栽培、海外ラン園視察などに関する月々の出来事を掲載します。内容は随時校正することがあるため毎回の更新を願います。  2019年度

   2020年 1月  2月  3月  4月  5月  6月  7月 

7月

現在開花中の花

 浜松温室にて現在開花中の花の一部です。

Bulb. aestivale Luzon Bulb. catenulatum Neuva Vizcaya Philippines Bulb. ocellatum Aurora-Luzon
Bulb. carunculatum Sulawesi Bulb. sp (aff. zebrinum.) New Guinea Bulb. pustulatum Borneo
Bulb. microglossum Borneo Coel. usitana Bukidnon Mindanao Coel. celebensis Sulawesi
Coel. sulcata Bukidnon Mindanao Coel. cuprea Borneo Coel. longifolia Sumatra
Den. sanguinolentum Sumatra Den. igneoniveum Sumatra Den. annae Sumatra
Den. stratiotes New Guinea Den. sp (aff. chewiorum) Borneo Den. reypimentelii Bukidnon Mindanao
Den. anthrene Borneo Phal. bellina Borneo Phal. mariae Mindanao
Phal. inscriptiosinensis Sumatra Phal. deliciosa subsp. hookeriana Myanmar Phal. pulchra Leyte

珍妙なVandaの取り付け材

 入荷時や植え替え時のVandaでいつも問題になるのは、植え付け方法です。Vandaのような長く太い根をもつ気根植物にとって高湿度は必須である一方、その根は常に空気に触れていなければなりません。マニラやクアラルンプール空港ビルから一歩外に出た途端、日本には無い、まるで蒸し風呂のような熱気と湿度には唖然としますが、特に大型のVandaになればなるほどその栽培には、生息地に似た環境が求められます。しかし国内の低湿度な環境において、高い気相率と伴に高湿度環境を作り出すことは難しく、高度な栽培技術が必要です。Vandaも荒いバークを用いたポット植えで元気に育つ種も見られますが、大型種となれば、ポット植えではやがて根が込み入って気相率が下がり、葉数が伸びません。このためバスケットを用い空中に吊すのが一般的です。しかしこれも2年もすると根は四方八方に伸長し、多くがポットから空中に飛び出し、低湿度な環境での株は次第に痩せていきます。当サイトでは昨年8月の歳月記に記載した通気性の高い農業用不織布でバスケットと根を覆い、根周りの湿度をより長く維持する方法を導入しました。それから1年近く経ちます。やはり不織布の有無でVanda(sanderiana)においては葉の張りや根数に違いが見られるようになりました。新しい根が飛び出せば再び不織布を新たに覆うことになります。

 一方、当サイトでは基本的に取り扱う株は実生ではなく、ほとんどが野生栽培株です。よって自然に近い栽培環境下では、その向日性からか1直線に伸びている茎は少なく、根も四方に広がり、葉並びもまた障害物や害虫被害等により左右対称ではありません。こうした株をバスケットに植え付けるとなると、数本の根を折るか切断なくして収まりません。木製バスケットであれば、その一部を取り外して、根を収めてから再度組み立てる方法もありますが、株が10株以上ともなれば大変な作業量となります。

 そこで今回の事例ですが、下写真左は現在10株ほどを在庫するVanda tricolor var. brunoです。一般のVanda tricolorvar. suavisは白色をベースに赤褐色の棒状斑点からなるフォームに対して、本種は赤色斑点がソリッド化しセパルペタル全体が赤くなった希少フォームです。この種をそれまでのヤシガラマットから植え替えることになったものの、写真上段中央に見られるように茎は入荷時のまま曲がったものが多く、根は四方八方に伸びており、思い切った剪定無くしてバスケットには到底収まりそうもなく、当初は簡便な60㎝長の炭化コルクに取り付ける予定でいました。しかしこれまでのVanda lombokensislimbataなどの経験からは、2年もすると空中に伸びた根が過半数を占めるようになり、その結果やはり成長が鈍くなります。

 そうした中、昨日納屋を覗いたとき、奥に2年前の浜松台風来襲の際、庭木の揺れを抑えるためのわら縄(写真右)が1組未使用のまま残されていることに気付き、このわら縄がかなり保水力がありそうで、これを使うことが出来ないかと思いつきました。そこで試しにと、このわら縄をVandaの茎と根の周りに巻き付けながら要所々に1.2mmアルミ線で固定してみたところ、荒々しい中にそれなりの野性味を感じ、10株全てに1時間ほどでわら縄を取り付けてしまいました。取付作業は1本当たり、炭化コルクの1/4時間です。写真下段左が取り付け後の状態です。ダジャレではありませんが、根も茎も荒れ放題で一筋縄でいかないVandaを、一筋の縄で収めたと云ったところです。わら縄を扱っていて気が付いたことは縄を短く切りこれに根を挟みつつ、束ねるように縛ることで、藁も同じ植物故かVandaの根がしっくりと寄り添っているかのようです。気根植物の植え付けにわら縄を用いるのはこれまで聞いたことがありません。下写真での景色では縄が目立ちますが、水を撒いた直後の濡れた状態の色合いのためで、やがて時間の経過とともに写真上段右のような淡い黄土色になると、意外と馴染んだ景色になります。これで2-3日様子を見てから、植付け待機中の写真中央のVanda mindanaoensisや、右のVanda helvolaも同じ方法で植え付けをする予定です。わら縄に活着するようであれば、縄は簡単に継ぎ足すことが出来るため根は幾ら伸びても活着する場所があることになります。このわら縄ですがラベルにサイズなのか2.5分と書かれていました。


