9月
Bulbophyllum venulosum:海外での入手から現在に至る栽培と成長
珍しい種あるいは2000年以降に発表された新種を求める趣味家にとって、それらの入手方法の多くは生息国に出向くか、国際蘭展での海外サプライヤーからの購入と思われます。しかしそうした株はしばしば僅かなバルブ数に小分けされ、入手後の栽培に苦労する人も多いのではと思います。そこで今回、2008年発表のボルネオ島生息のBulb. venulosumを例に、生息国コレクターの出荷から国内に持ち帰り大株にするまでの成長過程を取り上げてみました。
下画像1は2017年10月マレーシア現地において撮影したもので、Bulb. venulosumがヘゴ板に2-3株寄せ植え栽培されている株姿の一部です。その右画像はそうした株をヘゴ板から取り外し、国内に持ち帰ってトレーに並べた植付け前の様子です。1株当たりの葉付きバルブは多くが3-4個、5個も1株ありました。
その右は炭化コルクに植付けてから3年半後の2021年4月に得た初花で、株は左の入荷時の画像に比べ生気があるものの、葉数は4葉程で植付け時から株サイズに変化はありません。画像4はその初花からさらに2年後の株で、株サイズは入荷時と比べ倍近く増えています。すなわち画像2の入荷状態から画像4に示す株サイズになるまでには6年近くが経過したことになります。
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1.現地栽培サイトにての本種 |
2.海外から国内への入荷時の様態 |
3.当サイトにての初花 |
4.入荷から約6年後の株 |
下画像左は2023年8月に上画像4の株(右側)と別の1株(左側)を新たに炭化コルクとヤシ繊維マット構成の2枚の支持材にそれぞれ植替えた時の撮影です。右の4輪の花姿は、画像5の植替えから1年半後の2025年1月の開花です。また画像7は今年9月に画像5のその後を撮影した株姿で、この2株をそれぞれ2分割し4枚の90㎝杉板に植替えたのが右画像で現在の姿となります。この広い伸びしろのある支持材であっても今後2年程で覆われると思います。
入荷から画像8に至るまでに凡そ8年が経過しました。これらの栽培の経緯から分かることは、2017年10月の入荷での株状態から初花を得るまでに3年以上の歳月を要した一方で、2023年8月から2025年9月に至る僅か2年間には2倍を越える株サイズに急成長し、リードバルブが支持材を越える程の勢いとなっていることです。全ての種が同様とは云えませんが、入手した株が僅かな葉付きバブル数で、さらにサプライヤーの出荷準備による根の損傷が見られる場合では、そこから大株にするには長い年月が避けられないこと、しかしその種に適応した環境に順化した株(海外ではこうした株をEstablished plantと云う)は急速な成長が見込まれることが分かります。時として前記したように、その種が入手難な場合には、止む無く3バルブ程の小さな株を入手せざるを得ないことも多々あります。この場合は葉だけでなく根の点検が重要で、複数の根がしっかりと張っていることを確認することがその後の成長の需要な前提となります。根に水を吹きかけても根皮が灰色や黒くて硬さを失い柔らかくなっている状態は、いくら根があっても株の成長には寄与しません。
最近植替えを行ったバルボフィラム3種
前項の16種の植替えに続いて、今回は90㎝長の杉板(1㎝厚x15㎝幅x90㎝長の杉板に杉皮を重ねた構造)に新たに植替えた3種を撮影しました。いずれも取付面積の1/2 - 1/3近くを株の伸びしろとしており、植付け直後の下画像からはずいぶん空いた面積が広いように感じますが、株が60㎝程になると成長も早く2-3年でリードバルブの葉先はこの取付材の長さを越えるほどになると思われます。下画像のそれぞれのバルボフィラムは、ネットの検索からは、いずれもマーケット情報が少なく、現在入手が難しい種のようです。
現在(20日)開花中の9種
