栽培、海外ラン園視察などに関する月々の出来事を掲載します。内容は随時校正することがあるため毎回の更新を願います。 ARCHIVE

12月

Phalaenopsis schilleriana分割株

 Cluster株においても、3年毎に古い根を整理し、葉が覆いかぶさり輝度不足となっていた株を表面に移動するなどの植え替えが必要となります。この際には、レイアウトを考えながら株の分割も行います。1株単位まで細かくするのではなく、4-5株単位の分割となります。今回フィリピンにて入手したPhal. schillerianaPhal. stuartianaを下写真に示します。写真の株は入手したPhal. schilleriana株の4割程となります。写真の上下段の右写真で黄緑色の株はPhal. stuartianaで他は全てPhal. schillerianaです。写真が示すように現地でも、分割された1組はほとんどが4-5株からなり、これはこれで小クラスター株と言えます。葉長は野生栽培株の特徴でもありますが多くの葉は30㎝を越えます。また今回入手の株は写真で分かるように野生栽培株としては非常に高品質です。これら小クラスターを6組程寄せ植えとし、全体株数として25-30株に仕立てます。これで期待される輪花数は一株の花茎の発生を2本と想定して500輪程度となります。完全な1株からなるクラスター株では分割寄せ植え株に比較して2割程度輪花数は少なくなると思われます。すでに分割された株がFSサイズであることから現12月時点の再植え付けであっても、多数の花の開花が2月末から3月にかけて期待できます。



 そこでクラスター株の価格ですが、国内市場ではPhal. schillerianaを始め、ほとんどの胡蝶蘭原種のクラスター株の商品は見当たりません。Phal. schillerianaの1株品は多数ネット検索で見られます。これによると、実生株で3,500円から、野生株で15,000円までのようです。この価格を適用すると、例えば中間の1株8,000円とし30株のクラスター(正確には寄植株)を単純に割り当てれば24万円となります。この価格では、やはり日本人は高くても買う人がいるとフィリピンでのBtoB市場に悪影響を与えかねません。

 本サイトでは30㎝以上の葉長を含む野生栽培株で、実生株相当の価格で販売します。クラスター株は葉数が多く、価格も高額であることから浜松温室訪問可能な方、あるいは搬送の場合はすでに当温室を訪問され本サイトが扱う株の品質を理解されており株の選択を本サイトに一任される方が対象となります。

フィリピン訪問

 28日から昨日(30日)までフィリピンを訪問していました。12月に入って2度目の訪問です。主な目的はJGP2016出品用ではなく、Phal. shillerianaPhal. stuartianaまたPhal. amabilis (Palawan)などのクラスター株、あるいはクラスター株からの分割株の入手です。これらは浜松温室を訪問される趣味家向けとなります。クラスター株は大きさにもよりますが、大きなサイズになればなるほど野生株を庭の大きな木に活着させ、大きくしたもの以外は、そのままの大きさを保って支持体から取り外すことが困難であるため、一旦分割します。この分割したものを寄せ植えして元の大株に仕立てることになります。

 このような大株に対する分割と寄せ植えは、人工栽培では重要でクラスター株の場合、どれか1株に病気が発生すると、クラスター内の他の株に伝染する可能性が高くなり大きな損害となることがあります。このリスクを避けるには、3年に一度毎にクラスターを適度なサイズで分離し、新しい支持体に寄せ植えすることが効果的です。根張りの空間がある限り、そのままの状態を何年続けても良い株はPhal. lueddemannianaです。それ以外、特にPhal. amabilisPhal. schillerianaを含むPhalaenopsis亜属は植え替えが必要となります。寄せ植えの良い点は株は数株単位で切り離されているため、それぞれの単位毎に新しい芽が出る頻度も高くなり、花茎の増加が期待できることです。今回フィリピン訪問では凡そ100株のPhal. schillianaクラスター分割株を入手しました。新年はこれらの植え付けで多忙となりそうです。

 一方、針金で固定され身動き一つない慶弔用胡蝶蘭を見ていると、生花と言うよりは造花と変わらなく、自然界における親株であるPhal. amabilisPhal. aproditeの真の姿を見てもらいたく、こちらも野生栽培のクラスター株を元に寄せ植え仕立ての大株を造ろうと計画しています。野生と改良種との違いは花茎の長さにあり、野生株は1m近く、Phal. aphroditeでは1.5m程になります。その花茎に1茎当たり同時開花数で8-10輪程が咲き、同時開花数の少ない株では4-5か月間4-5輪を次々と咲き続けます。花茎は1株当たり2-3本発生します。長い花茎がゆったりと風になびく様子は慶弔用胡蝶蘭とはまったく異なる自然の美しさがあります。

 胡蝶蘭の代表格であるPhal. amabilisで大株を仕立てるのであれば、Phal. amabilis grandifloraか、Phal. amabilis Palawanのような極めて入手難の変種あるいは地域種としたいと思い、昨年からPalawan産の入手を依頼していました。Palawan州では島からの年間出荷割り当て数が規定されており、フィリピンのPOSラン展を始め、一般市場で見かけることは皆無で、マニラ周辺の趣味家で所有している人でも2名ほどしか分かりません。やっと40株ほどPalawan産野生栽培株を入手できました。Palawan産が貴重とされる背景は、この地から現在のPhal. amabilisPhal. aphroditeが進化したと考えられているからです。しかし、それが本物のPalawan産であるかどうかはカルス形状を詳細に調べなければ、ボルネオ島、JavaあるいはSumatraからのPhal. amabilisとの違いが分かりません。よってこれから胡蝶蘭原種を始めようとする趣味家はPalawan産と称したPhal. amabilisを入手する際は、その出荷元を確認することが必要です。販売する側で、これが説明できなければ、まず異なる地域と思った方が良いでしょう。

 バルボフィラムではBulb. cheiri、大株のBulb. palawanense、Bulb. williamsii、Bulb. odoratissimum、フィリピン原産ではありませんがBulb. frostiiなどで、spが2種類ほどです。
このなかで、Bulb. williamsiiはMindanao島Surigao生息種ですが、現在焼畑でほとんど絶滅状態とのことです。実生を得るようにと依頼を受け、無償で持ち帰りました。

Phal. lueddemannianaに見る野生栽培株の特徴

 実生と野生栽培株の違いはしばしば本ページで取り上げています。最も異なるのは、そのサイズで野生栽培株の入手時における葉は、種によって異なりますが、同じBS株において実生株の倍以上が珍しくありません。他の特徴は高芽の発生率の高さです。

 現在温室にて今年2月のJGP2015においてPurificacion Orchidsが販売し、売れ残ったPulong Polillo島生息のPhal. lueddemannianaを引き取り、販売されていたヘゴ板付けのまま、温室で他のランと雑居で吊り下げ栽培していました。販売時はヘゴ板に1株の何の変哲もない一般に見られる形態でしたが、2月時点から今月末までのわずか10か月程の間で、高芽が次々と発生し、元の株を上回る様態となりました。写真がそれです。元親は7株です。肥料も特別に与えることもなく2m程の高さに置かれたエキスバンドメタルに吊り下げての通常のかん水のみです。7株ほとんどすべての株がそうした成長を続けていることは驚くべき性格です。この島はPhal. hieroglyphicaの生息でも知られています。

 何度も述べていますが胡蝶蘭原種を大株にするためには根張りの空間を大きく取ること、しかしミズゴケ植えに素焼きポットで、ポットサイズを大きくすることは水分過多となりできません。あくまでヘゴ板など吊り下げタイプに限ります。一方、この株のヘゴ板は小さく根の張る空間が最早無いほど重なり合っており、高芽が空中にぶら下がったままとなっています。この状態をいつまでも放置しては高芽から高芽を生むには限界があると考えます。来年はヤシガラマットや杉皮板などに植え替えを予定しています。

 ランを販売する視点からはこのような株を10株ほど栽培していれば1年で40株になり、で、2年ではと考えると・・・高芽を販売していれば株は減らないと思えてしまいます。


Phal. lueddemanniana Pulong Polillo

 難しいのは価格です。Polillo島のPhal. lueddemaniiana野生栽培株の本サイトの価格表では2,500円となっていますが、高芽がこれだけ付いてしまった後の価格が問題です。基本的に今年からクラスター株は株分けして切り離さないことにしています。株サイズが大小ある高芽の価格は決まっていません。と言うか、論理的に価格を決める手段が見当たりません。こうした株は売り手と買い手のノリで決めるしかありません。

Bulbbophyllum sp

 Bulb. spとされるバルボフィラムを入手しました。花形状はBulb. lobbiiに似ているのですが、下写真左に示すようにペタルの中央にやや明るい太いラインが入るフォームが特徴です。花写真はマレーシア園主からのコピーで、スマトラからの入荷とのことです。本種は右写真のようにバルブが直線的に並び成長して行くようで杉皮板に取り付けました。JGP2016に出品予定です。

Bulb. sp

Bulbbophyllum kubahense

 Kalimantan生息とされるBulb. kubahenseが本サイト温室にて開花しました。下写真左がその花です。一見花軸が短く輪花数も中途半端な11で、Bulb. refractilingueのように見えます。現在凡そ180葉程のBulb. kubahenseの植え替え作業をしており、この株は2週間前に小さな芽が出ていたものの成長芽であろうとの判断で、植え替えを続行しました。ところが芽は花芽であり根や茎の一部を切断する植え替えが原因と思われますが、花軸の伸長が途中で止まり、その結果蕾の成長も途中で止まったままとなってしまいました。右写真がその状態を示すもので、下からのアングルで撮影したものです。未開花の蕾5個が成長を止めたままとなっています。全て開花すれば16-17輪となったところです。

 興味を引くのは花のフォームです。Sarawak産とされる白地に赤い斑点ではなく、やや大きな黒褐色の斑点であることで、このフォームの違いは地域差であろうと思われます。この結果、葉の大きなSarawak産と、一回り小さな葉のKalimantan産があり、花のフォームは前者は赤、後者は黒褐色の斑点となるようで、葉サイズの大小は輪花数や花サイズには無関係のようです。現在栽培している総数は約250葉、全てが杉皮板にミズゴケで根を抑えた取り付け法で、常にミズゴケは湿った状態におき、この内1年半の栽培で増加した葉数が凡そ40%を占めます。すなわちほとんどの葉付バルブそれぞれから新芽が出たことを意味し、バルボフィラム属の中では増殖率がかなり高い種と思われます。開花期は春とされることから平均気温が低温から高温に移る環境となる来年の3-4月頃には多くの株で一斉に開花が見られる可能性が高く、また入手ロットとしては4回分あり、それぞれがどのような花フォームの変化となるか期待しているところです。

Bulb. kubahense

Bulbbophyllum beccarii

 大きな葉をもつバルボフィラムで、ボルネオ島低地に生息します。本種と共に大型バルボフィラムはニューギニアのBulb. phalaenopsisが知られています。いずれも花の匂いが良くないことで敬遠していましたが、今回5点ほど入手しました。大きな葉のため、現地では損傷しないように搬送を考えて1株を2 - 3葉に切断してしまうため1株の枚数が多いBulb. beccariiはほとんど見かけません。下写真は本サイトで取り付けた株で、それぞれは2あるいは3葉ですが円筒形の支持材に寄せ植えしています。


Bulb.beccarii

 本サイトでは、本種の価格を、1葉2,000円としています。よって一般的な2葉構成で4,000円となります。

Bulbbophyllum sp

 Bulbophyllum spとされる株が入荷しました。左写真が本サイト温室にて植え替え後の画像で、右は現地サプライヤーからの花写真です。スラウェシ島生息とのことです。はたして1m- 1.5m長の 葉サイズのバルボフィラムが存在するのかどうか、属が異なるのではないか等、調査中です。数株がすでに売約済みとなりました。

Bulbophyllum sp

Phalaenopsis amboinensis yellow 4N?

 通常花サイズの約1.5倍程のPhal. amboinensis yellowが開花しました。下写真がそれで、右上の花が通常サイズです。



sp3点

 マレーシアにて入手したsp3点を示します。下写真は上下が花とその株を示します。花写真はいずれも園主の携帯にあったものです。一方、株の写真は本サイトの温室での撮影です。デンドロビウム2点のこの時期は落葉期で葉数は少ないですが新芽も見られます。左の紫色のセパル・ペタルに白色リップのバスケット植え付けは10株の寄せ植えです。また右のLuisiaは1株が40茎以上からなるクラスタ-大株で、写真全てでわずか2株です。一つはバスケット、他は円筒形の支持柱で円筒内部をクリプトモス表面をミズゴケとしたものに取り付けています。

Dendrobium sp Sumatra
Dendrobium sp Sumatra
Luisia sp Cluster


フィリピン、マレーシア滞在記

 今月は6日にフィリピン、12日にマレーシアに出かけました。いずれも海外旅行にはいつも問題や予期せぬことが起こり、話のネタには困りません。フィリピン訪問では予め車とドライバ-を予約し滞在期間中は終日利用します。これは治安上の理由からです。ドライバーは基本的に毎回同じ人ですが、今回は都合がつかなかったのか、園主からの連絡で初めてのドライバーとなりました。アキノ国際空港では空港ビルを出て待合エリアから、大勢の出迎えの人たちのいるエリアに向かいます。この待合エリアはエアーポートタクシーやホテルカー専用で一般出迎えの人たちは入ることが出来ません。待合エリアと出迎えエリアとは道路を挟んで別れており、その間にゲートが設けられています。この待合エリア側から道路の向こう側で筆者の名前が書かれたカードを持っている人はと探していたところ何と、小さな女の子が私の名前の書かれたカードを頭上に掲げているではありませんか!知人と一緒の訪問ならば、差し詰めフィリピンに隠し子がいたのかと疑われる光景です。何事かと思いながらも、目があったので手を振って私であることを知らせ、さてそれではと道路を渡りゲートを出て出迎えエリアに入ったところ、余りの混雑でその子供が見当たりません。

 そこで園主から知らされているドライバーの携帯へかけ、英語でゆっくり自分の居場所と身なりを伝えました。しかし全く相手の言葉が分かりません。どうもタガログ語らしく、それでは分からないので英語で話してもらいたいと何度もゆっくりと話をするのですが、相手は一向に英語で答えてくれません。らちが明かず電話を切り、今度は園主に電話して現状を説明、また私の身なりはこうなのでそれをドライバーに伝え探すようにと頼みました。しばらくして、どうも先ほどの子供とその母親らしき人及び一人の男性が現れ、母親らしき人から私の名前が告げられました。フィリピンでは神経質過ぎる程セキュリティーには気をつかっており、もしそれまで私の携帯の話を耳を立てて聞いて詐欺を考える人がいるかも知れないと、ドライバーのフルネームと車のタイプおよびプレート番号まであらかじめ園主からはいつも聞いており、すべてそれらをチェックし、当のドライバーであることを確認しました。すると一体、この子供と母親は誰なのかとなります。あなた方はと尋ねたところ、母親が、ドライバーは従弟で英語が話せないので、私が通訳を行うとのこと。で、子供はと聞くと、私のスケジュールを聞いておらず何時に自宅に戻れるか分からないので、今日は学校が終わったっため子供も同伴させてくれとのこと。

 マニラ市の朝と夜の交通事情は言語に尽くしがたく、これから通常1時間半かかるラン農園Purificacion OrchidsのあるTagaytayまで行き、そこでランを選別し、その後再びマニラ市に戻り夕食、ホテルにチェックインとなると、夜の何時になるか分からず、聞くところによると女の子は8歳とのこと、それまで一人、家で母親の帰りを待たせる訳にいかず、アキノ空港に13:30に着いてから、夜の9時ごろまで私、ドライバー、その子と母親、4人の何とも奇妙なドライブが始まりました。ラン園に着いて園主家族が迎えに出てきたとき、私のすぐ後で車から降りてきた8歳の子と母親を見て皆、奇妙な顔をしました。このラン園とは家族付き合いをしており、おそらく一瞬、日本では内密のフィリピン妻とその子かと思ったに違いありません。すぐに事情を説明しました。まったく疲れます。

 しかし、外国人となる客に言葉の通じないドライバーをあてがい、どうして目的地に行けるのか、母親に聞けばこのドライバーはハイヤー会社に入ってまだ2ヶ月で、それまではミンダナオ島ダバオ市に住んでいたため、目的地までの道順が分からないので教えてもらいたいと言うのです。何をこのハイヤー会社は考えているのかと、そうするとこれから2日間、ドライバ-とその親族が同伴?かと呆れてしまいました。問題はこの子供です。8歳の子供がこれから8時間近くも車の中で大丈夫なのだろうかと心配になってきました。話かけると、驚くことに何の戸惑いも、聞き返すこともなくニコニコしながら流暢な英語で答えます。かなり賢い子であることが直感的に分かりました。フィリピン、特にマニラ市では将来それなりの職業に就くためには英語は必須であるとは聞きましたが、やはりこの年齢から英語が話せるように教育しているのだと痛感しました。将来何になりたいのと聞いたところ、先生とのこと、その答えなら、学校が好きでいじめにもあっていないと安心しました。

 案の定、ラン園を出るころには6時となり、この時期マニラでは暗く、マニラ市に着いたのは8時半、ホテルのチェックイン予定が8時でしたが、これからチェックインし、アメリカ大使館近くにあるレストランに出かけ食事をしていては9時を過ぎてしまいお腹を空かしているであろう子供のことを考えると、先にレストランに行かざるを得ずそう変更しました。結局食事をみんなで一緒にし、ホテルに着いたのは9時半を回っていました。これから親子がQuezon市の自宅に戻るにはこのラッシュではさらに1時間はかかるであろうと気の毒になり、子供のためにと母親にチップを渡しました。

 2日目は、子供が学校であることと、当方の目的地は前日と同じであることから、ドライバ-だけで良いのではとの母親の提案でそうしました。案の定、問題が発生です。翌朝ホテルに迎えに来た車を見て驚きです。一般乗用車です。これではランを入れた大きな段ボール箱が入りません。この車では小さすぎると何度も説明するのですが英語は通じず、車はTagaytayに向かって走ったままです。それではと携帯番号を知っているので、前回までのドライバーに連絡を取り経緯を説明し、そのドライバ-から新ドライバーに話しをしてもらい、この結果、レンタル会社がバンを用意し、途中で車を交換することとなり、やっとのことでいつものバンに乗り換えました。この結果、8時半にホテルを出てラン園に着いたのは12時半です。園主たちは昼食を用意してくれていたのですが、着くのが遅れて食事が終わっており、2度目の付き合い昼食です。かくして初日と二日目はとんでもないフィリピン紀行となりました。今後は英語の分かるドライバーであることを必須条件と敢えて伝えることと悟りました。

 12日マレーシア行きもこれまでにない経験をしました。3月の脊柱管狭窄による首の手術以降、長時間の座った状態のままの姿勢は避けるようにしています。そのため8時間近くを要する成田からマレーシアまでの時間は首が疲れるため、水平に傾けられる椅子のあるビジネスクラスを1年間は利用することにしています。ビジネスクラスでは機内昼食に和食と洋食があり、洋食にはさらにステーキかハンバーグかを選択できます。機内環境を考えれば、食事はセブンイレブンの弁当程度で十分ですが、いつもハンバーグを選んでおり、今回は和牛ステーキを頼みました。問題はこのステーキです。ステーキと言うものを食べ始めてから数十年、初めてナイフの通らない肉に会いました。大げさや冗談ではなく、何度ナイフを刺しても途中までは何とか切れるのですが切り離せません。片隅の1-2㎝程を2-3回の休憩を入れて30秒以上かけて何とか切り離し、食べて見たのですが噛みきれないのと、飲み込んだところ喉につかえそうになり危ないと思うほどです。

 筋があり切れないのはよくあることですが、肉自体も固くて切れないのです。首の手術の後遺症で腕に力が入らなくなったのか、否、昔のテレビ番組にあったドッキリカメラで撮影されているのではないかとまで考えてしまいました。肉のあちこちを切りに行くのですが、どこも腕が疲れる程頑張ってナイフを使うのですがダメです。終いには余りのバカバカしさに腹が立つよりも、必死に肉に向かっている自分に滑稽になり、とうとうギブアップです。しかし一体周りはどうなのかと眺めたところ、左隣の席と通路を隔てた右隣も、偶然に同じステーキの選択でした。

 思えば、隣の席の人は背を正して最初は食事を始めたのですが、やがて前かがみになってしまったのは肉を切るのに必死であったに違いないと、それを想像すると益々滑稽で、もう一方の隣人はと言えば、私と同じで途中まで切ろうとしたようですがメインディッシュの筈の肉は全く食べられていません。

 そこでアテンダントが片付けに来た際、この肉には歯が立たないと言ったところ担当者を呼んできますとなり、すぐに担当者とされるアテンダントがきました。そこで笑いながら、マレーシアのステーキも固いが切れないことはない。しかしこの肉はどうしても切れない、旅先の食事はいつも退屈だが、たまにこのようなサプライズがあると旅行の話題にもなり面白いと、口うるさい乗客と思われないようにさらに、後学のためにひとつ切って見ては如何ですかと話しました。そうするとアテンダントは、よろしいでしょうかとナイフとフォークをとり、私の目の前で肉を切り始めました。私を始め隣人も必死になっている肉が女性で切れる筈がなく、何度も切ろうとするのですが切り取れません。何とも困った顔をしながら大変申し訳ありませんと謝りつつ片付けて行きました。

 その後、しばらくして一般のアテンダントの方とは異なるクリーム色の制服を着たアテンダントチーフらしき人が来て、肉が固くて大変申し訳ありませんでしたと謝り、この件はしかるべき部署に報告をさせて頂きますとのこと。いやむしろ面白い経験をさせてもらって楽しかったですと答えたところ、JALでの機内食には、しかるべきシェフの料理として自信をもって宣伝させて頂いており、このままではいけませんのでとのことでした。隣人の様子は分かったものの、それでは他の人たちはと思うと、我々の席のステーキだけが固かったのか、意地でも食べてやると頑張ったのか、食べ物の恨みは忘れまいと、いらだっている人もいるのかと、様々に想像すればするほど滑稽で、8時間と言う狭い機内の退屈な時間の中で、これはこれで楽しい出来事に変わりました。ナッツリターンではありませんが、機内食でいちいち腹を立てていたのでは器が問われるかと。

 帰りはコードシェア-便でマレーシア航空機です。深夜発のため最初は軽食としてマレーシアの代表的なサテという串焼きが出ました。アテンダントがサテは鶏肉にしますかそれとも牛肉にしますかと聞くので、このサテは2年ほど前、マレーシアでムスリムの人たちばかりのレストランで最初に食べたときその鶏肉の硬さに、しっかりと顔を止めて肉を噛み、腕に力を入れて串から肉を抜き取るか、逆に腕を止めて顔を動かして引き抜くのか、いずれも勢い余って隣の人に当たらないように気を付けながらの食事で、日本の焼き鳥しか食べていない筆者にとっては苦痛でした。この思いと、行きの機内食のことがあったものの細かく切られた串焼きならば牛肉の方が柔らかいに違いないと、牛肉を注文したところ、鶏肉は如何ですかと聞き返します。いや牛肉だけで結構と再度伝えたところ、不思議と言うか納得できないような顔をされてしまいました。いわゆるサテは、ムスリムやインド系住民の多いマレーシアからすれば鶏肉が本道で、牛肉は邪道なのかもしれません。

 今回はこんな行き帰りでした。一方、現地での食事ですが、フィリピンもマレーシアもナイフの無いフォークとスプーンが食器の食事です。最近はナイフを要求する回数がめっきり減り、我ながら地に染まってきたと思っています。しかし、スプーンで骨付きの肉を切ることを想像してみれば分かりますが、慣れない者にとっては格闘です。肉が切れれば切れるで切った瞬間、力余ってスプーンのエッジがプラスチックあるいは陶器の皿に当たりカチッと音がし、切れなければそれはそれでスプーンが滑って皿にぶつかり、カチッと音がする。いつも行くレストランには外国人がほとんど居ないこともあり、カチカチと騒々しい音を立てて食べているのは自分だけと気付きました。今回驚いたのは園主の食べ方です。これまで中華系マレーシア人の多くは、骨や皮など食べ残しを皿の上ではなくテーブルクロスの上にところ構わず散らかすのですが、私が決してそうしないし、料理皿から肉や野菜を自分の皿に取る際、汁がクロスに垂れないように気を付けていることをこれまで何度も見て何かを感じたのか、今回の滞在期間中の食事では初めて一度も散らかすことがなく、皿の中におさめています。そうなると、むしろ何か奇妙な気分になりました。

 時折、知人から長いフライト時間の間、何をして時間を潰すのかと聞かれることがあります。機内ビディオは映画の途中で着陸中断となると面白くないので、ウオークマン持参の音楽三昧です。ウオークマンには消音機能があり機内の騒音を小さくする効果があるので一石二鳥です。マリアカラスのオペラ、バーブラ・ストライサンド、Lara Fabianのアルバムが最近は主です。そうした中、Lara Fabianが歌うJe T'aimeMaladeを聞いていると、坂本冬美にこれらの歌をうたわせたらLara Fabianとは違った日本歌手の感性も国際的に高く評価されるであろうと惜しくてなりません。そんなことを考えながらのラン買い道中です。

Coelogyne pachystachya

 2011年記載のタイ生息のセロジネで、日本初入荷かも知れません。本種名でネット検索すると花の画像が見られます。多輪花性で、セパルペタルは白色、リップがオレンジ色です。新種のためか情報がほとんどありません。バスケットにミズゴケの寄せ植えを予定しています。写真は植え付け待機中の状態です。


 市場情報がなく、入荷価格がCoel. odoardiより高額であることから3,500円を予定しています。

フラスコ苗

 下写真は現在所有するフラスコ出しから2ヶ月のDen. tobaenseDen. sutiknoiの実生でそれぞれ100苗あります。来年末ごろにはNBSとして出荷できると思います。今回のマレーシア訪問で、スマトラ北部トバ湖周辺生息のDen. tobaenseは絶滅状態にあるとの話を聞きました。一方、Den. sutiknoiは順化が、特に野生栽培株は厄介で、いわゆる植え替えを嫌うようで、この話をしたところマレーシアのラン園主も同じ意見を持っていました。現在12株ほど今年入荷したDen. sutiknoiを栽培し観察していますが、なぜ会津若松の知人の温室では素焼き鉢にミズゴケで良く成長していたのか分析中です。


Den. tabaense Deflask seedling 10pcs/pot

Den. sutiknoi Deflask seedling 2pcs/pot

Bulbophyllum binnendijkii Sabah

 本種はIrian Javaおよびボルネオ島の標高1,000m - 1,400mに生息することから低温から中温系とされます。このためBulb. virescensBulb. uniflorumと比べやや低温での栽培が必要です。花は写真左のように放射線状に花柄が伸びて円形に10-12輪の花を付けますが、色のフォームは多様で地域差があるようです。下写真の花は園主からのコピー画像ですが、リップが赤味の強いSabahとされ、入手した写真右の株もSabah産とされています。10月入手株も同じSabah産でバスケットにミズゴケで植え付け、中温環境にて順化中です。現在は順化終了段階に入っています。今回の株はリゾームが長く葉数があるので、円筒形の支持柱にミズゴケの取り付けとなります。

Bulb. binnendijkii Sabah

 価格は既に価格表に記載済みですが、1,500円/葉としています。

Bulbophyllum sp (sulawesi)

 スラウェシ島生息のバルボフィラムで、リゾーム、葉および花形状はBulb. uniflorumあるいはBulb. virescensに類似していますが、リップとラテラルセパル基部の色が鮮やかな赤色で、下写真からは、かなりインパクトのある花が開花するようです。下写真右の画像は本サイト温室で撮影したものですが、花写真は栽培者からラン園主経由での画像です(注:本ページの8月に記載のSabah産のBulb. variabileの花画像はSulawesii産の誤りであることが分かり削除しました)。

Bulb. sp (Sulawesi)
 
 リゾームが長く、葉の大きなBulb. binnendijkiiBulb. virescensなどの形状種は葉当たりの価格をつけており本種は1,500円/葉となります。

Dendrobium parishii f. coerulea

 本種は実生化され、Dendrobium anosumum セミアルバを一回り小さくした花を付けます。本サイトでも実生を入手していますので販売を始めます。本種の花は、Dendorobiumとcoeruleaの2文字で検索すると多くの画像がヒットします。現在の国内価格は6,000円から8,000円ほどで販売されています。本サイトでは現在の市場価格の1/2の3,000円とします。同額でJGP2016にも出品します。Den. parishiiで、リップが3葉に奇形した、いわゆるpeloricフォームと言うクローン種もありましたが、こうした奇形を衒う種は出始めの物珍しさで価格が高く、しかしやがては飽きられ安くなるのが常で入手を控えました。


Den. parishii f. coerulea

Dendrobium nabawanense

 本種はボルネオ島マレーシア領の500m - 700mに生息し、Distichophyllae節デンドロビウムです。1.5mを超える細く長いバルブから成り、栽培環境が合えば小型の花を1茎当たり同時に数十輪着けるそうです。背丈が長いため株全体は垂れ下がるタイプであり、杉皮板に取り付けとなります。写真左の花は本サイトで撮影したものです。

Den. nabawanense

 本種は1994年の発見で新種ではありませんが、国内市場での情報が全く見つかりません。価格は3,000円とします。

Dendrobium sp

 10月の歳月記で取り上げたDen. metachilinumがマレーシアラン園に20株程バスケットに寄せ植えされ多くが開花中ででした。この花の中に違和感のある株が2株見られ、近づいてよく見たところDen. metachilinumとは全く異なっていました。帰国してから、葉や茎はDen. metachilinumと類似しているところもあり同節、また下写真の葉や茎からはFormosae節の可能性もあり、ネットで調べているのですが今のところ該当する種が見つかりません。その2株を持ち帰って同じ条件で栽培することにしました。


Den. metachilinum

Den. sp

Bulbophyllum scotinochiton

 10月に入手した本種はインドネシアからマレーシアへの搬送中の高温障害でほぼ全て失い、今回新たにインドネシアから入手しました。10月歳月記の中で以下の解説をしました。”Bulb. scotinochitonは2005年に発表された北スマトラ生息の比較的新しいバルボフィラムのため、栽培情報が余りありません。国内では一ラン園が昨年秋、2万円程で販売していたようで、NTOrchidでは今年のJGPのプレオーダー価格として3,000円としていました。2万円の国内販売価格は、現地BtoB取引価格の20倍以上です。本サイトでは2,500円(3-4バルブ相当)を予定しています。”

 花の形状はBulb. mirumと類似していますが本種は5㎝と2倍程セパルが大きく前方に向かっています。またBulb. mirumのセパルの色はクリーム色のベース色に赤い斑点であるのに対して、本種は黄緑色から赤黄色のグラデーションのベース色に赤褐色の斑点で、いずれも全体が細かな斑点で覆われており、赤みのある色合いとなっています。下写真は今回入手の植え付け直前の本種株と、この株の花です。一般フォームと比較するとセパルの基側が黄緑色で、果たしてこのような色合いが再現するかどうかは分かりません。

Bulbophyllum scotinochiton

 国内価格で現在12,000円に下げたラン園が見られますが、本サイトは上記記載同様に現在市場価格の1/4以下とし、2,500円とします。4バルブ以上は1バルブ当たり500円プラスとなります。

Bulbophyllum sp

 ボルネオ島Sabahからのsp種として入手したバルボフィラムです。葉とリゾームの形状およびサイズはBulb. binnendijkiiBulb. virescensと類似しており、本種はやや葉に厚みを感じる程度です。開花していなければ区別することは困難で、Beccariana節やLeopardinae節からはネット画像からは今のところ類似する花形状は見当たりません。現時点では名称不明種なのかは、さらに調べる必要があります。写真右の画像は園主からのコピーです。

Bulb. sp (from Sabah)

 バスケットにミズゴケに植え付けて順化栽培中です。写真右のように良い状態で入荷したため1-2ヶ月で根あるいは新芽が動くと思います。価格は未定です。

Bulbophyllum cornu-ovis

 この聞きなれないバルボフィラムは2011年のDie Orchidee 62(6): pp433-435, 2011に記載登録され、その生息地はスマトラとされているものの新種であるためか詳細はよく分かりません。花の形状が独特で、ラテラルセパルがビッグホーン羊の角のように後ろに反り曲がっていることからcornu(ツノ)とovis(羊)と命名されています。10輪程の同時開花で1花が 1.5cm - 2㎝程の花であるため開花時は相当派手な印象と思われます。その花形状も奇怪で、セパルやペタルの黄色をベースに赤褐色の不規則な斑点が全体に入り、ドーサルセパルとペタルの先端からはそれぞれ一本の1.5㎝長の縮れた糸状の髭がそれぞれに上方と下方に向かって伸びています。蕊柱は黄色で、爪のように曲がった黄白色のリップが前に突き出しています。本種名で検索すると多数の画像が見られます。

 下写真左は園主からの画像コピーで、右の葉およびバルブ画像は本サイトの温室で撮影したものです。他のバルボフィラムで余り見られない特徴は花柄に似た不規則な斑点模様が葉の裏や新芽にも現れており一見、斑点病かと間違ってしまいます。この葉上の柄は若葉の時に出現するようです。このためミスラベルが防げます。栽培に関する情報は皆無で、当面は高温と中温の2か所で順化を行う予定です。

Bulb. cornu-ovis

 新種であることからマーケット情報は無く、入荷価格がやや高額な部類に入るため、本サイトでは3バルブ3,000円で、それ以上のサイズはバルブ当たり500円とする予定です。

マレーシア訪問

 先週からマレーシアに行っており、本日(15日)戻りました。持ち帰りと搬送を依頼した種それぞれに分かれました。マレーシアではデンドロビウムやバルボフィラムについては、国内での情報が無い種、sp、また最近登録された新種などが数点入手できました。1-2週間以内に搬送を依頼した品種はクラスター株で、胡蝶蘭とセロジネが主です。これらを一緒に持ち帰るとなると25㎏前後の段ボール箱が3つ以上となり一人では運べないためです。明日から本ページにて順次、先々週のフィリピン訪問での入荷種と共に報告・解説してゆきます。

Bulbophyllum aeolium

 9月初旬のフィリピン訪問で入手したBulb. aeoliumは、ルソン、レイテ、ミンダナオ島とフィリピンの広範囲に、またマレーシアではCameron Highlandsに生息し、花の色が大きく変化する特徴を持つバルボフィラムです。Bulb. uniflorumに似た花を多数同時開花する点ではかなり派手で、もっと人気があっても不思議ではないのですが、マーケット情報がほとんどありません。現在本サイトでは順化が終わり、新しい芽や根が成長しているところです。温室を訪問された数名の方が購入されており、今回のフィリピン再訪問で本種の開花が現地で見られましたので撮影された画像を掲載しました。鉢が3.5号ですので花はかなり大きく、そのサイズが分かります。現地ではプラスチック鉢にヤシガラ繊維で植え付けされています。花はココナッツのような香りがするそうですが、確かめるのを忘れていました。


Bulb. aeolium

 本種の価格は1バルブ+新芽で1,500円となっています。


Vanda merrillii v. rotorii クラスター株

 その赤褐色の色合いからか引き合いは多いものの、本サイトが栽培するVanda merrillii v. rotorii株は全て複数茎からなる株であることから購入希望者に対してはこれまでこれを株分けして販売してきました。数年かけて大きく成長したクラスター株を1株づつ切り離してしまうのは残念との思いで今回のフィリピン訪問では単茎の株を5株程注文していました。しかし1株タイプはなく、止む無く7株からなるクラスター株を1株のみ持ち帰りました。それが下写真の開花中のVanda merrillii v. rotoriiです。


Vanda merrillii v. rotorii

 この結果、JGP2016には1株からなるVanda merrillii v. rotoriiは出品しないことにしました。では写真のようなクラスター株に幾らの価格を付けるかが問題です。Vanda luzonicaの10茎(株)以上のクラスター株は入手難となり販売をペンディングしましたが、本種はクラスター株がしばしば現地ラン園で見られます。現在本サイトでは1株4,000円ですので、これを株数に単純にかけ合わせれば7株構成では28,000円となります。しかしここまでのクラスターにするには10年以上の歳月が必要であり、大株としての付加価値もあろうかと思います。

 そこでいつものようにネットで本種の価格検索をしました。そうすると”Vanda merrillii v. rotorii 特大巨大株クラスター”としたサイトがあり20万円以上の値段が付けられています。Vanda merrillii v. rotoriiとしては、かなりの高額でどんな株なのか画像を見たいと思ったのですが、すでに内容は閉じられていました。しかし別の見出しでは5株からなるクラスターとの記載があり、5株分の価格としても驚きですが、わずか5株で”特大巨大株”との形容には、何としても売りたい心情が溢れユーモアのある表現で思わず”プッ”と笑ってしまいました。1株4万円相当ですので、これを上写真の株に当てはめると28万円となります。その価格でも良いとする趣味家がいるのであれば売り手としてはパッピーと言ったところでしょうか。

 さてそこで本サイトですが、市場価格には興味があるものの、既成の価格に囚われず勝手に値段を付けさせてもらっていますので、クラスター株としての付加価値分を幾らにするのかが考え処です。フィリピンで1-2を競うVanda sanderianaの栽培大家であるDr. sanchezさんは、このバンダ(Vanda sanderiana)は15年かけて育てたので15年分としてこれだけという価格説明を筆者にしたことがあり、なるほどと、同じ発想で計算すると1年分の栽培コストを1,000円として10年で1万円、これを付加価値として先の28,000円に加算し、切の良いところで35、000円となり、この価格であれば、良質なVanda luzonica野生栽培株の1株分に相当します。本サイトが10年栽培したわけではないのですが、これだけ大きな株(バスケット上面から1m長。根を含めると2m)をフィリピンから運ぶとなると段ボール箱(110x45x45㎝)の半分のスペースを占め、海外からの梱包と搬送費を考慮すれば妥当なところかと。(後記:本内容掲載後、写真の株は売約されました。別途Vanda merrillii v. rotoriiクラスターを希望される方はお問い合わせください)

Dendrobium cinnabarinum

 Den. cinnabarinumが開花しました。ボルネオ島標高600m - 2,200mのコケ林に生息する中温系のデンドロビウムで、落葉した疑似バルブに赤みの強い5㎝程の花を付けます。このため赤色が一層引き立ち、デンドロビウムの中では異色で存在感があります。花の無い状態では同じCrumenata節で標高が1,400m以下に生息するDen. aurantiflammeumと視覚的に区別することが困難です。Den. aurantiflammeumは、極めて入手難であるのに対して本種は比較的入手しやすいと言われています。ただマレーシア現地の趣味家栽培ではあまり見かけることがなく、これはクアラルンプール周辺の高温環境には適さないためと思われます。所有する株の中では背丈1.5mが最長で、多くはBS株でも50㎝ - 70cm程です。下写真の株は50㎝程です。

 本サイトでは3年半、中温環境でミズゴケと素焼き鉢で15株程栽培してきましたが枯れた株は無く、8割近くの株がその間に発生した新しいバルブに入れ替わりました。本種は中温栽培環境で良く成長するようでFormosa節と比べても栽培難度は低い印象です。今年からの新しい入荷株はDen. aurantiflammeumと同じ、バスケットにミズゴケで2-3株を寄せ植えし吊るしています。かん水頻度は国内における四季には無関係に常に湿った状態を保っています。下写真は左が開花前、右は開花3日目の花で逆光からの撮影のため、やや明るい赤色ですが背景が暗いとかなり赤味の強い色となります。

Den. cinnabarinum

 現在価格は40㎝長で3,000円、40㎝以上で3,500円としています。JGP2016には10点ほど出品する予定です。

フィリピン訪問

 先週末から本日(火曜)までフィリピンに出かけていました。Vanda merrillii v. rotoriiのクラスター株、低価格(3,000円を切る)販売用のVanda luzonicaBS株、50輪以上の同時開花を期待してのDen. aphyllumの大株、通常はラベンダーピンク色ですが青色が強いArundina graminifolia、またStrongylodon macrobotrys(俗称:ヒスイカズラ)などを入手しました。Strongylodon macrobotrysは筑波実験植物園にあるそうで”ヒスイカズラ”で検索すると、多数の花画像があり、そのヒスイ色をした花の美しさが分かります。こちらはランではなくフィリピン生息のマメ科植物です。

 Den. aphyllumは40バルブ程で2,500円を予定しています。よって1バルブ当たり60円程となります。ヒスイカズラは2m長で、フジのように蔓系のため、温室の片隅に置き、壁や天井を這わせるのに良いかと。ただArundina graminifoliaとヒスイカズラはそれぞれ2株しかなくJGP2016までには買われてしまうかも知れません。人気があるようでしたらPurificacion OrchidsにJGP2016へもってきてもらいます。またPhal. schillerianaPhal. aprodite、現在は州の規制種であるPalawan産Phal. amabilisそれぞれのクラスター株を12月20日頃着のEMSで依頼しています。野生栽培のクラスター株の開花には、交配種では得られないダイナミックさがあり、これを如何に従来の常識を破る価格で販売するかが来年の課題です。一方、すぐに次のマレーシア訪問が控えており、入手株の詳細については逐次報告してゆきます。下写真は今年のJGP2015で展示用として出品したPhal. stuartianaの野生栽培クラスター株です。


Phal. stuartiana

Dendrobium corallorhizon

 マレーシアからDen. hamaticalcar white typeとして入手した株が開花しました。そこでネットで検索したところwhiteタイプと言われる画像が無く、別種ではないかとさらに画像検索したところ、同じボルネオ島のDendrobium corallorhizonに行き当たりました。Den. hamaticalcarDendrobium corallorhizonとの基本的な違いは前者が疑似バルブから出た一つの花茎に複数の花が垂れ下がって開花するのに対して、後者は下写真に見られるように疑似バルブから直接一本の花柄が出て一つの花を付けること、また葉形状も異なります。この写真と合致するのはDendrobium corallorhizonです。

 そこでDen. corallorhizonを調べるとボルネオ島キナバル山とその周辺、およびブルネイに生息とされ、標高1,300m - 1,600mのクール系(適温:夜間15℃、昼間は28℃まで可))とされていますので、同時入荷した他のラン、例えばCoel. kinabaluensisと生息域が似ています。一方、先月取り上げたDen. cinereumと花形状が似ています。下写真の下段にその違いを示します。花形状も微妙に異なりますが、サイズはDen. cinereumが一回り小さく、また右写真にように疑似バルブが直径で3倍程太く長さは短く、葉形状もDen. corallorhizonは披針形で先に向かって細いのに対しDen. cinereumは長楕円形です。生息域は共にボルネオ島ですが、Den. cinereumは高温に対し、Den. corallorhizonは低温とされています。このため、これまでの胡蝶蘭栽培エリアから中-低温室へ移動しました。現在本サイトでは素焼き鉢にミズゴケとクリプトモスそれぞれ50%のミックスで植え込んでいます。Den. corallorhizonの発見は1930年代と古く、マーケット情報がある筈と調べて見たのですが、国内では検索にかかりません。海外でも価格までは分からずじまいです。おそらく高山系であり、マレーシアのような熱帯地域では栽培が困難でこれまで注目されなかったのではと考えます。いずれにしても高山生息のクール系であることは、夏季には中-低温環境が必要となります。


Left: Den. corallorhizon Right: Den. cinereum

Left: Den. corallorhizon Right: Den. cinereum
Den. corallorhizon

 さて、そこで再び価格ですが、これまでのオンラインでの価格が不明であることから、いつもと変わらないポリシーで、本サイトでは新種やspと同様の1株2,500円とします。

Phalaenopsis sanderianaの噂

 Phal. sanderianaは、白に近い薄い色からPhal. schillerianaに劣らない濃さの、やや青味のあるピンク色まで様々の色合いをもつ品種で、Mindanao島を中心に生息しています。最近、複数の国内ラン園のオンラインカタログを見てふと疑問に思ったことは、本種について”最近は入手難”と言った形容が共通して見られることです。はて?そうした話は現地フィリピンで聞いたことがないのだがと、在庫も少なくなり、今年同様に来年のJGP2016にも出品しようと、現地に20株ほど注文したのですが何の問題もなく集まりました。現地園主に伺っても入手難という状況では無いとのことです。おそらく入手難とは、そうしたラン園が利用している仕入れ業者のお家の事情であって、現地で数が減り、希少種になったことではないと理解しました。確かに希少とは書かれていません。しかし趣味家から見れば、入手難と言われれば、イコール希少と解釈するのが普通ではないかと。

  Phal. sanderianaの問題点は胡蝶蘭原種の中で最も褐斑性細菌病に弱いことです。この病気は葉面上に黒い斑点が最初に現れ、やがてその周りが水浸状になるもので、このような症状になってからはマイシン系の農薬を塗っても病気の進行はほとんど止まりません。その部位から1㎝ほど離れた健全な葉の個所で切断し、切断面に治療と予防を兼ねた薬を塗る以外対応が困難です。なぜ本種が同亜属種のPhal. amabilisなどと比較して細菌性病に弱いのかよく分かりません。病気の種類からすると高温多湿下で生じ易いのですが、生息地や標高(500m以下)を考えると、自然界でも高温多湿であろうと思われます。本サイトでは本種に関しては水平植え込みを避け、ヘゴ板や杉皮板に付け、さらに通風の良い場所に置いていますが、2年間程の歩留まりは50%と、胡蝶蘭の中では最悪です。しかし大きな葉に成長した株になると花茎を2-3本発生し、存在感のある花を付けます。

