2009年5月Phalaenopsis歳月記サイト(現在は未公開)からの抜粋 アツモリソウと鉢

 今月はP. amabilis, P. aphrodite, P. stuartiana, P. philippineisisなどAmabilisグループの遅咲き株が花をつけていますが、P. sumatraP. corningianaが最盛期で、P. equestrisが花茎を伸ばし始めています。Paph. rothschildianumも開花最盛期となっています。

 今月の胡蝶蘭開花種は「今月の花」のページを見て頂くとして、筆者の庭先で現在開花中の同じ蘭属であるアツモリ草などをとりあげてみます。アツモリ草は洋蘭ではありませんがパフィオと同様にCITESで保護された蘭で入手は中々難しく、なにより関東以南の日本では夏の温度が高すぎるため栽培が困難です。もし栽培するのであれば、洋蘭とは全く逆の冷房室が必要になります。会津地方は、夏の昼間の温度は東京並みですが、幸い夜は東京のような熱帯夜(25Cを超える)はシーズン中、数日しかなく、夏期の昼間を何とか凌げば栽培が可能となっています。これは夏の間、家の北側の涼しい日陰に置くことと、素焼きの山野草鉢に植え付けて鉢内の温度を下げることです。特に筆者が使用している大深高台焼〆という厚みのある素焼きの山野草鉢は夏期の高温下で、内部と外部とが気化熱によって10C近い温度差を生み、この効果によって夏期の日中でも鉢内の温度を25C程度に抑えられ暑さに弱いアツモリ草には最適な鉢となっています。このためこの鉢はPaph. micranthumにも使用しています。しかし現在この鉢は生産していないようです。

 コンポストはすべてクリプトモス(杉皮)に、もみ殻(酸化を避けるため)を混ぜたもので、底石も使用していません。例年11月初旬に植え替えを行いクリプトモスを交換します。これで礼文アツモリを含め順調に株を増やしています。5月からの毎日の潅水は、気化熱による温度低下を行うため必須です。花が終わった後は、葉焼けや鉢の温度が上がらない程度に明るい場所に置くことが翌年の花芽を得るために必要です。

 なぜアツモリ草が絶滅危惧種とされるほど弱い種なのか、栽培をしている限り、そう言われる原因がよく分からないほど栽培は容易な感じを受けます。温度管理にすべての原因があるのではないかと考えますが、それ以外では特別な配慮は必要ないように思います。花後は葉の病気が出やすいので洋蘭と同じようなサイクルでカビ系と細菌系の混合液の殺菌処理をし、毎日の潅水と、6月いっぱいまでの施肥(主に置き肥で、7月以降、葉が硬くなった後は不要)を行っていれば問題はありません。

 常に高温・高湿で病気の発生も多い洋蘭の原種栽培の方が遥かに難しい印象を受けます。山野草専門園芸店主と話をすると、洋蘭を栽培している人ならば何にも問題がないという言葉を聞きますが、洋蘭の栽培経験があれば、アツモリ草は高い温度ではなく、低い温度を保たなければならない点で真逆ではあるものの、蘭に共通した栽培感覚があるからではないでしょうか。すなわち洋蘭原種をうまく栽培している人ならばアツモリ草もうまく栽培できるということです。下記写真はクマガイソウの群生写真を除いて、すべて筆者の庭(に置かれた棚)で撮影したものです。

礼文アツモリ 大鹿アツモリ ピンシネリ(北海道)アツモリ
絶滅が最も危惧されているようですが、アツモリ草の中では栽培が容易な種で、良く株が増えます。 花は隔年毎に咲いています。栽培難易度は普通です。 株は毎年倍々とよく増えます。

北海道コアツモリ

酔白アツモリ

地植えピンシネリアツモリ
1cm程の小さい花で、葉の下に潜るように咲きます。山梨産もあるようです。 中国アツモリで、大きなリップで見ごたえがあります。 水はけの良い土と表面に洋蘭で使用済のクリプトモスを敷き、東側の庭に地植えにしたものです。

クマガイソウ

クマガイソウの群生

釜無アツモリ
福島県にはクマガイソウ群生地があります。地下茎が硬く障害物に当たると枯れるため、地植えでなければ育たない種です。 筆者の隣の家の庭に咲くクマガイソウです。昼間1時間ほどしか日の当らない家と家との間の狭い場所ですが大きな花を毎年つけています。例年10月頃まで葉が枯れることがなく、夏過ぎまで葉を緑色に保つことができれば翌年の花芽がつきます。 釜無アツモリは下の写真のようにあずき色の写真が良く取り上げられますがこのような色もでるようです。

岩手アツモリ

霧ケ峰アツモリ

安房アツモリ
栽培の最も難しい種に感じます。 霧ケ峰高ポッチ高原産とされています。 一見、釜無アツモリのような色合いですが、本物(ミスラベル)かどうか良く分かりません。

キバナノアツモリ

チベチクム

キバナノアツモリ
コアツモリと同じように小さな花で、アツモリ草の中では最も繁殖力が強く、現在は鉢植えから地植えに変えています。地植えでもよく成長します。 チベット産アツモリ草です。現在花芽付き株で2,000円程度で購入できます。 地植えのキバナノアツモリです。午前中に木漏れ日を浴びる場所に植え付けています。冬は1m弱も積雪しますが、雪が解け芽が出る頃は1cm厚程度、地面に敷いたクリプトモスで霜による被害を防いでいます。