1枚の写真Dendrobium jyrdii

 5月の歳月記でDen. uniflorumの近縁種と思われるセパルペタルおよびリップが白色フォームの3種を取り上げました。その中でOrchideenJournal Vol.6・05, 2018に掲載されたDen. jyrdiiに関し、Palawanのみの生息種(2018年時点)であることと、Den. uniflorumはルソン島北西域が北限であることから、当サイトが所有するPalawanからの白色フォームは、Journalでの花や葉形状とは若干異なるもののDen. uniflorumからの変種ではなく、Den. jyrdiiの近似種aff.あるいは同種と見做し解説しました。しかし依然、リップ側弁や葉形状の違いには違和感が残りました。

 こうした中、現在、Webページの改版を進めていますが、2010年頃からの海外から送られた画像を整理していたところ、フィリピンの2次業者から2013年11月末に当サイト宛に送られたメールにDen. uniflorum albaとされる添付写真があり、これを見て驚きました。下写真がその添付された画像で、Journalに掲載のDen. jyrdii の花及び葉形状が酷似しています。興味があるのは、Den. jyrdiiは2018年4月の発表に対し、本種は2013年頃、あるいはそれ以前からフィリピンのDen. uniflorum albaとしてマーケットで流通していたことになります。JournalのEtymology(語源)の出所の解説でも以前から広く取引されている原種?とされていることから、Den. jyrdiiは新発見種ではなく、名称が近年になってつけられたことになります。

 そこでもう一度Palawan生息の当サイトの栽培するDen. jyrdii aff. Iと、Journal掲載のDen. jyrdiiを比較すると、葉形状(前者は細長く、後者は楕円形)および花サイズ(Journal記載のDen. jyrdiiのラテラルセパル間の幅は2.7㎝とされ、一方、当サイトの5月及び6月で取り上げた白色フォームの左右のラテラルセパル間の幅は3.5㎝-4㎝)で、さらにリップ側弁形状を含め、かなりの相違点があります。Den. jyrdiiの花サイズが2.7㎝とすると、Den. uniflorumの一般種とサイズはほぼ同じで、当サイト掲載の白色フォームに比べて小型となります。これらと同じく6月に取り上げたリップ中央弁にラインのない全体白色のalbaフォーム種など、それぞれに見られる相違はPalawanからボルネオ島に至る地域の様態変化とも考えられ、こうした白色フォームはDen. uniflorumの分布域に合わせて、今後もさらに形状やフォームの似て非なる種が出てくるような気がします。しかし胡蝶蘭原種に見られる類似種の位置付けとして、フォーム、変種及び亜種のような系統的分類とは異なり、これらに人名由来等のみからなる固有名がそれぞれにつけられると、可視的に似た種にも拘らず、それらの相互関係が不明瞭な種名ばかりが増え、Den. deleonii近似種に見られる、リップが下がっているか水平かだけで全く異なる名前となる状態になってしまいます。こうした事態は可視による分類法の限界を示し、近似種間にはどのような遺伝子的関係にあるのか、DNAによる系統解析を用いた分子分類法を主体とすべきと思います。すなわちそれら近似種はフォームfm、変種var.、亜種subspの関係か、あるいは遺伝子距離が大きく別種とすべき種であるか等々です。


Trichoglottis atropurpurea f. flava (alba)

 2014年9月フィリピンにて入手したTrichoglottis atropupureaのflavaタイプが入荷から6年を経て開花しました。Trichoglottis atropupurea一般種は濃い紫色の花フォームですが、flavaフォームは希少性が極めて高いと思われたことと、開花中の花を現地で直接見ることができたため、当時ラン園にあった6株全てを購入しました。しかしその後、BS株であったにも拘わらず開花が得られない一方で、株は枯れたり作落ちする様子もなく、ゆっくりではあるものの成長し続け、脇芽(成長芽)が出て株自体は開花がない点を除けば、これといった問題もなく6年が過ぎました。

 開花が無い原因はこれまでの環境、特に輝度に問題があるのではと考えるようになり、昨年6月下旬から10月初旬まで、庭の木漏れ日が当たる木陰に吊るし、その期間以外の温室内でも比較的輝度の高い場所に置き、さらに今年4月には空中に飛び出していた根を取り付け材に活着できるように90㎝x8㎝x3㎝炭化コルクをミズゴケを挟んだ2枚重ねの支持材に植え替えました。この画像は4月の歳月記に掲載しました。 今回の開花はそうした対応の結果と思います。

 今日でも本種のflavaあるいはalbaタイプはネット情報として、当サイトの画像及び情報以外、国内外共に見られません。Trichoglottis atropupureaのflavaタイプの出所は本種が初めてではないかと思われます。6株の内、1株を2年前に温室を訪問された方に販売しました。残りの5株には脇芽があり、それぞれが30㎝程となっており、これを株分けすれば10株となります。現在本種は価格表に見られるように当サイトで最も高額な種の一つです。昨年5月、本種を入手したラン園を訪問した際、同種が3株栽培されていました。今年1月のタール湖火山噴火で、灰を被ったラン園なので果たして難を逃れられたかどうか分かりません。当サイトのロットが唯一となれば今回の開花で自家交配やシブリングクロスを試み、苗株をフィリピンに戻す予定です。下写真は昨日撮影の初花の1輪で、現在5個の花芽が見られます。栽培方法が分かったので、今後は毎年多数の開花が見られると思われます。

Trichoglottis atropurpurea f. flava (alba)

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