原種の栽培をこれから始めようとする人へのアドバイス

はじめに

 多くの方にとって、洋ラン栽培を始めるきっかけは慶弔用として胡蝶蘭を頂いたり、またホームセンターや園芸店でふと気に入ったカトレアなどを見つけ購入してしまったなど様々と思います。その際、最初に知りたいことは下記のような事柄ではないでしょうか。
  • どこに置けば良いか
  • 栽培温度は
  • 水やりの方法、量、頻度
  • 植え込み材や鉢の種類、特徴
  • 初心者向けの植え込み材
  • 植え込み材を取り換える方法と時期
  • 栄養剤をあげる方法、頻度
  • 花が咲き終わった後はどうすれば良いか
  • 2本以上一緒に植えてあるときは鉢を分けた方が良いか
  • 鉢を分ける方法、適した時期
  • なりやすい病気、その見分け方と対処法
  これらの問いには栽培のための基本的な内容がほとんど含まれます。しかし現実には、そうした知識に基づいて栽培したにも関わらず、ランを枯らしてしまった人が大半で、元気よく成長させている初心者はごく僅かではないかと思います。そこには実践の前提となる重要な要件が不足しているからです。まずそれを説明します。


熱帯性ランの生息環境

 ランを元気良く育てるためには前記各項目について得た知識を実践することに他なりませんが、葉が落ちて徐々に弱っていく、花が咲かないなど、それなりに気を使っている筈なのに、理解できない問題にしばしば直面します。こうした問題の原因が何処にあるのかは、栽培手法だけではなく、ランが進化してきた環境とその特性や様態をまず知ることが必要です。

 ランは大別して3つの生息形態があります。木の枝を生息場所とする着生ラン、石灰岩等の岩肌に根を張る岩性ラン、および地中に根を下ろす地生ランです。ごく一部のランはこれらの2つあるいは3つの様態を共有しますが、ほとんどのランはそれぞれの居場所を棲み分けて生存しています。熱帯雨林や亜熱帯の樹林帯の枝、岩および地表は、Googleマップ上の同じ地点であっても、気温、湿度、明るさ、風通しなど、大きく異なる環境となります。現在あるすべての野生植物はそうしたそれぞれの生息環境に適応した生態へと何万年もかけて進化した結果です。

 例えば着生ランは地表とは異なり水分が圧倒的に少ない樹上の環境で生き抜くために、雨水だけでなく大気に含まれる水分をも吸収しなければなりません。このため、根の表面の多くは気根植物として空気に触れており、葉は湿度の高い夜になってから気孔を開いて呼吸を始めCO2を得ます。大気が乾燥する昼間に呼吸をすれば葉や茎に蓄えた僅かな水分が気孔から蒸散し、さらに水分を失うことになるからです。反面、土壌の水分や地表の高湿度に恵まれた地生ランは、光が届く昼間にCO2を得、光合成を行って栄養源を蓄えます。

 このように生きるための生命メカニズムに大きな違いのあるランを、前記それぞれの栽培方法に関し、果たして一つの回答で十分と言えるのでしょうか?すなわち温度や湿度と共に鉢、植え込み材、かん水頻度、施肥などについてです。

 同じ属の着生ランであっても、海抜ゼロ地帯に生息するランと、1,500m以上の高山に生息するランでは年間気候が全く異ります。また季節があって、落葉したり休眠するランもいます。生息地の季節に似た気温や湿度のサイクルを与えることが開花条件となる場合もあります。ランの宝庫とされるボルネオ島では4,000m級の高山があり、2,000m位までは多くのランが生息しています。ニューギニアでは1,000mから2,000mの雲霧林帯に最も多くのランが生息します。洋ランは温かい地域にのみ生息すると思われますが、毎年花祭りが開かれるフィリピンのバギオの年間平均気温は19℃であり、東京の夏より涼しく、盛夏でも25℃を超えることはありません。また熱帯モンスーンや熱帯雨林帯をもつ地域であっても季節に応じて長袖やセーターが必需品の地域すらあります。このような多様な環境に生息するそれぞれのランに対して、1品種だけの栽培であれば兎も角、種類の異なるランが含まれる場合、一つの栽培法のみで植物を育てることは困難です。

