栽培、海外ラン園視察などに関する月々の出来事を掲載します。内容は随時校正することがあるため毎回の更新を願います。 ARCHIVE

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5月

Dendrobium ayubii

 現在Den. ayubiiが開花を始めています。写真の株はDen. toppiorum Sumatra (subsp taitayorum)で入荷したミスラベル株で、2年目を迎えます。同じSumatra島生息種であることからコレクターのストックヤードで混在したものと思われます。現在1輪が開花し、これから開花する蕾が3個あります。これまでの栽培経験では3輪が最多であったことから、一つの茎に4輪が同時開花すれば本サイトのDen. ayubiiとしては初めての輪花数となります。炭化コルク付けにしてからDen. tobaenseと同様に順調です。


Den. ayubii

Bulbophyllum incisilabrumBulbophyllum claptonense

 Bulb. incisilabrumBulb. claptonenseが中温温室にて開花中です。前者はスラウエシ島、後者はボルネオ島のそれぞれ標高1000m前後に生息のため、日本の盛夏の暑さは嫌うようで、夏季は軒下等の風通しの良い場所に置くことが必要です。複数の花が同時に開花すると良く目立ちます。Bulb. claptonenseBulb. lobbiiと花形状が似ていますが、リップ中央弁の中央部に腺状突起(膨らみ)があり目視で確認出来ます。両者とも夜間はドーサルセパルが下がり、ペタルが前方に曲がり花を閉じます。高地雲霧林の生息種の特徴で夜露を凌ぐためと言われ、温室に移っても遺伝子に引継がれたその行為は変わりません。


Bulb. incisilabrum

Bulb. claptonense

Bulbophyllum cruentum giant

 ニューギニア生息種であるBulb. cruentumは花サイズが3-4㎝の一般種と、5㎝程のgiantと呼ばれる2つの異なるタイプがあり、マーケットでの価格は前者が2,000-3,000円に対し、後者はその10倍となっています。国内マーケットやサンシャインラン展の海外からのラン園でも4-5バルブで3万円となっていました。

 価格は主にその希少性で高い安いが決まるのですが、3年前に本サイトで取り上げたように、この希少性という言葉についての明確(定量的)な定義がなく、生息数が少ないのか、たまたま需要がこれまでに余りなく、マーケット実績数が少ないだけのことなのか、一部のラン園やオークションなどでは高く売りたい一心からか、希少という言葉が紹介欄に溢れています。原種に関して言えば、安価に入手したものを生息数の科学的な根拠もなく希少という言葉を利用して高額で販売しているのであれば、それはまさしく詐欺です。

 さて本種ですが、バルボフィラム市場としてはBulb. macrobulbonBulb. orthosepalumなどの次に高額となっています。本サイトでは数株を今回入手しましたが、果たして本種が希少種なのか、あるいはこれまでマーケットに流通が少なかっただけかは不明で、そのいずれかを知るのには若干時間が必要です。仕入れ価格から販売価格を単純倍率で決めている本サイトとしては、現在の流通価格の1/3程度を予定しています。下写真はニュージーランドバーク木片に取り付けたBulb. cruentum giantで、中温環境にての栽培です。

Bulb. cruentum giant

Phalaenopsis minus

 今回のPhal. minusは生息地タイからの直輸入となりました。近年ではPhal. finleyiとも呼ばれます。浜松到着がサンシャインラン展の2日前であったため植え付けが間に合わず、プラスチックポットにミズゴケの仮植えの状態のまま数株の販売を行いました。その特異な花形状のためか人気があり完売でした。本種は他のAphylllae亜属同様に根が植込み材に覆われるポット植えは適しません。長い扁平した根の裏側を取付け材側に、一方、表面(緑色した側)はむき出したまま取付ける植え替えが必要です。本種の栽培の難しいところは、こうした植え付けのため、根が外気に直接晒られた状態となり乾燥し易く、乾湿の変化が大きくなることで株がじり貧状態になり易いことと、落葉性のためかん水、温度、輝度のコントロールとタイミングを季節に応じて調整しなければならないことです。