 以前にも記載しましたが、Phal. sanderiana albaについては、Mindanao島からだけですが野生株から容易に見つかり、どう考えても数万株に1株の確率の変異が、これほど多く存在する筈はなく、Phal. aphroditePhal. sanderianaとの自然交配あるいはPhal. aphroditePhal. amabilisから進化した別種ではないかと疑っています。Phal. aphroditeとの違いは形態的にはPhal. sanderianaに酷似するカルス形状のみです。


Phal. sanderiana

Phal. sanderiana f. alba

フィリピンCalayan諸島のVanda

 フィリピン生息のVandaの代表種はVanda sanderianaで知られています。この花をテーマにしたお祭り(Mindanao島Davao市のワリンワリン祭)を始め、フィリピン各地で開かれるラン展にVanda sanderianaは欠かせない品種です。そうした人気から原種のなかでも選別されたフォームも多く、ピンク、黄色、アルバまた開花サイズでそれぞれが競い合っています。Mokara風交配種も多く、最近では原種と交配種を区別することが難しい品種も見られます。

 フィリピンで希少種とされ、入手が難しいVandaはVanda javierae、Vanda luzonicaです。ラン展でこれらのVandaの原種や野生株が売られていう光景はこれまでの7 - 8年間、見たことがありません。自然からの採取は規制されていることが背景にあり、ラン園でも最も高額なランとなっています。一方、最近Vanda javieraeに関しては、実生が市場に出るようになり価格はNBSで1株2,000円程と入手しやすくなっています。しかし野生栽培株は相変わらず趣味家にとって高額であることも含め極めて入手難です。

 Vandaの実生と野生株との違いは、実生は開花までの期間が長く、本サイトの国内栽培での経験では20㎝ほどのVanda sanderiana実生をDavaoのラン園から2009年に現地で入手して7年目を迎えるのですが未だ開花に至っていません。これが一般的なのか栽培手法に問題があるのか不明です。現地では3年程で開花株になると言われました。こうなると定年退職した趣味家にとってはVandaを小さな実生から育てようとは考えない方が良いようです。早く開花を見たいのであれば野生栽培株か、その分け株が必要です。また葉数や背が高いのではなくクラスタータイプのVanda luzonicaの大株は入手難と言うよりも入手が出来なくなってしまいました。Vanda luzonicaクラスター株は本サイトでも現在新たな入荷株が得られない限り非販売株にしました。クラスター株は15年以上趣味家が栽培した株を得る以外ないようです。趣味家もそれだけの期間栽培すれば愛着も増し、一層手放すことに躊躇います。

 こうしたメジャーなVandaと異なり、一般種としてはVanda lamellataが良く知られています。フィリピンを中心に台湾からボルネオ島まで広く分布しており、その大株が展示会場にしばしば出品されています。一般種においても入手が困難なVandaは、変種や地域種となるのですが、中でもフィリピンと台湾の間に位置するCalayan諸島に生息するVanda lamellata v. calayanaは5年間ほどラン園に注文を続けていますが入手出来ません。フィリピンPalawan州ではランの州外への持ち出しは年間枠が規定されていると聞いており、おそらくCalayan諸島からのランはさらに厳しいようです。そのため現地趣味家が栽培株を保有していても手放したくないのではと思われます。Vanda sanderiana、Vanda javierae、Vanda luzonicaとは比べ様もないほど入手難です。

 しかし、Vanda lamellataは栽培難易度はVandaの中では最も容易な種であり、展示会でよく大株が出品されるように脇芽が良く発生します。では変種であるVanda lamellata v. calayanaはどうかと言えば、栽培経験からは一般種と変わらず容易です。にも拘らず市場に無いことは絶対数が少ない以外考えられません。本サイトでは3株ほど5年程前に入手した株を栽培しています。現在のように一般販売をする以前は会員の方におそらく一万円以下で分譲していたように思います。現在本サイトではVanda lamellataの一般種はBSサイズで2,000円ですが、Vanda lamellata v. calayanaは上記の状況から150,000円と言う極めて高価な価格を付けています。低価格を標榜する本サイトでも価格を下げることができない数少ない原種の一つです。

 こうした変種を趣味家が購入する場合、気を付けなくてはならないことは必ず花を見ることです。ここ5年間で3回ほど、株数にして10株程Vanda lamellata v. calayana名でフィリピンにて入手した株は全て一般種かboxalliあるいはremediosaeでした。1株も本物が無いこの現状は驚くべきことであり、花が咲き違いが判明しその結果、差額分を次の購入額に相殺して貰っているので良いのですが、フィリピンに頻繁に訪れるからそれが出来るのであって、そうでなければ大変な損害となります。 下写真は左がVanda lamellata v. calayanaで、右は同じくCalayan諸島産のAerides quinquevulnera v. calayanensisです。後者も入手難です。


Vanda lamellata v. calayana

Aerides quinquevulnera v. calayanensis

Bulbophyllum 2種: Bulb. grandiflorumBulb. makoyanum

 Bulbophyllum grandiflorumはスマトラ、スラウェシ、ニューギニアの標高800m以下の低地熱帯雨林に生息します。前方に伸びた大きなラテラルセパルに、湾曲した大きなドーサルセパルが覆いかぶさるような花形状を持つHyalosema節です。同じ節ではタイからボルネオ島、フィリピンに至るBulb. antenniferumやパプアニューギニアのBulb. arfakianumが良く知られています。このBulb.grandiflorumのグリーンタイプとされる品種を今年入手していましたが、先月から花芽が出て今月開花しました。それが下写真です。本種の一般フォームとは異なり薄緑色です。花の後ろから光が当たると綺麗な黄緑色となります。現在はバスケットの底にミズゴケを薄く敷き、バークで複数株を寄せ植えしています。

Bulb. grandiflorum green

  一方、同じ時期にBulb. makoyanumが開花しています。多数の株で同時に開花しているところをみると、夜間温度18℃程に下がり昼間との温度差が大きくなると開花するようです。こちらは春と年2回の開花期となります。 マレー半島、ボルネオ島、フィリピンが知られており、本サイト所有のほとんどはフィリピン生息株です。2年前マレーシアPutrajaya花祭で購入した株はベトナム産とされていましたが、果たしてベトナムに本種が生息しているのかどうかの情報は見かけません。12本の細長い針状のラテラルセパルが放射線状に水平に伸びて、こちらも独特の花形状です。フィリピン産のラテラルセパルの長さは4㎝とされていますが、本サイトのBulb. makoyanumは6㎝近くあり、このため円形に展開したセパルの両端(直径)は13㎝ほどになり、かなり大きく、マレーシア産(10㎝以内)と比べるとその大きさがよく分かります。下写真はメジャーを置いて撮影したものです。丈夫な種でバークミックス、杉皮板、バスケット+ミズゴケなど植え込み材を問わず良く成長します。


Bulb. makoyanum

 さて価格ですが、Bulb. grandiflorumのgreenフォームの国内に於ける価格はネット検索からはaureaフォームとして1ラン園で20,000円で販売されていますが、本サイトでは1/8の価格の 2,500円とします。すでに数株販売しており東京ドームラン展JGP2016まで残っていれば出品します。一方、Bulb. makoyanumは本サイトの価格表に記載しており1,500円です。ちなみに国内のラン園のオンラインカタログで販売されている同名の品種はBulb. makoyanumとは花形状が異なるようです。画像検索でも本種に関しては半数以上が異なっており、Bulb. brevibrachiatumや明らかに間違いのセパルが幅広のBulb. lepidumなどが本種とされています。おそらく大手ラン園がBulb.lepidumあるいはBulb. cumingiiをラベルミスをし、これが世界中に広がったのではと思います。 本物はJ. Cootes氏の著書Philippine Native Orchid Speciesをご覧ください。

 花が開花していない葉やバルブだけの株、実生が交雑種であった場合、あるいは花のフォームが類似している株など、はミスラベルが避けられない場合が多々あります。販売する側にとって最も深刻な頭痛の種です。ミスであることが分かった時点ですぐに情報を修正することと、すでに販売済みであれば交換する等の補償以外解決策はありません。しかし、どう見ても花が全く異なるにもかかわらず、誤った花名の販売があります。最近ではヤフオクにPhal. hieroglyphicaと言う名で、Phal. mariae(あるいはPhal. bastianii)がオークションにかけられ4,500円で落札されていました。輸入時のラベル名をそのまま付けたにしても、誰が見ても間違う筈のないこれほど異なる花がどうして間違ったのか不思議です。

胡蝶蘭原種のフォーム各種

 主な胡蝶蘭原種の各種フォームの写真をまとめました。画像は全て、これまでの5-6年間に本サイトの温室にて撮影したものです。トップページの「希少種・新種・話題種」をクリックし、胡蝶蘭の枠内にカーソルを移動するとプルダウンメニューがでます。このメーニューの「フォーム各種」をクリックすると画像の一覧が表示されます。花写真を拡大して見たい場合は、カーソルを画像の上に移動し、左ボタンを押しながらPC画面上の空いたスペースに移動した後、ボタンを外すとコピーしますかとのメッセージがでますので、OKをクリックすれば、その場所に画像がコピーされます。コピーされた画面を左ボタンでダブルくクリックすると1000x800pixel解像度の画像が表示されます(OS: windows10)。

 こうして改めて見てみますと、原種もかなり派手な印象を受けます。alba, aurea, flava, solidタイプは開花で株を分けますが、それ以外のフォームの違いを本サイトでは栽培上で意識することが無く、その多くはすでに趣味家(購入者)の手に渡っていると思います。


11月

Dendrobium polytrichumDendorobium modestum似た種

 葉や疑似バルブ形状が酷似し、さらに花も良く見なければ識別が困難な種はどの属にもいるもので、フィリピン生息種であるDen. polytrichumDen. modestumも開花するまでは全く分かりません。しかしなぜかJ. Cootes氏の著書Philippine Native Orchid SpeciesにはDen. modestumの記載がありません。下写真が示すように、Den. polytrichumはリップに細毛があり、Den. modestumにはリップの縁が波打っているものの細毛はありません。花サイズは若干後者が小さいのですが、それぞれ小型であるため1m以上離れれると識別が困難になります。また別の種に、花だけではDen. modestumとの違いが分からず、葉形状を比較しないと識別が難しいものに同じフィリピン固有種のDen. pseudoequitansがいます。

 同一環境で栽培すると、毎年Den. polytrichumが1-2ヶ月程早く開花し、その後Den. modestumが開花します。両者が同時に咲く様態はこれまで観測されません。この時が種別ができる唯一のチャンスです。丈夫な種で高輝度を好みます。本サイトでは株が多いため、Den. polytrichumDen. modestumともに写真右のように大型バスケットに纏めてミズゴケで植え付けています。バスケットへの1年半前の植え付け時には後ろが透けて見える程度でしたが、右写真のように隙間が無いほど茂ってしまいました。自然界では大きな木の枝に着生し、太陽光を直接浴びている写真があります。


Den. polytrichum

Den. modestum

Den. modestum

Bulbophyllum catenulatumBulbophyllum aestivale

 この2種類のバルボフィラムはいずれもフィリピン小型種です。Bulb. catenulatumはLuzon島とMindanao島の標高1,500m以下、またBulb. aestivaleはLuzon島とLeyte島の1,000m付近の生息とされています。フィリピンではバルブと葉が同じような形状種Bulb. bolsteri, fenixii, ocellatum, pardalotumなども生息します。いずれも開花しなければ種を識別することは困難です。

 昨年のJGP2014(東京ドームラン展)でフィリピンPurificacion Orchidsの売れ残り株を引き取った中に、Bulb. catenulatumのタグ(ラベル)名のポットが10個ほどあり、小さなソフトビニールポットにミズゴケの植え付けで植え替えもしないまま2年近くが過ぎました。その間バルブ数が10-15バルブ程に増え、一部はポットからはみ出し、今年からほぼ通年で多数の花を付けています。本サイトの「今月の開花株」で5月から紹介していたのですが、今月同じタグ名のポットから、それまでとは異なる花が咲き、?と思い調べたところ、この新しい花がタグ名通りのBulb. catenulatumで、それまでの花はBulb. aestivaleであることが分かり、修正を行いました。


Bulb.aestivale

Bulb.catenulatum

 ほとんどの属種は、葉とバルブ形状が酷似していても微妙に種毎にどこかが異なり、多数栽培していると通常、何となく違いが分かってくるものですが、特にフィリピンのバルボフィラムには、葉とバルブからは全く同定が困難な種が多く、入荷しても花が咲かないと売れないという売り手側からは非常に厄介です。このためフィリピン訪問ではいつも、毎回入手するバルボフィラムについては現地でタグが個々に付いてないもの、園主が花を確認していないものは全てspとして取扱います。この結果、未発売の株の在庫が膨らむばかりです。

 本サイトではフィリピンバルボフィラムで現在最も関心のある種はBulb. woelfliaeBulb. giganteumです。1年以上求めているのですが、未だ入手ができません。マレーシアで2年以上待ち続けたDen. aurantiflammeumが今年入手できた例もあるので、フィリピンで最大規模の原種を扱う現地ラン園で手に入らない種が容易に入るとは思いませんが、12月も訪問予定のため果たしてどうなるか期待しているところです。

Bulbophyllum kubahense

 本サイトの全てのBulb. kubahenseは、根周辺をミズゴケで抑えて杉皮板に取り付けています。昨年12月と今年4月に入手したSarawak産は半年から1年を経過した現在、ほとんどの株で多くの新芽を出しており、杉皮板の幅が当初想定したサイズでは足らなくなったこと、根の活着状態の検証およびJGP2016の販売準備などのそれぞれの目的から、植え替えを始めました。
 
 下写真は上段Aが植え替え前の状態で、BからEまでは杉皮板のミズゴケを取り除き杉皮板から外し、根を中心に撮影したものです。B-Eの写真から、約半年で新しい根が多く発生していることが分かります。写真の白い根は全て今年浜松の温室にて新たに発根したもので、この様態になれば植え替えを行っても枯れることなく成長を続けます。


A

B

C

D

E

F

 これまでの経験では、海外から入荷する場合、根はほとんどが黒ずんでおり、バルブ当たり2-3本の短い生きた根があれば良い方です。順化はこのような株を植え付けることから始まります。植え付けから2週間が最も重要で、根の状態に依りますが20%近い葉は落ちます。入荷時の状態が良ければ、10%以下となります。落葉の主原因は生きた根が十分ではないためです。

 深刻な問題は、根全体が弱体化している株の順化中に葉が落ちると、そのバルブからは、例えバルブが緑色をしていても新たにリゾームや根の発生は見られず、やがて枯れます。すなわち葉もない根もない、バルブだけと言う状態からの順化は、例えばBulb. lobbiiのような太く丸々としたバルブとは異なり、葉柄とあまり変わらない太さの細いバルブでは新芽の発生は期待できません。葉付の1バルブしかない株が再生可能な条件は上写真B - Eが示すように生きた白い根が十分あることです。言い方を替えれば、B - Eに見られるような新根が多数あれば、1葉1バルブのみであっても枯れることは無く、やがて新しい芽が発生します。

 順化中に葉が落ちる期間は植え付けから2週間以内であり、2週間ほどで株は落着きます。もし2週間以上経過しても葉が落ちる、あるいは葉の黄色化が進行している場合は、栽培環境、植え込み材、植え込み方法が誤っており、順化が失敗したことを意味します。動きが止まった状態のまま、やがてすべての葉が落ち枯れてゆくことになります。一方、1か月以上が経過しても新根あるいは新芽の発生が見られない場合も同様です。

 植え付け時のこうした性質から、生きた白い根が十分にないBulb. kubahenseは、その価格の高さを考えると、余程のベテランでもない限り購入すべきではありません。ラン園を始め、海外から直接搬送入荷するもの、あるいは展示会等において海外ブースから入手する場合は上写真のような健全な根があることを見極めることです。生きた根はあるものの葉の割に少ない株を、それでも購入したい場合は、やがて1-2枚は落葉すると考え1株3葉以上の株を購入すべきです。根が写真のように十分あれば順化は不要となります。また順化には高温高湿、低輝度および通風が必要で、順化期間中は根元を動かすことはできません。活性剤は順化中に有効ですが、施肥は1か月以上経過した後となります。落着いた後は他のバルボフィラムと比べて弱い種でなく、リゾームの長い種の中では、むしろよく新芽を発生します。このため本サイトでは植え付け後、2-3ヶ月以上経過し、根や芽の動きのある株以外は販売しておらず、入荷直後の株を希望される方には予約済として確保し、2ヶ月程待ってもらっています。以上がこれまで300葉近い本種を栽培してきた経験です。

  そこで本サイトでは1葉当たり市場価格の半額以下の3,000円としているものの、植え付けから半年以上経った本種のほとんどが5バルブ以上、最も多い葉数が15バルブ程となっており、かなり高価になることにかわり無く、初心者にとっては容易に手が出せないのではと考え、新芽を含めた2-3バルブの株を用意することにしました。このような株は上写真のB - Eのように十分な生きた根があることと新芽付きであること、すなわち半年以上国内栽培を経た株のみとします。これらが上写真のFです。写真Fで右の株は大きな葉は1つ、新芽が2つ出ています。また中央は2葉に1つの新芽です。左も同様に2葉に新芽1つ(杉板の下部)です。株の割に杉皮板の幅が広いのはさらに半年程で新芽が出て大きくなっていくためです。この結果、本サイトでは商品ラインを3,000 - 4,000円(1葉+1新芽)からとします。葉当たりの基本価格を下げる手段もありますが、本種の入荷価格は現地でもバルボフィラムの中では未だ葉当たりで価格が設定される程かなり高く、対抗する価格が市場に出てからの検討とします。なお今のところ2015年度の市場価格の1/2 - 1/4ですがB toBは一切行いません。

込み入った温室の整理

 温室を訪れる趣味家の方々との談話のなかで、そろそろ置く場所が狭くなりこれ以上ランを買い増すのは大変だ、との話題がよくでます。確かにコレクションを続けていれば、やがてベンチの上は、これ以上詰めたら病気になると思えるほど葉が互いに重なり合う程に鉢で埋まり、対策として上から吊るすことで栽培空間を2次元から3次元に広げ、さらにはベンチを多段にする、吊りさげる位置も上下に分ける、壁にも取り付けるなどなど置き場所に四苦八苦しながらも、やがて温室はジャングルの様相と化していきます。一方で、この結果、輝度や通風、水撒きなどの管理が一層複雑となり、こうなると十中八九、伴侶からは水撒きの手伝いは拒絶され、挙句の果ては家族から呆れ顔で見られるようになってしまいます。しかし年配者にとっては若いころからこれまで家族のために働き詰め働き続けてきたのだから、残りの人生は好きにさせてくれと言いたくなるのも道理です。こうした状況であっても新種や変種など未知のランへの興味は留まることを知らないのが趣味家の抗しがたい気性であって、ジレンマに陥っていきます。

 一つの解決法はヤフオクです。手放してよいランとそうでないランの優先順位をつけ、手放してよいものはオークションにかけることです。オークション会員として登録出品し、売出価格は自分が好きなように決めればよく、それで買い手がつかないのであれば価格を下げ再出品すれば良いだけのことです。義理人情で友人に引き取ってもらうことも、捨てることもなく、それを高く買ってくれる人がいれば幸いです。売れれば落札者への発送の手間はかかりますが、取扱い規模は小さいので苦労はそれほどではないと思います。ひょっとすると、それで入る金額と、新たに買いたい金額が幾分でも相殺されるようになれば、伴侶の目をあまり気にすることもなくなるかも知れません。

 しかしオークションサイトを見ると、生きた根がない、あるいは病気の葉をもつもの、ダメになりかけているので枯れる前に売ってしまおうとしているような品質の出品が少なくなく、かなり経験を積んでいる筆者でも、とても再生不可能と思える株が時折見受けられます。オークションは買手の自己責任と言っても、生き物を販売する以上、品質はほどほど保たれるべきです。出品者には自分ならば買うかと自問し、買えると思える品質は確保してもらいたいものです。ちなみに本サイトは直接・間接とも一切オークションには参加していません。商品カタログを持ち、見積り販売を生業とする業者が、一方でオークションを利用するのは、価格に対するポリシーが無いことと同じと思っているからです。落札者がいなければどんどん価格を下げる、上げるのは購入者の勝手というのは、一つのビジネスモデルであることには違いありませんが、ネットオークションはプライベート(個人対個人)取引と考えているからです。

 ランのオークションはラン趣味家を増やす可能性のある、かなり有効な手段と考えます。しかしそのためにはそれなりの商品品質が担保されることが重要です。まさにオークションはそれまで大切に育ててきたものの、温室に入りきれなくなった趣味家のランの処分に適したシステムであり、ランの置き場所に困っている人は一考の要ありです。

Bulbophyllum jolandae

 ボルネオ島のバルボフィラム高地生息種を代表するBulb. jolandaeが開花しました。今年4月にマレーシアを訪問した際、日本は春とは言えマレーシアは猛暑で胡蝶蘭交配種育成用温室の片隅に置かれ、かなりヘタっていた本種を見つけ入手したものです。その温室内は外気よりは涼しいのですが胡蝶蘭用ですから、ボルネオ島標高1,500m付近に生息するクールから中温系の本種にとっては暑すぎたようです。日本ではバルブ3本程の小さな本種が1万円以上で販売されているとラン園主が知れば、マレーシアでは温室栽培の慶弔用胡蝶蘭は千円以下の価格ですから驚いて、もっと涼しい待遇の良い環境で栽培させてもらえたであろうと想像します。

 順化(植え付けから下葉が1枚程落ち、株が安定するまで)に2ヶ月程かかりました。先月から花茎が現れて、始めての開花です。リップに生えた髭のような細毛が特徴です。下写真は最初の1輪が開花した時のものです。15輪全てが間もなく開花すると思います。リップが微風でカクカクと前後に揺れ動くのは本ページの8月歳月記で取り上げたBulbophyllum xenosumのリップと同じです。低輝度の中温環境で、プラスチック鉢にバークミックスの植え付けです。昼間25℃、夜間温度が15℃近くになる状況が1か月程続いて花芽が現れ始め、20日現在発芽したばかりの株を含めると、年内から年明けにかけて4割程に開花が見られると思います。

Bulb. jolandae

 先日会員の方を含め数名が千葉から浜松温室に来られたとき花芽が出ていたこともあり、3株程花芽付きを購入されていかれました。ネット検索をしたところ国内の一ラン園で本種が12,000円ほどで販売されているサイトがありますが、本サイトでは3,000円としました。バルボフィラム愛好家が増えることを期待し、ほぼ全ての種において、10年前の古き良きバルボフィラム時代の価格へ回帰です。JGP2016まで残っているようであれば出品します。

Dendrobium spからの1点とミスラベル?

 10月にマレーシアにて、ボルネオ島Sabahからの低-中温系のデンドロビウムspを入手しましたが、その中に疑似バルブ形状が異なる1株が見つかり、注意していたところ下写真上段の花が開花しました。調べて見るとDen. cinereum(Synonyms: derryi)のようです。本種はボルネオ島の標高750-1500mのコケ林に生息しているそうで、花サイズは2.5㎝程です。希少種かどうか分かりませんが、マーケット情報はほとんど見つかりません。

 一方、同時期にマレーシアにてDen. lamellatum名の株を3株程入手し、その花と株が写真下段となります。この株は現地マレーシア・コレクターが自宅周辺の山に生息していた野生株から栽培したものです。扁平のバルブが特徴です。しかしOrchidspecies.comの情報によるとDen. lamellatumはインドネシアJavaのみに生息するとされ、ミャンマーからマレーシア、Java, ボルネオ島、スマトラ島、フィリピンに生息する本種に似た種はDen..compressumであるとしています。多くのネット情報によるとDen. lamellatumは後者と同じ広域に生息しているという説もあり、長い間、Den. compressumDen. lamellatumとは同種か別種かが議論されてきたとのことです。遺伝子分析で容易に分かるのではと思いますが、いずれにしても近縁種であることには違いないと思われます。本サイトではDen. lamellatumがJava固有種との前提で取り敢えず、この株はマレー半島生息種であることからDen. compressumとしました。

Den. cinereum
Den. compressum

JGP2016での出店

 来年2月13(土)から19日(金)まで東京ドームで恒例の国際ラン展が開かれます。本サイトは今年に続き来年も出店します。前回はフィリピンPurificacion Orchidと間仕切りを外してのブース構成でしたが、来年はPurificacion OrchidとエクアドルMundifloraからの希望もあり、3店舗が並んで出店を行うことになりました。本サイトでは胡蝶蘭、デンドロビウム、バルボフィラム、セロジネを中心に、属別にエリアを分けて出品するため2ブース分のスペースを予定しています。

 販売ブース配置案を見ますと、我々の対面にアルゼンチンClori OrchideaとペルーPerufloraが予定されており、南米3店舗が通路を隔てて隣接し合うことになります。  Purificacion Orchidはフィリピン、本サイトはマレーシア、インドネシア、またMundifloraを含む上記ラン園はエクアドル、アルゼンチン、ペルー、それぞれの国の原種を中心に扱うことで、5年以上前は台湾勢の数店舗も原種をそれなりの数を扱っていたのですが、近年は皆同じように交配種がほとんどを占めるようになり残念に思っている原種マニアにとっては、原種ばかりの興味深いエリアになると思います。

Coelogyne kinabaluensis

 今月の本ページに掲載した「ボルネオ島SabahからのCoelogyne」で取り上げたspの多くにCoelogyne kinabaluensisが含まれている可能性が高まりました。このセロジネは、キナバル山標高900m - 2,000mを中心にSabah州クロッカー山脈沿いに2-3点の生息地が知られています。花は淡い赤褐色。面白いのは、栽培温度によってセパル・ペタルの色が変化し高温では薄緑色、低温では赤褐色となる性質があります。下写真上段は同一花の全面、側面および全体画像で、色合いは丁度その中間となります。通年で開花するため、夏季は全体に淡黄緑色、冬は淡赤褐色の花が同一株で見られます。またバルブや葉も濃緑色からやや赤褐色の色まで株によって変化があり、こちらも花程ではありませんが、環境条件に影響されるようです。上段画像は11月16日温室内での撮影写真です。

 一方、写真下段は昨年8月(左)と11月(中央と右)に撮影した花の映像です。上段とは異なる株ですが、3つの花の株はそれぞれ同じものです。夏季と冬季で別種の如き様態となっています。色の変化には夜間温度が大きく影響していると考えられ、8月では25℃、11月は15℃となっています。栽培は中温が好ましく夏の猛暑期間を可能な限り涼しいところに置くことに気をつければ、日本では比較的栽培しやすいランと思います。上段、下段共に植え付けは杉皮板にミズゴケです。リゾームが上に向かって伸びるため水平のポット植えは適しません。

 市場価格を調べたところ本場マレーシアのラン園を含め海外では容易には検索できず、ほとんど取引の無い種なのかも知れません。国内では昨年20,000円以上で販売されていたサイトが本種名と価格の2ワード検索で出ました。そこでJGP2016ではFSサイズを1/5の4,000円、温室での直販では3,500円程で販売を始めることにしました。

Coelogyne kinabaluensis

Bulbophyllum medusae

 Bulb. medusaeは多数のラテラルセパルが長く伸びた花形状がギリシャ神話のGorgon Medusaのヘビの髪の毛の様だとして付けられた名前です。しかし実際は極めてエレガントな雰囲気を造りだす美しいランです。生息地はタイ、マレーシア、ボルネオ島に分布し、高温タイプとされます。丈夫な種で適切な環境と支持体に十分な成長空間があれば、次々とバルブを増やし、4-5年で大株になります。現地ではほとんどが直径30㎝程の切り株や、大きなヘゴ材に活着させて栽培をしており、ラン展では1株から成長したクラスタータイプの大株を毎年見かけます。下写真は11月中旬の現在、本サイトの温室で開花中のBulb. medusae3点です。

 写真左は2年前のマレーシアPutrajaya花祭で入手したBulb. medusaeのクラスター株で、円筒形の支持材に全面巻きつけています。右は昨年、同じくPutrajaya花祭で入手したもので、杉皮板への取り付けです。右は2つの株に分かれていますが、販売時は大きなヘゴ材に絡まった1株のクラスターでした。日本に持ち帰る出荷の際、分割してはならないことを園主に伝えたのですが、作業者が間違って複数に分離して支持木から外してしまったものです。元々は1株であったことから一まとめにしても良いのですが、適当に寄せ植えして栽培しています。左はセパルにドットの無いalbaフォーム、右はドットのあるフォームです。本種は大きな株になればなるほど見ごたえが出てきます。


Bulb. medusae alba form

Bulb. medusae dot form

  右の2点はJGP2016にて販売を行う予定です。現在国内市場価格が3-4バルブ程で2,000 - 3,000円ですので上写真で、(葉付バルブ総数÷4) x 1,000円ではどうかと思案中です。この算定方法ですと、4バルブ基準で市場価格の半額となり、さらに大株としての付加価値が付きますから良いかなと。ではバルブ総数は幾つあるのかは面倒なので今まで数えたことがありませんが70バルブ程と思います(後述:右写真の右の株は会員に8,000円で販売終了)。これを複数の大株に育てたい場合は、例えば右写真の1株をさらに3等分し、可能な限り大きな支持材の下の方に取り付けます。新しい芽は主に上に向かって増殖してゆくからです。右写真の杉皮板の上部15㎝程は取り付け当初空いていたのですが、僅か1年半で上および横方向共に伸長するバルブの行場所がなくなり植え替えしなければならなくなりました。支持材は面積を広く取ることが必要です。3-4年後には親株程になると思います。本種の植え付けは垂直型の支持材が必須で、ポット植えの水平取り付けでは大株になると葉の上にセパルが垂れたり、不自然な風景となるため本種の本領が発揮できません。それこそMedusaの髪の毛になってしまいます。

 大株に多くの花を咲かせたい場合の技法は、花咲爺さんの灰の如くベンジルアデニンのようなホルモン剤を撒くのではなく、大株の状態のまま4-5バルブ毎にリゾームを切断することです。上写真からも分かるように花芽は主に上部や側面に伸びた比較的新しいバルブ基からです。古いバルブの多くは条件が良ければ、落葉することなく葉を付けたままで新たな発芽は止まっています。これら古いバルブ同士の繋がりを切断することで発芽を誘導させます。株サイズの割に異常なほど多くの花が咲いている光景を展示会等で見かけることがありますが、そうしたいのであれば大株になってから植え替えすることなく適度な間隔でリゾームを切断し、バックバルブから発芽をさせることが一手法です。本サイトでは展示を目的とする栽培をしていないため、そうした処理はしておらず自然体のままに任せています。

Coelogyne candoonensisに見るコレクションの1例

(これまでCoelogyne rubrolanataとしていましたが、本種の可能性が高く修正しました)
 1品種の中でフォームの違いをコレクションする趣味家も多いと思います。ほとんどの種はalbaやflavaあるいは花色の濃度変化などの違いがあり、こうした変種は一般的に入手が困難です。一方、僅かなフォームの変化の中にも興味ある種が多数存在します。一例としてあまり聞きなれないCoelogyne candoonensisについて取り上げてみました。本種はフィリピンMindanao島原産で1,500mの中温系です。栽培に必要な詳細データ(生息環境など)がほとんどありません。下写真の上段は本種の全体画像です。バスケットにミズゴケで3株程を寄せ植えしたものです。

 バスケットサイズは22.5cm角ですので全体の大きさが分かります。弓状に伸びた長い花茎に1.5㎝程の花を一輪づつ付け、半年ほど開花が続きます。このセロジネの特徴はランの花柄(セパル・ペタルの点や棒状斑点)にだけでなく、花被片全体にフォームの違いが及んでいる点です。下写真の2段以降で、AとBはリップ側弁と中央弁にある茶色のパターンの濃度、またセパルやペタルの色のグラデーションも微妙に異なります。一方、Cはリップ中央弁の先端は白色ですがDは先端まで茶褐色となっています。またEはセパル・ペタルは薄緑色です。この色は開花直後によく見る色合いではなく、枯れるまでこの色を保っています。これから咲く花を包んでいる苞葉も他の茶色とは異なり緑色です。Fはペタル形状が長く、全体の色はBに近いのですがセパルペタルはスリムな形状となっています。EとFだけを見るとまるで別種のようです。

 このように一品種であっても、詳細に眺めて見ると多様な変化があり、これも楽しみの一つです。問題はこうしたフォームの違いを目的に株を集めるには開花時期に合わせ多数の同一株を販売しているラン園に行かなければ分かりません。あるいは多数購入してフォームの違いを期待するかですが、後者はほとんどが同じものであった場合どうするかの問題があります。一方ラン園ではこうした違いを記録することは困難です。一つの理由はこうしたフォームの多くは遺伝子的な変種であるalbaやflavaと異なり、ある程度の特徴は継承するものの環境によっても変化することがあるため記録はあまり意味がないためです。このため一般的には年毎のフォーム違いを楽しむことになります。


A

B

C

D

E

F
Coel. candoonensis

  本種を価格で検索しましたが見つかりません。国内では売買実績が無いようです。ちなみに本種の価格は2,500円とします。類似種であるCoel. rubrolanataと本種との違いは、リップの側弁(Lateral lobe)がCoel. rubrolanataは小さく、また花色は淡い茶色であるのに対し、本種の側弁は大きく、開いており,花色も薄緑から茶色まであることです。

胡蝶蘭Parishianae、AphyllaeおよびProboscidioides亜属、

 JGP2016に出品予定の胡蝶蘭原種の内、小型の種もほぼ揃いました。下写真は現在在庫中(葉の白い汚れは殺菌剤ダコニール散布によるもの)の原種で、全てFSサイズです。価格は本サイトの取扱品目の価格表の通りとなります。この他、Phalaenopsis亜属Deliciosae節のPhal. deliciosachibaeも出品します。これらはすでに一般販売を行っており、またJGP2016プレオーダーを12月中旬から行うため売り切れた場合は会場での展示販売はありません。このなかでPhal. braceanaPhal. stobartianaについては2種が混在して入荷しており開花確認をしないと正確な区別が出来ません。一方、これらの開花期が3-4月であるため、この2種については混在でも良いとする希望者のみへの販売となります。これら小型の原種の中で現在最も入手難なのはPhal. honghhenensis野生株のようで、Phal. appendiculataを含む他の全ての原種の2倍以上の入荷価格でした。このほかにPhal. thailandicaPhal. petelotiiなどJGP2015で販売しましたが、これらはPhal. gibbosalobbiiの地域種として現在は区別していません。


Phal. parishii

Phal. malipoense

Phal. appendiculata

Phal. lobbii

Phal. gibbosa

Phal. minus

Phal. lowii

Phal. stobartiana

Phal. braceana

Phal. honghhenensis

Phal. wilsonii

Phal. chibae (Phalaenopsis亜属Deliciosae節)


ボルネオ島SabahからのCoelogyne

 現在温室ではCoel. asperata、dayana、rochusseni、およびusitanaが開花しています。セロジネは国内で愛好家が増えつつありますが、マレーシアではコレクターのほとんどがセロジネには関心が薄く、ラン園でも販売品を見かけることは滅多にありません。多分マレーシアでは、ごく身近に生息している植物との認識によるものと思われます。セロジネを積極的にコレクションするトレンドが生息地で弱いことは、ボルネオ島やマレー半島には手づかずの野生種が数多く生息している可能性もあります。2000年以降発見のセロジネ新種は現在15種ほどが知られています。今日入手株の多くは、東南アジア各地で今なお盛んなプランテーションにより伐採された自然木に付いたランを採取する権利をランハンターが買い、これらをラン園に収めているものだそうです。こうした背景から新たなセロジネがさらに発見される可能性も高く、今後一層世界の趣味家から注目されるのではと考えています。

 2014年から訪問毎に、セロジネの種名ではなく生息地(主にボルネオ島)を指定して、その地域種であれば品種を問わないとして注文しています。この理由は、既に知られている種以上に未知の種が多い可能性のある状況下では、種名を指定すると業者の先入観で選別されてしまうのではないかとの憶測からです。この結果、これまで入荷する株は半数以上がsp(名称不明)となっています。このことは見方を変えれば、種名を指定することでこれまで半数近いセロジネが放棄されていたか、故意にミスラベリングされていた恐れがあります。伐採木から採取するのであれば、可能であればセロジネにとっても箱買いの方が良いのかも知れません。下に示す上段写真は全て今年8月から10月に入手した、ボルネオ島Sabah生息種とされるセロジネで、入荷時はspとされたものです。また2段から4段の11枚(A-L)の画像はspの中に交ざった疑似バルブ、葉形状および色がそれぞれ異なる株を選んで撮影しました。Eはバルブが細い円柱形でCoel. rhabdobulbonの可能性があり、Gの葉は波状の縁があり、Hの疑似バルブは球状となっています。Jは葉およびバルブが赤褐色を帯びており、KおよびLはバルブは類似しているものの葉形状が僅かに異なります。こうした形態の違いは一般的に種が異なる可能性が高いと思われます。


4グループ程に分類可能と思われるセロジネsp株 40株

A (葉楕円形)

B (バルブ細く葉披針形)

C (バルブ扁平緑淡褐色)

D (葉卵形)

E (バルブ細く円柱形)

F (バルブ円錐形)

G (葉縁波状、裏淡褐色))

H (バルブ球状)

J (葉バルブ赤淡褐色)

K (バルブ細く円錐形)

L (葉倒卵形)

 spとされる株は通常、開花すれば8割程は希少種、一般種を含め190種程の既知の種の一つであることが分かりますが、1-2割程は該当種が見当たらないことがしばしばです。一方、下写真は既知のセロジネで、下段右のCoel. xyrekes(マレー半島)およびusitana(フィリピン)を除いてボルネオ島Sabah生息種となります。Coel. odoardi、exalataは希少種としてこれまで高額で取引され、またCoel. cupreaは国内には筑波実験植物園にあるとの情報以外見当たりません。但し写真のCoel. cupreaは葉形状が幅広で、orchidspecies.com掲載の同名の画像と異なり別種(monorachis)の可能性があります。これらも今年夏以降の入手株です。


Coel. odoardi 20株

Coel. exalata 30株

Coel. cuprea 40株

通常の1.5倍花サイズのxyrekes (左はusitanaでその大きさが分かる)

  下写真は2014年にマレーシアにて入手したspで、直径が7㎝の疑似バルブからなる巨大株です。2年間でバルブ数とサイズが倍以上となり花芽(左下の黄色の蕾)の発生が見られます。大きなバルブと黄色の蕾からCoel. marthaeと思います。セロジネは花茎が下垂するタイプが多く、本サイトではほとんどをバスケットにクリプトモスとミズゴケ、および入荷した時点で垂直方向に株が伸長しているものはヘゴ板や杉皮板に植え付けています。


Coel. sp

 バルボフィラムと同じように、セロジネも花が咲くまでは何が現れるか分からない種が多いことも趣味家の楽しみです。今後はボルネオ島だけでなく、スラウェシ島のセロジネにも興味があり打診する予定です。下写真は路上バザールです。食料野菜や雑貨の販売テントが並ぶ中、現地の人が採取したランを日常として販売しています。おそらく手前はセロジネかデンドロキラムと思われます。こうしたバザールではラン1株(束?)が日本円で100円程で買えます。趣味家にとっては憧れの風景です。花名やラベルもないこうした場面に遭遇すれば、この中で最も珍しい、ほとんど見かけないものはどれ?と聞いて買ってしまいそうです。


  ラン属の中ではセロジネの栽培は比較的容易であり、市場性もこれからであることから、多くのセロジネファンが増えることを期待し、現在の国内市場の1/3 - 1/5の価格を目指します。

10月

Dendrobium sutiknoi

 Den. sutiknoiを植え付けました。元株は1m以上のものが3株、2株が80㎝程度の高さでバルブが鉢から飛び出ているものが多く、これを分割して9株にし、スリット入りプラスチック鉢にクリプトモス植えです。会津の知人は素焼き鉢にクリプトモスで10株程を5年以上栽培し順調に成長していたため、これを参考にしました。これが下写真です。本種は植え替えを嫌う性格が見られ、新芽あるいは新根がでるまでの2ヶ月間程が重要で比較的明るい輝度と通風に気を付けての順化栽培となります。写真手前の素焼き鉢は、8月に小さなヘゴ棒に付いていたもので無償でもらったものです。これは根をヘゴ棒から外すにはリスクが高く、クリプトモスをヘゴ棒に巻いて、そのまま5号の大きな素焼き鉢に入れました。価格はSpatulata節のなかでは安い方で、今回クアラルンプール近郊のラン園をこまめに回ってみると、幾つかのラン園でそれぞれ2-3株は置いているようでした。



その他の主な胡蝶蘭原種

 前記のPhal. bellina、violacea以外に下写真のPhal. chibae、speciosa、pantherina、florensensisなども入手しました。この中でPhal. floresensisは野生栽培株です。市場のPhal. pantherinaPhal. cochlearisと並んで交雑種が多い中、こちらは純正との園主の言葉を信じての入手です。Phal. chibaeはこれまで見た中ではかなり大きなサイズです。Phal. speciosaは、果たしてどれほど赤色が出るか、またその濃度に興味あります。全て開花サイズです。


Phal. chibae

Phal. speciosa

Phal. pantheriana

Phal. floresensis


Phal. violacea Indigo bluePhal. violacea red

 Phal. violaceaのソリッドブルーフォームのIndigo blueと、ソリッドレッドフォーム(本サイトではSumatra redあるいはBorden redと名称)が知られていますが、今回のマレーシア訪問でIndigo blueとredのFSサイズをそれぞれ30株入手しました。状態が良いので順化は不要と考えていますが、本サイトでは久しぶりにヘゴチップで植え付けました。これまで2年間はヘゴチップが高価なため、クリプトモスやバークに置き換えていましたが、フラスコ出し苗と一部の胡蝶蘭原種に再度利用することにしました。

 今回の購入はJGP出品の品揃えのためでしたが11月から先行して販売を始めます。Phal. violacea Indigo blueの国内価格をネットで調べたところ5,000円から1万円の範囲のようです。今年のJGP2015では台湾からのラン園だったかと思いますが8,000円で販売されていました。そこで本サイトではPhal. violacea redはカタログ通り2,500円ですが、Indigo blueを国内で最も安い価格のさらに半値である2,500円にして販売することにしました。


Phal. violacea Indigo blue (Flower size)

Phal. violacea sumatra red (Flower size)

  最近よく、2-3割程度なら兎も角、半額とか、1/3とか、どうしてそんなに安くできるかのかと聞かれますが、逆にどうして国内市場ではそんなに高いのか伺いたいと応えています。本サイトでは直接海外から輸入しているからと言うよりも、直接出かけて生産(栽培)者からの買付を価格交渉と同時に行っているからとしか言いようがありません。しかしそれでも趣味家以外の人から見れば、綺麗な花とは言え、花一つに2,500円も払うのはかなりの決心が・・・と思います。まして8千円などとは。13-14年前、Phal. appendiculata albaPhal. bellina coeruleaの野生1株を20万円以上払って購入していた筆者は、差し詰め狂人の範疇かと。

大株2種Den. anosmum semi-albaParaphal. labukensis

 1.5m長のDen. anosmum semi-alba (huttonii)と1.5 - 2m長のParaphal. labukensisをそれぞれ5株づつ持ち帰りました。Den. anosmumについては、Archive 2014年3月の歳月記に、クアラルンプール近郊にあるラン園の、園内の木のあちこちに活着していた本種を 取り上げてから6回の訪問で、温室15mの通路側面が埋まる程の株数を得ました(下写真中央)。当初の目論見通りクラスター株だけを選んで、ほぼ買い占めたことになります。写真左は今月に入手したDen. anosmum semi-alba5株です。これでこのラン園にはsemi-albaおよびalbaを含むDen. anosmumの大株は無くなりました。写真右は1.5m - 2mのParaphal. labukensisです。Den. anosmum semi-albaのクラスター株は人気が高くこれまでにかなりの数を出荷しました。



Dendrobium4種

 今月2回のマレーシア訪問ではDen. cinnabarianumを40株程仕入れましたが、下記の余り市場には見られない種もそれぞれ20株ほど得ることが出来ました。
  1. Den. metachilinum Sabah
  2. Den. corallorhizon (後記12/08:hamaticalcar whiteから修正)
  3. Den. roslii
  4. Den. sp (uniflorum-like)
 Den. metachilinumはConostalix節で、タイおよびマレーシア、スマトラ、ボルネオ島低地に生息します。入手株はボルネオ島Sabahです。写真下段は本種の花で、現在開花中の撮影です。リップ中央弁のフォームが.リンク先の画像と若干違いが見られます。Den. corallorhizonは本ページ12月に記載しています。

 Den. roslii
は2010年発表の新種でマレー半島標高200m - 300mに生息する黄色の花全体に細毛を持つ不思議な形状のデンドロビウムです。今回は苗のため1,500円を予定しています。またDen. spDen. uniflorumに似た形状で、Distichophyllum節と思われますが、Den. unifloumのリップは黄緑に対し、本種は白色です。それではDen. uniflorumのアルバタイプかと言えば、この種の特徴のようですが、2週間ほどすると花全体が開花時の白色からやがて淡い黄土色に変化するそうです。
  

Den. metachilinum 3,000円

Den. hamaticalcar 2,500円

Den. roslii 1,500円

Den. sp 3,000円

Den. metachilinum flower (本サイト温室にて撮影)


Bulbophyllum refractilingue

 10月のマレーシア訪問前に、状態の良いBulb. refractilingueが入荷したとの知らせで30葉程を購入しました。下上段写真が取り付け後のBulb. refractilingue、下段がBulb. kubahenseです。Bulb. kubahenseと同じ取り付け方法で、杉皮板にミズゴケを敷き、アルミ線で留めています。栽培温度もかん水頻度もBulb. kubahenseと変わりませんが、現地趣味家宅を訪れ、開花栽培状況を見ると輝度が相当明るく、この点はBulb. kubahenseと異なるかと思います。来年2月まで残っていれば900円/葉でJGPでも販売予定です。


