栽培、海外ラン園視察などに関する月々の出来事を掲載します。内容は随時校正することがあるため毎回の更新を願います。  2024年度

2025年 1月  2月  3月 

2月

Coelogyne usitanaの杉板への植替え

  20株を越えるCoel. usitana全株の植替えを始めました。上段中央の画像は植替え前の本種で、炭化コルク単体と炭化コルクにヤシ繊維マットを重ねた2種類の支持材を用いた栽培の様子です。葉長50㎝程の株が多数含まれます。右画像は5年以上経った(中央画像の上列)の中の1株を撮影したもので、多くの根が30㎝長の支持材から溢れています。本種は多数の長い根を活発に伸長し成長する性質があり、植付けから3-4年すると30‐40長の支持材では根張り空間が狭くなり、この状態が続くとやがて葉先枯れなどの作落ちが避けられない状況になるため、今回60㎝長の相性の良い杉板への植替えとなりました。25日時点で14株の植替えが終り、残り10株程が植替え待機中となっています。下段画像が植替えが終わった株となります。


  昨年8月から バルボフィラムや小ー中型のセロジネ、さらに疑似バルブが下垂性のデンドロビウムでの新たな植替えには全て杉板を使用し、現在までに350株以上となります。炭化コルクは多くの属種にとって優れた支持材であることに変わりありませんが、炭化コルクから杉板に変更しているのはコルク内に潜り込んだ根の取り出し作業に多くの時間を要し、多数のランを栽培する環境においては植替え時の作業負荷が大き過ぎるためです。

Bulbophyllum championii, japrii, nasica, nasica yellowの形状比較

 現在、Bulb. championii, japrii, nasica yellowが開花中です。そこでBulb. nasicaを含め、これら4種について最新情報をネットでそれぞれを改めて閲覧したところ、今もってBulb. japriinasicaとして、またBulb nasica yellowchampioniiが混合して扱われているサイトが見られ、今回これらの相違点を可視化するために比較画像を表示しました。画像は全て当サイト温室にて撮影したものです。

Bulbophyllum japrii Bubophyllum nasica Bulb. nasica yellow Bulbophyllum championii

現在(21日)開花中の6種

 Bulb. lasianthumは昨年8月に報告した本種とは異なる株での開花で、現在1.2mの杉板2枚にそれぞれ開花しています。今回複数株から開花が同時に始まったことから開花期として冬期も加わることになります。しかし当サイトでの冬期の高温室は夜間平均温度を17‐18℃に設定しており季節感は無く、一日の昼夜の平均温度差が開花のトリガーになったのかも知れません。上段中央のBulb. habrotinumは現在ネット検索すると、しばしばBulb. plumatumの誤った表示があります。生息域がそれぞれ異なるにも拘らず、販売サイトにもBulb. habrotinum名のplumatumが見られます。本種については2023年2月の歳月記に紹介しました。 下段画像左のDen. anosmum semi-albaはフィリピン、マレー半島、パプアニューギニアなどに広く分布しており、花サイズではこれまでの栽培でフィリピン生息種の13㎝を確認しています。一方、下画像はモルッカ諸島生息種で6.5㎝程と小型です。Den. anosmum系の疑似バルブは下垂タイプであることから、生息地のラン園では多くがヘゴ板に植え付けていました。
 下段右のDracula spはDracula inaequalisとしてMundifloraから引き取ったものですが、花形状が異りミスラベルと思われます。では正しい種名はと調べているものの該当種が現時点では見当たりません。類似種としてDracula amaliaeが考えられますが、リップ形状が異なり未登録種の可能性もあります。近々Draculaのページにspとして詳細情報を加える予定です。

Bulbophyllum lasianthum Borneo Bulbophyllum habrotinum Borneo Bulbophyllum inacootesiae Mindanao
Dendrobium anosmum semi-alba  Moluccas Dendrobium crocatum Malaysia Dracula sp Colombia

現在(15日)開花中の4種

 Aerides leeanaは現在30株程を栽培しており、今年もそれぞれの株に1-2本の花茎を付けています。下画像のDen. tentaculatumについて、当サイトではリップ、葉およびバルブ形状の異なる3種の類似種を栽培しています。これら3つのフォームは2023年2月の歳月記に取り上げましたが、今回それぞれの特徴と相違点を示す画像を、下画像青色種名のリンク先にも追加しました。本種名については要検討となります。

Aerides leeana Samar Dendrobium roslii Malay PN Dendrobium laxiflorum Moluccas
Dendrobium (Diplocaulobium) tentaculatum NG

現在(12日)開花中の6種

 Vanda foetidaは先月掲載した株と同じものですが、開花数が増えたため再度撮影しました。Bulb. palawanenseは2023年3月に70㎝ヘゴ板に植替えた大株で、すでに現在、先端バルブはヘゴ板をはみ出し10輪ほどが開花しています。植替えから3年目となる来年には20輪以上の同時開花を期待しているところです。これら2種の画像は当サイトページにも更新しました。下段左画像はセパルの先端突起部を除く花中心部のサイズが7㎝のDracula bellaと1.5㎝ほどのagnosiaを並べての撮影です。 いつもDraculaは花姿と云うよりは目や口の容姿はどうかとの先入観をもって眺めてしまいます。Dracula agnosiaは、花サイズではbellaに負けますが、猿顔似という点では勝っています。agnosiaの顔の詳細は画像下の青色種名リンク先で見られます。