 今回の入荷株は葉が大きく良質で、ラン展後に直ちに支持材に植え付け(下写真)ました。上記対策として、ニュージーランド産のTree-Fernと言われるシダの根100%からなる支持材を用いました。この素材はヘゴ板以上の、これまでの支持材としては最も高い保水力をもちます。50㎝長x7㎝幅(15㎝幅を裁断)のサイズに20㎝ほど薄くミズゴケを敷き、株を取り付けました。


Bulbopyllum orientale

 Bulb. orientaleは中国雲南、タイ、ベトナム生息種で同じ節のBulb. careyanumBulb. lilacinumと共に、その稲穂のような花序でよく知られたバルボフィラムです。本サイトではBSサイズ4-5バルブで2,000円で販売しています。花色は薄黄色から赤味のあるオレンジ色まで個体差があります。今回、葉が濃緑色で葉裏が赤紫色の株が多数含まれており、これを入手しました。バルブが赤褐色は本種でしばしば見られる色(写真右)ですが、赤味のある葉裏を持つ株の栽培がこれまでに無く、葉裏の色は花色に関係することがあり、果たしてどのような花が咲くのか。一般種として本種はあまり注目されないこともあり、それならばと今回は5㎝角で50㎝長のTree-Fernに合計35バルブ程を3面に寄せ植え(写真左)しました。一斉に開花すれば華麗な風景になるのではと期待しています。これも展示会出品用としての売り物です。

Bulb. orientale

ニュージーランド産バークへの取り付け

 ニュージーランド産バークのLLおよびLLLサイズが入手でき、これにDen. christyanumDen. scabrilingueの一部を植え付けてみました。下写真がそれです。バークと言っても粒ではなく木片で、重いのが欠点ですが、コルクと異なり重量感があり野生栽培株の展示会等出品の景色として良いのではと。写真は取り付け直後のためミズゴケが目立っていますが、やがてコケが着き、くすんでくればバーク色に馴染むと思います。これらも販売用です。流木に着生ランを取りつけ栽培をしている趣味家も多いと聞きますが、流木とラン原種の組み合わせにはやや違和感があり、バークを支持材にしてみました。写真はLLサイズです。


Den. christyanum

Den. scabrilingue

炭化コルク メモ

 サンシャインラン展で本サイトが出品していた炭化コルクの植え付けについて、多くの方から質問を頂きました。株とその周りをミズゴケで覆う際の取り付けに苦労されているようで、透明のテグス(釣り糸)あるいは紐(糸)で縛るものの本サイトのようにしっかりと固定しないとのことです。

 糸やテグスは縛りつけることは出来ても局所的な塑性変形(押さえて戻らない)が困難で、巻いているとやがて緩んでしまいコルク幅が大きくなればなるほど細部をしっかりと押さえつけることが難しくなります。塑性変形ができるのは針金ですが、針金は反面、強く巻けば株の根や茎を圧迫して傷をつける可能性が高くなります。本サイトは多数の試行錯誤の結果、盆栽用アルミ線の1mm径を用いるのが最も有効との結論に至り、昨年7月よりこのアルミ線で株やミズゴケを留めています。重く大きな株の取り付けには部分的に1.5mm径のアルミ線を用いることもあります。

 アルミ線にした理由は、銅線ではアルミ線に比べて硬く塑性力がやや強すぎ、絞めつけると根や茎に食い込む危険性があることと、巻き始めから錆びるまで線の銅色が目立ち過ぎます。いわゆる株やミズゴケを板に固定するには、針金には相矛盾する性質、”柔らかな塑性力”、が必要で取付け後、指で針金を押さえればそのまま戻らないものの摘まみ上げれば隙間ができる程の柔らかさが必要であることです。この点、盆栽用アルミ線は”盆栽用”とされるだけあって植物に優しく良くできています。