Bulb. refractilingue


Bulb. kubahense


Bulbophyllum3種

 マレーシアにて最近購入した、市場には余り出ていないバルボフィラム3種を取り上げます。 下写真は取り付け後のそれぞれです。
  1. Bulb. scotinochiton
  2. Bulb. flabofimbriatum
  3. Bulb. elongatum
   Bulb. scotinochitonは2005年に発表された北スマトラ生息の比較的新しいバルボフィラムのため、栽培情報が余りありません。国内では一ラン園が昨年秋、2万円程で販売していたようで、NTOrchidでは今年のJGPのプレオーダー価格として3,000円としていました。2万円の国内販売価格は、現地BtoB取引価格の20倍以上です。本サイトでは2,500円(3-4バルブ相当)を予定しています。
  
  またBulb. flavofimbriatumは下垂タイプで濃緑の葉色を持ち、光の当たり角度で光沢のある青緑色に変わります。花形状も個性があります。こちらは国内ラン園での販売情報がなく、NTOrchidではプレオーダー価格で6,000円でした。本サイトでは1株3,000円とします。
  
  一方、Bulb. elongatumはマレー半島、インドネシア、ボルネオ島、ニューギニア、フィリピンと広範囲に生息しており、そのためか花色も地域によって大きく異なります。共通した特徴はその葉で60㎝x13㎝と極めて大きく、太いリゾームで成長します。花は弓状の花茎に多数の花を付けるタイプですが、特にボルネオ島Sabah生息の花色は鮮やかな赤紫色でバルボフィラム属としては最も目立つ色合いです。こうした大型の葉を持つバルボフィラムは嫌な匂いを放つ種が多いのですが、本種は匂いが無いようで安心です。特にボルネオ島生息フォームの販売情報が国内外で見当たらず、他の地域と比べてかなり高額になるのではと思われます。本サイトでは1,000円/葉を予定しています。
  

Bulb. scotinochiton

Bulb. flavofimbriatum

Bulb. elongatum


Phalaenopsis bellina wild

 1年半ぶりにPhal. bellinaの野生株が纏まって入手できました。Phal. bellinaは改良種Ponkanが知られています。花形状や香りで胡蝶蘭原種の中では最も人気のある種です。今年のJGPで本サイトはPhal. bellina Ponkanを1,500円で販売しました。現在市場の本種実生はほぼ例外なく改良あるいハイブリッド種であり、商品としてはPhal. violaceaと並んで最も純正さを失くした種の一つです。胡蝶蘭原種としての代表的な種が、最も原種から遠くなっているのは皮肉です。このため本サイトでは現在は市場の実生は入手せず、野生栽培株および野生種からの選別種、また本サイトで行った自家交配種を取り扱っています。例えば所有するPhal. bellina coeruleaは故Sian Lim氏のオリジナル種で10年ほど前に入手したものを親株としています。当時1株で20万円程であったと記憶しています。下写真は今回入手したPhal. bellina野生栽培株で40株程あります。野生株はその特性から全て下垂しており、ポット植えは出来ません。これからヘゴや杉皮板への取り付けが始まります。



Phalaenopsis gigantea

  最近、Phal. giganteaの人気が高く、JGPに向かって20㎝ - 25㎝リーフスパンのPhal. gigantea実生を下写真に示すように50株程入手しました。現地で見ますと、ビニール鉢とミズゴケでよくここまで育つものかと感心します。これを真似て国内でフラスコ出し苗を栽培すれば1年間ほどは順調に成長するのですが、葉長が20㎝近くなるとポット植では褐斑細菌病に襲われる率が上がり好ましくありません。これはかん水の度に長時間、頂芽に水が溜まったままとなるためです。

 写真のようなサイズになれば、春あるいは秋の植え替え時には、ヘゴ板あるいはバスケットが最善で多くのミズゴケを根に巻き取り付けます。数が多ければヘゴ板のコストが問題となるため、本サイトでは杉皮板としています。従来はコルクもありましたが、水分不足となりヘゴ板とは歴然とした成長の差が出てきます。大量のミズゴケでコルク全体を覆えば余り差は出なくなります。


Phal. gigantea


マレーシア再訪問

 先週のマレーシア訪問から4日も待たず、再びマレーシアに22日から出かけ、本日25日に帰りましました。クアラルンプール周辺はこの時期、インドネシアカリマンタンからだそうですが、乾燥による森林火災が頻発し、その影響で空は朝から一日中スモッグで太陽が橙色です。時としてスモッグが酷い時には学校が休校となるそうです。気温は昼間32℃夜間24℃と言ったところで、雨はほとんど降らない天候でした。

 10月の2回のマレーシア訪問で、多くの原種を入手しました。ニューギニア高地系を除き、およそ1,070株55種となりました。これらは追って本サイトで取り上げていきます。


8-10月マレーシア訪問で入手した幾つかの原種

Dendrobium lambii
 Den. lambiiを先々月のDen. sutiknoiの話題で取り上げ、また今月にもDen. lambiiを例に価格交渉に関する考えを述べました。最初の打診から価格の交渉を経て2ヶ月を過ぎましたが、1m程のFS株を40株(下写真左)入手出来ました。やはり本種が国内価格8,000円 - 1万円の理由が分からずじまいです。結論から言えば本サイトでの価格は2,800円とします。凡そこれまでの市場価格の1/3となります。この価格であれば現地ラン園の価格にも対抗できるのではと思います。写真右は、左の株のもので開花中の株が幾つかありました。花は終わりかけですが株の状態は良く、大きな株であることからも順化は容易と思われます。ボルネオ島Sabah州1,600m - 1,900mの中温系とされます。

Den. lambii

Bulbophyllum. kubahense Sarawak
 Bulb. kubahenseはボルネオ島SarawakとKalimantanの2地域に生息するとされていますが、Sarawak Kubah国立公園以外の地の生息根拠は今一つ不明です。今回80葉程を得ました。今年の東京ドームに出品したBulb. kubahenseもSarawak産です。今回の株はJGP2015に比べて葉がやや大きな形状です。葉と花形状は比例しませんので同じですが、ロットが異なるためリップや花のスポット色が異なるかも知れません。下写真は取り付け前の状態です。順化に3ヶ月は要します。その間に葉が黄色く変化してきた場合はやがて落葉します。これまでの経験から現地入出荷期間は、ほぼ下写真のような状態で保存され、ラン園を訪れた買い手によって連日、ミズゴケから出したり入れたりが繰り返されるため、かなり根は傷んでしまいます。このため今回は入荷したら直ちに適度に選別し、別場所に保管するように依頼しておきました。それでも下写真のような環境が2-3週間続くと凡そ2割程度は取り付け後に落葉することから順化は必須です。このタイミングでの植え付けで何とかJGP2016に間に合うところです。順化期間を過ぎると盛んに新芽を発生し、これまでの栽培では、1.5年程で葉数は倍となっています。今年JGP出品の本種の価格は1葉/3,000円でしたが来年もそのままに据え置く予定です。開花を得るには3葉以上必要ですので9,000円/3葉となります。3葉から12葉程のそれぞれのサイズ株が提供出来ると思います。


取り付け前のBulb. kubahense
取り付け後のBulb. kubahense

Bulbophyllum garacillimum、flavofimbriatum、sigaldiae
 左写真は70葉程からなるBulb. gracillimumクラスター株です。こうした大株は現地でなければ入手は困難です。天然の切り株に活着していました。中央はBulb. gracillimumの個性ある花の写真です。細長いセパルが風で良く揺れます。一方、右写真は取り付け前の状態ですが、トレイの左半分は、左の株を支持木から取り外したもの、また黄色のタグの付いた葉の形状が若干異なる右側に置かれた株はBulb. sigaldiaeBulb. planibulbe。中央下の、根をミズゴケで丸めて束ねている株はボルネオ島生息のBulb. flavofimbriatumです。Bulb. flavofimbriatumは光の当たる方向で葉表面の色が青緑色になる不思議な特性があり、また花形状も変わっています。JGP2015で海外マレーシアラン園がプレオーダー6,000円としていましたが、本サイトでは4,000円を予定しています。

Bulb. gracillimum
Bulb garacillimum(左)、flovofimbriatum(中央下)、sigaldiae (右)

Dendrobium sutiknoi
 8月の本ページでDen. sutiknoiが数万円で販売されていたことを取り上げました。8月と10月の2回の訪問で5株入手しました。12月は40㎝高程の実生株を20株ほど入手予定です。JGPではこの実生株が主体となります。本サイトでは80㎝以下は3,500円、80㎝以上を4,500円としています。12月からは50㎝以下の実生を2,500円とする予定です。下写真はマレーシアラン園での今月の撮影です。高輝度を必要とする、やや栽培が難しい種です。

Den. sutiknoi

Vanda floresensis
 赤色のセパルペタルに紫色のリップとされるVandaで、Flores島からの株を10株程入手しました。スリット入りプラスチックとクリプトモスで植え付けてから2ヶ月が経ち、現在新しい根が多数発生しています。ほぼ順化が終了したところですが、これまでの経験でVandaはミスラベルが見られることが多く花確認が必要で、現地の園主を含めてまだ花を見ていないため開花し本種であることを確認してからの出荷となります。


Bulbophyllum binnendijkii
   ボルネオ島SabahからのBulb. binnendijkiiを20株(3バルブ/株換算)入手しました。本種は1,000m - 1,400m生息の低 - 中温系です。下写真は植え付け前の状態です。こうしたリゾームが伸びるタイプの植え付けはバスケットにミズゴケとしています。


Bulb. binnendijkii


Coelogyne rochusseni

 浜松の温室では現在、多数のセロジネが開花しており、中でもCoel. rochusseniは1.5m程の長さの花茎に多数の薄黄色の花を付けレモンに似た香りを放っています。一つの新しいバルブに2本の花茎が発生するため、少し大株になると下写真に見られるように10本以上の花茎となり、かなり豪華な風景となります。写真の株は4年ほど前にフィリピンで購入し、バスケットに植え付けたもので当初の4バルブから現在は15バルブになっており、毎年この時期に開花しています。栽培上特に注意することはなく、現在は比較的明るい場所でデンドロビウムやカトレアと雑居しています。写真は浜松温室にて10月21日の撮影です。


Coelogyne rochusseni

Dirmorphorchis lowii

 本種は1.5-2m程の下垂した花茎の上下で花の形状や色が異なるユニークな大型のランで、ボルネオ島固有種とされます。下写真が本種の画像です。現地ラン園OOI Leng Sun Orchidsでは海外向けネット価格FS株を45ドル、約5,000円程で販売しています。日本国内のラン園ではその5倍から8倍の2-4万円の販売価格が見られます。本サイトでは写真に示すFSサイズでおよそ国内価格の1/5から1/10の4,000円としています。スリット入りプラスチック鉢にバークやクリプトモスで植え付けており、栽培は容易な種です。JGPにもこの価格で出品予定です。


花付出荷前

1株サイズ

10株のプラスチッククリプトモス植え付け
Dirmophorchis lowii

Bulbophyllum refractilingue

 マレーシアラン園より状態の良いBulb. refractilingueが入荷したとの情報で、今回の訪問で33葉程を入手しました。8月の本ページで本種の開花画像を掲載しましたが、Bulb. kubahenseと異なる、おとなしい雰囲気があって誰からも好かれる花フォームではないかと思います。下写真は取り付け前のトレーに並べた状態で、この種では成長が活発な杉皮板にミズゴケでの植え付けとなり、3-4葉を1株とするため10株ほどになります。今回の株は多数のSarawak産Bulb. kubahenseと共にJGP2016に出品する予定です。

  来年の東京ドームラン展は開催期間が2日短縮され、これまで最終日となっていた土日がありません。このため趣味家を対象とする原種販売は、金曜日の内覧会から初日と次の日曜日までの3日間が実質的なセールスとなります。趣味家にとっての例年の、特に海外ラン園への最終日を狙ったディスカウントは難しくなりました。こうした背景から本サイトでは内覧会から本格的に販売を開始するため、初日や日曜日の品切れを心配する方のために今年はプレオーダ受付けを12月中旬から末まで行います。


Bulb. refractilingue

Dendrobium sutiknoi

 国内で非常に高額で販売されていたDen. sutiknoiがマレーシアではSpatulata節のなかでは安価な品種であることを8月の本ページで取り上げましたが、今回の訪問で本種のフラスコ苗があることが分かりました。下の画像が訪問先のラン園で撮影した画像です。近々、訪問でフラスコから出して40㎝程に育てたNBSを20株入手する予定です。


Den. sutiknoi Flask Seedling


ボルネオ島キナバル山セロジネ

 今回のマレーシア訪問で、ボルネオ島キナバル山生息種として知られる、標高600m - 2,700mのCoel. exalataと、1,000m - 2,500mのCoel. monilirachisをそれぞれ入手しました。下写真の上段がCoel. exalataで、下段がCoel. monilirachisです。上下段ともに本サイトで植込み中と、植込み前の状態です。上段は先月の本ページで今年6月にマレーシアにて入手された会員の方から開花写真を送って頂きCoel exalataとして紹介したセロジネと同種で、今回は1株が10バルブ以上から4バルブサイズまでの35株を持ち帰りました。一方、下段のCoel. monilirachisは40株を得ました。いずれも国内マーケットでの実績は見当たりません。

Cole. exalata
Coel. monilirachis


マレーシア訪問

 16日から19日まで会員と共にマレーシアを訪問し、32種610株を持ち帰りました。胡蝶蘭ではPhal. gigantea, lowii, chibae, pantherina, minus, florensensis, malipoense, speciosaなどを、Bulbophyllum はSarawak産kubahense, refractilingua, flavofimbriatum, sigaldiae, spなど、CoelogyneはCoel. cuprea, exalata, odoardii, spなど、またDendrobiumはDen. cinnabarinum, metachilinum Sabah, sutiknoi, spなどで、総重量等の問題から2回に分けての訪問の1回目となります。2回目の訪問も間もなくですが、2回目はニューギニア高地系デンドロビウムとバルボフィラムが主体となります。また今回のコレクター訪問で得た現地に保管している株や、現地情報により次回までに新たに入手可能な株を含めて約50種1,200株程となる予定です。現在これらのCITES申請をしているところです。来週末頃には入手した種を本サイトに掲載できると思います。またそれ以外に、Vandaでは V. deareiV. floresensisなどもあり、これらを纏めて東京ドームラン展に出品します。販売は今月末からです。

海外訪問

 最近の海外訪問での関心事は、コレクター宅訪問と、現地での取引交渉です。これは本サイトでしばしば取り上げていますが、希少種を求めれば求める程、これらが中心課題となります。珍しいランを発見することと価格交渉は、ある意味ビジネスの醍醐味ともなります。目的のランが見つかった場合、入手したい気持ちと、その気持ちに比例したかのような価格がまず目の前に立ち塞がります。趣味家であった間は懐加減で買う買わないは即決できましたが、ビジネスとなると手頃な販売価格と採算性を考えなくてはならず簡単ではありません。ネットから可能な限り生息国も含めた世界中のラン園の価格を調べ、その中の最低と最高の価格に注目し、なぜこうした価格なのかを想像した上で交渉に入ります。ちなみに最も高額な市場はほとんどが日本です。おそらくこれは最初のサプライヤー(1次あるいは2次業者)から世界中の趣味家に渡る経過の中で、幾重かのB to B(業者間取引)によって値段が上昇してゆく結果によるものか、高くても買う人がいるので安くする必要もないからか、市場の流れでそうしているだけなのか何らかの背景があると思いますが、本サイトはそうした既成ビジネスには興味が無く、市場価格をより安価にすることと採算性の観点からのみサプライヤーとの直接あるいは園主を介しての交渉を行っています。

 一例として、Dendrobium lambiiについて8月の本ページで、おそらく日本やタイの販売価格を知ったコレクターから300リンギッド(およそ1万円)でなくては売らないと言われ、バカバカしいと一笑に付して買うのを止めたことを取り上げました。それから2ヶ月が経ちます。Den. lambiiを諦めたわけではなく、一笑に付す、これも駆け引きの一つです。とは言っても、前記した最低価格の存在や、同じ地域に生息している同節で似た別のランの価格等を比較例に挙げるなど、バカバカしさの根拠を説明する知恵は必要です。こうしたこちらの意向を明確にすることは次の訪問での再交渉を見計らった前哨戦と考えます。入手したい心残りがあって意志をハッキリさせない交渉は大方こちらの負けとなります。また一度公言した価格をその場で大きく変えさせることは一見勝ちを得たようでも、売り手にもプライドがあって心理的に好ましくなく、価格を再考する時間を十分与えることこそ値下げの極意です。第一に自国内の、B toBや趣味家販売が主体の現地ラン園に、そんな高額でも良いと買い取ってくれるところはありませんし、ほとんどのコレクターや1次あるいは2次業者であるサプライヤーは海外輸出に必要な、CITES等の輸出許可や植物検疫に関するドキュメントを用意するノウハウもありません。ネット価格やFacebook情報から高額でも売れると思い込んでいる彼らの熱がやがて冷めるのを待つしかありません。無論、これが功を奏しないこともあります。熱が冷める前に海外のどこかのディーラーが虎視眈々とラン仲間同士のFacebookをアクセスしており、儲かると分かれば高額でも良いと買って行ってしまう場合です。こうなると交渉は絶望的となります。一見、高く売れたことは売り手が得をしたように見えますが現実は逆で、ディーラーがいつも買ってくれる訳は無く、稀な幸運を一度でも体験すると、高額販売依存症となり、長い目で見れば得るものはむしろ少なくなります。現地のラン園から、あのサプライヤーはダメと言われ相手にされなくなる所以です。こうした場合はそのサプライヤーにこだわることなく見捨て、振出しに戻り別のサプライヤーを当たるしかありません。

 ちなみに本サイトでは、これまで3年間ほどは、どの国の訪問先のラン園に対しても、希望する品種と個数を訪問1か月ほど前にメールで知らせますが、一度も見積りを依頼したことがありません。それでもラン園では入手可能である限り十万円以上の買い物であっても、品種と個数を常に用意します。ラン園では本サイトの要求に単なる打診は含まれていないこと、納得すればそれらを全て買うことを経験的に分かっているからです。最終的な価格はFace to Faceの駆け引きとなります。最近は特にこの傾向が強くなっています。このため品種の2割程は今日でも合意に至らないことがあります。これを数年繰り返すと互いに相手の思惑が読めるようになり、これは高過ぎるけれど致し方ないとか、その価格では利益が出ないとか、この品質ならば問題ないとか、相互のぶつかり合いで、ほとんどはどこかの値段にランディングはするのですが、それは得をした品種と損をした品種があっても互いに相殺するところであれば良い訳です。新しい品種の売買には、緊張感が常に伴います。見積りを訪問前に行えば、一度決めた価格を変更するのは厄介で、気まずい思いが残り、また互いに相手の微妙な思惑を理解することもできません。

 こうしたやり取りで、やがてラン園では、この種のランはこの位の価格でないと買わないであろうと判断をするようになり、それを前提にラン園は入手先のサプライヤーと交渉を行います。こうしたプロセスが恒常的になると売買は楽になります。信じられないかも知れませんが、現地業者間取引価格は、同じ業者の日本向けオンライン価格(円で表示されたカタログリスト価格)の凡そ1/10 - 1/20です。すなわち10倍以上の価格を日本市場に発信していることになります。アメリカやヨーロッパ向けは1/5程度です。こうした環境の中で、日本人と知りながらも現地業者間取引と同等に対応してもらうまでには大変でした。日本のマーケットの具体的な価格の現状と問題点、仕入れから販売までの管理コスト、中には具体的な四季の灯油代から電気代まで、これらから仕入れ値と販売価格の関係、本サイトが目標とする販売価格や顧客層など、2年ほどかけて訪問の度に説明したことになります。日本でのランの価格がそれほど高いのであれば、その1/5や1/10まで安くすることはないであろう、取引価格は日本向け価格の1/2から1/3で十分ではないかとする当然の心理が現地ラン園に働きます。海外のオンラインショップを見るとWhole-sale Price(卸価格)で3割引きとか書かれています。B toBでも多くて4割引きです。これが多くの表向きの実態であり、バイヤーに対しての現地ラン園の最初のアプローチは最終顧客となる趣味家への価格の半額程度です。これでは日本に持ち帰って販売しても安くは出来ず、マーケットでの革新は起こせません。3割引きではなく、むしろ価格を3割以下にしなさいと言っているのですから、無茶に聞こえます。しかしそれが出来ないのであれば業者を代えること以外ありません。そうした相互のリスクを敢えて覚悟した上での交渉であり、互いに納得できるかできないか、こちらサイドとしては趣味家を背にした代理人としての戦いです。

 希少種であれば高額もやむを得ませんが、日本国内で高額であることがイコール現地での希少種である根拠はほとんどなく、誰かが安く買って高く売れるのであれば高く売るビジネスの基本に忠実なだけで、より多くの利益を目論むことは必然です。また買う人がいるからその価格がある訳です。問題は希少である根拠もないのに希少と買い煽ることです。これは論外です。なぜ出荷元が同じで同じ品種なのにアメリカやヨーロッパの価格と日本の価格が違うのかと考えれば、日本の趣味家に比べ、そうした国の趣味家は価格により厳しいからです。いずれにせよビジネスの世界で、それまでの価格相場に敢えて同調することも、そうした誰かの売値、売り方を非難することも、真似ることも意味がありません。より安く仕入れ、手ごろな価格で販売できるとすれば売り手の努力の結果です。価格の総体が半額であれば趣味家にとって、振り返って、これまでに支払った全購入金額の半分は、これからも入手したいランの購入費に回せた筈です。一体これまで幾ら使ったのだろうと思い巡らせば、ほとんどの人が’げえっ!’となります。趣味家によっては温室の一つも建てられたかもしれません。

 さて間もなくマレーシアに訪問ですが、Den. lambiiに戻れば、そのコレクターであれ、別のルートからの入手であれ、こうしたやり取りの結果、次は幾らになるかが面白いところです。現時点で価格は分かりませんが入手可能とのメールを得ており、一方、こちらの意向は理解しているであろう前記背景を考えれば、おそらく思惑通りかそれに近い価格であろうと期待しています。この種であれば現在の国内価格の1/3以下の2,500円から3,000円とすることが本サイトが扱う条件であり、これで採算を得るには、仕入れ値はさらにその数分の一でなくてはなりません。こうした目論見からも分かるように、現地取引は、現地ラン園の仕入れるコストとあまり違わないことを求めているのです。これは良かれ悪しかれ国内B toBでは無理で、ディーラーを介すことなく現地での経営者直接の交渉取引でなくては出来ません。

 この分野のビジネスは外国となる現地での交渉を、ゲーム感覚に代える気力と楽天的気質が必要と最近は感じているところです。反面、皮肉な言い方をすれば、国内のランの価格が余りに高いので、その販売価格に対する仕入値で良いのであれば現地での交渉に疲れないかも知れません。しかしずいぶん儲けがあると安穏としていてはランマーケットのパイを大きくすることは困難です。現状、かってのランフリークたちが高齢化し引退していく中で、果たしてそうした売買手段で、より広い層に受け入れられるビジネスとなり得るのであろうかとも思います。おそらく来年は本サイトの価格に対抗すべく、国内のラン園でも安くする品種が多数現れると思います。これを一部の品種に留めることなくラン全体の価格を半額以下にできれば、若い趣味家をこの世界に取り込むことにプラスになると考えます。15年前ホームセンターで、12月のクリスマス商戦で売れ残り半額以下となったカトレアを見つけ、これを購入したことが本サイトの原点です。もしこのカトレアが定価通りであったなら買わなかったと思います。手頃な価格がラン栽培を始めるキッカケの一つとなり、やがてそれがランへの魅力となっていけば良いと考えます。こうした背景から本サイトではデンドロビウム、バルボフィラム、胡蝶蘭、Vandaだけでなく、高地系ランもその一つですが、他の多くの属種にも手を伸ばすことを目論んでいます。ベテラン趣味家に対しては、フィリピンン、マレーシアだけでなく、インドネシア、タイなども今後開拓し、来年後半から見学ではなく、現地ラン園購入(直買い)ツアーを企画できればとも考えています。

 一方、これからのランビジネス経営を目論む若者は、この日本の高額販売下にあるマーケットの現状をチャンスと捉え、本サイト以上に自らが海外を縦横無尽に駆け回って現地と直結した独自の取引ルートを築き、切磋琢磨して珍しいランを誰よりも早く、安く入手し、また多くのランを手ごろな価格で提供できれば新たなマーケットを創り出すことが出来るのではないかと思います。国内に留まってのB to B取引のみで低価格販売を行えばやがて経営は破綻に向かいます。東京から九州までと余り違わない往復43,000円の航空料金で、且つ7時間で行ける例えばラン王国マレーシアと、一瞬で現地と情報交換ができるFacebookの時代には、むしろそうした環境を利用した経営者だけが生き残れる世界になってゆくのかも知れません。
 

10月のスケジュール

 今月は1年の中で春に続いて最もランが生き生きとする時期です。その原因は温室の場合、昼間が25-28℃と夜間は15-18℃の多くのランの適温範囲となり、またそれまで開放していた窓を閉めることで夜間湿度が高まるためです。胡蝶蘭やデンドロビウム、特にSpatulata節では新芽が良く発生しています。これに対してバルボフィラムの新芽の発生は、本サイトの温室では晩夏が最も多く見られました。また猛暑の間は根を動かすことが出来なかった多くのランにとっても1ヶ月間と短い期間ですが植え替え可能な月でもあります。

 今月は当初、マレーシアとフィリピン訪問をそれぞれ計画していましたが、ニューギニア高地系バルボフィラムとデンドロビウムの入手、および東京ドームラン展の出品予定のspを含む原種、それぞれ合わせて2,500株およそ80種、約60㎏の荷物となることが予測されるためマレーシアには2回に分けて行くことになりました。この結果、フィリピン訪問は11月に延期です。インドネシアも現在打診中です。

 入荷予定の株は価格と共に順次、本サイトに掲載していきます。 

9月


ニューギニアおよび南米アルゼンチンのランについて

 8月にニューギニア高地のランをインドネシアからマレーシア経由で入手しました。しかしマレーシアに届くまでに、インドネシア内での出荷処理と、同国での検疫が土日と重なり、34℃以上のダンポールの中に1週間近く梱包されていたようで、マレーシアにて開封した時点で、株のほとんどが落葉していました。細菌やカビによる病気とは異なるため、葉が無くてもバルブが生きている限り、適温下に置けば多くは再生できますが、葉が十分成長するまでには半年から1年は必要と思われます。8月の植え込みから現在まで、これらを昼間25℃、夜間は15℃の環境で栽培をしており、1か月を過ぎてやっとDen. curthbertsoniiDen. vexillariusなど幾つかの種で小さな芽が出始めたところです。クールタイプを猛暑時に植え込むと言った暴挙にもかかわらず、9月末頃から200鉢(後記:10月10日時点では410鉢)ほどの株に芽や根が新たに発生したところを見ると現在の環境で良さそうで、苦労する反面、栽培ノウハウは蓄積できそうです。


Den. vexillarius

Den. curthbertsonii

Den. hellwigianum

 当初は年内販売を目指していましたが、こうした状況のため8月入荷株の販売は当面難しく、急遽10月の再入荷を決めました。先週何とかサプライヤーも見つかり、現在、スケジュール調整の段階です。前回の教訓から如何に現地から敏速にマレーシアまで搬送するか、高温状態に長期間置かないことが最重要課題であり、今回は最も短期間に対応できることを条件にサプライヤーを複数の中から選択しました。

 しかし8月の経験で、現地からクールタイプのランを仕入れるハイリスクが良く分かりました。中高温系と同じような入荷の段取りを行うと大けがをします。ハイリスク/ハイリターンであれば、それも一つのビジネスモデルと割り切れますが、それでは知恵が無く、市場価格をリーゾナブルにするためには、如何に敏速且つタイムリーに入荷ルートとそれを支えるそれぞれの国での人脈を築くかが、ビジネスノウハウになるのではと感じています。それには可なりのエネルギーと初期コストがかかりますが、やりがいはあります。若いラン園経営者も多いに海外に出てルートを開拓してもらいたいものです。

 新規入荷予定種は高地生息のバルボフィラムと、Den. curthbertsoniiの複数フォームを含む数十種類のデンドロビウムが対象で、合わせて1,500株相当となる予定です。今度は多くの葉の付いた状態で国内に入荷させ、来年の東京ドームラン展に出品したいと考えています。会員には先行して分譲を行う予定です。このため順化期間から逆算して10月中の入荷が必要となる訳です。

 高地系ランは標高によってColdとCoolタイプに分かれ、前者は夜間栽培温度が8℃、後者は15℃、昼間は共に25℃で良いものの、湿度は高湿度でなくてはならないそうです。特にColdタイプは日本のアツモリソウよりも条件設定が難しく、こちらは例え一時的に栽培が出来ても通年の栽培は特殊な温室が無ければ困難です。このためColdではなく、一般室内用エアコンの温度調整で栽培可能なCoolタイプの種を主に販売する予定です。ちなみにDen. curthbertsoniiはその生息地(標高)に依存するのですがColdから中温までの栽培可能な温度範囲があるようで、なるべくCoolから中温で育った標高の株にしたいところです。それに対して高地系バルボフィラムは、ほとんどがCoolタイプの温度範囲であれば良いそうなので問題ないと思います。
 
 一方、東京ドームラン展でアルゼンチンCLORI Orquideasから今年、ラン1,200株近くを引き受けましたが、こちらは3割がCool、4割が中温、3割が高温タイプで、7月からそれぞれをその適温範囲で栽培しています。これらの開花株は本サイトの今月の開花種のページに掲載しています。発泡スチロールの板にセメダインのような接着剤で取り付けられていた小型種を除けば順化も完了しました。2割程度に作落ちが見られました。

 アルゼンチンランについては今年夏までに価格表を掲載する予定でしたが遅れています。そうした中、情報によると来年の東京ドームラン展にCLORI Orquideasも出店することになりプレオーダーを受け付けているそうです。そうなっては本サイトが今年引き受けたランをこの時期から販売開始すれば、本サイトとは、7割近いランが真っ向から競合することになり、30数時間の苦労をかけて地球の反対側から出店する業者に対して非友好的ともなり、相手のプレオーダー価格を知った上でのドームラン展前の販売は何よりアンフェア-です。このため、すでに販売している一部を除き、少なくともラン展終了までは価格表の公開は控え、温室に来られる人以外には販売しないことにしました。

現在培養中のPhalaenopsis Flask Seedling

 本サイトでは胡蝶蘭原種を始め各属の希少種の自家交配を中心とした培養を行っており、今年末から来年春にかけてフラスコ出しが可能な胡蝶蘭原種の親株の一部を下記に掲載しました。いずれも自家交配親株です。下記以外に胡蝶蘭原種ではPhal. bellina alba, Phal. amboinensis alba, Phal. violacea mentawai coerulea, Phal. violacea norton blue, Phal. amabilis palawanなど多数培養を行っています。


フラスコ(カルチャボトル)約250個、5,000苗培養

Phal. modesta red

Phal. equestris cyanochila (Mindanao)

Phal. lueddemanniana dark solid red

Phal. venosa albesence

Phal. doweryensis

Phal. bellina selected

Phal. javanica albesence

Phal. equestris Mindanao

Phal. gigantea Sabah

Phal. gigantea alba

Phal. speciosa full red

 実生は国内販売も行いますが、海外現地コレクターの持つ希少種との交換に有効と考えています。

Bulbophyllum mirabile

 バルボフィラムの中で最も希少な種の一つと思われるBulb. mirabileが温室にて開花し、その花形状が120年前のM. KromohardjoによるBulb. mirabile Hallier f. とするスケッチ図と一致することを確認したため写真を掲載しました。本種はボルネオ島サラワク州生息とされますが、ネット上での画像の検索ではCh'ein .C.Lee、Nature Photography of Southeast Asiaサイトにある花写真と、1896年発表の前記スケッチ図、およびHarvard大学Hervaria&Librariesの植物標本のみです。前記花写真は花序の一部の画像であり、株と総状花序全体の写真公開は本サイトが初めてかも知れません。表1に本種データを示します。

表1 Bulb. mirabile 
葉長(葉柄含む) / 幅 22cm - 25cm / 7cm - 8cm
花茎(全体長) / 花軸 18cm / 9cm
セパル / ペタル 4mm - 5mm / 2mm - 3mm
バルブ高さ / 直径 1.5cm / 1.0cm
輪花数 / 匂い 40前後/無臭

 本種は上段左写真に見られるように中サイズの種で、右写真は花茎で発生から間もない状態です。中段左は4-5mmの小型の花を40輪程付けた花序全体の画像で、本種の特徴として、下垂した花茎の下部と上部で花が異なり、リップがマゼンダ(写真中央)と黒褐色(写真右)のそれぞれ2色に分かれ、ラテラルセパルの内側の色と模様もそれに合わせて異なります。下垂した花茎の上下でそれぞれ花のフォームが異なるランにDimorphorchis属が知られていますが、本種はセパルとリップに2つの異なるフォームがあり、中段の中央画像が花茎の先端部、右が基部側の花となります。下段写真の左右はそれぞれの拡大画像です。リップおよびペタルには細毛が見られます。果たして1本の花茎に、このようなフォームの異なる花が同時に咲くバルボフィラムが他に知られているかどうかは不明です。


花茎先端寄りの花

花茎基部寄りの花

  栽培は、杉皮板にミズゴケを敷き、アルミ線で固定。環境は高温・多湿、輝度はBulb. kubahenseと同じやや暗い場所に置き、ミズゴケは常に湿った状態を保っています。開花寿命は全体が開花してから凡そ1週間です。別株で、上記環境において新芽が複数出ており、また根張りも活発であることから、本種は低地生息種と思われます。

 不思議なことは、Bulb. mirabileでネット検索すると、多くのサイトがヒットするものの、前記の1例を除いて写真画像がありません。一方で本サイトはマレーシアにて国内販売のみを行う原種専門ラン園より、花の無い状態の株をBulb. mirabileという種名で入手しています。このことはこのランを納入したサプライヤーおよび園主は本種を知っていたことになり、滅多に目にすることのない希少種とされる本種を取り扱うことがよくあるのかどうかです。また前記の写真家も同様で撮影された花が本種とどうして知ったのか、膨大なランのファイルから120年前のスケッチ図に辿り着くのは困難と思われます。ネットではなくいずれかの良く知られた著作物に写真が掲載されているのかも知れません。しかしいずれにせよ、市場で売買のある品種であれば、ラン園のカタログにあるか、ネットに画像がそれなりの数ある筈です。

 Ch'ein .C.Lee氏は写真の解説で”highly unusual Bornean orchid”(極めて珍しいボルネオのラン)と述べていますし、マレーシア国内での取引価格として、3株程に株分けできる大きさの株でしたがBulb. kubahenseよりもはるかに高価であったことを考えると取引は少ないものの、その筋の世界では高く売買できる品種としてサプライヤーが日ごろ心に留めているランの一つなのかどうか。一方、そうした見方とは正反対に、上写真中段左のように花が小さく地味で写真映りが良くないのでカタログに載せ難く、そのためもあって市場での関心が低く流通が稀となり、ほとんど忘れ去られた品種になっていたのではという見方もあり得ます。こうしたspや希少種に対して憶測することも一興です。しかし、小さな花とは言え、花のサイズに比べて大きなリップが、舌のように飛び出した何とも奇怪な形をしており、またなぜ花茎の上下で色や形を変えなければならない進化の過程があったのか、こうした形であるが故に寄せつけられるポリネータとはどんな昆虫なのか不思議です。マゼンダ色リップの方の花は見せかけで、交配は黒いリップの花の方でしかできないそうです。

Coelogyne sp (Coel. exalata)

 今年6月、マレーシア Putrajaya Flower Festivalにご一緒した会員の方から、ラン園にてCoelogyne spとして入手された株が今月開花し、その写真を送って頂きました。写真のセロジネは前記Coel. odoardiとは異なり、リップを除く花被片全体が、マスカット・アレキサンドリアのような上品な色で、その方が調べられた結果、Coel. exalataではないかとのことです。ボルネオ島キナバル山600m - 2,700mに生息するクールから中温系とされます。

 国内のネット検索ではヒットできず日本には初めての入荷かもしれません。また海外を含めて価格も今一つハッキリしません。前記したようにセロジネは生息地よりも海外で人気が高まっており、前記Coel. odoardiusitana、また本種のような美しい珍種が現れてくると、世界中でセロジネの趣味家が増え、現地業者がマーケットに関心を持つことで、これまで名前も価格もアバウトであった状況が一変し、高額になったり、spからのサプライズも少なくなるのではと、さて歓迎すべきことかどうか悩ましいところです。

Coelogyne exalata

Coelogyne odoardi

 本種はボルネオ島の低地林冠層に生息し、セロジネの中では花の色が柿色をした個性あるフォームで、下垂する花茎に同時10輪程の花をつけます。中-高温タイプで栽培は容易です。花茎が長く下垂するため、バスケットにミズゴケか、クリプトモスあるいは素焼き鉢の吊り下げ栽培となります。本種の入手は難しいとされますが、本サイトでは入手ルートが確立したため、比較的安定的に供給できるようになり、これまでの本サイト価格を4,000円から3,000円に改定して趣味家に対しより購入し易くしました。

 ネットで検索したところ、国内のあるラン園の2年程前のオンラインカタログには本種が10万円で販売されており驚きました。現在の市場価格は分かりません。本サイトの価格が従来の相場から見て非常に安価であることから実生かあるいは別種ではと思われるかも知れませんが野生栽培株です。本サイトが撮影した写真を下に掲載します。セロジネは不思議なほど生息国ではデンドロビウム、胡蝶蘭、バンダ等と比べ関心が薄く、今後、多くのspや新種が現れるのではと思います。現地のランコレクター宅を訪問しても、栽培が少なく希少と言うよりは入手難です。本サイトの所有株でも名前が分かっている種よりもspのほうが多く、これらはカタログに記載していません。それだけに価格は手ごろでコレクションにはここ数年がチャンスです。ただ現時点での日本の市場価格は前記Coel. odoardiに見られるように、流通の少ない品種の多くが現地入手価格に対して余りにも高く、本サイトでは手ごろな価格で提供する予定です。

 セロジネの花は薄黄や薄緑色のセパルペタルに、茶のストライプをもったリップフォームが多く、どれも同じようで今一つと思っている方が多いのではと思いますが、写真のようなインパクトのある種もあり、これが2-3本の花茎にそれぞれ十輪程の大きな花が垂れている景色はなかなかのものです。このほか、フィリピンのCoel. usitanaやマレーシアのCoel. xyrekesなども大きく個性ある花を開花させます。これらはCoel. odoardiの同時開花とは異なり、花茎当たり1輪毎に長期間咲き続けます。


Coelogyne odoardi

Bulbophylum magnumとBulbophyllum aeolium

 2013年発表のBulb. magnumはフィリピン固有種で、6月の本歳月記で取り上げました。今月のフィリピン滞在記にも書きましたW. suarez氏が発見者です。2年前の新種のため情報がほとんどありません。今回フィリピン訪問で、花形状が面白いことと栽培しやすいことから追加で20株程(バルブ数で40本)を入手しました。一方、Bulb. aeoliumは俗名が色変わりバルボフィラムと呼ばれ、黄緑色のベース色に赤いリップが特徴で、Bulb. uniflorumに似た花形状ですがネット画像を見ると、リップを含め全体が黄緑色や赤味の強い色など様々です。こちらはJ. Cootes氏が著書でbeautifulとかextremely variable(美しく、色変化が極めて多彩)と形容しているバルボフィラムのため興味があり、こちらも同数を入手しました。

 問題はこれらや、Bulb. virescensなどbeccariana節のようにバルブからバルブを繋ぐ茎(リゾーム)が長い種は、所構わずリゾームが伸び、半年もすると鉢やバスケットを超えてしまうため植え込みが厄介で、ネットではよく広い浅鉢に植え込まれた画像があり本サイトでも数年前まではそうした方法で栽培していたのですが、開花した状態がどうも不自然で、本サイトでは杉皮板にミズゴケを敷き、細いアルミ線で縛り吊り下げています。こうして取り付けたほとんどのバルボフィラムは上に向かってリゾームを伸ばし、自然界と同じような格好(生息地で撮影された画像)で花を咲かせています。

 ラン園にはいつもリゾームを切って小さな株単位にしないようにと要求しているのですが、今回フィリピンから入手したこれらの株は、ラン園に株を納めたサプライヤーが初めてなのか、すでにバルブ毎に切られており、どうするか悩んだのですが、これら2品種はいずれも希少種の部類であるため止む無く入手しました。通常サプライヤー側では出荷する際、根を長期に乾燥させないようにフィリピンの場合はヤシガラ繊維で根を覆うのですが、これがリゾームの長い、細長く伸びた株の場合は厄介で、かと言ってミズゴケで根を包んでぐるぐる巻き(マレーシアはこの方法が多い)にするのは手間がかかるかミズゴケのコストが問題なのか通常、バルブ単位に切って、ヤシガラ繊維を巻きつけています。細かく株を分けて売りやすくすることも目的の一つです。いずれにせよ、こちらの要求を理解してもらうには1年以上かかります。

 これらを植え付けたのが下写真です。こうした種は強靭なのか、そのほとんどで1本しかないバルブにも拘わらず新芽を発生させています。温室栽培ですと1年で精々2バルブの発生で、元はBS株ですから2バルブもあれば花が付くこともありますが、やはり3バルブは欲しいところです。寄せ植えして鉢当たり複数株にする方法も1本毎に分かれたバルボフィラムには合いません。こうした株は新芽と新根を確認したものだけを販売することにすれば枯れることはないものの、もう一つの問題は価格です。バルボフィラムの価格表は3バルブ以上を基準としており、1バルブ + 新芽の価格をどうするかは決めていませんでした。リゾームの長い種はこうした背景からバルブ単位の価格が必要になります。


Bulb. magnum

Bulb. aeolium

Bulb. aeolium (1Bulb + New growth)

 そこで上記のような新種や入手が難しい高額種(通常3,000円以上)の場合は1バルブ + 新芽の計2バルブで1,500円を検討中です。これまでBulb. magnumは3 - 5バルブを6,000円としていましたが、現在の改定では4,000円となっています。よって凡そ均衡がとれていると思います。栽培に自信のある趣味家はこのタイプの方が入手しやすい価格であることと、多くは野生株であるため1株毎のフォームの違いを期待すれば子株を複数購入することも方法かと思います。

  では、1,000 - 2,000円台の一般種で1バルブ販売はどうかと、栽培のベテランから言われそうですが、もし1000円以下か前後を1品種(株)のみ注文される場合、宅配便費とあまり変わらない価格となりますが、株そのものの単価は可能であっても、搬送のための出荷(洗浄や梱包等)コストを考えると、現在の販売方式では対応できません。
 

Dendrobium anosmum f. superbumとcluster

 今回のフィリピン訪問の目的の一つはDen. anosmumのクラスター(大株)を入手することでした。フィリピンのDen. anosmumはマレーシア産Den. anosmumに比べて一回り大きく、クラスタータイプともなれば多輪花での迫力が期待できるとの思惑からです。フィリピンラン保存協会のメンバーの一人がクラスター株をもっているとの情報が入り5株入手しました。一方、いつものラン園に行って、園主にその話をしたところ、本サイトが入手した価格を聞いて、なぜそんな高額で購入したのかと怒られてしまいました。日本市場の販売価格から見た仕入れ値としてはそれほど高いとは思いませんが、フィリピン国内の業者間取引としては高いのでしょう。

 一方、園主は野生株から株分け(高芽採り栽培)したDen. anosmum f. superbumを持っており、今回はこれを15株入手できました。superbumは4倍体と思われますが、花サイズがフィリピン産Den. anosmum一般種の1.5倍ほどあり、マレーシア産の2倍程度ではないかと思います。香りも強いそうです。現在は開花期ではないので花を見ることが出来ませんが、来年早春の開花を期待しています。下写真はいずれもDen. anosmumで、左がクラスター株、右が1mを超える長さのDen. anosmum f. superbumでいずれもヘゴ板に取り付けたままの入荷のため順化は不要です。この株サイズのf. superbumであれば1株当たり20-30輪ほどの開花となり、一斉開花は壮観と思います。

 ネットでDen. anosmum名を見ているとDen. anosmum (superbum)あるいはDen. superbumとした表記があったり、Den. superbum var. giganteumがあり、前者が一般種、後者は4N体と思われます。今回入手したDen. anosmum f. superbumは4N体で、花サイズは3インチ以上の大きさとなります。


Den. anosmum cluster

Den. anosmum f. superbum

 クラスター株は、保存協会の人が言うにはここまで大きくするのに10年以上かかったとのことです。このクラスター株の本サイトの販売価格は15,000円(左写真左側の株サイズは8,000円)となりますが、Den. anosmum f. superbumは3,000円で販売予定です。ただ当面は株サイズがいずれも大きく搬送が厄介なため、本サイト温室へ直接取りに来られる方に限ります。

