栽培、海外ラン園視察などに関する月々の出来事を掲載します。内容は随時校正することがあるため毎回の更新を願います。 2015年度

2016年 1-3月 4-6月 7-9月 10-12月

9月



Bulbophyllum medusaeのクラスター株

 5年ほど前、フィリピン農園でPhal. lueddemannianaの大株を入手しようとしたとき、その大株を園主がクランプと言うので、はて?とそれはクラスター株ではないのかと質問したことがあります。そうすると今度は園主がはて?とした顔をしました。それまでフィリピンだけでなくマレーシアでも、一纏まりの大株は全てクランプと呼んでおり、クラスターという表現は無かったようです。Clampとは複数のものを縛るという意味で、株で言えば寄せ植えによる大株もあり得る一方、Clusterとは複数が繋がった房状のものを意味し、株で言えば、親株は一つで、高芽や脇芽で増殖した大株です。このように解釈しての質問でしたが、現地では敢えて区別はしていなかったようです。おそらくそれほど大きな株をその構成にもこだわって買う人はあまりいなかったのか、あるいは生息国で大株を得るのに、わざわざ手の込んだ寄せ植えをするまでもなく、全てがクラスター株であったのかも知れません。

 そこで今後、一纏まりの大株からフォームの異なる花が咲いては困るので、クランプとクラスターとは区別してもらいたいと注文を出し、今日ではフィリピン、マレーシア共に園主はそれを分けて表現するようになりました。しかし大株を国内に持ち帰っての植え付けや、植え替えをする際には体裁を整える必要があることから、こうしたクラスター株であっても一部を切り離すことがしばしばで、物理的には寄せ植えが多くなっています。同一株であることには変わりなく入荷時点のみ、そうした確認をしています。

 6月のマレーシア訪問ではBulb. medusaeのクラスター株をと注文を出していました。本種は花に茶褐色あるいは赤褐色の斑点があるものと、albaタイプと呼ばれる斑点のないものがあり、聞くところによると、過ってはalbaタイプが多く、斑点フォームの方が珍重されたそうです。しかしマレーシアPutrajaya花祭りの過去3年程の観察では斑点フォームばかりで、albaタイプが見当たらず、今回はこちらをとの注文でやっとalbaタイプのクラスター株が入手できました。栽培者はalbaフォームとのことだが花を見なければ果たしてどちらかは分からないとの園主のコメントもあり、開花を待っていたのですが、今月末開花し確認できました。訪問時クラスター株が2株あったのでいずれも入手しました。両株とも直径30 - 40㎝もある持ち上げるのも重いヘゴ木に活着しており、これを剥がすことは至難の業で、特に本種は葉が折れやすい性質があり、折れると簡単に千切れてしまいます。そこでやむなく5株程に分割して支持木から取り外し持ち帰りました。下写真は29日撮影の花で、右は杉皮板に取り付け直後の画像です。

 1-2輪の花を観賞する場合は気にならないのですが、クラスター株で多くの花が同時に開花する場合、下段の写真は昨年の本サイトでの撮影で、右写真からは斑点タイプは花元が斑点の色と混ざり合い、薄黄色あるいはくすんだ色に見え、一方、全体が白一色となる左のalbaタイプは長く白いセパルに相まって全体がより白く感じます。花形状を花火のようと形容する方もいますが下段右はそのようにも感じ、一方、左画像では滝を下る水のようにも見えます。

Bulb. medusae albaフォーム
Bulb. medusae albaタイプ
Bulb. medusae 斑点タイプ

Bulbophyllum baileyiの開花

 本ページの7月に取り上げたバルボフィラムが開花しました。オーストラリア・クイーンズランドおよびニューギニア生息種で、本サイトの株はニューギニア産です。バルブ元から10㎝程の花茎を伸ばし、下写真左に示す左右のラテラルセパル間が3.5㎝となる花をつけました。微香ですが、たまたまPC机の上に置いていた龍角散のど飴に似た不思議な香りがします。こちらもBulbophyllum kubahenseの鰹節の匂いと同じで外国人には理解できない表現になってしまいました。国内でのマーケット情報は見当たりません。通常は下向きに開花するようですが写真の花は横向きでした。手で花茎をもち上向きにしての撮影です。

Bulbophyllum baileyi

Phalaenopsis violacea野生栽培株の開花

 今年4月に持ち帰ったSumatra島 からの野生栽培株Phal. violaceaが開花しました。移植から1年未満のため、まだ花数は少ないのですが順調に成長すれば来年は10輪程の花をつけると思います。改良種の人目に対しての華やかさとは違い、自然界で生き残っていくため数万年かけて進化を続けた今ある花の姿には、細部にわたって、そうなるべき理由があり、特に本種に対しては気品を感じます。


Phal. violacea Sumatra

Dendrobium tiongii

 2010年登録のデンドロビウム新種です。フィリピン・ルソン島東部海岸およびミンダナオ島の標高500m - 1,000mに生息とのことです。Den. bullenianamに似ていますがリップにストライプがなく、開花時点ではリップの付け根部分がセパル・ペタルと同色で、やがて下写真のように赤色に変化します。疑似バルブ3-5本立ち株で2,000円です。


Den. tiongii

Vanda denisoniana

 バニラの香りがする本種の開花が1か月ほど前から続いています。乳白色、黄緑色、さらに下写真に見られるような橙色まで、これほど花色が異なるVandaは他に見当たりません。生息域の標高が400m - 1,200mとのことで中温から高温タイプとされますが、本サイトでは高温環境に置いています。orchidspecies.comでは開花期は冬から春となっています。1株のみの開花であれば狂い咲きとも考えられるものの本サイトでは複数の株で順次開花を続けていることを考えると、浜松では晩夏が開花期のようです。


Vanda denisoniana

Dendrobium wulaiense

 パプアニューギニア低地生息のSpaturlata節の本種についてorchidspecies.comでは開花時期が示されていません。これまでの2年間の栽培経験から浜松では晩夏から秋となっています。Spatulata節の中でも輪花数が多い種の一つで、白いセパル・ペタルと青いストライプの入るリップとが爽やかな印象を与えます。花持ちは長く1か月以上続きます。リップ先端部はいずれも青色ですが、リップの縁が青色となるものと、白色となるフォームがあり、青色も濃色から淡い青色まであります。


Den. wulaiense

Dendrobium ramosii

 本種はフィリピンルソン島、標高1,200m以上に生息するクールタイプのデンドロビウムです。1.5㎝ほどの淡紫色の花をバルブ当たり15輪程同時に開花します。株はDen. papilioに似て外見からは区別するのが困難ですが、根はDen. papilioの細長い茎(疑似バルブ)に似合わない太さに対して本種はやや細く、反面数は多く、デンドロビウムとしては数少ない地生ランです。下写真は植え付け前の100株程の本種で、1か月程の順化期間を経た後、2-3株を纏めて1株とし2,000円で販売予定です。


Den. ramosii

Bulbophyllum(Cirrhopetalum) multiflorum

 本種も今回入手したフィリピン生息のバルボフィラムの一つで、W. Suarez氏が2011年発見した新種です。下写真左に杉皮板に取り付けた本種を示します。中温から高温タイプとして栽培しています。右はSuarez氏本人から頂いた画像です。かなりインパクトのある花であるにも拘らず、前項で取り上げた種それぞれと同様に市場情報が見当たりません。一方、Bulb. bakhuizeniiのシノニム(別名)としてBulb. multiflorumがあるそうで、しかし下写真右とは全く異なる花画像となっています。属名CirrhopetalumはBulbophyllumに統合された筈ですが、そうであればBulb. bakhuizeniiのシノニム名Bulb. multiflorumと本種Cirrhopetalum multiflorumとは、それぞれ異なる種であるにも拘らず、同一名でバッテングしていることになります。ちなみにorchidspecies.comにはCirrhopetalum mutiflorumの記載はありません。6バルブ株で2,500円を予定しています。

Bulbophyllum(Cirrhopetalum) multiflorum

フィリピンBulbophyllum

 今月始めにフィリピン訪問で持ち帰ったバルボフィラムは12種程ですが、2週間ほど前に植え付け前の画像を本サイトに掲載しました。下写真は植え付け後の一部のバルボフィラムです。それらの市場性や希少性を調べる中で、下写真の小型種4種は情報が余りありません。

 写真上段左のBulb. ocellatumは2011年登録の新種で、orchidspecies.comに今のところ掲載されていません。ネットには国内情報が全く見当たりません。上段右のBulb. leytenseはorchidspecies.comで検索できますが画像が1915年の植物標本で、生息地が黒塗りとなっています。名前から生息地はLeyte島ですが、ミンダナオ島にも生息しているそうです。こちらも国内情報がありません。下段左のBulb. ecornutoidesは知人のW. Suarez氏が2006年発見したものです。しかし今回入手した株を見るとバルブがBulb. callichromaのように円錐形で、本種名の画像検索で見られるようなナス型ではありません。ミスラベルの可能性があるものの、クール系のバルボフィラムによく見られる円錐形状のバルブはこれまでに知られたフィリピン生息種に果たして存在したか記憶になく、これはこれで開花でどんな花が咲くか興味があります。下段右はルソン島北部標高1,400mから2,000mに生息するのフィリピン・バルボフィラムとしては最標高域のBulb woelfliaeです。一般にはクール栽培ですが中温でも可能とのことです。本サイトで長年求めていた種で、日本での市場情報はこちらも見当たりません。


Bulb. ocellatum

Bulb. leytense
}Bulb. ecornutoides

Bulb. woelfliae

Phalaenopsis violacea super blue

 間もなくマレーシアから入手予定の青色の濃いPhal. violaceaの写真が送られてきました。こうした色合いの濃淡は栽培環境に影響されるため一過性(必ずしもフォームが固定しているとは限らない)の品種がしばしばですが、状態が良ければ写真のような色合いとなるのであればなかかなのものと言えます。


Dendrobium daimandaui

 本種はボルネオ島キナバル山200 - 700mに生息するデンドロビウムで2011年登録の新種です。本種名でネット検索をしても市場情報は見られず、よって流通する価格も不明です。いわゆる、前記した、まさに正真正銘の珍種です。昨年の8月にマレーシアにて入手し歳月記で紹介、今年の東京ドームラン展にてDen. sp Sabahとして出品したのですが、誰も関心を持つ人がいなかったのか、ブースの隅にひっそりと置いていたせいで気が付かなかったのか全てが出戻りとなりました。その後、会員の方からの情報で本種がDen. daimandauiであることが分かり、国内を始め、海外市場でも取引がほとんどない珍種であることが分かりました。

 入手時はボルネオ島からのDen. sp名で現地ラン園としては初めて扱う種とのことでした。本サイトでは大型バスケットにミズゴケで寄せ植えし、中温環境にて栽培をしています。高温でも問題は無いようです。当初順化段階で高温環境に置いたのですが葉が落ちる傾向が見られ、こうした場合の対処法として中温温室に移動することで落葉が止まりました。ただこれは高温に問題があったのではなく、順化期間の初期段階で、それまでの環境で根が傷んでいたことが原因と考えられます。その後1年が経過し、新芽も現れ、9月になり開花が始まりました。開花は初夏から秋ごろまで続くようです。本種はorchidspecies.comにも掲載され花画像は生息場所での撮影と思われ、疑似バルブには葉が無く落葉後に開花したようです。1バルブ当たり花は5-10輪ほど開花します。バルブは50-70㎝ほどになります。下写真は浜松温室での今月17日の撮影ですが、葉元に未開花の蕾があることが分かります。全ての花が開花するには1か月程かかるようです。花が咲き終わると葉が落ちる性質があるかも知れません。

Dendrobium daimandaui

希少種・珍種

 ランの販売サイトには、あの手この手の、花の容姿や株の状況を謳った文句があります。’希少’、’珍種’、’選別’、’美しすぎる’など、時として4本程のバルブの株を’巨大な特大サイズ’と言われると、思わず吹き出してしまう表現もあり、ランを何としても買ってもらおうとの必死さが伝わってきます。一般市場価格に比べてより高額で販売をしている売り手であるばあるほど、よく言えばアグレッシブな、悪く言えば誇大な表現がより多く見受けられます。こうした中での売り手の主観的な感想や見解は、買う側はジョークとして楽しんで見ていればよいかと思います。

 一方で、希少種とか珍種とかの表現は、初心者にとってはおそらくその言葉通りの解釈をしてしまうかもしれません。希少種という表現は客観性が必要で、さもないと誇大広告に他なりません。とは言っても例えば、自分で適当な種を選びこれらを交配した実生種を、それがどのような容姿であれ、希少種とか珍種と謳っても、おそらく世界にはそれしか存在しないのですから間違いではありません。すなわち、人工的に作られた交配種には希少種とか珍種は意味(価値)のない表現となります。しかし「原種」に対して希少種や珍種との表現は重要な意味を持ちます。ある原種が希少種であるのであれば、その種は自然界において生息数が少ない、珍種であれば世界市場において取り扱いがこれまで殆ど見られないと言った客観的なデータあるいは情報が必要です。もし市場では取扱いが稀であるが現地での生息数は多い、あるいは世界市場での売買実績は多いが、日本では殆ど無い場合、これを希少種とするのは誤りであり、希少との表現故に入手した人から見ればダマされたことになります。

 うがった見方をすれば、売る側からは希少とは言ったが希少種とは言っていないとの声が聞こえてきそうです。何が違うかです。希少種はまさに種の生息数が僅かであることを意味しますが、希少種から種を取り除いた「希少」とは手に入りにくい、流通が少ないものを総じた言葉とも解釈できます。であれば求めればいつでも生息国から入手できるものの、たまたま日本の国内市場では余り扱いの無いものを希少と言えば、それはそうとも考えられます。しかし”これは希少なランです”とか”入手難です”と言われ、高額になっていれば、CITES規制植物でもあるランであるが故に、希少と言われればイコール希少種と思うのが普通です。

 では、正しい表現としての希少種とは何かですが、厄介な問題があります。それは真に希少種や珍種であればあるほど、当然それを決定づける定量的なデータや情報は無いに等しく、何を基準に希少とか珍種とするかが問われます。本サイトでは一つの考えとして下記を取り上げて見ました。すべて実生、メリクロン等の培養種はその生産時点で希少や珍種ではなくなったため対象外です。
  1. 希少種
    1. IUCN (International Union for Conservation of Nature)等の機関がCritically Endangered(現在絶滅の危機にあり)と指定した野生栽培種
    2. 生息国の複数のラン園にてこれまで入手難とされ、且つ排他的地域(限られた特定の地域に生息する)種
    3. 過っては一般種ではあったものの、プランテーションや乱獲により絶滅したとされる地域からのex_situ(生息域外保全)野生栽培株
  2. 珍種
    1. 世界市場でのマーケット情報(売買実績)がほとんど無いもの
    2. 生息国の複数のラン園において取り扱いがこれまで皆無、あるいは初めてか稀であるもの
    3. 新たな変種やフォームにおいて一過性のフォームでないことが確認できた種で市場実績がほとんどないもの
  3. 新種
    1. ある年以降(例えば現在から遡って10年以内)に発見登録された種
 上記の意味するところは、希少種とは生息数が少ないことが客観的に裏付けられている、あるいは生息国での取り扱いが長期間にわたり量的に少なく稀であることで、非生息国である日本国内での取り扱い量の有無ではないことです。一方、珍種とは生息数は分からないが世界市場での取り扱い実績がこれまで極めて少ないものとなります。世界市場での実績の定量値はネット検索によるヒット数となります。よってネット上での情報が無くても取引が行われている種があるかも知れませんが、そうした表面に出ない取引は、CITESや生息地域外持ち出しの違法取引の可能性があり、これも対象外です。例えば生息国で全くの取引の無いランが、非生息国で販売されているとすると、一体誰が、誰を通して輸出入できたか、生息国での一般個人がCITESを得ることは手続き上、極めて困難であり、では外国人による不法採取かと疑われてしまいます。上記で「複数の」ラン園とあるのは、ほとんどのラン園は独自の取引ルートを持っており、その結果、ルートは限定されます。よって一つのラン園だけの取り扱い量では正確な判断ができないためです。