 また盆栽用アルミ線は黒に近い茶褐色で、炭化コルクと同色であり目立ちにくいこと、一方、1mm径では半年ほどで曲がった個所が腐食して切れ始めますが、この切れる特性は、茎や根が縛られた圧迫からやがて解放されることであり、固く縛ったままでは根や株が成長し太くなる場合にはむしろ害になります。しかし切れるまでの期間が問題で、根の活着が早いか切れる方が早いかは一つの栽培結果を知る上でのバロメーターにもなるものの、根が張る前に切れるようであれば、ミズゴケごと落下する可能性が高まります。これまで数千株ある中でアルミ線がほぼ同時に多数の個所が錆びて切れ、株が落下したケースはありませんが、一部の巻き直しは数株あります。これは杉皮板取付でも同じです。

 盆栽用アルミ線はホームセンターや園芸店で入手できます。一方、炭化コルク利用で重要な点は、購入し使用する前には必ず強いシャワーで表面を水洗いすることです。製造から販売までの間の梱包や輸送でコルク板が互いに擦れ合って表面の隙間に炭化粉が付着しており、この粉が残っていると水がコルク内に浸透しにくくなり保水力が低下します。水洗い前と水洗い直後の重さは保水で大きく変化し、持って比較するとその重さの違いがよく分かります。  

Dendrobium wattiiDendroium christyanum

 Den. wattiiはミャンマー、中国雲南省からベトナムまで、Formosae節では最も標高の高い1,500-2,000mの生息種の一つです。このため栽培はコールドからクールタイプとなり、Den. vexillariousなどと同じ環境での栽培となっています。2年前に本種をspとして初めて取り上げ、昨年2月にはこのspをDen. wattiiとして再記載しました。 今月に入り、3度目となる開花があり、そこで幾つかの問題が再び浮上しました。

 それは疑似バルブ(以下茎)の形状についてです。一つはorchidspecies.comのに見られるような茎全長が均一の太さで表面にFormosae節固有の黒い細毛があるタイプと、細毛がほとんど見られず茎の中央部から太くなっているタイプがあることです。これまでの花の画像は後者の株でしたが、今回の開花は下写真左に見られるようにFormosae節の一般的な特徴をもった株です。花形状は同じであるものの茎の形状はかなりの違いがあります。こうした特性はcalcarifera節の一部にも見られますが、果たしてこれが個体差なのか環境によるものかは分かりません。

 こうした中、今回タイからDen. christyanumが入荷しましたorchidspecies.comのDen. christyanum花画像を見て、一見下写真左のDen. wattiiと何が違うのかと、同一節で、花サイズが同じ、また生息地も重なることから相違点を目視で調べていたところ、ペタルの形状がDen. wattiiは卵形であるのに対してorchidspecies.comのDen. christyanumは披針形である点です。しかしDen. wattiiDen. infundibulum, Den. christyanumなどのDen. formosum complexは似て非なる種が多く、判定に戸惑います。Den, formosum complexの種の同定にはDNA分析が必要かとも思います。 

 同様に、今回入荷したDen. christyanumの疑似バルブ形状にも問題です。この茎は同時に入荷したDen.scabrilingueに似て太く短い形状で下写真右に示します。画像検索でも多くは太く短い茎が見られます。しかしorchidspecies.comのDen. christyanumページにあるplant and flowersに見られる細長いほぼ同じ太さの茎形状と、下写真右の形状とは別種の如く異なります。orchidspecies.comにあるこの写真はDen. margaritaceumでこの種はDen. christyanumのシノニムとされているため同種と見なしたと思われますが、このような疑似バルブの相違があるにもかかわらず同種とは何かの間違いなのか、それともこれもFormosae節の有り様なのかは今のところ分かりません。


Den. wattii

Den. christyanum

Dendrobium dianae

 Den. dianaeは2010年命名のボルネオ島カリマンタン生息の新種です。2016年12月の歳月記に赤と黄色のツートンカラーの本種を紹介しました。その後これまでに数回本種名の株を入荷をしましたが、2回目となる昨年春の入荷株はミスラベルでした。かなり希少種のようで本物の入荷は容易ではありません。昨年10月に3回目となる20株ほどを入手した株はそれぞれ5㎝にも満たない子株で、高芽か新芽の株分けと思われる様態(株形状が不揃いで棒付け)でした。この株をスリットプラスチック鉢にミズゴケで植え付け、特に通風の良い場所に置き栽培していたところ成長が活発で、現在20-30㎝にまで伸長しています。その1株が開花し撮影したものが下写真上段です。ツートンカラーは本種の一つのフォームで一般的には単色のようです。開花時には薄緑色でやがて黄化していきます。

