栽培、海外ラン園視察などに関する月々の出来事を掲載します。内容は随時校正することがあるため毎回の更新を願います。 ARCHIVE

   2019年 1月  2月  3月  4月  5月  6月

6月

Dendrobium sororium

 昨年12月の歳月記でソロモン諸島からのDendrobium spとして取り上げた本種が順調に成長しており、下写真に見られるように同時開花の輪花数も増えています。国内マーケット情報が見当たらず国内初の取扱いとも思われますが、いくつかの点でorchidspecies.com(以下OSCという)の記載内容とは異なるため再度取り上げてみました。OSCによると本種はスラウエシ島標高650m - 1,300mとされています。一方、サプライヤーによると入荷株はソロモン諸島とのことですがOSCにはソロモン諸島生息の記載がありません。生息地が両者正しいとすると、スラウエシ島とソロモン諸島との間に位置するニューギニアに本種が見られないのは地理学的に不可解です。また生息する標高から低温から中温とされていますが当栽培では高温環境が適し、開花も3ヶ月毎に見られます。さらに香りについてOSCでは不快(fetid)な匂いとの記載ですが、当栽培では微かな草の香りで不快感はありません。

 本種は2日花で花は短命ですが昨年12月の入荷からこれまで3回の開花があり、2ヶ月間隔で開花しています。デンドロビウムでの短命花種は年2-3回の開花が多く、このまま続けば年間開花数は4-5回になるかも知れません。現在、ポット(ミズゴケ・クリプトモスミックス)、木製バスケット、炭化コルクのそれぞれ3種類の植込みで栽培をしており、いずれも成長は良好です。新根や新芽の発生が活発で至って丈夫な種と思います。

Dendrobium sororium

株サイズと顧客年齢と価格について

 本サイトではどのような属種についても同じ種であるのならば、より大きな株を入手し販売することをポリシーにしています。海外への発注でも当サイトの注文品は元株の大きさをそのまま保ち、細かく株分けしてはならない、それなりの大きさならばそれなりの価格をつければ良いと言い聞かせています。ラン取引ではコレクターやラン園を通過する間に株はだんだん小さくなり、最終的には株にとって生きていくための最小限度である、バルボフィラムならば3バルブ、ひどい場合には3年前のスマトラ島からの株に見られたように1バルブ毎に細断されてしまいます。野生株や野生栽培株が僅かそれぞれ3バルブ程を単位に成長していることはなく、多くはクラスターやコロニーを構成している筈です。細断は商売上の手段に他なりません。

 それでも4-5年前に比べてフィリピンやマレーシアラン園では当方の、小分けされた株は買わないという強い要望があることで、それ以前から比べれば当歳月記で頻繁に取り上げているように大きな株が入るようになりました。一方で、そうした当方の要望もあってか、すでにコレクターの段階で細断されてしまった株がある場合、購入されないのではと2-3株を糸で結んで大きくしたラン園の作業員にとっては気の毒なクランプ株がしばしば見られます。例えば最近のBulb. inacootesiiは新種で、その入手ルートも新規のため周知されておらず最初のロットではコレクターの段階で3バルブ程に細断され、2回目のロットでようやくバルス数の大きな株が増えました。しかしそれでも3割程は小分けされ、これらは販売前に5バルブ以上になるよう炭化コルク上で寄せ植えとなります。バルブ数の少ない株については現地作業員も当方も何とも無駄な作業をしている訳です。細断を避ける理由は、大きさは、開花率、花数また花サイズに大きく影響するためです。また3バルブを10バルブ近くまで栽培環境において大きくするには、順調に成長したとしても種にも寄りますが、4-5年、自然界でも2-3年は必要です。その間の栽培コストのみならず、病気や害虫被害のリスクもあります。

 一方で1-2バルブ株は論外として細断された株であっても、3バルブもあれば花が咲かないことはなく輪花数やサイズにこだわらなければそれでも良いとする趣味家も多いと思います。要はサイズと価格のどちらを優先するかの問題です。これも小分されただけその販売価格がリーゾナブルに下がっていればですが。そこで最近は特に生息環境に大きく依存する葉サイズについては2割程は一般サイズも入荷するようにし、またバルブ数と価格の関係については温室訪問者に限りその場で価格を決める傾向が高まっています。具体的に言えば若い人にはオンライン価格に比べ可能な限り安価にするということです。