今年の異常な猛暑は多くのランにダメージを与えたのではと思いますが、ようやく秋らしい気温になりはじめました。葉先枯れや落葉が例年に比べ多い株は高温障害の可能性が高く、こうした症状はすでに根が相当傷んでおり植替えが必要と思われます。植替えもその後の順化期間があり、冬期の暖房に問題がなければ10-11月でもできますが、一般的に高温タイプのランに対しては10月中に済ませることが必要です。当サイトでは栽培株数が多くて植替えの適期を選ぶことが出来ず、年中無休の植替えのため温室内での冷暖房にはかなり気を使っています。そうした中、下画像は現在開花中の9種です。各花の詳細は花画像下の青色種名のクリックで見られます。
Dendrobium punbatuense aff
現在同時開花中のDen. punbatuense類似種の3つの花フォームをそれぞれ撮影しました。本種はボルネオ島低地生息で茎(疑似バルブ)は1m近くにもなります。半立ち性であることから現在は炭化コルク付けの栽培ですが、栽培面積を広く占めるため年内にはチタン・バスケットに植替え予定です。当サイトでは本種について5つの花フォーム株をこれまで栽培しており、それぞれの詳細フォームはDendrobium Indexにある花画像のクリックで見ることが出来ます。中央は新たな6番目のフォームとなります。それぞれの花模様やSpur(距)の個体差には継承性もあることから、ボルネオ島内での生息分布を基に種別、変種var.あるいはフォームfma名を付帯すべきではとも思います。株(疑似バルブや葉)形状の相違点は全てのフォームに見られません。
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Dendrobium punbatuense aff. (Index) Borneo |
現在(14日)開花中のマーケットではほとんど見られない3種
現在開花中のDendrobium serratilabium flava、Dendrobium stuposum redおよびCoelogyne bicamerataを撮影しました。フィリピン生息種のDen. serratilabiumはノコギリ状のリップ外縁形状が特徴で、その種名の由来ともなっています。当サイトでの本種の初入荷は2009年ですが、現在栽培している株は全て2019年にレイテ島生息種として入手したものです。このロットは、開花時のセパル・ペタル全体が薄黄緑単色で一般種とは大きく異なっており、また栽培を通して得た生態からはやや中温寄りで、標高が800m以上の生息種ではと推測しています。とりわけ下画像の株は緑味のあるベース色の花にしばしば見られる、セパル・ペタルの背面に残る薄い赤褐色のラインやSpur(距)に滲みは一切無く、ネット上からは他にこうしたフォームが見当たらないことと、このフォームは例年継承されていることから極めて稀な株と思われ、当サイトではflavaの付帯名をつけています。
Den. stuposumはセパルペタルが白色でリップに黄やオレンジ色の斑点のあるフォームがネット上では一般的ですが、下画像のように深紅の斑点のフォームはOrchidrootsやTropicalExotiqueのサイトに僅かに見られるのみで、そのマーケット情報も不明です。Coel. bicamerataの花画像もネット上に多数掲載されていますが、詳細なマーケット情報は国内外共に無く、入手が難しいセロジネと思われます。それぞれの詳細画像は画像下の青色種名のクリックで見られます。
現在(8日)開花中のデンドロビウム3種:Dendrobium crabro, calicopis及びdianae bicolorを撮影しました。
Den. crabroは2014年、Den. dianae bicolorは2016年、そしてDen. calicopisは2018年にそれぞれ入手したデンドロビウムです。花の詳細や株は画像下の青色種名のクリックで見られます。
最近植替えを行ったバルボフィラム16種
