Phalaenopsis inscriptiosinensis

1.生息分布

インドネシヤ(スマトラ島中部)

2.生息環境

 海抜900m以下。温度18-28C。湿度75-85%

3.形状

3-1 花



1.花被片  
 花被片は2.5-3.5cm。クリーム色あるいは淡い黄緑色をベースに茶あるいは赤褐色の棒状斑点が、多くは花被片中心部から2/3の範囲に分布する。花茎2-3本を発生し、花茎当たり3-4輪が開花する。同時開化性は見られず、それぞれが開花タイミングをずらしながら咲く。上写真のように1株で同時多輪花は珍しい。開花は葉下で花茎は葉表には出ない。これはPhal. appendiculataPhal. modestaと同じ様態である。 開花は晩春から夏。香りがある。

Flowers

2.リップおよびカルス
 リップ中央弁は楕円形で、先端部は白色で細毛がある。基部から中心部にかけて左右2本の赤褐色のストライプが走り、側弁には黄色の斑点が入る。カルスは2組でanteriorカルスは先端を2分岐した歯状突起、posteriorカルスは2分岐のカルス突起と、基部側には襞状の突起とが重なり合っている。

Lip and Callus

3-2 さく果

 左写真は交配後1.5か月後のさく果を示す。艶消しの柔らかい質感で、花被片は枯れ落ちることなく、さく果と同じ緑色を保ち続ける。右写真は自家交配によるフラスコ培養苗で播種から1年経過後の苗である。交配に困難な点はないが本種の入手は難しいようである。

Seed Capsule
Flask Seedling

3-3 変種および地域変異

1. Phal. inscriptiosinensis v. flava
 花被片全体が黄色味の強い黄緑色となるフォームが知られている。

3-4 葉

 葉は長さ21-24cm、幅8-9cm。胡蝶蘭のなかではPhal. modestaPhal. fimbriataと同じような薄葉であり、アンジュレーションがしばしば見られる。葉に水分を貯える着生蘭でありながら、これだけの薄葉であることを考えると、年間を通して湿潤で明るい地域(川や沼周辺)に生息していているものと思われる。新葉は水平方向に伸びるが、やがて新しい葉が出ると写真で見られるように、下垂する性質があり、また花の開花位置が葉裏側であることを考えるとポット植えは適さない。

Leaves
varigated leaves

3-4 花茎

 花茎は葉より短いか同じ長さ。花が終わっても花茎は枯れず、翌年先端から新しい花芽が発生する。写真の花茎は2年間そのままの状態にしたもので、茎には8箇所程の節が見られる。しかし輪花数は少なくなってゆく。初春に多肥を与えれば花茎当たりの輪花数は少なくても、毎年新しい花茎が発生するため、全体輪花数としては増してゆくと思われる。

3-5 根

 根はPhal. violaceaよりは細く、Phal. modestaより太い。根張りはPhal. fimbriataと比較すると緩やかな印象を受ける。コルクの場合、新根が活着するまでに1年は必要である。



4.育成

  1. コンポスト
    コンポスト 適応性 管理難度 備考(注意事項)
    コルク、ヘゴ、バスケット      
    ミズゴケ 素焼き    

  2. 栽培難易度
    容易。花が葉下で且つ下向きに開花するためポット植えは適さない。ポットの場合は斜め吊りとする。

  3. 温度照明
    普通。かなり暗い場所でも開花したが、中輝度の方が花着きがよい。

  4. 開花
    開花時期はPhal. fimbriataと同じ晩春(4 - 6月)である。昼夜の温度差が7-8度になる時期が開花のトリガーになると思われる。

  5. 施肥
    特記すべき事項はない。

  6. 病害虫
    病害虫には強い種である。
 

5.特記事項

 本種は入手難であり、現地業者に直接問い合わせないとカタログにはまず見られない。無菌培養による増殖では培養難易度が高い種には思われない。