生息環境 属名をPhalaenopsis(ファレノプシス)とする胡蝶蘭は、花の形から連想したラテン語のPhalaena(蛾)とOpsis(似た)が起語とされます。しかしながら原種(野生種)や交配品種それぞれの花の形態の多くは、”蛾”とは似つかない艶やかで美しい色彩をもち、Papiliopsis(”蝶”のような)の呼び名が相応しく思われます。 胡蝶蘭原種は、インド南部、スリランカ、中国南部から台湾、インドネシア、タイ、ミャンマー、マレーシヤ、フィリピン、パプアニューギニアなど東南アジアのほぼ全域と、オーストラリア北部にまで広く分布し、その種類はPhalaenopsis属を47種(Sweet 1980)、あるいは62種(Christenson 2001、後述参照)とする分類があり、後者分類にはAphyllae亜属のbraceana, minus, haiananensisi, honghenensisなどや、Polychilos亜属のbellina, doweryensisなどが含まれます。またその国際取引は、いずれも絶滅危惧種としてワシントン条約付属書IIに含まれ、フラスコ苗あるいは実生苗であることが明らかな株を除いて、輸出国でのCITES (Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Flora and Fauna) 許可書がなければ入手できません。
一方、内陸にはケランガス林と呼ばれる砂岩の上に有機物が堆積してできた酸性の強い土壌も見られます。ここではさらに栄養分が少なく、樹冠は10-30mしか伸びず、それぞれがほぼ同じ高さの主に針葉樹で構成されています。土壌や菌類からの栄養分に頼らない食虫植物のウツボカズラなどが多く見られます。ボルネオ島ナバワンのヒース林などが相当します。このような地域での胡蝶蘭の生息情報はありません。 さらに内陸に入った丘陵地帯の低地熱帯雨林においても落葉などの堆積による栄養分は少なく、板状に張った板根が大きく発達した樹木帯となります。ここでは高温多湿であるため落葉等の有機物の堆積よりも分解速度の方が早く、これらによる栄養分の蓄積ができません。しかし堆積物が少ない林床であるにもかかわらず、この地帯で多様な植物と高層木が成長するメカニズムは、根で繁殖する菌類によるもので、菌類によって分解された無機養分(窒素、リンなど)が蓄えられることや、樹木自身の光合成によってできた有機物を根に送り、これを菌類が無機養分に変えて木に戻す共生関係によって維持されていると言われます。すなわち、低地熱帯雨林の樹木の繁栄は、多くが菌類との共生によって成り立っています。胡蝶蘭はこれら低地熱帯雨林の川辺の比較的開かれた場所に多く生息しています。 熱帯雨林帯は垂直方向に5-7段階の植物層で形成されます。突出木からなる地表から50-70mの超高木層(Emergent Layer)と、30-50mの林冠層(Canopy)が展開します。超高木層の突出した木は、白い樹皮のTualang (Koompassia excelsa、サラワクではtapang、サバではmengarisとも呼ばれる)がよく知られており、地表から40mほどまではストレートに伸びて枝はなく、樹冠(枝や葉が広がっている空間)部は直射日光を受けます。
樹冠帯での胡蝶蘭の葉は全て厚く、乾燥から水分の蒸散を防ぐクチクラ層が発達しています。これはP. fimbriataやP. inscriptiosinensisなど同じ胡蝶蘭でありながら、川辺の比較的開かれた場所に生息する薄葉系とは異なります。この葉の形態は林冠層に生息する蘭が乾燥に強いことを示しています。別の視点からは、葉の厚くクチクラ層の発達した胡蝶蘭は乾燥のある環境に生息していることを物語ります。 樹冠の下に位置する中間層(Under Storey)では林冠により太陽光が遮られ、この結果、僅かな光をより多く受け取るため大きな葉をもつ植物層に代わります。この層に生息する木は2-3mの高さにしかなりません。中間層に聳える樹冠を構成する木柱には、多様な蔓が巻きつき、しばしば「絞め殺し」の木として知られるイチジク属も着生します(写真左から2枚目)。この着生植物は最初は高層の幹に着生した後、やがて根を地面に降ろし地面から水分や養分を得て根を上下に分岐させ、さらにこれらの根が互いに融合して支持木を網目状に覆い尽くし、養分を吸い上げている支持木の導管を圧迫して殺してしまうと言うものです。 低木帯 (Shrub Layer)では、主にシダ類や潅木が生息します。下位層となる林床 (Forest Floor)では、太陽光は2%程度しか到達できず、湿度も100%に近く、コケ類やシダ類が主に生息します。林床には木々の間をぬって到達する短時間の強い太陽光(陽班)を受けて育つ植物もいます。