Vanda foetida North Sumatra Bulbophyllum palawanense Palawan
Dracula bella (Columbia) & agnosia (Panama?) Dracula minax Columbia Dracula roezlii Columbia

現在(7日)開花中の7種

 Bulb. inacootesiaeは昨年9月に、30株程を炭化コルクから杉板に植替えしました。本種は通年で、夜間平均気温20℃以下を必要とする中温タイプのバルボフィラムです。また高輝度を好むため温室の天井に近い明るい場所に吊り下げていました。しかし寒冷紗があっても天井近くは太陽光により気温が可なり上昇し、特に昨年の猛暑期間には夜間平均温度が30℃を越えていたようです。高温室であれば天窓の開閉があり熱気の停滞はないのですが、夏期の中温室では室内を冷房しているため天窓は終日閉じていることで起こる問題です。この結果、根が障害を受けることとなり、植替え後には1昨年のDen. aurantiflammeum同様の深刻な作落ちが現われ、3割近いバルブが枯れました。現在は可なり回復し新芽が出始めたところです。このように環境による株の弱体化はまず根から始まるものの、葉やバルブとは異なりその予兆が目視できないため気が付かず、多くが手遅れとなります。 今年の夏期も昨年並みの猛暑が予想されていることから、中温室では天井周辺を含めた空気の循環が必須と思われ、相応の対応を準備する計画です。
 Bulbophyllum spBulb. trigonosepalumの黄系フォームに似た形状ですが、開花時は薄緑でした。縦および横幅はそれぞれ3.5㎝程の小型サイズとなります。多輪花で初めて見る花です。下段のDen. cymbicallum aff.はマレーシアRoyal Floria Putrajaya 2018年の花展にて入手したデンドロビウムですが、まだ種名の確定に至っていません。先月末にも花画像を掲載しましたが、数十輪が同時開花した本種の画像はこれまで掲載していなかったことから、今回は15本程の花軸に一斉開花する株全体の風景を撮影(7日)しました。

Bulbophyllum inacootesiae Mindanao Bulbophyllum nasica yellow NG Bulbophyllum acuminatum Borneo
Bulbophyllum sp Mindanao Dendrobium macrophyllum Luzon Coelogyne sparsa Luzon
Dendrobium sp aff. cymbicallum Borneo

 2月に入り寒さが一段と厳しくなっています。当サイトでは10年以上使用してきた石油温風暖房機が製造中止となったことを機に先月、4棟全ての空調をエアコンに切り替えました。高温室3棟では例年11月から3月頃までの期間は、終日寒冷紗を外しており晴天日の日中には外気温が0℃であっても、温室内の気温は最高で30℃近くになります。このためエアコンの暖房は、設定可能な最下値16℃とするものの、昼間の余熱によって室内の平均気温は夜間で18℃、昼間は28℃程に保たれています。この結果、晴天日では暖房がフル稼働する時間は夜間の数時間のみとなります。こうした状況から当サイトの温室内には冬期と云った環境は無く、新芽や新根の発生も盛んで、ラン栽培の一般論である”冬期は潅水や施肥を控えめにする”との対応とは無縁です。
 2012年以前の当サイトのラン栽培は、除雪車が通る道を除き、2月末まで地面は雪に覆われて地表が見られない豪雪地帯の会津若松でした。そうした環境の中、栽培はポリカ仕様の15坪アルミ温室の2棟でしたが、冬期には石油温風暖房機は24時間稼働し続け、月当りの灯油コストは凡そ8万円/棟にもなりました。現在ならば15万円程になっていたと思います。2013年からは国内で雪が最も降らない地域の一つである浜松への移転をした際には、こうした過去の経験を教訓に、奥行き15mの鉄筋温室の内外壁にはそれぞれ中空ポリカーボネイト板を張って2重構造とし、さらに温室内部は全面サニーコートで覆う構造としました。栽培株が500株を越え始めれば栽培スペースも広くなり、光熱費を下げるため、夏季の猛暑対策を含め、少なからずこうした対応も必要になってくるのではと思います。

Brassia arcuigera aff.

 2015年から3年間ほどサンシャインや東京ドームでのラン展において、南米出展者の売れ残り株をしばしば引き取っており、その数は350種を超える程でした。当方ではこれらをwebサイトで販促することはなく、温室に来られた方のみに販売してきました。そうした中にはひときわ目立った種もあり、その一つがBrassia arcuigeraです。本種入手時の種名ラベルにはBrassia lanceana/caudataとあり、その2種名のいずれかかであろうとのラン園の意と思われます。しかしセパルの斑紋の多少を個体差と見做せば、花形態はBrassia arcuigeraにより類似しています。この株の特徴はその花のダイナミックな姿で、下写真に見られるように一輪の花の縦サイズは30㎝超えで、IOSPE記載の22.5㎝と比較してかなり大きく、これが水平に伸びた65㎝程の花茎に14-5輪が同時開花することから圧倒的な存在感があり、また良い香りもします。現在は70㎝長ヘゴ板で栽培しており、今回開花が見られたことから撮影(4日)しました。

Brassia arcuigera aff. Ecuador

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