発注する場合、上記のような現状を考えると販売業者や趣味家を含めて花を確認した株を入手することが必須で、花の確認(花写真を含め)のない株の殆どはシノニムとされるBulb. brevibrachiatumとなる可能性が高く、そうであってもシノニムとされる以上、発注名の種に間違いは無く、サプライヤーにクレームは出せませんので注意が必要です。
現在(1日)開花中の15種
現在開花中の15種を選んで撮影しました。それぞれの種の詳細は画像下の青色種名のクリックで見られます。