しかし林床には光が少ないため潅木類が茂るほどには育ちません。このことから熱帯雨林は、季節林と異なり欝蒼と灌木が茂るジャングルのイメージとは異なり僅かな植物で構成されています。この層に胡蝶蘭が生息しているという情報はありません。 ![]() 熱帯雨林の樹形 © Bent Christensen 一方、高地熱帯雨林から雲霧林では、湿度が高い面、着生植物の成長も旺盛であり、なかでもボルネオ島は蘭が多く、東南アジア全体で約4000種が生息する内、この島だけで1,500-2,000種が含まれます。サバ州には、その内の1,200種が、特にキナバル周辺に約800種(711種)が集中しており、その1割が固有種とされます。これ程多くの種がキナバル山周辺に集中するのは、低地熱帯雨林から雲霧林さらに植物生息限界までが広がる東南アジア最高峰4,095mの標高をもつ山林があるからです。狭いエリアであっても多様な気候環境をもつ地域は中国雲南省と同じく多種多様な生物を育みます。 標高1000m程の熱帯山地林は熱帯降雨林に比べてやや温度が低いものの常緑であり樹林の密度は熱帯降雨林ほどはなく、また林冠による遮光も少ないものの長時間の直射のない明るい湿潤な場所となります。ブナ、クスノキ、ツバキ科が林冠を形成します。 さらに高地(2,000m)に入ると、温度が下がり、通常午後からは霧も多発して多湿となり雲霧林帯となります。湿度が高いと100mで0.8C気温が下がるため、山地上部では20C以下の気温にもなります。 雲霧林では熱帯雨林で見られるほどの高木はなく、また多湿のため、低地熱帯雨林と比較して大型の着生植物や多様な苔類が多く生息しています。
タイ、ミャンマー、インドネシア(ジャワ、スワウェシ島の一部)などの熱帯季節林では常緑樹と落葉樹が混在し、立ち木密度は熱帯雨林に比べ低く、また木の高さも比較的低くなっています。乾季が強い地域では樹冠の一部が落葉するため、熱帯降雨林と異なり太陽光は林床まで到達します。この結果、林床には潅木や草が密生します。polychilos亜属の多くが生息します。 | |||||||||
着生とCAM植物 胡蝶蘭は着生植物であり樹幹の表皮に根を張って成長します。着生植物は他の植物を支持木にするものの寄生植物とは異なり、支持木から養分を奪うことはしません。着生蘭はラン菌(カビの一種)と共生し、ラン菌は蘭の根の細胞にラン菌根を形成します。蘭は光合成により生成した炭水化物(糖分)を菌に与え、菌は酵素によってその糖を分解し窒素化合物(窒素、リンが主体)を生成し、その無機栄養分を蘭がもらうといった共生が考えられています。胡蝶蘭は光合成による有機物(炭水化物、ビタミンなど)を自分で生成する点において寄生植物とは異なります。胡蝶蘭はそのほとんどが樹枝に着生しますが、一部の胡蝶蘭(P.sumatrana, P.lowii, P.cornu-cerivi, P.cochlearis Aphyllae亜属など)は岩(石灰岩)の上に、またオーストラリアの一部のP.amabilisは地上にも見られるそうです。熱帯雨林の中にあって、つる性植物が絡んだ苔むした岩や、石灰岩の崖なども多く見られ、これらに着生しているものと思われます。しかし岩の隙間や、地中に根を下ろした生態は僅かです。また根は気根として常に空気に触れていることが必要で、根が長期間浸水状態にあったり、空気の流れがなければ腐敗し生存ができません。 樹幹に着生する植物は特に乾季にあっては、長期間の水分ストレス(不足)にさらされることになります。このような生息状況の中で温度が高く、湿度が低下する昼間に気孔を開いて炭酸同化作用を行えば、多量の水分を葉から蒸散させることになり一層水分が不足しダメージを受けます。これを避けるため夜間の低温多湿時に気孔を開いてCO2を取り込み、CO2を一旦リンゴ酸として葉肉細胞内の液胞に貯蔵し、昼間にこのリンゴ酸を再びCO2に還元するとともに、太陽光を利用して光合成を行い、炭水化物を作り出し酸素を放出します。この光合成プロセスをもつ植物をCAM(Crassulacean Acid Metabolism)植物と呼び、カトレア、レリア、バンダもこのグループの1属です。これに対して地生蘭であるPaphiopedilum、リカステ、シンビジウム属はC3型とされ、昼間にCO2を取り込み直ちに光合成を行う点でCAM植物とは異なります。すなわち胡蝶蘭は、主として地中から水分を補給できるC3植物とは異なり、水分不足から身を守るため、葉からの水分蒸発を押さえる特性を身につけるに至った相当進化した植物と考えられます。 ![]() ボルネオ島朝霧遠景 © Bent Christensen しかし、沼や川を囲む低地熱帯雨林地帯に薄葉から中厚の葉をもつ多くの胡蝶蘭が生息し、この環境では昼夜を問わず常時高温多湿であり、たとえ水分供給量では地生植物とは比較にならないとしても、必ずしも夜に呼吸をしなければならない必然性がないように思えます。その視点に立つと、胡蝶蘭がCAM植物に進化した背景には、着生であるが故の耐乾燥性という理由だけではなさそうです。 この疑問に対しては、植物が密生する樹林内で、すべての植物が同時に光合成を行えばCO2不足となり、これを避けるため一部の植物が競合の少ない夜間にCO2を取り込む機構に進化したのだと言う説があります。 地上での生存競争を避けて樹幹に生息の場を見出し、その結果として乾燥に耐えるCAM植物に進化すると共に、湿気のある地帯に広がった一部は薄葉となり、またより環境の厳しい地域の一部が厚葉に変化していったのではないかと推測されます。葉の形態だけからもいろいろと想像することができ興味のあるところです。 以上のように胡蝶蘭野生種は多様な環境に生息し、その地域気候から生育特性は下記の3つのグループに分けられます。
胡蝶蘭原種は、同一地域の中にあっても生息場所の局所的な違いで形態が大きく異なります。例えば、着生点が熱帯雨林の林冠と、林の下、あるいは低地雨林の川や沼地周辺では、前者が太陽光を周辺に浴びて明るく、雨の少ない時期には乾燥にさらされるのに対して、後者は周年湿潤な環境にあります。同じ熱帯雨林に生息する胡蝶蘭でありながら、種間で葉の大きさや厚み、根の太さなど著しく異なるものが見られるのは、このような局所的な生息域(植物層)に適応した結果です。よって、これら種を同じ地域であるからと言って全く同じ環境(温度、湿度、照明、潅水など)で栽培することは、どちらかが不適当な育成環境に置かれることを意味します。平面的には同一自生地域で同属種ありながら、原種間に形態の変化があることは、栽培環境を物語る上で貴重な情報です。しかし現状では、ほとんどこれら原種個々に関しての詳細な調査研究がありません。 胡蝶蘭の中で最大のP.giganteaは現在、林冠で見られるそうです。ボルネオ島の鬱蒼と茂る密林の30m近い上空の樹冠帯に根を下ろすP.giganteaを想像すると、今手元にあるものへの畏敬の念を起させると共に、その採取はどのように行われているのか興味が沸きます。P.giganteaが林冠生息種であることは、年間を通して相当明るい太陽光を受けつつ乾湿差の大きな環境に生育していることを意味します。胡蝶蘭の一般的解釈で、遮光率を70%とすればP.giganteaにとっては輝度不足となり、成長はするものの花を着けないという結果となります。着生点から見ればP.giganteaにはカトレア並みの照明が必要となります。このことは特定地域の年間の気候(気温、湿度、雨量など)を調べ、これを栽培データとして用いても余り意味のないこととなります。それは熱帯雨林の多層構造や樹林帯の内部あるいは周辺などのそれぞれで異なる環境を作り出していることや、低地・高地の環境の違いがあることからも想像できます。よってその地域の気候(前記表のような)と共に、むしろ植物の形態(葉の大きさ、厚み、張り、表裏の蝋質、根の形、太さなど)を栽培管理のヒントにすることが鍵になると言えます。 以上のように、野生種が固有の生息環境をもつように、種(Species)毎に適応した温度、湿度、照度それぞれ異なる生存条件があり、栽培環境を一律に共有する育成は好ましくないと言えます。これは、胡蝶蘭に限らず原種全体に共通する条件であり、例えばPaphiopedilum rothschildianumとmicranthumを同一環境で育てることは困難であることと同じです。よって、野生種の育成を目的とする限り、それぞれの種について、その生息環境と形態を検証し、栽培する者の提供できる環境の中で、可能な限りその条件に近づける工夫が基本となります。視点を変えれば、野生種栽培の魅力がそこにあるとも言えます。 表2には種それぞれの生育場所を示します。岩生および地生は、それが主な生息場所ということではなく、着生に加えて見られるというものです。