連日の植替え作業が続いています。バルボフィラムの植付けは昨年8月頃までは炭化コルクにヤシ繊維マットを重ねミズゴケで根を覆う方法でしたが、その後は株サイズにかかわらず、10種程を除き全て杉板への植付けに替わっています。一方、茎が下垂あるいは半下垂性のデンドロビウムも一部は杉板へ植付けを行っているものの、現在は殆どが木製(チーク)バスケットとなっています。そのため、これまでの1年間は炭化コルクへの植付けは1株もありません。下画像は最近植替えのバルボフィラム16種です。それぞれの株画像右下のcm表示は取付材の長さです。幅は全て15㎝に統一しています。この中で70㎝長の取付材はヘゴ板で他はすべて杉板です。花画像の詳細はそれぞれの花画像上の青色種目のクリックで見られます。
上画像から分かりますが、上記に取り上げたバルボフィラムには、素焼き鉢やバスケットを植付け容器とする栽培はやがてリード(先端)バルブが容器を飛び出すことになり適しません。マーケットを見ると殆どのバルボフィラムの販売時の形態は鉢径が10㎝前後の素焼き鉢ですが、長期間リードバルブが鉢をはみ出し空中に晒された根の先端部は透明感のある青みが無く枯れている場合が多く、植替え後の順化は困難(作落ち)です。数㎝のリゾームをもつバルボフィラムの素焼鉢植付けは販売便宜上の一時的な手段と考え、入手した場合は直ちに十分伸びしろ面積のある植付け材に植替える必要があります。
現在(3日)開花中の6種
下画像のバルボフィラム3種が栽培されている高温室内では、晴天日の日中の温度は35℃以上、一方デンドロビウム2種の中温室内では30℃前後となる中でのそれぞれの開花となっています。Den. klabatenseは42輪の同時開花で下画像は3日の撮影です。株の根元に小さな新芽が出ていたため今回は高温障害を恐れ、撮影後に全ての花を摘みました。高温室栽培のPaph. lowii var. albumは、20年近く前に米国Orchid Innから入手した実生(自家交配)株で、花サイズは左右のペタル間スパンで9-10㎝となります。
Dendrobium jiewhoei 種名とフォームについて
現在、Den. jiewhoei の開花期を迎えています。本種は近年発表(J.J.wood, etal. 2008)のデンドロビウムで、ボルネオ島標高1,000 - 1,500m程の生息種とされます。また2014年にはDen. calcariferum(Carr. 1935)とはシノニム(異名同種)とされ、IOSPEのDen. calcariferumとDen. jiewhoeiのサイトページには同じ花写真がコピーされています。不思議なことは、両種の生息域が重なっていることと、近年の情報化時代に於いて、なぜDen. calcariferumの発表から凡そ70年後にMalesian Orchid Journal Vol.3, 2009年に本種が新種名で掲載されたのか、現在、Den. calcariferumを検索するとDen. jiewhoeiと思われる多数の画像がネットに見られますが、そうした画像は2009年までそれぞれのメディアに掲載されることが無かったのか?よく分かりません。
当サイトがDen. jiewhoeiを得たのは2014年6月のマレーシアPutrajaya Floria 2014年の会場で、種名Den. jiewhoeiとしての入手でした。初花は2015年9月で、同年9月の「花と開花月」にて報告しています。その後に2回ほどマレーシア経由の入荷があり、一部を東京ドームやサンシャインラン展にて販売もしました。現在は8株程を栽培しています。本種は下画像に示すように特にペタルやリップに多様な形状(フォーム)が見られ、中温室内での栽培においてはそれぞれが時期を若干ずらして開花することから、こうした様態は標高や地域差(ボルネオ島Sabah、Sarawak またKalimantan)が関係しているのではと思います。下画像下段のフォーム2と3のペタル外縁(フォーム2は滑らかに対し、3は波状)や、リップ形状(フォーム2は方形に対し3は台形)を比べると別種の如き相違感があります。疑似バルブを含むそれぞれの違いは画像下の青色種名のクリックで見ることができます。マーケット情報は国内外共に殆ど無く、現在入手は可なり難しいデンドロビウムのようです。種名については機会を見て先行発表のDen. calcariferumに変更する予定です。