Flickingeria (Dendrobium) scopa

 Cootes氏の著書Philippine Native orchid Speciesを見ていたところ、リップ先端にモジャモジャした黄色の髭が生えたような面白い花の画像があり、一度実物を見てみたいと、ラン園に取り敢えず20株のCITES申請を依頼しました。このランはFlickingeria scopa (http://www.orchidspecies.com/flickscopa.htm)と言い、SynonymとしてDendrobium scopaともされます。ラン園を訪れたとき、ベンチに横たわった1mを超える草とも低木ともとれる植物が山積みになっており、これは何と伺ったところ、これがFlickingeria scopaとのことで、聞いた瞬間、シマッタと思いましたが後の祭りです。花形状に気を取られ株の大きさをチェックしていませんでした。抱えることが出来ないほどの20株を見て、一体これを温室のどこに置くかがまず頭を過りました。5株ほどの申請にしておけばと後悔です。これが下写真です。ラン園がすでに20株仕入れてしまった以上、それではそれを5株とも言えず止む無く20株を入手せざるを得ませんでした。このサイズのランが立ち性の着生ラン(一部は地生)であることを考えると一度自然界での様態を見たいものです。


  花形状が奇怪でデンドロビウム近縁種でもあり、前記リンク先のページ内のMore Plant and Flowersにある画像では、髭の生えた100輪ほどの花が一斉に咲く華やかさです。これならば販売可能と思い、さて価格を決めようとネットを調べたのですが価格検索で全くヒットしません。余り取引がないのでしょうか。前記著書によればフィリピンでは道沿いの露天商が上部をカットして短くし、カトレアと称して販売しているとのことです。どうやら露天商らはカトレア・コンプレックスなのか、買った客は花が咲いて髭の生えた花を見て珍しいカトレアと思うのか、こうしたジョークが通用するのは一面、大らかで良いとは思いますが。仕入れ値はDen. miyasakiiと同じで、やや高額の部類でしたが大きな株で2,500円の予定です。

フィリピンからのEMS

 9-10日は栃木・茨城で記録的な豪雨となりました。被害に遭われた方々にはお見舞い申し上げます。ここ浜松も8日には冠水被害が相次ぎました。本サイトの温室は大平台という名の通りの台地にあり、高台のため水害の心配はなく無事でした。福島会津に2年半前まで住んでいましたが、震災の教訓から、移転先については津波、水害、土砂災害が無い場所をと、ハザードマップだけでなく開拓前と後の地盤も徹底して調査して決めた場所のため自然災害は台風以外は安心しています。

 先週フィリピンを訪問した際、フィリピンの祭日と重なり植物検疫書類が間に合わずEMSによる発送を依頼して帰国しました。今週月曜日(7日)までPOS展示会があり、購入品に展示会での入賞株も含まれたため、全て纏めての発送に代え、この発送準備が火曜日(8日)に行われ、金曜日(11日)に浜松の温室に到着しました。8日深夜にマニラを離陸し、10日に成田にて通関手続きとなり、その日の夕方6時成田から浜松に郵送。今回は実質マニラから僅か3日半のDoor to Doorの到着となりました。これまでのEMS搬送としては最短の日程となります。いつもこのような日程であれば、帰りは手ぶらの方がはるかに楽で良いのですが、そうはいかないのがこれまでの経験です。

 荷物は下写真上段左の3箱(各サイズ1.1m x 40㎝ x 40㎝)となりました。それぞれが20Kg前後の重さです。左の箱の上にフィリピンにてのCITESと植物検疫書類が、また成田での納税通知書(赤枠)が張り付けられて届きます。上段右は箱から出し温室に収めたPOS入賞のVandaです。1位から3位まで入手しました。それ以外に廉価版バンダが15株あります。


 中段は梱包を開けたときの状態で、成田での検疫を経ているため、出荷時とはかなり変わっていると思います。左写真の左下がDen. miyasakii (本種は3,000円で発売予定)、同左上がBulb. sp (シナモンの香りのあるJGP2015で販売したTripdiensに似た種)、同じ箱の右側がPhal. equestrisです。綿の下はVandaが収まっています。右写真の箱の左側はBulb. aeolium、Bulb. magnum.、Bulb. lasioglossumが混在しており、右側がDen. schuetzei (BS株2,500円で販売予定)です。下段は箱から取り出した状態で、左写真の左側がBulb. spで花が付いておりBulb. reculvilabreの可能性があり、右はBulb. magnumです。右写真は左側Den. schuetzeiと右側Bulb. aeoliumです。黄色のトレイの深さは20㎝ですのでこれらの株はかなりのサイズとなります。このほかFlickingeria (Dendrobium) scopa、Vanda ustii、Den. anosmum f. superbumなどを入手しました。Bulb. spは4種程あります。今回の入手株数は343株となりました。

  梱包から写真下段に見られるようなトレイに並べた後、直ちに耐細菌とカビ系の薬品散布を行い、扇風機で微風を与えた場所に一晩置いて自然乾燥させた後、植え付けを始めます。Vandaは写真のように吊るした後の薬品散布となります。こうした手順を踏むか踏まないかで歩留まりはかなり異なってきます。写真に見られるように、今回の状態は非常に良く、およそ順化期間(新根の発生や葉の伸長確認)は1ヶ月程度と思います。Door to DoorのEMS搬送でランを購入する際、安心できる海外ラン園は東南アジアには余りなく、本サイトの実績からはフィリピンではPurificacion Orchidが唯一信頼できるラン園です。

 一方、先週から気温がやっと28℃を下回るようになり、8月から9月上旬までは猛暑で根を動かすことが出来ないため発送を控えていた注文株を順次発送することができるようになりました。

 ところで本サイトは来年の東京ドームでのラン展JGP2016に、今年に続いて参加することになりました。来年は2ブースを借りることになり、品揃えとその順化期間を考慮し、10月から準備に入ります。特にニューギニア高地系デンドロビウムとバルボフィラムをどう出品するか、これらの価格はほとんどの品種を2000円台でと考えています。隣にフィリピンPurificacionとエクアドルMundifloraのそれぞれ1ブースの計4ブースが同じラインに並ぶことが出来るようにそれぞれのラン園と申し合わせをし、JGPに検討を依頼しています。これが可能となれば通訳を買ってでることができますので来場者も気楽に質問等ができると思います。ここにマレーシアやインドネシア、ミャンマーなどの新規ラン園が合同できると良いのですが、今年は出店締め切りを過ぎたため、再来年は実現できるように努めてみます。 

Trichocentrum jonesianum最花期

 2月のJGP2015でアルゼンチンClori Orquideasから引き取ったTrichocentrum jonesianumが温室で開花期をむかえています。アルゼンチンを代表するかのように他のランとは別扱いで大事そうに持っていたのも頷ける、豹紋柄の個性ある花で良く目立ち、野生株であるのか一つひとつがそれぞれ微妙に異なり同じフォームがありません。

Trichocentrum jonesianum

 本種は下写真のように葉がParaphalに似て固く長い円筒形状で、本サイトには5葉から40葉までの株があり、20葉までの株に対して1葉当たり400円として販売しています。よって写真右端は5葉で2,000円、左端の大株は15葉あり6,000円となります。すべて順化完了株で3月からの半年間で発生した新芽あるいは新根付です。凡そ現在の市場価格の1/3を目論んでいます。南米産は低温から中温系が多い中、本種は中温から高温栽培で良く成長します。


Trichocentrum jonesianum

フィリピン滞在記

 8月30日から9月1日までフィリピンに、POS主催 Mid-Year Orchid & Garden Showに合わせて出かけました。主な目的は来年の東京ドームラン展の打ち合わせと、この時期に集まるVanda sanderianaの購入です。Quezon市メモリアルサークルで毎年開かれるこのShowには30程の花キ店が出店し、また別会場には主にランを用いたlandscape作品が展示されます。今年のShowのVanda sanderianaはブルーからレッドリボンまでの全てをDr. Sanchez氏のalbaフォームが獲得していました。これらの入賞株を入手すべく、販売の可否を打診しました。Dr. Sanchez氏とは毎年お会いし、自宅で栽培等の話をしている方であることと、Purificacion Orchidからのバックアップもあり、結果、これらすべてを本サイトに譲っても良いことになりました。10日間に渡ってマニラ中心地で開催されるラン展においてトップ賞から3等となった本場フィリピンを代表するVanda sanderianaを、外国となる本サイトが独占して入手できたのは非常に幸運であったと思います。一方でShow開催中にこれらの展示入賞品を外すことはできないため、展示会終了後にEMSで日本に送ることと、またCITESなどドキュメントの関係(分割できない)により、プレオーダーしていたデンドロビウムやバルボフィラムも一緒の梱包にせざるを得なくなり、海外訪問では初めての手ぶら帰りとなりました。ちなみにこのトップ賞株は本ページの前記「フィリピン訪問」の掲載直後に会員の方が希望され売約済となりました。

 30日の日曜日の夕方にはスコールが来て、多くの人が出店エリア一角の野外軽食コーナーに集まり休んでいました。その中に直前までラン展会場で講演をしていたW. Suarez氏やフィリピンラン保存協会の人たちもいて、1年ぶりに話しができました。またその中に地元のランフリークがおり、Ipadを使って所有している自慢の希少種や珍種を見せてもらったり、ラフレシアの横に寝そべっている写真などを披露し、周りからよくこんな臭い花の横に寝られるものだとか、ワイワイと賑やかな団らんとなりましたが、そのフリークがどこからか小さなバルブのバルボフィラムを持ってきて、興味があるかと聞かれたので、名前を聞いたところ新種と思われるので名前は無いとの返事です。現物を持ってきて見せる程であればと思い、たくさんリゾームが伸びているので1本ちぎってもらえないかと言ったところタダで分けてくれました。今度訪問するときは彼のコレクションを見せてもらえるように約束もしました。

 一方、W. Suarez氏はJ. Cootes氏と共にフィリピン生息のランを多数発見し発表している30代の青年ですが、80㎝x25㎝程の段ボールを持っていたので、中身は何かと聞いたところ、Aeridesの新種とのことでした。Suarez氏とは共にラン園を回ったり、ランの入手を頼んだ仲なので次回フィリピンに出かけた際には子株があれば頂いてしまおうと思案中です。

 前にも記載したように、希少種や変種などを求めるには、一般ラン園ではなく、如何に数多くのコレクターと知り合うかがカギとなります。これはラン園も同様で、こちらから入手難の品種を集めるように依頼すれば、そうしたコレクターと交渉することが必要になりつつあるようです。フィリピンやマレーシアでは訪問毎にコレクターの知り合いが増えるので、この繋がりを大切にし、他方、受け取るばかりではダメなので今年末頃からは本サイトで培養している珍しいフラスコ苗などを持っていき、交換し合うのが良いのではと考えているところです。

 フィリピンはマレーシアと違い料理のほとんどが好みに合います。リーサル公園、アメリカ大使館近くの海鮮料理店オーシャンビューは定番のレストランです。フィリピンの問題は交通渋滞のひどさです。マニラ市中心のQuezonからTagaytayまで渋滞が無ければ1時間強のところを今回は夜9時に出てTaal Vistaホテルに着いたのは深夜12時でした。この国の聞きしに勝る交通渋滞問題はフィリピン経済に極めて悪影響を与えているに違いありません。特にジプニーと呼ばれるブリキでできたような乗合自動車が、決まった停車場もなく、道路の真ん中といわず至る所に勝手に停まって客を乗せたり下ろしたりと、その度に客は、左右後尾に走っている車の前を行ったり来たりし、また交差点に信号がほとんどなくドライバーの感頼りが、交通渋滞の最大の原因で、原因が分かっていれば少しは改善の方法があるだろうと思うのですが、こうした環境がマニラ市の文化そのものになっているようで、容易には変わりそうもありません。

最近入手の主なBulbophyllum

 表は今年に入り入荷したBulbophyllumです。現在、これらの多くは価格表に未記載であり、入荷種名と本サイトでの開花を確認した後に価格表に記載することとしています。開花前の予約は可能であり、ご希望の方はメールにて価格等をお問い合わせください。

Philippines
Malaysia
  • Bulb. aeolium
  • Bulb. debrincatiae
  • Bulb. echinochilum
  • Bulb. lasioglossum
  • Bulb. magnum
  • Bulb. maquilingense
  • Bulb. recurvilabre
  • Bulb. ocellatum
  • Bulb. pardalotum
  • Bulb. saurocephalum
  • Bulb. sp (tripudians sp)
  • Bulb. whitfordii
  • Bulb. sp 多数
  • Bulb. arfakianum alba
  • Bulb. auratum yellow
  • Bulb. claptonense flava
  • Bulb. cleistogamum
  • Bulb. cornu-cervi
  • Bulb. evansii
  • Bulb. granduliferum green
  • Bulb. harbrotinum
  • Bulb. holttumii
  • Bulb. jacobsonii (sumatra)
  • Bulb. lasianthum yellow (Kalimantan)
  • Bulb. mirabile
  • Bulb. membranifolium
  • Bulb. pileatum
  • Bulb. refractilingue
  • Bulb. rothchildianum
  • Bulb. rugosum
  • Bulb. spathulatum
  • Bulb. stormii
  • Bulb. uniflorum (Sabah) / Bulb. variabile
  • Bulb. unitubum
  • Bulb. vinaceum
  • Bulb. virescens red (Sarawak)
  • Bulb. xenosum
  • Bulb. sp 多数

Bulbophyllum kubahense

 本サイトの会員の方から、今年4月に購入されたBulb. kubahenseの画像を頂きましたので掲載します。花芽の発生(8月13日)から開花(9月1日)に至る詳細が撮影されており、本種を栽培されている方の参考になるのではと思います。花数は17輪とのことです。



フィリピン訪問

 マレーシア訪問から2週間を待たずして、8月30日から2泊3日のいつもの短期日程で、POS Mid-Year Orchid Showに合わせフィリピンに出かけました。この時期はVanda sanderianaの名花が集まる時期で、下写真の上段左にあるVanda sanderiana原種albaの優勝および入賞株(青リボンが一位、白が二位、赤が三位)を、また右写真の右上のピンク株を購入しました。それぞれDr. sanchezとVangie Go(POS会長)氏の栽培株です。

 本種は子株からでは開花までに長い年月がかかりるものの、初花が得られればその後は毎年開花するようになります。このため今回は開花している株であることと、廉価に本種が提供できることを条件に打診していた結果、下段左写真に示す開花中の株を15株ほど選別することができしました。写真が示すように廉価とは言え良質な株で、これらは3,000-3,500円で販売 予定です。FS株であり、この品質と花のフォームと してはこれまでにない価格設定と思います。こうした株を現地で本サイトが優先的に入手できるのは、市や国がスポンサーとなっている3年毎のFlora Filipina Expo 2015の議長を 務めたラン園経営者が同行しての買い付け故のことと思います。


Dr. Sanchez 展示品 Vanda sanderiana

Vangie Go 展示品 Vanda sanderiana

Vanda sanderiana 15株程

左の株の一つ ピンク色

 最近では フィリピンもマレーシアと同様に、良い株や希少種を得るには一般ラン園ではなく、趣味家からの入手機会が増えつつあります。前記の方たちは15年以上をかけてVanda sanderianaを 育てている、謂わば趣味家(本職は弁護士、医師など様々)であり、販売はサイドビジネスです。フィリピン原種蘭園としては最大規模のPurificacion Orchidの園主の話によれば生息地のミンダナオ島ダバオでも、2次業者からの優良な株の入手は年々難しくなっているとのことでした。趣味家が何年もかけて選別に選別を重ねて育てていることを考えれば良い株はこうした趣味家に集中するのは必然なのかもしれません。一方で、Vanda sanderianaはフィリピンを代表する花であるが故に交配種も多く、本種に限って言えば入手先(栽培者等)の出所が明らかにできないものは交配種(野生種とMokara等との交配)と思った方が良いかもしれません。本サイトでは頑なに純正原種を守るポリシーです。

 ミスラベルがあったBulbophyllum lasioglossumを得ることも今回の訪問目的の一つです。この種は入手が難しいようで今回は8株のみとなり、再度年内に出かける予定です。ちなみにミスラベルにされたBulbophyllum debrincatiaeは入手がそれ以上に難しいとのことで、本サイトが得たのが最初で、その後入手ができないとラン園の話です。実生を作るようにと依頼されてしまいました。現在温室で開花中であり、早速交配を行う予定です。このためBulb. debrincatiaeは半年ほど発売延期です。同様に実生依頼があったのがDen. philipsiiです。背景は分かりませんが現在入手難とのことです。


Bulbophyllum lasioglossum 左上はLusia cordatilabia


 想定していなかった意外な株を入手することができました。野生のDen. anosmum f. superbumです。一般のDen. anosmumと比べて本種は花サイズが1.5倍ほどあります。実生ならば購入しませんが、今回入手の株は全て野生栽培株の分け株とのことで野生のsuperbumは極めて入手が困難です。ラズベリーの匂いがするそうです。Superbumはハワイ生産が知られていますが、現在市場にある本種名のsuperbumはVanda sanderiana同様に殆どが実生か交配株とのことです。交配種でありながら原種名で流通しているのは培養技術が一般化することの光と影です。価格は今のところ未定ですが会員優先で販売予定です。

 Purificacion Orchidで、相当数のヘゴ板に植え付けられたPhal. mariaeがありました。数えた ところ550株程でした。3割ほどが開花中で、8月の本歳月記に掲載したflavaタイプの花はないかと探したところ1株新たに見つけました。これを 黙って一般タイプと同じ価格で入手するのは気が引けたので、園主にこの株は他と分けて保管し、来年の東京ドーム蘭展で販売してはどうかとアドバイスをしま した。このフォームであれば一般種の10倍以上の価格であっても趣味家あるいはラン園が実生化を目論むことが考えられ、購入するであろうと伝えておきまし た。もし筆者と同行した会員の方がおられたら、見つけた者勝ちで一般価格で入手出来たかもしれません。海外のラン園に出かけてまでランを購入するメリット は、価格だけでなく、このように数百株の中から時折、珍種が見つかることではないかと思います。現地のラン園は殆どがフォームの違いにはアルバを除いて無関心です。

8月


Bulbophyllum refractilingue

 今年、マレーシアコレクター宅を訪れた際、携帯カメラで撮影したBulb. refractilingueです。この株は譲ってもらいました。一つの花サイズはDendrobium mutabileほどです。年に3回ほど花をつけていると話していました。これはマレーシアの気候下でです。果たして国内はどうか?現地の状況からBulb. kubahenseと比べてやや明るい場所に置いています。


Bulb. refractilingue

 こちらは900円/葉として2株販売予定です。このコレクターはまだ所有しているようで入手希望者が多いようであれば10月訪問時に再度訪れ打診してみます。ラン園にベアールートでしばらく置かれた株よりは、栽培している株そのものを入手する方が遥かに元気で安心です。

Vanda sanderiana

 フィリピンを代表する花、Vanda sanderianaが現在最花期を迎えています。ミンダナオ島固有種で標高500mまでの低地に生息する着生ランです。現地での開花期は7月-9月で、これは日本での開花期と同じです。ミンダナオ島ダバオ市ではこの花の現地名ワリンワリンを名付けた花祭りがあるほどです。リップのSpurの有無の違いによりVandaとは別属Euantheともされます。

 本サイトでは2008年以降、ワリンワリン祭やPOS(Philippine Orchid Society)主催の展示会での優勝株や入賞株を含む、50株程を所有しています。全て花を現地で見ながら選別したものです。下写真は現在(8月26日)開花中のVanda sanderianaの開花風景です。本種は交配種が非常に多いVandaの一つで、原種として展示会場の販売品を購入する際には、それが原種なのか交配種なのかを確認する必要があります。これがなかなか難題で出店者の言葉よりも、、本種の原種のみを取り扱っている信頼あるラン園主と同伴してアドバイスをもらうか、ラン園名や栽培者名で、あるいは原種部門の展示品や入賞株を入手することが非常に重要です。本サイトではVanda sanderiana原種栽培で知られたダバオのChuaあるいはTagaytayのDr. Sanchezラン園の園主に直接会い原種であることを確認した株、またPOS展示会での原種部門の入賞株がほとんどです。8年近く本種を収集している本サイトでも、原種と交配種との違いを花のフォームで識別することは困難で、展示会場で花を見てこれは良い株ですねと言うと、それは交配種ですと未だもって言われることがしばしばです。


 下写真はこれまでに収集したVanda sanderianaの一部で、すべて原種です。最上段左1枚を除き、本温室内での撮影です。同じ種であるものの色はピンク、ブラウン、アルバ等と多様です。入手が難しいのは黄色です。本種は栽培環境で花色の濃度が変わります。主に栽培輝度に影響を受けるようです。高温高湿、夏季は50%程の寒冷紗による遮光が求められます。ネットでの栽培情報にFull sun(直射光も可)との記載も見られますが、フィリピン現地(マニラ、バタンガス、ダバオ等)の農園やコレクター宅において一度たりともVanda sanderianaに寒冷紗のない栽培環境は見たことがありません。

 Vandaの栽培では根を空中に垂らしたままにする方法と、植え込み材に炭や大粒のバークを用いて気相を大きくし素焼き鉢やポットに植え付ける方法の2タイプがあり、フィリピンのランでは前者の代表が本種で、後者の代表はVanda luzonicaです。このVandaの根の取り扱いを誤ると成長が思わしくなかったり、根腐れが生じ枯れてしまいます。

 フィリピン・バタンガスで大株に成長した大量のVanda sanderianaを栽培する農園を3度程訪れました。この地は高湿な地域ですが、毎回、長く垂れた根を束にして握って確かめて見ましたが、指に着くような水滴はないもののじっとりと湿っており、この根の状態を如何に保つかが最も本種の成長を決定づける栽培条件であることが分かりました。常に湿った状態が良いのならば、ポット植えが適していると思われますが、通風がほとんどないポットの中で、根の一部が植え込み材に触れそこに水が溜まっているとその個所から根腐れを生じやすく、根は全体が通気性のある空中に晒られている必要があります。このような状態を得るには散水頻度と共に空中湿度がかなり高いことが必要で、温室があればタイマー等を付けて霧状の散水を一定間隔で与える最適な環境が得られますが一般室内では困難で、やがて下葉から順次落ちてゆくか、株が次第に痩せていきます。湿度を常に80%以上維持できれば散水頻度は他のラン同様に夏季で1日一回で十分で、冬季はやや控えめとなります。この見極めは根を5-6本まとめて握り、湿っているかどうかを確かめることで、1日の内、根がサラサラとかカラカラ状態が多い環境は本種の栽培に適しません。

 また、本種は定期的で頻繁な施肥が必要です。これを行わないと痩せていきます。現地では小苗の時に植え付けた炭の入った四角形の小さなプラスチックバスケットが大きな株になっても付いたままの状態であるためBS株となった株サイズには不釣り合いな程小さく見えます。ここに固形肥料を置いています。しかし見た目には良くなく、本サイトでは入手するとバスケットは切り取って外してしまいます。施肥は葉や根に液肥を散布することで良いと思います。

 本種は病気害虫には極めて強い反面、高温・高湿・高輝度(夏季の寒冷紗50%、冬季は寒冷紗無し)の栽培環境が適します。また日本での冬季栽培温度は通常、夜間18℃、日中25℃となります。18℃以下の栽培は本種には適しません。しかしこの温度ですと成長が緩やかとなり、古い葉は新陳代謝を止めます。この結果、新芽の2枚程を除き、葉や根にコケが付き始め、これが春から秋までの成長期に影響(光合成作用に対し)を与えます。コケが葉や根に付着しているようであれば春にメラニンフォームスポンジ(激落ちくん)等で取り除く必要があります。一度これをキッチンスポンジで行ったところ、擦ることによって目に見えない傷が葉に付き、病気が大発生した失敗があります。

Vanda sanderiana (全て原種)

  本サイトでは現在、FSサイズの選別株が多く、結果として高額となるため、今秋からは中サイズのこれからVandaの栽培を始める趣味家にとって価格的に入手しやすい(2,000-4,000円)Vanda sanderiana原種を仕入れる予定です。

市場でほとんど見かけない今年新たに入手したBulbophyllum

 マレーシアで今年4月から8月までに入手した、市場ではあまり知られていないバルボフィラムの一部を下写真に示します。上段左のBulb. mirabileについては、ボルネオ島SarawakでのCh'ein .C.Lee、Nature Photography of Southeast Asiaにある写真と、Hallier f. 1896年発表のスケッチ図だけが確認の手段で、市場には流通していないようです。下写真が示すように現在花芽が出ており、これが長く下垂して、他のバルボフィラムでは見られない不思議な形状の花を付けるようで開花しましたら本サイトに掲載します。下段左はBulb. spathulatumのクラスター株です。これで1株です。Bulb. spathulatumはやや低温系で、マレーシアのコレクターが直径15㎝程の木片に活着させ、庭で栽培していたため温度が高すぎて花が付かず、諦めて手放す気になったようです。このサイズで日本円にして3,000円もしませんでした。マレーシア現地でのコレクターとは、買う前に、吊り下げられた株が何かを聞き、栽培経験があればその種の日本での栽培方法などの話題から入るため、初回でも異国間の趣味家同士として親しみを感じるのか、売買の損得勘定が薄いようにも思います。

 下段中央は新種なのでしょうかネットにはほとんど情報がありません(後記:その後の調べで、Bulb. harbrotianumとした名はラン園のスペルミスで正しくはBulb. harbrotinumでした。ボルネオ島Sabahの新種だそうです。Bulb. jacobsoniiに似た花ですがBulb. jacobsoniiは長く垂れた花は4片ですが、本種は8-10片の別種です)。

 下段右はSabah産のBulb. variabileとして入手したのですが、Bulb. uniflorumではないかと思います(Bulb. variabileとBulb. uniflorumとはSynonymsの関係)。本サイトではリゾームを切って細かく分割したものは買わないという方針を伝えているため、1株は3バルブ以上8バルブ程で、この結果、リゾームの長い株のポット植えは厄介で、下段右写真のように細長い60㎝杉皮板に取り付けています(後記:花写真を掲載していましたがSulawesi産のuniflorumで、Sabah産は誤りと分かりましたので削除しました)。

 Bulb. mirabileはかなりの希少種のようで交配を予定しているため、しばらくは非売株となりますが、他は花を確認後販売品となります。これら以外にも海外を訪問するたびに名称不明のバルボフィラムやデンドロビウムが溜まるばかりです。開花確認次第、順次花と価格を掲載していきます。


Bulb. mirabile

Bulb.arfakianum alba

Bulb. evansii

Bulb. spathulatum

Bulb. harbrotinum Sabah

Bulb. uniflorum Sabah


Phalaenopsis giganteaと Phalaenopsis violacea dark blue

 マレーシア訪問で入手したPhal. gigantea 実生株とPhal. violacea dark blue Indigoが下写真です。Phal. giganteaは20-25㎝スパン、Phal. violaceaはBSサイズです。いずれも順化不要です。それぞれが1株3,000円と1,500円です。Phal. giganteaは30株入荷しましたが、すでに半数以上が売約済です。


Phal. gigantea

Phal. violacea dark blue


Dendrobium daimandauii

 前記「8月マレーシア現地入手株の一部」で左写真の花のリップが八の字に分かれているかのように見えますがこれは撮影する角度によるもので、角度を変えた写真が下左です。この映像から写真はDendrobium maraiparenseに似ているのですが、違うようでもあります。右のオレンジ色はまだ種名が不明です。中央は左の花の株、右はオレンジ色の花の株となります。いずれも80㎝以上の高さで、大型バスケットに4-5株をスペース節約のため寄せ植えしています。(後記:本種は2011年登録のDen. daimandauiiと判明しました。)


Den. daimandauii

Den. daimandauii 株

Den. sp (orange) 株


Dendrobium aurantiflammeumの栽培近況報告

 Den. aurantiflammeumはDendrobium cinnabarinumと生息地が同じとの意見がありますが生息環境はかなり異なるようで、前者は高温高湿、後者は中温を好むようです。本サイトでは4月のDen. aurantiflammeum入手株はミズゴケ・素焼き鉢に植え付け、また6月入手株はバスケットにミズゴケでそれぞれ植え付けました。これらの結果、同一場所であるにもかかわらず、素焼き鉢での成長は芳しくなく、一方、バスケットは植え付けから凡そ2ヶ月が経ち、移植後間もないこともあり花数は少ないもののほとんどの株が開花し、また開花後の状態変化は栽培環境の良し悪しを暗示するのですが、この猛暑の悪環境の中、下写真に見られるような新芽が8割以上の株で発生しています。間もなくすべての株で新芽が現れると思われます。

 過去2か月間の温室の温度は昼間32℃-34℃、夜間24℃-26℃、夜間湿度80%以上、輝度は晴天日は70%寒冷紗、曇りの日は寒冷紗を掛けません。70%はそれが最適と言うことではなく、温度上昇を抑えるためで、32℃が保てれば50%の方が良いかも知れません。一方、Den. cinnabarinumは中温環境のミズゴケ素焼き鉢で、夏季で最大28℃、夜間18℃-20℃で栽培し順調に成長しています。こちらもバスケットの方がより好ましかった様にも感じています。次回(10月)の訪問で入手するDen. cinnabarinumはバスケットで状態を調べようと思います。

 バスケットと素焼き鉢の違いは乾湿の時間変化とその分布(バスケットは6面均等)以外考えにくいのですが、Den. aurantiflammeumもDen. cinnabarinumも決して乾燥させることはしません。温室の湿度が高ければ夏季は1日一回、夕方のかん水です。肥料は植え付け1か月後の6月末にグリーンキング1回を置き肥しました(下写真の中央と右に黒い塊が写っています)。通常であれば置き肥は4月と9月末が良いと思います。

Den. aurantiflammeum


マレーシア滞在記

 最近は東京に行く回数よりもマレーシアかフィリピンに行く回数の方が多くなり、クアラルンプール国際空港では脇目もふらず入国手続き、園主のピックアップが無ければエアーポートタクシーでと、迷うことなくホテルに行くと言うより、通っている感覚になってしまいました。

 今回はセレンバン市とは国際空港からは逆方向のクアラルンプール市内のシャングリラホテルに宿泊のため、エアポートタクシーを利用しました。タクシードライバーからどこの国から来たのかと聞かれたので、あなたはどう思うかと逆に質問したところ、黒いつば無しキャップを頭に被っているためか、チャイニーズムスリムかと 言われてしまいました。つまり中国系イスラム教徒ではないかとのことです。私は日本人の顔をしている筈だが、どうして中国人なのかと聞いたところ、中国系イスラム教徒はマレーシアにそれなりに居て海外からの訪問者がいるが、日本人でイスラム教徒は見かけたことが無いからだとのことです。なるほど顔よりもキャップかと納得しました。

 これをシャングリラホテルに着いたとき、玄関ドアーからチェックイン、部屋までエスコートをする案内嬢に、ドライバーに中国人ムスリムと言われたがあなたはどう思うかと聞いたところ笑いながら私もそう思うと、こちらでもです。最近は年のせいで頭の毛が薄くなってきたので被っていると言ったところ、笑って良いのか悪いのか困った顔をしていました。同じように翌日、こうしたことがあったと園主に話したところ、まずほとんどのマレーシア人はそう思うであろうとのことです。確かにこの国の首相や政治家のポスターがあちこちで見られますが、こうした人たちは必ず黒いキャップ(キッパ)で写っています。黒と白色の2色があるがこの違いは何かと聞いたところ、白はメッカ帰りを示すものとのことでした。キャップを付けている場合と、ない場合の違いは公式と非公式だそうです。よって私が黒ではなく白いキャップを被っていたらと聞いたところ、100%中国系イスラム教徒と思われると笑っていました。

 それでは今度白いキャップをして中華レストランでポークを美味そうに食べていたら、私は何と思われるかとさらに聞いてみましたが、返事がありません。つまり宗教への侮辱と捉えられないかと心配しての質問なのですが、質問が難しすぎました。今度は昔、立川談志がしていたようなヘヤーバンドに代え、職業を聞かれたらアーティストだと言ってみようかと考えているところです。2日目からはセレンバン市の1年以上滞在を止めていたロイヤルビンタングホテルとしました。従業員に笑い顔が無く、また洗面台で茶色の水が出てから2度と行くまいと決めていましたが、6月の訪問でそれまでのホテルで部屋が取れず止む無く1泊したのですが、大幅な改築とホテル管理者が変わったようでサービスも様変わり、4つ星のそれなりのホテルになっていることが分かったためです。クアラルンプールの5星のシャングリラホテルとは比べられませんが現在のレベルであれば文句はありません。エアコンの騒音もなく、シャワーのお湯もすぐ出ます。ランを買い付けに行くだけならば、1泊1万円以上もするホテルよりも、もっと安いホテルにして、滞在費節約分のランを買うか、あるいは販売価格を下げてはどうかと思われるかも知れませんが、これは安全のためです。特にフィリピンでは航空券はエコノミーであってもホテルは身の安全のためセキュリティのしっかりしたホテルが必要です。

 前回も今回もセレンバン近くのオーキッドハンターの家を尋ねました。彼らは普段は山菜や山で取れるドリアンなどの果物を販売し生計を立てているのですが、副業として時折、ハイウエイの路肩に出てランを含む花木を販売するそうです。代々そうした生活をしている人々であるため、山は誰のものでもなく彼らの生活空間そのもののようです。かってこの地域では今は見かけなくなったPhal. maculataを含め多くの胡蝶蘭原種が生息していたとのことです。山の斜面を削って平地にした狭い土地の庭に物干しざおがあり、洗濯物と並んでランがぶら下っているのには驚きです。英語が通じないのでハンターと園主との話しは分かりませんが、おそらく今何が採れるのか、こんなものを見つけたなど話し合っていると思われます。注文を受けると1日待ってくれとなり、翌日ラン園まで運んでくるところ見ると、山のどこに何があるかを熟知しており、注文後に山に入り採取してくるようです。まるで山全体がハンターたちのラン農園です。バルボフィラムや種名不明のランが多く、ぶら下ったランの値段を聞いたところ、種や大小に関わらず片手で持てるものはほとんどが1株10リンギッド、310円です。同じような環境が中国とベトナムやミャンマー国境沿いの山岳民族にもあり、こちらはほとんどが1株1ドルだそうです。生息状況(珍しいか良く見かけるものか)についての質問にそれぞれ答えてくれるのですが値段は変わりません。彼らの子供たちの教育のためには現金が必要なのでしょう、ランを含め自然の恵みを販売しているのですが、海外からの訪問者に対しては山採り品の輸出制約があって、こちらの期待通りにはいきません。このような山中の自給自足に近い生活は過酷であろうと思うのですが、ハンターや子供たちの顔は屈託がなく大らかで、常に笑い顔があり、ホテルの従業員よりも余程親しみが持てます。別れるときに握手をするのですが、握手一つで相手の性格が分かると言います。山男のその分厚くごつい手に似合わぬ柔らかな力で握手されるその感触にまた驚きです。

8月マレーシア現地入手株の一部

 マレーシア訪問で入手したデンドロビウムの一部を取り上げます。spについては現在調査中です。右写真は園主からの提供。他は本サイトの浜松での撮影(20日)です。

Dendrobium sp (daimandauii)

Den. bifarium

Dendrobium sp Sumatra

 取り敢えず、Den. bifariumは2,500円、左右のspは1m近い大株ですが、3,500円を予定しています。

Dendrobium sutiknoiについて

 Dendrobium sutiknoiはSpatulata節、中サイズのデンドロビウムでニューギニア生息種(http://www.orchidspecies.com/densutiknoi.htm)です。会員の方からの入手希望が比較的多く、花に特別特徴があるとも思えず、なぜなのかが不思議でしたが、国内のあるラン園の販売価格を見て驚きました。6万円です。ちなみに本サイトでは3,500円で、Spatulata節では最も安価です。会津若松の知人からランを譲り受けた中に8年ほど前、インドネシアSimanisから1株20ドルで10株購入した本種があり、Spatulataデンドロビウムの中で一緒に育てていましたが今一つ目立たないランであったため関心がありませんでした。本種は移植(環境変化)に弱いようで、疑似バルブは常に1-2本程度が生きているものの、古いバルブが枯れると新しいバルブが発芽するため大きくならないが、小さくもならない様態が続いていました。昨年秋の株の植え替えでとうとう1本程の若いバルブとなり、今年3月に東京ドームラン展で引き取った南米のランのためのレイアウト変更に伴い大幅な整理が必要となった際、これらを処分することにしました。その前に6万円と分かっていれば処分することはなかったかも知れません。某ラン園が6万円を付けた背景が分りませんが、あくまで業者とその価格を支えるのは消費者(趣味家)です。

 そこで今回マレーシアで、Den. sutiknoiの入手を打診した結果、クアラルンプール周辺の2農園がかなりの数を持っているとのことで伺ったところ、ここ2ヶ月程で全て売り切れたとのことでした。Cleisocentron、Bulb. kubahenseの次はDen. sutiknoiかとやっと知りました。偶然にも17日にコレクター宅を訪問した際、Den. sutiknoiの株が2鉢あり開花中でした。これまで知っているサイズに比べ大きな花であったため見ていたところ、希望ならば販売すると言うので価格を伺いました。1株40リンギッドとの返答です。すなわち1,300円です。前記した2つのラン園が短期間で手放したのは、おそらく150-200リンギッド程の高額の売値が付けられたからではないかと想像します。そのような価格でも買うのは日本人くらいと思います。Spatulataデンドロビウムで現地での仕入れ値が150リンギッドを超える種は本サイトが知る限りありません。10月再訪問で本種をまとめて40株ほど仕入れるか、あるいは静観しているか検討中です。本サイトとしては、未だこうしたランをこうした価格で入手する趣味家心理が読み取れません。つまり、そのランが正真正銘に極めて希少であり、今後ともに入手が困難であると言うのであればコレクターの心理として理解できるのですが、なぜ現地取引価格ではあるものの、今現在で1,300円のランを40倍以上の数万円も払って買うのかがです。

 似た話に、今回のマレーシア訪問で、会員からの問い合わせもあり、ボルネオ島Sabah生息のDendrobium lambiiを購入リストに加えていました。ところがマレーシアのラン園主が言うのには、タイの某ラン園がおよそ10,000円の販売価格を付けているそうで、このラン園は日本との関係もあるので、おそらく日本での販売価格を知ってのことでしょうが、この情報を知ったマレーシアのコレクターが、300リンギッド以下では売らないと言いはじめたとのことです。それを聞いて一笑に付し購入を止めましたが、日本市場の高値には全く困ったものです。

 再三述べていますが、今や世界中の販売国の価格は供給国のコレクターやラン園に筒抜けです。それを見て同じような値段で売りたいコレクターの心理も分からぬ訳ではないのですが、こうして販売国並みの価格を要求して多くの株を抱え込み、栽培環境(クール系のための冷温室)や技術(病害虫防除などの対策)が十分ではない彼らは、やがて貴重なランの多くを枯らしてしまうことになっているのです。それでも一度でも高く売れたものは決して元の価格に戻すことは心情的にできないようです。

 ラン趣味家がランを買い続けていれば、限られた部屋や温室空間で栽培をしている以上、やがて一杯になり、枯れない限り次の購入は出来なくなります。この結果、ラン園にとって売り上げを伸ばすには、マーケット自体のパイを大きくしていく必要があります。すなわちより広い世代への普及が不可欠で、そうした層の拡大のためには、それなりの価格と正しい栽培情報の提供が求められます。それができなければ需要の総体は、趣味家の栽培技術が向上すればするほど、それに反比例して徐々に低下していきます。これではランを消耗品と見做し枯れることを期待するかのような販売姿勢(普通の部屋で十分とか冬が越せるとかの誤った栽培情報)や、商品への過剰な形容と高額販売が生まれないともかぎりません。

Dendrobium aurantiflammeumとDen. cinnabarinum

 今月のマレーシア訪問の目的の一つにDendrobium aurantiflammeumの入手があります。これまでの訪問で40株を入手しましたが、今回は15株となります。園主の話ではこれが最後で、今後はまず入手はできないであろうとのことでした。マレーシアラン園の内、1ラン園が6月まで本種をオンラインカタログに載せていましたが、現在はどのラン園からも消えてしまいました。今後はコレクター以外からの入手は難しいと思われます。こうした状況から本サイトではすでに注文を受けた会員への販売のみとし、今後の本種の販売は停止し、在庫株は実生つくりの栽培に用いる予定です。

 一方、Den. cinnabarinumはDen. aurantiflammeumと比べて入手は容易のようで、帰国日18日の翌日に100株入荷すると園主が言っていました。状況を聞いたところ、Den. cinnabarinumは供給に問題ないとのことです。

Dendrobium toppiorumとDen. toppiorum subsp. taitayorum

 今回のマレーシア訪問で希少種とされるDen. toppiorum subsp. taitayorumを40株ほど入手しました。Den. toppiorumは2008年A.L. Lamb & J.J. Woodにより発表されたボルネオ島Sabah標高1200m程の常緑林に生息する比較的新しい中温系デンドロビウム(http://www.orchidspecies.com/dentoppii.htm)で、ミャンマー、タイ、ベトナムに生息する中-高温系のDen. cruentum (http://www.orchidspecies.com/dencruentum.htm)の近縁種とされます。しかしボルネオ島SabahのDen. toppiorumが生息する地帯は近年、パームヤシの植林のためほとんどが伐採され、絶滅したと現地原種専門ラン園で伺いました。

 一方、2010年、P.O.'ByrneによりDen. toppiorumの亜種としてDen. toppiorum subsp. taitayorumが発表され、この種はマレー半島Pahang州Cameron Highlandsに生息とされます。また原種コレクターや原種ラン園の間で、Den. cruentumの地域変種としてDendrobium cruentum Sumatraが知られており、この種はスマトラ島生息種で、近年ではDen. toppiorum subsp. taitayrumと同種と見なされています。すなわちDen. toppiorum subsp. taitayorumの生息域はマレー半島Cameron Highlandだけでなくスマトラ島にも生息することになります。


Den. toppiorum subsp. taitayorum

Den. toppiorum subsp. taitayorum 40pcs


 ここで興味深いのは、Den. tobaenseとの関係です。現在Den. tobaenseは北スマトラ島のToba湖周辺を生息域としており、名の由来ともなっています。入荷するDen. tobaenseの中にDen. toppiorum subsp. taitayorumが混在することがあることは本歳月記で取り上げましたが、これが人為的なミスでなければ、インドネシア経由でマレーシアラン園に入荷するDen. tobaenseとDen. toppiorum subsp. taitayorum (Den. cruentum Sumatra)は同一生息地Toba湖周辺の可能性が高くなります。

 一方、orchidspecies.comではDen. tobaenseの生息域がボルネオ島Sabahと記載されています。しかし現地ラン園では現在ボルネオ島にDen. tobaenseが生息している情報はないとのことです。この生息地ボルネオ島Sabahが正しいとすると、すでにその生息域では絶滅したとされるDen. toppiorumと、現在Sabahの生息情報が無いと言うDen. tobaenseとに何らかの関係がありそうです。すなわちDen. toppiorumとDen. tobaenseの2種はしばしば同一場所に生息しているが故に、ボルネオ島でのプランテーションによる森林伐採で共に絶滅したか絶滅状態にあることと、一方でSumatraからはDen. tobaenseとDen. toppiorum subsp. taitayorumが同一入荷ロットに混ざり合うことの背景も納得できます。本サイトでは順化後のDen. toppiorum subsp. taitayorumを3,500円で販売する予定です。順化後とは入荷により新しい植え込み材で植え付けた後に発生した新根や新芽の発生あるいは葉の伸長の確認後を言います。

 さてそこで今回の訪問で、ボルネオ島産Den, toppiorumがすでに入手ができないと言われる以上、これを得るには現在の絶滅以前に入手したコレクター(趣味家)の栽培株を探し出すしかなく、これを見つけ出し入手することをラン園主に依頼しました。入手できれば当方で自家交配し実生を得ることも可能です。どのランであってもいずれは様々な理由で枯れてしまいます。これを継承するには培養によって苗を得るしかありません。

マレーシア訪問

 15日から19日までマレーシアを訪問しました。15日はお盆のため新幹線や成田空港での混雑を予想しましたが朝の7時の新幹線は空席が多く見られ、また成田空港は閑散としていました。今回訪問の目的は、ニューギニア高地のデンドロビウムの受け取りと、希少種(Den. toppiorum、Den. aurantiflammenumの追加、sp種など)の入手です。今回のクール系デンドロビウムはインドネシアからマレーシア経由のルートとなります。今年のこの時期としてはマレーシアより日本の方が暑く、クアラルンプール郊外では日中32℃、夜24℃程でした。

 当初の計画では8月7日を予定していましたが行く直前になって、インドネシアの猛暑のため、マレーシアに送る予定のクール系デンドロビウムのほとんどの葉がメルトダウンしてしまったそうです。この知らせが来たのが渡航4日前で、直前の日程変更となったため、航空券やホテルの予約変更が大変でした。2度目の発送は1週間後の14日となり、これを受けて訪問を15日としたのですが、16日になっても届かず、このいい加減な時間感覚をインドネシア時間と言うのかと、ほぼ諦めていたところ17日の夜にクアラルンプールに到着し、その夜の荷解きとなりました。遅れた原因はどの国への輸出か分かりませんが大量のNepenthesの出国検査のために後回しとなり、且つ土日と重なったためとのことでした。14日マレーシア到着予定が17日まで遅延したことは荷が3-4日の間、荷送者か空港の検疫倉庫に置かれたことになり、荷を解くに当たって再び全滅を覚悟しましたがほとんどの株は辛うじて生きている状態でした。

 荷中のデンドロビウムはニューギニア高山系の代表種であるDen. curthbertsoniiが以外に少なく、複数色のDen. vexillariusやDen. violaceumが500株以上ある中の半数を占め、一方、1-2株単位で名前が分からない株も多く含まれていました。CITESでは17種程をそれぞれ50株申請しました。高山種の多くはコロニーで成長しているのか、ほとんどの株はまるで芝生のようにバルブが密集状態で、1株と言う単位がなく分割すれば如何様にもなります。おそらく販売単位として5バルブ程のサイズに分割すれば、今回入手したDen. vexillariusは300株程になると思います。またこれまでにないような濃い赤色のDen. curhbertsoniiや、デンドロなのかバルボフィラムなのか判断が難しいバルブ形状の株も1割程度見られます。これらは開花するまで種名は分かりません。

 高温のためのダメージは大きく、マレーシアで荷から取り出す際、持ち上げただけで半数程の葉がパラパラと落ち、床は落ちた葉で一杯になりました。荷解きはエアコンを25℃程に設定した温室で行っているものの、実態は28℃程と思われ、出荷のために傷ついた株にこの温度では葉に水浸状の黒ずんだ斑点が発生し、1日で葉の半分が落ちて行く状況です。

 真夏に高山系デンドロビウムを入手することは無謀とも思えます。しかしインドネシアやマレーシアの低地には冬が無く、日本から見れば常夏であって、寒い時期を選ぶことはできません。また日本国内での搬送は成田から自宅までとなりますが1日程度です。十分な低温環境のある設備が用意されていれば問題はないのですが、やはりインドネシアやマレーシアでの梱包、検疫等の輸出入手続き、搬送等の作業のための低地滞在時間が最も深刻です。

 帰国日から日中は25℃、夜間は18℃のエアコン温室(冷室)で本格的な順化が始まりました。落葉が止まり、新しい芽が発生するまでは目が離せません。さて歩留まりは何%となるのかこれからの3ヶ月が戦いです。10月は高山系バルボフィラムを計画しており、そのための学習と今回は考えています。

Dendrobium sp ? Bromheadia brevifolia (後記)

 マレーシアのコレクターを訪れた際、デンドロビウムとして1株無償で頂いた株が開花しました。このコレクターはマレーシア生息のラン以外は栽培していません。葉形状からAporum節と判断して持ち帰ったのですが、開花した花と類似した種をネットで調べる限り同じような花がデンドロビウムの中に見当たりません。本サイト掲載後、会員の方からの報告で本種はBromheadia brevifoliaであることが分かりました。

 温室で開花した花と株が下写真です。セパル・ペタルの長さは1.2㎝、両ラテラルセパル先端間のスパン長は1.8㎝のサイズであり、リップはカラフルで良く目立ちます。花はステムの先端で開花します。当初は高温系と同居させていましたが、2度程蕾を付けるものの落ちてしまい、栽培環境に問題があるのではと、中温系(高温系から5℃程低い)環境に移したところ開花するようになりました。新根も発生、伸長しています。情報によるとマレーシア、スマトラおよびボルネオ島の600m - 1,600m に生息し、やはりクールから中温系とのことです。取り付けは杉皮板にミズゴケです。さらに調べ、珍しい種であれば再度コレクター宅を訪れ、今度は無償ではなく、それなりの株数を購入してこようと考えています。



Bulbophyllum sp: Bulbophyllum xenosum ?