 一方で年配者の中には、展示会に出品できる程の多輪花で見栄えの良い大株を得たい、しかしそうなるまで自分で栽培するとして5年も10年も待ってはいられないないと、冗談か本気かは兎も角、そう言われる方も多く、温室を訪問される年配者の方にはラン展会場やオンラインではできない互いに話をしながらの売買が増えています。無論オンライン販売でのサイトカタログ価格はこれまでと変わりません。生体を扱う販売は一つ一つが日々その品質が変化し、また形、大きさ、植物では植込み方法などそれぞれが異なり、同一種であっても一律な価値を決めることが厄介な背景があります。

植付けが終ったParaphalaenopsis labukensisPhalaenopsis philippinensis

 先月初旬と中旬に入荷したPhal. philippinensisParaphal. labukensisの植え付けがそれぞれ終わりました。今回のPhal. philippinensisはルソン島Quirino州の生息とされ20株の内、葉長30㎝を超える大株が5株ほどあります。本種はPhalaenopsis節の中では唯一中温タイプとなります。一方、右写真の2列並んだParaphalの画像は、下段がParaphal. serpentilinguaで、その上を越えて葉が長く垂れ下がっている上段列がParapahl. labukensisです。上段の新しいミズゴケの付いた炭化コルク植えの内、葉長の長い9株が新規入荷株で葉長はそれぞれ1.5m-2.0mです。、他はこれまでの在庫株および新たに植替えをした株です。5月のサンシャインラン展では葉長1.5mサイズを12,000円としました。この種は葉長の長さで価格は大きく変わり、海外マーケットにおいて60㎝で3,000円ほどですが1mとなると10,000円以上になり、1m以上はほとんど見かけません。1.5m以上のサイズがマーケットに纏まって出るのは初めてではないかと思います。

Phal. philippinensis Paraphal. labukensis

Bulbophyllum pustulatumBulbophyllum ocellatum

 午前中に開花し、午後には花を完全に閉じてしまうボルネオ島生息種Bulb. pustulatumを前記で取り上げましたが、昨日朝9時に写真をと温室に行ったところ時すでに遅く花は閉じていました。そこで本日(11日)は6時半に向かい、ようやく全開写真を撮ることが出来ました。orchidspecies.comに書かれている通り、およそ3時間の開花であることが分かりました。これほどの早朝開花では展示品としては不適で、また販売店においてもオープン時には花は閉じていることになるため開花した花を見て買うことはまずできません。こうした早朝3時間開花という揺ぎ無い習性は何千年、何万年を経て生まれた進化の結果であり、同時にそれはそれを生み出す本種を取巻く環境と共にあったことになります。そうした生物多様性を生み出す自然の背景や雄大さを花一つから感じ、近年あるいはこれからの地球気候の急激な変動の中ではおそらく生まれ得なかった習性ではと考えてしまいます。原種ならではの感慨かも知れません。 さて何日間この開閉が繰り返されるのか、今日で4日目となります。取り敢えず花色が異なる2株を撮影しました。朝6時半の撮影です。(後記:花寿命は6日でした)

 ついでにと、こちらも午前中にしか開花しないフィリピン生息種Bulb. ocellatumが開花中であったので撮影しました。写真の株がBulb. pardalotumではなく、Bulb. ocellatumとするのはリップ形状(前者は幅広扁平に対し、本種は細長く先端が尖る)からの判断ですが、ネットで画像検索すると多くの画像で両者が入り乱れており、セパル・ペタルの形状、また色や斑点等の花フォームからは種名判断が困難です。

Bulb. pustulatum
Bulb. ocellatum

Dimorphorchis lowii

 2m程の長い花茎に2つのフォームの異なる花を付ける本種は、ボルネオ島低地に生息する高温タイプで人気の高い種の一つです。1枚の葉の長さが50-60㎝長の良質な大株の植え付けがほぼ終了しました。Dimorphorchis属はVandaに似た株形状ですが一部のVandaのようにベアールートの吊り下げは適さず、鉢を用いたバークやクリプトモスによる植え込みで良く成長します。しかし花茎の長さからベンチ置きも適さず、高い位置に吊り下げるバスケット植えが一般的です。特にその太く固い根が四方八方に伸びる野生栽培株には多数の根が活着できる木製バスケットが合います。

 しばしば株は元気なのだが花が咲かないという声を趣味家から聞きます。その原因の多くは輝度不足です。開花を得る条件は、根を乾燥させずしっとり感を長く保つことと高輝度です。下写真はDimorphorchis lowiiの中型木製バスケット植えで、今回バスケット内にはミズゴケを敷きバークを詰めました。今回このサイズとしては一般的な市場価格の半額となる5,000-7,000円(株サイズによる)の販売です。

