栽培、海外ラン園視察などに関する月々の出来事を掲載します。内容は随時校正することがあるため毎回の更新を願います。 ARCHIVE

2017年 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月

11月


Vanda tricolor var. suavis

 Java島低地生息のVanda tricolor var. suavisあるいはVanda suavisとも呼ばれる本種がフィリピン経由で12株程入手しました。Vandaとしては珍しく着生、岩生および地生のそれぞれの特性があり、ネット画像からはポット植え栽培も多く見られます。5-7㎝サイズの花を15輪程同時開花するとのことです。実生が市場に多く出ているそうですが手のひら大の苗からFSサイズになるには10年以上かかるとのことです。とても10年は待てません。このため今回入手の株は葉数10-15枚サイズで、半数に開花後の枯れた花茎が残るFS株のみを選びました。下写真が今回入荷した株で、スリット入りプラスチック鉢に大粒のコルクチップとバークミックスで気相を増して植え付けています。10 - 15葉サイズを4,000円から5,000円の範囲で販売予定です。野生栽培株のため3ヶ月間程の順化期間が必要でその間は予約となります。


Vanda tricolor var. suavis

Bulbophyllum taeniophyllum

 雲南、ミャンマー、タイ、マレーシア、スマトラ島、Javaなど広い地域に分布するBulb. taeniophyllumが12株フィリピン経由で入荷しました。発送元はインドネシアであることからスマトラ島あるいはJava生息株と思われます。Bulb. binnendjkiiとほぼ同額でCirrhopetalum節バルボフィラムとしてはかなりの高額であったため興味が湧き入手することになりました。本種を検索すると国内マーケットにおいて2例がヒットします。ここで不可解なことが幾つか見つかりました。一つはこれほど広範囲に生息する種であるにも拘わらず、本種名の画像と思われる写真はorchidspecies.comorchid.unibas.chの2例しかありません。多くはBulb. taeniophyllum名の付いたBulb. fenestarumの画像です。それらがシノニムとされた関係であればBulbophyllumとCirrhopetalumとの属名統一でよく起こる不一致となるのですが花がまるで違います。画像を掲載している国内のラン園はBulb. fenestratumの画像をBulb. taeniophyllum名としています。orchidspecies.comはBulb. fenestratumBulb. taeniophyllumとするのは誤り(異種)であることを指摘しています。

 2つ目は葉形状です。orchidspecies.comの画像の背景に映っている葉は、今回本サイトがBulb. taeniophyllum名で入手した葉と大型で同形のややナス型に見えます。下写真右が浜松で撮影した葉です。左は植え付け直後の株全体の写真です。一方でBulb. taeniophyllumとするorchid.unibas.chの画像では葉の形状は12㎝程の長楕円形で下写真に比べ短くスリムで形状が明らかに異なります。下写真の葉は20㎝の長さです。またBulb. taeniophyllumの命名者Parish & Rchb. f. 1874のスケッチ図では葉形状は長楕円で長さは15㎝以下、またラテラルセパルの長さは1.5㎝程の小型の花で、これはorchidspecies.com記載の花サイズ2.5㎝ともかなり異なります。Bulb. taeniophyllumの命名者が描いた種とorchidspecies.comの画像とが異なるのは命名者のスケッチ図を同定の条件とすればorchidspecies.comの画像こそが間違いとなります。では世間がBulb. fenestratumBulb. taeniophyllumと呼ぶ種は命名者Parish & Rchb. f.のスケッチ図にあるBulb. taeniophyllumの形態に類似しているのであろうか考えます。葉形状は似ています。また花のラテラルセパルの長さは1㎝程でサイズも似ています。しかしスケッチ斜視図の花形状には違和感があり一致しません。すなわちBulb. fenestratumは当にBulb. fenestratumそのもので、Bulbophyllum fenestratum J.J. Sm. 1907からすればBulb. taeniophyllumと呼ばれるのは迷惑かも知れません。