栽培の条件

  前記したように、ランにはそれぞれが成長してきた生息環境があります。一方で、これから栽培を始める多くの人にとっては、まず家屋内での栽培となり、一つの場所、例えば居間やダイニングに限られます。よって基本的な栽培条件として、室内の環境に合ったランを選んで栽培するか、ランの好きな環境を室内に用意するか、いずれかの選択が必要となります。前者は提供できる部屋に合うランはどれかを見つけなければなりません。後者はどのような方法で室内にランの栽培環境を作り上げるか、そのスペースと費用はどうするかが問題となります。ランのことはよく分からないが取り敢えず買ってしまった、さてどこから始めればよいのだろう、はラン栽培のアプローチが間違っており上手くはいきません。ただ多くの人は貰い物を、さてどうするか、から始まるので同じような状況ではありますが。いずれであっても、室内をランの生息可能な温度範囲にエアコンで通年設定できるか、あるいは生息地の環境を疑似的に造ることが出来る小型のガラス温室のような園芸用室内温室が部屋の片隅にでも設置できるかどうかの検討がまず必要となります。

 室内温室の商品については、「室内温室」で検索すると、楽天やアマゾンショッピングで3万円から20万円程の多様な製品が見つかります。果たして貰い物のラン、あるいはホームセンターで買ったランが数千円であるのに、なぜ数万円もする栽培ケースを買わなければならないのかという当然の戸惑いが生じます。このような問題はエアコンのみの室内簡易栽培においても同じで、1,000円の花のために冬は24時間暖房、夏は冷房をするのでは、自分よりも遥かに待遇が良いではないか、収入のかなりをランの養育費に使うなんて本末転倒、と感じる人も多いと思います。夏の縁日の金魚すくいで金魚を得たものの、それを家で飼おうとすれば金魚鉢やら水草、餌の方がはるかに高い買い物になってしまったと後悔するようなものです。しかしそれでも多くの人がそうした”後の祭り”を受け入れているのは、飼うことの好奇心や楽しみ、あるいは子供の喜びに応えるためです。すなわち経費勘定だけで買う買わないを判断することは本来、生き物を飼うことが性に合っていない人です。エアコン制御も、室内温室の設置もいずれもダメという人は、否、そうした設備が無くても育てられますという囁きに耳を傾けることなく、赤道に近い自然界で育ったランを日本で育てることはギブアップすべきです。2-3か月で枯らすのは必定です。

 しばしば、このランは丈夫なので室内栽培ならば日本の冬を越すことが出来ますと一部のラン園が販促をしています。これらのほとんどは何としても商品を売りたいための嘘です。こうしたセールスはランの栽培経験のない人への欺瞞か、おそらく自分で苗から開花に至る3-4年間を丹精込め栽培したことのない人です。一部のラン、例えばデンドロチラムなどには、日本の暖地であれば特別な環境設定をすることなく室内栽培ができる品種も僅かながらいますが、これらは我々がラン展などで一般的に目にするメジャーな品種ではありません。熱帯および亜熱帯の低地に生息する特に着生ランのほぼ全種は九州以北の日本の気候には通年で耐えることができません。また「この人はこのような大輪の花を特に温室もない室内で育てました」とする記事も時折目にします。そこには、頑張ればあなたもできるかも知れないという意図を感じます。しかしランを温度・湿度等の管理なしに他人の栽培の真似をしても十中八九成功はしません。その成功の裏にある実際の栽培努力は他人の計り知れないところにあります。確かなことは、ランには生きていくための環境についての許容範囲があり、栽培手法は如何にこの範囲のなかのより良い状態をつくるかにあります。

 とは言っても、ホームセンターの園芸コーナーでは、建物内ではあるものの、冬の寒い時期でも特に保温したり加湿したりする様子もなく、沢山のランが売られており、しかもみな元気そうで、店員に聞けば時々散水するだけらしい、これならば自分も育てられるかも知れないとの思いを持つ人もいるかも知れません。仮にそのランを園芸コーナーに3か月置いたとします。1ヶ月で花が終わり、2ヶ月経てば葉がしな垂れて枯れ始め、3か月目には悲惨な状態になるでしょう。その後は、鉢には株の朽ち果てた残骸が残っているだけとなります。では商品として販売に至るまではと言えば、ほとんど自動化された量産温室で、あるいは温かい東南アジアで育てられ花が咲く少し前になって持ち込まれたものです。