Aerides leeana

 下写真は今回フィリピンで10株を入手したAerides leeanaです。左は浜松温室にて撮影したもので、右はフィリピンでJ. Cootes氏と共に多数の原種を発見・発表しているW. Suarez氏から頂いた画像です。Aerides leeanaはフィリピンとスラウェシ島に生息する高温系で、他のAerides種と異なり低輝度での栽培が良いとされています。Aerides属の中では最も魅力的な種(most attractive)と言われています。国内の価格を見ると16,000円と12,000円の2件がネットで検索できましたが、本サイトでは下写真BS株で4,000円としています。現在3株に多数の蕾が見られます。

Aerides leeana

Dendrobium spurium

 本種はボルネオ島、インドネシア、マレーシアおよびフィリピンの広い地域に生息する旧属名Euphlebiumのデンドロビウムです。5年間ほど本種名のラベルで栽培していた株が4-5株あり、昨年、それらはDen. spuriumではなく、フィリピン固有種のDen. balzerianumではないかとラベルを変更しました。ではDen. spuriumをと、昨年からマレーシアに注文をしていたのですが、入手難で、今回フィリピンにて本種を入手することが出来ました。フィリピン市場では現在もデンドロビウムではなく、Euphlebium属となっています。広域生息種の常として標高100mから1,200mのクールから高温までと環境温度も広範囲で、こうした種は、同種であっても生息地に対応した栽培環境が好ましいとされます。今回の入手株は高温系です。果たして同じフィリピン産のDen. balzerianumDen. spuriumとはどう違うのか開花が待たれます。

 国内市場を見ますと、これだけ広範囲な生息種であるにも拘らず、Den. balzerianumDen. spurium共にほとんどマーケット情報が無く、国内で1件のみ価格が8,000円で、セール価格が4,500円という、意味不解(ランの特価品?)な価格がヒットしました。本サイトでは4-5本立ちの疑似バルブBS株を3,000円で販売することにしました。下写真が今回フィリピンにて入手した本種で、ココナッツファイバーを根に巻いてしばらく育てていたようです。これらはこれから鉢植えに植え替えを行います。


Dendrobium spurium

Dendrobium sp

 本ページ8月に紹介したDendrobium sp (Dendrobium crumenata節のDen. lamelluliferumに類似)と同じく6月に入手した別のクール系のDen. spが開花しました。こちらもニューギニアかボルネオ島高地からかは不明です。花と株形状からはcrumenata節と思われます。特徴はリップ奥の赤いストライプの模様と、リップ先端部の黄色の縁取りですが、今のところ該当する種が見つかりません。10株程、6月に入手したのですが4株ほどを販売しました。(後記:会員から本種はDendrobium cymbulipesの可能性ありとの情報を頂きました。ボルネオ島キナバル山700 - 2400m生息のクールから中温系です。)


フィリピンでのラン輸出手続き

 フィリピンを訪問しランを持ち帰るようになってから10年が経ちます。この間のCITES品の出国手続きはかなり変化しました。2-3代前のエストラダおよびアロヨ大統領の時代は出国の際、空港搭乗便のチェックインカウンターと同じフロアーにある動植物検疫カウンタに荷物を持っていき、ここで数日前に取得したCITESと植物検疫書類を提出してチェックを済ませ、検疫済みのシールを荷物に貼ってもらってから航空会社のチェックインカウンターに預ける流れでした。

 大統領がアキノ3世になって、このチェックイン前の検疫カウンタへの荷物の持ち込みと書類検査は、マレーシア同様に無くなり、ラン園での梱包が済み次第、ラン園関係者が検疫書類だけを持ってマニラ市内の事務所に行き書類にサインをもらった後、顧客はホテル等でそれを受け取り、一方荷物は顧客に預けたままとなっており、搭乗手続きの際に預け荷物として手荷物カウンターに出せばよいように簡略化されました。現実の問題として、段ボール箱を開け、例えば1,000株もあるランを1-2名の検査官が書類と見比べて員数を含め品名照合を行うには1時間近くを要し、複数の人が複数の荷物を同時に持ち込んだ場合に対応するには、かなりの検査員が常駐していなければ、出国直前の時間的制約のなかでは不可能であり、段ボール箱を開けることなく書類だけの検査となっていたわけです。また書類と品名照合及び数のチェックは入国側での入管手続きの際に行われるため、ダブルチェックは不要との判断であったものと思われます。

 この結果、ラン園にて病虫害防除の処理が行われ、株が段ボール箱に詰められテープ等で梱包された後は、航空機に搭載されるまで箱が開けられることは無く、搭乗当日、X線探知機の検査ゲートを通るだけとなっていました。しかしこのようなシステムでは、ラン園内での梱包後に荷物が顧客に渡されてから、チェックインするまで顧客の手元あるいは一時的にホテルに置かれることになります。出国するまでの間に誰かが箱を開け、書類とは異なる動植物を詰め込んで再梱包しても、中身は誰も分かりません。言い換えれば入国側でのチェックがずさんな国であればX線探知に異常がなければ何でも持ち込めることになります。この心配が今年フィリピンで起こってしまったと言うのです。どうやら植物の荷物に、CITES Appendix Iのヘビと亀を潜り込ませた人がいたようです。

 おそらく探知機におかしな影が映っていたか、ごそごそと音がしたのか分かりませんが、これでフィリピンではラン園が梱包した荷物をそのまま顧客に渡すことが今年から禁止されてしまいました。仮に2代前の大統領の時のシステムに戻すにしても、では出国時に荷物を開いて検査ができるかと言えばこれは前記した理由から無理です。ヘビと亀のために4-5人の検査員を常駐させることは現実的ではありません。

 対応策としては、ラン園で梱包をした荷物を一旦、マニラ市内の検疫事務所に運び、シールを張って箱には封印用のサインをしてもらい、これを顧客に引き渡すことになります。この場合、出国の遅くとも前日の処理となるため搭乗便の出発時間の制約はないので、箱を開けて違法物がないかをチェックする時間は十分あります。本来このような処理こそ当たり前のように思われるかも知れませんが、これもまた問題です。ランを購入する海外からの客は休日である土日を利用してのラン買いが多い反面、日曜日は検疫事務所は休みです。この問題が今回のフィリピンの訪問で起こってしまいました。すなわち帰国日は月曜日早朝のJALであり、ラン園での梱包が終わるのは日曜日午後の5時頃です。

 これまで荷物のシールと封印の不要な時代は、荷物の梱包が日曜日の夜遅くなり、検疫書にサインが無くても、帰国が月曜日であれば早朝であっても空港内で書類にサインをもらうことができ、10分ほどでそれは済みました。昨年夏、同じように日曜と月曜に渡る日程であったにもかかわらず、これが出来なくてEMS発送を余儀なくされたのは、たまたま月曜日がフィリピンの祭日で、週末だけでなく月曜日も検疫事務所が閉じることを園主が忘れていたためです。今回が異なるのは、必ず梱包を開けて内容物をチェックしなければならなくなったことです。出国当日にこれを行うことは前記した理由から困難です。では仮に日曜日にも事務所が開いていたとしても、ラン園での梱包が5時を過ぎ、これから聞きしに勝るマニラ周辺の夕方のラッシュの中を抜けて事務所に到着する頃には8時を過ぎるのは避けられず、果たして日曜日にこの時間まで事務所が開いているとも考えにくく、半ばまたEMSかと諦めかけていたところ、園主が平然とこれからサインをもらいに行くので、ラン園からマニラ市内のホテルに帰る途中で検疫事務官のところに寄ってもらいたいと言うのです。

 そこでラン園関係者と段ボール3箱を積んだ車、および我々の車2台でTagaytayからマニラ市に向いましたが、車がSanta Roseを通過する辺りで民家の立ち並ぶ地域に入って行きました。さてこんな場所に検疫事務所があるのかと思っていましたが、やがてまさに民家の前に停まりました。出て来られたのは年配の検疫事務官で、自宅の前の庭で検査を行うと言うのです。検査官は私から受け取ったCITESや検疫書類をチェックし、車で同行したラン園の作業員に段ボール箱を開けるように指示し、1000株以上あるランの員数照合までは公認ラン園からの荷物であるが故でしょうか信用して行いませんでしたが、植物以外の混入物のチェックを始め、40-50分程かけて3箱分が終わりました。結局検査は夜8時過ぎですので、おそらくこの検査官は予めラン園から電話をもらい食事が終わりテレビでも見ながら自宅で待機していたと思いますが、休日にもかかわらず、よくこのような協力をしてもらえるものだと感心しました。この時間外勤務に対し謝礼をしたかったのですが贈賄と思われても困るので無論それは止めました。フィリピンやマレーシアでは何が起こっても不思議ではなく驚くことは少なくなりましたが、この臨機応変な対応には改めて感謝です。しかし金曜か土曜日に日本を立ち、月曜日に帰国する強行スケジュールは、今後毎回このような段取りになるのかと思うと、次回からは曜日をズラすしかありません。今年中にはまだ2回ほどフィリピンに出かける予定です。

Bulbophyllum membranifolium

 6月末のマレーシア訪問で、名前は不明なので、取り敢えずBulb. Sabah yellowということで、と何ともアバウトなsp株を入手してきました。浜松に持ち帰り植え付けた後、温室を訪問される方からの購入希望もありましたが、名称不明なので花を確認してから販売を始める旨をその都度伝えていました。本日10日にたまたま水撒きをしていたところ花が咲いているのを見つけ、調べたところ本種であることが分かりました。午前中は全開ですが、夜になると閉じています。こうした早朝や午前中だけ開花し、午後や夜には閉じてしまう性質はバルボフィラムでは結構多数の種に見られます。一説によると、これは夜になると霧が発生して森林全体が濡れた状態となる場所に生息する種に多く、花を水滴から守るためだそうです。種名が分かったためいつものようにマーケットを調べたところ4,000円ほどで販売されていましたので、本サイトでは2,500円で販売することにしました。


Bulb. membranifolium

Trichoglottis latisepala

 POS展示会場にて、一抱えもある多数の茎が垂れ下がって1.7mの高さにも及ぶ大きなTichoglottis latisepalaが3株出品されており、その内の1株を入手しました。本種はフィリピン固有種で、ほぼ全土に生息し標高1,000m以下の中 - 高温系です。薄紫から赤紫色の1.5㎝スパンほどの花を多数同時開花し、このサイズであれば300 - 400輪程と予測され、最花時は見栄えがするであろうとの思惑からの衝動買いです。本属の内、atropurpureaphilippinensis flavaなど数種を浜松で栽培していますが、本種はこれまで栽培や販売経験がないことから、マーケット情報を調べて見たところ、20 - 30cm長の2-3本茎で4,000円以上するそうです。では下写真のような新芽も含めると50茎ほどの全長1.7mの株を国内で販売したら幾らになるのかと。本種はよく展示会に出品される種のようでネットからは日本や台湾での入賞例が見られます。賞狙いの会員趣味家に対して、いっそのこと現在の市場相場から見れば破格と思われる下写真の株を15,000円ほどではどうかと、フィリピンからのこのサイズの運送費を考えれば株の実質価格は1万円以下となります。展示会最終日にまだ2株残っていたので本種を、まもなく送られてくるEMS荷物に追加するように注文を出したところです。


Trichoglottis latisepala

Dendrobium guerreroi

 ミンダナオ島に生息する本種はJ. Cootes氏によれば、まず見ることが出来ない種(rarely seen speciesでnever common)だそうです。確かにorchidspecies.comで本種を検索すると、トップページの花画像はJ. cootes氏の著書と同じ画像ですが、そのページ内のAnother flower?では、”それはないでしょう。どっちかにしてください”と言いたくなるほどの全く別花が掲載されています。?マークがついているのはAnother flowerの花は別種かもしれないと言う意味です。まだよく分からないデンドロビウムなのでしょう。マーケット情報はほとんどありません。本種の画像は唯一、J. Cootes氏が撮影された写真だけのようです。最初の発表が1932年のかなり前のことであることを考えると、十分知られていてもよい筈ですが、J. Cootes氏のコメントもあり、見方を変えれば、幻の種なのかもしれません。依頼してから3年目でやっと20株手に入りました。入手した株は状態が良く、これから植え付けです。株サイズで若干変わりますが2,500円を予定しています。今回は10株のみを販売し、残りで実生化を計り、もし希少種であれば苗をフィリピンに戻したいと考えています。


Den. guerreroi

フィリピンから持ち帰りのBulbophyllum

 下写真は今回のフィリピン訪問で持ち帰ったBulbophyllumの一部です。画像でspはラン園でこれまで扱ったことがない種で、Newは新種の可能性ありとのことでした。下段中央のBulb. woelfliaeは比較的新しい種で、5年目にしてようやく入手できました。全体でこれだけの量ですと植え付けに1週間はかかりそうです。


Bulb. ecornutoides

Bulb. fenixii

Bulb. leytense

Bulb. odoratum

sp1(like cheiri yellow)

sp2 (Cirrhopetalum Palawan) New

sp3 (like multiflorum type)

sp4 (like debrincateae)

sp5 (Cirrhopetalum Palawan) New

sp6 (like facetum).

Bulb. woelfliae

Dendrobium papilio

 今回のフィリピン訪問でJGP2016に出品した同じ生息場所(ルソン島北部)のDen. papilioを230株得ることができました。本種は育てにくいとよく聞きます。原因は1,200mの高地生息種のため中温栽培環境が必要で、これは夏の暑さが苦手なDen. tobaenseも同じですが、Dendrobium Spatulata節や胡蝶蘭Phal. bellinaなどと一緒の高温栽培環境では生育は困難で、結論から言えば、夜間平均最高温度が20℃を下回ることが必要です。昼間の温度は30℃を越えても枯れることはありません。よって国内の夏の期間はエアコンによる夜間冷房が必要となります。フィリピンのマニラ市周辺の高温環境では、本種は生息域から持ってきても3-4か月程で枯れ始めるとのことでした。それではそうした環境を作れない趣味家は本種の栽培は諦めるしかないのでしょうか?