 こうなると収拾がつかなくなります。いわゆる命名者の図に合致する種は見当たらず世の中ではBulb. taeniophyllum名を異なる種?に使用していることになります。orchidspecies.comがこれこそがBulb. taeniophyllumであるという種が命名者のBulb. taeniophyllumではないとすると、orchidspecies.comにある写真のバルボフィラムは名称不明種でBulb.spとなります。これを是とすれば下写真の株もBulb.spかもしれません。その葉形状とサイズおよび厚み、また四角垂のバルブを見ていると、これまでにない種のようにも見えてきました。当初の疑問、なぜBulb. binnendjkii並に高額なのか、高額であるということは通常、数が少ないからが最も大きな理由であり、種名で頭を悩ますより、ミスラベルかも知れないこの株にはどんな花が咲くのか楽しみにする方が精神的にも良いのかも知れません。むしろこうした稀な葉形状の不思議な株であるからこそ入手を希望するバルボフィラム・マニアも多いのではとも思います。1月のAJOSサンシャインラン展ににBulb.spとして3,000円(4バルブ)から出品します。高額仕入れとは言え花が未確認ではBulb. binnendijkii並の価格には出来ません。


現在開花中の良く目立つ種3 Dendrobium tobaense

 現在多数のDen. tobaenseが開花中か蕾をつけています。先月このページで取り上げた板(炭化コルク)に全てのDen. tobaenseを植え替えしてからの開花です。花は大型で複数の株で同時に開花すると良く目立ちます。本種は中温環境での栽培で、同じ場所にDen. torajaenseDen. vogelsangiiも同居しています。

 マーケットでは実生で8,000-10,000円程が見られます。2年ほど前にも取り上げましたvar.giganteumとされるフォームがマーケットにしばしば見られますが、誰が付けた名前で一般種と比べどのような定義の違いなのかがよく分かりません。そうした変種名があると一般種は小さい花のような印象を受けますが、下写真の株を含め左右セパルのスパンが10㎝程の大きな花です。よってvarが付くほどの変種であれば株が若く初花であっても慶弔用胡蝶蘭を凌ぐ15㎝以上と思われ、購入される場合はサイズとプライマリーハイブリッドやそのメリクロンではなく原種であることを保証してもらった方が良いかも知れません。30年以上東南アジアの原種を専門とするマレーシアラン園でも原種としてのgiganteumと言った変種名は知らないそうで、2-3㎝程度の花の大きさは株の年齢や栽培環境で変わるとのことです。一方、orchidspecies. comの本種ページには生息地がボルネオ島Sabahとなっていますが、ボルネオ島には現在?生息していないそうです。マーケットにある株は北部スマトラ島で現在はアチェ州からが多いとの話です。本サイトが取り扱う株はスマトラ島生息の野生栽培株で4,000円です。


現在開花中の良く目立つ種2 Bulbophyllum binnendijkii

 リップが濃赤色のBulb. binnendijkiiが開花しています。本種はJavaおよびボルネオ島生息のバルボフィラムで、放射線状に伸びた花柄と、カールした長いラテラルセパルが直径20㎝の円状に展開する姿は、下写真右のように冠が宙に浮いているようで迫力があります。下写真の株は入荷して初花のため花数は5輪と少ないのですが株が落ち着けば8輪程になると思います。標高1,000-1,400mの生息種とのことから中温と高温室に分けて栽培しており、この株は他の多くのバルボフィラムが混在する高温室での開花です。

 マーケットに見られる本種はドーサル・ラテラルセパル共に黄緑色であったり、リップがピンク色のフォームが多く、ボルネオ島生息株に時折見られるラテラルセパルが白色ペースまたリップが濃赤色、ドーサルセパルには斑点がある、コントラストの強いフォームとの厳しい条件をつけてマレーシアラン園に問い合わせを行ったもので、2年程前に入手しました。今回の開花は送られた写真通りのフォームであり在庫数も少ないことから再注文の予定です。