 マレーシアから入手したBulbophyllum sp株が開花しました。バルブが扁平であり、購入時に付いていた枯れた花茎が細長いことから高山系バルボフィラムと判断し、本サイトでは低-中温環境で栽培しています。下が花と株の写真です。リップの細毛様態からHirtula節と考えられます。Hirtula節で画像の花形状に似た既登録の原種にBulb. peniciliumとBulb. xenosum(1996年) の2種があり、入荷元を考慮すると後者のボルネオ島生息のBulb. xenosumの可能性が高いと思われます。であればマレー半島、ボルネオ島標高600m - 900mの高木に着生とのことです。画像の株は全長35㎝程の花茎に25個程の蕾を付けており、写真は最初の2つの開花を撮影したものです。ドーサルセパルには細毛があり、左右に伸びたラテラルセパルには細毛はありません。一方ペタルですが、下段左は花中心部を拡大した画像で、上部が蕊柱(columnとした奥)、蕊柱の左右に2mm程の葉のような薄い突起がありこれがペタルで、そのペタルからも細毛が出ています。それぞれのセパルは1㎝です。本種の面白い特徴はリップの動きです。リップ先端に触れると、50度程の角度をもつ2点間をカクカクと一瞬で移動します。

 Bulb. xenosumのネット情報ではやや高温系とされていますが、本サイトでは低- 中温系として栽培しており、現在5枚の杉皮板それぞれの株が活発に新芽と、また3枚からは新しい花芽が伸長していることから、標高データを基に高温系と見做すことには疑いをもっており、低 - 中温で栽培を継続する予定です。順化直後の、この時期の花茎の発生で花期を夏とするには早計であり、花期は1年間の栽培サイクルを経てからの判断となります。


  国内外を含め、市場にはほとんど出ていないようで、希少種かどうかは分かりませんが、高い木に生息とすれば採取する危険性から入手難なのかもしれません。価格は不明です。3バルブ2,500円を予定しています。今後の入荷状況を見て価格は改正するかもしれません。

Dendrobium acerosum f. flava ?

 Den. acerosumはタイ、ミャンマー、マレーシア、ボルネオ島の広い範囲に生息するStrongyle節のデンドロビウムで、1.5-2.0㎝の花を付ける高輝度・高温系の丈夫な種です。写真下段右が一般的な形状でセパルペタルの背面には細い複数の赤橙色のラインが入ります。そうした株の中に混じって今月、このラインが薄れて(赤成分が抜けて)淡い緑茶色のラインが残った花が咲きました。毎年の開花で再現性があればflavaフォームと言えるのかも知れません。


Den. acerosum sp #1

Den. acerosum sp #2

Den. acerosum sp #3

Den. acerosum normal type


Phalaenopis gigantea

 象の耳と例えられた1mを超える大きな葉へと成長するPhal. giganteaは、多くの胡蝶蘭原種愛好家にとって一度は自らの手で花を咲かせてみたい種ではないかと思います。本種はボルネオ島Sabah、Sarawak、Kalimantan、JavaおよびSumatraの標高800m以下の低地に生息します。現在、マレーシアラン園に入荷するほとんどの野生栽培株はボルネオ島SabahとKalimantanとされますが、いずれも3-4年前から入荷はほぼ途絶え、現在では現地コレクターからの買い取り以外BS株の入手は困難です。6月のマレーシアPurtajaya祭でもPhal. giganteaは販売ブースで見ることはできませんでした。この原因の一つは、小苗から開花までの成長期間が凡そ5-8年程を要することから、BS株を求める市場性の結果、乱獲によって既知の生息域ではすでに絶滅状態にあるためと言われます。また日本国内市場の流通株はこれまでほとんどがKalimantann産と言われ、Sabah産はほとんど市場には流通していないそうです。

 本サイトが在庫するPhal. giganteaは、現地コレクター(マレーシア国内市場への切り花を生業とするセランゴール州のラン園主が趣味として自宅の庭で栽培)が野生株から5年以上かけて育てたSabah産で、本人の自宅に伺い、直接庭木に活着した株をそれぞれ選別して剥がし購入した株で現在30株程所有しています。入手時から3年経過しているため合わせて8年以上の栽培となります。SabahとKalimantan生息種の地域差は歴然としており、花のフォーム(色合い)がそれぞれ白あるいは淡黄色地に、Sabah産は赤味色が強い一方、Kalimantan産は茶色の斑点が入ります。Sabah産の赤い斑点はやや隆起しており、花サイズもKalimantanと比べて大きく、このためSabah産は華やかで、Kalimantan産は地味な印象です。

 野生種にこだわらないかぎり、現在はタイ、台湾等からの実生が容易に入手が出来ます。しかし実生は生息地が保証されておらず期待するフォームが得られるかどうかは開花までの5年以上を待たなければ分かりません。25-30㎝サイズ実生株であれば2-3年でBS株になります。Phal. giganteaはフラスコ(実生)苗が市場に出回ってから5年以上経過しており、野生栽培株なのか実生株かの区別は視覚的に認識することは困難です。野生栽培株とする販売品の場合は生息地あるいは栽培者が誰(入手国とラン園)であるかの明示を求めることが必要で、それに応じることができない場合は台湾あるいはタイ実生株と理解した方が後の失望は無くなります。実生株であっても生産国を確認した方が確かです。

 下写真は8株のPhal. gigantea(#1-#8)です。#Aと#Bはそれぞれ全体写真(左)と、花の拡大写真(右)を示しています。1昨年の撮影のPhal. gigantea f. alba #7を除き、全て現在(8月7日)温室にて開花中の撮影です。#8は唯一Kalimantan産で葉スパンサイズ20㎝実生から8年目の初花です。花のフォーム(色)がかなり異なることが分かります。斑点が最も赤い株は#1、輪花数の最も多い株は#4で3本の花茎に45輪です。1輪の花サイズが最も大きい株は#5で5.5㎝x6.0㎝です。

 Phal. gigantea f. alba Flask seedling #7Cは、本サイトが#7Aを自家交配したフラスコ苗でフラスコ種蒔きから1.5年経過し、今年秋にはフラスコ出しとなります。アルバと同様に濃赤の斑点をもつ#1と#4は自家交配のフラスコ苗を生産し、マレーシアに逆輸出する計画です。

Phal. gigantea Sabah #1A

Phal. gigantea Sabah #1B

Phal. gigantea Sabah #2A

Phal. gigantea Sabah #2B

Phal. gigantea Sabah #3A

Phal. gigantea Sabah #3B

Phal. gigantea Sabah #4

Phal. gigantea Sabah #5

Phal. gaigantea Sabah #6

Phal. gigantea f. alba #7A

Phal. gigantea f. alba #7B

Phal. gigantea f. alba Flask seedling #7C

Phal. gigantea Kalimantan #8A

Phal. gigantea Kalimantan #8B

 多くの胡蝶蘭栽培者にとって如何に大株に仕立てるか、その方法には興味があると思います。取り付け材は基本的にコルクかヘゴ板ですが、ヘゴ板の方が成長は良いようです。しかし多くの栽培者にとって葉長が30㎝位までは順調に成長するものの、それ以上大きくならない壁にしばしば突き当たります。この原因は根張りの空間がヘゴ板のサイズで制約されることで伸長が止まったり、板に活着する根よりも空中に垂れ下がる根が増え、養分の摂取が十分にできなくなるためです。とは言え、大きなヘゴ板を当初から用意することは難しく、仮に大きな板が得られたとしても十分な水分を与えることが出来なくては効果はありません。

 現地趣味家を訪問し、50㎝を超える大株は例外なく50㎝x30cmを超える大きなヘゴ板か、自然の木に自由に活着させています。前者の場合、大量のミズゴケあるいはヘゴファイバー(チップ)を用いて板全体を覆っており、大量の根が全体に張り巡っています。ヘゴ板に僅かなミズゴケを株の根元に置き、ワイヤーで固定した取り付け方法の株は小さく、元気がありません。このため限られたサイズの取り付け材の場合は、可能な限り多くのミズゴケで根だけでなく取り付け材全体(表裏全体)をミズゴケで覆い、糸やワイヤー等を巻いて固定します。肥料は固形肥料を現地では網に入れ上部に吊り下げていますが、国内では肥料ケースがあり、これに固形肥料、特に有機肥料を入れ、早春と早秋の年2回与えます。こうした根張り面積を大きくとることで2年程で葉長は見違えるほど伸長します。

 取り付け(植え付け)で行ってはならないのは左右の葉の端から端までの長さが20㎝以上となった株のポット植えです。現地では販売用としてこのサイズまでは半透明プラスチック鉢にミズゴケで栽培されることが多く、これをそのままの植え込み状態で栽培を続けることはできません。この理由は頂芽の生え際にかん水毎に水が長時間溜まることで、頂芽がやがては褐斑細菌病等のダメージを受ける確率が高まるためです。単茎性の胡蝶蘭は頂芽が失われると再生は困難です。

 栽培温度は最低を18℃とし、高い方は32℃、昼間の2-3時間であれば35℃でも問題はありません。葉に触れて温かいと感じた場合は危険で、どのような場合であっても葉に触れた場合はやや冷えている状態でなくてはなりません。適切な輝度を与えることは結構難しく、明る過ぎれば葉面温度が上昇し葉が黄化したり、葉焼けの危険性があり、輝度を下げ過ぎると開花が難しくなります。本サイトでは3月末から10月末までは晴天日には70%寒冷紗を、曇りの日は寒冷紗を外し、冬季は天候にかかわらず寒冷紗はかけません。胡蝶蘭原種全てに共通した栽培条件ですが、夜間湿度は80%以上が必要です。

 下写真はPhal. giganteaとして8年ほど前に東京ドームラン展で台湾ラン園からで購入した株の花です。葉がPhal. giganteaに酷似するものの花茎の先端に3-4輪が開花する種はPhal. giganteaではなくPhal. doweryensisです。しかしPhal. doweryensisであったとしても、濃い黄色地にPhal. giganteaのようなセパル・ペタルの中心部にまで斑点が密に分布することはなく、リップ中央弁の赤いラインも塗りつぶされた様態で、リップに関しては国内でPhal. cochlearis名で販売されているハイブリッドと同じような色合いです。一方、ペタルおよびラテラルセパルにPhal. giganteaのような丸みがなく、結局Phal. giganteaでもPhal. doweryensisでもなく、それらのハイブリッドにもう一つ黄色地を出すための別種、例えばPhal. amboinensis yellowが交配されているのでないかと思います。こうした交配であれば葉形状はPhal. giganteaに似てきます。8年間育て上げ、このようなハイブリッドを目にするとガッカリですが、勝手に勝手な名前が付けられてしまった花に罪は無く捨てる訳にもいかず、Phal. gigantea株と同じ待遇で同居しています。本サイトの会員の多くの方からも実生ハイブリッドの画像をしばしば送って頂いていますが、これだけ市場にまがい物が多いとフッと思いついたのは、東京ドームラン展に属別展示コーナーがあるようにモドキコーナーを設け、こうしたハイブリッドを趣味家から購入時名で出品して頂き、さらに賞品は本物をプレゼントとした元親当てクイズでもしたら面白いのではと皮肉にも考えてしまいました。



Dendrobium datinconnieaeの色の変移

 Den. datinconnieaeはボルネオ島サバ州標高500m - 800mに生息するCalcarfera節のデンドロビウムで、30㎝ - 40cmの疑似バルブに一つの花茎当たり2.5㎝程のサイズの花を5-6輪つけます。本種の変わったところは、花の色です。開花当初は、下写真左が示すようにセパル・ペタル全体が淡緑色ですが2-3日経つと黄土色へと変化し、1週間ほどで写真右のような色となり安定します。このため開花当初は Den. cerinumに似ておりミスラベルかと思い違いをしてしまいます。


Den. datinconnieae開花直後

Den. datinconnieae開花10日以降

  この種のように開花時点から花の色あるいは形状が変化するデンドロビウムは比較的多く、Spatulata節の多くは、リップが開花当初は伸びきっておらず、これが4-5日で開いて来ると形がかなり違った印象になります。またカールしながら上に伸びるペタルも形が完成するには1週間程かかります。

Bulbophyllum kubahense

 先月、orchidspecies.comサイトに掲載されたBulb. kubahenseの写真について、J.J. Vermeulen & A. Lambの論文を参照することによりBulb. refractiligueの可能性があることを指摘しましたが、写真が修正されたことを8月2日時点で確認しました。

Dendrobium microglaphys

 昨年入手した株が初めて開花しました。名前はDen. microglaphysでAmblyanthus節です。ボルネオ島、マレーシア、スマトラの800m以下の低地に生息しており、疑似バルブは30㎝程と低く、半立ち性であるためバスケットかヘゴ板のようなバルブが垂れ下がっても良い植え込みが必要です。下写真はボルネオ島産です。Micro(超小型)という名前から余程小さな花かと思いましたが、花サイズは1.5㎝程で白いベース色に黄色のリップが清楚な感じです。4-5輪が5㎝幅に集まって同時に開花するため全体が一つの大きな花のようで、華やかです。ネットにスパイシーで甘いシナモンの香りがすると書かれていますが、果たして甘いかどうかは疑問ですが、香りとしては良い方です。

 

 現在はバークミックスですが、この猛暑が過ぎたころにはミズゴケ・クリプトモスミックスと素焼き鉢の斜め吊りか、中型バスケットの寄せ植えを予定しています。ネットで販売実績を探しましたが国内情報が無く、東京ドームラン展に出店しているマレーシアラン園が何年版か不明ですが価格リストにFSサイズ30ドル(3,700円)としていたので、2,500円で販売です。

Phalaenopsis mariae II

 下写真は前記と同じPhal. mariaeの、セパル・ペタルのベース色が黄色のフォームです。ベースが黄色はPhal. bastianiiに一般的に見られますが、下写真は野生のPhal. mariaeです。野生栽培株の中でこうした変色株は、これまでに開花中の数百株を現地で見ていますが初めてです。こちらは2度目の開花中ですがベース色は再現しており、現在実生を得るため交配中です。
 

Phalaenopsis mariae f. flava

 Phal. mariaeはフィリピンに生息(近年ボルネオ島にも生息が記録)し、セパル・ペタルが白のベース色に栗褐色から赤褐色の太い斑点が不規則に入る、抱え咲き(内向きに湾曲)を特徴とする胡蝶蘭です。近縁種にPhal. bastianiiがあり、こちらは抱え咲きではなく、まっすぐ伸びた蝋質のセパル・ペタルをもちフィリピンの固有種です。下写真にそれらを示します。
 

Phal. mariae

Phal. bastianii

  今回、Phal. lueddemannianaのロットに紛れて開花した株が Phal. mariae f. flavaでした。Phal. mariaeのflavaフォームは3株がネット(phals.net)に公開されていますが、この内2株の画像はPhal. mariaeのセパル・ペタルが抱え咲きではない点でPhal. mariaeとは異なる様態です。Phal. mariaeの斑点色はPhal. bastianiiのような赤から、淡い茶色までの色変化が見られ、同一株においても蕾の段階(ペタルから透けて見える色)から枯れるまでに赤味が褪せ、淡い橙色となる様態がしばしば見られます。本サイトでは2013年7月の歳月記にflavaフォームと思われる株を取り上げました。これが下写真の下半分に写っている株です。この株がflavaと断定できなかった理由は、flavaタイプであればセパル・ペタルだけでなくリップの色も影響される筈ですが、リップ中央弁の青紫色が一般株の色合いと同じであったからです。この色合いはphal.netの2株や他のネットでmariae flavaとされている画像も同様にリップは青紫色であり、下写真と同じ特徴と言えます。結果、翌年には淡い栗褐色となり2013年の写真とは異なる色合いとなりました。


 一方、今回開花した花は下写真で、セパル・ペタル上の黄色味が強く、またリップは白色に近く、青と赤の成分共に花被片全体で色ぬけしている様態でありflavaタイプの可能性が高いと思われます。このセパル・ペタルとリップの色合いと共に、抱え咲きの2条件を満たしているのは公開映像としては本種のみであり、またこの株が野生栽培株(上段右写真参照)であることから、このフォームを実生に継承する確率も高いのではないかと自家交配を予定しています。



7月


Phal. gigantea, Phal. doweryensis, Phal. cochlearisの栽培について

 通常栽培温度を語る場合、重要な点は夜間温度です。日中の温度は奨励される値に対してかなり高い温度が許容されます。これは湿度も同じで、維持すべき値は夜間であり、昼間は人間が快適と感じる限界値60%であってもほとんどのランに問題が発生することはありません。一般に夜間の平均温度が10℃- 13℃をコールド系、14℃ - 16℃をクール系、20℃ - 24℃を中温(warm)系、24℃ - 30℃を高温(hot)系としています。

 Phal. gigantea、 Phal. doweryensis、およびPhal. cochlearisは同じボルネオ島生息種で、夜間の平均温度はPhal. giganteaが中温から高温系、Phal. doweryensisが高温系、Phal. cochlearisは中温系とされています。よってこれら3種を同じ環境で栽培しようとした場合、夜間平均温度の適値は24℃前後になります。しかし国内で最低温度を24℃を保つには維持費の面で難しく、冬季は夜間の温度を15℃以上、可能な限り18℃程度にするのが現実的で、実際そのようにしても枯れるような問題はこれまで起きていません。すなわち夜間平均温度の考え方としては、クール系は15℃前後、中温系は24℃以下、高温系は30℃以下にすべきとし、中温および高温系では、一時的(数時間)な最低温度であれば、15℃程度でも良いとするものです。

 本サイトではこれら3種に関し、2013年までは同じ温室環境で栽培を続け、最低温度は冬季夜間の18℃、短時間には15℃まで下がることもあり、最大温度は夏季日中の34℃でした。3種の内、凡そPhal. giganteaを30株、 Phal. doweryensis20株、またPhal. cochlearisは5株あり、全てが野生栽培株で、コルクあるいはヘゴ板への取り付けです。2013年に浜松に移動してからは、いずれも高価な原種であることから温度管理がし易いエアコンや外気を取り入れる換気扇の近くにこれらを配置しました。こうした環境にあって、2013年夏は全国で記録的な猛暑が続き、70%寒冷紗遮光下でも日中の温室内では37℃以上の温度上昇が連日となり、この間、エアコンを稼働すると共に16℃の井戸水を毎日2-3回散水して34℃以下に冷やす大変な作業となりました。この時の温室内の夜間温度は25℃ - 28℃です。

 2013年の歳月記9月に記載しましたが、こうした状況になって1週間程経過したころ、Phal. doweryensisの30㎝を超える古い葉が次々と黄化を始めました。通常古くなって枯れてゆく葉は先端から徐々に黄化が広がり数週間かけて落葉するものですが、違いは黄化が始まって3-4日で落葉してしまうことです。やがて残りの葉も1週間ほどで落葉を始め3週間程で全て無くなりました。深刻な問題は最初の古い葉が黄化し始めた後では涼しい場所への移動、活性剤散布等を行っても落葉を止めることができないことです。このPhal. doweryensisと同様な症状が出たのは、近くに置いていたPhal. micholitziです。同じ場所のPhal. gigantea、Phal. bellina、Phal. sumatrana、Phal. tetraspis等には何の異常も起こりませんでした。20株のPhal. doweryensisの内、5株のみが落葉を免れました。失った株と無傷株との違いはエアコンや換気扇からの距離が関係しており、離れるにしたがって黄化が起こらなかったことです。但し、エアコンの近くの株は直接エアコンの風が当たっている訳ではなく簾を間に入れていました。エアコンの強弱する冷気と散水による冷水の相乗作用で、短時間における20℃近い急激な温度変化がPhal. doweryensisの葉面上で繰り返され、生理的に対応できなかったのではないかとの結論に至りました。

 この経験からPhal. doweryensisを、同じ温室内のエアコンや換気扇から離した場所に移動し、また同年10月に補充のため新たにマレーシアより入手した20株程も、その移動場所で、順化と栽培を始め、2014年の夏(温室内日中32- 34℃、夜間25℃)は1株も失うことなく夏を越すことができました。最低・最高温度はPhal. giganteaやPhal. bellinaのみならず他の高温系胡蝶蘭原種と同じ温室内であり、湿度やかん水も全て同じ条件です。この結果、昼夜あるいは四季のマクロな環境では問題が無い印象を得ました。しかし気になったことは、この栽培環境下でのPhal. doweryensisは、新葉の伸長が遅く、野生栽培株入手時の葉数およびサイズ以上には成長しないことです。野生株を人工栽培すると、3年後にはほとんどの葉が入れ替わるのですが、新しく発生した葉が入荷時ほど大きくならないのは良くあることで、その原因は根張り空間が自然環境とは全く異なり小さく、この結果、葉と根との栄養素や水分の供給と貯蔵のバランスによるものが原因の一つであることは分かっています。

 今年2月に相当数の南米の原種を得て、温室の大幅なレイアウト変更が必要となり、低温および中温の環境を用意しました。その機会に胡蝶蘭原種としては中温系の中国産Aphyllae属(willsonii, honghenensisなど)、Phal. lindenii、Phal. philippinensisをこれまでの環境に対して1日の温度が4℃ほど低温となる15℃ - 28℃に移動し、この際、高温系とされるPhal. doweryensisも、これまでの経験から高温栽培に疑問があり、中温環境に移しました。ところがこの僅かな低温化で、移動から3か月経過した頃から葉に生気が感じられ、Phal. giganteaと比較してやや根張りの弱い印象であった本種がヘゴ板や杉皮板上で活発に根を伸長する様態が見られるようになり、5月からはFS株の7割で開花が始まり7月も続いています。このような状態はPhal. giganteaとの過去10年間の同じ環境栽培では見られず、開花は3割程が6月末ごろに集中していました。7月現在の中温系温室の温度は夜間22℃、日中28℃ - 30℃で、一方、Phal. giganteaは夜間26℃ - 27℃、日中は32℃ - 34℃となっています。

 Phal. doweryensisの生息環境については、ほとんど情報がありません。栽培を通しての生態観測の結果としてPhal. giganteaと比較し、より標高の高い場所また昼夜の温度変化が少ない(15℃以内)場所、あるいは標高が変わらないのであれば放射冷却のある場所ではないかと推測しています。この中温環境で栽培する限り、温度以外の栽培要件は一般と変わりなく、Phal. doweryensisの栽培難易度は高難度から普通に変わりました。結論としてPhal. doweryensisは高温系ではなく、中温系の環境が適していることです。この点ではPhal. giganteaよりも高温系であるとするorchidspecies.comのデータとは異なります。

 上記の温室レイアウトに伴い、Phal. cochlearisの野生栽培種4株と、40株ほどの実生の半数20株も中温環境に移動しました。今年2月の移動から凡そ半年が経過しますが、こちらも高温環境に残した株に対して葉サイズに明確な成長の違いが表れており、Phal. cochlearisは中温環境が必要との結論です。よって、現在はPhal. doweryensisとPhal. cochlearisは同じ場所に、一方、Phal. giganteaはPhal. bellinaやviolaceaを含め他の多くの胡蝶蘭原種と共に高温系としての別温室での栽培となっています。

 Phal. doweryensisおよびPhal. cochlearisいずれもヘゴ板と杉皮板への2タイプの植え付けです。杉皮板はヘゴ板に比べ保水力が少ないため、かなり多くのミズゴケで根だけでなく、杉皮板の上部までミズゴケを敷く植え付けが必要です。これはPhal. giganteaをヘゴ板に取り付ける場合も同様で、ミズゴケで根を完全に覆い尽くすだけでなくヘゴ板全体をミズゴケで厚く覆います。Phal. giganteaを大株にするには根の植え込み材との接触面積(あるいは体積)を大きくすることが必須で、すなわちミズゴケの中にヘゴ板や杉板が埋もれているような様態が重要であることが最近の栽培で分かってきました。有機肥料の肥料ケースを用いた置き肥もまた効果的で、春と初秋の2回行っていますが、置き肥の有無での成長の違いは歴然です。液肥を与えないのは、特に成長の止まった古い葉に緑色のコケが発生しやすく、これを避けるためです。

 一方、ミズゴケは経年変化で劣化し繊維状となり、保水力が落ちてくるため、2年毎に交換するのですが、板を交換するために活着した根を切るのは避け、ピンセットなどでミズゴケを摘まみ出し、ヘゴ板と根をシャワー洗浄したのち、新しいミズゴケを根の間に押し込み、さらに全体を覆う方法が良いと考えます。Phal. giganteaのように大株になる種は1段大きなヘゴ板へ植え替えるのではなく、別のヘゴ板を追加し穴を開けて針金で繋ぎ合わせてサイズを大きくするのが常道です。

 現在Phal. giganteaの大株が開花を始めました。8月中旬の歳月記にはPhal. gigantea Sabahの開花を取り上げます。

ボルネオ島SabahからのBulbophyllum sp : (Bulb. pileatum)

 ボルネオ島Sabah州の生息とされるBulbophyllum spが開花しました。特徴はリップ形状と長い花柄です。また鼻を近づけると果実のスイカの匂いがします。このバルボフィラムが下写真です。本種はBulb. pileatumと思われます。とすると本種はSestochilos節で、ボルネオ島、マレーシア半島、スマトラの標高1,000mまでのマングローブ林や沼沢林に生息するとされています。現在温室では一斉に蕾をつけていることから開花期は春から初夏と考えられます。植え付けは杉皮板にミズゴケです。


 花が咲いたので価格を決めなくてはならないのですが、国内販売実績はネットからは見つかりません。そこで海外サイトよりも安く、本サイトでは1株4バルブ相当で1,500円を予定しています。

Dendrobium ionopusについて

 Dendrobium hookerianumとされるデンドロビウムが開花しました。しかし開花したのはDen. ionopusでした。

Dendrobium ionopus

 この株はマレーシアから入手したものですが、orchidspecies.comの情報サイトによると、ラベル名通りのDen. hookerianumであればバングラディッシュ、東ヒマラヤ、ミャンマーの生息で、一方、実体であるDen. ionopusはミャンマーとマレーシアで、フィリピンは?となっています。

 この株は現地サプライヤーからマレーシアラン園に送られたものですが、Value-customerであろうマレーシアラン園に対して、敢えて信頼関係を損なっても品名を偽る程、Den. hookerianumが高価な種ではないことを考えると、サプライヤーはDen. hookerianumと信じて納品したものの実際はDen. ionopusであったと思われます。とするとこのミスラベルはDen. hookerianumとDen. ionopusの両者が生息する国からの納品(すなわちミャンマー)で、サプライヤーはミャンマーの住人の可能性が高くなります。一方で、ミャンマーからこのマレーシアラン園への直接のルートは現在確立されておらず、考えられるのはミャンマーからタイ経由のルートです。

 以上は推測の範囲ですが、疑問が生じたのはJ. Cootes著書"Philippine Native Orchid Species"にはDen. ionopusはフィリピン固有種とされ、Bataan, Benguet, Nueva EcijaなどLuzon島に生息と記載されていることです。ちなみに本サイトのデンドロビウムのメニューにあるDen. ionopusはフィリピンから入手したものです。ではマレーシアラン園はフィリピンからDen. hookerianumを入手しようとしたのか?この可能性は低くフィリピンにはDen. hookerianumは生息していません。

 すなわち疑問とは、J. Cootes氏の記載が正しいとすると、Den. hookerianumとDen. ionopusはどの国にも同居はしていないことになります。はっきりしていることは本サイトが入手した株は、Den. hookerianum名のDen. ionopusであることです。この両者が同じ生息国であればミスラベルも出荷管理上で起こり得ますが、生息国がそれぞれ別では考え難いことです。勿論、マレーシアラン園に、もともとこれら2種類の在庫があり、管理ミスで間違ったという仮説も考えられますが、このマレーシアラン園は注文品以外の在庫は胡蝶蘭原種以外は置かないことが分かっています。一つのミスラベルから三つどもえ(orchidspecies.comおよびJ. cootes氏のデータ、そしてサプライヤー)の謎解きとなりましたが、どこに問題があるのか、次回マレーシア訪問までペンディングです。

 デンドロビウムやバルボフィラムで頻繁に起こるミスラベルに毎回腹を立てることは止めました。むしろ、どのようにして、誰が、なぜ、かを考えた方がミステリーを解くようでこれも楽しみの一つと考えるようにしています。ただそれでは治まらない高額なランも稀にありますし、趣味家にとっては返金や交換ができたとしても不愉快には違いないと思いますが。

Dendrobium mutabileについて

 今月上旬、本サイトの温室を訪問された方が丁度開花中のDen. mutabileの花を見られ、花サイズが大きいとのことで1株購入されていきました。本サイトにある株が一般サイズより大きいのか小さいのか本種に関してはほとんど関心が無く、そうしたものかと思っていました。今週に入り温室の片隅に置かれたラベルのない一株が開花間近となり、その蕾を付けた様子がまるで前記したDendrobium sphegidoglossumの蕾写真の状態と似ていたため、なぜこんなところにDendrobium spが混ざってしまったのかと考えているうちに数日して開花しました。見るとそれはDen. mutabileで、花スパンが1.5㎝程の小型の花サイズでした。それではと、開花期でもあり数か所に置いてある株をそれぞれを見て回るうち改めて花サイズはまちまちであることを認識しました。そのなかで驚いたのは、アルバではないかと思われる株が見つかったことです。もともと白色の花で下写真に示すように薄紫色も含まれるもののセパルペタルのベースは白色でリップに小さな黄色のスポットがある左のフォームがほとんどです。そのため気が付きませんでした。中央のフォームは100株中2-3株です。本種も会津の友人から譲り受けた株で、これまで株数が150株程あり余りに多く、2年前の浜松での植え替え時に、100株程を大型バスケット5個分に寄せ植えし、スペースの関係から残りの50株程は処分していました。

Dendrobium mutabile

 新たに見つかったアルバフォームと思われる花はサイズが最も大きく、下写真に全体の比較を示しましたが、最も小さなサイズに対しほぼ2倍で左右のスパンが3㎝程あります。このサイズになれば本種は多輪花タイプなので、それなりの存在感もあり、廃棄した株の中にもう1株くらいアルバがあったに違いないと、後悔先に立たずです。アルバフォームは写真右2つの花ですが、株は別々です。右から2つ目はラテラルセパルの先端に微量に紫色が乗っていますが、右は白一色です。さっそくアルバ株は寄せ植えから取り出し、もう少し良い環境に植え替えです。



リップが良く似たデンドロビウムDen. singkawangenseとDen. hallieri

 現在温室でDen. singkawangenseとDen. hallieriが開花しています。前者はボルネオ島西Kalimantanの標高300m程のススキのようなイネ科植物が茂る丘陵林に、一方、後者は同じボルネオ島Kalimantan中央部の海抜0-50m程の泥炭林にそれぞれ生息するとされ、両者共に高温環境で、40㎝程の疑似バルブに黒い細毛をもつFormosae節です。これらが下写真です。サイズはDen. hallieriがやや大きく、横スパンで3㎝、Den. singkawangenseは2.5㎝で、いずれも4輪程の同時開花となります。通常セパル・ペタルのベース色はクリーム色から薄黄色ですが、今回開花した株はいずれも白色です。両者の違いは前方斜め上からは良く似ているのですが、下から見るとラテラルセパルがDen. hallieriが大きくspurも下段写真から分かるように長いのが特徴です。 植え込みは素焼き鉢にミズゴケ・クリプトモスミックスです。

Den. singkawangense
Den. hallieri

  一つ気になることがDen. singkawangenseにあり、8年ほど前にインドネシアSimanis OrchidからDen. singkawangenseとして友人が入手し、浜松に移動する際に譲り受けた株はFS株でも疑似バルブが15㎝程と短く、また下垂性であるのに対して、今年マレーシアから入荷したベースが黄色のDen. singkawangenseは立ち性で30㎝ - 40㎝程あります。後者が一般的な形態とされます。上の写真は敢えてその異質なインドネシアからの株の花を掲載しました。いずれもベース色を除いて外見上はインドネシア、マレーシア入荷株共に花の違いが見当たりません。疑似バルブはFormosae節の黒い細毛が両者に見られるものの、インドネシア入荷株がFormosae節に共通したバルブ形状と大きく異なる点が不可解です。

 Den. hallieriの国内マーケットでは、6,000円程で販売されている2年ほど前のサイトがありましたが、現在の価格は不明です。一方、Den. singkawangenseは8,000円程の価格がネットで見られます。低価格を標榜する本サイトとしては、30㎝ - 40cmの黄色ベースのDen. singkawangense、上写真右のDen. hallieri両者共にFSサイズで3,000円としています。

Dendrobium spatulata節で最も派手なDen. lasianthera WK

 デンドロビウムのSpaturalta節を始めて栽培したいのだが、何が良いだろうかと尋ねられれば、豪華さでの筆頭候補はDen. lasiantheraです。1.5m程の背丈を許容できる栽培環境があっての勧めですが。開花期はほぼ通年、花の寿命は1か月以上、栽培に季節調整もなく丈夫です。本種が温室で現在開花中で、下がその写真です。左写真の花数は30輪程で右写真の1株からの開花です。花サイズは縦・横スパンそれぞれ共に5㎝ですのでかなり大きな花が30輪となるため目立ちます。

 

 問題は、Spatulrata節の発送で、この長さの株を購入し持ち帰るのは車が必要です。宅配便では1.5-2mの長さの段ボールが必要となり標準サイズにはなく、発送者泣かせのランです。花が咲いている場合は如何に小さな株を選ぶか、あるいは花の咲いていない株を選び、茎を折れないぎりぎりのところまで曲げて1m程の段ボールに納めなくてはなりません。

Bulbophyllum kubahenseについてorchidspecies.comサイト掲載写真への疑問 (後記:8月に写真は校正されました)

 Bulb. kubahenseについて今月の歳月記で取り上げました。その中で、J.J. Vermeulen & A. Lambの論文を基に本種と類似するBulb. refractiligueとの違いを、下記の表1として纏めました。
表1.Bulb. kubahenseとBulb. refractiligueとの相違
 
輪花数
花軸
ラテラルセパル
ペタル
Bulb. kubahense
15 - 17
3.5cm - 4.8cm
1.6cm
1.5cm x 1.1cm
Bulb. refractilingue
5 - 8
0.5cm - 1.7cm
0.7cm - 1cm
0.5cm - 1.1cm x 0.3cm - 0.75cm

 この定量値を前提に、最も著名なランのサイトorchidspecies.comのBulb. kubahenseに掲載された写真(http://www.orchidspecies.com/bulbkubahense.htm)を検証すると、写真はBulb. kubahenseでなく、Bulb. refractiligueでないかという疑問がわいてきました。 

  Bulb. kubahenseは5㎝幅の花軸に沿って円筒形状に、15輪程の花が4段で並んでいるのに対して、上記サイトの写真の株は2段しかなく、これは花軸がかなり短いことを示しています。また全体の花数も少なく、15輪以上には見えません。この写真のセパルペタルのサイズ情報が無いのは残念ですが、Bulb. refractiligueを画像検索し、それぞれの写真を見ますと、その中にはBulb. kubahenseが誤って混ざっているものの、上記表1に適合するBulb. refractiligueの共通した花形状の特徴としてラテラルセパルの先端が捩れた形となっています。この特徴はorchidspecies.comの花にもあり、前記論文筆者らのスケッチ図のBulb. kubahenseには捩じれはありません。この写真はC.C.Lee "Nature Photography of Southeast Asia"のBulbophyllumのページ写真cld05052435からの出典で、花はボルネオ島サラワク州での撮影とされています。

 これまでBulb. kubahenseは、orchidspecies.comの写真のフォームこそがSarawak州のKubah国立公園内で撮影された本物で、赤いスポットタイプや、この歳月記で取り上げた開花フォームはKalimantan産と思ってきました。しかしorchidspecies.comの写真を疑問視する本サイト会員もおられ、上記のような考察を行った結果、orchidspecies.comの写真はBulb. kubahenseではなくBulb. refractiligueであり、Kalimantanとされるフォームが実はSarawak産ではないかと思い始めました。orchidspecies.comの写真採用者が誰か分からないこともあり、未だ前記論文との違いを指摘する方がいないようで、そのままの画像が続いています。orchidspecies.comの情報はラン原種を参照する上でのバイブル的存在であるため、この写真が現在、現地を含めマーケットでのBulb. kubahenseとreflectilingueの認識を混乱させている原因の一つでもあります。

 本歳月記4月の冒頭で本種を取り上げた現地ラン園から送られた3つの写真の中央にあるフォームは結果としてBulb. refractiligueとなりますが、現地原種専門のラン園の園主ですら、本サイト同様に、これをBulb. kubahenseの一つのフォームと思っていたことになります。 本種が発見されてからの歴史が浅く、こうしたこともあるのかと。

 見方を変えれば、sp、新種が毎年次々と現れ、また現地からの未開花入荷株にはミスラベルが半数近くもあって何が現れるか分からない、また相当なベテラン栽培家であっても判断が難しい種が多い故に、バルボフィラムは原種愛好家にとってはむしろ魅力のあるラン属なのかも知れません。  

Bulbophyllum annandalei

 Bulb. annandaleiはタイおよびマレーシアの標高1,000mに生息するバルボフィラムです。温室でリップが赤と黄色の2タイプが開花しました。黄色タイプの市場価格が現在如何程かとネット検索していたところ、種名(フォーム名)の表現に不可解な点があり、取り上げて見ました。下写真で左が一般種、右が黄色種です。

Bulb. annandalei Malaysia form?
Bulb. annandalei Thai form?

  画像でリップの黄色フォームを検索すると、これをBulbophyllum annandalei "Thai form"とする表現がしばしば見られます。一方、写真左はMalaysia formとされています。フォーム名に国名を付ければ、タイ生息のBulb. annandaleiは全てリップが黄色で、マレーシア産は赤との解釈にもなります。一方、あるラン園ではオンラインカタログにフォームの違いでではなく、生息地別としてタイとマレーシア産があり、それぞれ異なる価格となっており、タイ産がマレーシア産より30%程安価です。こちらはリップがどちらが黄色で、どちらが赤色かの定めはありません。そこで混乱するのですが、タイには黄色タイプしか生息しておらず、決して赤リップ(上写真の左)は存在しない、またマレーシアでは黄色タイプは存在しないのであれば、このラン園に対しては上写真の右側の黄色を入手したい場合、タイ産と発注すればよいことになります。しかし産地別カタログでは購入する株のリップの色は保証されていませんし、Thai やMalysia formと言った表記も見当たりません。。

 タイ産はマレーシア産と比べ、リップの赤さが薄く、黄色味が強いと言う地域差の範囲であれば左から右の写真までの中間色が含まれることが考えられ、このThai formとの表現はアナログ的で、もし買い手がネットの写真にあるThai formとされる完全な黄色のリップを期待して注文すれば裏切られることもあり得ます。

 そこで、表現を変えてBulb. annandalei flava フォームで検索すると、Thai formの写真と同じ写真右の黄化種が検索で表れます。flavaはaureaと同じような黄色を意味しているのですが、この表現であれば産地は関係なく、flava指定では写真右の種を指し、またflavaのない単にBulb. annandaleiであれば左写真のMalaysia formを指すようで、こちらの方が間違いがありません。Thai formはイコールflavaなのか、そうではなくタイ産と言うことだけを意味するのか、後者であればThai formで検索するとなぜ写真は全て黄色(flava)フォームだけしかでないのか。同一種を地域別にコレクションしている人は、タイ産で且つ写真左の一般種を入手したい場合は何と言う名前で注文すればよいのか、タイのラン園にマレーシアフォームの株が欲しいと?あるいはマレーシアラン園から右写真のflavaを得たい場合は、Thai formをと?否、純正なflavaフォームを得たいのであればタイ・マレーシアに関係なく両方にBulb. annandalei f. flavaとすべきと?そして写真左を入手したい場合はフォーム指定のない単にBulb. annandalei?それで良しとするのであれば、flavaフォームの写真を用いて、わざわざThai formと付ける理由が一体どこにあるのか?ますますの混乱です。

Bulbophyllum potamophilum

  Bulb. masoniiとしてニューギニアから1昨年入荷したバルボフィラムが開花しました。花茎が高く、セパルが長く伸長していたまではBulb. masoniiiの可能性も感じていましたが、セパルが茶褐色から黒くなるにしたがって疑問が生じました。開花してこの株がBulb. potamophilumという、あまり聞きなれない名前のバルボフィラムであることが分かりました。下写真が蕾から開花に至る本種です。ラテラルセパルの長さは7㎝です。但し、この黒褐色の花びらがラテラルセパルなのかペタルなのか、その一方が退化しているようで可視的には不明です。生息地はBulb. masoniiと同じニューギニアですが、こちらは標高1,200mで中温タイプです。市場にはほとんど出回っていない種のようです。バークミッスクとプラスチックポット植えで低温環境に置いてこれまで栽培していました。種名が分かったため中温に移動予定です。Bulb. masoniiを含め高山系バルボフィラムは今年秋に入荷予定ですが、現在市場は異常な高値で(例:NT OrchidのBulb. masoniiは東京ドームラン展プレオーダ価格15,000円)、マレーシアやインドネシアラン園オンライン価格の1/3以下を目標に交渉中です。

Bulb. potamophilum


Irian Jaya (ニューギニア・インドネシア領)からのDendrobium SP: Dendrobium mooreanum

 デンドロビウムspの一つが開花しました。下がその写真です。Irian Jayaからのspとして種名が不明でしたが、趣味家の方からのご指摘でDen. mooreanumである可能性が高いことが分かりました。下段中央の疑似バルブの形状は根元が細く、上部が太くなっていること、またバルブのトップに2葉(例外的に3葉)つけること、さらに花は小型でリップに緑色の放射線状のラインがはいることが本種の特徴です。生息地はVanatu(バヌアツ)島で標高300m - 1,100m とされます。余り聞きなれない島と思いますが、ニューギニアから南々東、ニューカレドニアに近い諸島の一つです。一方、類似種にニューギニアとバヌアツ島中間地点のソロモン諸島にも本種に似たDen.ruginosumが同じLatouria節として生息しています。 本サイトの写真と前2者とを画像比較して少し違和感があるのは、本サイトの花はリップ先端の先のとがった三角形の形状部分が短く、また紫色の縁取りがあることです。入手元からのデンドロビウムはIrian Jaya、PNG、ソロモン諸島を区別してこれまで販売しており、生息地のIrian Jayaが正しいとすると、Den. mooreanumの地域差かも知れません。国内では筑波実験植物園のDen. mooreanum開花写真がありますが、それ以外での国内ネット検索ではヒットしないようです。

 花サイズはドーサルセパルが1.7㎝、ペタルは1.5㎝です。ミズゴケ100%に素焼き鉢3.5号で、当初は低 - 中温で栽培していましたが、蕾から開花までの期間が長かったため、中 - 高温系種と判断し、現在は中 - 高温環境の比較的明るい環境で栽培しています。この環境で新芽が良く成長していることから前記地域での低地生息種と思われます。

Dendrobium sp (April, 2015) from Irian Jaya

  sp種は開花確認後に販売をしていますが、本種も市場実績が見当たらず3,000円です。しかし販売可能株数は5株程で、追加取寄せ中です。

本サイト画像の使用について

 ヤフオクで本サイトの画像が無断使用(7月15日時点)されていますが、本サイトはオークション販売は一切行っていません。
 本サイトでは販売目的のサイトや情報誌等への画像のコピーは認めておりません。非営利目的のサイトや情報誌等の場合は、コピー元(出典CyberwildorchidあるいはVRTJapan)を画像内あるいはcaptionとして明示することで利用可能です。

Dendrobium SP (Dendrobium sphegidoglossum red-lip form?)