 日本では江戸時代の昔から高山植物の栽培を趣味にした粋な人たちがいたようです。彼らはどうしてエアコンの無い時代、低温や中温系の植物を猛暑となる江戸で育てることが出来たのでしょうか。生育の条件、今風の言葉で言えば生息環境の温度に近づけために”開発された”手段は、特殊な鉢でした。吸水性が良く鉢壁面に浸み出た水分を蒸散させ気化熱を利用して鉢内部の温度を下げる鉢の素材と、その焼き方が生み出されました。こうした高山植物専用の鉢は驚くことに、外気温が25℃以上あり、通風がほどほどにある環境に置くと5℃以上、鉢によっては7度近くまで温度が下がります。すなわち外気温が熱帯夜であっても鉢内部は20℃に近くになります。しかし一般の素焼き鉢や駄温鉢の吸水率ではここまでは下がりません。精々2℃までです。高山植物専用鉢ならではです。こうした気化熱を利用する低温化は当然鉢壁面の水分を蒸散させるに十分な通風が必要です。このため夏季は屋外の風通しの良い場所に置き、鉢の配置間隔を十分広く取ります。Den. papilioもこうした栽培法にすれば夏を越すことができます。

 一方、200株以上をストックする販売側としては、株毎に山野草鉢を使用していたのでは鉢のコストが膨大となり非現実的な栽培方法となります。本サイトでは、これまでバスケットにミズゴケ100%の寄せ植えですが、数が多いことと販売の容易さから、今回はこれらを株毎にプラスチックポットに植え込みます。無論、栽培温度は中温(夜間最高平均温度18℃)に設定してのプラスチックポットです。この場合、植え込み材が問題となります。プラスチックにミズゴケでは過水状態になります。会津にいた頃の過去の経験では、最も好ましい植え込み材は多花系パフィオで用いていた、オーキッドペース、ネオソフロン、軽石の等比率配合でした。しかし現在アサヒビールのオーキッドベースは発売中止になっています。そこでモルトセラミックでネット検索していたところ、熱帯魚のフィルター濾材として水槽メーカーのニッソーから在庫処分品(全て売れ切れた段階で販売中止)として小分けしたオーキッドベースが販売されていることが分かり、さっそく注文してみました。中サイズの懐かしいオーキッドベースそのものでした。

 下写真は今回入手した植え込み前のDen. papilioです。独特の太い根が支持体からの取り外しで切断されていますが、ほとんどが固い生きた根で、状態はかなり良いと思います。株を縛っているブルーの紐を良く見ると分かりますが、3株程を纏めて縛っています。こうした株はサイズの違いが大きく、出荷単位としては大小組み合わせて縛り、これを1株として数えます。Appendicula malindangensisもこのような処理がよく行われます。よって独立した株数で数えれば凡そ2-3株を1巻きとしていることから、総株数では500株を超えることになります。今回はこの複数株を縛った株を1株として2,500円で販売をします。よって厳密に言えば2-3株でその価格となりますので、1株は実質1,000円相当となります。購入された方は、これを1株づつに分けて栽培した方が成長が良いと思います。これから50日程の順化栽培が始まります。出荷は10月末頃になり、栽培気温としては良いタイミングと考えます。順化処理不要の方には2週間後から発送します。予約はすでに受付けていますがBtoBは行いません。


Den. papilio

フィリピン訪問

 2日から5日までフィリピンを訪問しました。株数にして1,500株程を仕入れ、その内の1000株をハーフサイズ(1200x45x25㎝)段ボール箱で5箱、62㎏の荷物として持ち帰りました。残りは1-2週間遅れのEMSです。5箱は一人で持ち帰る限界の個数です。

 今回の訪問では、2月から求めていた、大きな花を付けるLuzon島北部産Den. papilioがタイミングよく現地ラン園に入荷しており、入荷した250株の内、230株程を持ち帰ることができました。残りの20株はドイツからの注文で間もなく発送とのことです。この特定エリアからのDen. papilioは何株でもよいと伝えていましたが入荷は数年ぶりとなります。状態は入荷直後のこともあり良く、Den. papilioの販売価格はこれまで通り2,500円/株を予定しています。一方、夏のフィリピンは何処に行ってもVandaが中心です。昨年夏の展示会で入手したような良質のBSサイズVanda sanderaina pinkを20株、これらは3,000円(標準葉数8枚)で販売予定です。Vanda sanderianaで特筆すべき株が今回出品されており、始めて見る緑色フォーム(アルバタイプでラテラルセパルの緑色が濃いもの)で、同伴したPOS(Philippines Orchid Society)のDirectorでもある園主の勧めもあり、これを入手しました。この緑花は現地でも余程珍しいのか今回のMid-Year Orchid Show展示会の看板写真内にも掲載されており、所有者に伺ったところ野生栽培株の分け株とのことでした。花が最も状態の良い時に撮影した画像を間もなく送ってもらうことになっていますので届き次第、本サイトで画像を公開します。バルボフィラムはspが5品種ほどと、Bulb. fenixii, facetum, woelfiae, odoratum, leytensisなど。またAerides leeana, odorata calayanaThrixspermum sp (Palawan)も得ました。

 一方、1株が25本の茎からなる巨大なAerides inflexaクラスター株をPOS会員と思われる人から得ました。これは本サイトの展示用とするつもりです。胡蝶蘭原種のクラスターは東京ドームラン展に出展してきましたが、Aeridesの大株も迫力があり面白いと思います。その他、プランテーションで絶滅の危機にあるとされるVanda merrillii標準種を30株、rotoriiタイプを10株、さらに1.2mほどの10 - 15本茎のmerrilliiクラスター標準フォーム株も3株あって、こちらも全て仕入れました。マレーシアのプランテーションはパームオイル用のヤシですが、フィリピンでは米畑とのことです。

 今回の訪問は来年早々から予定される展示会販売品としての計画で、より丈夫な株を提供するには半年以上の順化が好ましく、このための早期の買い入れが目的でもあります。結果としてハーフサイズの段ボール箱とはいえ、全てを合計すると10箱程となってしまうため空路を一人で運ぶ手荷物としては到底無理で、取り敢えずの持ち帰りは1,000株5箱分とし、前記クラスター株を含め残りの500株ほどは改めてCITES申請をしEMSでの発送となりました。このため殆どの大型株は2週間ほど遅れての到着となります。そのなかには胡蝶蘭原種も多数あります。

 台湾やタイからの胡蝶蘭原種名を付けた実生の、まがい物(異種間交配株)には損害も大きく、ほとほとうんざりしており最近は野生栽培株以外はごく一部を除いて買わないことにしています。こうした交雑種を野生栽培株に比べ安いからと言って幾らコレクションしても原種コレクターとか愛好家にはなれません。今回のPhal. philippinensisPhal. sanderianaはサイズは不揃いですが幸いそれぞれを20株得ることができました。このなかでPOS会長がPhal. sanderiana f. albaを自ら持ってこられ、セパル・ペタルが丸みのある形の良い花写真を示しながら興味があれば売っても良いとのことで、浜松で自家交配するための親株にと1株分けてもらいました。その他、大株としては1.5m程もある下垂したTrichoglottis latisepalaらしきクラスター株も会場で得ました。

 今後とも大株は積極的に集める予定ですが課題は価格です。日本に持ち帰り趣味家の手の届く範囲の価格にするには、そのサイズにまで育てた現地栽培者との交渉が全てです。フィリピンではローカルマーケット向け切花産業は別として、展示会ではラン園名は持っているもののラン専業農園は少なく、オーナーには兼業が多く見受けられます。これはネット検索しても分かることですが、Orchid Mallで検索すると、ラン生息大国でもあるフィリピンにも拘わらず、ラン農園は僅か3件しかヒットせず、そのなかでも専業はPurificacion Orchidだけです。結果として希少種や良い株を得るには、本業は別でランは趣味とするような現地栽培者との交渉が増えます。幸いフィリピン人は日本人を好感をもって受入れてくれるため交渉は互いに売買人としての緊張や駆け引き感がなく、同じ趣味家、栽培者として話し合いができ、それなりに楽しいものになっています。これから2週間をかけて1,000株を超える植え付けが始まります。


8月



Phalenopsis hieroglyphica

 下写真は全てPhal. hieroglyphicaです。本種はフィリピン固有種でPolillio島を始めLeyte、Mindanao島と広く分布し、標高500m以下の薄暗い場所に生息しており、その中で写真中央のアルバフォームは極めて希少のようです。一方、10年ほど前、フィリピンのあるラン園を訪問した時、右の写真のようなセパル・ペタルが緑色をした珍しい花を見つけ、これは何かときいたところ、Phal. hieroglyphicaの変種であるとの説明がありました。同行していた別のラン園の園主がそれを聞いて、私にこっそりと’cross’と耳打ちしました。いわゆる交配によって起こる花被片様態であって変種ではないというのです。

 非常に綺麗な緑色をしているので、変種であれば是非購入してみたいと考えていたので、えっ!と思いましたが、買い控えました。その後、フラスコ培養を始め、原種の交配を自分で行うようになって、Polychilos亜属のAmboinenses節(Phal. bellinaviolacea、またlueddemannianamariaeなど)に含まれる種は交配により、さく果を形成する段階で花被片(ペタルやセパル)は縮れて枯れるのではなく、そのまま残りながら色だけが緑色に変化することを知りました。右の写真は、Phal. hieroglyphica f. albaの自家交配10日後の状態で、この色合いはさく果が割れ、タネが落ちる直前までの6-7か月間続きます。albaの交配は、より緑の発色が際立っているように感じます。すなわち右写真は変種ではなく中央の花の交配色です。面白い性質と思います。


Phal. hieroglyphica 一般フォーム

Phal. hieroglyphica f. alba

Phal. hieroglyphica f. alba 交配後の色変化

近々マレーシアから入荷予定のランの一部

 来月はフィリピンからの持ち帰りの株の植え付けで多忙になることと、中旬は祭日が多く海外に出かけることが難しいため、マレーシア行は止め、直接マレーシアから成田に持ってきてもらうことになりました。50種程打診しているのですが、そのなかで画像として届いているspの一部を参考に掲載します。


Bulb. sp

Bulb. sp

Bulb. sp from PNG?

Den. sp

Bulb. sp from PNG

Jewel orchid sp

Vanda roeblingianaの開花

 Vanda roelingianaはフィリピンの標高1,500mに生息する中温系のVandaです。Vanda javieraeとほぼ同じ生息域であり且つ株形状が類似するため、これまでVanda javieraeを注文する度に本種が2-3割が混在し、一度も本種名で発注していないにもかかわらず本種を20株程在庫することになっています。orchidspecies.comを見ますと本種はマレー半島にも生息とありますが、これまでマレーシアで本種の生息は聞いたことがなく、J. Cootes氏の著書にも本種はフィリピン固有種とされています。開花時期はVanda javieraeは早春で、本種は夏です。下写真は所有するクラスター株です。現地の趣味家がもつ株はほとんどが大株で、1本立ちで大きなものはラン園で株分けされて間もない株か、実生株位です。下写真の株は4年前2茎に小さな新芽が出ていた株ですが、4年間で毎年1芽(脇芽)発生で成長しています。

 Vandaは多輪花性のためか、大株やクラスター株の派手さは1本立ちに比べてまるで違い、見ごたえがあります。時折現地ラン園からは趣味家がこの株を売りたいそうですと写真を送ってくれるのですが、とてつもない大株は良いのですが、根が庭?の大きな木に四方八方重なり合いながら張り巡っているのを画像で見ると、これを短く鋏で切られ剥がされてしまうのは、持ち帰っても順化が厄介で、自分で剥がすのであれば兎も角、これまでほとんどを断っています。

 間もなくフィリピンに出かけますが、今回Vanda merrilliiのクラスターが入手できるそうです。現地ラン園によると、今ではVanda merrillii var. rotoriiのよりも、黄色ベースに赤褐色の標準フォームのほうが遥かに入手難となり希少とのことです。市場に人気のある変種等が実生や株分け栽培株として多く出回り、一般種は市場性が低く、自然界から採取されることなく生き残れるかと思いきや、生息地のプランテーションによる伐採によって絶滅に瀕し、むしろ実生化がされてこなかった標準フォームの方が希少になってしまったようです。最近はデンドロビウムや胡蝶蘭なども良くそうした事例を聞きます。


Vanda roeblingiana

Bulbophyllum cornu-ovisの開花

 2011年、スマトラ島で発見された新種Bulb. cornu-ovisが開花しました。昨年12月の本歳月記で紹介し、そのほとんどを販売しました。その後3回のマレーシア訪問では再入荷がない状況です。花の形状が独特で、ラテラルセパルがビッグホーン羊の角のように後ろに反り曲がっていることからcornu(ツノ)とovis(羊)と命名されています。今回開花した株は大きいためと思われますが 2㎝程の花が13輪ほぼ同時開花です。下写真に示すように、バルボフィラムの中でも特異な花形状でセパルやペタルの黄色をベースに赤褐色の不規則な斑点が全体に入り、ドーサルセパルとペタルの先端からはそれぞれ一本の1.5㎝長の縮れた糸状の髭がそれぞれに上下方に向かって伸びています。蕊柱は黄色、リップは動物の爪のように細く曲がった黄白色で前面に突き出しています。匂いは早朝に微香があります。若い葉は下段右に示す独特の模様が入ります。

 新種であることから販売や栽培を含め確かな詳細情報がありません。本サイトでは杉皮板にミズゴケで押さえ取りつけています。中温と高温の両温室で栽培していますが、今回開花した株は中温系を栽培する温室内で、28℃以下16℃以上の環境です。胡蝶蘭、多くのバルボフィラム、Vandaが雑居する高温温室でも6月に蕾を付けた株は途中で萎れました。高温環境が原因ではなく、順化未完あるいは移植後の初花であったためと思われます。成長具合から標高500m - 1,000mの生息と思われます.。希少種の可能性もあるため自家交配を予定しています。


バルボフィラム価格改正

 バルボフィラムのこれまでの91種類から162種類に更新したことに伴い、追加分の価格設定と一部の価格改正を行いました。国内市場価格は高すぎて参考になりませんので、NT Orchidの本年度の東京ドームラン展での価格を参考に、その2割引きから半額の価格に設定しました。バルボフィラムブームが始まった10年程前の時代が再来することを期待して、その頃の価格に近づけることが目標です。デンドロビウムも間もなく価格更新を行います。

デンドロビウムメニューの追加

 デンドロビウムメニューのこれまでの150種から、在庫中および取り寄せを含め販売可能な品種を新たに50種追加しました。すべて販売実績のあるもののみとしました。バルボフィラムを含め、価格表も間もなく更新予定です。
 

Dendrobium doloissumbinii

 本種は2009年登録の新種で、ボルネオ島標高600m程に生息のCalcarifera節とされます。新種のためか本種名でネット検索しても該当する画像はorchidspecies.comに掲載の2014年の1-2枚しかなく、栽培情報も販売情報も見当たりません。昨年マレーシアラン園にて農園の片隅に20株ほどひっそりと吊るされ放置状態で、殆どの葉がすでに落ちた株を見つけました。枯れるのも時間の問題と思いつつも園主に尋ねたところ、本種名のSabahからの入荷株とのことでした。知らない品名であったので、珍しい品種なのかどうかを聞いたところ、初めて扱うものとの返答で、では20株の内、まだ生きながらえているもの全てをと10株程入手しました。花が小さい(下中央写真花の縦方向の長さ2㎝)ためか地元趣味家には人気が無かったのかも知れません。次回訪問した時は全て枯れて廃棄したそうで1株も残っていませんでした。

 持ち帰った株は、バスケットにミズゴケ80%クリプトモス20%の寄せ植えで胡蝶蘭原種と同じ、高温高湿な場所で栽培しています。現在はマレーシアラン園での瀕死の状態とは違い、新芽の発生を含め、見違えるようによく成長しています。2ヶ月ほど前に蕾が付いた株があり、その蕾は開花前に落ちてしまったのですが、今回は開花に至りました。花被片はこれからさらに開くかも知れません。開花時期は夏のようです。温室訪問された方が4株ほど買われていきました。

Dendrobium doloissumbinii

Phalaenopsis bellinaPhalaenopsis violaceaの違い

 2005年頃までは東京ドームラン展においてもPhal. bellinaPhal. violaceaの原種を販売ブースで見ることが出来たのですが、その後セルレアやアルバを始め人工改良種が市場の大半を占めるようになり、同時にPhal. bellinaviolaceaとの交配も盛んに行われるようになって、この両者の区別が出来なくなってきました。今日ではこれらの野生種を市場で求めることはほとんど不可能で、現地マレーシアにおいても野生種の方が、青や赤の濃色タイプよりも入手難であると共に、皮肉なことに、高価格になってしまいました。本サイトではしばしば実生株と野生栽培株のサイズの違いを指摘していますが、今回はE. A. Christenson著書”Phalaenopsis A Monograph"から花形状の違いをとりあげてみました。

 著書では、その違いは2つあり、一つは香りで、Phal. bellinaにはPhal. violaceaにはないレモンの香りに似た成分が含まれている(bellina: geraniol64% + linalool32%, violacea: elemicin55% + cinnamyl alcohol27%) 点と、花形状においてそれぞれのセパルの頂点を結ぶ3角形がPhal. bellinaは2等辺3角形に対してPhal. violaceaはほぼ正3角形である点とされます。香りは野生種をそれぞれ同時に比較してみるとその違いがよく分かりますが、交雑種や改良種の多い今日では難しいかも知れません。

 下写真はこの関係を示す画像です。上段がPhal. violacea、中段はPhal. bellinaです。問題は下段でそれらは果たして2等辺なのか正3角形なのか判断が難しいところです。Phal. bellina Ponkanを始め、改良種は、中段の野生種と比較してセパル・ペタルが丸みを帯び、正3角形に近づいています。Phal. bellinaについての一つの判断としてはより野生に近いか遠いかは、このセパル頂点間を結ぶ3角形状で判断ができます。Phal. violaceaについては野生種にIndigo blueや濃赤色は存在しないので容易に判断ができますし、まず野生株は今日市場では見られないと思います。