 本種と似た種にスマトラ島生息のDen. hymenophyllum green(下写真下段)がありますが、Den. hymenophyllumのセパル・ペタルは蝋質であるのに対してDen. dianaeは透明感があり、また距(Spur)が前者はほぼストレートに対し、後者は強く湾曲し先端が前方を向いています。

Den. dianae
Den. hymenophyllum Green

Dendrobium lasianthera

 4月から6月は多くのデンドロビウムSpatulata節の開花期です。中でもニューギニア生息のDen. lasiantheraは1mを超える疑似バルブに50㎝程の花茎を2-3本伸ばし、花茎当たり10-15輪の花を付けるため全開時にはかなり華やかです。本種は3-4種のカラーフォームがあり、下写真は2つのそれぞれ異なるフォームです。

 本サイトでのSpatulata節の栽培はスリット入りプラスチック深鉢にクリプトモス100%と、大粒のコルクチップとバークミックスを植え込み材としています。現地で見られるような木炭を利用したいのですが、国内の炭はPhが高く使用できません。海外の炭を輸入販売する国内の資材業者に期待しています。

Den. lasianthera

Dendrobium hercoglossum alba

 現在マーケットにあるDen. hercoglossum albaは実生ですが、マレーシアの趣味家がマレー半島Genting Highlands生息の野生株を栽培しており、これを3年前に新芽付きの1バルブを分けて頂きました。浜松温室にてココナッツファイバー巻きに取り付けて栽培していましたが1年毎に倍々と株が増え、今回のサンシャインラン展にその分け株を販売しました。マーケットの実生でしばしば見られる一般種にある蕊柱先端の赤味が残っていることもなく、野生株の完全なアルバフォームです。

hercoglossum alba

Aerides krabiensis

 本種はマレー半島およびタイ生息の岩性ランで15㎝程の花茎に2-3㎝の明るいコバルトバイオレット色の花を12-15輪同時に開花する華麗な種です。にも拘らず、マーケット情報が少なく現在の市場価格が分かりません。

 今回入手した種はクラスター株で下写真に示すように、取り付けは炭化コルク(左)と、木製バスケット(右)の2種類に分けて植え込みました。バスケットの植え込み材はクリプトモスです。これ程の花を付ける種でありながら、サンシャインラン展に出品したのですが引き合いがありませんでした。開花している状態でないとその素晴らしさが分からないのかも知れません。

Aerides krabiensis

Vanda coerulescens

 サンシャインラン展に本種を販売用として単茎タイプを6株と、見本用のクラスター1株を出品しました。単茎タイプは2,500-3,000円で販売しました。下写真は4-5茎からなるクラスター株でで3株が現在順化中です。このクラスター株は、上記Aerides同様に、1-2年栽培し展示会出品を計画する趣味家向けとして仕入れたものです。


Vanda coerulescens

Dendrobium tobaense

 今回のサンシャインラン展に出品したDen. tobaenseの一株です。左右ペタルのスパン幅は11㎝です。4,000円の販売価格としました。この花サイズのBS株としては現在の市場価格の1/3 - 1/4と思います。


Den. tobaense

サンシャインラン展

 17日からサンシャインラン展が始まり、出店者にとって今日(16日)は搬入日です。本サイトでは今回も少量多品種の出品で、バルボフィラムだけで90種程となります。その中には本ページで取り上げたBulb. violaceolabellumなどと共に、一般サイズの2倍ほどの花サイズをもつパプアニューギニア生息のBulb. cruentum giantやバルボフィラムの中で最も小型種とされるBulb. moniliformeも含みます。一方、デンドロビウムは全てに新芽をもつ順化済のDen. rindjnienseDen. papilioなど本サイトでこれまで紹介してきた話題種に加えて、Den. christyanum、chysocrepis、scabrilingueAerides krabiensismultiflora、またVanda coerulescensなどベトナム、ミャンマー、タイ、雲南省からの本サイトとして初めて販売する種が15点程含まれます。特に今回、Vanda coerulescensは将来の展示会向け育成を目的とした大株を参考展示します。

