栽培、海外ラン園視察などに関する月々の出来事を掲載します。内容は随時校正することがあるため毎回の更新を願います。  2024年度

2025年  1月  2月  3月  4月  5月  6月  7月  8月  9月  10月  11月 

11月

現在(17日)開花中の9種

 15日と17日の撮影の9種です。フィリピン・ルソン島低地生息のCrtstl. retisquamaは花が自然体では様々の方向に重なり合って開花しており、画像からはどこがセパル・ペタルなのか一見分かりません。画像下の青色種名のクリックで花形状の細部が見られます。Den. rosellumの花サイズは僅か7mmで、且つ花茎当たり1輪のみの開花であることから、デンドロビウムの中では最も小さな花姿種となっており、開花に気付かないこともしばしばです。

Bulbophyllum sp aff. quadrangulare NG Ceratostylis retisquama Luzon Dendrobium annae Sumatra
Dendrobium ovipostoriferum Borneo Dendrobium sp aff. endertii Sulawesi Dendrobium intricatum Vietnum
Dendrobium fairchildiae Luzon Dendrobium rosellum Borneo Dracula chiroptera yellow Colombia

現在(11日)開花中のバルボフィラム6種

 昨年11月の歳月記には掲載が無かったバルボフィラム6種を選び本日(11日)撮影しました。画像下の青色種名のクリックで詳細画像が見られます。

Bulbophyllum aeolium Luzon Bulbophyllum careyanum Thaikand Bulbophyllum vinaceum Borneo
Bulbophyllum ankylochele NG Bulbophyllum claptonense aurea Borneo Bulbophyllum dearei Cammeron Highlands

現在(7日)開花中の12種

 気温が下がり温室栽培では新芽の発生が盛んです。下画像の12種は5-7日の撮影となります。

Bulb. inunctum (Malaysian form) Borneo Bulbophyllum scotinochiton Sumatra Bulbophyllum freitagii PNG
Coelogyne dayana Borneo Coelogyne usitana Mindanao Dendrobium punbatuense Borneo
Dendrobium sanguinolentum Borneo Dendrobium sanguinolentum Borneo Dendrobium mutabile Sumatra
Dendrobium corallorhizon Borneo Dendrobium platycaulon Luzon Dendrobium cymboglossum Borneo

Dendrobium dianae alba

 Dendrobium dianaeは2010年に公表されたボルネオ島低地生息の新種で、その特徴は多様な花フォームを有することです。下画像は当サイトが現在栽培しているDen. dianaeです。上段左と中央画像が今回初めて掲載する8日撮影のalbaフォームです。その他の画像はこれまでに公開しているもので上段右は一般フォーム、下段左はflava、中央と右はbicolorフォームになります。このalbaは、当サイトのflavaフォームのページに掲載の薄黄色の花に似ていますが、本種のflavaフォームは開花時は緑味のある色合いでやがて薄黄色に変化するのに対し、開花時からセパル・ペタルは白色で色変化は無く、また他のフォーム種の花軸は全て褐色系ですが薄緑色で異なります。ネット検索では現在、このような白色花はOrchidRootsに1点見られるのみで希少性がかなり高いと思われます。

Dendrobium dianae alba Dendrobium dianae common form
Dendrobium dianae flava Dendrobium dianae bicolor

Bulboohyllum fascinator giant

 Bulb. fascinatorはインド、タイからボルネオ島、フィリピンまで広く分布する生息種(標高1,000m以下)で、その長いラテラルセパルで知られています。IOSPEによれば花サイズ(ドーサルセパルからラテラルセパル先端間)は15cmー20cmとされます。今回取り上げた株は、おそらくこの種としては最も長いラテラルセパルをもつタイプではないかと思います。画像に示すように花の全長は36cm、ラテラルセパルの長さは34cmとなります。現在当サイトが栽培する本株は葉付きバルブ数が21個あり、開花後には4株ほどにそれぞれ株分けする予定です。