Dmrphr. lowii

Bulbophyllum facetum

 フィリピンルソン島のNueva Vizcaya標高1,200m生息のBulb. facetumが現在開花しています。ペタルスパンが7.4㎝とバルボフィラムとしては大型の花で、これほど迫力のある種がなぜ2000年近く(1996年)まで知られていなかったのか不思議です。当初標高データーから中温室に置いていたものの、なかなか開花しないので20株ほどある半数をそれぞれ中温と高温に分けて栽培しました.。根張りや新芽の成長はいずれも同じで環境温度差による相違は見られません。そうした中、高温室の株で開花しました。入荷から1年近くなります。

 本種は午前中全開し、午後からは閉じ始めます。そういえばサンシャインおよび東京ドームラン展で人気があったBulb. pustulatumも現在開花中で、朝早く開花を確認したため、明るくなってから写真をと昼過ぎに向かったところ2時過ぎですでに花は完全に閉じていました。orchidspecies.comによると夜明けから3時間開花した後、次の日の夜明けまで閉じるそうです。一体この開閉を何度(何日間)繰り返すのかと興味が湧き調べたところBulb. facetumは凡そ4回だそうです。Bulb. pustulatumは記録が見つからないため本サイトの株で検証です。いずれの種も昼間濃霧に覆われる雲霧林の生息で、花が濡れるのを避けるために進化した特性と思われます。おそらくポリネーターも霧がでれば先が見えなくなるでしょうから花を見つけることも出来ず飛来しないのでしょう。

Bulb. facetum

Dendrobium (Euphlebium) elineae

 Euphleblium elineaeが現在開花中です。EuphlebiumはDendrobium属に統一されており、種名はDendrobium elineaeとなります。これまでのEuphlebiumはリップのフォームにバラエティーがあるもののセパル・ペタルは白色であるのに対し、本種のセパル・ペタルは明るいまたリップは濃いオレンジ色が特徴です。フィリピンLuzon島北部Ilocos Norteに生息し2009年発見、2017年orchideenJounalに掲載されました。新種のためか情報が少なく、これまでのEuphlebiumやバルブ形状の似たDen. amboinenseなどと同様のFugacia節に分類されると思われます。国内マーケット情報は当サイトを除き無く、当サイトが国内初の取扱い種かも知れません。開花中でなければDen. balzerianumなど他の類似種との外形上の明確な違いがないため同定することは困難である一方、開花は年に4回程あるものの短命花です。このため本種名で入手を希望してもサプライヤー側で開花時に花を確認し他種とは別管理していない限り、本種かどうかの確信は得られません。

 当サイトでは40株のDen. balzerianumDen. bicolenseの中から下写真の株を含め僅か2株のみの出現でした。高温タイプで炭化コルク植えで成長も良く、歳月記2019年3月に紹介した株はすでに株分けして販売をしました。
 
Dendrobium elineae

新規植え付け株の一部

  先月のサンシャインラン展前に入荷した株の本植え付けを現在進めており、その一部を撮影しました。全てこうした植え付けは手作業のため500株を超えるとなかなか終わりが見えません。やっと5割を超えたところです。植え付けは猛暑前に終了させないと歩留まりが一気に低下するため時間との戦いです。すでに炭化コルクの使用量はサイズ90㎝x60㎝角に換算して40枚を超え、50枚目に入っています。Phal. schillerianaは数えたところ2月から合わせて130株程ありました。Phal. mariaeは40 x 12㎝炭化コルク付け(他の下垂タイプ胡蝶蘭原種は35 x 12㎝)です。胡蝶蘭野生栽培株にとってこれまでの30 x 10㎝長では根張り面積が小さいことが分かりました。デンドロビウムのFormosae節も35 x 10㎝炭化コルクで、取付け位置をこれまでの下部から中央に移し、下部に向かう根の伸びしろを大きくとり、ミズゴケの厚みもやや増しました。これら植付け方法の変更は栽培を通しての観察による判断です。

 Den. igneo-niveumはコルクと鉢植え(バーク・ゼオライトミックス)に分けています。Bulb. inacootesiiはこれで1/3の取付数です。Den. toppiorumtobaenseは1年ぶりの入荷です。今回のDen. toppiorumはこれまでの同じスマトラ島北部の中でもAche生息株とされ初めてとなります。ボルネオ島のDen. ovipostriferumは浜松に転居して初めての入荷となりました。シノニムとしてDen. takahashiiとも呼ばれます。5 - 6㎝の白いセパルペタルに明るいオレンジ色のリップは良く目立ちます。入手難なのかマーケット情報がほとんどありません。この名前で検索するとDen. deareiが今だに誤って表示され、orchidspecies.comではこの原因が取り上げられています。現在開花中のDen. ovipostriferumの花写真を、東京ドームの当サイトのブースで撮影したBulb. inacootesiiの花写真と共に最下段に掲載しました。 一方、1.5mを超える Paraphalや良質のDimorphorchisなど全く手づかずの種もこれからが本植えとなります。