 スマトラ産のデンドロビウムSPとして昨年マレーシアから入手した株が開花しました。入手直後に2-3輪開花したのですが白花で小さかったため期待外れとしてそのまま素焼き鉢とミズゴケで栽培をしていましたが、今月、数株纏まって開花したため、改めてよく見ると、小さいながらもそれなりに個性があり取り上げて見ました。セパル・ペタルの長さは1.3㎝程ですが、リップに赤い斑点とエッジに細毛があり、ペタルにもさらに短い細毛がある点が特徴です。本種は2,500円です。

 後記: 本種も趣味家の方からのご指摘により、Dendrobium sphegidoglossumの可能性が高まりました。リップは緑、黄、橙、青色等もあるようで本種はその中の赤色フォームと考えられます。これらそれぞれの色(とされる)種を在庫しており、これまで確認したのは黄、橙、赤で、入手元で画像は見せてもらったものの開花未確認は緑と青色種です。いずれもDendrobium sphegidoglossum名でのネット検索からは国内における関連情報はヒットしません。

Dendrobium sp (June, 2014) from Sumatra


Paraphalaenopsis laycokii

 ParaphalaenopsisはParaphal. labukensisが良く知られており旧サイトでも数回取り上げています。この属は成長が遅く1年で10㎝ほどと言われ、また本属をマレーシアやインドネシアから入手するのは通常、BS株(Paraphal. labukensisで1m、laycokiiで40㎝、deneveiで30㎝以上)ですがなかなか開花しないとされていました。しかしそうした噂に対して、昨年旧サイトの歳月記で、浜松の温室では2014年1月から2015年1月までの1年間で新芽が80㎝伸長したことを報告しました。一方、BS株では同じ時期に毎年開花しています。この意味で本属に対するこれまでの考えを変えなくてはならなくなりました。

 現在は、Paraphalaenopsis laycokiiが開花期を迎えています。今回本種を取り上げたのは新しいロットの株ですが、これまでにない大きな花サイズが開花したためです。ボルネオ島インドネシア領産で5輪が同時開花しました。Paraphal. labukensisのブラウンと異なり、本種の花色は薄ピンクです。下写真がこのlaycokiiです。花の縦方向のスパンが7㎝、横方向が6.5㎝です。葉長は50㎝です。杉皮板にミズゴケで根を覆ったもので、胡蝶蘭原種と同じ栽培環境下に置いています。こちらも水不足を嫌います。ミズゴケはこれでもかと言う程大目に根を覆って植え付けた方が良いようです。本種はParaphal. labukensisと比較すると市場ではやや少ない株ですが、現在本サイトでは葉長50㎝以下は5,000円、50㎝以上は10,000円としています。

Paraphalaenopsis laycokii


Bulbophyllum kubahenseの開花

 本サイトの温室にて、入手から半年を経てBulb. kubahenseが開花しました。これが下写真です。取り付けは杉皮板にミズゴケを敷きアルミ線でリゾームを固定しています。高温(最低温度18℃)・高湿(昼60-70%、夜80%以上)で、輝度はやや暗い(胡蝶蘭のPhal. fuscataやmariaeと同じ程度)環境です。乾燥を嫌うため完全にミズゴケが乾く前にかん水をしています。

Bulb. kubahense

 この開花についての考察です。Bulb. kubahenseは同属のBulb. refractiligueと近縁関係にあり、花形態が極めて類似しています。Bulb. kubahenseに関する論文;J.J. Vermeulen & A. Lamb ”Endangered even before formally described: Bulbophyllum kubahense n.sp., a beautiful and assumedly narrowly endemic orchid from Borneo" Plant Systematics and Evolution, Springer Vol. 292, March 2011;によると、それぞれの相違点は表1となっています。現在、ネットの画像検索で両者の多くの写真がヒットしますが、表1のデータと照合すると、如何に多くの映像が混同(ミスラベル)しているかが分かります。両者とも全輪同時開花です。よって最も容易な判定方法は花数と花軸長です。表1によればBulb. kubahanseであれば花数が15輪以下は無く、また花軸(最初の花から先端の花までの花柄間の長さ)が3.5㎝以下はないことになります。

表1.Bulb. kubahenseとBulb. refractiligueとの相違
 
輪花数
花軸
ラテラルセパル
ペタル
Bulb. kubahense
15 - 17
3.5cm - 4.8cm
1.6cm
1.5cm x 1.1cm
Bulb. refractilingue
5 - 8
0.5cm - 1.7cm
0.7cm - 1cm
0.5cm - 1.1cm x 0.3cm - 0.75cm


Bulb. kubahenseの特徴

 そこで、本サイトの開花株がいずれの種であるかを判断する上で表1を同定に用いれば、上写真は輪花数15および花軸が約5㎝、セパル・ペタルサイズも表1のBulb. kubahenseの範囲となっており、Bulb. refractiligueとは大きく異なり、Bulb. kubahenseと認識できます。下写真のそれぞれは蕾から開花に至る経緯、形状およびサイズを写真に収めたものです。写真下の日付は最上段左を基準日とした経過日です。また参考に、葉、バルブおよびリゾーム形状が酷似したBulb. decurviscapumの蕾から開花の写真も掲載しました。いずれも蕾から開花に至るこれらの公開写真がこれまでなく、参考になると思います。

Bulb. kubahense

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4日目

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Top View

花軸および花サイズ
Bulb. decurviscapum

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18日目

23日目

  前記論文の葉形状についての定義は、柄を除く葉のサイズが13-24cm(長さ) x 5-9.5cm(幅)の楕円形とされています。(注: 論文の表記は 13-2 x 5-9.5㎝ となっており、 13-2? の?が脱字しています。葉長/幅を13/5と同率とし?=4に設定しました)。実際Bulb. kubahenseとして入荷する株の葉は14㎝以上で、これまでの最大サイズは25㎝ x 11cm、平均では18㎝ x 7cmです。

  Bulb. kubahense は竹のように根茎(リゾーム)を伸ばし、7cm - 8㎝間隔で節毎に一つのバルブに一つの葉をつけながらほぼ直線状に成長していきます。花芽は先端から2-3バルブ古いバルブ基部から発生します。これまでバルブ基部あるいはリゾーム途中から発生した芽を50例近く見ていますが、リゾームの途中から花芽が発生することはなく、リゾームから分岐した芽は全て新たな葉芽(バルブと葉)となっています。ではバルブ基部から新芽が発生して間もない1-2㎝の段階で、それが花芽なのか、あるいは新たに伸長を始めるリゾームなのかをどのように判断するかは興味のあるところと思います。

 若芽は2㎝を超えるまでに先端に小さな若葉が表れる場合と、リゾームとして伸長を続ける場合があります。葉芽を付けるリゾームには1㎝を超えるころになると発生点に近い場所で新根が表れます。一方、花芽である場合は根は発生しません。またリゾームは古いリゾームの方向とほぼ並行(上写真の杉皮板面に沿って)に伸長して行くのに対し、花芽は板面に直交あるいは葉と同じ方向(杉皮面から離れる)に伸びていきます。この2つの新たな芽の根の有無と伸長方向で、若芽が2㎝を超える頃にリゾーム(やがてバルブと葉をつける)か、花芽かが判断できます。花茎は7-8㎝に伸長すると止まり、次に苞からの花軸が下に向かって弓なりに伸長し(写真最上段中央から右)、開花時点ではバルブ基部から最初の花柄までは10㎝以上となります。15本ある内の最初の花柄あたりから先端の花柄に至る花軸の長さが5㎝弱となります。 下向きの花柄は1日で水平に立ち上がり(写真右)、その後1日で全輪開花となります。Bulb. refractiligueの花軸長が2㎝に満たないとされるのはそれぞれの蕾を付けた花柄が花軸の2㎝以内から発生していることになります。

 将来への考察を一つします。Bulb. kubahenseとrefractilingueとの相違点は表1とされます。では近い将来、その中間、すなわち花数が10輪程であったり、花軸長が2-3㎝の株が表れた場合、あるいは条件を満たす項目と、満たさない項目が同一株に含まれる場合、さらに同じロットの中に両者の条件を個々にもつ株が混在している場合はどう判断するか。おそらくそれはタイや台湾で行われた両者の交配実生種が考えられます。高価な品種へのそうした可能性は数えきれない過去の実績が示しています。胡蝶蘭原種で言えば、Phal. gigantea, bellina, violacea, cochlearisなどなど。

Dendrobium uniflorum albaからの個体差/変種?

 Dendrobium uniflorum albaの株の中から、花形状が異なるalbaが開花しました。果たして個体差なのか新種なのかは不明ですが、温室では現在Distichophyllum節が開花時期を迎えています。Dendrobium uniflorumは標高300mから1,600mのタイ、ベトナム、マレーシア、スマトラ、ボルネオ、インドネシア、フィリピンに至る広範囲に生息しており、デンドロビウム原種の中では栽培が容易な種です。本サイトのDen. uniflorumのアルバタイプはボルネオ島Sabahとされています。植え付けは素焼き鉢にミスゴケ100%ですが、開花後の植え替えにはクリプトモスとのミックスコンポストを予定しています。

 下写真に、本種の一般種(上段)、アルバタイプ(中段)、今回出現したタイプ(下段)をそれぞれ示します。写真左右はそれぞれ正面と裏面です。Dendrobium uniflorumのリップの一般形状は写真に見られるように、リップ側弁が八の字に左右に開いたようになっており、また中央弁は逆V字に曲がっています。一方下段の形状は、前の2者に比べやや小型で、側弁は細長く立ち上がっており裏面からは見えません。中央弁はフラットか、反対に上方向に反っています。同一ロット内の株であり、地域差とは考えにくく、色やセパル・ペタルの大きさではなく、リップ形状の違いは個体差とも違うようで、自家交配を行い実生を検証しようかと思案中です。

Den. uniflorum 一般種
Den. uniflorum alba (Borneo Sabah)
新たに開花したDen. uniflorum sp (Borneo Sabah)


バルボフィラムと輝度

 会員の方や温室を訪れる趣味家との会話の中で、バルボフィラムを数年栽培し、株はそこそこ成長しているのだが花が咲いてくれない、との声をよく聴きます。本サイトでも会津若松にいたころは胡蝶蘭原種が栽培の中心ではあったものの、花形態が多種多様なバルボフィラムには興味があり、10年程前に当時のマレーシアNT_Orchidへカタログにあるバルボフィラムの全種を2株づつ注文し、100種以上のバルボフィラムを栽培していました。その時園主のローレンスさんが、本当に全種でよいのかと確認のメールが来たことを覚えています。カタログ全種が注文できるほど、当時のバルボフィラムの価格は手ごろでした。

 株数は200株程で、これをプラスチックポットに、当時としては珍しかったオーキッドベースというモルトセラミックに植え付けました。しかし限られたスペースの中での栽培ですでに胡蝶蘭が主な場所を占領していたため、あちらこちらの空いた場所、すなわちほとんどがベンチの片隅に置かれることになりました。こうした場所は風当りや輝度が余り届かず、まして胡蝶蘭原種に適した環境は高温高湿であるものの輝度は他の属種と比べて低く、片隅に置かれたバルボフィラムはさらに暗い状態にありました。この結果、100種ほどの株の内2-3割が2-3年に一度1輪の花を付ける程度で、多くは未開花のまま、あるいは開花があっても胡蝶蘭の陰に隠れて見ることがないうちに終わっていることもしばしばでした。こうした状況でも、ほとんどが枯れることなく株だけは10年近く成長し続けていたのは、当時NT_Orchidが扱っていたバルボフィラムのほとんどが中温から高温タイプであったからです。

 1昨年、浜松に移り、今年の東京ドームラン展からはバルボフィラムも販売を始めることで、暗い逆境に居たバルボフィラムも、他属と同等の場所に移ることになり、文字通り光が当たるようになりました。一方で、海外現地コレクターは全種をヘゴや木片に吊り下げて栽培し、ポット植えは皆無である状況と、花位置や自然本来の着生形態を考え、半数以上の種をヘゴ板や杉皮板に替えました。

 驚いたのはその後の様変わりで、数年間開花が無かった、またこれまで見たことがない花までが開花するようになりました。10年間の間に株が成長し大株になったにもかかわらずそれまで1輪程度であったものが一斉に開花し始め、改めてBSでありながら1年以上も咲かないバルボフィラムの開花には輝度が重要であることが分かりました。例えばベンチの下段や、吊り下げられた株によって陰となる場所ではなく、温室の寒冷紗を通した光が直接当たる場所が必要であることです。株が弱まっていないにも拘らず花の咲かないバルボフィラムの解決策はどうやら輝度にあるようです。今少し光を、です。

 しかし、多くの趣味家にとって、すでに温室内は込み入ってジャングルさながらの様相で、これ以上株を増やせば歩く場所もなくなり藪と化してしまうような状況が実状と思います。ベンチやラックの下段はLEDライトで、あるいは移動する場所がなければ、吊り下げ型にして少しでも明るい環境にするなどの対応も考えられます。バルボフィラムに太陽光の直射は許されませんが、夏季には寒冷紗越しに室外での栽培もできます。

 今年後半からはデンドロビウムと共にバルボフィラムも高地系を本格的に集める計画です。前記したように、かってバルボフィラムは比較的安価に入手できました。その後ブームとされる時期がきて現在のような高値となった結果、脇役状態が続いています。海外ラン園でも輸出に一時の人気はなくなったと話します。しかし、趣味家が集まり株分けしたり、特定品種や節を地域別に、あるいは高地タイプなどに絞って収集するなどには、新種やSpの話題が絶えることがなく最適です。また株サイズもバルボフィラムは小 - 中温室にも合うラン属で、胡蝶蘭やデンドロビウム程、病気や季節対策等で神経質になることもありません。

 バルボフィラムの第二のブームの引き金となるキーワードは、ニューギニア、ボルネオ島、新種、希少種および低価格であろうと思われます。中でも低価格は最も重要です。一方、ニューギニアから希少種の4つのキーワードは互いに密接な関係があり、仕入れルートと方法が重要となります。 一旦市場で上がってしまった価格を下げるのは大変ですが、新参者の本サイトにはそうした過去のシガラミは無く、これから来年にかけてそれらキーワードへの挑戦となります。

最長開花記録デンドロビウムDendrobium discolorとDendrobium tangerinum

 デンドロビウム原種の中で花寿命の最も短い種はDen. amboinenseであることはすでに取り上げましたが長い種はSpatulata節に多く、ほとんどが1か月以上です。本サイトでの最も長い開花種がDen. discolorで3ヶ月、次がDen. nindiiの2ヶ月です。一方、1輪や1花茎あたりではなく一株当たりで花が途絶えることなく開花を続ける最長期間更新中はDen. tangerinumです。3月からの開花で現在100日を越えました。バルブは3バルブのみの株です。最も新しい花茎の花(7月3日撮影)はしばらく枯れる雰囲気がないので150日を超えるかも知れません。下写真がDen. discolorとDen. tangerinumです。Den. tangerinumは東京ドームラン展の売れ残り品で、3月に入りそれまでの出品用のプラスチックにミスゴケ植えとしていたものを3月初めに素焼き鉢にミズゴケ100%に替えました。しばらくして開花が始まり、現在も続いています。開花から1か月でペタルのオレンジ色が濃くなる特徴があり、同じ花でも開花からの期間によってペタルの濃度の変化が見られます。

Den. discolor

4月17日

5月15日

5月16日

5月20日

6月4日

7月3日
Den. tangerinum

6月


環境温度で花色が変化するデンドロビウムDendrobium victoria-reginaeとyeageri

 フィリピンルソン島からミンダナオ島に至る標高1,300m以上の雲霧林に生息するDen. victoria-reginaeと、ルソン島Benguetの標高1,000-2,000mに生息するDen. yeageriはフィリピン生息種としては数少ないクールタイプのデンドロビウムです。前者は通年で開花し、後者は主に初夏が温室での開花時期となります。本サイトではいずれもバスケットとミズゴケの植え付けで良く成長しています。Den. victoria-reginaeはブルー色で人気の高いデンドロビウムである一方、Den. yeageriは紫色で、余り市場には流通していません。

 本サイトでは現在、Den. victoria-reginaeとyeageriをそれぞれ100株以上栽培しています。株数が多いため大きなバスケットに寄せ植えです。これらのデンドロビウムの花色は環境温度で若干変化し、栽培平均温度が15-20℃でブルーが濃くなり、20-25℃になると薄くなる傾向が見られます。このためDen. yeageriは花色が低温では青味のある紫色から、高温では赤味のある紫色となります。いずれも青の成分が温度に影響を受けるようです。6月末現在、温室では両者が開花しており、この時期は下写真が示すようにDen. victoria-reginaeでは青色がやや薄く、Den.yeageriは赤みが強くでています。12月頃の開花ではそれぞれ青味が増します。


Den. victoria-reginae

Den. yeageri


風変わりなデンドロビウムDendrobium pinifolium

 名前不詳のまま入手したボルネオ島生息のデンドロビウムが温室で開花しました。Den. pinifoliumでした。あまり聞きなれない名前と思います。このデンドロビウムの別名をPine-Needle-Like Dendrobium;松葉のような葉をもつデンドロビウムと言います。葉形状が松葉のように針状です。下がその写真です。国内での売買情報は見当たりません。海外でもヨーロッパ向けネットショップ1サイトのみです。ボルネオ島低地に生息し、中央写真に示すように花茎は短く葉元に3輪程の花を上下逆さまに着けます。右写真は下から花を撮影しました。ドーサルとラテラルセパルが卵形で、ペタルが細長い変わった形状です。疑似バルブはオレンジ色です。、右写真のように拡大すると黒い細毛がバルブに見られ、これはConostalix節に見られる特徴です。

 葉が他のデンドロビウムと異なり極端に松葉のように細長くなるのはなぜか、このように進化した環境が背景にはある訳で、生息域の情報がないため推測ですが、葉が細いのは葉からの水分の蒸散を抑えるためと通常考えられ、本種は着生ランであるので比較的大気が乾燥した環境であり、また葉面積が小さいことは光合成のために輝度が高くなくてはならず、明るい場所に生息していると考えられます。

 またこのような変わった形状を見ていると、やはり受粉の仕組みを想像してしまいます。バルブに細毛があり、花茎が短く花が直接バルブに接していること、さらに花が下向きになっているこれら3点を考えると、ポリネーターはおそらくホバリングして花に直接着地ができない飛行には不器用な昆虫で、まずはバルブに取りつき、バルブの下からよじ登って花にたどり着くのかと。それ以上の想像はジャングルにテントを持って観察する以外なさそうです。しっかりとした立ち性であるため支持棒は不要で、クリプトモスミズゴケ(1:1)ミックスと3号素焼き鉢に植え付けです。本サイトでは現地を含む海外マーケットを参考にし、それに対抗する価格をポリシーとしています。本種は売買情報が乏しく当面2.500円での販売です。

Dendrobium pinifolium


Formosae節デンドロビウム植え込み材

 多種からなるデンドロビウム栽培において、植え込み材の選択は最も頭の痛い問題です。特に数多くの品種と株数を栽培する場合は、より適した素材であることと共にコストが大きな課題となります。その典型例は胡蝶蘭やバルボフィラムに最も適したヘゴ板です。数百株と数が増えればコスト上、利用が困難になります。

 これまでデンドロビウムのFormosae節では春の成長期から秋までは調子が良いものの冬を越すと弱まり、春になって鉢から取り出して見ると生きた根がほとんど無く、1茎だけが辛うじて生きていると言った状態がありました。他のラン属との同居栽培である以上、Formosae節にとっては冬季の過かん水が原因と思われます。そこで昨年から植え込み材をそれまでのミズゴケと素焼き鉢や、バークミックスとプラスチック鉢の組み合わせに代わり、ミズゴケとクリプトモスを混合した植え込み材と素焼き鉢の組み合わせで成長度合いを見ています。これはミズゴケ単体よりは気相が大きくなり、ぐしょぬれ状態が少なく乾燥も早いことからです。クリプトモス単体と素焼き鉢は会津若松において知人が長期間栽培し、特にSpatulata節に好成績を上げていましたが、浜松では3-3.5号素焼き鉢では逆に春から秋にかけて乾燥し過ぎます。現在のところではバークミックスやミズゴケ単体と比較して、ミズゴケクリプトモスミックスが最も状態が良く、下写真に示すようにそれぞれで新芽が良く発生しています。小さな鉢(3号以下)はミズゴケが5割以上、大きな鉢(株)(3.5-4号)では逆にクリプトモスが5割以上と混合割合を変えています。これ以上の鉢となる大株ではスリット入りプラスチックにほぼ100%クリプトモスを使用しています。

 デンドロビウムはしばしば茎(疑似バルブ)の途中から芽が出ることがあります。弱ったあるいは老化した茎ほどこの傾向が見られます。この現象は根周辺の環境が悪化していたり、すでに根の多くが死んでしまった状況下で起こります。高芽がでたと喜んでいる場合ではないのです。新しい芽は根元から発生するのが正常で、根元から新しい芽が次々と出れば鉢と植え込み材の組み合わせ(環境)が良く、根の張りが進んでいることを示しています。あと1年程成長状態を見て、根張りが鉢全体に回るようであれば全面的にクリプトモス・ミズゴケミックスに、Formosae節だけでなく、Dendrobium節も変更する計画です。

 植え込み材と鉢の選択はそれが置かれた環境に大きく左右されるため、それぞれ微妙に異なり、なかなか他を真似ることが出来ません。いろいろ試してみて自分の環境に合った最適な素材を見つけることが必要です。調子が悪そうであればしばらく様子を見ると言う姿勢ではなく、直ちに植え込み材あるいはかん水方法を変えることが必要です。一部の種がもつ休眠期は別として、常に株は伸長したり、昼夜で葉色を変えたりと動いており、これが停まるようであれば何らかの物理的な対応が求められます。


Den. ayubii

Den. igneo-niveum

Den.ovipostoriferum

Den. valmayorae

Den. vogelsangii

Den. unicum (Dendrobium section)


異質なデンドロビウムDendrobium tentaculatum

 東京ドームラン展で南米のClori Orchidsから引き取ったランの中にDen. tentaculatumがありました。どうした経緯で東南アジア生息のデンドロビウムが1種だけ、南米の原種の中に混じっていたのかは不明です。本種が下写真になります。花をはじめ草のような葉も茎(疑似バルブ)も一般のデンドロビウムの形態とはかなり異なっています。これは本種を含むDiplocaulobium属がDendrobium属に統合されたため、細長く伸びるセパル・ペタルの形態的特徴をもつDiplocaulobium属がデンドロビウムの仲間として加わったためです。本種はニューギニア生息種です。花の寿命は短くDen. amboinenseと同じく1両日程で枯れてしまいます。しかし本サイトの温室では2月に入手してから2回目の開花ですので年に3-4回季節の代わり毎に開花するのかも知れません。素焼き鉢にミズゴケの植え付けです。生息地の標高は1,000mですので中温に置いています。

Dendrobium tentaculatum

Bulbophyllum elisae とBulbophyllum chloranthum

 10年程前にインドネシアスラバヤの当時原種のみを扱っていたSimanis OrchidsのKolopaking氏からspとして頂いたバルボフィラムがあり、この名前がこれまで不明で、東京ドームラン展では、この10年間で大株になったヘゴ棒当たり40バルブ程の株を、Bulb. elisaeではないかと3株ほど販売しました。ところが今年4月のマレーシア訪問で、園主からインドネシアからの初めての入荷株があるとのことで見せてもらった株が、花の無い状態でしたがBulb. elisaeとした株と似ており、その名前Bulb. chloranthumを調べたところ、本サイトの株はこのBulb. chloranthumの可能性があると本歳月記4月でも取り上げました。1週間ほど前から温室で開花が始まり、さらに調べたところ結論としてはBulb. chloranthumとなりました。このバルボフィラムが下写真です。

Bulbophyllum chloranthum

 本種はMacrouris節で、Bulb. elisaeのAdelopetalum節と異なります。バルブ当たり1葉と、花の容姿は良く似ていますがリップ形状が異なるようです。生息地はBulb. elisaeがオーストラリアに対して、本種はパフアニューギニア、Irian Jaya、ソロモン諸島とされます。このBulb. chloranthumは国内での販売情報がネット上からは検索できないことから、まだ国内取引がない品種と思われます。一方、Bulb. elisaeについてはこれを入手するように海外ラン園に問い合わせを行っています。問題は本サイトではミスラベルは交換あるいは返金を行うことにしているのですが、東京ドームラン展での売買では購入された方の名前や住所が分かりません。そこで来年のドームラン展か、本サイトをご覧になって問い合わせメールを頂ければ対応したいと考えています。

その後のCleisocentron

 東京ドームラン展でCleisocentron gokusingiiとmerrillianumを確か1,500円/株で多数販売しました。その後本サイトのmerrillianumが品切れでgokusingiのみとなり、4月に新たにmerrillianumを入荷しました。全てロングサイズとの指定で、50㎝から1m長です。これらの一部が下写真となります。写真左のメジャーの長さは50㎝です。右は merrillianumの特徴である葉が筒型の形状を拡大したもので蕾が付いています。


Clctn. merrillianum

Clctn. merrillianum 茎

  相変わらず本種だけは、注文通りの数とサイズが集まります。一つ気が付いたのは、マレーシアペナンのラン園のオンラインカタログを見ていたところmerrillianumが40ドル、すなわち5,000円となっていることです。本種を買い求めるのは日本くらいで、アメリカやヨーロッバでの人気は聞きません。また現地仕入れ値から考えると、40ドルは極めて高額で日本にしか売れないものならば、日本市場(30㎝程で7,000円?)を意識しての価格が得策と判断したのではと思われます。

 本サイトの40㎝未満の販売価格が1,500円で、一方、生息国の現地価格が5,000円では道理があべこべで、情報化社会となり容易に海外市場の相場価格が分かる今日、こうしたこともあるのかと考えさせられました。確かこのラン園は2年前東京ドームラン展に出店していたようです。本サイトは40㎝以上になるとやや入手難になることから茎の長さで価格が変わり、40㎝が3,000円で10㎝長くなる毎に1,000円づつ加算(例:50㎝で4,000円)する価格としました。おそらく30㎝から先は、国内栽培での10㎝の伸長には2年かかると思います。1m以上の本種は入手困難で2mに近くなると世界に何本という希少株の領域に入ります。40㎝を超えると支持棒を使用してのポット植えは無理となり、無理やり長い棒で立てても、大きな木の枝から垂れ下がる自然な姿からは何か不自然で、本サイトでは40㎝以上ではミズゴケとクリプトモス(1:1)をヤシガラロールマットで巻いて吊り下げ型にしています。

Maluku諸島からのDendrobium sp

 前回の訪問でMaluku諸島(スラエシ島とニューギニアの間に位置する諸島)からのデンドロビウムspとのことで6株あり、これを全て入手しました。今週に入り本種が開花したのが下写真です。Spatulata節と思われますが、ペタルがカールしていないことが一つと、セパル・ペタル共に長方形の形状(基から先までほぼ並行幅)であることが特徴です。花サイズはDen. cochliodesよりも太目でやや大きく、15輪程の花を付けます。同じような花被片形状の種があるかどうか調べていますが、今のところ該当種が見つかっていません。1週間程経過して花形状が落ち着いた段階で再度調べる予定です。

後記:その後の調べで、Spatulata節のDen. calophyllum ( http://www.orchidspecies.com/dencalophyllum.htm )のようです。国内ネット上での取引は見当たりません。種名も判明したことで、本サイトでの価格は4,000円としました。


Dendrobium sp from Maluku

Vanda ustii とVanda roeblingiana

 V. ustiiはフィリピンNueva Ecija、 Vizcaya、 Ifugao等に生息し、2000年に命名された新しいバンダです。本サイトでは2006年頃に入手したのが最初でした。当時、困ったのは本種の名前のustiiをどう呼ぶかで、正しくはユー・エス・ティー・イー・アイと一字一句発音し、最後のiをアイとします。ラン園で話し合っている時はユス・ティー・アイと略して呼んでいます。名前の由来も変わっていて、マニラ市内にある名門University of Santo Tomasからです。

 フィリピンのVandaはLuzon島BulacanのV. luzonica、またMindanao島のV. sanderianaが良く知られています。これらはいずれも標高500mに対し、本種は1,200mと比較的高地に生息するため、5℃ほど前者に対して低温が適しています。かっては本種をV. luzonica var. immaculataと、V. luzonicaの変種と見なされていたためか、V. luzonicaと同じ環境で栽培しがちですが、やや低めが良いようです。本サイトではバスケットにクリプトモスを詰め込んだ植え込み方法です。V. luzonica同様に1m程の高さに成長し、よく脇芽を発生して大株になる性格があります。本サイトにある株も全て4茎以上の大株で、写真に見られるように、クリーム色のベースと紫色のリップとのコントラストが目立つ大きな花をつけます。入手希望者も多く、しかし10年以上かけてやっと大株になったものを株分けして販売する訳にもいかず、8月訪問時には子株を調達する予定です。インターネットを本種で画像検索すると、写真の中に本種なのかどうか分からない怪しげな株も見られますが、それらはV. sanderianaに多く見られる交雑種の1種と思われます。

 一方、Vanda roeblingianaはフィリピンVandaとしては最も標高のあるLuzon島中央部のBenguet 1,600mの高地に生息します。この高さはVanda javieraeよりも500m程高いことになります。しかしV. javieraeを入手する際、必ずと言ってよいほど同一ロット内に近縁種である本種が2割程混ざっています。この点で気が付いたのは、V. javieraeに本種が混ざるのは、V. javieraeは2つのフォームがあり、一つはリップ側弁がグリーン、他は赤褐色のラインが入るもので、これまでのロットでは後者にのみです。おそらく同一場所に生息しているV. javieraeは後者のフォームと思われます。花のない状態での葉と根の様態からは本種とV. javieraeとの識別は出来ません。

 V. ustiiを含め、これらはいずれも中温系のVandaとなります。マニラでは25℃以下になる日がないほどの高温環境のため、これらVandaの開花を得ることが困難と言われます。日本ではV. javieraeは春(4月が最花期)になっての開花です。一方、V. roeblingianaの開花は通常初夏から夏で、より高山でありながら開花時期は夜間温度が20℃程になってからとなります。V. ustiiとほぼ同じ時期です。よってV. javieraeとこの両者が同時期に開花することはありません。V. javieraeと本種が混ざって入荷することからも、現地での開花が同時期ではない一方で、株だけからは判別ができないことによる選別ミスでこれらが混入する原因が分かります。より高山に居ながら、より暑くなってから開花するとは矛盾するようですが、昼夜の温度差が一定以上必要で、その中心温度が何度かが開花の要因になっているように思われます。


Vanda ustii

Vanda roeblingiana

Dendrobium toppiorum

 本種はボルネオ島Sabah州の標高1,200m近辺に生息するFormosae節デンドロビウムです。現在会員からのリクエストもあり、マレーシアラン園に30株程入手依頼をしています。ところが1昨日、Den. tobaenseのロットの中に不思議な花が咲き、さてはこのロットの株はハイブリッドかと、その花を写真に撮りメールに添付して、園主に19日送りつけました。今朝(20日)、返事があり、これがこちらで探しているDendrobium toppiorumであると。Den. toppiorumはリップのベース色が黄色であるとの先入観があり、それならばすぐ分かるのですが、開花した花は白ベースであり、果たしてこれはPeng Seng(Den. tobaense x Den. cruentum)ではないかとクレームをつけたつもりでした。調べて見ると白ベースはDen.toppiorumの一つのフォームあるいは亜種(taitayorum)として存在するようです。亜種は広域に分布する種の地域変種としてしばしば分類され、例えばPhal. amabilisの生息域は主にボルネオ島、マレー半島、スマトラですが、スラエシ島からMaluku諸島のsubsp. moluccanaや、ニューギニアからオーストラリアのsubsp. rosenstromii等があります。分類学上の形態的な違いをどこに求めるかはリップが大半で、セパル・ペタルの形状差や色は単に個体差と見なされることが多いようです。

 本種もリップ形状がtoppiorumとは若干異なっています。希少種とされる本種に、おそらくさらに数が少ないであろう白色フォームあるいは亜種かも知れず、むしろ得をした気持ちになってしまいました。それが現在本サイトの温室で開花中の下に示す写真です。黄色いリップをもつtoppiorumはボルネオ島Sabah生息種ですが、同じSabahからのDen. tobaenseになぜ白色リップが混ざってしまったのか、確かにバルブや葉形状からは区別がつきませんが、面白く、果たして未開花の株の何割が本種に化けるのか楽しみになってきました。現在発注しているボルネオ島のtoppiorumが入手できたならばその謎も少し分かるかも知れません。


Den. toppiorum white lip-base

巨大な花Phalaenopsis amabilisとDendrobium papilio

 胡蝶蘭原種Phal. amabilisが通常であれば晩冬か早春に開花するのですが5月中旬に開花しました。驚いたことにはこの花の大きさです。これまでの栽培経験を通し原種としての10㎝x10㎝のサイズは初めてです。一般的には8㎝以下です。人工改良された慶弔用胡蝶蘭と変わらない程の大きさです。このPhal. amabilisが下写真です。開花して1か月近くなります。本種の生息地はニューギニア・インドネシア領Irian jayaです。Irian jaya生息種はボルネオ島産と比較して均整の取れた全体に丸みのあるセパル・ペタルが特徴ですが、写真の花もその特徴をよく表しています。最も大きなサイズとしてはボルネオ島のgrandiforium(約10㎝)で、小さいのは台湾のformosana(6㎝)です。しかしgrandiforiumでも縦横の両スパン(NS: natural spread)が10㎝はまだ見たことがありません。1か月を超える開花寿命と、このサイズを見ていると、もしかしたら今日の慶弔用胡蝶蘭の元親ではなかったのかと思ってしまいます。栽培はヤシガラロールマット巻きです。丈夫で温室のどこに置いても良く育ちます。


Phal. amabilis Irian Jaya

 一方、下写真はフィリピン固有種であるDen. papilioです。本種はLuzon島からMindanao島に至る、標高1,200mを超える高山系デンドロビウムです。このため栽培は低 - 中温となります。高温下での栽培では花が咲きにくいとされています。こちらも大きな花で、特徴的なのはその疑似バルブに対するサイズ比です。疑似バルブは細長く、このバルブに対して不釣り合いなほどPhal. amabilisのような大きな花(8㎝)を付けます。本種の根もバルブに似合わないPhal. amabilisのような太いサイズです。根は固くて曲げることが出来ないため植え替えは一苦労します。しかし開花した時のインパクトはそのアンバランスのためか相当なものです。温室栽培(28℃以下)のため、自然環境での開花時期とは一致しないと思いますが、今年の浜松の温室での開花は3月と今月6月となっています。。本サイトではDen. fairchildiaeと同じ環境に置き、木製バスケットにミズゴケの寄せ植えです。寄せ植えにしたのは栽培スペース節約のためです。一方、素焼き鉢にミズゴケの単体栽培では同じ環境下であっても、これまで開花に至った株がありません。低 - 中温に置くと湿度がやや低くなるため乾湿の変化が大きくなることが原因ではないかと考えています。素焼き鉢と比べればバスケットの方が良く乾くと思われがちですが、中 - 大サイズの木製バスケットにミズゴケの組み合わせでは、かなりの量のミズゴケを使用するため、常に湿った状態となります。本サイトでは低 - 中温系のDen. victoria-reginaeやDen. yeageriもこうした同様の植え込みを行ってから極めて順調です。この濡れ過ぎず乾燥し過ぎずの、多くのミズゴケを使った木製バスケットの寄せ植えが、ふる里コケ林の環境に似ているのかも知れません。
 


Dendrobium Spatulata節の角(ツノ)の長さ比べ

 デンドロビウムのSpatulata節と言えば、クルクルと回転したペタルが上に向かって、鹿の角の様に伸びているイメージがあります。英語でこのペタルを角に例えて(ロング)ホーンと呼ぶ人もいます。Spatulata節のなかで最も長いホーンをもつ種はどれかと言えば、Den. lasiantheraが挙げられます。しかしDen. lasiantheraは花自体がSpatulata節のなかでは大きいため、ホーンを長いと感じた人は余り多くないかも知れません。これに対してリップが比較的小さく、ホーンがDen. lasiantheraとほぼ同じ6㎝程の長さをもつDen.. laxiflorumは花全体のバランスから見て非常に長い印象を受けます。現在開花中で下がその写真です。温室を訪れ始めて見る人は一様にこの特異な形状に惹かれるようです。本種は1.5mほどになり栽培はスリット入りプラスチック鉢にクリプトモスあるいはミックスコンポストで、比較的高温・高輝度下に置いています。かなり強靭で会津の知人温室で4年間素焼き鉢にミズゴケのまま一度も植え替えすることない状態(2013年歳月記11月)でしたが大株になっていました。

 Spatulata種は全体で見れば花形状、色など多様で、趣味家のなかでも一度は栽培してみたい種だと思います。その多くは1mを超え、花茎を加えると2mを超える大株も2割程あります。ほとんどの種は栽培は容易ですが、一方で、そのサイズからそれなりの大きさの温室がなければ栽培出来そうにもないランの代表で敬遠されがちです。良く回転した比較的長いホーンをもつコンパクトなタイプではDen. antennatumです。それでも花茎を含めると1m程となります。マレーシアラン園で最近、Den. antennatumのロングホーンタイプとのタグを付けた株がありましたが、残念ながら開花期ではなかったため花を見ることはできませんでした。次回訪問で残っていれば数株購入しようと考えています。


Den. laxiflorum

Dendrobium tobaense_var_giganteum ???

 一般種としてのDen. tobaenseはペタルスパン(左右のペタルの端間長さ)12 - 13㎝の大きな花をつけるボルネオ島Sabah州標高700 - 1,500m、また北スマトラToba湖1,000 - 1,500mの生息種で知られています。低温から中温の生息域であるため育てにくい(開花が難しい)とされます。このDen. tobaenseに関し、日本のラン園の一部で、Den. tobaense var. giganteumとの変種名をもつDen. tobaenseが販売されています。一方、不思議なことにvar. giganteumという変種名をもつDen. tobaenseをマレーシア現地原種専門ラン園は知らないそうです。そこでネットで検索してみたのですが、この変種名をつけた名称者(分類学者)が誰なのか今のところ分かりません。現在海外ではDen. tobaenseで、フォームとしてあるのは緑色の強いflavaタイプのDen. tobaense greenです。

 var. giganteumすなわち’巨大な’と言う意味と思いますが、これとされる国内サイトにある解説者の写真を見る限り、どこが一般種と比べて巨大なのか、あるいは違いがあるのかが分かりません。一般種の個体差の範囲を超えて、例えばペタルスパンが20㎝とか、疑似バルブの背丈が1mを超える(一般種で40-50㎝程)とかであれば変種としてあり得ますが、それらの実態写真が見当たりません。タイや台湾での交配種かとも思いましたが、一説によると低地生息種をvar.giganteumと呼ぶとのことです。すなわち前記標高700mに生息するようです。なぜ低地生息種がvar. giganteumという名称をもつのか。低地は高温であるが故に大きな花が咲くとか、疑似バルブがSpatulata並みの長さになるとかであれば理解できるのですが、ならばそれを示す写真があっても良いと思いますが見当たりません。低地とされる具体的な生息地も不明です。var. giganteumという名称の響きが、一般種と比べて大きな立派な花が咲き、また低地生息の高温タイプであり本種の低 - 中温栽培の難しさが解決され、育てやすいという販売上のトリッキーな仕掛けでないことを願うところで、本当にこの変種が実在するのか調査中です。少なくともネット上の画像検索の中には見当たりません。疑似バルブや葉サイズとの相対比から推定してすべて海外で一般に販売されているものと同じ種です。趣味家の方でvar. giganteumとしたDen. tobaenseを購入されていたら、その名称の根拠を販売者に伺い、一般種とは異なるvar. giganteumにふさわしい写真等を見せて頂いては如何でしょうか。本当にvar. giganteumが実在するのであれば、その名称で一般種よりは高価に販売している訳ですから、その違いを示す写真くらいは持っているはずです。

 なぜこれを問題にするかですが、一つは、もし名称がDen. tobaense giganteumであったり、海外で一例見られるDen. tobaense Giantのような、展示会で入賞した株等の愛称あるいは商品名として所有者が好みで付けたvarのない名称ならば兎も角、var. giganteumとなれば遺伝的に固有の種となり、全く意味が違うからです。遺伝的に分類可能なものが実在しているのであれば販売上に問題はありません。しかし誰が見てもDen. tobaenseとDen, tobaense var. giganteumの分類学的に異なる2種類の名前があり、両者が純正の原種で価格的にそれ程の大差が無いとすれば、購入者は前者を小さな花と誤解し、後者を買い求めるのは明らかです。もしこの名称が詐称だとすればどうなるのか、varのついたgiganteumの名称は現時点の調べのなかでは日本でしか見られません。海外(生息国)にはvar. giganteumと言う分類がない状況の中で一体、日本のこれらDen. tobaenseはどこから入荷しているのでしょうか?二つ目は、原種名の下に自由に名前を付けることができ、その属性として変種varやフォームfmなども自由に用いることができるのであれば、例えばDen. tobaense var. Ultra-Super-Giantという名前でも良いことになります。これならば花はvar. gigateumより大きそうです。こうなると交雑種を原種と偽って販売する某国の某ラン園のように、原種の世界ではなくなります。

 以上は、本場からvar. giganteumという品種は聞いたことが無いという回答をもらったことがきっかけで取り上げたコメントです。下写真は本サイトのDen. tobaenseでマレーシアから入荷した一般種です。左右ペタルの端から端までのスパン長は自然状態で11.5㎝、表皮面長さで12.5㎝です。


本サイトの温室で現在開花中のペタルスパン12.5㎝のDen. tobaense一般種

Bulbophyllumの新種Bulb. magnum

 本種はLuzon島600mから1,200mに生息するフィリピン固有種で、2013年J.Cootes&W.Suarez氏によりバルボフィラムの新種として発表されました。Suarez氏はcootes氏と伴に数多くのフィリピン生息のラン原種を発見している若い研究者で、TagaytayやBatangasのラン園を一緒に回ったことのある知人です。本サイトの原種入門のページに使用しているジャングルの写真は彼から頂いたものです。

 昨年10月にフィリピンで入手した本種が浜松の温室で開花しました。下がその写真です。上段右が花で1茎に3輪です。本種の葉は卵形で大きく、全体はリゾームの長いBulb.virescensに似た様態です。花は大きくセパルの長さが8㎝程あります。なめし革のよう匂いがあります。強い匂いではありません。新しい種であることから詳細な栽培や販売情報は見当たりません(後記:2年ほど前の国内の某ラン園のネットにspとして8万円で販売されていました)。本サイトではバークミックス(ネオソフロン:軽石:pH調整炭=6:2:2)とプラスチック鉢に植え込んでいます。ごく近年の新種であることと、フィリピンマーケットでもほとんど見かけないため、希少種扱いで4株ほどをバスケットにミズゴケで植え付けてみましたが、不思議なことに同じ場所の栽培にも拘らず、バスケット植え込みの方の成長がバークミックスに比べて今一つで、バークミックス・プラスチックが明らかに良い印象です。写真上段左から分かるよう新芽を良く伸ばします。環境は中 - 高温の高湿、輝度は中輝度としています。

 このBulbophyllumも東京ドームラン展に出品したのですが、特に宣伝もしなかったためか誰も買わなかったようです。緑色のセパルが、1/4サイズ程の赤褐色のペタルを覆っており、全体は緑色の花と言った感じです。正面から見ると写真下段のような舌状の赤褐色のリップが見えます、このリップはBulb. lobbiiと同様にシーソーのように動き、リップに乗っている虫が匂いに誘われて奥に向かうと一瞬で回転して舌が上を向き、虫を奥に閉じ込めます。外に出るにはこの舌を登るのですが、舌が上を向いているため蕊柱と舌の間は狭い通路となり背中を蕊柱に接触させながらよじ登る以外方法がない状態となります(蕊柱やシャク帽等の解説についてはこちらを参照)。こうして蕊柱のシャク帽が外れ花粉魂が虫の背中に付くか、すでに背中に花粉魂を付けていた場合は受粉させるかをし、その後、舌の上部まで来ると、重心が先端方向に移動することで舌をクルリと回転させ元の位置に戻し、ハイご苦労様さようなら、とばかり虫を外に追い出すかのようです。さらに憶測すれば、虫の背中に接着した花粉魂は粘着性が強く容易には剥がれません。シャク帽の下にある窪みに花粉魂がうまく納まったとしてもそれほど簡単に背中から外れるとは思えません。そこで虫が所定の位置に来ると、舌は一気に回転して虫の体重と、舌にしっかりとつけた足の踏ん張り力をも利用して、虫から花粉魂を剥がすのではないかと、言い換えれば花粉魂を剥がす手段までラン自身が誘導しているのではないかと、この巧みな仕掛けを眺めていると思えてしまいます。ランのような虫媒花からは匂いで誘ってもそこにほとんどのケースで密のような食べ物がある訳でもなく、どうも虫よりもランの方が一枚も二枚も上手に思えてなりません。そう考えると写真下の花が何か花らしくなくマントを被って顔を隠した怪しげな風貌にも見えてきました。