Bulbophyllum fascinator 

現在(4日)開花中の12種

 ボルネオ島標高500-1,200mに生息のCoel. exalataは薄緑色をした人気のあるセロジネです。本種の開花期はここ浜松では初秋ですが、1昨年からの猛暑もあってか当サイトでは3年ぶりの開花となります。今年からエアコンの利用とその近くに置いての栽培が有効であったようです。本種の詳細については2023年7月の歳月記に取り上げています。現在はチークバスケット5個に植付けており株も大きくなってきたことから、来年春頃には10株ほどに株分けする予定です。一方、バルボフィラムBulb. acehenseは2020年に発表された直近の新種です。当サイトでは2017年5月に入手、同年12月末に初花を得ており、この時点ではsp(種名不詳種)としてそれぞれの月の歳月記に掲載しました。本種もこのところの猛暑の影響から開花が5年ほど押さえられていましたが久々の開花となります。Bulb. sanguineomaculatumの左側に見える赤い花は本種の落花間近の色変化で別花です。またDen. dianae bicolorは画像に見られような緑色のペース色が、開花から落花まで変わらず続くフォームは希で(一般種は薄黄色に変化)、現在はこうした希少株を2株栽培しています。

Coelogyne exalata Borneo Coelogyne asperata Malaysia Bulbophyllum nasseri Leyte
Bulbophyllum acehense Sumatra Bulbophyllum sanguineomaculatum Borneo Bulbophyllum bandischii NG
Dendrobium deleonii Mindanao Dendrobium papilio Luzon Dendrobium junceum Leyte
Dendrobium dianae bicolor Borneo Dendrobium fitrianum Sumatra Dendrobium victoriae-reginae Mindanao

当サイトにおける垂直支持材へのバルボフィラムの植付け例

 ランの植込みや取付に用いる材料は様々ですが、市場での多くは素焼き鉢やプラスチック容器となっています。当サイトもランを栽培し始めた当初は殆どが素焼き鉢でした。その後、頻繁にマレーシアやフィリピンなど海外に出かけるようになり、現地コレクターや趣味家の原種栽培には素焼き鉢の使用が全く見られず、その大半は木片やバスケットあるいはヘゴ板であることを知り、当サイトでも胡蝶蘭、バルボフィラムまた下垂タイプのデンドロビウムなど、地生ランを除く多くの原種の取付材は杉皮、炭化コルクまたチークバスケットに替えることにしました。そうした変更は単に現地の栽培手法を真似ることではなく、花、花茎、葉、バルブ等を含む株全体が織り成す、より自然な生態に近い調和の美しさ、神秘さに惹きつけられたからです。その一方で、こうした姿を維持するには、それらを取り巻く環境、とりわけ昼夜の湿度が成長と開花に大きく作用し、栽培の成否の決め手となることも学びました。
 今回は昨年から本格的に始まった当サイトでの杉板へのバルボフィラムの植付けについて取り上げてみました。下画像1はBulb. mastersianumで、画像2はこの株を取付ける40㎝(長)x15㎝(幅)の杉板です。こうした板材への取付は半下垂あるいは下垂タイプのデンドロビウムにも適用することが出来ます。植替えで使用する画像3の工具は21㎝長の長鋏、先の細いピンセット及びペンチの3点と、画像にはありませんが1mm径の盆栽用アルミ線となります。画像4は図2の杉板表面のほぼ全域をミズゴケで覆ったもので、当サイトでのミズゴケはニュージーランド産4Aクラスを用いています。株サイズに比べて杉板のサイズが大きいにも関わらず、その全面にミズゴケを厚めに敷く理由は、根張り空間を広く取ることと支持材の保水性を高めることにあります。.、

1.Bulbophyllum mastersianm 2.40㎝x15㎝杉板 3.植付け工具 4.左杉板にミズゴケを敷く

 画像5,6はそれまでの支持材から取外した状態のBulb. mastersianumの株の裏面で、それぞれは別株です。画像に見られるように根が絡み合っており、この状態のまま根をミズゴケで覆って植付ければ多くの根が幾重にも重なったり接触し根の成長を阻害します。根回りの状態は株の成長に最も影響を与えます。 図7と8はそうした絡み合った根をほぐした(ピンセットを根の生え際に差し込み先端に向かって移動しても引っかかることがない)後に、植付けのためバルブとバルブ間を結ぶリゾーム(根茎)を中心軸として根を左右に分けた画像です。