Phal. schilleriana Phal. bellina
Phal. amabilis Borneo Phal. mariae
Den. igneo-niveum Aerides leeana
Phal. appendiculata Den. consanguineum Den. ovipostriferum
Bulb. inacootesii Den. toppiorum subsp. taitayorum Den. tobaense
Den. ovipostriferum Bulb. inacootesii

Cymbidium elongatum

  本種はボルネオ島キナバル山周辺の標高1,200m - 2,300mに生息するシンビジウムで、その標高からコールドからクールタイプとされます。すなわち夜間平均温度は10℃以上、18℃以下が必要となります。本種は古い葉が枯落ちても茎を包む葉の基部(葉鞘=ヨウショウ)は落ちることなく枯れたまま残ります。このため入荷時も枯れた葉鞘が何枚も重なって茎に付いています。こうした株の生態写真がorchidspecies.comに見られます。植え付け時、枯れた葉鞘を取り去るか、付けたままとするかは悩ましいところです。自然界では雨水が主茎と葉鞘との間に浸み込み保水性を高めているのか生息地画像では葉鞘の周りにはコケが多く付着しています。また枯れた葉鞘は固いことから長い主茎を害虫や寄生植物から守る役割があるのではとも考えられます。

 本サイトでの栽培においては、茎の2/3近くが枯れた葉鞘に覆われた姿は原種とは言え余り美しくないため下写真のように取り去ってから植え付けています。そのため脇芽あるいは生きた葉のある位置近くまで茎をバーク内に埋め込みます。一方、マレーシアではこうした低温生息種も出荷過程では1ヶ月以上高温に晒され、入荷時点では根のほとんどが枯れ、1-2本が辛うじて残っている状態が頻繁です。この品質レベルからは順化栽培が必須となりますが、低温環境での栽培であることから、新たな根が主茎から覗き出すのは高温タイプ種に比べ2倍ほどの4-5ヵ月を要します。植え付けはスリット入りプラスチック深鉢に大および中粒の発酵バーク2:1混合にゼオライトを2割程度混ぜ合わせています。このように今年からは低温タイプの植え込みには、これまでのミズゴケ・クリプトモスからバーク・ゼオライトミックスに順次植え替えをしています。これは植え込み材の劣化の影響を遅らせるためです。大粒使用であるため気相が大きくなることから種によっては鉢内の湿度をできるだけ長く保持する目的で鉢表面の一部を薄くミズゴケで覆っています。

 下写真は新しく入荷したCym. elongatumで主茎の端から頂芽先端まで40㎝程の株です。このロットの新根の発生と頂芽の伸長を確認しての順化後の出荷は凡そ今年の初冬頃を予定しています。

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6月は害虫被害が目立ち始める月

  下写真左はDen. officinaleのナメクジ被害です。左写真とは別株ですが、本来ならば右写真のように多数の葉が伸長していた筈でしたが株の一つが2日間程で葉のほとんどを食べられ無くなってしまいました。ベンチ上には多くの他の属種があるにも拘わらず、ナメクジは他には目もくれず高貴薬となる鉄皮石斛Dendrobium officinale Kimura & Migoを集中的に食害するとは何事かと。まさか健胃薬となる本種をナメクジが食べることで一層ナメクジの胃が丈夫になり食欲旺盛になられては大変と、ナメクジ駆除にこの右に出る薬剤はないと思われるマイキラーをさっそく散布したところです。

Dendrobium officinale Kimura & Migoナメクジ被害(左写真)


 下写真中央はParaphal. labukensisの葉内で孵化したオオランヒメゾウムシと思われる幼虫です。この被害については昨年8月の歳月記に”オオランヒメゾウムシによる被害と対策”として取り上げました。困ったことにこの害虫の被害はいつも後手にまわり、成虫あるいは齧られた痕を見つけての殺虫剤散布となっています。葉の一部が齧られるのであればまだしも、茎や写真のような円筒状の葉に卵を産み付け、やがてその幼虫によって芯部が食べられれば羽化する頃には、それまで食い尽くされた部位は腐り黒変しその先はやがて枯れ落ちます。 おそらく10年以上かけて伸長したであろう1.5m以上あったParaphal. labukensisが写真左のように20㎝ほどになってしまった被害は深刻です。

Paraphal. labukensisのオオランヒメゾウムシ被害


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