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栽培、海外ラン園視察などに関する月々の出来事を掲載します。内容は随時校正することがあるため毎回の更新を願います。  2021年度

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10月

Bulbophyllum claptonense aurea (flava)の植替え

 本種は2015年、マレーシアPutrajaya花祭の会場で入手し2016年6月に浜松温室にて初開花を得たバルボフィラムです。これまで3回程株分け分譲をし、その後は下花写真の2株をそれぞれブロックバークに植付けて栽培を続けてきましたが、写真に見られるように右側の株の伸びしろ面積が狭くなってきたことと、大株にしたいため今回植替えを行いました。写真右は左写真の右側の株で、ブロックバーク表面のミズゴケを洗い流した画像です。多くの細い根が重なり合ってバークの表面に活着しバークの凹凸面や表皮の割れ目にも入り込んでいます。


  下写真左はバークに活着した根の一部を拡大した画像です。前項のヘゴ板に活着したBulb. kubahenseでの植替えではバルブを持ち上げて、根を力づくで剥がすことから殆どの根は千切れ、バルブ基の切断された根のみが残ることになりましたが、ブロックバークでは細い根の先端まで極力傷つけることなく1本づつ剥がすことにしました。しかし、太い根と異なりこのような細い根の取外し作業は可なりの経験が必要で、剥がす道具や方法については現在準備中の会員ページに記載する予定です。右写真は株をバークから取外した株で、この作業には凡そ1時間半ほどかかりました。


 下写真左は取外した株の裏側の様態です。多数の根が交差し絡み合っています。中央はこうした根をほぐし、根が極力互いに直接重なり合わないようにしてミズゴケの上に広げた状態を示す画像です。平面状に根を広げ並べてその上をミズゴケで覆う、これを2-3層ほどミズゴケを挟みながら立体的に重ねて植付けます。右写真はこうした手法で植替えが完了した画像です。今回は支持材をブロックバークから70㎝ヘゴ板としました。右写真には花写真にある左側の小さな株も同様な手段で取外し、寄せ植え(右写真下部に配置)としました。元々この小株は花写真右株からの分け株であり、元に戻ったことになります。ブロックバークからヘゴ板に替えたのは、長く大きなバークが現在入手できないこともありますが、しばしば取り上げているように、吊り下げタイプの支持材が長く大きくなると、上下部での根周り湿度が大きく異なり成長に影響を与える(バルボフィラムでは下側のバルブの落葉が早い)と考えられるため、4-5年かけて大株にするには、その中でも耐久力と保水力のあるヘゴ板が良いとの判断からです。右写真が示すように伸びしろ分はかなり大きく取っており、5年間ほどは植替えは不要で、その間のミズゴケの劣化に対してはミズゴケのみを交換することになります。50輪程の同時開花が目標です。


Bulbophyllum kubahenseの植替え

 4月の歳月記に記載した1m長のヘゴ板に植付けられたBulbophyllum kubahenseの植替えを本日(30日)行いました。この株は60葉から成る大株で今年は10本の花茎を発生しました。入荷時は50㎝ほどの株でしたが4年間で1mを超え、先端部のバルブはヘゴ板からみ出したり背面に回り込む様態となり、6月頃を目途に植替えを予定していたものの、今月になってしまいました。下写真は植替えの様子を示したものです。

 写真左は1m長ヘゴ板に取付けられた葉数60枚の植替え前のBulb. kubahenseです。中央はこの大株をヘゴ板から取外すため、強いシャワーでヘゴ板上のミズゴケを洗い流した写真、右はその一部を拡大したものです。20㎝長ほどに伸長した多くの根が重なり合ってヘゴ板に活着し、バルブやリゾームはびくとも動きません。こうした株をヘゴ板から外す手段としてバルブの下にヘラを入れ持ち上げ、手を入れてバルブやリゾームを折らないように根をヘゴ板から剥がします。しかしヘゴ板に活着した根をそのまま剥がすことは困難で、根はバリバリと音をたて千切れ結果、7割以上の根はヘゴ板に残り、バルブやリゾームに付いた根は3割程となります。これが炭化コルクとヘゴ板の違いで、炭化コルクは3-4年もすると崩れやすくなり、殆どの根は無傷で取外せますが下画像のように根が密集し活着したヘゴ板ではほぼ不可能です。この根の損傷は植付け後の順化処理に大きく影響します。