Phal. violacea wild Sumatra

Phal. violacea mentawai wild

Phal. bellina wild Sabah

Phal. bellina f. alba wild

Phal. bellina 改良種

Phal. bellina f. alba Seedling

Dendrobium lambiiの花フォーム

 本種はボルネオ島の高地生息種で花色が茶色、柿色、黄緑色と多様で、ほぼ通年で開花しています。昨年入手してから当初、こうした色違いは個体差と思っていました。しかし本サイトでは、複数の株が同時期に開花する色はほぼ同じ色で、秋から冬は茶色、春は柿色、夏に向かって緑色と変化する傾向が見られます。本種はクールから中温系であるため、温室内の温度は通年で大きな変化を与えておらず、夜間の温度は16℃、昼間は22-3℃で、冬季に比べて夏の温度は昼間3-4℃高くなる程度です。果たしてこの微小な温度差が色の変化をもたらしているのか相当の株数を栽培しているため、これからはそれぞれのバルブ毎に開花した色にラベルをつけて、個体差なのか、環境変化によるものなのかを調べてみようと考えています。環境温度の変化によって花の色が変化するのはクール系の青色に見られ、より低温でより青味が増す代表的なデンドロビウムはDen. victoria reginaeで、他属にはAppendicula malindangensis,やCleisocentronにもその傾向があるように思います。

Den. lambii

Coelogyne odoardi

 この猛暑の中、開花中のセロジネはCoel. odoardi、Coel. usitana、Coel. marmorataで、特にCoel. usitanaはほとんどの株(温室には15株程栽培)で開花中です。一方、Coel. odoardiは明るい茶色の花被片と、焦げ茶のベースに白いストライプが入った個性あるフォームで、こちらもこの時期に開花が見られます。2-3m先からでも香りがあり、筆者は、ほのかな海苔巻きの匂いに感じます。ボルネオ島1,000m以下の林冠に生息し、高温タイプであることで栽培は容易です。下写真の株は入手して杉皮板に取り付けてから半年の移植後の初花となります。花は新しく発生した若いバルブ(まだ若く、丸みのある固いバルブを形成する前の段階)から出た長く下垂する花茎に、通常5-15輪程付くため、水平置きのポット植えは適しません。ヘゴ板かバスケットの斜め吊りが最も良い栽培法となります。根の湿度が長く保てる点で杉皮板よりもヘゴ板やバスケットの方が多輪花になります。昨年会員から開花のメールを頂いたのが9月でしたので、開花はorchidspecies.comでは春とされていますが、国内での開花時期は夏のようです。

 これまで本種は希少?なセロジネとしてかなり高価であったため、1昨年、当時の市場価格の1/3程の3,000円としました。マレーシアに訪問するラン園では本種がコンスタントに入荷している状況と、海外の会員の情報を合わせてみると、入手ルートは確立されているように感じます。

Coel. odoardi

Dendrobium sp

 Den. oreodoxaと共に入荷したDen. spが開花しました。小さな白い花が咲く、とだけの情報で種名不詳とのことでした。Den. oreodoxaはニューギニア標高2,000mの高地生息種であることから、このDen. spも同じ地域からではないかとクール温室で、3号素焼き鉢とミズゴケで栽培しました。下写真右に示すように茎(バルブ)は、基部4節約7㎝が扁平で、その先からさらに15㎝程細長く伸びています。右写真中央に白い点が見えますが、これが蕾で最初に蕾を見つけたときは2mmに満たないサイズであったため、世界最小2mmのエクアドルのランと並ぶかと思いましたが、開花し2日後には左写真のラテラルセパルの左右スパン(横幅)は4mm弱でした。それでもDen. aloifoliumより小さく、デンドロビウム属としてはこれよりも小さな花が果たして存在するのかどうか調べているところです。
(後記: 会員からの情報で本種はDendrobium crumenata節のDen. lamelluliferumに類似しているとのことです。Den. lamelluliferumはボルネオ島キナバル山1,200mから2,300mに生息する高地種です。生息地を確認中ですが、この方面からのクアラルンプールへの入荷種も多いため、ラン園にてNG種に混在した可能性が考えられます。)


 6月末に10株マレーシア訪問時に持ち帰り未公表でしたが、浜松温室に訪問された方に3,000円としたところ、すでに7株が販売済みとなってしまいました。ネットでの国内情報は見当たりません。

Dendrobium papilio

 今年の東京ドームラン展で本種の展示販売を行いました。細い茎(疑似バルブ)に比べ、その花の大きさのアンバランスに驚かれた方が多く、多数の注文を受けました。現在10株程を交配親として栽培しています。2月からフィリピンラン園の2次および3次ラン園に注文を依頼しているのですが、入手は困難なようで現在に至るまで入荷したとの知らせはありません。本種はLuzon島のAlbay,Benguet, Nueva Vizcaya州、さらにミンダナオ島Surigaoなど比較的広範囲に生息しており、J. Cootes氏の著書にも趣味家のコレクションに加えるに値する美しい種であると述べられているように、入手難でも高価な種でもありません。

 一方、本種は地域によって花サイズが全く異なるようで、今回の展示株がドームを訪れた趣味家やラン園経営者までが興味を持つほどの大型の花フォームは生息する地域がごく一部に限定されるそうです。こうした背景から 購入に当たっては、2年前に入手した株と同じ生息域の野生栽培株と条件ををつけ注文しており、これが入手難の原因となっているようです。しかしこの条件を外せば十中八九小さな花になることは間違いなく、一般市場で大輪花(左右ペタル間スパン10㎝以上)を求める場合は産地を確認した方が良いかも知れません。とは言え、どこがその産地かは海外からの買い付けによる乱獲を避けるため明かせませんが。もう一つの注意点は本種とDen. ramosiiとは株(バルブ)形状が似て細く、また同じ生息域のようで、花の無いバルブだけの株では区別が困難です。このため本種は花確認済みを得ることも必要です。

 間もなく訪れるフィリピンで、その地域からの株が得られなければ本サイトとしては実生に期待するしかありません。本種は1,200mの高地生息種のため中温栽培環境が必要で、低地系のデンドロビウムと同じ栽培では日本の夏を越すのは困難です。フィリピンでもマニラ市の高温下では育たないそうです。夏季の昼間と夜間の最高平均温度はそれぞれ30℃および20℃以下とする必要があります。その温度設定ができないとバルブがやがて枯れ始め、株は徐々に小さくなり、根がほとんど無くなり黒く変色した根茎を残すのみとなります。こうなると高芽が出始めますが、高温過ぎることが根本原因であるため、同じ環境では高芽を栽培しても上手くは行きません。東京以北であれば、山野草鉢のような気化熱で5-10℃程、根の温度を下げられる鉢に植え付け、屋外の風通しの良い日陰となる涼しい場所に置くことで、何とか凌ぐことができると思います。夜の温度を如何に下げるか、また夜の湿度を如何に高くするか、これが中温系(標高1,000m - 2,000m生息)全てのランに共通する夏3ヶ月間の課題です。


Den. papilio

猛暑下のSpatulata節

 下写真は、14日撮影のデンドロビウム spatulata節の栽培の様子で、画像の株は全てSpatulata節です。この節は高地生息種Den. militare (Den. brevimentum) など一部を除いて、そのほとんどが高温環境の栽培適種であり、むしろ温室内が35℃にもなるこの時期が開花株は少ないものの株自身の成長は最も良く、春から初夏に発生した新芽を伸ばしています。画像で葉がやや黄緑に見える株が新芽です。この時期、こうした新芽の成長が芳しくないと果たしてその年の冬が越せるかどうか、植え込み材、鉢、かん水などに問題がある可能性が高くなります。Spatulata節の植え込み材は炭が最も良いのですが、こうしたランに適用できる炭は国内入手が出来ないため、当サイトでは全てクリプトモス100%にスリット入りプラスチック深鉢に植え付けています。


上写真内の株およびこの画像以外の株を合わせて、本サイトの温室で栽培しているSpatulata節は以下の36種、総数は約350株となります。
Den. albertesii (New Guinea)
Den. antennatum (New Guinea)
Den. archipelagense (Bidmark)
Den. bicaudatum (Mollucas)
Den. busuangense
(philippines)
Den. calophyllum (Moluccas)
Den. canaliculatum (New Guinea)
Den. capra (Java)
Den. carronii (New Guinea)
Den. cochlioides green (New Guinea)
Den. discolor dark (Australia)
Den. hamiferum (New Guinea)
Den. johannis (New Guinea)
Den. lasianthera (New Guinea)
Den. laxiflorum (Moluccas)
Den. leporinum (Moluccas)
Den. lineale (New Guinea)
Den. lineale blue (New Guinea)
Den. militare (Moluccas)
Den. mirbelianum (Australia)
Den. mussauense (New Guinea)
Den. nindii (New Guinea)
Den. pseudoconanthum (Sulawesi)
Den. racieanum (New Guinea)
Den. schulleri (Indonesia)
Den. stratiotes (New Guinea)
Den. strebloceras (Malaysian archipelago)
Den. strepsiceros white(New Guinea)
Den. sutiknoi (New Guinea)
Den. sylvanum(Papua New Guinea)
Den. sylvanum flaver (Papua New Guinea)
Den. tangerinun (New Guinea)
Den. taurinum (Moluccas)
Den. trilamellatum (New Guinea)
Den. violaceoflavens (New Guinea)
Den. wulaiense (New Guinea)


猛暑下のVanda

 13,14日撮影のVandaです。下写真でVanda ustiiVanda jennaeは中温での栽培ですが、それ以外はこのところの猛暑のため34℃前後の環境に置かれています。それでも葉や根はよく伸びています。本サイトでの栽培種は大株(葉数が10枚を超える)やクラスター株が多く、特にVanda sanderianaはフィリピンPOS主催の展示会やミンダナオ島ワリンワリン祭の入賞花が大半で2009年からの収集です。一本立ちの通常サイズ(葉数8前後)の株は最近市場に登場したVanda floresensisVanda lombokensisなど僅かです。下写真以外ではVanda javierae野生栽培株を、脇芽から株分けした株を含めると現在100株以上栽培しています。今年も、夏のフィリピンラン展でのVanda sanderiana入賞花を現地ラン園に入手依頼しました。果たして得られるかどうか、間もなく訪問です。


Vanda sanderiana  約60株。 半数以上が本場フィリピンラン展での入賞花

Vanda dearei 野生株

Vanda luzonica クラスター大株 高さ1.5m - 2m (根を除く)

Vanda ustii 高さ1.5m (奥) クラスター大株

Vanda lombokensis バスケットサイズ22.5㎝

Vanda lombokensis #2

Vanda floresensis

Vanda foetida 大株

Vanda jennae

謎の多いデンドロビウム Distichophyllum節

 Distichophyllum節と言われても、さてどんなデンドロビウムが含まれるのか、個々の品種名は知っていても分類学的に似た者同士をグループ化した節名まで知る人は少ないのではと思います。しかし、似た者同士であるということは、それぞれが遺伝学的に近縁関係にあるわけですから、姿だけでなく性格も似ていることになり、見方を変えれば栽培方法、例えば植え込みやかん水方法などが互いに共通することにもなります。

 新種やspを入手したとき、ネット等で探しても栽培に役に立つ情報が容易に得られないことがしばしば起こります。こうした場合、花の写真があれば、花の形状に似た画像を検索し、まずその種が含まれる可能性の高い節を割り出し、属名とこの節名から画像をさらに検索します。この結果、同じような形状の花の画像が多数得られます。往々にしてこうした中に探していた形状と一致する花を見つけることができます。ピッタリした画像が無くても、類似するフォームがあれば、その種の栽培法を調べ参考にすることができます。同一節内の花形状の似た種であれば異なる点は生息環境くらいであり、その中でも栽培に影響するのは標高で、栽培温度の違いとなります。他には輝度ですが、基本的に中輝度とすれば大同小異で栽培には問題となりません。すなわち暑がりか寒がりかに注意すれば、植え込み材、植え込み(取り付け)方法、かん水などはほとんどが適用できることになります。

 さてDistichophyllum節に戻りますが、昨年末にマレーシアにてDen. lambii whiteタイプとして10株程入手した株が開花しました。ところが実際開花した花はセパル・ペタルおよびリップも白色であり、本サイトのデンドロビウムページにもあるDen. moquetteanumのアルバフォームでした。Den. lambiiは昨年10月に30株程入手しており、セパル、ペタルが茶色から緑色と多彩で、中には白味の強い花もあり、新たなwhiteフォームではないかと入手したのですが別種でした。Den. lambiiDen. moquetteanumもボルネオ島生息種で同一サプライヤーからの発送であることを考えると両者は同じ場所に生息しているのかも知れません。

 現在デンドロビウムページの改版を進めており、約50種を追加して今月中旬に更新予定で、こうした作業の中で、公開されている情報が曖昧なため頭を悩ますのがDistichophyllum節の下記のそれぞれの種です。この節には代表種としてDen. uniflorumがあり、またDen. lambiiDen. kenepaienseなども含まれます。これら品種は花形状にそれぞれ特徴があり、分類は容易ですが、下記のそれぞれは似て非なる形状であり、同定が大変です。
  1. Den. austrocaledonicum
  2. Den. ellipsophyllum
  3. Den. moquetteanum
  4. Den. uniflorum alba (sp)
  5. Den. sp (歳月記1月記載)
 上記の内、1および2は所有していませんので、3-5までの3種の分類が課題となります。それぞれの花画像を下に示します。本サイトでは、花形状だけでなく葉や茎(疑似バルブ)形状も同定の対象としています。その結果、3種はそれぞれが別種とみなし下記の名称をつけました。花フォームで見れば、左画像のリップ側弁は幅広の円形で、中央画像は細長く長方形、右は中央に比べさらに細長で、また蕊柱に茶色のラインが入っている点でそれぞれ異なります。中段はそれぞれの新芽の画像です。下段は成長した疑似バルブを示しており、葉形状は、左種は葉は柔らかく成長した葉は反って左右上向きに展開しているのに対して、中央は葉間隔が狭く、葉は横向きに並んで展開しています。右種は葉間隔は左種に比べやや狭く、しかし葉自身の形状は反りが無く細長く披針形です。こうした形態的特徴から本サイトではこれら3フォームを別種とした訳です。
 

Den. uniflorum alba

Den. monquetteanum

Den. sp

 一方、良く知られたDen. uniflorumの花と株は下写真となります。注目する点は右画像の方で、この葉と疑似バルブの形態は上の写真の左種と類似しており、中央や右の形状とは異なります。このため本サイトでは、写真上の左画像種をDen. uniflorum albaとしました。また葉形状が一致する中央種をDen. moquetteanum whiteフォームとし、右種は該当種なしとしてspとしました。

Den. uniflorum

  そうした中、デンドロビウムのページの更新作業で再度これらの同定調査のためorchdspecies.comサイトを見ていたところ混乱が生じました。まずこのサイトでDen. uniflorumを検索したところ、ページ内にAnother Flower、Plant, Another Color?の3つのリンクがあり、Another Flowerではリップ中央の本種の特徴である3本の茶のラインのないアルバタイプの画像が掲載されています。この画像ではセパル・ペタルは白色ですがリップは薄黄緑です。本種は開花末期になるとリップの色が白から黄変する性質があり、この画像はその可能性があるように思います。 問題は次のPlantのリンクに掲載された株の画像で、葉の形状および葉の配列が上写真が示す本サイトが所有するボルネオ島からのDen. uniflorumの株とは著しく異なります。次にAnother Color?のリンク画像を見ると、上写真の右種spに類似した花が掲載されており、リップ側弁の形状はAnother Flowerやuniflorumとも異なります。なぜこれらを同じDen. uniflorumと見做すのかが理解できません。もしこれらが同一種とするのであれば、花フォームだけでなく葉や茎を含めた全体形態も示さなければなりませんし、あるいはDNA解析で同定する必要があります。

  次に類似種との比較としてDen. uniflorumのページにはDen. austrocaledonicumDen. ellipsophyllumの画像も掲載されています。そこで同じorchidspecies.comのDen. austrocaledonicumを検索すると、リップがフラットな薄黄緑の花が掲載されています。リップがフラットに開いているか、逆V字かで別種とするのは間違いで、Den. uniflorumには良く見られる一過性の形態です。すなわちDen. austrocaledonicumにある花はDen. uniflorumでなく別種である形態学的な特徴はありません。Den. austrocaledonicumページ内のPlant and Flowersのリンク先には1株に2輪同時開花した画像があり、一方のリップ色が薄黄緑で、他方はDen. uniflorumと同じ黄緑で、さらにリップが平坦に開いているものと逆V字に曲がっている2つのタイプが同一の株に開花していることからも明らかです。また花および茎の形態はボルネオ島産Den. uniflorumそのものです。このような花フォーム画像で、それらがDen. uniflorumとは別種であるとするのは理解に苦しみます。