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開花 混交フタバガキの熱帯雨林の植物の開花は、およそ5年周期で訪れる一斉開花としてよく知られています。種類の異なる植物の80%以上が、なぜ一斉に開花するのかは諸説があり、捕食者飽食(多くの実がなれば残り物が増え繁殖できる)、風散布(多くが同時に咲けば受粉率が上がる)、送粉(一般に自家受粉は不和合性があり、他家受粉が必要となれば、同時に2個体以上の花が咲かなければならない)などです。また何をトリガーとして一斉に咲くかという点に関しては、乾燥と低温の両説があります。熱帯雨林は年間で膨大な雨が降り、季節林とは異なり乾燥が無いように思われますが、少雨時期には雨量よりも樹林からの水分蒸散の割合が高くなり、特に林冠では乾燥が進みます。一方低温説ですが、これも月毎の平均気象データを見るかぎり熱帯雨林帯では常に25C以上の高温となっていますが、乾燥が起こることによって放射冷却が生じ20C程度に下がる日が3日以上続くことがあり、これが引き金とされるものです。1996年3月から約7ヶ月間の一斉開花は20C以下の気温が3月に1週間続いたことが原因ではないかと言われています。フタバガキなどの樹林とは異なる着生植物としての胡蝶蘭が、それらに同調して5年周期で一斉開花するというデータはなく、季節林や人工栽培では周年毎あるいは年に数回開花しています。また一斉開花と言えども15-20%程度の樹木は毎年開花・結実を繰り返しており、蘭に限って言えば、ボルネオ島では8-9月に開花が多いと言われますが、開花トリガーに注目(すなわち熱帯雨林と言えども毎年訪れる適度な乾燥と低温)した考えが有力です。P.violaceaやP.sumatranaなどの原種を栽培していると、乾燥や低温という条件だけでなく昼夜の温度変化が大きくなる(約10C)と、花序を発生させる傾向が観測されます。これも胡蝶蘭の開花にとっての要因の一つと考えられます。 | ||
原種と野生種 原種と野生種の呼び方の違いは、前者が園芸上の交配品種の元になった種を指すのに対し、後者は「自然環境下で自然交配」によって固有の生態的特性を継承すると共に、一切の人工的環境を介することなく生存してきた種とする広義な意味をもちます。よって、野生種には自然交配によってできた雑種も含まれます。このサイトでは原種と野生種を厳密に区別せず、山採り株、地域毎に排他的な同種株のSelf/Sibling、自然界あるいは前記実生からの突然変異、例えばflava, alba, aureaなどの変種いずれも原種(あるいは野生種)とします。反面、種間交配や地域間交配は交雑種あるいは改良種としています。よって学術的な定義ではありません。本サイトで言う野生種や原種の魅力は、その個性、品位、粉飾のない形態、地理的な特異性などがあげられます。同一種間でありながら、地理的特異性(地域変異)を越えて人工交配し、選別改良した改良種はこのサイトではごく一部を除き取り上げていません。例えば現在、P.violaceaの多くは、青や赤色を強調するためにSumatra, Mentawai, Borneo (P. bellina)等との地域間交雑が繰り返されており改良種が多く出回っています。P.bellinaはDNA分類によると、P.violaceaとは遠縁であり、むしろP.floresensisと近縁とされています。特にP.bellinaとの交配が多いそうですが、種間交配であれば雑種となります。P.amabilisもほとんどが地域間交配や選別の進んだ改良種です。またP. amboinensisやP. equestrisなども改良種が多く含まれるのではと思います。またP.amboinensis f. yellow(あるいはflava)のなかで、特に花弁の赤褐色の同心円状斑が淡く、全体が黄色味の強いものはP.venosaとの交雑の疑いがあるとされます。 野生種とか原種と呼ばれていながら、自家交配した結果、その実生苗から多種多様の色彩あるいは形状の株が出現したのでは、原種としての「生態的にホモジェニアス=均質の特性」を継承する意味が失われることになります。同一野生種間(自然交雑種を除き)の交配は、遺伝子的に均質な特性を持つもの同士の交配であるため、交雑種実生とは異なり、親の特質から大きくずれることはありません。しかし栽培者にとっては、僅かな花柄や色合いの変化にこそ魅力を感じたり、あるいは宝くじの確率のようではあるもののセルフ交配の中から突然変異的な特徴をもったものの出現を期待します。実際の原種自家交配においては、胡蝶蘭は難発芽性ではないとされますが、苗を得ることが容易なものと、何度交配しても胚のない種子「しいな」のみのもの、特に一部のalba変種などでは種を得ることが極めて困難で、セルフ交配の不和合性があるのではないかと思われるものがあります。