Bulbophyllum kubahense 元株 ミズゴケ洗い流し後 ヘゴ板に活着した根

 写真左はヘゴ板から剥がしたBulb. kubahenseで4から8バルブに株分けし洗浄した後、病害防除のため規定希釈のストロピードライフロアブルとアグリマイシンの混合液に30分程含浸している様子です。根のほとんどは前記したように切断されていることから、病害防除処理は必須の処理となります。複数の異なるロットや種となる場合は、このようなバケツに一括して含浸することはウイルス防除上できません。今回は同一株の分け株であることから行っています。元の大株を分割することなく、さらに大きな支持材に移植することも考えられますが、1mを超えるヘゴ板を入手することは現在出来ないことと、すでに株の一部はヘゴ板の裏に回り込んだり空中にはみ出し、リゾームが大きく湾曲しバルブや葉の方向はまちまちで新たな支持材に平面的にレイアウトすることは困難なため、株分けとしました。右は薬浴後の株を1時間程度自然乾燥した後、トレーに並べてミズゴケで根周りを覆った植替え待ちの状態です。

病害防除薬浴処理(25Lバケツ2個) 薬浴後の分け株

 下写真は上写真右の分け株を70㎝ヘゴ板5枚にそれぞれ植付けたもので左は正面、右は斜めから撮影したものです。葉のサイズは大きな葉で25㎝(長さ)x10㎝(幅)です。適度に株分けしたとは云え、湾曲した固いリゾームを平面に一列一様に植付けることや、葉を同じ方向に立てて並べることは極めて難しく、1mmの盆栽用アルミ線で矯正しながらの植付けとなりました。大株が5組みに別れましたがヘゴ板1枚当たりの取付は凡そ1時間近くを要しました。この後は1か月間程の順化期間に入ります。温度、湿度、通風に最も神経を使い、この管理の良し悪しがその後の作落ちの程度を左右することになります。

70㎝長ヘゴ板5枚への新たな植付け(左:正面、右:斜めからの撮影)

炭化コルク水平置き栽培のその後

 7月の歳月記に、リゾームの長いBulb. virescensなどに対し、60㎝x25㎝程の炭化コルクにヤシ繊維マットを重ねた板状支持材を水平にして植付けた栽培方法が良く成長することを取り上げました。それから4か月が経過し、殆んどの株が支持材を超える伸長を続け、植替えを余儀なくされました。新しい支持材のサイズは90㎝(長さ)x30㎝(幅)です。下写真は上段左が取付後のボルネオ島生息のBulb. virescensで、右は現在の50㎝越えの株サイズです。同様なサイズでBulb. binnendijkiiも植付けました。伸びしろ分を40㎝ほど設けましたが、これでも2年以内にはみ出すと思われます。90㎝以上になれば株分けで短くすることになります。下段は左が角度を換えての撮影で、中央は上段左株先端の43㎝長の葉です。一方右は支持材の構造を示し、これまで炭化コルク+ヤシ繊維マット+ミズゴケの3層構造と、それに親水性不織布を加えた4層構造の2種類で栽培実験を行っており、結果として不織布入りが最も成長が良かったことから、今回の植付けは右画像に示すように4層構造としました。不織布有無の違いは、3層構造に比べ根周りのより高い一様な湿気と思われます。

 トリカルネット筒など垂直型支持材での栽培では、株が伸長するに従い古いバルブの葉はやがて落葉する傾向が見られました。水平置きでは下画像からも分かるように葉は枯れることなく残っており、これは7月の歳月記にも取り上げたように根周りの湿度の均一性が影響していると判断しています。スマトラ島生息の大型aeoliumを含めリゾームの長い20株を年末までにはこうした水平置きに植替える予定です。


今週(16-21日)開花の18種

 2段左のDen. dianae bicolorはこれまでの同種の中で赤色が最も鮮明であったため撮影しました。一方、Den. sanguinolentumの開化は不定期で1年に4-5回開化しますが、浜松温室では現在が最花期となりSpotタイプ、SabahおよびKalimantanフォームいずれも同時に開花中です。7月から固定肥料をプラスチック肥料ケースに入れて、吊り下げ型の株それぞれに取付ていますが、その数が3ヶ月間で凡そ2,000個になりました。これでも総栽培株数の半数以下です。Vandaのような形状には肥料ケースによる施肥は難しく、2週間間隔で液肥を、またバスケットやポット植えは固形の置肥を与えています。施肥によって新芽の発生や成長が顕著に見られるランは胡蝶蘭です。

Bulbophylum irianae New Guinea Bulbophyllum incisilabrum Sulawesi Bulbophyllum mastersianum Borneo
Dendrobium dianae bicolor Borneo Dendrobium furcatum Sulawesi Dendrobium klabatense Sulawesi
Dendrobium cinereum (derryi) Borneo Dendrobium spathilingue Java Dendrobium mutabile Sumatra
Dendrobium sanguinolentum Borneo Dendrobium sanguinolentum Sabah Dendrobium sanguinolentum Kalimantan
Dendrobum cinnabarinum angustitepalum Dendrobium lamellatum Java Dendrobium cymboglossumBorneo
Dendrobium bicolense Luzon Dendrochilum coccineum Mindanao Ceratostylis retisquama Luzon