 次にDen. ellipsophyllumです。同じくorchidspecies.comでDen. ellipsophyllumを検索すると、リップがサーモンピンク色の上右写真のsp種に似た花画像がでます。異なる点は蕊柱に本サイトのspにはリップ中央弁に入る茶色のラインが入っているのに対して、Den. ellipsophyllumとされる花の蕊柱は無地であることと、このページにあるInflorescenseのリンク先の株画像を見ると、葉形状がやや長楕円形であることです。一方、本サイトの上写真中央のDen. moquetteanumを画像検索すると、Den. ellipsophyllumと同じような画像が現れます。とは言ってもDen. moquetteanumDen. ellipsophyllumがシノニム(呼び名が異なるが同種)の関係にあるとはされていません。

  Den. uniflorumのような、タイ、ベトナム、マレーシア、スマトラ島、ボルネオ島、スラウェシ島、フィリピンと広域に分布する種を論じる場合、遺伝子分析ではなく形態学的な視点からのみ種レベルの違いを論じることは同定を誤る可能性が高く、個体差、地域差であるフォームの違い、変種あるいは亜種であるべき種が、あたかも別種とされてしまう危険性があります。趣味家が新種とかsp種を得たとき、形態学的に種を判断する一つの有力な手段は、排他的な特定の地域、例えばボルネオ島内の株について、花フォームだけでなく、葉、疑似バルブ、根、カルス、さく果等の形態を比較し、それらが基本種と総合的に異なる場合は似た者同士であっても別種と判断しても良いと思われますが、同一節内の種を、花フォームだけで別名を付けることは避けるべきです。

 本サイトで取り上げた上写真のそれぞれの種は全てボルネオ島生息株で、花と株形態が異なる点で、別種の可能性が高いと思いますが、多くの情報の中には花フォームだけの、裏付け不十分な実態も垣間見られます。こうした議論は相互に疑問点を指摘しながら精度の高い情報に改めていくことが必要です。

猛暑の中でのPhalaenopsis javanicaおよびinscriptiosinensisの順化

 6月末のマレーシア訪問で入手したPhal. javanicaPhal. inscriptiosinensisを6月30日に植え付けてから凡そ1か月半が経ちます。猛暑が続くこの時期の順化栽培は、あまり好ましくないため、かん水には細心の注意を払っています。下写真の上段はPhal. javanica、下段はPhal. inscriptiosinensisで、左が7月末、右がその2週間後の現在の画像です。それぞれ植え付け時点では、新芽は無いか微小なものでしたが、順調に成長を続けており、左右の画像からは僅か2週間の違いとは言え成長の具合がよく分かります。猛暑?と言わんばかりです。取り付けは前者がヘゴ板、後者は杉皮板で、完全に根もとが埋まるようにかなりの量のミズゴケで覆っています。これは植え付け時ほとんど生きた根の無い状態であったため、根張り空間を広く取ることと共に、順化中は根の周辺が乾くことがないようにするための対応です。現在は根はミズゴケで見えませんが、新芽の成長具合からは根も内部で発生していると思われます。やがて根がミズゴケの上にも伸長し始めれば、再びミズゴケで覆う予定です。施肥は植え付け直後に活性剤(本サイトではフジ園芸のバイタリックV)のみを、葉の伸長が見られてからは液肥と活性剤を合わせた規定希釈溶液を1週間に一度与えています。順化期間中は液肥が有効で、置き肥は適しません。株の成長(葉や根の伸長)が観測される限り、冬季・夏季にかかわらず施肥は必要です。

 今回の順化栽培では両者合わせて50株のうち植え付けから1週間程で、1割程の株で葉が落ち数㎝の葉を残すのみとなり、一方枯れた株は1株でした。胡蝶蘭野生栽培株としてはまずまずの歩留まりです。春や秋であれば、写真の状態ともなれば問題なく出荷ができるのですが、この猛暑では9月末まで待った方が良いと考えています。特にPhal. javanicaの野生栽培株の入手は現在極めて困難なため環境変化による病害リスクを避けるためです。


Phal. javanica 7月24日撮影

Phal. javanica8月6日撮影

Phal. inscriptiosinensis 7月24日撮影

Phal. inscriptiosinensis 8月8日撮影

猛暑の中でのデンドロビウムの成長

 浜松ではこのところ連日32℃の猛暑です。来週は35℃の日も予想されています。外気温でこの温度ですから、天窓全開で、70%遮光の寒冷紗を終日覆っても、晴れてくると午前9時ごろから35℃を越え始めてしまいます。これを32℃程度に下げるには換気扇と日中2-3回の散水が必要となっています。一方、クール温室は90%を超える遮光で昼間でも薄暗く、2台のエアコンを用い日中22℃を超えないようにしています。

 こうした環境において、胡蝶蘭やデンドロビウム原種のほぼ全ての野生栽培株は、春に発生した新芽を盛んに伸ばしており、猛暑故に成長が止まる様子は見られません。デンドロビウムの中で例えばDen. aurantiflammeumは、胡蝶蘭原種の置かれた場所でも最も高温となる場所に吊り下げられており、散水をしてもすぐに日中は35℃程になってしまいます。夜間は25℃以下にはなりません。一方、中温系のDen. tobaenseは昼間28-30℃、夜間は16℃としています。これらの株の8月6日時点での状態が下写真です。上段から3段は、Den. tobaenseの6株の画像で株基を写したものです。中温系の環境において良く新芽を出し、成長しています。これらは3段右のヘゴ板に取り付けられた株を除いて、素焼き鉢にミズゴケとクリプトモスそれぞれ50%配合の植え込みです。Formosae節にヘゴ板を用いる植え込み(取り付け)方法は、マレーシア趣味家の手法を真似たもので、今年春から10株程を試行しています。現地でDen. tobaense野生株の根を見ると、その多くが蛍光灯のチューブ程の太さの木の枝に活着していたと思われる円弧上の湾曲跡があり、これに近い環境を再現する試みです。

 一方で、Den. tobaenseは栽培難易度が中 - 上級と言われているものの、本サイトでは素焼き鉢とミズゴケ・クリプトモスミックスにしてからは順調です。カトレアや胡蝶蘭交配種の栽培で言われる、”表面が乾いてから2-3日待って鉢内部の植え込み材も完全に乾いてから、たっぷりの水を与える”などと言う理解不能な栽培は本サイトではしておりません。こうした乾燥とぐしょ濡れ状態を交互に長い時間繰り返す栽培を本サイトでは虐待栽培と呼んでいます。本サイトでは表面が乾くか乾かない内に適度な水を与え、常に湿っている状態となるように管理しています。栽培のポイントは温室内気温が15℃以上ある場合は決して植え込み材を乾燥させないことです。素焼き鉢とクリプトモスミックスを利用するのは、ミズゴケだけでは一時的とは言え、ぐしょ濡れ状態となるのを避け、謂わば湿った状態を保つことが出来るからです。よって気相が十分とれ、ある程度の湿度を保てる材料であればクリプトモスでなくても良いと思います。

 4及び5段はDen. aurantiflammeumの現在の新芽発生状態を示したもので、日中4時間ほど35℃の高温が続く環境にもかかわらず、こちらも多数の新芽が同時に発生し成長しています。デンドロビウムは根が悪くなると高芽を発生させる性質があるのですが、こうした茎の付け根から新芽がでることは鉢内の根も良く発達していることを示しており、Den. aurantiflammeumは木製バスケットに100%ミズゴケで吊るすと相性が良いようです。こちらもミズゴケは常に湿った状態を保ち、1日たりとも乾燥させないようにしています。


Den. tobaense #1

Den. tobaense #2

Den. tobaense #3

Den. tobaense #4

Den. tobaense #5

Den. tobaense #6

Den. aurantiflammeum #1

Den. aurantiflammeum #2

Den. aurantiflammeum #3

Den. aurantiflammeum #4

Phalaenopsis equestris

 胡蝶蘭の中でPhal. equestrisは、多様なリップカラーを持つ小型種を代表する原種です。フィリピン固有種(台湾南部にも生息とされるがマーケット上では未確認)で、Calayan諸島からミンダナオ島に至るフィリピン全土に分布しています。そのなかでルソン島北西部に生息する花全体が薄紅単一色のPhal. equestris var, roseaが唯一変種とされ、その他alba, aurea, cyanochilaがフォームとして登録されています。基本種はリップが淡いピンクから赤紫色のAppari タイプです。

 本種の特徴はリップ中央弁が青、赤、黄、紫、橙など、本サイトの”胡蝶蘭原種のフォーム”のページに見られるように多様なことです。しかしこうした色をもつ株は、前記の登録フォームを除いて、そのほとんどが台湾での改良種で、自然界で容易に見られるものではありません。数年前にフィリピンの2次サプライヤーを訪問した時、1,000株以上の野生Phal. equestrisを見ましたが、リップの色は産地が違っていても似たり寄ったりで、市場に多数見られる青や赤などは無く、Appari タイプばかりでした。その園主の話では、これまでの10年間で野生のalbaを一度だけ得たが、青色は一度もないとのことでした。

 一方、本種の花茎の色は生息地により異なり、ミンダナオ島のPhal. equestrisは茶褐色でルソン島は緑色です。ミンダナオ島生息種は、状態が良いと1輪づつではあるものの半年以上開花を続け、1m近く伸長する性質があります。おそらくほとんどの世界中の胡蝶蘭趣味家でもこれほど長い本種の花茎を見たことは無いと思われます。一つの理由は現在市場にあるPhal. equestrisのほぼ全てが各種カラーフォームをミックス交配した実生であるためです。今日、野生株を得るには、WebsiteやFacebookすら公開していない現地2次業者以外では無理で、ネットカタログのある現地業者のほとんどは台湾から輸入した実生です。これまで入手したうち、花茎が茶褐色となる種はミンダナオ島、レイテ島、サマール島、Polillo島に見られ、Luzon島生息種は全て緑色となっています。polillo島は茶褐色と緑の花茎種とが混在しています。

 そうした中、2009年ワリンワリン祭に合わせミンダナオ島ダバオ市の原種専門ラン園を訪れたとき、木片に取り付け吊り下げられた野生株の中にリップ先端部が青(あるいは青紫)で、リップ基部に向かって金色に変化する2色からなる株を3株ほど偶然に見つけ入手しました。それが下写真です。下写真は中央弁先端が青紫で基部に向かって金色に変化しています。その後、毎年数回フィリピンを訪れるのですが同じような色合いをもつ野生種は一度も見たことがありません。POS(Philippines Orchid Society)ラン展等で尋ねても、交配種であれば似たものがあるが、原種としてはどこもこれまで扱ったことがないそうです。こうした背景から訪問の度にミンダナオ島生息種を求めているのですが入手難で、2009年以降8年経った今も一度も得られていません。


 先端の青味は環境によって若干変化し、青色から写真のような青紫となります。この先端部が青色で基部が金色、且つセパル・ペタルが白色のタイプをcyanochilaフォーム(O. Gruss 2001)と呼ぶそうです。しかしJ. Cootes氏の著書”Philippine Native Orchid Species"によると、cyanochilaの生息地詳細は不明あるいは未公開(fma. cyanochila has been found in the Philippines, without the exact locality having been revealed)とのことです。生息地が分からないということは、ラン園にあった生息地不明の株を元に新フォームと分類したのか、乱獲を恐れて未公開としたのかは分かりませんが、いずれにしても野生種としては極めて希少種と思われます。

 上写真のセパルペタルには薄紫が僅かに入りますが、上記著書に記載されたcyanochilaの画像にある花や、ネットでPhalaenopsis equestris cyanochilaで検索してヒットする花画像(リップ先端が青く、基部が淡い橙色)よりは、本サイトの花の色合いの方がより美しく感じます。一方、昨年のPOS展示会に出店していたラン園で初めて2色フォーム柄のPhal. equestrisを何株か見ましたが、いずれも中途半端な色合いで、おそらく台湾あるいはタイでつくられた青リップのcoeruleaと黄色リップのaureaとの交配株と思われます。本サイトでは現在、野生種の入手は困難とみて、上写真の株の自家交配を進めておりフラスコ苗を育種中です。下写真のフラスコは本種のカルス増殖様態で、これらはまもなく培地の異なるフラスコに移植して芽を出させます。こうしたフィリピン希少種は今後積極的にフラスコ培養を行い、しかるべき保存組織がフィリピンに発足した時には培養した苗を寄贈したいと考えています。そのため特に希少種は交雑化を避けるため、自家交配か花茎培養以外は行わない方針です。


Phal. equestris blue/gold colors, Callus proliferation in Flask

Dendrobium stuposa節の1考察

 デンドロビウムStuposa節のDendrobium stuposum、別名Dendrobium sphegidiglossumはインド、中国南部、ブータン、タイ、ミャンマー、マレーシア、インドネシア、フィリピン(近年登録)と東南アジアのほぼ全域の、低地(高温)から標高2,500m(低温)まで広く分布しています。これほどの広域性と適温性をもつランは極めて稀です。しかし、不思議なことに、こうした広域生息種であれば、市場にはごく普通に流通していると思われますが、ネットで本種名と価格の2文字で検索してもヒットするのはsulcatumという別種で、市場情報は全く見当りません。1昨年Sumatra産デンドロビウムspとして4種類を同時にマレーシアで入手した中から下写真に示す3種がこれまでに開花しました。写真上段がそれらの花で、下段はそれぞれの株画像です。リップを除けば花サイズや花形状はほぼ同じです。これらの株は入手してから2年近く経つため今月植え替えを行い、バスケットに100%ミズゴケの寄せ植えとしました。

 写真左及び中央の花は、Den. stuposumの特徴であるリップの中央から先端にかけて縁に細毛が見られます。一方、右写真は花サイズおよび株形状はDen. stuposumに類似するもののリップに細毛がなく別種と思われます。またDen. stuposumのリップが黄色やオレンジ色は知られていいるものの、写真中央の赤いフォームの存在が確認できません。不思議なのはこの赤リップ種は、株画像では40㎝の高さですが、長くなるとやがて下垂し2m程のクラスターにも成長します。結論からするとDen. stuposumは左の株のみで中央もまた別種の可能性があり、疑似バルブを詳細に見ると3種3様の形態が窺われます。


  面白いことに、4種のsp株を入手する際、リップがオレンジ、イエロー、レッドであるとの説明と、さらにサプライヤーからの写真とされるブルーの花画像を園主から見せてもらいました。それが下写真です。4種の内の一つがこの花と言うのです。この画像を始めて見たとき、大きな花ではなさそうですがブルーフォームには驚きでした。しかしこれまで開花した花は上段の3種のそれぞれであって、最も興味のあるブルーの花は開花していません。とすると下右写真の疑似バルブ基が細く、中央部が膨らんでいるDen. amboinenseのようなバルブ形状の、未だ開花していない残る1種にその可能性があります。


 問題は、一つの珍しい花画像を見せつけて、それとは異なる株を売る詐欺まがいの行為をインドネシアサプライヤーから1度ならず数度経験しており、半信半疑で開花を待っているところです。上写真の花形状も何か花弁を人工的に細工したように見え、ラテラルセパルはどこにあるのか、何か怪しげな形状です。4種の内、1種だけ花写真を敢えて添付したのも意味有りげです。ミスラベルの場合、返金は当然との考えは微塵もない世界では、仮に必死でこうした花を細工したのだと思うと騙されてみるのもビジネスの内で、前にも述べたように、三つに一つの本物があれば良しとしなければ新種とかspといった種は文化の違う人たちからの入手は困難です。こうした状況から一つの対策として、sp種の花画像を添付することができる携帯を持っているのであれば、生鮮食品にみられる生産者紹介のように、販売品への自信と責任を感じてもらうため、一緒に花や株を持った自分の顔も送るように要求しようかと思っているところです。

Dendrobium (Cadetia) collina

 キャメロンハイランドにて入手したニューギニアIrian Jaya生息の本種が開花しました。近年Dendrobium属に組み入れられたようでCadetia属でも検索ができます。葉元に花が付くのは南米のPleurothallisに似ています。中- 高温タイプで低輝度で栽培しています。国内の市場取引は、ネット検索では今のところ見当たりません。