 栽培と観賞とは違います。園芸コーナーに並んだ花は、極論かも知れませんが、分かりやすく言えば購入者にとって観賞用であって栽培用ではありません。慶弔用胡蝶蘭も同じで、花が散れば捨てるものです。しかしそれは余りに可哀そうと感じ、来年も花を咲かせてみようと、もし気持ちが動けば、前記記載のそれぞれの質問には無い、しかし栽培の最も重要な前提条件の一つをクリアーしたことになります。

  前記で、人の住む室内の環境に合ったランを栽培するか、ランの好きな環境を室内に用意するかのいずれかと述べましたが、前者は24時間365日、温度範囲をランの生息可能な範囲内に保つことが必要です。これはエアコン経費を良しとすればできますが、同時に必要なのが湿度です。ほとんどの熱帯および亜熱帯性のランは80%以上の夜間湿度を必要とします。よって温度が確保できても湿度の確保をどうするかが大きな課題となります。2-3鉢であれば、夜間のみ段ボール等ですっぽりとランを覆うことで植え込み材からの水分の自然蒸発によって高湿度を保つことができます。しかし多数の鉢があればこの方法は無理です。部屋全体を必要な湿度にするには加湿器が必要となり、人は風邪をひかない替わりに、部屋中の壁はカビだらけになります。よく栽培説明には「乾燥する室内では時折、葉に霧を吹くと良いでしょう」とあります。エアコンが稼働し湿度40%程度の室内で霧吹きスプレーで葉水したところで、一体、何時間高湿度が葉周辺に留まるのでしょうか?果たして就寝前の葉水程度で朝まで湿度を保ち得るほど夜は短くありません。これも、しないよりはした方が良いと言う気休めです。

 人が快適と感じる湿度の上限は60%と言われます。特に着生ランにとって夜間の60%では1年程は生命の維持は出来るものの成長はできません。夜間湿度60%が許されるのは、一部のランのみで、室温が10-15℃となる冬季の3か月間です。この温度では着生ランの多くが夜の呼吸を止めるからです。冬季であっても夜間室温が15℃以上あれば湿度は80%以上が必要となります。この温度になると前記とは異なり、ランは成長を続け高湿度下でのみ可能な夜間呼吸を始めます。ちなみに2月東京ドームで開かれる国際ラン展では15℃に設定されています。昼間は参加者の熱気で会場の温度は20℃以上となりますが、夜は冷えて15℃前後となります。この温度は夜呼吸をする多くの熱帯性ランにとって、呼吸を止めるか否かの境界温度になります。呼吸をしなければ、夜には湿度を上げる必要が無くなります。短期間の維持温度としてはよく考えらえた温度設定ですが、これを真似て昼も夜もこのような温度設定を自宅で行えば、言わば休眠期と同じで、ランにとっては呼吸をする時間がありません。徐々に弱っていきます。

 ここで、再び栽培間もない人から一言が聞こえてきそうです。うちではそれほど気を遣っていないけれど枯れないでいますと。前記した湿度を夜間80%にしなくても、かん水を正しく行えば1年程度であればランは枯れることはありません。生存は続けます。しかしこれは生きながらえていると表現した方が良いかも知れません。栽培の良し悪しは苗から育て、花を咲かせ、開花が毎年続けられることと、葉あるいは株は栽培開始時からそのままの状態が保持されることではなく、より大きく成長しているか否かです。花が咲かない、株が大きくならない、入手して以来ほとんど変化がない、これはそのランの生存許容範囲の端の方に辛うじて留まっているに過ぎず、栽培が上手くいっていることとは違います。貰い物のランを翌年、花数は少なくなったものの咲かせることができたビギナーズラックもしばしばありますが、果たして2年3年と続けることはまずできません。

  原種栽培に最小限必要な準備は、前記の室内小型温室相当の環境を用意することです。この小型温室は前記したラン栽培を考慮した2-3段の棚からなるガラス、プラスチック、あるいはビニールケースで、これらはラン栽培の5つの要件「温度、湿度、輝度、通風、かん水」の内、温度、湿度をクリアーします。しかし数万円の費用がかかります。一方、より安価に小型温室を得るには棚3段程度のスチールあるいはメタルラックを用意し、ラック全体をビニールカバーで覆います。「メタルラック」と「ビニールカバー」の2文字でネット検索すれば商品やイメージが見つかります。メタルラックをすでに持っている人は、それに合うビニールカバーを探せば良いことになります。