Bulb. binnendijkii

現在開花中の良く目立つ種1 Bulbophyllum ankyochele

 ニューギニア生息のバルボフィラムBulb. ankyocheleです。生息域は標高2,000m前後とされコールドからクールタイプとなります。しかし本サイトでの栽培では15-28℃の中温環境の方が元気です。開花をさせるにはある程度の明るさが必要でLEDの自然色を用いています。花サイズが大きく多輪花であるため良く目立ちます。下写真は11月17日の撮影で24輪が開花しました。浜松温室では例年年末頃が開花期となっています。


Bulb. ankyochele

Dendrobium(Euphlebium) balzerianumbicolense

 新たにFugacia節の2種がフィリピンから入荷しました。この節は東南アジアに12種ほど知られており、フィリピンにはいずれも固有種が7種生息します。この機会にと改めて種を調べたところ本サイトのDen. balzerianumのページの画像はDen. bicolenseであることが分かり、近々修正を行う予定です。Den. bicolenseはルソン島北部Bicolで2006年見つかったことからその地名が由来の比較的新しいデンドロビウムです。今回入荷した2種はいずれも1株当たり15本ほどの疑似バルブからなる大株が多く含まれています。特にDen. balizerianumはバルブ長が60㎝前後と、これまで栽培した中では最も大きな野生栽培株です。

 下写真の上段は炭化コルクに取り付けたDen. balzerianum(右3株)とDen. bicolense(左4株)の一部で、今回これらを合わせて50株が入荷しました。これで本サイトではフィリピンからのFugacia節は3種となります。引き続き他の4種も打診中です。下段写真左の3株は左から本ページの2月にDen. spurinumとして取り上げたDen. orbilobulatum (Den. decoratum? 2011年)、Den. bicolense(2006年)、Den. balzerianum(1997年)のそれぞれで、疑似バルブの大きさの違いが分かります。いずれの種もネットには市場情報が見当たりません。本サイトでは価格はいずれも3,000円からとなります。


Den. orbilobulatum, bicolense、balzerianum

Den. orbilobulatum (Den. decoratum?)

Den. bicolense

Dendrobium fairchildiae

 本種はフィリピン固有種で主にルソン島標高1,200mに生息する中温タイプのデンドロビウムです。花単体として清楚な印象ですが状態が良いと下写真に見られるように4-5㎝サイズの花を10輪ほど同時開花し華麗な印象となります。下写真は浜松温室にて撮影したものですが、在庫が少なくなったため今週フィリピンから成田まで持ってきてもらいました。orchidspecies.comには岩性のみの記述ですが着生でもあります。右写真は今回の植え付けで、ミズゴケとクリプトモスミックスでスリット入りプラスチック鉢としました。不思議なことにこれほど目立つデンドロビウムに拘わらず、本サイト以外の国内市場の情報はほとんどありません。実生があると思うのですが1年越しの入荷を考えると野生栽培株は入りにくくなったのかも知れません。3,500円での販売です。

Den. fairchildiae

Coelogyne palawanensis

 本種はフィリピンPalawan諸島の固有種で標高1,000 - 2,000mに生息する低 - 中温タイプのセロジネです。20cm程の下垂する花茎に5輪程の花を同時開花するとのことです。現在、50株ほどをPalawanから入手しています。orchidspecies.comによると1915年の登録と古いのですが、ネットからはorchidspeces.com以上の情報またマーケット情報が見つかりません。J. Cootes氏のPhilippine Native Orchid Speciesにも記載がなく、前記サイト以外の検索ページにはしばしばCoel. hirtellaが表記されますが、Coel. hirtellaはPalawan生息種ではなくリップ形状も異なります。調査中ですが、おそらく市場には国内を始め世界初の登場ではないかと思われます。

 下写真上段左が園主から送られた花画像で、この画像以外に素焼き鉢で栽培されている本種の画像がありました。右および下段画像は浜松温室にて植え付け前のトレーに仮置きされたCoel. palawanensisです。価格は未定ですが来年1月のAJOSサンシャインラン展に出品する予定です。