Den. collina


7月

歳月記のページ構成の変更

 7月から3ヶ月間毎に一纏めのページとしました。ページトップにある表題「歳月記」の下にある青色の1-3月、4-6月、7-9月等をクリックすることで、その月内でのページがご覧になれます。ページの内容量が多くなり、PCへのロード時間を軽減するための変更です。今月の開花種のページも追って分割する予定です。


バルボフィラムのページ更新

 バルボフィラムのページをこれまでの91種類から162種類に更新しました。2014年度から2年半で新しく取り扱った種を追加した形となります。sp種は花が分かっているものだけを10種今回掲載していますが、これ以外に未開花のsp株は現在20種ほどあり、これらは開花が得られれば逐次掲載します。価格リストの更新は8月中旬までに行います。そのほとんどは販売(在庫品あるいは取り寄せ)可能ですので、見積り等については価格リスト更新までの期間はメールにてお問い合わせください。花画像ではなく株のみの画像もあります。株の写真は全て温室内撮影です。これらは種名は分っているものの未開花種で、開花確認後に画像を掲載します。その間、花形状についてはorchidspecies.comなどサイト検索で確認願います。栽培方法等の情報は株写真と温度で凡そ見当が付けられると思いますが、今後情報を随時更新していく予定です。

 現在はデンドロビウムの更新ページの作成に取り組んでおり8月初旬までに、またその後は南米ランへと移ります。南米ランはカトレアやラリアを除いても凡そ500種を在庫しており、2年間の温室栽培での写真蓄積と入手先ラン園より許諾を得た花画像などの整理が膨大な作業となっているため、南米ランは10月頃のページ立ち上げを目指しています。
 


Phalaenopsis violacea f. punctata formとPhalaenopsis modesta f. albaの交配

 Phal. violaceaPhal. bellinaにはセパル、ペタルがスポットあるいはドットのフォームがしばしば見られます。時に一過性のフォームであったり、開花毎にドットの密度や大きさにばらつきが出ることもあります。下写真の上段はPhal. violacea野生株のpunctataフォームで、3年間毎回のフォームが変わらないことから遺伝子的に継承する可能性があるのではと、自家交配をしました。上段右はそのさく果です。花サイズに比べてさく果は非常に大きくなります。一方、下段はPhal. modesta野生株のalbaで、こちらも極めて希少性が高く、自家交配を数年試みてきたのですが、これまでタネを付けることはありませんでした。今回受粉が行われたようでさく果の形成が始まりつつあります。4か月後の採り撒きまで胚のあるタネができるかどうかです。いずれの種も一般種などでの試作ではこれまで自家交配株のフラスコ苗を得ており、培地成分や温度管理は問題がないと思われることから2年後には実生を出荷したいと考えています。

Phal. violacea f. punctata form (wild)
Phal. modesta f. alba (wild)

順化中の胡蝶蘭原種

 6月末マレーシア訪問で持ち帰ったPhal. javanica, inscriptiosinensis, amabilis Borneo, sumatrana Borneo, fuscataなど約1か月経ちましたが現在順化中です。特に今回気をつかったのはPhal. javanicaで、インドネシアから入荷直後に拘わらず生きた根が僅かしか無い状態であり、また植え込みには最悪の夏季であることから、これまでのノウハウを駆使して何とか最初の難関を通り抜けました。それでも全体で100株程の内、4-5株はほとんどの葉が落ち小さな葉だけが残っているものがあります。

 下写真は植え込みから約1か月で、新芽が現れ伸長していることが分かります。ミズゴケは常に湿った状態を保つと共に夜間湿度90%の維持、通風および1週間毎の活性剤散布を行っています。下写真のように新芽が発生し伸長を始めた第2ステージでは、細菌やカビ系の病害予防(夏季は月2回の規定希釈の薬の散布)についての対応が必要となります。根のしっかりした実生ではこのようなレベルの順化処理は必要ないのですが、根の傷んだ状態で入荷した野生栽培株ならではの処理です。


Phal. javanica

Phal. inscriptiosinensis

現在開花中のDracula(Monkey Orchid)

 下写真は現在浜松温室にて開花中のドラキュラです。すべてスリット入りプラスチック深鉢に100%クリプトモスです。


Dracula vampira

Dracula inaequalis

Dracula radiosa

Dracula lemurella

Dracula cordobae

Dracula benedicti

Dracula gigas

Dracula amaliae

Dracula spectrum

 クール系のための温室の気温は、数日前の猛暑日(浜松35℃)を含め、昼間22℃以下、夜間16℃となっています。約20畳(横幅5.2m x 奥行7m x 高さ2.3m)の温室内空間(壁と天井)をサニーコートで内貼りし、家庭用エアコン2台と温室天井は70%遮光率寒冷紗の2重張り(よって91%遮光)により、この温度が得られています。またこの空間の一部(1m x 2m)を開けて、20畳空間の冷気をここからサニーコートで間仕切りした25畳の別空間に流し、こちらも2分割して低温から中温系のランを置いています。中温系ランの遮光率は寒冷紗1枚張りで70%です。こうして下画像に示すように15m x 5.5m1棟の温室全体をサニーコートで3空間に間仕切り、2台の家庭用エアコンで、一つの空間はコールドからクール系(夜間最高平均温度15-16℃)に、他の空間をクールから中温系(16-22℃)用としています。


 エアコン2台を同時稼働させる時間は晴天日で9:00 - 17:00、6月末から10月末の約4か月間です。夜間および曇りや雨天日はエアコン1台のみの稼働で、コールド、中温共に遮光率は70%としています。4-5月、11月は天候に関わらず昼間でもエアコンは1台稼働で十分です。その他の月はエアコンは不要です。温度を下げる最も効果的な手段はエアコンよりも遮光率を上げることです。幸いにしてDracula属の多くは明るさが嫌いです。明るさの好きなランは壁際に置いたり、LEDによる照明を当てます。このような温室構造で、45畳ほどの空間にコールドからクール系ランを3,000株以上栽培することができます。

 しかしこのような温室を得るには大きな費用がかかります。手っ取り早い方法は、4畳半の1部屋が空いていれば、エアコンで16℃まで温度を下げクール系専用部屋をつくることです。それぞれのポットと鉢受皿を組み合わて、多段構成のスチールラックに並べれば数百株程のクール系ランが栽培出来ます。

Nepenthes truncata

 ランではありませんが、フィリピンラン園を訪問すると必ず園内の一角で目にするのは食虫植物Nepenthesです。中でもミンダナオ島生息のNepenthes truncataは最も大きくなる種で50㎝以上の捕虫嚢をつけるそうです。本サイトでもNepenthesは時折購入したり、東京ドームラン展JGPではフィリピンのラン園に協賛している関係から一部を引き取ることもあり、こうして得たNepenthesを温室の片隅にバスケットで吊るしていました。来月にはフィリピンを訪問することから、たまたま絶滅危惧種のリストを見ていたところ、本種がEndangeredレベルにラインアップされており、また国内外の市場価格を調べると、かなり高価で、20-30㎝程のサイズが10,000円以上するそうです。フィリピンラン園に問い合わせたところアメリカやヨーロッパではNepenthesの人気は高く、CITES AppendixIIになってからこれまでに数千株のNepenthesを出荷しているとのことでした。

 こうしたことからNepenthes truncataのような、大きくなるまでにかなりの年月がかかる種の大株や希少種のみを対象に、現在の市場価格の数分の1で販売できないかと、販売準備を始めることにしました。下写真下段は現在所有のNepenthes truncataで全て背丈(茎の長さ)が80㎝以上です。今年2月には2株が花を付けていました。これらはすでに大株として3年前に入手したものですが、古い葉は落ち、葉の2/3は浜松での新葉です。ネット検索すると手のひらサイズの本種実生が国内販売されており、これを下写真のサイズにまで育てるには十年以上を要すると思います。巨大な捕虫嚢を自宅で見たいと言っても、殆どの人はそんな長くは待てないでしょう。一方、上段右は一般種のNepenthes ventricosaです。この種は成長が早く、背丈70㎝の2茎に5個づつ、計10個の捕虫嚢を今月つけています。こうした一般種の販売予定はありません。

 Nepenthesは輸出の際、搬送途中で根を乾燥させることが出来ません。しかしアメリカやヨーロッパに輸出する場合は植物検疫のためベアールートであることが要求されます。フィリピンラン園では、この対応に、ビニール袋に本種を入れた後、霧吹きをしながら空気を袋に入れて膨らませ空気が抜けないように縛っていました。大きな葉の保護と湿度の確保を兼ねての梱包です。このため大きな株になると段ボール箱の中は空気で膨らんだビニール袋がかなりを占め、それ程の数が入りません。しかしこれも海外出荷経験からのノウハウなのかと感じ入りました。ラン温室に1株でもNepenthesを吊るして置くと風情があると思います。何といっても胡蝶蘭やデンドロビウムに比べて難しい世話がいらないのがよく、ランへのかん水時に、ついでに水をかけるだけで病気もこれまで皆無で、写真下段のように元気に育っています。

 Nepenthesの植え込みは、一般にプラスチック鉢に石類や、ミズゴケあるいはビートモスが使用されているようですが本サイトでは、所有する5種類20株ほどの全てを下写真のように木製バスケットにミズゴケ70%とクリプトモス30%ミックスで植え付けています。元々の理由はベンチのスペースを占めることなく、何処にでも吊り下げできるためでしたが、濡れ過ぎず、長くしっとり感を保つこの組み合わせでよく成長しています。


Nepenthis truncata 1 80㎝

Nepenthis truncata 2  85㎝

Nepenthes ventricosa

Nepenthis truncata 5株 80cm - 90cmサイズ 木製大型バスケットに植え付け

ニューギニア(Irian Jayaおよびパプアニューギニア)高地系バルボフィラム

 種名が分からないニューギニア高地生息バルボフィラムが今年に入り次々と増えています。種名が判明しているものの花が未確認を含めると20種を越えます。今年はさらに、この倍ほどの数になるかも知れません。こうした在庫品は非売品ではなく花確認後には販売品となるのですが、それまでは購入希望者には売約済み保管となっています。下写真はそれらの主な株です。下段右の株はBulb. callichromaですが、同じ写真の中で2つ並んでおり、その左の株は右の通常サイズに比べバルブおよび葉が2倍程のBulb. callichroma spです。


Phalaenopsis lindenii

 Phal. lindeniiの開花期が間もなく始まり、10月頃まで続きます。8月になると開花中の本種の発送ができます。WIKIPEDIAのList of threatened species of the Philippines (フィリピンにおける絶滅危惧種リスト)によると、VN: vulnerable(絶滅危機が増している)、EN: Endangered(将来絶滅の可能性大)およびCR: Critically Endangered(絶滅に瀕している)の定義のなかで、胡蝶蘭としては唯一Phal. lindeniiがENとされています。同じレベルでVandaではVanda javieraeが含まれます。一方、CRはこちらも唯一ですがPhal. micholitziiとなっています。

 Phal. micholitziiはミンダナオ島西部の危険地域に生息していることから生態の詳細は不明ですが、現在は実生(右写真)が容易に入手できます。一方、Phal. lindeniiはマニラ市内のラン展では野生栽培株(ヘゴ板等に取り付けられ、活着済み)ばかりで、実生株をこれまで見たことがありません。本種は中温系でやや暑さを嫌います。このためか、フィリピンケソン市のメモリアルパークで開催されるPOS Midyear Orchid Showでは、暑さでかなりへたった株ばかりが目立ちます。

 Phal. lindeniiのalbaフォームを4年ほど前に自家交配で実生化を試みました。その時は1フラスコの試作で、その1株を昨年の東京ドームラン展に花付で参考出品しました。今年は本格的にalbaの実生化に取り組む予定です。Phal. lindeniiの交配のポイントは、交配後の温度管理で30℃を超える環境では胚のあるタネが出来ません。28℃以下、できれば25℃程度が必要です。開花期が夏の猛暑期間であることから中温温室が無いと交配は難しくなります。


Phal. lindenii

Phal. micholitzii

Dracula vampira

 2月JGP2016にて入手した黒いMonkey Faceとして知られるDracula vampiraが現在開花しています。ColdからCool系で、浜松温室では夜間16℃-17℃、昼間22℃以下としています。植え付けはスリット入りプラ深鉢に100%クリプトモスです。Draculaの中では最も大きな花で迫力があります。

Dracula vampira

キャメロンハイランド道路沿い露店でのChelonistele sulphurea

 6月末のマレーシア訪問でキャメロンハイランドの国道沿いの小さな露店で入手したEriaであろうとの株が開花しました。会員の情報で、この株はChelonistele sulphureaとのことです。かってはセロジネに分類されていたそうです。マレーシア、ボルネオ島、インドネシア、フィリピンなど広範囲に生息しています。左写真の株は購入した株を持ち帰ってから元株を半分に株分けした一方です。よって購入株は写真の株の倍のサイズでした。それでも20リンギッド500円しなかったと思います。道端での買い物はセブンイレブンの弁当代で大株が買えます。しかし、こうした株であっても輸出入にはCITESと検疫書類が必要であり、sp種としてあらかじめ書類申請し、且つ検疫のための病害虫処理が認可されたラン園を通してでなくては輸入できません。


Dendrobium (Flickingeria) scopa

 昨年8月フィリピンにて入手した本種が開花しました。ボルネオ島、スラウェシ島およびフィリピン生息種です。リップにモジャモジャの細毛があるのが特徴です。1m程の背丈に多数の花を一斉同時開花します。しかし花の寿命は僅か2日程です。株が10株程あり200-300輪ある中で開花が2-3日早まったり遅れたりする花が2-3輪あっても不思議ではないのですが、文字通りの全株同時開花で、開花がずれた株や花が一つもありません。1か月半程前にも一斉開花し、さて明日には写真に収めようと予定していたのですが、翌日には全ての花が萎れていました。再びの開花で今度は写真に収めました。バスケットの異なる株同士にもかかわらず、何をもって1日の差もなく開花タイミングを合わせるのか不思議です。1年に何回開花するか分かりませんが、Den. amboinenseのように短命花種はどうやら1年で数回開花するようです。

Dendrobium (Flickingeria) scopa

 ランには花の開花期間がDen. spatulata節のように長い種、僅かな花を長期間次々と咲き続ける種、また今が勝負の時とばかり一斉に開花する種など様々な性質をそれぞれが持っています。こうした開花特性は、特定のポリネーター(花粉媒介昆虫)の発生に合わせるとされており、ポリネータもまた同じように様々な発生タイプがあり、そうした多様性の中で互いに共存し合っているのかと改めて感じます。

Bulbophyllum lasiochilum f. flavaとblackフォーム

 キャメロンハイランドでBulb. lasiochilum f. flavaとblackタイプを得ました。今回は販売向けではなく交配親株として入手したため、タネを採取した後には販売予定です。Bulb. lasiochilumはミャンマー、タイ、マレーシアの広範囲に生息する低温から中温系のバルボフィラムで、花はイチゴの匂いがするそうです。現在の国内市場価格は2,000円程で入手が出来ます。一方、花全体が薄緑色のflavaフォームを国内ではalbaと呼んでいますが、20,000円以上しているようです。キャメロンハイランドでは2,500円でした。1/10の価格です。下写真の3つのヘゴ板の内、左と中央の2株がflavaフォームで、右がドーサルセパルとペタルが黒色のblackフォームです。訪問当日の夜、セレンバンの園主、同伴会員2名とで中華レストランで夕食中に、キャメロンハイランドの園主ご夫婦がこれらをレストランまで持って来られました。blackフォームは開花中でドーサルセパルとペタルがorchidspecies.comの画像にあるように真っ黒でした。その花の付いた株から、目の前で株分けしてもらったものです。


Bulb. lasiochilum f. flava (左および中央)とblack (右)

Bulbophyllum sulawesii名で入荷のsp (後記:Bulb. novaciae) 