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交配種 胡蝶蘭は、50種程の野生種と共に、20以上の交配可能な近縁属があり、これらを組み合わせることによって無数の新交配種や新交雑属を作出できます。新種を生み出すことを目的とする趣味家も多いと聞きます。蘭は若干の栽培経験を積めば、誰もが多種多様な品種を作り上げることが出来る個性のある魅惑的な特質を持った植物です。栽培者は、花の色合い、形、着花輪数、花向きなどをイメージして、交配種間、あるいは交配種と原種間の交配を試みます。親を超えるほどの美しい花を得る確率は僅かですが、それでも実生は何百・何千と苗を得ることが出来ますし、その中から1本でも特徴ある株が得られれば、それをメリクロンすることで同じ形態の苗が何本でも得られます。近年では種子まで育て上げれば、無菌培養設備を持たなくても、培養受託業者に依頼することで数万円で100本程(数百円/本)の実生苗が得られます。また胡蝶蘭は他の属(5年以上が必要)と比較しても種子から開花まで3‐4年の短周期であることも新種作出を容易にし、今後これらの創作に取り組む人々は着実に増えるものと予測されます。蘭のコンポスト栽培は、土を使うことがないため、潅水で泥水が流れでることはなく、室内における観賞植物としても清潔で扱いやすい植物と言えます。特に団塊の世代と言われる人々にとっては、趣味として身近な存在になると思われます。野生種や原種の重要な役割の1つに、その特性を遺伝子的に交雑種に注入することによって、新品種に対して固定率を高めるアプローチがあります。原種の色、花もち、花茎の強さなどが遺伝できる確率は、交雑種同士の実生に比べて遥かに高まります。この意味から新品種作出に挑戦する栽培者にとっても原種の特性を熟知することは、より優れた品種の作出につながるものと言えます。 E.A. Christensonは"PHALAENOPSIS" A Monographの著書のなかで、野生種の栽培上の特徴を交雑種と比較し下記の4つを上げています。
一方、同じ原種であっても、栽培と野生では殆どの種において、葉の大きさが大きく異なり、野生種では1.5-2倍の大きさとなります。自然界での栄養摂取に比べれば遙かに人工栽培の方が優っていると思われますが、熱帯雨林において低栄養、高輝度で、ゆっくりと成長することで大きくなるのか、あるいはその逆に自然界の低栄養環境では葉が大きくならなければ光合成による十分な栄養生成ができない一方、人工栽培では豊富に栄養が与えられることから大きくなる必要がない、むしろ開花を優先しようとするからでしょうか。国内の野生ランにしても直接太陽があたる場所にその多くが自生しています。2002年東京ドーム蘭展で、マレーシヤ観光協会がP. violaceaのborneoタイプの野生株を20株ほど販売していましたが、この株の葉はP. giganteaと思うほどの40cm近くあったことを記憶しています。
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分類と種名 Christenson(2001)による分類(白文字)は表3の通りです。本サイトではPhalaenopsis亜属のesmeralda節の種は取り上げていません。また表に含まれないか、あるいは変種とされるP. lamelligera, P. violacea f. mentawai, P. delicata, P. zebrinaは個別種と同等に扱います。表3の橙色はChristensonの分類には含まれない種です。属と地域的分布は表3のマップに示す関係があり、4つの花粉魂を持つproboscidioides、aphyllae、parishianae亜属は中国南部、インドおよびインドシナに、また2つの花粉魂をもつpolychilos、phalaenopsis亜属はマレーシア、インドネシアおよびフィリピンにそれぞれ分かれます。表3の分類ではphalaenopsis亜属のdeliciosae節やesmeralda節の4つの花粉魂をもつ種が、なぜ2つの花粉魂をもつphalaenopsis節と同じ亜属に含まれるのかが疑問であり、むしろproboscidioides、aphyllae、parishianae亜属と並ぶ独立した亜属に分類すべき印象を受けます。また研究ではリップ構造が類似するgigantea、maculata、doweryensisと、フィリピン原産であるluddemannianaグループのbastianii、fasciata、hieroglyphica、lueddemanniana、mariae、pallens、pulchra、 reichenbachianaは、それ以外のamboinenses節とは切り離すべきという考えがあり、筆者も栽培の視点で観測される特性からこの考えを支持します。
胡蝶蘭には花名の語尾に共通した語彙が見られます。これらはそれぞれ下記に示す意味となります。
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生息国 国別の胡蝶蘭野生種を表5に示します。
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