Bulbophyllum fascinator semi-albaBulb. blepharistes

 こちらもサンシャインラン展に出品の2点です。市場価格を調査したところ5,000円の情報がありました。下写真左がBulb. fascinator semi-albaで1株が葉付バルブ5個以上あります。価格は実生のため2,500円です。写真右はBulb. blepharistesです。こちらの株は野生栽培株でそれぞれ先端のリゾームが伸びた先に新芽が付いており、これを含め4-6葉で3,000円です。仕入れ値としては後者の方が安いのですが、リゾームの伸び癖が悪く、炭化コルクへの植え付けが極めて大変(一つのバルブを真っ直ぐ立てようとすると、その前後のバルブが横を向いたり、リゾームが弓なりであったり等)で時間が掛かり、植え付けには相当の忍耐が必要で、その手間代分です。Bulb. blepharistesを扱って分かったことはポット植えは難しく、一体、栽培家は何にどう植え付けているのかと画像検索したところ、やはりポットに植えつけられた画像がほとんどありません。見方を変えれば、それもこの種の個性でそのユーモラスな花フォームと同様に魅力を感じます。


Bulb. fascinator semi-alba

Bulb. blepharistes

Bulbophyllum violaceolabellum

 17日からのサンシャインラン展にバルボフィラムについては90品種ほど出品しますが、本種はその一つです。ネットから国内ラン園の価格を調査したところ2バルブで8,000円の情報がありました。流通が少ないのかそれ以外には該当するサイトは見つかりません。下写真左は今回出品のBulb. violaceolabellumで炭化コルクに取り付けた直後の画像です。全て1株が5バルブ以上となっています。一方、右の写真は左が昨年Cameron Highlandsにて入手した株、右が今回の株です。まるで大きさが異なります。

 ラン展での価格ですが写真の株に見られる5バルブ以上で2,500円を考えていたのですが、炭化コルク取り付けのコストを加え3,000円とする予定です。よって現在の国内市場価格の1/3以下ではと思われます。B to Bは行いません。浜松温室に来られベアールートで買われる方には2,500円です。この市場との価格差から何か販売戦略的な考えがあるのかと思われるかも知れませんが何もありません。あくまで本サイトは仕入れ値と栽培コストから価格を決めているだけです。

Bulb. violaceolabellum

Dendrobium tobaense

 Den. tobaenseはその個性ある花フォームから高い人気が変わることなく、ラン展への出品ではいつも売り切れてしまう品種の一つです。本サイトではBS株を4年前の東京ドームラン展以来それまでの市場価格のほぼ1/2から1/3で販売してきましたが、それでもデンドロビウムの中では比較的高価な種であることは変りません。浜松温室では6月が開花の最盛期となり、現在多くの株で蕾を付けており、今回のサンシャインラン展には野生栽培株の蕾付を5点ほど出品する予定です。下写真は2日前に開花した今回出品するものですが左右ラテラルセパルのスパンは11㎝弱で、緑色のやや濃いフォームです。

 本種の花のサイズは株サイズ、特に疑似バルブ(茎)の太さに比例し、これは同じく出品予定のDen. papilioと共通した特性です。写真右は茎の長さを示すもので全長が15㎝程です。つまりこの株は花と茎サイズ比が1.5倍と、茎の長さがかなり短いにもかかわらず大きな花を付けていることになります。30㎝程に成長した時の開花時の景色が期待されます。現在本種は中温室にて全て炭化コルク付けの栽培です。今月から多くの株に、固形肥料(グリーンキング)を入れた肥料ケースを炭化コルク上部に取りつけています。