 スラウェシ島生息種Bulb. sulawesii の白色フォームとして薄黄色の写真と伴にインドネシアからマレーシア経由で入手した株が入荷後2年経過し、やっと今月開花しました。開花した花色は黄色で、その写真の花の色とはかなり異なり、一見flavaフォームのようですが、いくつかの点でBulb. sulawesiiとは別種であることが分かりました。下写真が開花した本種です。Bulb. sulawesiiと異なる点はリップ中央弁の中央から先端にかけてあるべき細毛がなく、中央弁全体が細く表面は滑らかで前方に伸びています。本種はLepidorhiza節と思われます。またこの節の種の多くは蕊柱の先端から2本の線状突起が並行に伸びていますが、個体差の範囲かどうか、本種は半透明の突起がカールしています。またBulb. sulawesiiは嫌な臭いがするとされますが、本種は全くの無臭です。

Bulb. sp from Sulawesi Ids

  今年の東京ドームラン展にBulb.sulawesii semi-albaタイプとして未開花株を8,000円で販売したものの興味を持たれることなく出戻りとなりましたが、希少性を調べるまで、しばらく販売を止めることにしました。(後記:会員より、本種についてBulb. novaciaeとの情報を得ました。2003年登録の新種でスラウェシ島標高1,400-1,700mの低 - 中温系のバルボフィラムです。ネットで1件ヒットしましたが国内市場での流通は余りないようです。)

Coelogyne usitanaついて

 Coel. usitanaは2001年にフィリピンミンダナオ島Bukidnonで発見された新種です。乳白色のセパル、ペタルに赤橙色のリップ先端と、リップ側弁が茶褐色から黒に近い色までのフォームがあり、存在感のあるセロジネの一つです。

 ドイツDie Orchideeでの最初の発表論文では、本種について、花茎(花序)は最長で、葉元から最初の花軸までが30㎝、そこから花軸が1.5cm - 2㎝間隔でジグザクに伸び、開花を最大20回続けながら、25㎝程の長さとなり合計55㎝長と記載されています。一方、我々が入手する多くのCoel. usitanaの花茎は、花軸までが15㎝-18cmで、花数は逐次開花で2-3輪で終了する株がほとんどです。この2つのタイプの形態の違いに関して会員の方から2ヶ月ほど前に問い合わせがありました。その違いの存在を指摘する著書もあるとのことで、現在本サイトでは20株程を栽培していることから本種を調べることにしました。これまでこのような形態の違いに関する意識がなかったのですが、調べるうちに確かに2つのタイプがあることが分かりました。

 浜松温室にて撮影した、その形態の違いを示すそれぞれのタイプが下の写真です。左写真で手前の花茎は、葉元からジグザグが始まる花軸までの長さが32㎝、ジグザグの数は現時点で9節目で、一つづづ逐次花を付けると共にジグザクの節がその都度増えていきます。写真左では9節あることから、これまで10回花を付けており、さらに続く様子です。よって最初の開花から半年近く、止まることなく次々と咲き続けており、すでに花茎全長は50㎝を超え始めています。一方、左写真の後方の2つの花のそれぞれの花茎、および右写真の株の花茎は15㎝ - 18cmで、最初の花が開花中です。右写真には枯れた花茎がありますが、3輪程花を付けた後、花茎は枯れて終わっており、この花茎全長は25㎝程です。

 

 この2つの形態の違いは環境の違いによって生じるのではないかと考えましたが、本種の栽培法は左写真にあるようにスリット入りプラスチック鉢に100%クリプトモス植え込みと、バスケットにクリプトモス・ミズゴケミックスの2種類で、8割以上がプラスチック鉢であり、栽培場所も隣り合わせの配置としているため、温度、湿度、かん水、施肥頻度等について相互の環境要件の違いはなく、さらにフィリピンより入荷してから2年経過しており株は安定しています。20株の内、現在開花中の株は半数の10株ほどですが、長い花茎株は1株のみで、他は全て短形花茎タイプです。昨年花茎の長い株を左写真とは異なる株で見た記憶があり、このことから推測するに、最初に発表された花茎55㎝長のタイプは1割程とむしろ稀で、ジグザグ花軸を含め30㎝未満の短長花茎の方が大多数のタイプであるようです。もし長短の違いに地域性があるとすると、2つのタイプの一方は変種となり得る可能性もあります。

 時間はかかりますが左の長茎の株を自家交配し、こうした性格が継承するかどうか、すなわちこのような様態は遺伝的な違いによるものなのか、栽培環境によるものかどうかを確認したいと思っています。

第5のボルネオ島Cleisocentron?

 6月の本ページに取り上げた葉幅の広いボルネオ島生息のCleisocentronの植え付けが終了したため再度取り上げました。ボルネオ島には4種類のCleisocentron; Clct. merrillianum、Clctn. gokusingii、Clctn abasii、およびClctn kinabaluenseがそれぞれ知られています。今回入荷した株は、葉はClctn abasiiのように広くフラットで、花茎と花色はClct. merrillianumClctn. gokusingiiのように短く、青く、さらに主茎の長さが1m(この長さになるには10年以上?)にもなります。この株を下写真それぞれの左端に示します。前記4種のいずれとも異なる形態をもつこの株は、それでは果たして何物かです。現在所有する株の最大長は約1mで、40㎝が最も株数が多い状況です。株が落ち着いた後の、花の青色濃度がどれ程のものかに注目です。


左:初入荷種、 中央:Clctn. gokusingii、 右:Clct. merrillianum

葉幅比較

  現在順化中ですが、背丈40㎝以下を3,500円、40㎝を4,000円、40㎝以上を100円/1㎝(すなわち50㎝が5,000円)で販売しておりまもなく売約完了です。今回は販売個数として40株を仕入れましたが、初めて見る種であるため次回入荷が果たして可能かどうかは分かりません。ちなみに本サイトでのClct. merrillianumおよびClctn. gokusingiiの価格は市場価格の凡そ1/5 - 1/10の1,500円です。

Bulbophyllum cornutum f. alba

 Bulbophyllum cornutumはボルネオ、Javaおよびフィリピンの標高1,000m - 1700m生息種です。キャメロンハイランドラン園のFacebookに本種のalba(flava❓)フォームの画像があったため、今回の訪問で購入したいと伝え、その分け株を得ました。本種の近縁種に、eが先頭に付く紛らわしい名前のBulb. ecornutumがあり、この種にはsemi-alba画像がネットにはあるのですが、本種のalbaフォームは見当たりません。下写真は今回入手した株と、その花です。あまり販売したくなかったのか小さな分け株のため果たして2-3年で花が付くかどうか不明ですが希少株であることには違いないため、しばらく様子を見ながらの栽培です。(後記:会員よりBulb. hamatipesの可能性ありとの情報を得ました。)

Bulb. cornutum f. alba

Jewel Orchids 2点

 本サイトではJewel Orchidは販売品として取り扱っていませんが、昨年12月マレーシア訪問でどうかと言われ、試しに数株購入し、今年の東京ドームラン展に適当な価格をつけて出品したところかなり人気が高いことが分かりました。今年4月の訪問でそのような話を園主にし、冗談で、これまで見たことのないような種が見つかったら購入しても良いとも伝えたところ、今回の訪問の1か月程前に、珍しいJewel Orchidが入荷したとのメールをもらいました。それが下写真の2点です。この属に関しては全くの門外漢で、何が希少で一般種なのかよく分かりません。それ以前に、なぜ花ではなく小さな葉のフォームに数千円の価値があるのかが分かりません。このためしばらく勉強する必要があり、来年の東京ドームラン展までは非売品として今後の訪問毎に少しづつ新種とか、希少種と言われる種のみをストックをしようと考えているところです。


Dendrobium sp

 今回のマレーシア訪問で入手したDendrobium spです。花形状からCalcarifera節ではないかとネット画像を検索しましたが今のところ見当たりません。リップの先端とその左右に茶色の斑点があります。花画像は園主からのものです。右写真は3号鉢に植え付けた株で株の高さは20-30㎝です。

Dendrobium sp

 参考になる市場価格が無いので、6本までの葉付疑似バルブ1株を3,000円(6本以上を4,000円)と予定しています。初秋の涼しくなり、根が落ち着いてきた時分を見計らって仲間と株分けすれば1株1,500円と言ったところです。

Bulbophyllum ovalifoliumキャメロンハイランドタイプ

 本種はヒマラヤ、タイ、マレーシア、スマトラ島、スラウェシ島など広範囲に分布する標高1,000m - 2,500mの高地生息種で、数珠つなぎ状の豆粒のような多数のバルブ基から5㎝程の細い花茎を伸ばし、小さな花が開花します。花の色は赤味の強いものから黄色まで、かなりバリエーションがあるそうです。下写真の花はキャメロンハイランドタイプです。orchidspecies.comの本種ページ内の’Plant and Flower in situ Cameron Highlands Malaysia'でキャメロンハイランドでの自生写真が見られます。最初に訪れたラン園で、枝に活着させた右写真の株を、そのまま購入しようとしたのですがこれは売りたくないと言われ、それでは株分けでと半分ほど切り離してもらいました。写真から窺えるように開花期は過ぎたようで花の終わった白く枯れた細い花茎が無数に残っていました。同時開花したときはかなり印象的と思われます。

Bulb. ovalifolium

Bulbophyllum kubahenseBulbophyllum refractilingue

 浜松温室にて両種が同時に開花したため並べて写真を撮りました。並べて比較するとそれぞれの花の違いがよく分かります。それぞれ杉皮板に取り付けています。


Bulb. kubahense (左)とBulb. refractilingue (右)

PNG バルボフィラム4点

 今回のマレーシア訪問ではPNG(Papua New Guinea)のspを数点購入しました。下写真はこれらキャメロンハイランドのラン園で栽培されていた種名不明のバルボフィラムの内の4点です。園主の話では入荷から2年経つものの一度も花が咲いていないとのことです。その原因はラン園の温度が高すぎるかも知れないとのことでした。このラン園は1,000mほどで気温からみればクールから中温系栽培環境です。浜松温室は夜間16℃(実質14-15℃)としているためコールドからクール系対応の場所があり、ここにしばらく置いて様子を見る予定です。キャメロンよりは若干低温環境となります。


バルボフィラムsp PNG生息種

Bulb. virescensキャメロンハイランドタイプ

 キャメロンハイランドにて入手したBulb. virescensです。下の左花写真はラン園が撮影した画像で、セパルの黄緑一色が特徴です。右写真が浜松温室にて撮影した今回得た大株で、葉の付いたバルブが25本あります。プラスチック大鉢に植え付けられていたものをそのまま抜いて持ち帰り、22㎝角バスケットに植え付けた状態です。他に3バルブ程の株を2組得ました。Bulb. virescensBulb. binnendijkiiと花形状が似ていますが、Bulb. virescensはマレー半島、スマトラ島の標高700m - 800m生息の高温タイプであり冬季温度は18℃以上が必要であるのに対し、Bulb. binnendijkii はボルネオ島固有種で標高1,000m - 1,400mに生息していることからクールから中温系のため夜間最高温度は18℃以下が好ましく夏季はクーラーが必要です。温度管理に関しては全く対称的な2種です。

Bulb. virescens

マレーシア滞在記2

 今回のマレーシア訪問では500株以上を入手しましたが、胡蝶蘭、デンドロビウムFormosae節を除けば、Vanda、バルボフィラムなどはspが多く多品種少量となりました。6月歳月記に掲載したCleisocentronの品種は謎のままです。期待したPNG高地種は新しいインドネシアサプライヤーの都合で、今回も空振りでしたが、セレンバンの園主も何とかしなければと考えたのか、やっとインドネシアに行く計画を立て始めたようです。

 筆者も同伴するとのことで、その一案はインドネシアジャカルタかスラバヤまでクアラルンプール空港から向かいさらにニューギニアへ、そこからヘリコプターで高地へと、まるでテレビの秘境番組のような旅行計画を告げられました。インドネシアスラバヤまでならば兎も角、20歳も若ければむしろ大歓迎の計画ですが、今となってはそこまでは、と言った気持ちで、筆者はスラバヤかニューギニアのどこかの町でビールを飲みながらの待機がよいと考えています。かなり早い時期に実現しそうな雰囲気で、園主が現地サプライヤーとの調整もあり、詳細日程を計画中のようです。

 この時期のマレーシアはまだ猛暑ですが、キャメロンハイランドの滞在期間が半分を占めたせいか、全体としてあまり暑さを感じない旅行となりました。しかしキャメロン高地からから降りてクアラルンプールからセレンバンに来れば、ここ数日の日本の気温と同じで、1日中外にいる訳ですから食事にビールは必須です。こうなると日本では考えられないほどマレーシアでは、お酒を出す店が少ないことが分かります。日本で、飲み物がソーダ水かジュースしか置いてない飲食店など聞いたことがありませんが、マレーシアでは逆で、クアラルンプールから離れた町では、中華とかフランスあるいは英国タイプとかの料理専門レストランを除いて、ビールを始め酒類を出す店をこの気温にも拘らず見たことがありません。この国ではタバコを吸っている人を見かけることがないように、酒を飲んで騒いでいる人もこれまでの5年間全く見かけません。ひと汗かいたらビールを、ではなくココナッツウオーターかスイカジュースを、と言ったお酒の無い人生が果たして幸せか不幸かと考えてしまう国です。こうしたこともあり、マレーシア料理を試してはみたいものの、いつも行く先は結局、冷たいビールの飲める中華料理店となってしまいます。

 夜11頃チェックインしたキャメロンハイランドHeritageホテルで驚いたのは、部屋のドアーを開け壁にあるケースにカードキーを差し入れて電気をつけるのですが、テレビの電源が予め入っており出てきた映像はNHKでした。日本人と分かってのサービスの一つなのでしょうが海外ホテルで初めての経験です。

 7時間半の長旅ではいつものようにウオークマンでLara Fabianとマリアカラスです。家では最近、YouTubeの特にAmerica's Got TalentやBlind Auditionなど新人発掘の様子が面白く、よく見ます。マリアカラス程の歌手はもう自分の生きている間には現れないであろうと思っていましたが、この6月America's Got Talentでこの思いを破る天才が現れました。Laura Bretan 13才です。オペラのアリアを美しく上手に歌う歌手は幾らでもいます。しかし歌劇は5-6分のアリアを直立してマイクの前で歌うものではなく、3時間を超える演技と共に人生喜怒哀楽の全てを音声で表現するものであり、透き通るような超高音とか、コントロールされた歌唱技術力だけでこの長丁場に、心に響く感動を与え続けられるものではありません。我々が知る著名な多くのオペラにはリリコスピントとかドラマテイコと言われる、その喜怒哀楽の表現力のある歌唱力が求められます。しかしカラス以降、こうした表現力のある声質を併せ持つ歌手は現れていません。YouTubeでもしばしば少女や、それまで一般人であった無名の人がその歌唱力で話題になっていますが、その声質を考えると上手に歌えるのは一部のアリアだけであってオペラを完遂することはできないでしょう。たまたまアクセスしたYouTubeで13歳の少女がNessun Dormaを歌うのを聞いて、まだ技巧的には幼いものの驚きました。この段階ではすごい少女も世界にはいるものだと感心する程度でしたが、ToscaのVissi D'Arteを聞いて衝撃です。その表現力と感性は人から教えられるものではなく天性です。将来カラスを超えるであろうとの確信に至りました。何とまだ13歳です。同じような年齢のころからカラス全ての米エンジェルレコードを集め始めて半世紀を超える変わらぬファンとしてはうれしい限りです。天才が出現する瞬間の場面など滅多に見られるものではありません。話しが長くなりましたが、マレーシアでもホテルのWi-FiでYouTubeを見ようとしたものの、これがHeritageホテルでもセレンバンのPalmホテルでも回線が狭すぎて動画に至ってはダウンロードに何時間かかるか、全く無理です。次回からは高速回線をどう確保するか検討です。

 実のところ、今月からの歳月記や、間もなく同じような構成にする今月の開花種のページも上記の体験から、ロード時間を短縮する手段として分割することにした訳です。

マレーシア滞在記1

 6月24日から4日間の今回のマレーシア訪問は、会員2名の方々と同伴のキャメロンハイランド行となりました。夕方18時近く、クアラルンプール空港に着き、セレンバン園主の運転でキャメロンハイランドに付いたのは23時近くでした。空港からキャメロンハイランドまでは4時間近くかかるため、途中でお酒の無いモスバーガーでの夕食です。ホテルはHeritage Hotelで標高1,000m付近のため、果たしてお湯が出るか心配でしたが全く問題はなく良いホテルです。エアコンの無いホテルは初めてで、確かにこの高地にはエアコンは不要と感じました。翌日は2件のラン園を回りました。