 こうした棚が用意できれば、夜はビニールカバーのチャックを閉めて、下段に水を張った容器を置き、冬季には可能であればその容器に熱帯魚で使用するサーモスタット付水中ヒータを入れれば、カバー内部では温度と共に湿度が確保でき、多くのラン原種の栽培可能な環境が生まれます。すなわち水中ヒーターで水を温め、ラック内の温度を最低15℃に保つと同時に夜間、温まった水からの蒸散で高湿度を得ることができます。ヒーターを入れた水容器の代わりに、ペット用暖房マットと水を張った容器を置くことでも同様の効果が得られます。よって部屋全体をエアコンで温めるよりは、棚やヒーター等の初期費用は発生しますが遥かに低コストとなります。ビニールカバー越しに花を見るのは美しくないと思われる人は、昼間はラックから出して観賞し、室内の消灯時にラック内に戻せばよいと思います。ラックはランにとっての寝室と考えれば良いことです。実際は、多くのランはその逆で昼間寝て夜起きているのですが。人が訪れるときはビニールカバーを外してラックだけとすれば見栄えもそれなりとなり、2-3日の低湿度に晒された程度で枯れることはありません。予算のある人は、家具にも調和するワーディアンケースもあります。これでラン栽培の最大の難関である温度と湿度は確保できます。

 次は照明の問題です。これも栽培本には、カーテン越しの窓際に置く、とよく書かれています。輝度自体としては間違いではありませんが、このカーテン越しの窓際栽培にはいくつかの問題があります。まずレースのカーテンといっても透光率は多様です。本来カーテンは防犯や室内温度の調整など様々な目的があって選ばれているのであって、ランのためではありません。ランに必要な輝度を優先すれば、季節ごとに異なる日照の強弱に対してカーテンを交換しなくてはなりません。比較的薄いカーテンであれば冬季は日照りのときは温かく、一見良いように思えますが、曇りや雨の日あるいは夜は逆に冷え過ぎます。このお天気依存のアナログ的なカーテン越し栽培法は春と秋の数か月は有効でしょうが、年間を通しての実践用には程遠く、なんとなくそんな感じの明るさが必要なのですねと理解した方が良いと思います。

 冬季に1日の昼と夜の葉面温度差が15℃以上になり、これが繰り返されれば多くのランは耐えられません。この耐えられないとは枯れることではなく、まず作落ちが起こります。翌年になって株が小さくなるか、花をつけません。花の咲かない、例えばカトレアをいつまでも栽培しても意味がありません。天気や季節によって室内をその都度移動すればよいのですが、鉢数が10鉢を越えれば毎日移動させることも難しくなります。
 解決策は蛍光灯をラックに取り付けることです。この蛍光灯はLEDタイプが最良です。消費電力や発熱量が少なく、夏季のケース内温度上昇をある程度抑えます。ラック棚の長さ1m x幅 46cm 当たり10WLED蛍光灯(850lm)1-2個を設ければ十分です。LEDライトでないと、同一輝度に数倍の電力が必要となります。この設置で部屋のどこにおいても輝度の心配はなくなります。タイマーを付けて照明時間が設定できればさらに優れた環境となります。よって夏季は窓際に近づけ過ぎ、蒸してしまうリスクを避けることができます。ベランダがあり、夜間の最低温度が15℃を越えれば、夏季は外に出しての栽培ができます。ベランダに寒冷紗は必須ですが、高輝度を好むランも多く、むしろ室内よりは室外の方が良く育つ種が多くいます。

初期準備

 以上の解説では、これまでのネットや栽培本に書かれた方法に関し否定的な記述が多くなってしまいました。多くの栽培書の著者はラン販売を生業とする業者であり、その立場からは、初心者でも室内で手間や費用を余りかけることなく容易にランの栽培はできるとの印象を与えたいのでしょう。まずはドアーを叩きましょう、そこで魅力を見つけてくださいとの意図でしょうか。洋ランを栽培する気遣いや手間は、環境条件は真逆ですが高山植物やアツモリソウを自宅室内で栽培することと変わりません。他国の大自然で何万年もかけて進化してきた生き物を、生息環境が全く異なる日本の家屋の中で、温度・湿度・輝度制御に十分な用意もなく、1年を通して部屋の中の置き場所を窓際を含め、あちらこちらに移動したり、霧吹きをしたりするだけで育てられるとするのは妄想に過ぎません。