Den. tobaense

アリの巣玉

 昨年、Purificacion Orchidsからアリの巣玉(Hydnophylum formicarum)1株をサンシャインラン展の売れ残り品として引き取りました。塊茎の直径が7-8㎝程で、浜松では温室の片隅に1年近く捨て置かれ、すっかり忘れ去られていました。それを今年の東京ドームラン展に果たして買う人がいるのかどうか半信半疑のまま出品してみたところ、初日で売れてしまいました。これほど奇怪な形をした植物がなぜと、ラン展後にネットで調べたところ、僅か10㎝も満たない程の塊茎で15,000円以上が普通という、関心の無い者にとって、ここにも理解不可能な世界があることに気付きました。

 フィリピンを訪問する度にポットに乗った数百のアリの巣玉を見て、どんな人たちがこの観葉植物ならぬ観茎植物を買うのかとは思っていたものの、ラン属でもなくそれほど興味はありませんでした。しかし東京ドームラン展でのことや、国内には取扱店がほとんどないことから高価であることが分かり、サンシャインラン展にも数点出品してみようと取寄せてみました。果たして趣味家は何処に、この木に魅力を感じるのか。塊茎植物がアリに住居を提供する一方で、アリはこの植物を害虫から守り、さらにアリの食べ残しやフンをこの植物は栄養源とする。確かに地上には生きられない着生植物と、アリといえども地上には敵が多くて生きられない種もいるのであろうもの同士が互いに手を組んで共に生きる、そう考えると、こうした不思議な自然の共生進化の実物体を手にできることの好奇心と話題性からかと。

 それでは、その話題性をさらに高めることはできないか、かなり大きな、と言っても部屋や温室に置く限りバレーボールサイズが限度ですが、このサイズならば既存の園芸店との差別化もでき面白いのではと考えました。そのバレーボールサイズを含むアリの巣玉がDENR(Department of Environmen and Natural Resources)が発行するWildlife Export Certification (野生種輸出証明書。いわゆるランで譬えればCITESのような輸出許可書です)と共に送られてきました。それが下写真です。上段はHydnophytlum formicarumで、それぞれの写真で塊茎の黒あるいは茶褐色の部分はかん水により濡れている間の色変わりです。右の写真は左右幅26㎝の塊茎をもつ大株です。

 下段はMyrmecodia tuberosaで、右は1株が3つの塊茎からなる大株です。問題はこれらの植え付けです。ネット写真からはほとんどの株はポットに乗せられています。中には木であるという先入観からか植え込み材に土のようなものが使われている画像もあります。根が短く細毛が多いことから精々植え込み材の上に乗っているだけの状態になり、株が小さければかん水時に安定しません。すんなりと枝が立っているものはそれでも良いのですが、これらは着生植物で枝は様々な方向であったり、塊茎も形は様々です。本サイトでは、枝の伸長方向に倣って枝が上を向くように、傾き調整可能な取り付けとするため、5㎝厚の炭化コルクにミズゴケを敷きその上に本種を固定することにしました。根のある部分の凹凸はクリプトモスとミズゴケミックスを詰め平坦にしての取り付けです。このあたりの植え込み技術はラン栽培者ならではの経験と勘です。価格については一般サイズは若者が主な顧客と考えられ、買いやすくするためネットで見られる2018年度の一般市場価格の半額程度を予定しています。これを機会にラン原種にも関心を持ってもらえれば良いのですが。 大株の価格は未定です。代表的な種のほとんどはランと同じ温度、湿度、通風、施肥での栽培が可能でラン温室に同居させれば良く育つと思います。

HYdnophytum formicarum
Myrmecodia tuberosa

Coelogyne exalata

 来週木曜日から日曜日までの4日間サンシャインラン展が開催されます。本サイトは1.5ブースサイズで出店します。そのため現在は準備で大忙しの状態です。東京ドームラン展で行ったプレオーダーは今回のサンシャインラン展では予定していません。海外からの入荷が今週末かラン展直前になる状況で、ラン展とプレオーダー向けの平行作業が困難なためです。Aerides、Bulbophyllum、Dendrobiumでは珍しい種も入荷予定で状態が良ければ、これらは本サイトにとってのラン展会場での初売りとなります。東京ドームラン展では少量多品種で品種当たり3-4株でしたが、そのため売り切れとなったランも何点かありました。現在これらを優先して出品作業を進めています。