 最初の訪問は標高2,000mの最も高い位置にある、地元生息種を中心としたローカル色の強いラン園です。マレーシアではしばしば見かける自然林の中に傾斜の急な狭い山道をつくり、その両脇の斜面や木にランを植え付けた自然栽培スタイルで、あちらこちらに名前不詳のセロジネ、バルボフィラム、エリア、地生ランなどが植え付けられており、歩きながら詳細に見るには1日掛けても無理と思われるほどの数です。買う側と言えば、気に入ったランがあれば活着した木からむしり取り、これらを抱えながら一回りすると言った具合です。
6月25日最初の訪問のラン園。小道の両脇の木々には活着した着生ランが溢れている。種名ラベルは一切無い。このような林の中を歩きながらランを物色。山の斜面に作った自然林農園であるため、写真のような平坦な道は少なく、大半が急峻な坂道か凸凹道。

 初めてのラン園のため、いつも問題になるのは価格です。言われた額を値切ろうとしない日本人は余程お金持ちと思われているのか、我々3人が集めた30点ほどのランの最初の1株の値段を聞いたところ、予想通り、このラン園の園主は筆者がマレーシアにて通常購入する凡そ2倍から3倍の価格を要求しました。そのため、それでは高すぎて買えないので運んできた株全てを返すと受け入れ拒否です。それで話が続かなければ本当に何も買わずに終わりになってしまうのですが、そうもいかないため、ここからがいつもの駆け引きです。筆者はマレーシアにほぼ3ヶ月毎に訪問し、BtoBのための買い付けを行っているのであって、さて園主の価格で購入するとして、ここまでの旅費、日本での栽培コスト、歩留まり、その他の経費を考えると、入手額の3倍以上の値段で売らなければならない、そう考えると、園主が私の立場であった場合、海外の市場価格は承知の筈であろうから、果たしてその値段で売れると思いますか、と説きます。最近はほとんどの園主あるいはその家族はインターネットやFacebookでアメリカやヨーロッパのランマーケットの価格を見ており、それならばそうした価格の2割引き、最大でも半額が良いところではないかと思っているに違いありません。単にディスカウントをしてくれでは2割が良いところであり、半額以下あるいは1/3以下にするには、それなりの理詰めが必要です。

 しかしすでに最初の価格を園主が、周りに他の客、時として家族、作業員もいるなかで言ってしまった手前、園主としてのプライドもあるでしょうから大幅に値を下げる訳にも行かないことは分っており、それでは株分けしてこの値段ではどうかと提案します。そうこうして何とか最初の株の価格をこちらの思惑に近い価格へ近づけます。こうすれば2株目の価格は何も言わなくとも推して知るべしです。この人たちはふらりと立ち寄った観光客ではなく価格にはシビアな人だと分かる訳です。重要な点は、交渉をする前に次々と株の価格を聞いてはならない、相手によって価格がどのようにも変えられる商品は、こうした駆け引きがまず最初の1株に必要であることです。無論、納得のいく価格であれば次にキャメロンハイランドに出かけたときは再訪問しますし、それなりのValue customerになるつもりですので、この園主にとって我々への値下げは損ではなく、それなりの見返りはあると思っての強気の要求です。

 入手したい株が決まっておりその在庫の有無を聞き購入する場合は兎も角、それぞれの株に種名も価格も一切付いていないラン園での物色は花が咲いているか、形状からこれに違いないと確信のあるものかに限られます。しかしこうした環境では、花を見てもその株の属名程度は分るとしても始めて見るものがほとんどであって、それ以上は分かりません。園主自身もほとんど種名を知らず曖昧です。言い換えれば、名前が分かるような一般種であれば、初めて行くラン園で入手しなくても、気心の知れたラン園にプレオーダーすれば良い訳です。一方でローカルなラン園では、地元で採取して育てている栽培株であって、元手は人件費だけで、10リンギッド250円であれ100リンギッド2,500円であれどちらでもよい筈です。いわゆる売り手と買い手とは阿吽の呼吸あるいは互いの意気がどう合うかと言ったところです。こうした中て1回目のラン園では、同伴の方々と共になんとか無事に買い付けができました。

 2番目は前回訪問したラン園です。 こちらは地産品は2-3割で、大半は他の地域や海外からのランです。4月の訪問でセレンバンのラン園主に、これは私の趣味のランなので売れない、と客に言うのは失礼なことであり、それならば隠すように伝えてもらいたいと注文したラン園です。果たして伝えたかどうか分かりませんが、今回も’趣味’の連発です。一つの理由として、今回はあらかじめこのラン園のFacebookにある画像を見て、珍しいものだけを選らんできたこと、また2-3株しかない株の中の最も大きな元気のある株を選んで購入しようとするためです。これは買う側からすれば当然です。しかし余りにも’私の趣味’発言が多いので、とうとう筆者から直接、趣味株ならば客の目の付かない所に隠すべきと園主の奥さんに話しました。そうしたところ隠す場所が無いので申し訳ないとのことです。

 園主がFacebookで紹介するランは、いわゆる一般向けカタログ品ではなく、自慢の1品ものか、数点しかないことは分っており、こちらもそうした言い訳は4月訪問の経験から想定内のことで、如何にこれらを入手するか戦略を練っていきました。どうしても売りたくないものを売ってもらう実効的な手段は、株分けしかありません。もう一つのウルトラCは、幾ら大切にしていても、いずれ株は枯れるもの、それは栽培している者が一番よく知っていること。それならば今度花が咲いたら自家交配でタネを付けてもらい、数か月おきに訪問するのでそのタネを購入したい、と要求することです。株分けは、株がそれなりの大きさであればこれを断りにくく、ましてこの部分なら分けられますよね、とその場所まで言われてしまえば尚更です。一方タネでは断る理由がありません。日本で実生が得られればフラスコを差し上げるとまで言われたら尚更です。このラン園では単品物が多いのですが、それなりの品種を入手することが出来ました。

 さらに今回の楽しみはキャメロンハイランド国道脇の露天商でした。キャメロンハイランドでは年末から2月頃がもっとも品数が多い時期とのことで、6月は多くが店を閉じていましたが2店ほどに立ち寄りました。同伴された方はラン園よりもこちらの方が楽しいと話されていました。 こうした露天商ではほとんどの株がspであると伴に、品種に関わらず10-20リンギッド(250 - 500円)の範囲内です。直接言葉が通じないのが難点ですが、出品最多期に訪れてみたいものです。

 海外に時折訪れてランを購入される趣味家の方からの話を聞く機会が最近増えてきました。現地での購入方法は様々と思いますが、一例として参考になればと、この滞在記を取り上げました。

キャメロンハイランドBulbophyllum pileatum

 Bulb. pileatumはマレーシア、ボルネオおよびスマトラ島に生息し、セパル・ペタルは一般的に黄色味の強いオレンジ色で、黄色のリップ中央弁形状が特徴です。昨年本サイトが入手した本種はボルネオ島産でした。今回キャメロンハイランドで入手した株はセパル・ペタルが薄緑色で、この色合いがキャメランハイランド地域固有のフォームであるかどうかは不明です。本種は低温から高温まで適応性があるとされます。しかし生息域に合わせた温度設定が好ましく、ボルネオ島産を高温環境で栽培していた期間は元気が無く、中温に移してから新芽を出し始めました。おそらくボルネオ島からの株は標高1,000mほどに生息していたものと考えられます。キャメロンハイランドは1,000-2,000mなので、クールから中温が適温ではないかと現在中温環境にて順化中です。


Bulb. pileatum Cameron Highland

Bulb. pileatum Cameron Highland

Bulb. pileatum Borneo

Bulbophyllum hodgsoniiDen. collina

 キャメロンハイランドで入手したバルボフィラムとデンドロビウムです。下に写真を示します。バルボフィラムはキャメロンハイランドの固有種で、それ以外の生息地は知られていないようです。数十輪のオレンジ色の花が咲くとそれなりに見ごたえがあります。一方、デンドロビウムはニューギニア600m以下の熱帯雨林帯生息種です。一見バルボフィラムのような形状で、南米のPleurothallisのように葉の表面の基部にに白い花を付けていました。いずれも国内情報は全く見当たりません。初入荷かも知れません。


Bulb. hodgsonii

Den. collina

Dendrobium williamsianum

 本種は浜松温室にて現在、20株ほどを栽培していますが、1年を通してどれかが開花しています。その中で1株、ひときわ大きな花が咲いたため写真を撮りました。下左写真でラテラルセパル左右のスパンが10㎝弱となります。さっそく自家交配を行いました。この株とは別に本種はブルーの濃い花を昨年自家交配し、現在数本のフラスコ内で数千株育種(右写真)しており、今年末頃にはその中から数百苗を選別植え替えをし、さらに半年ほどフラスコで育てた後、取り出しとなります。生炭のない国内で、それに代わる植え込み材と栽培方法を確立したいと考えています。

Den. williamsianum

Bulbophyllum refractilingue

 入手して2年間、Bulb. kubahenseと同様な低輝度の環境下で栽培していたのですがこれまで開花がなく、何らかの不適切な環境が原因ではないかと3ヶ月ほど前により明るい場所に移動したところ、6株中3株で先月末から花芽が発生しました。マレーシア趣味家宅で本種が開花している状況を見て、その環境がかなり明るかったことを参考にした場所替えでしたが、やはり開花には輝度が大きな要因であったようです。この点ではBulb. kubahenseは低輝度、本種は高輝度が良いことが分かりました。


Bulb. refractilingue

Bulbophyllum baileyi

 ニューギニアおよびオーストラリアクイーンズランド固有種で熱帯雨林生息の本種は、国内市場にはこれまで入っていないのか本種に関する販売情報がネット上では見つかりません。花には甘い、鼻にツンとくる面白い匂いがあるそうで、逆さまの向きで開花するようです。下写真は左が植え付け直後の株で、右は園主からの花画像です。人差し指と比較して5㎝程の大きさと思われます。

Bulb. baileyi

  販売情報が無いので価格はsp扱いとして3バルブ2,500円とし、1バルブ毎に500円プラスを予定しています。6バルブタイプを4,000円で入手し、これを仲間で3バルブの株分けにすれば1株2,000円と言ったところでしょうか。

Dendrobium oreodoxa

 こちらも今回入手のニューギニア標高2,000m生息のコールドからクール系デンドロビウムです。このため夜間の栽培平均最高温度は18℃以下が必要になります。下写真左が植え付け直後の本種で、右は園主からの花写真です。園主から新しく入荷した株と聞いただけで持ち帰り、ラベルからネット検索して始めてニューギニアの高地種と分かりました。写真からは赤色が鮮やかでDen. vexilariusの赤フォームと比べてどちらが目立つか開花が楽しみです。

Den. oreodoxa

 国内のネットカタログを見ますと、6,000 - 8,000円ほどとなっています。希少種と形容されたカタログがありますが、希少種との根拠がよく分かりません。今回は20株を入手しました。本サイトでは従来の市場価格の半額の3,000円を予定しています。

Bulbophyllum contortisepalumblumeiの変種

 今回のマレーシア訪問で入手したバルボフィラムの一部を紹介します。写真左がBulb. contortisepalumです。パプアニューギニアの低地から標高1,500mに生息する、セパルが互いに捩じれたユニークな形状をしています。一般フォームのセパルは黄色ですが、本種は赤褐色であることが特徴です。一方、右写真はBulb. blumeiです。ニューギニア、ボルネオ島、マレーシア、インドネシアに分布、低地生息種で、一般種の花のサイズは5-8㎝とされます。しかし本種は17㎝と異様に長いのが特徴です。

Bulb. contortisepalum Red
Bulb. blumei

Dendrobium ovipostoriferum

 この名称のデンドロビウムはorchidspecies.comに述べられていますが1994年の"Checklist of the Orchids of Borneo"にDen. deareiの画像が誤って掲載されたため、2000年のMalayan Orchid Reviewで訂正されるまで世界中にDen. deareiの画像が本種として広まり現在でも画像検索ではDen. dearei Borneoタイプが数多くヒットします。シノニムではDen. takahashiiと呼ばれています。純白のセパル・ペタルにリップ全体がオレンジの良く目立つFormosae節です。稀にリップが黄色のフォームがあります。

 10年前、会津の知人がインドネシアから20株ほど入手しそれを譲り受け栽培していましたが、大半を分譲し在庫が僅かとなり、2年越しの入荷希望で、今回やっと叶いました。Formosae節は栽培が比較的難しいと言われます。熱帯季節林であったり、中温系の生息種も多く、季節による乾湿の管理があるためと思われます。一方、会津では素焼き鉢にミズゴケ100%の植え付けで6年、浜松で4年の合わせて10年程栽培を続け、毎年花を咲かせてきたことを考えると、本種はボルネオ島低地生息種であるためか2-3年ごとの植え替えを行えば、乾湿の管理は不要でFormosae節の中では栽培が容易な種です。下写真の左画像は会津からの株の花です。右下のリップが黄色フォームは変種か別種の可能性があります。右画像は順化中の今回の入荷株で25株を素焼き鉢100%ミズゴケと、大株5株はバスケットに寄植えしました。すべて野生栽培株です。


Den. ovipostriferum (2013年浜松にて撮影)

Den. ovipostriferum 今月30株の植え付け

  現在、本種名と価格の2ワードで検索しても国産実生の小さなサイズが5,000円程と1件ヒットしましたが市場にはほとんど取扱いが無いようです。本サイトでは野生栽培株一般サイスで3,000円としています。

Phalaenopsis javanica, inscriptiosinensis, amabilis Borneo野生株

 今回の訪問でPhal. javanica, Phal. inscriptiosinensis,およびPhal. amabilis Borneo (Grandiflora form)の野生栽培株を入手しました。野生株については、しばしば実生には見られない株の大きさについて取り上げてきました。下写真は上記それぞれの株の画像で、実生BS株の倍ほどの葉サイズです。下段の花画像は参考写真で、今回入手した株の花ではありません。これまでの経験から、株の大きさは輪花数に比例します。上記のうち、Phal. javanicaの野生栽培株は訪問毎に購入を希望していたのですが2年ぶりの入荷です。またPhal. inscriptiosinensisはこれまでで最も大きなサイズです。これらの株の順化期間は2-3ヶ月となりそうです。


Phal. javanica wild 20cm x 12cm

Phal. inscriptiosinensis 26cm x 10cm

Phal. amabilis Borneo 40cm x 9cm

 Phal. javanicaは1975年、インドネシアCianjur山南部で発見されましたが、やがてこの地域のPhal. javanicaは絶滅したとされます。その原因は高額で海外業者が買い付けたことから地元住民の乱獲によるものとされます。E.A. Christenson著書Phalaenopsis A Monographに経緯が書かれています。こうした背景もあって本種の野生栽培株は入手が難しい種の一つとなっています。本サイトでは一昨年にalba (semi-alba)と、香りのある2フォームの自家交配をそれぞれ行い現在その苗を栽培しており、BS株としての出荷は来年春頃を予定しています。

 絶滅を避ける唯一の手段は実生化ですが、残念なことに本サイトでしばしば指摘しているように、タイや台湾で生産される実生が名ばかりの交雑種であることが余りに多く、マレーシアやフィリピンラン園にて花を確認しないで実生株を購入する場合には、入手先を確認しタイや台湾での実生であることが分かれば、ここ1年程、無条件で購入を止めています。今回マレーシア訪問でもPhal. lamelligera花模様のPhal. borneensis名の株を見ました。園主はリップ中央弁先端の錨状の形が大きいことから、先端形状の小さなPhal. lamelligeraではなく、入荷名通りのPhal. borneensisと主張するのですが、明らかにPhal. lamelligeraPhal. borneensisとの交雑種であり、どこから入手したのか聞いたところタイとのことでした。こうした実状を考えると、純正種を求めるには野生栽培株か、自分自身が自家交配あるいは同一ロット内での他家交配を行わざるを得ない状況です。