Phalenopsis bastianii

1.生息分布

フィリピン(Nueva Ecija, Nueva Vizcaya Province,
Sulu Archipelago)
Sulu Archipelago生息種はPhal. mariaeとの説がある

2.生息環境

Luzon島では海抜1,500m以下の川辺。温度17-28C、湿度85-88%

3.形状

3-1 花





1. 花被片

 花名は人名(Bastian Rollke)から。花被片は3.5-4cmで、黄色あるいは黄白色をベースとして赤褐色の太い棒状斑点が全体にやや同心円状に分布する。稀に白色あるいは薄黄緑色のベース色が見られる。ステンドガラスのような反透明感と艶があり、胡蝶蘭原種の中では最も美しい種の一つである。リップはピンク系紫色の中央弁にオレンジ色の側弁、また先端部が白色の蕊柱からなる。Phal. maculataPhal. mariaeと類似すると言われるが、マーケットにおけるミスラベルも多い。E.A. Christensonは、(1)花茎が本種は上向きに対しPhal. mariaeは下向きであること、(2)本種のセパル・ペタルがフラットであるのに対してPhal. mariaeは縁が反っていること、(3)リップ先端の繊毛が本種は少なく、Phal. mariaeは密集していること、をそれぞれ挙げている。

 当サイトでの印象では(1)と(2)については一般的傾向としてはそうであるが、両種とも同じような形態が見られるものがある。その他の特徴として本種の花被弁はややスリムであるのに対してPhal. mariaeは全体にやや丸みがあることと、葉色が同じ環境下では本種が黄緑に対してPhal. mariaeは濃緑色の印象をうける。花被弁のベース色は本種は黄白色でPhal. mariaeは白色が多いがこれは個体差の範囲で両者にも見られる。確実なのはリップ形状からの判別となろう。本種の多くは左端に示す、太い棒状斑点が黄色のベース上に高密度で分布するが、写真右端のように稀にPhal. corningianaに見られるソリッドに近い全体が赤褐色の花被片も見られる。一般にPhal. bastianiiは早春にPhal. mariaeは晩春から夏にかけて開花する。同時開花数(輪花数)はPhal. mariaeと比較すると少なく、通常は2 - 3輪で多くとも5輪程度である。香りはほとんど無い。


2. リップおよびカルス
 Phal. bastianiiPhal. mariae及びPhal. lueddemannianaとよく比較される。下写真は上段3枚がPhal. bastianii、中段がPhal. mariae、下段がPhal. lueddemannianaである。リップ中央弁は中央写真に見られるようにPhal. bastianiiの中央弁Top Viewは楕円で、基部がやや幅広となるものが多いのに対してPhal. mariaeの中央弁は菱形に近い。またPhal. lueddemannianaは幅広である。中央弁基部から中央にかけての竜骨突起(写真中央のKeel)はPhal. bastianiiはなだらかに走るが、Phal. mariaeは基部から立ち上がりほぼ中央で急峻に落ちる台形で台形の上辺は小鋸歯状である点で異なる。またPhal. bastianiiの中央弁先端部には白い繊毛が疎らに散在した状態であるのに対してPhal. mariaeは密集している。Phal. lueddemannianaは目立った突起は無い。これらのリップの特徴から、花柄では困難であるものの容易に3種の判別ができる。

 カルスは2組とされanteriorは長く延びて先端が2分岐した歯状突起で、posteriorカルスはやや突き出た2分岐歯状突起と基部寄りに小さな複数の腺状突起が見られる。Phal. mariaeではこのposteriorカルスの腺状突起魂がなく1組の突起のみであり、Phal. lueddemannianaではanteriorとposterio腺状突起の間に明確な2分岐突起歯状突起がある。

Phal. bastianii
Phal. mariae
Phal. lueddemanniana

3-2 さく果

 さく果は6 - 7cm。子房全体が丸みのある鮮緑色で、写真が示すように6つの溝は深く明確である。受粉後の花被片はそのままで緑色に変化し固く、枯れて縮れることはない。4ヵ月程で取り蒔きができる。写真はおよそ3ヵ月経過したさく果である。

Seed Capsule

3-3 変種および地域変異

1. Phalaenopsis bastianii white base 
 一般種の花被片のベース色は先端部の菜の花色から基部周りが白色に、太い赤茶色の棒状斑点が入るフォームだが、極めて稀に下写真が示すようなペース色が全て白色のフォームも見られる。

Sepal/petal white base color
2. Phalaenopsis bastianii Solid red
 花被片の赤褐色の棒状斑点がほぼ全面を覆うフォーム。


3-4 葉

 長さ20cm、幅7cm。濃い緑色。蝋質のP.mariaeの葉と比較してやや黄緑色で、Phal. hieroglyphicaに近い色合いと質感をもち、葉形態からは両者の判断は困難であろう。自然界生息の株は殆どが下垂しており、野生種は下写真左のようにコルクやヘゴあるいはバスケット斜め吊りに植えつける必要がある。長期間の水平置きポット植えによる人工栽培では、葉は左右に展開して2-3年は成長するが、新芽の発生と古い葉の落葉がほぼ等しくある程度の株サイズにしかならない。コルク付けなど垂直取付でも新芽は上方に向かうが、やがて葉は伸長するに従って水平から下垂へと展開する。コルクやヘゴ板に取り付ける場合、左写真に見られるように多くのミズゴケで根を覆うと成長が良く大株となる。



3-5 花茎

  花茎は円柱形。長さは葉と同じかやや長い15 ‐ 20cm程で2 ‐ 3本が発生する。花茎は立ち性であるが、吊り下げでは半立ち性が見られ、葉上に伸長する。これはPhal. mariaeの葉下での開花とは異なる。一般的には花茎当たりの輪花数は3 - 4輪となる。胡蝶蘭の多くが高温では高芽が発生しやすくなるが、Phal. pulchraと同様の頻度で本種も高芽の発生がしばしば見られる。


3-5 根

 コルク付けでは根が活発に上方に向かって伸長する。根は太い銀白色、活着部分は扁平に、根冠は新鮮な緑色である。

4.育成

  1. コンポスト
    自然界では葉は下垂しているが、ポット植えを行うと葉は左右に展開して立ち性として成長する。Phal. lueddemanniana系は大きめのポットにヘゴチップの組み合わせで大株になる様態が見られる。言い換えれば根張り空間の大きさが株の大きさを決定する。

    コンポスト 適応性 管理難度 備考(注意事項)
    コルク、ヘゴ、バスケット     多くのミズゴケで覆う
    ミズゴケ 素焼き    
    ヘゴチップ プラスチック   可能な限り大きなポットを使用

  2. 培難易度
    容易

  3. 温度照明
    胡蝶蘭の中では低輝度から中輝度。栽培温度範囲は広いが、高いと高芽の発生が多く、開花させるためにはPhal. pulchraと同じように、やや低温が適している。これは本種生息域が1,000m以上の高山であることと関係している。

  4. 開花
    一般的に同時開花数は少なく花茎に3-5輪で、花もちは3週間ほど。 下記写真は花茎が2分岐し、それぞれに4輪つけたもの。


  5. 施肥
    特記すべき事項はない。

  6. 病害虫
    褐色斑点病群がしばしば見られる。該当する薬剤のペーストを患部を切り取った切り口に塗る。

5.特記事項

 入荷時のPhal. lueddemmanana, Phal. hieroglyphicaなどと、葉の形状からは判別が困難で、トレーダーからの入荷はミスラベルの可能性が高い。確実に入手するためには開花確認した株かどうかを問い合わせる必要がある。