Coel. palawanensis

Dendrobium boosii

 本種は2011年W. Suarez氏により命名されたフィリピンレイテ島標高700mに生息の新種です。昨年来問い合わせしていたのですが、今週フィリピンラン園園主が成田まで持ってきてくれました。新しい種がReviewやJournalに発表されると、現地コレクターとディーラーとの間で一気に価格が高騰し、こうなると現地のラン園や趣味家は、彼らの言葉を借りると、バカバカしくて買わないそうで入荷が遅れた背景はそんなところにあるようです。今回入荷したのは相場が落ち着いてきたのではと思います。殆んどのこうした原種は2-3年で数分の1になります。逆にそれまでよりも高額になる種も多数あります。これは現地でのプランテーション(主にフィリピンでは米、マレーシアではパームオイル用)による生息地破壊や州政府の持ち出し制限などが施行され希少種となる場合です。

 本種については国内のマーケットで現在1万円の価格がネットに見られます。本サイトでは現市場価格の1/3程の3,500円で販売予定です。炭化コルクに3Aミズゴケなど材料等を考慮すれば株単体は3,000円相当となります。本種栽培は下垂タイプで中 - 高温環境です。下画像は炭化コルク取り付け前の浜松温室での撮影で疑似バルブは7月に取り上げたDen. falconeriに似て1m程の長さです。こうした形態種は、下写真中央の画像にも一部見られるように高芽が出やすく、野生栽培株としての苗が多数得られるのではないかと思います。

Den. boosii

Bulbophyllum spのその後の栽培

 今年5月歳月記で1株が1バルブからなるバルボフィラムを取り上げました。インドネシアコレクターがより多くの販売利益を得るために株を細かく裁断したものです。本サイトとしては1バルブしかない株を栽培する経験はほとんどなく、たまに植え替えの際、バックバルブが一つだけとなったものを、捨てる訳にもいかず、止む無くこれを栽培することはあるものの新芽が現れても大半はやがてその新芽も枯れて廃棄することががほとんどです。これまでの経験から見て、これら商品としての体を成していない1株1バルブを普通株のように栽培管理をすれば結果は明らかで、まるでフラスコ苗をBSになるまで育てる様な気分で栽培を開始しました。当然こうした状態の株の販売は3バルブほどになるまでペンディングとなります。

 根も傷つき生きた根がほとんどない1バルブから新芽・新根を出し、これを開花サイズまで育てるには3年程を要するものと思われます。最も神経を使うのは新芽が現れこれが伸長して葉が全開するまでの数か月間です。再起不能となる株の大半はこの間に新芽が細菌性の病気にかかることです。一つのバルブにはその根元2か所に新芽の発生する成長点があるのですが、バックバルブではその内の一つにはすでにリゾーム(次のバルブを繋ぐ根茎)が発生しており、そのリゾームの先は短く切断されているか枯れていることから、残った1ヶ所しか新芽の出る場所はありません。よって、ここから出た新芽が病気となれば再生は絶望的となります。

 1株1バルブの歩留まりは、新芽が葉を開くことが出来るかどうかでほぼ決定します。5月からの栽培で4割程が再生不能となっており、歩留まり率は6割となります。それらの一部が下写真です。最上段左および中央は今回問題となったBulb. spで、園主から送られた花画像です。その他の画像は浜松温室にて撮影したもので、新芽が伸びその多くが葉を開き始める第2ステージに入ったことから、それまでのポット植えから炭化コルクに植え替えが終了した状態を示しています。このsp種はリゾームが長いので板取り付けとなりました。