 その中の一つにCoel. exalataがあります。ボルネオ島Sabah生息種でマーケットでの入手が比較的難しいことと、セロジネとしては珍しいセパル・ペタルおよびリップの花被片全てがマスカットグリーンの上品な色合いであることから人気が高いと考えられます。600m - 2,700mの生息種であり、中温から低温タイプとされます。しかし入荷時よりその情報を基に中温室に2年間置いていたのですが一向に開花が見られず株も現状維持で、こうなれば枯れも止む無しと、年の暮れに胡蝶蘭環境と同じ高温室に移動しました。驚いたことに翌年の春から新芽が出始め、初夏には次々と開花が始まりました。それ以来夏季の昼間35℃近くになる環境であっても高温室から移動させることなくそのままにしているものの毎年開花が続きます。高温室は年間を通し最低温度が18℃以下にはならず、これではまるで高温タイプのセロジネです。

 考えられるのは本種の生息域として標高差が2,000mと大きく、たまたま入手した20株程のロットはその中でも最も低地となる600m付近の生息株であったに違いありません。こうした広範囲な標高域をもつ種は殆んどの属に数種存在し、最近ではクール温室に置いていたもののBS株でありながら1年以上開花しない場合は中温へ、それでも開花しない場合は高温室へと順次移しています。その逆もあります。一方、輝度も開花に大きく影響を与えます。低輝度から高輝度にすることで開花が始まる例はバルボフィラムやVandaではよくあります。さらに温度と輝度は開花だけでなく、多くのランの花色(特に赤と青系)にも影響を与えます。こうした状況から本サイトでも新しく入荷したランは1年間の栽培観察により温室内を常に移動しており、7 - 8,000株程を込み入った中で栽培していると、やがてどこに何があるのか分からなくのもしばしばです。

 9日撮影の下写真は今回のラン展出品のため新しく植え替えを行ったCoel. exalataで、全ての株が新芽付きです。植え付けはセロジネの本サイト定番となるスリット鉢にミズゴケとクリプトモスの 1:3ミックスです。Coel. odoardiiや希少種のCoel. palawanensisも今回出品予定です。

Coel. exalata

Bulbophyllum recurvilabre

 今月に入り開花した本種はフィリピンレイテ島の固有種で1999年に命名された新種です。光沢のある黄色ベースのセパルペタルに、細かな赤い斑点がランダムに入り、Bulb. trigonosepalum complex(Bulb nymphopolitanum、Bulb papulosum、Bulb basisetumなど)の中では異彩を放っています。なぜ低地(500m)生息で8㎝もあるこれほど目立つ花が2000年近くまで見つからなかったのか不思議です。生息数が少ないのか、これまで人が入ることのなかった狭い地域に生息していたのか、今のところ情報がなく不明です。高温タイプであり、杉板とバスケットの2種類に植え付けています。サンシャインラン展に1-2品と僅かですが開花株を出品します。花付きのため初日に売り切れてしまうかも知れません。

Bulbophyllum recurvilabre

Dendrobium officinale

 本種は鉄皮セッコクと呼ばれ、中国の高貴漢方薬草として有名なデンドロビウムです。胃腸病、慢性胃炎、解熱、強壮などに効くそうです。本サイトが最初に入手したのは10年ほど前で、中国雲南省帰りの友人が生薬として持ち帰った100本程の茎(疑似バルブ)の中から30本頂いたものでした。アスパラのように短く切断されていました。この生薬をどうして口に入れるのかと友人に聞いたところ煎じて飲むとのことでした。薬になる程ならば相当にがいに違いないと興味本位で齧ってみたところ生そのままの茎であり、それではと面白半分で茎伏せをしました。周りにある胡蝶蘭原種に囲まれながら、やがて芽や根が出始めどんどん大きくなりました。下写真右が僅か3節分の茎から育った株の一つです。この茎はクローン苗と思われ、茎が太く長く6-70㎝程にストレートに伸びる形状で写真のように多輪花性でもあり見た目には華やかなものです。おそらく漢方薬としてはこの花の咲く前に刈り取られるのであろうと想像します。数年間交配を試みたのですが胚のあるタネを採ることができず、茎伏せで増殖する以外ないかと今年に入り3節ごとに切断して様子を見ているところです。