現在(13日)開花中の21種

 下画像は高温および中温室で現在開花中の21種で、12-13日の撮影です。今回を含めると10月に入り2週間程で60種ほどが開花したことになります。上段左のボルネオ島生息のBulb. hyalosemidesは、当サイトではこれまでBulb. microglossumとしていましたが、最近の調査で2011年命名の新種Bulb. hyalosemidesと変更しました。Phal. bellinaは7月に取り上げた杉板への植替え株です。7月から現在までの胡蝶蘭、バルボフィラム、半立ち性で根の太いデンドロビウム、Aeridesなどの新たな植替え株は、すでに多くを杉板に植付けており、いずれも順調に成長しています。特に根張りの長い胡蝶蘭の今後の植替えは、ほぼ全てを杉板とする予定です。画像下の青色種名のクリックでそれぞれの詳細画像が得られます。

Bulbophyllum hyalosemides Borneo Bulbophyllum unitubum Borneo Bulbophyllum sp New Guinea
Bulbophyllum fenixii aff Luzon Bulbophyllum bandischii New Guinea Bulbophyllum sp New Guinea
Bulbophyllum pardalotum Luzon Bulbophyllum sp New Guinea Bulbophyllum speciosum Papua New Guinea
Bulophyllum sp Palawan Bulbophyllum dolichoblepharon Luzon Phalaenopsis bellina Borneo
Coelogyne usitana Mindanao Coelogyne fimbriata Malaysia Coelogyne asperata Borneo
Dendrobium auriculatum Luzon Dendrobium rindjaniense Lombok Dendrobium punbatuense aff Borneo
Dendrobium ionopus Luzon Dendrobium boosii Mindanao Vanda merrillii Luzon

現在(6日)開花中の21種

 浜松では、やっと秋らしくなったと思っていたところ、東京では師走並の気温とのこと。6日は温室の換気扇シャッターの可動部にさび止めや潤滑油をさして開閉具合をチェックしたり、暖房器の元栓をONにしたりと冬支度を始めました。原種は高温から低温タイプまでこの時期は活発に新芽を発生しています。Coelogyne moultoniiは先月20日頃に花軸先端部から咲き始め、今年の開花花数は43輪となりました。一方、Dendrobium tentaculatumはDiplocaulobium属からデンドロビウムに統合された種ですが、葉元から細い花茎を伸ばす本種がなぜデンドロビウムなのか不思議です。面白いのは花は短命で1日花ですが、15株ほど栽培の全株が1日の差も無く一斉に開花することと、散り際にはこれも一斉にピンク色となり萎れていくことです。

Bulbophyllum nasseri Leyte Bulbophyllum scotinochiton Sumatra Bulbophyllum cootesii Dinagat Philippines
Bulbophyllum fenixii Luzon Coelogyne moultonii Borneo Cymbidium aliciae Luson
Dendrobium tentaculatum New Ginea Dendrobium sanguinolentum Borneo Dendrobium annae Sumatra
Dendrobium intricatum Thailand Dendrobium amboinense Ambon Dendrobium bandii Sumatra
Phalaenopsis maculata Borneo Phalaenopsis violacea Malaysia Phalaenopsis celebensis Sulawesi
Phalaenopsis venosa Sulawesi Phalaenopsis modesta Borneo Phalaenopsis lamelligera Borneo
Phalaenopsis fasciata Luzon Phalaenopsis reichenbachiana Mindanao Thrixspermum sp aff. celebicum Luzon

  今月は40株程のPaphiopedilum sanderianumや8株のgigantifolium、さらに60株程のrothschildianum等、8月の歳月記で取り上げた植込み材でのパフィオペディラムの植替えとなります。

現在(2日)開花中のバルボフィラム21種

  現在開花中のバルボフィラム21種を撮影しました。気温が下がり昼夜の温度差が大きくなると、バルボフィラムを始め多くの種で成長が活発となり、開花も増します。画像下の青色種名のクリックで、詳細情報や画像にリンクします。

Bulbophyllum sp (sp32) New Guinea Bulbophyllum othonis Palawan Bulbophyllum translucidum Leyte, Mindanao
Bulbophyllum sp aff. ocellatum Luzon Bulbophyllum corollliferum Malaysia Bulbophyllum abbreviatum Borneo
Bulbophyllum williamsiiMindanao Bulbophyllum amplebracteatum Sulawesi Bulbophyllum carunculatum Sulawesi
Bulbphyllum claptonense aurea Borneo Bulbophyllum makoyanum Borneo Bulbophyllum brevibrachiatum Luzon
Bulbophyllum geniculiferum New Guinea Bulbophyllum sp (sp22) New Guinea Bulbophyllum speciosum Papua NG
Bulbophyllum inunctum Luzon Bulbophyllum longicaudatum Papua NG Bulbophyllum nasica New Guinea
Bulbophyllum plumatum Java Bulbophyllum catenulatum Luzon Bulbophyllum apodum Sumatra

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