 通常、開花を得るためには最低3個のバルブが必要です。大型種の花芽発生は2番目のバルブからが多く見られ株が死花にならないためには、そのバルブには開花に十分な体力が必要で、そのためにはもう一段後ろのバルブがあることも重要です。一方、一つのバルブから3バルブまで成長させ開花を得るには大型タイプの場合は3年はかかります。その間の栽培で歩留まりが5割を切り、且つ栽培コストが3年となると販売価格は1バルブの購入額の4-5倍となってしまいます。これでは販売する側も、購入する側もメリットが感じられません。いずれにせよ供給元の上記したような株の裁断売りが問題で、こうした販売は避けるようにとフィリピンでは8年前、マレーシアでは5年前から指導してきました。すなわち価格は株の大きさに準じて決めれば良く、サイズを無理やり合わせて価格を一律にする必要はないとの説明です。まして順化も困難なほど細かく裁断しての販売は論外です。インドネシアでも同様の説得をせざるを得ません。

 現地趣味家から聞くところによると最近は高く売れると分かると、このように細かく株分けをして、より多くの利益を得ようとするとのことです。そうした行為は心情的には理解出来るのですが、彼らはラン園や趣味家以上に栽培技術を持っている訳でもなく栽培環境も自然任せです。細かく切断した株を生育させることはほとんどできません。にも拘らず一度でも高額で販売できると価格を決して下げようとしないため、やがて多くが売れ残り枯らしてしまうそうです。いずれにせよこうしたコレクターとはFace to Faceで信頼関係を築くしかありません。下写真は最上段左と中央の種を1バルブから5か月間育てた新芽成長の様態です。撮影は今月13日でポットから板付けに植え替えてから4日目です。こうした株が2種合わせて現在20株ほどあります。栽培環境は高温で温室の最低温度は18℃としています。


Dendrobium rindjanienseDendrobium hekouenseの順化栽培

 今年5月、4株程のDen. rindjanienseをプラスチックポットにバークミックスで植え付け順化栽培に入りました。しかし入荷時にあった小さな新芽が徐々に弱まり3週間程で枯れ、7-8本程の古い茎だけになってしまいました。順化期間中にそれまであった若芽が失われることは入荷時点で株の根が相当傷んでいる場合によく起こり得ることです。栽培環境に間違いがなければそうした状況であっても、2-3ヶ月するとやがて新根が現れ株全体に張りが出始めます。ところがこの株は4か月以上経過しても変化がなかったため、順化環境に合わないと判断し8月に炭化コルクに移植しました。こうした事情から先月、新たに30株程をマレーシア経由で入荷したものは当初から全てを炭化コルクに植えつけました。この画像は先月の本ページに取り上げています。

 植え付けから凡そ1か月弱が経過しますが、板付栽培はポット植えとは様相がかなり異なるようで、すでに新芽や新根が出始めており入荷時の若芽も順調に伸びています。今回の取り付け材は炭化コルクですが、ヘゴ板であっても同様と思います。下写真が板取り付けの現在の様子で上段左と中央は新根が複数発生し始めており、右画像は若芽の伸長を示しています。写真の株だけでなく他の多くの株も同様な様態です。下段左は8月にポットから板取付に替えた株に現在発生した花芽と蕾です。入荷状態にも寄りますが植え付けから1か月程でこうした根や芽が現れるのは栽培環境がその種に適合していることを示しています。

 一方、画像下段中央と右はDen. hekouenseです。入荷時点では小さなヘゴ板の上にミズゴケもないベアールートのままで単に糸で縛って取り付けられた状態であったため、浜松にて一旦ヘゴ板から取外しミズゴケを根の周りに付けて植え直したものです。中央写真の小さな芽は植え付け後に新たに現れたもので、右写真は入荷時にあった小さな新芽がやや大きくなり、植え替え後に新根が出てきた画像です。こうした様態を観察していると、この2種については中温(11月現在の浜松中温用温室の気温は14-25℃)で板取り付け栽培が最も適していると思われます。