 一方、昨年末に野生株を新たに手に入れようとCITES申請を依頼し打診していたところ、今年1月のマレーシア訪問で1株のみクラスター株が入荷していました。ヘゴ板にしっかりと活着していたところを見ると、華系の人の多いマレーシアであり、強壮剤にしようとこれまで趣味家が育てていたものを一つ失敬してしまったのではないかと思ってしまいます。しかし茎伏せで得た株とは形状がかなり異なっていました。そこで帰国後にネットで調べたところ、雲南省の絶壁で腰に命綱を巻き、崖にぶら下がりながら、本種をコケと共に岩肌に植え付け自然栽培している写真が数点あり、この作業者が手に持っている株と形状がそっくりであることが分かりました。つまりこれまでの株(写真右)は漢方薬製造のために、いわゆる植物工場生産品として改良されたもののようです。1月に入手した株は下写真中央で、クラスター株を5株に分けた一部です。2株程サンシャインラン展に出品予定です。

 本種は中温栽培ですが丈夫なデンドロビウムで、夏の高温時には風通しのよい軒下等に置いての栽培で問題ないと思います。完全な下垂タイプです。日本では5-6月が開花期のため来年の開花に期待しています。

Dendrobium officinale

交配のその後

 先月Den. aurantiflammeum、Den. olivaceum、Phal. gigantea Sabah3種の開花を機に自家交配を行いましたが、その後の子房の膨らみを撮影してみました。Den. aurantiflammeumの花は一般サイズの1.5倍程のセパル・ペタル長で、Den. olivaceumは緑色のflavaフォーム、またPhal. giganteaはセパルペタルが薄黄色の、それぞれフォームに特徴のある花です。特にDen. aurantiflammeumは3年目にして、ようやく受粉に成功したようで子房が大きくなっています。Phal. giganteaの子房は驚くほど短期間で、すでに10㎝程に伸長しています。

 交配から4か月程は温度や湿度環境に細心の注意を払わなければならないことは先月に述べました。もう一つの注意はこれらの種では交配後数週間でペタルセパルが縮れ枯れてゆくのですが、その過程で枯れて黒ずんだ部位にカビが発生し、これが子房に侵入することでさく果が腐敗し落ちてしまうことが多く、そのカビの発生を抑える対策が必要となることです。本サイトではこの処理の適期を見計らいカビ系の病害防除用薬品(例えばトリフミン)を2000倍程に薄めてその部位に塗布しています。野生株の入手が困難になる現在にあって、特に希少フォームの入手の機会を得るのは難しく、こうした実生化は今後一層、避けれらないと考えます。

 希少種を栽培している趣味家の方も多いと思いますが、どんな植物でもいずれは枯れます。タネを栽培者から受けてフラスコ苗を生産受注する業者もいると聞きます。世界に数株しかない種から自身の手でタネを採り数百数千株にするのも面白いと思います。試してみてはどうでしょうか。出来たフラスコ苗をラン屋さんに売るのも一興です。自分で交配から無菌培養で苗作りまで挑戦したい方は富山氏著「ラン科植物のクローン増殖」に実生化の貴重な情報が詳細に記載されており、本サイトもこの著書から10年ほど前に勉強させてもらい、Paph. sanderianumなどのパフィオペディラムまで実生化が出来るようになりました。

Den. aurantiflammeum Den. olivaceum Phal. gigantea Sabah

Dendrobium Papilio

 昨年暮から100株以上のDen. papilioを炭化コルクに植え替え栽培をしています。6-7月が浜松温室では本種の開花期となりますが、植え替え後の初の開花時期となるためどれほどの株が開花するのか様子を見ているところです。先頭を切って1株が開花した花が下の写真です。ペタルのスパン(左右それそれの端間の長さ)が丁度10㎝でした。これまでの観察で花サイズは茎(疑似バルブ)の太さに比例するため、如何に栽培でこの茎を太く育てるか、固形有機肥料を肥料ケースに入れ実験的に20株程に与えて今年の発育を観察する計画です。

Den. papilio


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