Dendrobium cochliodes green-color form

 本種はパプアニューギニア西海岸から内陸へ、さらにインドネシア領Irian Jayaの中央部のコケ林に生息するSpatulata節デンドロビウムです。一般種のDen. cochliodesはこげ茶色の花を着けるのですが、本種は全体がflavaタイプのように緑色です。現在温室で開花を始めたので下記に写真を示します。


 花茎(raceme)当たり10輪程の花を付けます。海外では主に炭が植え込み材として使用されていますが、本サイトではクリプトモスとスリット入りプラスチック鉢です。マレーシアのオンライン価格は一般種(ダークタイプ)で 3,000 - 5,000円、日本では某ラン園で国際相場価格の3倍の15,000円程で販売されています。本サイトではグリーンフォームで5,000円、一般フォームであれば取寄せになりますが4,000円です。パプアニューギニアのハイランド州Kutubu湖周辺生息種は花がより大きいとのことで、このタイプが入手できないか検討しています。

Phalaenopsis malipoense (maliponensis)とPhalaenopis gigantea

 Phal. malipoenseは中国雲南省南東に生息する2005年同定の胡蝶蘭の新種です。本サイトでは2012年マレーシアにてBS株を入手し、2013年3月の胡蝶蘭の原種サイト今月の花のページで会津若松温室にて開花した写真を掲載しましたが、昨年2014年の東京ドームラン展では国内初登場として展示されていました。E A. Christensonは本種についてPhal. lobbiiの中国地域変種(フォーム)と解釈していたようです。胡蝶蘭原種趣味家にとっては入手希望の高い種と思います。しかしネットを見ても国内外共に明確な販売情報がありません。そこで本サイトでは希少種、珍種と言われ高価になる前に、NBSですが一株1,800円で7月から販売します。下写真左がPhal. malipoenseです。

 またPhal. giganteaについては、本サイトではこれまでボルネオ島Sabah生息の野生栽培株のみを所有しており、このため高価であり、低価格を目的に今回写真右に示すスパン長(左右の葉の端間距離)25㎝サイズの実生株を入手しました。3,000円で販売します。



購入問合せについて

 今月の開花種や本歳月記で取り上げるランの中には、本サイトの価格表に未掲載の原種が多くあります。販売情報のサイト更新が遅れているためですが、販売リストにない興味をお持ちの品種がある場合は、メールにて価格や販売時期等をお問い合わせください。

ミスラベルからの新種 Bulbophyllum debrincatiae

 Bulb. lasioglossumとしてプレオーダーし、今年2月東京ドームラン展にPurificacion Orchidから20株持ってきて頂きました。ところがこの株が、胡蝶蘭の原種サイト1月歳月記に掲載したBulb. lasioglossum(この株は販売済)と比較して、株が異様に大きく何か違和感があったのですが今月開花しました。やはりミスラベルで、花茎が長く伸びるまでの様態は似ていたのですが、開花して全く異なる種であることが分かりました。調べたところ2002年同定の、よって新種の部類となりますが、Bulb. debrincatiaeとの名称のバルボフィラムで、Bulb. lasioglossumとは同じHirtula節であることが分かりました。フィリピン固有種で生息地はNueva Vizcaysとルソン島Quezon州標高800m - 1,200mとされ、中温系と思われます。本サイトで撮影した本種を下写真に示します。

 新しい種であるため、情報はここまでで、orchidspecies.comでさえ、2枚の写真とフィリピンで見られるという短文以外何も解説にありません。株はBulb. lasioglossumの3倍近いサイズです。リップに細毛が見られる点ではBulb. lasioglossumと同節であることを伺わせます。一方、このランは異例ずくめで、不思議なことに通常多輪花のランは花茎の元から順次開花するものですが、本種は逆に花茎の先端から開花が始まり順次、株元の方に移って行きます。一輪当たりの花の寿命は4-5日で、花全体が開花終了するのが3週間程であるため花茎元が開花する頃には3/4の花が終了しています。またリップだけでなくドーサルセパルやペタルまで細毛があります。J. cootes氏も指摘していませんが、さらに驚きは匂いです。多くのバルボフィラムは嫌な臭いを持つ種が多い中、本種はややグロデスクなその花容姿に対し、顔を近づけるとミルクのような優しい良い匂いがします。

 花形状を見るとき、いつも虫媒花としてどんな昆虫が相手なのかを想像するのですが、一体この花全体に着けた細毛は何のためかと考えてしまいます。飛んでいる虫が停まり易くするためならばこれほど込み入った細毛はむしろ邪魔で不要のようにも思えますし、この細毛によって大きな虫を寄せ付けないようにしているのか、逆に飛んできた虫が匂いに誘われてリップの奥に体を入れた後、飛び立とうとする際、細毛が邪魔で体をバタバタと動かしているうちに受粉させるためなのかとも。バルボフィラムのように花形状が多種多様な種に対しては匂いを含め、何千年もかけてなぜこのような形に進化しなければならなかったのかと思い巡らすのもまた楽しいものです。

 現在は入荷時そのままでココナッツファイバーとプラスチック鉢の植え付けです。開花が終了したらクリプトモスかバークミックに植え替える予定です。V. javieraeやDen. papilioと同じ中温環境のやや暗い場所に置いていますが、ルソン島生息域の標高からは低 - 中温に置く必要もなさそうです。ネット上では国内販売情報は検索できません。

Bulb. debrincatiae

Dendrobium aurantiflammeum

 植え付けが終了したDen. aurantiflammeumが僅かながら開花しています。植え付けは12.5cm x 7cm木製バスケットにそれぞれ2株をミズゴケで寄せ植えです。バスケット当たり1株づつが良いのでしょうが40株もあるとスペースが問題となるための対応です。ネットで本種を画像検索するとほとんどの花は橙色、言わば柿色です。しかし、なぜか4株の開花の中で半数の2株がほぼ赤に近い色で、これは偶然なのか、花の色は環境変化で多少濃度が変わる種があり、同じような性質によるものなのか分かりません。かなり鮮明な赤色で驚いています。下写真上段に一般的な柿色(これも開花中のもの)と今回出現している赤色の違いを示しました。


一般色

開花株の中の赤色花

赤色花の別アングル

赤色花下方向からのアングル

  前回のマレーシア訪問で交配用として1株頂いたこともあり、この赤色株はさっそく自家交配を行いました。果たして無事受粉するかどうか観察が続きます。全ての株がFSサイズで疑似バルブ先端の花柄痕を見ると8個所程あり、順調に育てば1年後にはバルブ当たり5輪花程は同時開花するのではないかと期待しています。

Bulbophyllum 似た者同士

 昨年10月末にBulbophyllum giganteumとしてフィリピンで入手したバルボフィラムでしたが、今年1月に50株以上ある中で1株開花した花はBulb. nymphopolitanumであることが分かり、ミスラベルかとBulb. giganteumとしての東京ドーム出品を諦め、Bulb. nymphopolitanumとして数株を販売しました。その後同じロットの株の中で開花する花が、Bulb. giganteumとは異なるものの、それぞれ微妙な違いがあり、おかしいと調べ始めたところ4種類の種に分類できました。開花のないバルブや葉だけからは全く判別は不可能であると言っても、同じロットからこうも多くの別種が混在するとは何事かという印象です。下にそれらの写真を示します。

Bulbophyllum
開花月
     
nymphopolitanum
1
basisetum
4
papulosum
5
trigonosepalum
6

 バルブおよび葉のサイズと形状は同じです。どうして見分けるのかですが、リップ(labellum)の形状で、リップ側弁の長さや突き出た中央弁の表皮が粒々か、滑らかかによるようです。確かに、Bulb. papulosumとtrigonosepalumの右端写真を見るとそうかな?という感覚です。花サイズの相対的大小とか、色、あるいはセパルペタルの形はほぼ個体差の範囲内として識別には使用されないようです。しかしBulb. nympholitanumの花形状は他と識別しやすいようには思います。

 これらの種は開花時期が微妙に異なり、今のところ複数種が混在して開花することはなく、開花するときはいつも同じ種です。このことから未だ開花していない株が多く、この中にBulb. giganteumが含まれる可能性が高いのでは期待しているところです。しかしこれでBulb. gigantenumが含まれていたら1度に5種も入手できたことになり不幸中の幸いのようなものです。いずれも市場にはあまり出回っていない種です。似た者同士と言っても生息環境は違うものと考えられ、おそらくコレクターが栽培していた株を、数合わせのため寄せ集めたのではないかと疑っています。問題は3株程、東京ドームラン展でBulb. nymphopolitanumとして購入された方がおり、開花株は良いのですが上記のいずれかが含まれる可能性があります。もし違う花が咲いたらBulb. nymphopolitanumは在庫があるためメール頂ければ交換することができます。

栽培が難しい胡蝶蘭Aphyllae亜属 ?

 しばしばPhal. wilsonii, braceana, hainanensisなどの胡蝶蘭Aphyllae亜属に関して栽培が難しいとの声を聴きます。多くはひと冬が越せない、あるいは春になっても花芽がでない、その内、古い葉が落ち、新しい葉の発生や伸長が今一つで、株が小さくなってしまうと言った問題です。

 先月の本ページにも書きましたが、この種は根が重要な性質を持っており、根の植え付け方法と管理で栽培の良否が決まります。また花を咲かせるには冬季の温度管理も必要で、胡蝶蘭原種としては例外的な夜間10 - 15℃の温度下に12月から2月頃には置きます。この温度管理は簡単なようでですが、他の高温系胡蝶蘭、例えばphal. bellinaやgiganteaなどと同居している場合は同じ温度下に置くことはできず、何か特別にクール環境を温室内の一角に設けることが必要です。このような冬季の低温化が出来ないと花芽は翌年出ません。また落葉性のため1枚程度か根だけの状態となり、そのせいで水やりが不要の様に考えがちですが、頻度をやや下げる程度で絶やさないことです。2月下旬ともなれば葉が無いにも拘らず根に対して他のランと同様なサイクルで水やりが必要となります。こうした特殊性が、栽培の難しさになっていると思います。

 他の条件は植え込み方法で、光合成のため根に輝度を与えなくてはらないことです。このため他の亜属が根の大半を植え込み材の中に入れるのに対して、少なくとも1/3は根を植え込み材の外に出します。このためヘゴ板やヘゴ棒に通常は植え付けるのですが、他のランの植え込み方法とは異なり、根をヘゴ板に取り付けてからミズゴケで根を覆うのではなく、ミズゴケをヘゴ板に乗せてからその上に根を置き固定します。根の表面が露出する植え込み方法となります。この方法はおそらく多くの栽培者が採用していると思います。これでも上手く育たない原因があるとすると水不足です。こうした根を空中に晒す場合は、乾燥も早く乾燥はこれらの種にダメージを与えます。これはPhal. appendiculataのような別種も同様で、多くの小型種の失敗は水不足です。ヘゴ板ではかん水は2月頃から11月頃までは毎日必要となり、常に湿った状態が要求されます。本サイトではしばしばヘゴ棒の場合、これをミズゴケだけを入れたポットに1/3程差し込んでヘゴ棒が常に湿っているか、高湿度状態にしています。一番の問題はヘゴ板にミズゴケを株の根元だけに僅かに使用し、根の多くの部分は直接ヘゴ板に乗せそのまま固定することです。この状態ではかなりの高湿度環境が必要で根は乾燥しがちで、やがて枯れてしまいます。ミズゴケは厚く敷き、その上に根を含めた全体を置き固定します。これが出来ない人はポット植えとなります。ポットは半透明プラスチックが適しています。

 下の写真は5月の本ページで記載した葉の全くない状態から1か月後の現在を示したものです。長い根は杉皮板、短い根はバークミックスおよびクリプトモス100%の半透明プラスチック鉢への植え込みです。いずれも1か月間ですべての株に葉が発生し順調に成長しています。僅か1か月少しの経過で花後はここまで変化します。杉皮板ではかなり厚くミズゴケを敷き、根を広げていることが見えます。根は全て露出しています。一方、ポット植えを見ると分かるのですが、根の多くの部分が植え込み材の上にあります。まるで植え込み材の上に単に置いているかのようです。しかし根の約半分は植え込み材の中です。ポットに植え込む際、バークは大粒を用います。小粒では気相が少なりなり適しません。ミズゴケも適しません。本サイトではネオソフロンとpH調整炭のミックスを用いています。軽石は加えていません。クリプトモスでは、まずクリプトモスをコブシの大きさに丸めて、その表面に根を巻きつけるように広げます。この際、根の表面を外側にし裏面はクリプトモス側にします。根の表裏に無頓着では失敗します。そしてポットに押し込みます。この結果、根の表面側は半透明プラスチックポットの内側側面に接触し、ポット外側から根が透けて見えます。よってポット内であっても根にはある程度の輝度が与えられます。かん水は晴天が続く日は乾燥しないように毎日与えています。曇りや雨天の日はクリプトモスやバーク表面の色で濡れているようであればかん水は行いません。半透明プラスチックの場合は、天候に関わりなくポット内面に水滴が付いている間はかん水は不要、無くなればかん水を行うことを目安にすれば簡単です。

 初めてこの亜属を栽培される場合、根全体がポットに埋まった状態の株の購入は勧められません。それではと株をポットから取り出し、上記の説明にあるように取り付けても多くは手遅れです。ミズゴケに埋まって伸長した根は機能的な表裏がありません。この結果、出来上がった根を空気に晒しても上手く育ちません。そうした根はミズゴケに埋めてそのままに、新しい根がヘゴ板を這うのを待ちます。これも夏以降の購入では根が伸長する晩秋までの期間が短すぎます。根がそれなりに飛び出ており、緑色の皺々の表面のある株を入手することです。言い換えれば栽培の失敗の原因は、すでに購入時の株の選択の段階にあるのかも知れません。

 Phal. wilsonii、honghenensis、hainanensisおよびbraceanaは中温、Phal. stobartianaは他の胡蝶蘭と同居で中温から高温で問題なく育ちます。輝度は他の胡蝶蘭に比べ同じ程度で良く、Phal. fuscataほどの低い輝度は必要ありません。この状態を晩秋まで維持できれば、晩秋から初冬に入り夜間15℃以下に置くことによって落葉が始まります。昼間は他の胡蝶蘭同様に冬季は25℃程度となっています。この間もかん水は3日に1回は与えます。本サイトでは乾いたら通常通りかん水をしています。輝度も通常通りです。むしろ冬季は寒冷紗を掛けない分、夏季より明るい状態です。翌年2月頃に花芽が現れます。花芽が観測されれば気温も夜間15℃以上の他の胡蝶蘭同様の環境に移動できます。こうして3-4月に開花となります。肥料は下写真の上段のような肥料ケースで与えても、定期的な液肥でも良いのですが、本サイトでは葉に苔が付くのを避けるため固形肥料としています。与える時期は開花終了後に1回限りで、秋までそのまま付けています。ポット植えは植え込み材の上に置き肥を花後に1回程度です。

 以上が栽培の要点ですが、難しいように思われるかも知れませんが、総括すれば注意することは2点のみで、根表面を空中に晒すことと、冬季には夜間温度10℃前後に置くことです。かん水は一般の胡蝶蘭と同じで乾燥は嫌います。


Phal. honghenensis

Phal. wilsonii

Phal. wilsonii クリプトモス植え

Phal. wilsonii バークミックス植え


1日しか咲かない花と、2-3時間しか開かない花

 花を得ることは栽培者にとって一つのゴールですが、僅か1日の花で翌日には縮れて終わっていたり、早朝の2-3時間しか開花しないランがいます。ラン属全体で見れば他にも数多く存在すると思いますが、一般栽培種として代表的なランはDendrobium amboinenseとBulbophyllum pardalotumです。この2種を下写真に示します。

 Den. amboinenseはMoluccas島Amboinの生息種です。花が大きく、本サイトの温室では1年に3回ほどの開花があること、また蕾が膨らみ始めてから開花までに3-4日あるため花を見逃すことは余りありません。しかし開花を確認し明日写真を撮ろうと油断することはできません。間違いなく機会を逃します。せっかく花を着けたものの1日で終わりにしてしまうには、それだけ受粉の機会が少ない筈で、それならば強力な匂いを放ち虫を呼ぶのかとも思うのですが匂いはあるものの、周辺で意識する程の強さはありません。人には感知できない成分があるのかも知れませんが。一方、Bulb.ocellatumはフィリピンLuzon島Aurora生息種です。前種とは違い、10日間程花を着けているものの、早朝の僅かな時間だけ全開し、日中はドーサルセパルやペタルをしっかり閉じて、まるでお辞儀をしている格好です。ドーサルセパルの黄色は虫が好きな色ですが、余程このランは早朝にだけ飛び交う虫への選り好みがあるのか、日中わざわざピッタリと閉じるからには、昼間に飛び交う虫には奪われたくない何かがあるのか不思議です。

Dendrobium amboinense
Bulbophyllum ocellatum

Bulbophyllum kubahenseとBulbophyllum decurviscapum

 今月訪れたPutrajaya祭でBulb, kubahenseのマレーシア国内価格に興味があり、原種専門店を回り探してみました。昨年は1店舗もBulb. kubahenseは無く、それだけに希少種との印象を強く受けましたが、今年は容易に見つかりました。驚いたことは陳列された場所があまり目立たない腰以下の高さの位置に吊り下げられており、しかもBulb, kubahenseとBulb. decurviscapumが隣同士で並んで販売され、両者が同じ価格であったことです。何かの間違いではとは思いましたが状況は1年でこうも変わるものかと複雑な気持ちになりました。ちなみに現在バルボフィラムの高額筆頭クラスが新種とされるBulb. claptonense flavaでBulb. kubahense全盛の倍近い価格でした。今年中にはボルネオ島産のBulb. decurviscapumが希少性からBulb. kubahenseを超える価格になる可能性が高い印象です。下写真は本サイト温室で撮影の、小さな蕾から開花に至る(中央写真は別株)Bulb. decurviscapumです。Bulb. kubahenseは美しい花ですし、一方、Bulb. decurviscapumは写真に見られるように個性のある花であり、いずれも価値ある種であることは間違いなく、本来の立ち位置に戻りつつあるのは自然かとも思います。さて来年は何が話題の種となるか楽しみです。

Bulb. decurviscapum

Bulbophyllum lasianthum yellow

 マレーシア訪問で入手したバルボフィラムです。本種はインドネシア、ボルネオ島、マレーシアの海抜1,200mまでの低地湿林に生息し、バルボフィラムとしては50㎝を超える巨大な葉を着けます。下写真の杉皮板についた株が本種で、杉板が60㎝長であり、長い葉が杉板と同じ位の長さであることから葉の大きさが分かります。右のバスケットに植え付けたバンダも今回入手したVanda deareiですが、こちらが小さく見える程です。赤褐色の小さな花を15輪程着けますが、入手したタイプは黄色の新種で、リップが茶褐色である点でflavaと呼ぶには若干異なります。入手後に詳細を調べるまでは本種が嫌な匂いを放つ代表種の一つとは知らず12株も購入してしまいました。もし一斉に開花すれば、温室内はドブ川の匂いと化すことは間違いなく、花の開花を撮影すれば直ちにカットする以外なさそうです。バルボフィラムと言えばポットやバスケットに乗るサイズを想像しがちですがこのような大株となる種もあることで参考に取り上げて見ました。


Bulbophyllum lasianthum yellow

Trichocentrum jonesianum

 2月の東京ドームラン展で引き取ることになった南米のランのなかで、本種はブラジル、パラグアイ、アルゼンチン等に分布、低地から高地に至る森林の川沿いに生息する種とされます。生息温度範囲が広いため栽培は容易と思われます。Oncidium jonesianumとも呼ばれます。アルゼンチンからの全種の中で、オーナーが本種だけはバックの中に入れてハンドキャリーで持ってこられ滞在ホテルの部屋に置いていたそうです。なぜ本種だけを特別扱いしているのかとは思いましたが、それ以上はあまり気にしていませんでした。入手した本種の総数は100株で、15㎏は超える重さであったと記憶しています。ラン展後にヘゴ板と杉皮板に、また大株はバスケットに植え付けました。その様子を下写真の上段に示します。上段左はヘゴ板に取り付けたもので、右はバスケットです。バスケットでのこのような取り付けは、同じような葉形状のParaphalaenopsis属でよく行う方法ですが、底板を一枚外し、クラゲの足のような格好となります。右写真の左から2つ目の株は47本の棒状の葉からなる大株、右端も30葉以上でかなり重く、オーナーが自慢していた株です。植え付けから3ヶ月以上経ち、順化は完了しました。

  下段は、浜松の温室で現在開花中の本種です。南米のランは今月の開花種のページに毎月掲載していますが、この花を見てオーナーが特別扱いしていた理由が分かったような気になりました。ヒョウモン柄のセパル・ペタルに黄色のリップ側弁と、白く開いたリップのそれぞれの品の良いコントラストが美しくひときわ目立ちます。根がそれまでの支持体から外す際、大きくカットされていたため、新しい根や葉が発生するまでに3ヶ月近くを要しました。上段左のそれぞれの株で水平方向に伸びている葉が、浜松にて順化中に新たに発生した新葉です。これらは伸長するとともにやがて下垂すると思われます。栽培は胡蝶蘭原種と同じ場所に置いています。すなわち比較的高温で高湿です。移植初年度のため花数は少ないですが、ほとんどが写真に見られるように大株のため来年はかなりの花数を付けるのではと期待しています。現在は吊り下げタイプの本サイトでの定番である固形肥料を肥料ケースで与えています。

Trichocentrum jonesianum


 さて問題はこれらを幾らで販売するかです。ネットで検索すると国内販売例が余りないため、海外の価格を調べているのですが、4本ほどの葉で4,000円前後です。国内は同数でその倍程度の価格が数例見られます。上写真から分かるように本サイトでは葉が4本と言う小さな株はありません。アルゼンチンから持ってこられた株はほとんどが10本以上の葉数で現地ではこのような株が一般販売サイズなようです。いずれにしても入荷時の株を小さく株分けして販売株数を増やす姑息な手段は不本意であり、1葉(1本)500 - 700円換算で販売を7月から予定しています。

Dendrobium cruentum

 本種はミャンマーからベトナムにかけて生息するFormosae節のデンドロビウムです。呼び名が混同しがちのDen, crumenatumがあり、こちらは東南アジアほぼ全域にわたって生息するCrumenata節です。Den. cruentumは同じベトナム産とされるDen. suzukiiと似ています。しかしDen. suzukiiは花サイズが大きく、こちらは野生種が発見できないとされ交配種との説がある一方で、ベトナムには野生種コレクターが2名ほどいるという説もあり謎です。またDen. cruentumはDen. formosumなど他種との交配が行われ、市場のほとんどの本種の名が見られる株はこれら交配種です。Den. suzukiiのベトナムでの海外向け価格は5ドル(600円)程度で、一方、Den. cruentumはベトナムにおいてかなりの希少種らしく価格はその5 - 10倍程します。現在はCITES Appendix Iとなっているため海外へは実生株になります。下記写真は本サイト温室で開花中のDen. cruentumです。


Den. cruentum


マレーシア訪問

 Putrajayaでの花の祭典に合わせ、5月29日から6月1日まで会員の方と伴にマレーシアを訪問しました。今回の目的はデンドロビウム、バルボフィラムを中心に入手が困難、また国内取引がほとんどない40品目程を入手することであり、4月の訪問から1か月半後の再訪問となりました。

 下の上段写真はこれまで3年以上求めていたものの得られなかったDendrobium aurantiflammeum です。50株近いほとんどが80㎝ - 1mの長さのFS(1年以内に開花予定)株で、それぞれに多くの生きた根があり、非常に状態の良い株ばかりです。ボルネオ島生息のデンドロですが現在、自然界では発見が困難とされ、マレーシアのコレクターからこれだけの数を一度に得られたことは最後かも知れないそうです。下段左はDen. aurantiflammeum の花です。一方、写真下段右はニューギニア産Spatulata節のDen. strepsiceros albescenseです。デンドロビウムはspあるいは新種を4種ほど、他は国内取引がネット検索できないもの、あるいは高額種を中心に集めました。これらを現地ラン園のオンライン価格以下で販売する予定です。ちなみにマレーシア現地ではDen. aurantiflammeumを99ユーロ(約13,000円)で1ラン園のみですが販売しており、本サイトでは80㎝サイズで1万円を切る価格を検討しています。

 一方、バルボフィラムはBulb. arfakianum albaやclaptonense flavaを始めボルネオ島とニューギニア生息種を中心としました。バブロフィラムの一部にはNT Orchidsからの入手株があり、オーナーのLaurenceさん自ら我々が拠点としているラン園にラン展会場から片道1時間程かけて持って来られました。挨拶を兼ねて半時ほどラン談義をしました。10年近く東京ドームラン展に出店を続けているマレーシアラン園主ですが、世界の中で最も販売価格の高い日本市場にはご本人も驚いている話しぶりでした。また本サイトがつけた東京ドームラン展でのBulb. kubahenseの価格をよくご存知で、若い趣味家を増やすために本サイトでは一層の低価格販売を今後展開をするので、日本市場もこれまで通りにはいかないし、本サイトはcompetitorになりますよと言ったところ苦笑いをされていました。バルボフィラムでは今後付き合いが増えそうで良き仲間同士になればと思います。これから1週間ほどは、持ち帰りのランの植え付け作業です。


Dendrobium aurantiflammeum 45株

Dendrobium aurantiflammeum

Den. strepsiceros albescense


5月

Phalaenopsis fimbriata

 今回改めて気付いたのですが本種が胡蝶蘭の原種サイト「今月の花」に5年間以上登場しなかったのは驚きです。これまで掲載していない胡蝶蘭原種では、Phal. stobartianaとミャンマーで最近同定されたPhal. natmataungensisです。もっともPhal. lobbii系の地域差と思われる多数の名をもつ原種は分類学上怪しく、敢えて取り上げていません。Doritisは時期の問題で、やがて纏めて追加するつもりです。前記の内、Phal. stobartianaは現在順化中であり、Phal. natmataungensisも今年中には入手できる予定です。

 Phal. fimbriataはインドネシア領ボルネオ島、スラウエシ島などに生息する種です。リップ中央弁の縁にある白色のフリンジ(房飾り.)状の襞が付いていることからこの名前が付けられたそうです。低地から高地まで生息し、花は低地では丸みがあり、高地では、本サイトの胡蝶蘭原種のページにあるタイプの様にセパル・ペタルはそれぞれ細長くなります。今回野生栽培株を入手し順化中ですが、E.A. Christenson 'Phalaenopsis A Monograph'に書かれた本種の葉サイズ23x7㎝を遥かに超える30㎝以上の葉をもつ株がほとんどで中には40㎝に近い葉を持つ株もありました。植え付け後2週間ほどで落葉は止まり、現在は葉や根の伸長が始まったところです。順化完了までには後1-2ヶ月かかりますがすでにほとんどの株で花芽や蕾が付いており、開花も始まりました。その写真を下記に示します。上段左がPhal. fimbriataでなかなか美しい花です。右がよく似たPhal. floresensis。下段は順化中のPhal. fimbriata株で、ヘゴ板に取り付けています。間もなく多輪花のPhal. fimbriataも掲載できると思います。


Phal. fimbriata

Phal. floresensis

Phal. fimbriata 野生栽培株


開花待ちのBulbophyllum alba系3点

 昨年6月のマレーシアPutrajayaでの花祭りで、Bulbophyllumを数多く販売していた出店オーナーに、今回の出店で最も希少な株はどれかと尋ねたところ、持ってきたのがBulb. appendiculatum albaで、親株の開花写真も見せてもらいました。展示会場での直接の価格交渉は日本人としては不利なので、そのオーナーの友人でもある同行した現地原種専門ラン園のオーナーに依頼し、おそらく相場からはかなり安い価格であろうと思いますが、5株あった中で、3株を入手しました。それから1年経ちますがこのalba種は根張りが弱く、なかなか大きくなりません。バークミックスからヘゴ板に今月植え替えたところです。それが左写真です。年内の開花はまだ難しいのではと思います。

 写真中央はBulb. sulawesii albescenseで、こちらは昨年10月にマレーシアで入手したものです。開花写真があったため10株ほど購入しました。おそらくこの株は年内には開花すると思われます。開花を期待し、これまでとは輝度を少し上げた場所に移動しました。現在はヘゴ板に付けており、低 - 中温の環境に置いています。

 一方、写真右はBulb. fascinator albescenseで、こちらはPurificacion Orchidがシンガポール国際ラン展で入手したもので、フィリピンにて昨年頂いたものです。ポットにバークミックス植え付けで1年近くで倍ほどの株に成長しました。下垂系の花なので2株に株分けし、ヘゴ板に植え替えました。こちらも年内には開花すると思います。


Bulb. appendiculatum alba

Bulb. sulawesii albescense

Bulb. fascinator albescense

  間もなく今年のPutrajaya花祭りが始まり出かけるのは3回目となります。1昨年と昨年は胡蝶蘭原種以外あまり購入予定が無く他のランには関心を払いませんでした。しかし今年は方針転換です。込み入った会場で目的の原種があるかどうかの一つ一つをラベルを見たり、名前を聞きながら確認するのは非能率で、効率を高めるためすでにデンドロビウム、バルボフィラム、セロジネ、Vandaなど(会員からの問い合わせ原種を含む)の入手難とされる原種一覧リストを用意しており、これを出店者に見せ、会場にあれば購入、無ければ入手可能かを聞き、入手可能と分かれば連絡先と方法を確認しようと万全の準備で臨むところです。

 ちなみに入手したいリストの原種名は全て入手の可否に拘わらず予めCITES申請を済ませておかないと、購入しても持ち帰れません。今回はネット上からは国内市場の取り扱い実績が検索できないものや、国内ですでに数万円の価格となっているデンドロやバルボフィラムを多数リスト化しており、果たしてどれだけ集められるか、あるいは2ヶ月毎に訪問していることから秋までの余裕をもってして、どれだけ集められるかの情報も得ようとしており楽しみです。従来の1/3から1/5程の価格で国内販売できるかどうかの価格交渉となります。


植え替え時期

 4月から5月は多くの原種で植え替え時期となり、本サイトでは数千株の、また多種多様な原種のある状況での植え替え作業は重労働です。最近では鉢やコンポストはほぼ決まったものになっており、下記の組み合わせがほとんどです。それぞれの株に対しての植え替えは2-3年に一度ですが、それでも数が多いため作業は毎年1か月は掛かってしまいます。

 1. ミズゴケ+クリプトモスと素焼き鉢
 2. クリプトモスとスリット入りプラスチックス鉢
 3. バークミックス(ネオソフロン+十和田軽石+pH調整炭)とプラスチック鉢
 4. ヘゴ板
 5. 木製バスケット
 6. 杉皮板
 7. ヤシガラマット

  バークミックスはバークや軽石の混合割合やサイズを、属や種によって3種類ほどに分けて調整しています。胡蝶蘭原種は多くが下垂系であり、ヘゴ板と杉皮板が7割近くを占めます。特に杉皮板は最善とは言えませんがコストの面で多用しています。今年の秋はインドネシア・ラン園を開拓します。現在の日本のヘゴ板は、取り付けるほとんどのランそのものの仕入れ値よりも高額であり、目的の一つはヘゴ板の直輸入です。

 植え込み材はいろいろあり、その選択は栽培初心者にとって最も悩みの多い事柄と思います。人が勧めるからとか、周りの人はその植え込み材で上手くいっているようだからとかで、同じものを試みるのですがなかなか思うようにいかないのが実情と思います。その理由は明白で、植え込み材一つの要素だけでは最適な環境が作れないからです。もしこの植え込み材が良いと勧める人がいるのであれば、栽培環境(どのランに良いのか、かん水頻度、周りの湿度、温度、通風、鉢など)も同時に聞き、その環境に合わせることも必要となります。一方で、栽培環境のコピーは相当の費用を覚悟しなければ物理的に不可能です。本サイトの栽培経験からは、現状でコスト、耐年性(経年変化)、植え込み易さを含め決定的(万能的)に優れた植え込み材は残念ながら見当たりません。

 胡蝶蘭原種に関する本で千葉雅亮氏の’胡蝶蘭の原種’が知られています。この本には花だけではなく、株が植え付けられている状態も写真に見られます。その多くはミズゴケと素焼き鉢です。実際栽培してみると分かりますが胡蝶蘭原種栽培にはかなり難しい組み合わせです。にも拘らずこの組み合わせでこれだけの花を咲かせられた技術は原種栽培を15年程経験する筆者にとっては驚くべきことであり、余人が到達できない技術というよりも、技術を超えた胡蝶蘭に対する愛情を感じます。

 植え込み材と鉢の組み合わせとは余り決定的なことではなく、そこに人がいて活かせるもののようです。 用意できる環境と自分の性格に合わせた中で試行錯誤を繰り返し、最適なものを見出す以外ないのかも知れません。よってアバウトにこれが良いであろうと選択したならば、後はランと付き合う気持ちになり、朝と夜の機嫌を伺って、果たして嫌がっているのか、満足しているのかを見極めるしかありません。この機嫌の良し悪しが分かるのは、1週間、1か月あるいは3か月後などと、これまた植え込み材と鉢の組み合わせで様々で、良いと思っていたのが季節が変わったら今一つということもしばしばです。生き物を育てることとは、生き物の体調を常に見て調整(かん水頻度、湿度、温度、通風)して行くことも必要で大変です。しかし、こうした栽培によって多くの花が咲いた、咲かないなど、それが栽培の妙味と言えばそうかも知れません。

 このところ、出荷が金曜から日曜日にかけて続いており、こちらも結構大変です。良いと思った株が良くみると葉裏に病痕や傷があったり、根が今一つの状態もあり、出荷可能な品質は、自分ならばこれを買うかと自問しながらの、かなり主観的な基準を持って判断しています。よって株があっても出荷できないものが数割出ます。また昨年までは会員向け胡蝶蘭原種の分譲販売に限っていたのですが、東京ドームラン展後は胡蝶蘭原種以上にその他の属種の引き合いが多く、思っていた以上に厄介なのは最適な段ボール箱が意外と無いことです。園芸種のようにサイズが皆同じであれば、段ボール会社にオーダーメイドで製作してもらえばよいのですが、原種は様々なサイズです。バンダの様に扁平である一方で、葉のスパンが大きく、また根が茎以上に長いものや、デンドロビウムの中には1m以上の背丈があるもの、曲げられるものと出来ないものがあります。一時的に納屋に保管していた段ボールや海外から輸入した梱包箱、さらに梱包されていた新聞紙を流用しているのですが、こちらも底をついてきました。これは海外ラン園も同じで、マレーシアやフィリピンの原種専門ラン園であっても、それぞれの国内市場向けの胡蝶蘭交配種を定期的に台湾から輸入し栽培・販売しており、この入荷搬送に使われた段ボール箱が山の様にあって、これを我々が購入した株を持ち帰る際の梱包箱に流用しています。よって本サイトに注文された趣味家が受け取られた箱の一部は台湾製で、梱包紙もマレーシア中華系新聞で包まれていることがあり、本サイトのランの一部が台湾から輸入しているではと誤解をされているかも知れません。回りまわってのまさにリサイクルです。こうした梱包問題を今月中にはどう解決するのか考えなくてはなりません。


チョコレート色したチョコレートの香りがする南米のランCycnoches cooperi(i)

 昨年の東京ドームラン展での猿面ドラキュラから始まった南米のラン栽培は、今年に入り本サイトのトップメニュー「南米原種/カトレア原種」にあるリスト全種となってしまいました。東南アジアのランと比較すると、それぞれの原種の趣は、まるで南米とアジアの文化の違いほどあり、慣れるまでに時間が必要です。

 その中で今週、奇怪な原種が開花しました。その写真を下記に示します。名前はCycnoches cooperiで左の全体写真からは長く下垂した花茎に大きなチョコレート色の花が10輪程開花しています。木製バスケットの高さが9㎝ですので、花一輪はかなりの大きさです。何が奇怪かと言うと、まず花茎が疑似バルブの節の丁度中央から発生していること、次にドーサルセパルが下にあり、また中央の写真の釣針のように湾曲した蕊柱(Column)もリップに対して下に位置し、花全体が逆さまに咲いていることです。180°回転した写真が右で、これが一般的な花の様態です。逆さまの花の向きは他にDendrobium nemoraleにも見られますが、下垂性の花茎に逆さまに咲く理由が不思議です。

Cycnoches cooperi

 まさか花が逆さまに咲くのは日本と南米が地球の180°反対側だからという訳ではないでしょうが、Columnとリップとの形態的関係は虫媒花として進化した結果です。昆虫が花を訪れたとき、中央写真の釣針状のColumn先端の小さな2つのふくらみに花粉魂があり、この花粉魂を保護する葯帽(シャクボウ)が裏側にあって、これに昆虫が触れると葯帽が外れ、花粉魂が昆虫の体に付着し、次に花粉魂を付けた昆虫が花を訪れたとき、その花粉魂のあった下側のやや膨らんでいる部分の裏側が窪みになっており、ここに花粉魂が填まることで受粉が完了します。おそらく数千年前の花茎は、上に向かって伸びていたものが、花サイズがやがて大きく進化し、その重みで下垂し始め、花が上下逆となっていったものの通常の花の向きよりは、訪れる昆虫の大きさ、形状、動きからそのままの向きの方が受粉に都合が良く、このように進化してしまったと想像してしまいます。いったいどんな昆虫が、どのようにしてこの花を訪れるのか見てみたいものです。こんど花茎が出始めた段階から針金で上に向くように縛り、その結果、花はひっくり返ろうとするのか見てみるのも面白いと思えてきました。

 またチョコレートの匂いがする花にチョコレートコスモスがあるそうですが色は赤褐色で今一つですが、こちらは偶然とはいえ、チョコレート色の花がミルクチョコレートと嗅ぎ分けられないほどの匂いを放ち、まさに自然の妙で、晴天の午前中は近くを歩くだけでチョコレートの良い香りがします。興味のある方は、来年の東京ドームラン展でエクアドルMundifloraから入手出来ると思います。植え込みはバークミックスとスリット入りプラスチックポット(写真の緑色のポット)ですが、乾燥しやすいのでクリプトモスを表面に被せています。クリプトモス100%の方が良いかも知れません。中 - 高温系のランです。


Dendrobium vogelsangiiとDendrobium valmayorae

 Den. vogelsangiiは2000年に同定されたFormosae節のインドネシアスラウエシ島、標高1,000m - 1,700mに生息する新しい種です。本サイトのデンドロビウム類似種でも取り上げています。クール(低 - 中温)系ですが、5月現在温室で開花中です。本種は低 - 中温系デンドロビウムDen. tobaense、Den. piranha、Den. victoria-reginae、Den. papilio、Den. valmayoraeなどとの同居栽培です。この中でDen. piranhaはバークミックスとプラスチック鉢、Den. victoria-reginae、papilioはバスケットにミズゴケ植え、本種を含め、その他の多くは素焼き鉢にクリプトモスとミズゴケのミックス植え込み材を用いています。

 一方、Den. valmayoraeは2010年同定のミンダナオ島北部生息の上記と同じFormosae節の新種です。本サイトでの初入手は2012年でした。こちらも低 - 中温系です。OrchidTalk Forum(http://www.rv-orchidworks.com/orchidtalk/cattleyas-vandas-dendrobiums-bloom/29750-dendrobium-valmayorae-philippine-orchids.html)の栽培者のアドバイスによると、低温・高湿度環境に置くこと、また植え込み材は乾燥の早いものが良く、水や肥料は不要?で、最も栽培困難な種と述べています。しかし本サイトではバークミックス、クリプトモス100%を含め、複数の植え込み材を使用して50株程を約3年間育成しましたが、素焼き鉢にミズゴケ100%が成長が最も良く、季節に関わらずかん水は他種と同じで、このアドバイスとは低温環境が必要との点を除いて他は異なります。かん水は他種と同じで、ミズゴケ100%のためクール系の中では根は常に湿った状態です。このため最も早く素焼き鉢表面が緑色のコケで覆われます。肥料も有機固形肥料を春から夏に与えており、それ以外の種と栽培は変わりません。これで秋から冬にかけて毎年開花期を迎えます。端的に言えば、高温系と比較して5℃程度低い環境にすることと、素焼き鉢とミズゴケの植え込みで、かん水は通常通りで良く成長することです。前記した低 - 中温系種と比べ特別難しい種とも思えません。1昨年は東京ドームラン展でPurificacion Orchidsのブースに2株の花つきを含め4株出品しました。盛夏では温室が30℃近くになることがありますが問題はこれまでありません。できればクール系が増えたため、28℃以下に今年は抑えたいと思っています。フィリピンマニラでは高温環境のため、栽培は出来ても開花に至らないと園主が嘆く、Vanda javieraeと並ぶ高温下では開花しない代表的なランのようです。


Den. vogelsangii

Den. valmayorae


Dendrobium sanguinolentum

 本種はタイ、マレーシア、インドネシアの低地森林に広く分布する中 - 高温系のCalcariffera節に分類されるデンドロビウムです。特徴はセパルペタルおよびリップは薄黄色からクリーム色のベースに、それぞれの先端が紫色の、個性のある色合いです。一方、本種は生息地域によりフォームの変化が多様でそれらを下写真に示します。全て浜松の温室にて撮影したものです。共通点はリップ奥の橙色のスポットと、リップに沿って先端に向かって走る5本程の細いラインくらいで、それぞれは人工的な改良種と間違える程です。写真はすべて野生栽培株です。中段右と下段左はインドネシア産でセパルペタルおよびリップ先端にスポットの無いフォームがしばしば見られます。

 フォームが大きく異なるため購入期待とは異なる株が入荷することがあります。花を確認後ラベルを付けてタイプ分けしようと考えているのですが今のところ一まとめで栽培しており、花が開花していないとどれがどれだか分かりません。Formosae程の冬季の水の管理はいらないようですが、やや控えめと言ったところでしょうか。これらも今月にはクリプトモス:ミズゴケの3:1で、素焼き鉢に植え替え予定です。これまではミズゴケ100%と素焼き鉢です。

Dendrobium sanguinolentum


Dendrobium hamiferum

 このところSpatulataデンドロビウムの開花が続いています。Dendrobium hamiferumの開花が始まりましたので取り上げてみました。本種は国内外でのマーケット情報がほとんど無く、珍種ではないかと東京ドームに出品したものの広報せず片隅に置いていたためか、引き合いもなく出戻りとなっていました。特に本種はニューギニア内陸、標高1,200 - 1,500mの高山に生息するSpatulata節としてはDen. militareと並んで珍しい低 - 中温系です。

 昨年12月に入手した株ですがSpatulataとしては、Den. williamsianumの2倍程度高額でした。ちなみにDen. williamsianumはSpatulata節の中では最も安価であり、どうしてDen. williamsianumの日本市場の価格がこれほど高額なのか理解できません。青色の花のマジックと言うべき日本の風潮でしょうか。本サイトではSpatulata種はクリプトモスと素焼き鉢、あるいはバークミックスとスリット入りプラスチックの2種類のいずれかで植え付けています。本種は後者です。栽培に問題はなく、やや栽培に癖があるとされるDen. williamsianumも、バークミックスですが、冬季順化期間を経て、やっと新芽が現れ始めました。一方、本種はかなり丈夫なようで下写真右に示すように入手時から落葉する様子もなく、根張りはSpatulataの中で最も活発です。低 - 中温系とされているため、南米産ランの近くに今週から移動したところです。

Den. hamiferum


順化中の胡蝶蘭Aphyllae亜属種II

 Aphyllae亜属の植え付けについては、今月の当初に記載しましたが、一般的には花後の、まだ葉が発生していない根だけの段階で行われます。この時期、植え付けが終わってから凡そ2週間程経つと、根元から芽が現れ始めます。海外からの入荷では僅かに新芽を付けた株も含まれるものの、梱包や搬送で折れていたり病気で黒く変色しているものが多く、こうした葉のほとんどは切り捨てます。植え付け後に新たな芽が出るかどうかがこれらの株の生死を分けます。

 下写真は左からそれぞれ、Phal. honghenensis、 Phal. stobartiana、Phal. wilsoniiです。それぞれが植え付けから4週間、3週間、2週間後の状態です。新芽が現れるまでの管理はかなり難しく順化技術としては中-上級レベルとなります。ちなみに胡蝶蘭原種の中で最上級はPhal. doweryensisと思います。最もやさしいのはPhal. amabilisでしょうか、夜間湿度が80%以上あればミズゴケの上に載せておくだけで新葉や根がでます。


Phal. honghenensis

Phal. stobartiana

Phal. wilsonii

 前回指摘したようにAphyllae亜属の根は機能の異なる裏表があり、順化中は裏面を乾燥させることが出来ないため、写真に示すように杉板と根の間にミズゴケを敷き、根の裏面をミズゴケに密着させることで乾燥を避け、常に湿った状態に保ちます。一方、この時期の温室では晴天の日には30℃を超える高温となるため、外の冷気を取り込むために換気扇が回り、湿度は60%以下となり杉皮板に薄くミズゴケを敷いただけでは数時間で乾燥してしまいます。この結果、5月に入ると晴天日は1日に2回の昼と夕方のかん水が必要になります。