Phalaenopsis maculata wild

 先月、ボルネオ島生息のPhal. maculataの野生栽培株を20株入手しました。本種は胡蝶蘭原種の中では比較的高価な種で、マレーシアラン園でも実生株は容易に且つ安価に手に入るものの2年ほど前にリップが怪しげな開花フォームを見て以来、実生の入手は止めました。30年ほど前はクアラルンプールから1時間ほど南のセレンバン周辺の山でも見られたものの現在はマレー半島には生息していないであろうとのことです。過去7年間において胡蝶蘭原種を専門にするマレーシアラン園においてすら10株以上纏まって入荷するのは2-3年に1度位で、Phal. cochlearis同様に野生栽培株は毎年2-3株あるかないかでした。

 本種は着生と岩性の両面をもち、胡蝶蘭原種としては珍しく立ち性として栽培可能で花茎も上に向かって伸びます。低輝度が好ましく輝度が高いと葉の濃緑色が薄くなり黄色味が増します。生息地の標高が約1,000mとされますが、本サイトでは高温タイプ(18-32℃)として半透明プラスチックポットにヘゴチップ100%で植え、良く育っています。今回は半数を従来通りの植え付け(写真下段左)にし、半数を炭化コルクに取り付け、下垂タイプと同様の状態(写真下段右)で栽培し様子を見ることにしました。その目的は、植え込み方の違いが株の成長に影響が出るかどうかをテストするためです。と言うのは現在市場にある胡蝶蘭原種は実生が殆んどで、それらの大半はポット植えで出回っています。この栽培法ではPhal. bellinaPhal. violaceaなどに見られるように下垂型の野生栽培株と比べ数分の1のサイズにしか成長していません。そこでPhal. maculataを同一ロット株でポット植えと下垂取付に分けて栽培した場合、成長(葉長など)にどのような違いが出るか興味をもったからです。野生栽培株であってもPhal. maculataに関してはポット植えにした場合、これまでの栽培経験からは、例えば下段左写真に見られるBSサイズの場合、これ以上大きくはならないと思われます。一方、下垂取付はこれまで行ったことがなく果たしてどうなるかです。Phal. amboinensisではすでに2つの植え込み方法を試みており、葉長や葉形状に明らかな違いが見られます。

Phal. maculata

Bulbophyllum nasica

 本種はパプアニューギニア低地に生息のバルボフィラムです。Bulb. blumeiと似た形状ですが色は赤褐色でサイズは1/3程の約2㎝です。本ページの6月の歳月記では赤褐色、8月は黄色のフォームを持つ種をそれぞれ紹介しました。今月これらを寄せ植えした中からラテラルセパルの長い赤褐色の花が開花しているのに気付き、ネットで調べるとvar. longicaudatum名でnasicaの変種とされていることが分かりました。下写真がBulb. nasicaの一般フォーム(上段左)と今回開花していたセパルの長いフォーム(上段右)です。この違いが f. (フォーム)ではなく、var.(変種)であるとすれば近年の定義から、これらはそれぞれが排他的な生息域(一緒には生息せず異なる地域)を形成していなければならないのですが、ではどうして同じ入荷ロットの中に混ざっていたのかが疑問です。

 一方、Bulb. blumeiもショートとロングタイプの2つのフォームが存在(写真下段右がロングタイプで一般種は6㎝程))します。そこで、Bulb. blumei var. longicaudatumのような種名があるかと検索したところtheplantlistorgでヒットし、そこにはBulb. blumei var. longicaudatumの種名と共に、この種がBulb. nasicaのシノニムとされており、一方、blunanta.comではBulb. blumei var. longicaudatum名でBulb. nasica var. longicaudatumの画像が掲載されています。すなわちこれら情報によればBulb. blumei v. longicaudatumBulb. nasicaiであり、またBulb. nasica var. longicaudatumでもあります。??。さらにこの長いセパルのパプアニューギニア産はBulb. longicaudatumと言う別名が付けられています。一方、この名にはBulb. blumei var. longicaudatumがシノニムとされていますが、同じシノニムとしてのBulb. nasica (var. longicaudatum)名が見当たりません。話しを戻してそれでは、写真下段右の長いセパルのBulb. blumeiを本サイトでは5株程持っていますが、その名前は何処に行ったのか?です。これは単なる巨大なBulb. blumeiすなわち4N体?。Bulb. blumei, Bulb. maxillare, nasica dark-red, nasica yellowおよびセパルの長短、これらの関係が分類学的にSubsp、Variety、FormあるいはSectionなどどうような位置づけが正しいのかDNA解析による系統的な裏付けを期待したいところです。, 

