Phalenopsis fasciata

1.生息分布

フィリピン(Luzon, Davao, Bohol)

2.生息環境

 海抜500m以下。温度24-32C。湿度70-80%。川周辺に生息。

3.形状

3-1 花


1. 花被片
 花被片は4.5-5cm。星形蝋質。黄色あるいは薄黄緑色をベースに赤褐色あるいは栗色の円形斑点や横縞の棒状斑点が不規則に入る。この斑模様は多様で同じものはない。花被片形状や花柄だけではPhal. reichenbachianaと個体差の範囲内で互いに類似する様態があり花被片フォームでの同定は困難である。Phal. reichenbachianaとの比較でPhal. fasciataの花被片が長楕円に対して卵形(幅広)であるとされるが、Phal. reichenbachianaと思われる花被片形状であってもカルスやリップ形状は異なることから、それらによる判定が必要となる。花茎当たりの輪花数は少なく2-3輪程度である。花名は花被弁にある横縞という意味。 開花期は夏季。微香。


2. リップおよびカルス
 リップ中央弁は先端がうす紫青色で繊毛がごく僅かに点在する緩やかな楔形から長楕円形。竜骨突起は高く急峻、基部はオレンジ色。カルスは2組とされanteriorカルスは2分岐歯状突起、またposteriorカルスは密集した腺状小突起からなる。これはPhal. lueddemanniana, Phal. hieroglyphicaとも同じ様態である。側弁は基部がやや赤味のあるオレンジ色。写真のように内側に赤褐色の斑点がある。リップ中央弁の先端に向かってうす紫青色となるものが多い。Phal. lueddemanniana, Phal. hieroglyphicaでは本種と比較すると中央弁の繊毛が少ない。写真右にH.R. Sweet(1968)によるリップのイラストを参考に加えた。

Lip & Callus

 一方、本種はPhal. reichenbachianaとの中間体となる形状が、特にミンダナオ島生息種に多数見られる。下写真左のカルス様態は、先端が2分岐歯状突起のanterior callusと、密集した腺状小突起のposterior callusから成り、前記H.R. Sweetのイラストに合致するが、中央画像ではposterior Callusの前部(anterior callusの基部)に2分岐突起片が現れており、右画像ではその突起がハッキリと分かる。カルス形状からは、右はPhal. fasciataよりはPhal. reichenbachianaに近い様態である。

Callus Structures

 上記に見られるカルス形状の多様性とともに中央弁や花被片もPhal. fasciataPhal. reichenbachianaにはそれぞれの中間体が存在する。Phal. fasciataの中央弁には繊毛はないとされる説があるが、Luzon生息種には下写真の繊毛が一般的に見られる。

Midlobes hairs

 下写真は左から本種、Phal. hieroglyphicaPhal. lueddemannianaPhal. mariaeとの中央弁を比較したもの。

Phal. fasciata
Phal. hieroglyphica
Phal. lueddemanniana
Phal. mariae

3-2 変種および地域変異

  変種は知られていないがPhal. reichenbachianaとの中間体と思われるフォームがしばしば見られる。

3-3 さく果

 さく果は7-8cm。鮮緑色で、6つの溝は深い。花被片は緑色に変化し、枯れて縮むことはない。
 

Seed Capsule

3-4 葉

 葉は20-25cm。幅7.5cm。光沢のある鮮緑色。Phal. lueddemanniana, Phal. hieroglyphicaに比べると短い。またやや倒卵形の傾向が見られる。大株になると下葉は下垂するため、ポット植えには適さない。左写真の株はミンダナオ島での山採り株を現地ナーセリーが野外で栽培していたもの。輸入直後のヤシガラマットとミズゴケで巻いて取り付けた状態を示す。 本種は立ち性と考えられているが、自然界では下垂している。右は炭化コルクへの植え付けである。

Leaves

3-5 花茎

 花茎は葉と同じか、やや長く分岐する程度である。同時に開花する輪花数は1-2輪程度で多くない。野生株では高芽がしばしば発生する。

Inflorescences

3-6 根

 根はPhal. bastianiiと同じ太さ形状で、Phal. hieroglyphicaと比べてやや細い。

2分岐

4.育成

  1. コンポスト

    コンポスト 適応性 管理難度 備考(注意事項)
    コルク、ヘゴ、バスケット    
    ミズゴケ 素焼き  -     
    ヘゴチップ プラスチック    

  2. 栽培難易度
    容易

  3. 温度照明
    胡蝶蘭のなかでは温度範囲は広く、照明はやや明るい方が良い。

  4. 開花
    筆者温室ではPhal. violaceaと同じ開花時期となる。

  5. 施肥
    特記すべき事項はない。

  6. 病害虫
    病害虫には強いが、入荷直後に頂芽が細菌性の病気にかかる株がしばしば見られる。また本種は葉の一部が黄緑色になることが知られている。黄変は一般的には古い葉の落葉間近の変化か、若い葉ではウイルス系の症状と間違いやすいが、Phal. lueddemanniana系に見られ、病気ではないとされる。低輝度下では発生しない。この変化による成長への影響は見られない。特定の栄養素不足か輝度が関係する可能性が考えられる。
 

5.特記事項

  本種はPhal. lueddemanniana, Phal. hieroglyphica, Phal. reichenbachiana、Phal. mariae, Phal. bastianiiなどと比較し、葉形状はやや短く倒卵形であるが入荷時の状態からはそれらとの区別は困難である。フィリピンではごく一般種であるが、フィリピン以外のトレーダからの入荷は過去3回、全てミスラベル(hieroglyphica)であった。