5.植付け前の株の裏側 6.植付け前の別株の裏面 7.根をリゾームを中心軸として左右に振り分け(例1) 8.根をリゾームを中心軸として左右に振り分け(例2)

 下画像9は適当量のミズゴケを手に取って円柱状に丸めたもの(右側)と、そうした円柱形状のミズゴケを1㎝程の間隔で切断した(左側)ものです。この1㎝ほどの刻みミズゴケを、図7-8の左右に分けた根の生え際の隣接する根の間にピンセットを用いて差し込み、根が互いに接触するのを避けます。先の工具の解説でピンセットを先の細いものとし、また刻みミズゴケを用意したのは、こうした1mm程の隙間にミズゴケを挿入するためです。ほぼ全面に植込みが終了した状態が画像10となります。次にこの株を図4のミズゴケを敷いた杉板に乗せた状態が図11となります。図11-12は左右に分けた長い根をそれぞれミズゴケの上で配置分けした状態です。極力それぞれの根が交差しないように広げて置き、ここでもそれぞれの根の間には長短様々な長さのミズゴケを鋏み接触を避けます。しかし根が多い場合は重なり合う個所も多々出ます。これらは交差する下側の根をミズゴケで薄く覆った後、上側の根をその上に置きます。こうした作業を繰り返し全て終了した後、根が張っている全面に再び薄くミズゴケを敷いて、1mm径のアルミ線で株を固定して行きます。株が大きくミズゴケの上に置いた株が不安定な場合は、杉板の下部から順次前記の植付けを進め、合わせてアルミ線で留めていくことが有効です。そうして出来上がったのが画像13となります。株全体の固定が緩い場合は、画像13右側に示すように杉板裏面のアルミ線をペンチで曲げ軽く締めます。

9.ミズゴケを丸めたもの(右)を1㎝長に切刻んだ植込み材(左) 10.それぞれの根の接触を避けるため刻みミズゴケを根の生え際の間に挟み、これを可能な限り全ての根に対し行う(底面での根の接触防止) 11.株を置いた後、上面での長い根は互いに重なりを避けるように配置する
12.可能な限り根が接触しないように互いに離して配置した後、根の間に刻みミズゴケを挟む。上下に重なる根は多層になるようにミズゴケを挟む 13.左記の処理後、全体を長いミズゴケで表面を薄く覆い、1mm径アルミ線を用いて株やミズゴケを固定する。右は杉板裏面で軽くアルミ線で締める

 最後の仕上げ作業は2点あり、一つは画像14の左側は、株をアルミ線で固定した直後のバルブ周辺を撮影したもので、バルブの根元はややミズゴケで覆われています。植付け後のバルブ基部からの新芽や花芽の発生を考えると、こうしたミズゴケは取り除いておく必要があります。右側の画像はそうした処理を行った後の状態です。2つ目は杉板を含めた全体の見栄えを良くするためのトリミング処理を行うことです。株の植え付け後の姿は図13の左ですがミズゴケの凹凸や、はみ出しがあり、これらを画像4の鋏で切り除きます。こうした処理後が図15の仕上がりとなり植替えが完了します。

14.最終段階で新芽の発生の阻害防止に、それぞれのバルブ基を覆っているミズゴケを根元が見える程に取り除く。左は処理前で右は処理後 15.最終処理として毛羽立ったミズゴケのトリミングを行い、その後、葉やバルブに散水してミズゴケの粉末等を取り除き植替え完了となる

 原種の植付けは栽培者それぞれで手法は様々と思います。上記のような手法は画像に示すような小さな株であっても植付けだけで1時間ほどを要し、時間のある人向きと言えます。一方、国内には全日本蘭協会(AJOS)、蘭友会(JAOS)またそれぞれの地域にはラン愛好会もあり、こうしたグループには多数の栽培のベテランがいます。栽培で悩んでいる方はこれらに加わって色々な知恵を得ることも一考かと思います。

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