 植え付けから2週間程で、根元からそれぞれの写真が示すように芽が現れます。芽は頂芯から発生するのですが、写真中央のPhal. stobartianaでは、その部分が枯れており、脇から新しい芽が発生しています。このように初芽の発生する茎元がダメージを受けても、これらの種には脇芽を発生する強い性質があります。本サイトの実績では100株中、新芽が出ないのは3-4株のみです。言い換えれば入荷時の根の状態が写真の様にしっかりしていれば歩留まりは95%以上となります。但しこれまでの説明のような植え込みを行った場合です。一方、5月では根の表面には午前中の3時間ほど輝度を与えます。本サイトの温室は遮光率70%の寒冷紗を使用しており、このため5月の晴天日では10時頃になってから寒冷紗を下ろします。寒冷紗が無い状態の温室はポリカ材の天井で30%程度の遮光率で、かなり明るい状態です。寒冷紗を下ろすタイミングは高温対策のため季節によって異なり、6月では9時、7-9月は8時としています。11月以降2月末までの期間は寒冷紗を用いないため遮光率は30%となります。つまり葉が無く根だけの状態であっても冬季周辺輝度は30%程度の遮光となります。

 上記の管理を70-80日続けることで順化は終了します。順化が終われば通常栽培となります。ミズゴケが1-2日乾燥しても問題はありません。3ヶ月で葉はほぼ最大サイズまでに成長し、また新しい根が複数伸長して活着を始めます。晩春から晩秋までは葉が2-4枚ほどと多数の根がある状態が続き、やがて冬から春は根だけの状態となります。開花は翌年の3-4月です。開花前年の夏から初冬まではひたすら養分を根に蓄えさせるための期間とも言えます。本サイトでは写真に示すように植え付けから2週間ほど経過して芽が動き出す頃に、肥料ケースを杉皮板上部に取り付け、有機固形肥料による施肥を始めます。この有無で成長は著しく異なります。現在はグリーンキングを使用していますが、即効性の化学肥料でなければ他の置き肥でも効果は変わらないと思います。

 初冬に温室内の温度が下がり始めると、葉が紅葉し落葉を始めます。栽培温度が高いと葉が残ることがあります。葉が付いたままの冬越しは花茎の発生が難しくなります。葉が落葉した後はやや水を控えます。葉が落ちたからと言って、暗い場所に置くのは良くありません。2月末頃(東京以北。東京以南では2月初旬))になれば、まだこの時期は根だけの状態ですが、輝度を高め、かん水も通常通り開始します。こうしたサイクルが上手くいけば、上写真の中央や右のような、幅広で緑色の多数の根が発生している筈で、2-3月には3-4本程の花茎が期待できます。葉が出始めるのは開花後です。室内温度が高いと開花前に葉が発生してしまうこともあります。この状態は良くありません。葉の成長に養分が取られ輪花数が減少するようです。

 初心者の方がPhal. braceanaやPhal. hainanensisを含め、上記のAphyllae種を栽培する場合は、葉がすでに発生して十分に成長した表裏をもつ根がある株を入手することが肝要です。この意味では晩秋から6月までは入手を控え、7月から10月までが購入期間となります。ポット植で植え込み材に根がほとんど埋もれている状態の株は購入を避けた方が無難です。購入時の活着の有無は重要ではなく、新たな支持材に植え付ける際、表裏を揃えて取り付けるか、ポット植えでは根の1/3は植え込み材から浮かすことです。難しい栽培であるからこそチャレンジしようと考えている方は、入手はいつでも良いのですが植え替え時期は4-5月に限ります。

 下写真はPhal. wilsoniiの実生で、フラスコ出しから4か月程経過したものです。販売目的の一時的な植え込みです。このような状態で購入した場合は、半透明プラスチックにバーク植えか、ヘゴ板等に植え替えが必要です。写真の様に根全体をミズゴケに植え込んだ状態では成長は冬季前までで、やがて枯れてしまいます。この点は葉を通年で保持し、下写真のような植え込みでも問題のないPhal. appendiculata、Phal. lobbii、Phal. parishiiなどと違います。本サイトでも、この種の栽培経験は十分積んているのですが、下写真のような植え込み環境からは2割程度しか開花までに至りません。おそらく初心者の方はまず成功しないと思います。実生は植え替え後から開花までに早くて2年、通常3年程かかります。その点では上写真の状態の株は見た目には下写真と比較して荒々しいですがすでに開花済みの株であり、翌年の初春には開花が期待できます。Phal. braceanaを始めこれらAphyllae種を栽培していて、どうしても開花に至らないという趣味家の多くは、冬季の栽培方法に問題があって、気温を約10 - 15℃(夜間)に2ヶ月(12月から1月)程度置くこと、その間、根には他の季節と変わらない輝度を与えることのいずれかが欠けていると思われます。逆にこうした環境が与えられなければ、この種の栽培は控えた方が賢明です。



Dendrobium. strebloceras

 本種は古くから同定されているSpatulata節マレー諸島産デンドロビウムで、他の多くのSpatulataと同様に高温高湿の環境に生息しています。一方、本種に関し日本でUploadされたネットに見られる花写真のほぼ全てが誤ったDendrobium tangerinumの写真を掲載しており、国内業者の販売の中には、セレクト品と銘をうちDen. tangerinumがDen. streblocerasとして高額で販売されているものもあるようです。おそらくDen. streblocerasの本物はこれまで日本のマーケットには入っておらず、業者を含めてほとんどの人が実物をみたことがないのでしょう。日本のサイトに誤りが集中していることは、日本向け販売をしている台湾の某ラン園に誤りがあることから台湾経由の入荷によるものか、良くあることです。

 12月にマレーシアで初めて入手した本種を下写真に示します。現在、本サイトの温室で開花中です。花(リップ)形状はDen. laxiflorumと似ています。しかしDen. streblocerasのリップ先端部はひし形に対し、Den. laxiflorumはやや丸みがあり、またDen. streblocerasのセパルペタルは、Den. laxiflorumのように全てが長くカールしていません。SpurはDen. streblocerasがDen. laxiflorumに比べてやや長く、葉はいずれも長楕円形ですが、Den. streblocerasがDen. laxiflorumに比べて披針形に近い違いが見られます。花形状のみで個体差間を比較すると、下写真は視覚的にも大きな違いがありますが、一般的に言うところの地域差とされても納得できるほど似たものもあります。一方、Den. tangerinumとは花色を始めリップ構造が全く異なります。orchidspecies.comにも写真が2枚あり、1枚はむしろDen. laxiflorumに近い感じがします。

 花のない株を海外から入手する場合、往々にしてミスラベルが発生します。これは原種を売買する上で、ある程度は避けられません。不幸にして売買してしまった場合は、ミスラベルと判明した際に業者がどのように対応するかが問われます。しかし現状の様に多くのサイトで間違った写真が流布していると、Den. tangerinumの花が咲いてもそれをDen. streblocerasと思い込んでしまうかも知れません。では一人の所有者が両者を栽培しており、偽名のDen. streblocerasと本物のDen. tangerinumが同時に開花したらどうするのでしょう?同じ種ですからその可能性は高いと言えます。更新のない古いカタログやサイトかも知れませんがポスティグされ続けているということは、だれもまだ両者を花が咲くまで栽培したことがないのかも。

 本種の場合、これほど多くのサイトで、しかも視覚的にも明らかに違う種が誤って掲載されていることは、掲載した人が本物の実物を見たことが無いことは確かとして、参照した写真のコピー元が一つ、あるいは購入先業者が一つで、それが広がったものと考えられます。同じデンドロビウムの世界的に広がった最近の誤り例ではDen. ovipostoriferumとDen. dearei Borneo typeとの関係が知られています。こちらは出版物からの情報が原因とされています。本種についてはこれまで誰も指摘していなかったのかも知れません。


Den. strebloceras

Den. strebloceras

Den. laxiflorum

Den. tangerinum


Dendrobium mussauense

 本種は1997年の比較的近年に同定されたニューギニア・ビスマルク海域北東部の小さな島ムサウ島(Mussau Island)に生息するSpatulata節デンドロビウムです。種名はこの島名から付けられたようです。余程Mapを拡大しないと島の名前が出てこないほどの小さな島です。本種はパプアニューギニアの切手にもなっています。昨年12月にはマレーシア・ラン園に6株しか入荷がなく、全てを購入しました。その内、3株が今月浜松の温室で開花しています。株は約1.5mの高さがあり、バルブ先端から伸びる50㎝長の花茎には15輪程の花が付き、株全体は2m近い背丈です。着生あるいは岩性とされます。本サイトではDen. linealeなど他のSpatulataと同じ環境条件で栽培しています。12月の順化には手こずりましたが、その後は非常に丈夫な印象です。植え付けはスリット入りプラスチック鉢にバークミックス(栽培法のデンドロビウム植え付け材参照)です。

 この種は国内外共に売買情報がネット上では見当たらず、これまでの市場では余り取引のない種のようです。ネット上にはかなり多くの誤った花写真も見られます。そうした背景からか現地入手価格はSpatulata節では最も高額で、Den. williamsianumの2倍以上でした。下記にMussau島とDen. mussauenseの映像を示します。


Mussau Island Den. mussauense生息地


Den. musauense


Dendrobium tobaense/ayubii 似た者同士

 Dendrobium tobaenseはボルネオ島Sabah州の標高750m - 1,500mに生息し、開花時期は秋とされています。本サイトの温室では、会津若松、浜松いずれにおいても毎年晩春から初夏に開花しています。株サイズの割に大きな個性のある花が特徴です。入手が難しい品種のように言われていますが、これまでマレーシアラン園では希望する購入数は常に揃ってきました。一方、Dendrobium ayubiiは1999年に同定された新しいスマトラ産原種で入荷数はやや少ない印象です。本サイトの温室で撮影したそれぞれを下写真に示します。両者は共にFormosae節で下写真に示すように極めて花形状が似ており、また葉やバルブの形状だけからは視覚的な識別ができません。しかし花は映像を並べて比較して見るとよく分かりますが、リップ先端が異なっていることが特徴です。花サイズはDen. ayubiiがやや小さいようです。

 Den. tobaenseは低温から中温域とされます。一方、Den. ayubiiは情報が余りありません。栽培経験からは中温から高温で問題はないようです。よってDen. tobaenseは5℃程、Den. ayubiiに比べて低温環境で栽培をしています。この条件下では、開花時期は両者共にほぼ同じです。

 両種は立ち性であり、現在は素焼き鉢にミズゴケ栽培です。本種はnobil系とは異なり休眠期はなく(ごく短く)通年でかん水や肥料を与えています。しかし、かん水量の適切な制御が多属雑居温室では難しく、春から秋にかけては良く成長するものの冬季に過水状態が続くと根腐れが生じ、2年目の成長の勢いが弱くなってしまいます。今年からはミズゴケに比べて乾きやすい素焼き鉢とクリプトモス、あるいはクリプトモスとミズゴケのミックス(3:1)の組み合わせに変更予定です。


Den. tobaense

Den. ayubii

Den. ayubii

Dendrobium Spatulata節の新種Dendrobium racieanum

 4月の訪問で、Dendrobium racieanumと言う名称の株を入手しました。これは2003年に同定された西ニューギニア標高500mに生息するSpatulata節のデンドロビウムだそうです。国内外での取引はネット上ではほとんど見つからないのであまり出回っていないようです。花は同じニューギニア産のDen. johannisやDen. trilamellatum似ていますが、花よりもバルブの形状が異なるため容易に違いが分かります。

 下記にDen. racieanumとDen. johannisのそれぞれの写真を示します。Den. johannisは昨年12月の入荷株です。Den. racieanumは同定年が新しいため情報が少なく不明な点が多いのですが、ニューギニアの標高500mでは高温多湿と思われます。温室では他のSpaturalaと同居し、順化を早めるため現地栽培の炭を付けたままの根の全体をクリプトモスで巻いてスリット入りプラスチック鉢(Den. johannisはバークミックスとスリット入りプラスチック鉢)に植え付けていますが、今月に入り複数の株で花芽をのばしています。根を切らないで炭を付けたままの入荷はかなり効果的で、Den. wulaienseも同じ植え込み方法で20株近い全てに新しい葉を発生しています。Spatulata節のこの時期の植え替えでは、植え付けから2週間が根と葉のバランス調整期間で、根が傷ついていると一部の葉が落ち、3週目で落葉が止まり株全体が落着き、1か月で新芽の伸長や新根の発生が始まります。これ以上の時間が経っても落葉が止まらない場合は順化手段に問題があり、歩留まりは一挙に悪くなります。


Den. racieanum

Den. johannis

Den. racieanum

Den. racieanumバルブ

Den. johannisバルブ

日本人バイヤー

 連日海外のラン園オナーやコレクターとメールを交わしていると、日本のバイヤーに対する非難が出てきます。現在ネットで販売しているマレーシア、インドネシア、南米などの現地ラン園のネット価格は全て日本人がそのような高値にしてしまったと言わんばかりです。かってバブル時代に日本人が札束(現金)をもって海外でブランド品などを買い漁ると言った話が良く聞かれたものですが、ランの世界では同じような状況が今も続いているそうです。なぜ非難が出るか、日本人バイヤーがランを買う際、価格交渉をほとんどすることなく言い値で買うらしく、その結果ランの相場価格が上がってしまい、これが海外の輸入業者に打撃を与えており、迷惑千万ということのようです。ランをこうしたバイヤーに販売する現地コレクターや2次業者の多くはFacebookを通して互いに情報を交換しており、日本人がこのランをこの値段で買ったなどと言う噂はあっという間に彼らの間に飛び交い、売る側としてはその価格でも売れるんだと理解し、他国のバイヤーがそれまでの価格で売るようにと要求しても売らなくなってしまったというのです。相場価格が上昇した国の代表がマレーシア、インドネシアのようです。恐らく今後はニューギニアや中国に広がるかも知れません。

 日本人バイヤーが高くても買うという背景は、当然高くても買う顧客(趣味家)がいるから出来るのであって、現地業者から見れば、やはり日本人はお金持ちなのだから次はもっと高く売ろうと目論みます。筆者の様にごく一部の希少品種を除き日本円で500円(国別の平均年収から現地での価格価値を比較すれば、マレーシアで1200円、インドネシアで3,000円、フィリピンでは5,000円相当)を超えるBulbophyllumは買わないとか、例えば4月のマレーシア訪問で30㎝を超えるDen. tobaenseを50リンギッド(約1,600円)と言われた時は、それでも日本のマーケットの相場価格は6,000円以上だそうですが、30リンギッド(約1,000円)以下でなければ買わないといい、それでは利益が出ないと売り手がいうと、ならば1年で10㎝伸びるとして1年間分の売り手側の栽培経費分は下がる筈なので、10㎝短い25㎝程のtobaenseを選び、それを半額にするようにと要求してそうしてもらうなど、後で考えれば意味不明な交渉をする筆者のようなバイヤーはさすがいないらしく、こうしてtobaenseだけでなくBulb. kubahenseにしてもおそらく日本人バイヤーの半値か1/3以下で購入していると思います。業者と親しくなれば、あなたと私の立場が逆であったなら、その価格であなたなら買いますかと言った心理作戦と、マレーシアではマレーシア業者、フィリピンではフィリピン地元業者に成りきったつもりで交渉します。Cleisocentronに至っては500円以上では買いません。それでもこれを国内で販売するとなれば、原価が安い品種では旅費や栽培コストとの採算性から3倍程度の販売価格となります。2012年以来、フィリピンやマレーシアに会員の方と一緒に出かける機会も増えてきましたが、セブンイレブンのお昼の弁当代でClesiocentronが買える仕入れ価格には会員の方もおそらく驚かれていると思います。

 オンラインショップの国際EMS搬送ではなく、直接現地に出かけての売買は現地の価格価値で考えるべきであって、そうでなければ何も海外まで足を運んで購入する意味がありません。単純な例えかも知れませんが、フィリピンで400ペソ、すなわち1000円は、日本での1万円相当の価値感(フィリピンの平均年収は48万円。日本は約415万円)となります。日本人にとってランの1,000円は安い価格ですが、自国の人たちにとって果たして園芸店で1株最低1万円相当の草花を買う人がどれだけいるかです。言い換えれば海外向けの現地オンライン価格は、地元の人から見れば数万円から数十万円の花ばかりを羅列しているようなものです。狂気の世界と思えるに違いありません。これを多くの日本人バイヤーは、1,000円なら安いと惜しげもなく払う訳です。自宅の裏山にもあるかも知れない草花が1株1万円の価値をもつと分かれば、現地住民に限らずどの国の人であっても競って根こそぎ掘り起こしてしまうのは必定です。こうした視点に立てば現地内取引として、例えばデンドロビウムDen. anosmumが1株1ドルであっても何の不思議でもありません。

 ではなぜ日本人バイヤーは、たとえ国内で高く売れるにしても仕入れ価格を少しでも安くする交渉を現地の売り手としないのか、その方が利益が増す訳で良い筈です。おそらく日本のラン園関係者か、委託されたバイヤーが、現地のそれまでの相場とは無関係に、世界で最も高額な日本国内価格を基準にした損得勘定で、この仕入値までならばOKと、買う買わないを決め、その範囲内であれば十分としているのでしょう。さらに憶測すれば、バイヤーの言葉の能力の問題か、ランの知識や情報がない人がバイヤーとなっており、売り手の言い値に対する交渉ができないのか、それなりの値段で仕入れても国内で買ってくれる人がいるから良いとする甘えからか、否、まさかとは思いますが、発展途上の人々に対する金銭的支援をしたいと言う親切心か、情報化時代であるが故に取引されている状況があっという間に世界中の現地売り手に流布し、その結果、これまで安く入手できた業者数が減ってゆくのは、いずれバイヤー自身が自分の首を絞めることにもなるのに困ったものです。

Dendrobium nindii

 マレーシアにて入手したニューギニア、オーストラリア産Spatulata節のDendrobium nindiiが開花しました。これまで所有していたDen. nindiiは、デンドロビウムメニューのサムネイルにあるリップが赤みのある株で一般種とは異なる色でしたが、今回入手した開花株はかなり濃いブルーで見栄えがします。あるラン園では本種を60,000円以上で販売していますが 、1/10の6,000円で販売することにしました。これでも仕入れ値を元に十分利益を考慮した価格です。BtoBは行いません。


Den. nindii (5月4日温室にて撮影)


ベトナムのデンドロビウム Dendrobium khanhoaense

 昨年10月にマレーシアから入手したベトナム固有種のデンドロビウムDendrobium khanhoaenseです。 セパルペタルはDen. nemoraleに似て茶色のメッシュ模様を持ちますがリップ形状が異なります。1999年同定された比較的新しい種で国内での取引はほとんどないようです。浜松では今月が開花期となっています。ネット上でも栽培情報がほとんどなく、本サイトでは中-高温環境で3-3.5号素焼き鉢にミズゴケです。立ち性のため扱いやすく1年ほどで根が張れば、3.5号素焼き鉢にクリプトモスで植え替え予定です。ミズゴケではなくクリプトモスにする理由は、他属と混在して栽培していると、デンドロビウムとしては特に冬季に水を与え過ぎる傾向があるからです。



東京ドームラン展売残りのラン

 2月の東京ドームラン展にて売れ残った2つのランを紹介します。下写真はCoelogyne dayanaです。現在開花中で写真の株を販売しました。確か3万円の値段を付けたのですが開花していないと売りにくいようです。1m近い花茎の開花中は見ごたえがあります。


 一方、下写真はPurificacion Orchidから販売されたPhal. lueddemannianaで、ヘゴ板に取り付けです。注目すべきところは生息地が判明している株でPolilio島であることです。この島からのランは初めてです。やや大型の花でほとんどの株で高芽が出ており、野生株の特徴が伺えます。ラン展後の預かり品ですが、価格は勝手に決めて販売して良いとのことでJGP2015よりは安く価格リストに追加しました。


Polilio島 Phal. lueddemanniana


順化中の胡蝶蘭Aphyllae亜属種

 5月現在で順化中のランの一部を紹介します。胡蝶蘭Aphyllae亜属の多く(Phal. wilsonii, honghenensis, stobartiana等)は生息国での開花期が終わり、新しい葉が出る頃となります。またそれに伴って栽培では植え替えの時期でもあり、野生栽培株の入荷も始まります。

 実生を除きこの時期、海外からは根だけの状態で入荷するため、まずは順化栽培のための植え付けを行います。植え付け方法は様々ありますが、最も一般的なのはコルクやヘゴ板に取り付ける方法です。ポット植えも可能ですが一工夫が必要です。特に前記原種は2-3枚の小さな葉と、その割には不釣り合いな50㎝を超える多数の根から成ります。まさに入荷した時の株の状態は根だけで、干からびた生薬か、乾燥野菜そのものの容体です。この種の扁平な根の表裏の生理機能はそれぞれ異なり、表面は皺があり緑色して固く、裏面は白く薄い表皮となっています。表面は葉緑素をもち光合成を行うとされています。一方、裏面は支持体への活着と水分を吸収します。

 この機能から、光を通さない素焼き鉢に植え込んだり、ミズゴケあるいはミックスコンポスト等で根を完全に覆ってしまう深植えを行うと根に光が届かず、落葉時期から花芽が出て開花する間、光合成は出来なくなり養分生成ができません。この結果花芽が出ずそのまま枯れるか、植え込み材の上に僅かに出ている根で光合成が行われ、辛うじて開花しても、やがてやせ細り、1年目は良かったものの2年目で枯れてしまいます。この種の栽培が難しい原因の多くが根に光が届かない植え込み方法によるものと考えられます。これはヘゴ板も同様で、支持体の保水力を高めるため、他のランでしばしば行うように根を完全にミズゴケで覆ってからヘゴ板に取り付ければ同様に光が遮られ、成長は芳しくありません。この問題を解決する方法は、根元をポット表面から2-3㎝浮かして植え付けることです。これにより1/3相当の根が植え込み材の外側に位置します。通常Aphyllae亜属の植え込み材は小型の半透明のビニールあるいはプラスチックポットと大粒のバーク単体(底には軽石)が海外では多く利用されており、生息国での栽培も同様です。しかし例え小型の半透明プラスチックと大粒のバークにより、ポット内部である程度の明るさが得られても植え込み状態によっては根全体には十分な輝度が及ばないことも考えられます。このため株を浮かして植え付ける訳です。すなわちこの植え込み方法は、ポット内の根は主に水分や高湿度を得るためとし、植え込み材からはみ出た根が主に光合成を行うようにした仕組みとなります。

 一方、入荷には、十分に成長した30㎝以上にもなる根をもつ株が多く含まれます。こうした長い根の場合、ポット植えには長すぎて15㎝程度を残し、他は切り捨てなければなりません。新根ではなく、すでに表裏の機能が決まってしまった根をポット内に重ねて詰め込んでも、逆に光が遮られ、また気相が小さくなる逆効果で、多くの根はやがて腐ることになるため短くして植え付ける訳です。本サイトでは大量の根をもつ大株の根を切ることはしません。そのためポット植えは根の短い株だけとしています。根が多く長い株は3-4月、3-5本程の花茎を発生し、多輪花の見ごたえのある開花となるためです。根全体で光合成と水分補給の両方ができるようにするため、生きている根は切らず全ての根の表面は空気に接し、裏面は支持体に接触した自然様態に近い状態の植え付けを行います。これを可能にするのは一般にコルクかヘゴ板です。しかしBulb. kubahenseでも同じ問題ですが、縦長の長いヘゴ板は国内で市販されていないか、高価であり、100株近い植え込み材としてヘゴ板の利用は実践的ではありません。このため杉皮板を使用します。杉皮板に薄くミズゴケを敷き、その上に根が重ならないように広げてアルミ線で取り付けた状態が写真1です。杉皮板は10㎝ x 60cmです。この取付方法の問題は、根の表裏の機能が異なるため、杉皮板に取り付ける際は根の表裏を1本毎に揃える必要があることです。入荷した段階の根は絡まっており、これを解して表裏を揃え根を広げて固定することは癖のある根が多い中、取り付けにはかなりの作業時間が掛かります。一般的なポット植えに比べて10倍以上の、100株もあれば延べ50時間近くを要します。


写真1 Phal. honghenensis取り付け。根の表面が上になるように全ての根を揃えアルミ線で固定する。

 下写真はAphyllae亜属の杉皮板とミズゴケへの取り付け様態です。一度支持体から剥がされた入荷時の根は新しい支持体には活着はしません。活着するのは新たに発生する根だけとなります。新しい根や新葉が現れるまでの順化期間は2ヶ月を必要とします。入荷時の根はこの状態で2年程機能し、やがて新しい根に代わって行きます。その時は再び支持体を交換する時期でもあります。下写真のそれぞれの株の次の開花は、新しい根も加わって多輪花を期待しての来年3-4月頃となります。


順化中のAphyllae亜属

Phal. wilsonii

Phal. honghenensis

Phal. stobartiana sp (yellow)

4月

Bulbophyllum kubahense

 SarawakからのBulb. kubahenseとして昨年10月にマレーシアにて160葉購入した株(35株相当)の3株から今年1月にBulb. decurviscapumが開花したことからミスラベルであることが分かり、急遽、Sarawak産とされるBulb. kubahenseの東京ドームラン展での販売を中止し、10月と12月入手のKalimantan産のみを販売することにしました。今月のマレーシア訪問の目的の一つは、このミスラベル株を無償交換することでした。しかし海外間でのCITES品の物の交換は書類の申請など煩雑な作業があり返品は無理で、実態は10月の160葉は無料、新たに160葉を無償で提供してもらうことになり、今回は160葉の内の100葉を、次回訪問時に残りの60葉を入手することにしました。2回に分けたのは品質を確保するためです。またこのような補償行為は過去10年以上の海外からの購入で初めてです。

 現地の今年に入ってからの話では、Bulb. kubahenseは3つの花形態があるとのことでした。下の写真は園主から送付してもらった3種類の映像です。Sarawakで撮影された写真は中央 ですが、他はKalimantan産と言われています。今回無償交換した株はロット内で開花した花からは左と右タイプのようです。(後記: その後の調べで中央写真はBulb. refractiligueの可能性も考えられます。2015・7・25 )


 下写真は今回入手した株を、2尺(60㎝)長の杉皮板上に取り付けた映像です。杉板は1枚のサイズが幅30㎝x長さ60㎝で、これを縦に3分割して10㎝x60㎝とし、ミズゴケを杉板に薄く敷いた後、株を乗せ根をさらにミズゴケで抑えアルミ線で固定しました。杉皮板は中国産を利用しています。日本産は板が薄く割れ易いため利用できませんでした。10月と12月のKalimantan産Bulb. kubahenseも杉皮板への取り付けですが、高温・多湿・低輝度環境で活発に新芽を出しており、会員からの報告でも成長が良いそうです。

 今回の株は葉形状が楕円形であるものが7割、卵形に近い形状が3割で、葉面積はこれまでと比べ2倍近く大きく、丸みを感じます。これら株の出荷は新芽あるいは新根確認後の7月からを予定しています。


今月入荷のBulbophyllum kubahense

 ちなみに、ミスラベルとなったBulb. decurviscapumですが、ボルネオ島産でマーケットではかなり入手難とのことです。確かに花はダイナミックで存在感(本サイトのバルボフィラムのメニューに掲載しています)があります。本サイトでも在庫のままでは困りますので販売するものの、結果としてタダで入手したものに価格を付けるのは気が引けるため、一定額支払うことで次回までに価格を決めるようにと園主には伝えました。日本ではBulb. decurviscapumを3葉1株換算で9,000円で販売しているネットがありましたので1/3の3000円で5月から販売予定です。

野生株と実生株の違い

 2014年5月のArchiveで、Phal. bellinaの実生と野生種の株サイズの違いを取り上げました。その後に入手したPhalaenopsisについても同様に、野生種と実生との株サイズは際立って異っており、結果として輪花数や高芽の発生は別種と思えるほどです。

 下写真左は、順化中のPhal. fimbriataで、取り付けているヘゴ板は15㎝であり、この長さから葉の長さが推測できます。ほとんどの株は30-40㎝で4-5本の花茎をそれぞれが発生させていることから輪花数は20-30輪程になると思われます。実生ではこのようなサイズに育てることは難しく、葉長が25㎝を超えることは稀です。一方、写真右はPhal. bastianiiで、筆者はPhalaenopsis原種の中で最も美しい花の一つと感じていますが、野生種と実生の違いを示したものです。吊り下げているのが野生種で、トレイの上にプラスチックポット植えされているのが実生です。いずれもBSであり、1/3-1/4サイズの違いがあります。

 E.A Christenson氏の著書'Phalaenopsis A Monograph'でのPhal. fimbriataの葉長は23 x 7㎝、一方、J. Cootes氏の著書 'Philippines Native Orchid Species' でのPhal. bastianiiの葉長は20 x 6㎝とそれぞれ記載されています。この2倍近い長さとなります。Phal. bastianiiの開花前は葉の質感からPhal. hieroglyphicaの野生株ではないかと疑っていましたが本物でした。Phal. bastianiiでは野生大株を入手できたのは海外渡航を始めた過去8年間で昨年1度だけです。

 こうした野生種を入手する場合、現地のラン園や趣味家は野生と実生との違いにほとんど関心が無く、価格も大中小の違いだけです。栽培結果として丈夫さや輪花数などを考えれば野生と実生株は性質が異なります。現地に出かけた際に園主から名前を聞き、その株の大きさから’そんな筈はない’と、本から得た知識と先入観で決めつけると貴重な入手機会を逃すことになりかねません。

  ラン園によってはミスラベルの確率が5割あるいはそれ以上と言ったビジネスとしては成り立ち得ないひどいところがあります。しかし本物である確率が例え2-3割でもある限り、これを排他することは趣味家としてはできません。また騙されてしまったと嘆くことは日常ですが、相手も騙している気がある訳でなく、ここが収集の難しいところです。まるで骨董品収集の如きです。これは筆者のような、取り敢えずは二次あるいは三次業者がスクリーニングした筈の株を購入する立場でそうですから、そうした業者自身はさらに深刻で’あの連中(国にも及びます)は全く信用できない。花を見ない限り絶対買えない’といつも嘆いています。

 もっともこれまで、購入してもらいたいために明らかに種名を偽ったと思われるラン園がない訳ではなく(例えば、数年間かけて活着している大きな株では、それまでに何度も開花を見ている筈で品名を間違えることはあり得ない)、フィリピンおよびマレーシアで、過去にそれぞれ1および2ラン園ありました。こうしたラン園には決して補償という姿勢は見られず2度と訪れることはありません。


順化中のPhal. fimbriata
Phal. bastianii

マレーシア訪問(4月11日-4月13日)

 昨年12月以来のマレーシアを訪問しました。今回の目的はBulbophyllum kubahenseの、花を確認したロット株の入手と、デンドロビウムSpatulata節の変種や希少種、、さらに国内マーケットでは情報の少ない原種の入手です。これで昨年来からデンドロビウムSpatulat系は8割方が収集できたと思います。下記が現在所有するSpatulata原種となります。

Den. albertesii
Den. antennatum
Den. archipelagense (Bismark Archipelago )
Den. busuangense (philippines)
Den. canaliculatum (New Guinea)
Den. capra (Java)
Den. carronii (New Guinea)
Den. cochlioides green (New Guinea)
Den. discolor dark (Australia)
Den. hamiferum (New Guinea)
Den. johannis (New Guinea)
Den. lasianthera (New Guinea)
Den. lasianthera WK (New Guinea)
Den. laxiflorum (Moluccas)
Den. leporinum (Moluccas)
Den. lineale Normal type (New Guinea)
Den. lineale bule (New Guinea)
Den. lineale dark blue (New Guinea)
Dendrobium militare (Moluccas)
Den. mirbelianum (Australia)
Den. mussauense (New Guinea)
Den. nindii (Australia)
Den. pseudoconanthum (Sulawesi)
Den. schulleri (Indonesia)
Den. stratiotes (New Guinea)
Den. strebloceras (Malaysian archipelago)
Den. strepsiceros white(New Guinea)
Den. sutiknoi (New Guinea)
Den. sylvanum(Papua New Guinea)
Den. sylvanum flaver (Papua New Guinea)
Den. tangerinun (New Guinea)
Den. taurinum (Philippines)
Den. trilamellatum (New Guinea)
Den. williamsianum (New Guinea)
Den. wulaiense (New Guinea)
Den. spatulata sp 4種

  上記の中で、現地において最も入手価格が高いのはDen. mussauenseを筆頭にDen. lineale dark blueとDen. wulaiense (http://www.orchidspecies.com/denwulaiense.htm)でした。Den. wulaienseは順化が難しく、昨年12月に持ち帰った10株は全滅しました。順化で全数が枯れるのはこれまでの経験で初めてです。この原因は、ベアールートにするために植え込み材を取り外す際、現地ラン園で根を切断したこと、この状態で植え替えとしては最もタイミングが悪い12月であったことで細菌性の病気を誘発したことにあります。デンドロビウムにはDen. taurianumのように移植のタイミングが難しい種がありますが、これを上回る注意が必要な原種であることが分かりました。仕入れ価格も高いため、今回は慎重に植え付けを行っています。

 デンドロビウムSpatulata種はマレーシアでは例外なく炭を植え込み材としています。昨年12月の購入では、マレーシア出荷時にこれらの植え込み材を取り除き、ベアールートで輸入し、浜松にてバークミックスで植え付けました。真冬であったことから温室とは言えSpatulataには低温環境となり、全体として今一つ順化が芳しくなく会員の方への販売を躊躇していました。しかし、購入希望者にいつまでも待ってもらう訳にもいかず、今回は重量が増えても止むを得ないとして、ベアールートではなく、ポットから株を抜いて炭を付けたままの状態で持ち帰りました。この結果、100株程が入った1箱の段ボール箱が28㎏(ベアールートであれば半分)となり、箱形状から一人では持ち上げるのが限界の重量になってしまいました。この結果、根は切られることなく健全で、順化処理はほぼ不要となり、1週間様子を見て出荷です。Den. willamsianumなどデンドロビウムのネット商品を見ると3本程のバルブで、背の高いバルブには葉が無いか少なく、背の低い若いバルブの1-2本に葉がある貧弱な株が多いのですが、タイやカンボジアなど乾期と低温期があって落葉するる地域とは異なり、季節のない常時高温多湿な環境に生育する多くのSpatulata種としては今月16日に本サイトの温室内で撮影した下記写真に見られるように健全であれば多くの葉が茂っています。植え込み材としての炭については「胡蝶蘭の原種」サイトの歳月記3月に記載したように、海外を真似て日本の炭をそのまま使用することは、くれぐれも注意が必要です。


Spatulata各種1

Spatulata各種2

Spatulata各種3

Den. lineale blue

Den. tangerinum

Den. williamsianum

 デンドロビウムではSpatulata以外にDen. ayubi(ayubii)やtobaenseなどを入手しましたが、sp種は今回3種類となりました。これでデンドロビウムではsp、新種あるいは国内でこれまで入荷実績のない種など現時点で10種を越えました。

 バルボフィラムではBulb, kubahenseを始め、ボルネオ島標高1,500mに生息する、ややクール系のBulb. jolandae (http://www.orchidspecies.com/bulbjolandae.htm)を40株程購入しました。Bulb. jolandaeは国内の価格を見ると8,000円から16,000円の、信じがたい高値で販売されているようですが、東京ドームラン展に出店していたマレーシアラン園(NT Orchid)は5,000円だそうなので、凡そ海外現地ラン園に対し同額か、より低価格を標榜する本サイトとしては順化を確認後に3,000円で販売です。

Den. aurantiflammeum

 本種は人気の高いデンドロビウムである一方で最も入手難の一つです。2年間訪問の度に問い合わせをしているのですが、これまで1度も入手できませんでした。その理由はボルネオ島では高い木の樹冠に、疎らに生息しているため見つけることが非常に困難とのことです。そうした目の届かない場所と、コロニーをつくることのない性質のため発見が難しく、結果として栽培している現地の方も少なく、野生栽培株を得ることは極めて難しい状況のようです。

 そうした中、マレーシア訪問でマザープラントとして5株を栽培をしている所から、実生を増殖してもらいたいとのことで1株を入手することが出来ました。1m近い株ですが果たして開花するかどうか、さっそく細心の注意を払って栽培をする予定です。

バルボフィラム事情

 Bulbophyllum kubahenseやクール系バルボフィラムなどマーケットでは比較的高額販売が可能な品種を集めることを今年は計画中です。一般のバルボフィラムは現地仕入れ価格で日本円にして500円台が中心で1,000円を超えるものはほとんどありません。バルボフィラムに多いspについても、趣味家にとってspとなると変種や新種の可能性を期待し、高くても仕方がないと思いがちですが、現地で言うspとはラン園がこれまで取り扱った経験のないもの、花が咲いていないので分からないもの、新種であっても生息数が少ないわけではないものなども含むため、必ずしもspイコール新種であったり、希少種や高額種でもはありません。余程開花した花がこれまでになく、また大きく美しくなければ、spであるがゆえに価格を高くする理由もなく、そうでない業者がいるとすれば、購入者のspに対する心理を突いた商法です。

 このため一般種については日本で2000円台を超えるような販売価格にする訳にもいかず、これでは温室コスト(栽培に占める土地と光熱費)やマーケットサイズを考えると商売としての魅力が他属と比較して余りありません。これが販売する側から見たバルボフィラムの問題で、価格を高くするか、そうした品種は扱わないで希少種のみを扱うかの2者択一が求められます。本サイトでは現地を訪問し直接入手しているメリットを生かし後者を選択する計画です。こうした視点から6月にもマレーシアを訪問しますがバルボフィラムを得意とするラン園に希少種に絞ってプレオーダーを今月から行う予定です。

 ところで今年、東京ドームで本サイトが初めて出店しましたが、その中でBulb. elisaeではないかとして40バルブ相当の大株を1万円程で販売しました。今回マレーシアのラン園で、この種に似たインドネシアから初入荷したと言う株を見つけ、名前を聞いたところ、パプアニューギニアのBulbophyllum chlorantumとのことでした。、やはりこれも国内では取引がほとんどない種で、園主と写真を見ながらの調べで、どうもその可能性が高いようです。さらに調べているところです。

胡蝶蘭事情

 胡蝶蘭原種でPhal. giganteaの野生栽培株が入手難になっていることは「胡蝶蘭の原種」で取り上げました。今回の訪問で現状を伺ったところ一層深刻になり、Sabah生息種はマレーシアBtoBマーケットでは全く途絶えた状態とのことです。別の見方をすれば、高価であることから特定の現地コレクターたちが乱獲収集しているのでしょう。本サイトが所有するPhal. gigantea Sabahは、マレーシアの栽培家から5年以上かけて栽培したもので2年ほど前に入手したものですが、このような状況ではPhal. gigantea sabahの野生栽培株を販売することは希少性から難しくなり現在30株程を栽培しているものの販売は止め、現在注文済みの株数を除いて所有する野生栽培株は実生生産のマザープラントとする予定です。カリマンタン産も半年以上入荷が無いそうです。Phal. cochlearisも同様な状態でした。

Vanda lompongense

 昨年12月に入手したインドネシアLompongに生息するとされる、見ごたえのあるVandaを「胡蝶蘭の原種」歳月記で紹介しました。マーケット上では新種としても良いのではないかと思いますが、現地でも初めての入荷であることと、かなり高価であることから、本サイトでは10万円を超える価格を当初付けました。今回纏まって、と言っても10株ほどですが、入荷できたことから約1/5の価格(¥35,000)で販売することにしました。現地蘭園によれば現在は全てシンガポールへ輸出しているそうです。

Vanda lompongense

4月のマレーシア滞在記

 11日(土)にマレーシアに出かけました。11日と12日のホテル2泊と、13日は23時にクアラルンプールを立ち、機内1泊で14日(火)早朝6時半に成田着の、いつもと変わらない強硬スケジュールです。首の骨が脊髄を圧迫し歩行困難となる病で3月に4本のボルトを首に入れる大手術をし大きなギブスを付けての渡航です。果たして空港の金属探知ゲートで検出されるのか興味があり、事前申請を行わないで検査を受けましたが何の反応もありませんでした。拍子抜けです。JALのチェックインでは窓口の担当者が大きな目立つギブスを見て重症者と感じたのか、客室乗務員にサポートを伝えましようかと問われましたが、手術後1か月しか経っていないものの、杖なくして歩けるので問題はないとお断りしました。にも拘らず、かなり痛々しく思われたのか乗務員だけでなく帰国時のマレーシアチェックインカウンタの担当者に日本から連絡が入っていたそうで、何度もサポートについて聞かれました。

 体がこうした状態のため、今回はPCもカメラなど重いものは持たず、また帰りの段ボール箱を一人で持ち帰るのは到底無理なため、息子を運び屋として同伴しての買付となりました。段ボール4箱、今回は植え込み材(炭)が付いた株が多いため総重量は60㎏程です。いつも訪問する現地ラン園の方には、手術のため当初の2月末訪問は無理とは伝えていましたが、手術個所や内容は話していないため、会った時に大仰なギブスを見て何事かと驚くに違いないと、これをどう説明するか、厄介なのは病気の説明には医学用語が多く、また英語で説明しなければならない訳で、その単語を暗記する方が大変でした。

 昨年3月の訪問では猛暑で1か月以上雨が無く、高速道路脇では自然発火で藪が燻っていたり、一部では火災が発生していましたが、今年4月では、クアラルンプール周辺での滞在の3日間は、午前中は晴れか曇り、午後になると激しい雷雨があり、夜には止むと言ったパターンの繰り返しでした。マレーシアのラン園にとってはこの時期、最も客が少なく商売は良くないそうです。忙しいのは12月だそうです。

 フィリピンと比べマレーシアのローカルな土地でのホテルと料理には、「胡蝶蘭の原種」の歳月記にも何度も取り上げていますが閉口してきました。鶏肉以外の肉の料理がないムスリム向けマレーシア料理は好みに合いません。それでも毎回試みるのは十に一つは気に入ったものがあるであろうとの期待を今だ失ってはいないからです。初日の夕食は、7時間以上のフライトで疲れており、ホテルに近いところが良いとの判断からホテルに併設したモール内のシーフードレストランにしました。スカーフのようなビシャブを付けた女性が比較的多いので怪しい(人が怪しいのではなく料理の味が)とは思いましたが。

  この店のメニューのトップページを飾るオマールエビのような大きなエビやムール貝など海産物山盛りの品を注文しました。いつもの通り出てくるのはフォークとスプーン。今回はこれにバターナイフを大きくしたような始めて見る食器、それにロブスター用の殻を割るカニ鋏の4点です。やはりナイフはありません。そこでいつもと同じようにナイフをと注文しましたが、ナイフは置いていないと言われてしまいました。要求してもナイフを出してくれない店は初めてです。このスプーン並みの大きなバターナイフは何?と尋ねたところ、これは魚専用の食器とのこと、魚の肉をほぐすのに使うそうです。カニバサミ、通常のフォークとスプーンの3点で殻つきのロブスターを食べることを想像すれば分かりますが、途中でギブアップです。風味はいつもの通り独特のハーブの匂いがあり好みに合いません。酒類は一切無く、飲み物は甘いソーダー水を酒の代わりの海鮮料理です。一つ美味しかったのはイカフライだけです。今回も初日のレストランは選択ミスです。

 こんなことでいつものようにセレンバンでは再び、おいしいと評判の中華料理店のハシゴです。客の多い店の味はそれぞれ大したもので間違いがありません。一つ後悔したのは帰国日の最後に行った店で、カニを注文したことです。想像するに熱した中華料理用鉄鍋に油を注ぎ一気に強火で炒め、最後に火をつけて仕上げる中華料理でよく見る料理法と思います。半分に割られたそれなりのサイズの5匹ほどのカニが鉄鍋から大皿に直接盛ったかのような荒々しさです。問題はこれを取って食べようとしたのですが、肉が殻にくっ付いて剥がれません。よく貝柱が焼き方によっては殻に付いて剥がれないことがありますが、すべてのカニの肉がこの状態です。一体、一般サイズの形状のスプーンとフォークでどうやって肉を殻から剥がすのか方法が分かりません。カニ用フォークはありません。同行したラン園オーナは、自分の歯で削り取っていましたが、さすが筆者も息子もこれは真似ができません。歯が痛くなるか、手と顔半分はカニに付いたソースだらけになるのは必定です。カニを横目で見ながらこちらもギブアップです。しかしいずれにしてもこうした料理を、時折かも知れませんが、食べている現地の人たちの食文化には感心します。

 ホテルはセレンバン市内の同じホテルで3回目となります。どうしたらこれだけ大きな騒音を発することのできるエアコンが作れるのかと思うほどの音は今回も変わりません。これで最も高価なプレミアムルームです。エアコンをオフにして寝るのですが、2時間もすれば室内は暑くなり湿度も上がるため目が覚めてしまい、起きて再びオンにして騒音に耐える繰り返しで、結局朝は睡眠不足状態です。ホテルは休むところではなく、試練の場です。この騒音を除けば問題はなく良いホテルなのですがそろそろ次回からはクアラルンプール市内のホテルに逆行です。

 そう言えば機内で、たまたまナットキングコールが歌うルート66をウオークマンで聞いていたとき、乱気流でコップを手で持たないと危ないほど機体が揺れました。その時、ルート66の軽快なリズムが機体の揺れに面白いほど同期するかのようで楽しくなり、1/fの仕業かと。これから機長が揺れを予告した時には、揺れが始まると同時にこの歌を聞こうと決めました。余談です。

 東京ドームラン展での南米のランに伴う温室のレイアルト変更、マレーシア持ち帰り株の植え付け、今週末から本格的に始まる注文品の発送など、仕事が山積し休む時間が全くありませんが何とか乗り越えたいと奮闘中です。