 最近は種名不明種が多く入荷し、それらが開花する度に該当する種があるかどうかネット検索するのですが、すでに本ページで何回も取り上げているように種名には混乱するばかりです。それは兎も角、なぜセパルが、一方が短く他方が長いのか、フォームの進化の一つはポリネータ(花粉を運ぶ昆虫)との関わりがあると考えられ、生息する地域差によりその地域固有のポリネータとの関係が生まれ、セパルの長い種は飛来するポリネータの特性から、掴まり留まり易くするために現在の形状へと変わっていったのかなど、崖に生息するPaph. sanderianumのペタルがなぜカールしながらあれほど長いのか謎ですが、長いセパルやペタルを見るとそんな想像をしてしまいます。


Bulb. nasica

Bulb. longicaudatum

(L) Bulb. nasica long sepal, (R) Bulb. nasica

Bulb. blumei long (Thou Sun Orchid Nursery)

Dendrobium sp Ache

 スマトラ島北部アチェ州で新たに発見されたデンドロビウムとしてマレーシア園主から本種の写真が送られ今年5月に20株を入手しました。5月歳月記に記載したマレーシアラン園の2代目が他のランとともに成田までもってきた一つです。今年からは新種や種名不明種は入手するまで、あるいは開花するまで本サイトでは開示しないことにしましたが、このデンドロビウムもその一つです。同種の画像はインドネシアコレクターがFacebookに夏ごろからspとして発信しており、一部のデンドロビウム趣味家の方にはすでに知られた種と思います。

 このように最近の現地コレクターは種名不明種を入手すると自身のFacebookで公開し、同時にこれまで繋がりのある海外を含めたラン園やディーラーに知らせます。ここまでは良いのですが、そのFacebookを見た趣味家が’いいね’を返すと、この’いいね’の数が増えるごとにコレクターの要求する値段が高くなると言うのです。コレクターはCITESや植物検疫認可を得る知識や経験がなく海外趣味家との直接売買ができません。一方、自国内には原種の趣味家人口は少なく相場が分かりません。こうして’いいね’の数でランの価値を見極め、ラン園との価格交渉に臨むようです。何か滑稽というか現代的なマーケットサーベイと言うべきか、なるほどと、つい笑ってしまいます。そんな事情を考えると、趣味家にとっては珍しいランをより安く手に入れたいのであれば余り’いいね’を連発しない方が賢いのかも知れません。

 5月に入手したこのアチェ州からのデンドロビウムは下垂タイプで、入手した株の中で最大長は50㎝程です。当初は木製バスケットに寄せ植えし1か月半程は中温室(28℃を越えない)で順化栽培に入ったものの葉や根に動きがなく、生きた根があるうちにと全株を7月から始めた炭化コルクに植え替えました。その後1か月程でようやく株全体に張りが感じられるようになり、9月に入り新芽や新根が現れ順化が完了しました。そこで次の手段として中温と高温室にそれぞれ10株づつ置き様子を見ていたところ、胡蝶蘭と同じ高温で中輝度環境の株の動きが良く、やがて10月になり蕾が現れ今月に入り開花に至りました。20株中8株で蕾が出ています。結論として低地生息種(高温タイプ)と判断しました。

 下上段左写真は開花2日目の画像であり、花はもう少し開くと思います。花サイズは左右スパン1.5㎝で、1茎に5-12輪開花します。ネットでのマーケット情報は分かりませんが、本サイトでは3,000円 - 3,500円を予定しています。この中の500円相当分は炭化コルクと3Aミズゴケ代です。



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