 限られた環境条件(居住空間)の中であることを前提に、より良い方法として部屋の中では、冬はできるだけ暖かい場所、暗い片隅よりはカーテン越しの明るい窓辺の方が良いと説明しているのだとの声が聞こえてきそうですが、そもそもそうした前提が間違いです。そうではなく、ランの栽培にはどのような環境が必要なのかを最初に説くべきです。その環境がないのであれば、費用に応じた最もコストパフォーマンスの良い、栽培に必要なシステムをまず提案することです。3万円以上の予算のある人は室内小型温室を、数千円の人はメタルラックや手作り温室などをです。そうした様々な設備に予算をかけたくない人には、窓際栽培や霧吹き栽培ではなく、ランは花が散るまでの観賞に留め、栽培は諦めてもらうしかありません。

 生き物である限りどのような動植物であっても異なる環境で育てるには程度の差こそあれ設備費用が掛かります。初期費用のかけ方でその後の栽培の手間が左右されます。そこに栽培者に合った無駄のない費用のかけ方を考えることが栽培の基本技術であり最善策です。つまりそれが冒頭のそれぞれの質問に欠けているもう一つの前提です。そうすればランを枯らしてしまった、自分にはこうした植物を育てる能力がないんだといった嫌な思いは無くなります。

 このような環境設定ができれば、栽培方法は初心者もベテランも違いはありません。詳細は本サイトのそれぞれの栽培方法を参考に実践となります。いわゆる、鉢、植え込み材、かん水頻度、施肥等の栽培情報です。初心者でも出来る栽培方法を教えてくださいとの質問サイトをよく目にします。無理のないことですが、人には初心者もベテランもいますが、同じランに対して最善の栽培方法は唯一無二です。初心者向けはありません。カトレアに大輪の花を咲かせられる必要条件は、初心者・ベテランといった「人」ではありません。上手下手はあっても、誰が行っても変わらない栽培方法です。

 結論として、ラン、とりわけ原種栽培を始める人は繰り返しになりますが、少なくともビニールカバー付きメタルラック相当を用意してください。これが出来なければランの栽培は諦めるべきでしょう。熱帯魚をヒーターもない、エアレーションもない水槽で飼うようなものです。これまでのどの栽培本にもこうした条件をMUST(絶対必要条件)とはしてはいません。そうすればランをこれから栽培しようとしていた人の8割方は、そんなに面倒で大変ならばやーめたとなるからです。だからと言って、いやランの栽培はあなたが考える程難しくはありません。リビングでムリなく育てられます。まず試してみてはとは、初心の頃、本に書かれた通りに、夜の段ボール箱、アパートでの窓際栽培などを経てきた経験からはとても言えません。果たしてランを育てているのか、逆にランに飼われているのかと言ったストレスにやがて襲われます。

 国内には多くのラン愛好会があります。こうしたグループには初心者を始めラン生息国の栽培者よりも上手にランを育てているベテラン栽培者も参加しています。経験者の知識や知恵は、特に生き物を育てる上では何よりも価値があります。これからラン栽培を始めたい方こそ、こうした愛好会に入会されることを勧めます。ラン屋さんはランを買うためだけの店と考えましょう。例外も無論ありますが、栽培を指導して頂けるところではないと理解する方が賢明です。これはブラックユーモアと受け取って頂きたいのですが、特に質問や疑問を投げかけるのは止めましょう。あるサイトに書かれていたことですが、初心者が園芸店でランを買ったとき、店員にこれはどうやって育てたらよいでしょうかと尋ねたところ、ネットにいろいろ栽培法が載っているのでそちらで調べてくださいと言われたそうです。これを読んで、つい笑ってしまいましたが、否、この店員は最も正しいアドバイスをしたのかも知れないと皮肉にも考えてしまいました。どのラン園でも創業者たちは、趣味からスタートしてその魅力に嵌り、苗から大株まで何年もかけて育て上げた豊富な経験や苦労を背景に、購入者に適切な栽培のアドバイスができますが、2世、3世となれば多くが右から左への販売に忙殺され、苗からの栽培経験を十分積む時間が取れないなどの実情があるのでしょう、これも止むをえません。

 初期環境が整えば、購入時、多くの根が死んでいる株、1枚の葉しか付いていない株、空中に晒されたままの根で栽培される株、こんな状態にも拘わらずどうして成長し、開花するのだろうと、やがては植物の中で最も高度に進化したランほど丈夫で不思議な生き物はないと確信することでしょう。